説明

電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム

【課題】絶縁性に代表される電気特性、吸水性、耐熱性、透明性に優れた電気絶縁用フィルムを提供する。
【解決手段】電気絶縁用フィルムとしてポリフェニレンエーテル系樹脂と籠型シルセスキオキサン及び/または籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体よりなる樹脂組成物を用いる。該籠型シルセスキオキサン及び/又は籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体が[RSiO3/2]n(A)(RSiO3/2)l(RXSiO)k(B)(Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、;XはOR1(R1は水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、;nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性が高く、外観、難燃性、耐吸水性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れ、熱収縮率が小さい電気絶縁用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気・電子部品用電気絶縁用フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂等が主に用いられている。しかし、電気・電子機器の小型化、薄膜化が進み、それに伴い、電気・電子機器内に使用される絶縁フィルムも誘電正接に代表される誘電特性、絶縁破壊電圧特性に代表される電気特性の他に、高耐熱性、高難燃性も要求されてきている。更に絶縁フィルムと他の基材の位置合わせやデザイン性の面からも透明絶縁フィルムの要望が高まっている。
【0003】
電気絶縁用フィルムとして、ポリフェニレンエーテル系樹脂を用いるものとしては、ポリフェニレンエーテル樹脂にポリスチレン系樹脂を添加した、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムが知られている。(特許文献1、2)
ポリフェニレンエーテル系樹脂にポリスチレン系樹脂を添加することによって、流動性を向上させ、押し出し製膜が可能となっているが、耐熱性が低下する上に難燃性も低下してしまう。難燃性を向上させるために、リン系難燃剤が使用しているが、リン系難燃剤は冷却ロールの汚染や、リサイクル性にも問題もある。更に、ポリスチレン系樹脂では溶融流動性が高まっているが、ポリフェニレンエーテルのフリーズ転移による焼けの問題について、問題が生じている。具体的には、フィルム上に焼けが生じた場合、使用時に焼けの部分から切れ易くなることや、電気絶縁特性が変わるため特性不良となることがあげられる。
【特許文献1】特許第3659080号公報
【特許文献2】特開2003−257250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は透明性が高く、樹脂の焼け等異物が少なく、難燃性、耐吸水性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れたポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムを電気絶縁用フィルムとして提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を達成する技術を鋭意検討した結果、ポリフェニレンエーテル系樹脂と籠状シルセスキオキサン及び/または籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を配合した樹脂組成物を原料にしてダイを備えた押し出し成型機を用いて、ダイにおける樹脂温度を特定の範囲に設定して押出成形して得られたフィルムが、電気絶縁用フィルムとして必要な特性である耐熱性、難燃性、耐吸水性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接等を満たしていることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1) (a)ポリフェニレンエーテル系樹脂30〜99.9重量%と、(b)籠型シルセスキオキサン及び/又は籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体0.1〜70重量%を含む樹脂組成物を、押し出し成型してなることを特徴とする電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
(2) 該籠型シルセスキオキサン及び/又は籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体が
[RSiO3/2(A)
(RSiO3/2(RXSiO) (B)
(一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、複数のRは同一でも異なっていても良い;一般式(B)においてXはOR(Rは水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、複数のXは同じでも異なっていても良い、又(RXSiO)中の複数のXが互いに連結して連結構造を形成しても良い;nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。)であること特徴とする(1)に記載の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
(3) 一般式(A)及び一般式(B)のR、Xの少なくとも一つが、1)不飽和炭化水素結合を含有する基であるか、あるいは、2)窒素原子及び酸素原子の少なくとも1つを含有する極性基を有する基であることを特徴とする(1)及び(2)に記載の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
【0006】
(4) 厚さ0.1mmのフィルムとしたときの全光線透過率が70%以上であり、ヘイズが20以下であることを特徴とする(1)から(3)に記載の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
(5) (1)から(4)いずれかに記載の樹脂組成物をダイを備えた押出機を用いて、該樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、ダイにおける樹脂温度を、(Tg+30℃)から(Tg+130℃)以下の範囲で厚さが0.1μm以上1mm以下で押出成型することを特徴とする電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により外観が良く、難燃性、耐吸水性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性に優れた電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明の(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、「ポリフェニレンエーテル樹脂及びそれを含むポリマーアロイ」を示す。本発明で用いられる「ポリフェニレンエーテル樹脂」とは、下記一般式(2)を繰り返し単位とした単独重合体、下記一般式(2)の繰り返し単位を含む共重合体、あるいはそれらの変性ポリマーを示す。
【0009】
一般式(2)
【化1】

【0010】
式中R、R、R、R、は水素、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、アミノアルキル、炭化水素オキシを表す。
【0011】
当該ポリフェニレンエーテル樹脂としては幅広い分子量の重合体が使用可能であるが、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)として、好ましくは0.15〜1.0dl/gの範囲にあるホモ重合体及び/または共重合体が使用され、さらに好ましい還元粘度は、0.20〜0.70dl/gの範囲、最も好ましくは0.40〜0.60の範囲である。当該ポリフェニレンエーテル樹脂としては、その目的に応じて幅広い溶融流動性の樹脂が使用可能であり、特に溶融流動性の制限はない。しかしながら、例えば、特に高い耐熱性及び機械諸物性が要求される構造材料として使用される場合には、JIS K6730に従い、かつ、280℃、荷重10Kgで測定されたメルトインデックスの値としては、好ましくは6(g/10min)以下、より好ましくは5(g/10min)以下、特に好ましくは4(g/10min)以下の値の樹脂が使用される。
【0012】
ポリフェニレンエーテルの単独重合体の代表例としては、ポリ(1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,5−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。この内、特に好ましいものは、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルである。ポリフェニレンエーテル共重合体としては、例えば、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノール、2,6−ジフェニルフェノールあるいは2−メチルフェノール(o−クレゾール))との共重合体などが挙げられる。以上のような各種ポリフェニレンエーテル樹脂の中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにはポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが特に好ましい。
【0013】
本発明で使用する(a)ポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法の例として、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6−キシレノールを酸化重合する方法が挙げられる。
【0014】
米国特許第3306875号、同第3257357号および同第3257358号の明細書、特公昭52−17880号および特開昭50−51197号および同63−152628号の各公報等に記載された方法も(a)ポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法として好ましい。
【0015】
本発明の(a)ポリフェニレンエーテル樹脂は、重合行程後のパウダーのまま用いてもよいし、押出機などを用いて、窒素ガス雰囲気下あるいは非窒素ガス雰囲気下、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融混練することでペレット化して用いてもよい。
【0016】
本発明の(a)ポリフェニレンエーテル樹脂には、ジエノフィル化合物により変性されたポリフェニレンエーテルも含まれる。この変性処理には、種々のジエノフィル化合物が使用されるが、ジエノフィル化合物の例としては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、フェニルマレイミド、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンなどの化合物が挙げられる。さらにこれらジエノフィル化合物により変性する方法としては、ラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で押出機などを用い、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融状態で官能化してもよい。あるいはラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で、非溶融状態、すなわち室温以上、かつ融点以下の温度範囲にて官能化してもよい。この際、ポリフェニレンエーテルの融点は、示差熱走査型熱量計(DSC)の測定において、20℃/分で昇温するときに得られる温度−熱流量グラフで観測されるピークのピークトップ温度で定義され、ピークトップ温度が複数ある場合にはその内の最高の温度で定義される。
【0017】
本発明で用いる(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、上記のポリフェニレンエーテル樹脂のみであってもよいし、あるいは、上記のポリフェニレンエーテル樹脂と他の樹脂とのポリマーアロイでも良い。この場合の他の樹脂の例としては、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体などのポリスチレン系樹脂、ナイロン6,6やナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂等が挙げられる。本発明で使用されるポリフェニレンエーテル樹脂を含むポリマーアロイは、ポリフェニレンエーテル樹脂と、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂等から選ばれるどれかひとつの樹脂と組み合わせたポリマーアロイとしても良いし、ポリフェニレンエーテル樹脂と2つ以上の複数の樹脂と組み合わせたポリマーアロイとしても良い。
【0018】
ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂から選ばれる樹脂とのポリマーアロイを用いる場合は、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂から選ばれる樹脂との合計量に対して、ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量としては、好ましくは60wt%以上、さらに好ましくは80wt%以上、特に好ましくは90wt%以上である。ここで高品質とは、例えば外観、厚み均一性のことである。全光線透過率の観点から、非相溶アロイ成分の各々の屈折率の値が近いことが好ましい。
次に、本発明に使用する籠状シルセスキオキサン及びその部分開裂構造体について説明する。
【0019】
シリカがSiOで表されるのに対し、シルセスキオキサンは[R’SiO3/2]で表される化合物である。シルセスキオキサンは通常はR’SiX(R’=水素原子、有機基、シロキシ基、X=ハロゲン原子、アルコキシ基)型化合物の加水分解−重縮合で合成されるポリシロキサンであり、分子配列の形状として、代表的には無定形構造、ラダー状構造、籠状(完全縮合ケージ状)構造あるいはその部分開裂構造体(籠状構造からケイ素原子が一原子欠けた構造や籠状構造の一部ケイ素−酸素結合が切断された構造)等が知られている。
本発明者は、各種有機ケイ素化合物のポリフェニレンエーテル系樹脂への添加効果を詳細に検討した。その結果、各種有機ケイ素化合物の中でも特定の構造の籠状シルセスキオキサン又は/及び籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体をポリフェニレンエーテル系樹脂に、添加しフィルム成型を行った場合に、安定的に高品質のフィルムを製造でき、耐熱性、耐吸水性、絶縁特性、難燃性に優れた成形体を与えるフィルムが電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムとして好適であることを見いだし、本発明を完成させた。
本発明に使用される籠状シルセスキオキサンの具体的構造の例としては、例えば、下記の一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサンが挙げられる。又、本発明に使用される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の具体的構造の例としては、例えば、下記の一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体が挙げられる。しかしながら、本発明に使用される籠状シルセスキオキサンあるいはその部分開裂構造体の構造は、これらの構造に限定されるものではない。
【0020】
[RSiO3/2 (A)
(RSiO3/2(RXSiO) (B)
一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、Rは全て同一でも複数の基で構成されていても良い。
【0021】
本発明で用いられる一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサンの例としては[RSiO3/2の化学式で表されるタイプ(下記一般式(3))、[RSiO3/2の化学式で表されるタイプ(下記一般式(4))、[RSiO3/210の化学式で表されるタイプ(例えば下記一般式(5))、[RSiO3/212の化学式で表されるタイプ(例えば下記一般式(6))、[RSiO3/214の化学式で表されるタイプ(例えば下記一般式(7))が挙げられる。
一般式(3)
【化2】

【0022】
一般式(4)
【化3】

【0023】
一般式(5)
【化4】

【0024】
一般式(6)
【化5】

【0025】
一般式(7)
【化6】

【0026】
本発明の一般式(A)[RSiO3/2で表される籠状シルセスキオキサンにおけるnの値としては、6から14の整数であり、好ましくは8,10あるいは12であり、より好ましくは、8、10または8,10の混合物あるいは8,10,12の混合物であり、特に好ましくは8又は10である。
【0027】
また、本発明では、籠状シルセスキオキサンの一部のケイ素−酸素結合が部分開裂した構造か、又は、籠状シルセスキオキサンの一部が脱離した構造、あるいはそれらから誘導される、一般式(B)[RSiO3/2(RXSiO)(lは2から12の整数であり、kは2又は3である。)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を用いることもできる。
【0028】
一般式(B)においてXはOR(Rは水素原子、アルキル基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、複数のXは同じでも異なっていても良い。又(RXSiO)中の複数のXが互いに連結して連結構造を形成しても良い。ここで、lは2から12の整数、好ましくは4から10の整数、特に好ましくは4、6又は8である。kは2又は3である。
【0029】
(RXSiO)中の2個又は3個のXは、同一分子中の他のXと互いに連結して各種の連結構造を形成しても良い。その、連結構造の具体例を以下に説明する。
【0030】
一般式(B)の同一分子中の2個のXは一般式(8)で示される分子内連結構造を形成しても良い。さらに、それぞれ異なった分子中に存在する2個のXが互いに連結して、上記一般式(8)で表される連結構造により複核構造を形成しても良い。
【0031】
一般式(8)
【化7】

【0032】
Y及びZはXと同じ基の群の中から選ばれ、YとZは同じでも異なっていても良い。
【0033】
一般式(B)で表される化合物における上記の各種の連結構造のうちでは、一般式(8)で表される連結構造が、合成が容易であり好ましい。
【0034】
本発明で使用される一般式(B)で表される化合物の例としては、例えば一般式(4)の一部が脱離した構造であるトリシラノール体あるいは、それからから合成される(RSiO3/2(RXSiO)の化学式で表されるタイプ(例えば、下記一般式(9))、一般式(9)あるいは(RSiO3/2(RXSiO)の化学式の化合物の中の3個のXのうち2個のXが一般式(8)で示される連結構造を形成するタイプ(例えば、下記一般式(10))、一般式(4)の一部が開裂したジシラノール体から誘導される(RSiO3/2(RXSiO)の化学式で表されるタイプ(例えば、下記一般式(11)及び(12))、一般式(11)あるいは(RSiO3/2(RXSiO)の化学式の化合物の中の2個のXが一般式(8)で示される連結構造を形成するタイプ(例えば、下記一般式(13))等が挙げられる。一般式(9)から(13)中の同一ケイ素原子に結合しているRとXあるいはYとZはお互いの位置を交換したものでもよい。さらに、それぞれ異なった分子中に存在する2個のXが互いに連結して、上記一般式(8)で代表される各種の連結構造により複核構造を形成しても良い。
【0035】
これらの各種の籠状シルセスキオキサンあるいはその部分開裂構造体は、それぞれ単独で用いてもいいし、複数の混合物として用いても良い。
【0036】
一般式(9)
【化8】

【0037】
一般式(10)
【化9】

【0038】
一般式(11)
【化10】

【0039】
一般式(12)
【化11】

【0040】
一般式(13)
【化12】

【0041】
本発明に使用される一般式(A)及び/又は一般式(B)で表される化合物におけるRの種類としては水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基、またはケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基が挙げられる。
【0042】
炭素原子数1から6のアルコキシル基の例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基等が挙げられる。一般式(A)又は一般式(B)の化合物の1分子中のアルコキシル基及びアリールオキシ基の数は合計で好ましくは3以下、より好ましくは1以下である。
【0043】
炭素数1から20までの炭化水素基の例としてはメチル、エチル、n―プロピル、i-プロピル、ブチル(n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、sec-ブチル)、ペンチル(n―ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル等)、ヘキシル(n−ヘキシル、i−ヘキシル、シクロヘキシル等)、ヘプチル(n−ヘプチル、i−ヘプチル等)、オクチル(n−オクチル、i−オクチル、t―オクチル等)、ノニル(n−ノニル、i−ノニル等)、デシル(n−デシル、i−デシル等)、ウンデシル(n−ウンデシル、i−ウンデシル等)、ドデシル(n−ドデシル、i−ドデシル等)等の非環式又は環式の脂肪族炭化水素基、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、シクロヘキセニルエチル、ノルボルネニルエチル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、スチレニル等の非環式及び環式アルケニル基、ベンジル、フェネチル、2−メチルベンジル、3−メチルベンジル、4−メチルベンジル等のアラルキル基、PhCH=CH−基のようなアラアルケニル基、フェニル基、トリル基あるいはキシリル基のようなアリール基、4−アミノフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ビニルフェニル基のような置換アリール基等が挙げられる。
【0044】
これらの炭化水素基の中でも、特に炭素数2から20の脂肪族炭化水素基、炭素数2から20のアルケニル基の数が、全R、X、Y、Zにしめる割合が大きい場合には特に良好な成形時の溶融流動性が得られる。またRが脂肪族炭化水素基及び/又はアルケニル基の場合には、成形時の溶融流動性、難燃性及び操作性のバランスがいいものとして、R中の炭素数は通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは12以下である。
【0045】
又、本発明に使用されるRとしてはこれらの各種の炭化水素基の水素原子又は主査骨格の一部がエーテル結合、エステル基(結合)、水酸基、チオール基、チオエーテル基、カルボニル基、カルボキシル基、カルボン酸無水物結合、チオール基、チオエーテル結合、スルホン基、アルデヒド基、エポキシ基、アミノ基、置換アミノ基、アミド基(結合)、イミド基(結合)、イミノ基、ウレア基(結合)、ウレタン基(結合)、イソシアネート基、シアノ基等の極性基(極性結合)あるいはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子等から選ばれる置換基で部分置換されたものでも良い。
一般式(A)及び(B)におけるR中の置換又は非置換の炭化水素基中の置換基も含めた全炭素原子数としては、通常は20以下のものが使用されるが、フィルムの特性バランスがよいものとしては、好ましくは16以下、特に好ましくは12以下のものが使用される。
【0046】
Rとして採用されるケイ素原子数1〜10のケイ素原子含有基としては、広範な構造のものが採用される。当該ケイ素原子含有基中のケイ素原子数としては、通常1〜10の範囲であるが、好ましくは1〜6の範囲、より好ましくは1〜3の範囲である。ケイ素原子の数が大きくなりすぎると籠状シルセスキオキサン化合物は粘ちょうな液体となり、ハンドリングや精製が困難になるので好ましくない。
【0047】
なお、ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムの量産性向上効果とフィルムの特性向上効果の両方とも特に優れた効果を示す別の化合物の群としては、一般式(A)及び一般式(B)で表される化合物の中でも、一般式(A)及び/又は一般式(B)のR、X、Y、Zの少なくとも一つは、1)不飽和炭化水素結合を含有する基、あるいは、2)窒素原子及び/又は酸素原子を含有する極性基を有する基である化合物の群が挙げられる。ここで、R、X、Y、Zが複数の種類の基で構成されている場合には、その中の少なくとも一つが上記の1)又は2)の基であればよい。
【0048】
上記1)の不飽和炭化水素結合を含有する基の例としては、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、シクロヘキセニルエチル、ノルボルネニル、ノルボルネニルエチル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、スチレニル、スチリル等の非環式及び環式アルケニル基、アルキニル基、あるいはこれらの基を含有する基が挙げられる。上記の不飽和炭化水素結合を含有する基の具体例としては、例えばビニル基、アリル基、2−(3,4−シクロヘキセニル)エチル基、3,4−シクロヘキセニル基、ジメチルビニルシロキシ基、ジメチルアリルシロキシ基、(3−アクリロイルプロピル)ジメチルシロキシ基、(3−メタクリロイルプロピル)ジメチルシロキシ基等が挙げられる。
【0049】
また、上記2)の窒素原子及び/又は酸素原子を含有する極性基を有する基の例としてはエーテル結合、エステル結合、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、エポキシ基(結合)、アミノ基、置換アミノ基、アミド基(結合)、イミド基(結合)、イミノ基、シアノ基、ウレア基(結合)、ウレタン基(結合)、イソシアネート基等を含む基が挙げられる。その中でも、特に、アミノ基あるいはその誘導体、あるいはエーテル基(エポキシ基も含む)を含有する基が好ましい。上記のアミノ基誘導体の例としては、例えば、モノアルキルアミノ基、2−ヒドロキシエチルアミノ基、ジアルキルアミノ基等の各種置換アミノ基、アミド基、イミド基、イミノ基、ウレア基等が挙げられる。
【0050】
上記のアミノ基あるいはその誘導体を含有する基の具体例としては、例えば、3−アミノプロピル基(HNCHCHCH−)、MeNCHCHCH−、MeC=NCHCHCH−、ーCHCHNH、3−アミノプロピルジメチルシロキシ基(HNCHCHCHMeSiO−)、HNCHCHCHMe(HO)SiO−、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル基(HNCHCHNHCHCHCH−)、MeHNCHCHNHCHCHCH−、MeC=NCHCHNHCHCHCH−、HOCHCHHNCHCHNHCHCHCH−、CH3COHNCHCHNHCHCHCHMeSiO−、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメチルシロキシ基(HNCHCHNHCHCHCHMeSiO−)、HNCHCHNHCHCHCHMe(HO)SiO−が挙げられる。また、上記のエーテル基(エポキシ基も含む)を含有する基の具体例としては、例えば、3−グリシジルオキシプロピル基、3−グリシジルオキシプロピルジメチルシロキシ基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメチルシロキシ基、CHOCHCHCH−、HOCHCHOCHCHCH−等が挙げられる。
一般式(A)および一般式(B)におけるR、X、Y、Zの中から選ばれる少なくとも一つの官能基が上記のアミノ基を含有する一般式(A)の籠状シルセスキオキサン及び/又は一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体がポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムを製造した時に得られるフィルム特性のバランスが良いため、好ましい。
一般式(A)および一般式(B)におけるR、X、Y、Zはそれぞれ独立に各種の構造を取りうるし、又、R、X、Y、Zはそれぞれ複数の基からなっていてもよい。
【0051】
本発明の籠状シルセスキオキサンは例えばBrownらのJ.Am.Chem.Soc.1965,87,4313や、FeherらのJ.Am.Chem.Soc.1989,111,1741あるいはOrganometallics 1991,10,2526などの方法で合成することができる。例えばシクロヘキシルトリエトキシシランを水/メチルイソブチルケトン中で触媒にテトラメチルアンモニウムヒドロキサイドを加えて反応させることにより結晶として得られる。また一般式(9)(X=OH)、一般式(11)(X=OH)、一般式(12)(X=OH)で表されるトリシラノール体及びジシラノール体は完全縮合型の籠状シルセスキオキサンを製造する際に同時に生成するか、一度完全縮合型の籠状シルセスキオキサンからトリフルオロ酸やテトラエチルアンモニウムヒドロキサイドによって部分切断することでも合成できる(FeherらのChem.Commun.,1998,1279参照)。また、さらに、一般式(9)(X=OH)の化合物は、RSiT(T=Clまたはアルコキシル基)型化合物から、直接合成することも出来る。
【0052】
一般式(4)で8個のRのうち、1個のRのみ異なった置換基R´を導入する方法としては一般式(9)(X=OH)で表されるトリシラノール化合物とR´SiCl等を反応させて合成する方法が挙げられる。そのような合成法の具体例としては、例えば一般式(9)(R=シクロヘキシル基、X=OH)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を上記の方法で合成した後、テトラヒドロフラン溶液中で、HSiCl1当量と一般式(9)(R=シクロヘキシル、X=OH)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体1当量の混合物に、3当量のトリエチルアミンを加えることによって合成することができる。(例えばBrownらのJ.Am.Chem.Soc.1965,87,4313参照)
一般式(B)で示される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体で、Xとしてケイ素原子含有基を導入する方法の具体例としては、例えば一般式(9)(R=シクロヘキシル基、X=OH)で示される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体1当量対して、テトラヒドロフラン中で、3当量のトリエチルアミンと3当量のトリメチルクロロシランを加えることによって、XとしてMeSiO―基を導入した化合物を製造する方法が挙げられる。(例えばJ.Am.Chem.Soc.1989,111,1741参照)
本発明の籠状シルセスキオキサンの構造解析は、X線構造解析(LarssonらのAlkiv Kemi 16,209(1960))で行うことができるが、簡易的には赤外吸収スペクトルやNMRを用いて同定を行うことができる。(例えばVogtらのInorga.Chem.2,189(1963)参照)
本発明に用いられる籠状シルセスキオキサンあるいは籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体はそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の混合物として用いても良い。また更に籠状シルセスキオキサン及び籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を混合して使用しても良い。
【0053】
また、本発明に用いられる籠状シルセスキオキサン、籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体、又はその混合物はそれ以外の他の構造を有する有機ケイ素系化合物と組み合わせで使用しても良い。この場合の他の構造を有する有機ケイ素系化合物の例としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ポリジメチル/メチルフェニルシリコーン、アミノ基や水酸基等の極性置換基を含有した置換シリコーン化合物、無定形ポリメチルシルセスキオキサン、各種ラダー型シルセスキオキサン等が挙げられる。その場合、混合物の組成比の制限は特にないが、通常は上記混合物における籠状シルセスキオキサンあるいは/およびその部分開裂構造体の割合は、好ましくは10重量%以上で使用され、より好ましくは30重量%以上で使用され、特に好ましくは50重量%以上で使用される。
【0054】
本発明に使用される一般式(A)、(B)及び(3)から(13)で表される籠状シルセスキオキサンあるいは籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の替わりに、籠を形成していない無定形なポリシルセスキオキサンをポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の添加剤として用いた場合は、安定的に高品質のポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムを製造することが難しく、得られたフィルムの特性バランスも悪い。ここで特性バランスとは特に、外観と難燃性と透明性のバランスのことである。
【0055】
本発明の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム中の籠状シルセスキオキサンあるいは、籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体、又はこれらの混合物の含有量は好ましくは0.1重量%以上70重量%以下である。より好ましくは0.1重量%以上50重量%以下の範囲、更に好ましくは0.5重量%以上30重量%以下の範囲、特に好ましくは0.5重量%以上15重量%以下の範囲が使用される。
したがって、電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム中のポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は好ましくは30重量%以上99.9重量%以下であり、より好ましくは50重量%以上99.9重量%以下の範囲、更に好ましくは70重量%以上99.5重量%以下の範囲、特に好ましくは85重量%以上99.5重量%以下の範囲が使用される。
電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム中の籠状シルセスキオキサンあるいは、籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体が上記範囲より添加量が少ない場合は安定的に高品質のフィルムを得るのが難しく、得られたフィルム特性のバランスも悪い。上記範囲より多い場合には耐熱性や機械的強度などの物性値が下がるため好ましくない。本発明の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムにおいて、後述の実施例で具体的に示されるように、籠状シルセスキオキサン、籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体、又はこれらの混合物は、極めて少量の添加量で特定の範囲でダイ温度を調整すれば、安定的に高品質のフィルムを得ることが可能な優れた量産性向上効果を示す。したがって、この組成物においては、従来公知である他の添加剤使用の場合と異なり、ポリフェニレンエーテル樹脂本来の特長である高耐熱性や良好な機械的特性をほとんど損なわずに安定的に高品質なフィルムを得られるという工業的に極めて大きなメリットがある。
【0056】
本発明の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムには更に難燃助剤として、特定の構造の環状窒素化合物を加えることが出来る。本発明に用いられる環状窒素化合物とは、基本的に分子中にトリアジン骨格を有する化合物およびメラミン誘導体である。その具体例としては、好ましくは、メラミン誘導体であるメラミン、メレム、メロンが挙げられる。その中でも、揮発性が低いという点でメレム及びメロンがより好ましい。当該環状窒素化合物は、難燃性向上効果発現の為には微粉化されたものが好ましい。微粉化された粒子径は、好ましくは平均粒子径30μm以下、より好ましくは0.05〜5μmに微粉化されたものである。
【0057】
上記環状窒素化合物の含有量は0.1重量%以上、20重量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.2重量%以上10重量%以下の範囲である。上記範囲より添加量が少ない場合は難燃性に対する効果が小さく、上記範囲より添加量が多い場合は機械的物性が下がるため好ましくない。
【0058】
本発明では、上記の成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の附加的成分、例えば、酸化防止剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物)、エラストマー(エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、ABSなどのオレフィン系共重合体、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマー、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物)、可塑剤(オイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、各種着色剤を添加してもかまわない。
【0059】
本発明において、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(b)籠型シルセスキオキサン及び/または籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体を混練する場合、混練する順番は特に限定はないが、一括して混練することが、プロセスの簡略性や物性向上の観点から望ましい。
【0060】
本発明の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムに用いる樹脂組成物は、必要に応じて、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂などの離型改良剤などの各種の添加剤を含有しても良い。
【0061】
本発明は、上記の樹脂組成物を押出機を用いて溶融混練されるものである。本発明で使用される樹脂組成物は種々の方法で製造することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練方法が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法が最も好ましい。この際の溶融混練温度は特に限定されるものではないが、通常150−350℃の中から任意に選ぶことができる。
【0062】
溶融混練に際しては、各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各成分を均一に混合した後、混練装置に供給してもよいし、各成分を混練装置にそれぞれ別個に定量供給する方法も用いることができる。
【0063】
なお、上記添加剤は樹脂組成物の製造工程中あるいはその後の加工工程において添加することができる。
【0064】
本発明の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムの製造方法においては、上記の樹脂組成物をダイ(口金)を備えた押出機に供給し、フィルム類を製造する。
【0065】
本発明の電気絶縁フィルムの製造方法においては、ダイにおける樹脂温度は、上記樹脂組成物のガラス転移点をTg(℃)としたとき、(Tg+30)(℃)以上(Tg+130)(℃)以下の範囲であることが好ましく、(Tg+50)(℃)以上、(Tg+110)(℃)以下の範囲であることがより好ましい。ダイにおける樹脂温度が低い場合には、外観不良となる傾向、厚みむらが多くなる傾向があり、また、ダイにおける樹脂温度が高すぎる場合には、外観不良となる傾向、焼けがフィルムにできる傾向がある。フィルムにできる焼けとは、ポリフェニレンエーテル系樹脂が混練中に加熱分解し、フリーズ転移して生成した化合物由来と考えられるものであり、押出成型されたフィルム内に茶褐色、黒色等の異物として生成する。フィルム上に焼けが生成した場合、使用時に焼けの部分から切れ易くなることや、電気絶縁特性が変わるため特性不良となり、さらに外観にも影響を与えるため好ましくない。得られたフィルムの中に含まれる直径1mm以上の焼けの数は20個/m以内であることが好ましく、10個/m以内であることがより好ましい。
本発明で得られる電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムは0.1mmの厚さにフィルム成型をした時の全光線透過率が70%以上であることが好ましく、75%以上がより好ましく、特に好ましくは80%以上である。またヘイズ(曇り度)も20以下が好ましく、より好ましくは15以下、特に好ましくは10以下である。全光線透過率が70%未満やヘイズが20以上である場合は、フィルムの厚みが厚くなると、絶縁フィルムと他の基材との位置合わせがしにくいことと、デザイン等の観点から好ましくはない。
【0066】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムにおいては、ダイとして、Tダイ、円筒スリットのダイが好ましい。
【0067】
Tダイとしては、その形状から、ストレートマニホールド型、フィッシュテール型、コートハンガー型などをあげることができ、目的、樹脂の性状に応じてそれらから選択、使用することができる。
【0068】
Tダイのスリット間隙は目的に応じて設定することができるが、0.1〜3mmの範囲が好ましく、0.2〜2mmの範囲がさらに好ましい。
【0069】
Tダイから押出されたフラット状の樹脂は、必要に応じて冷却装置を使用して冷却した後に巻き取ることが出きる。冷却する際に水槽を用いることもできるし、冷却エアを用いることもできる。
【0070】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムにおいては、必要に応じてTダイから押出された組成物を巻き取り機でMD(machinedirection「巻き取り方向」)へ延伸すると同時にテンター方式などでTD(transversedirection「巻き取り方向に垂直方向」)へも延伸してニ軸延伸したフィルムを作製することができる。
【0071】
本発明は、押出しチューブラー法、場合によってはインフレーション法とも呼ばれる方法にて製造することができる。円筒から出てきたパリソンがすぐに冷却してしまわないように、50−290℃の温度範囲の中から適宜選択して、パリソンの温度制御することがフィルム厚みを均一にし、焼けのないフィルムを作成する上で極めて重要である。
【0072】
本発明の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムは、上記で得られた樹脂組成物を原料とし、押出フィルム成形により得ることもできるし、本発明の成分を押出フィルム成形機に直接投入し、ブレンドとフィルム成形を同時に実施して得ることもできる。
【0073】
本発明で得られたフィルムの厚みは特に限定するものではないが、0.1〜1000μmの範囲が実用上好ましく、1〜500μmの範囲がより好ましい。
【0074】
本発明で得られたフィルムの表面に、必要に応じて表面処理を施すことができる。このように表面処理法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、赤外線処理、スパッタリング処理、溶剤処理、研磨処理などが挙げられる。これらの処理は、成型加工の過程で行っても良いし、成型加工後のフィルムに対して行っても良いが、成型加工の過程、特に巻き取り機の手前でかかる処理を施すのが好ましい。
【0075】
こうして得られた本発明のフィルムは、外観が良く、難燃性、耐吸水性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れる特徴を有する。従って、これらの特性が要求される電気絶縁用途に好適である。
【実施例】
【0076】
本発明を以下、実施例に基づいて説明する。但し本発明はその主旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
製造例1
<ポリフェニレンエーテル(PPE−1)の製造例>
2,6−ジメチルフェノールを酸化重合して得た還元粘度0.5のパウダー状のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である。
【0078】
製造例2
<籠状シルセスキオキサンの製造例>
特開2004−51848号公報の方法に従って、TrisilanolIsobutyl−POSS[米国Hybrid Plastics社製]をトルエン/メタノールの溶液中、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン[チッソ(株)社製]と反応させることによって、式(14)で表されるアミノ基含有籠状シルセスキオキサンを得た。
式(14)
【化13】

【0079】
製造例3
<籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の製造例>
特開2004−51848号公報の方法に従って、TrisilanolIsobutyl−POSS[米国Hybrid Plastics社製]をトルエン/メタノールの溶液中、アミノプロピルメチルジメトキシシラン[チッソ(株)社製]と反応させることによって、式(15)で表されるアミノ基含有籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を得た。
式(15)
【化14】

【0080】
各樹脂フィルムの物性評価を、以下の方法に従って実施した。
(1)フィルムの外観
フィルムを100mm×100mm幅の範囲で、1mm以上の茶褐色、黒色等の焼けの数を、数えた。
○:焼けが10個以下である。
△:焼けが10〜20個の範囲で確認される。
×:焼けが21個以上確認される。又は厚みむらや表面荒れが確認される。
(2)耐熱性
フィルムをMD、TD方向それぞれに3mm幅×19mm幅にカットし、島津製作所(株)製熱機械分析装置(TMA−50)を使用し、チャック間15mmで、荷重10gで10℃/minで測定を行い、接点交線により耐熱温度(軟化温度)を決定した。
(3)熱収縮率
フィルムを、MDとTDに各片が平行になるように、100mm×100mmの大きさにカットし、150℃に設定したオーブン中に45分間セットし、取り出して放冷する。MD、TD各々加熱前後の寸法を測定し、以下の式に従って求めた。
熱収縮率(%)=(加熱前の辺の長さ−加熱後の辺の長さ)/(加熱前の辺の長さ)×100
(4)難燃性
フィルムをMD、TD方向それぞれに200mm幅×50mm幅にカットし、UL−94の薄膜試験(VTM)に基づき、燃焼試験を行った。
(5)絶縁破壊電圧
フィルムを100×100角に切り取り、ASTM D149に基づき絶縁破壊電圧を行った。
(6)誘電率・誘電正接
フィルムを100×100角に切り取り、アジレント・テクノロジー(株)製PrecisionLCR meterHP4284Aで安藤電気(株)製測定用電極SE−70を用いて、ASTM D150に基づき湿度23℃、相対湿度52%で測定を行った。
(7)体積抵抗値
フィルムを40mm×40mm角にカットし、東亜ディーケーケー(株)極超絶縁計SM−10E型を使用し、体積抵抗率及び表面抵抗率を求めた。
(8)吸水性
フィルムをサイズ100×100mm角に切り取り、110℃のオーブンで1時間乾燥させた。乾燥させたフィルムを23℃の水槽に入れ、24時間曝した後、以下の式に従って、重量増加率(Δw)を求めた。各シート2枚の平均値をとった。
重量増加率(Δw)(%)=(w1−w0)/w0×100
(w1:加温加湿後、十分にシート表面の水滴を拭った後のシート重量(g)、w0:吸水前に、110℃、1時間熱風乾燥機中にて乾燥し、デシケーター中にて室温まで冷却したシート重量(g))重量増加率(Δw)の値が小さい方が、耐吸湿性に優れることを意味する。
(9)引っ張り強度
フィルムを15mm幅×150mmの短冊状にカットし、島津製作所(株)製オートグラフAG−1型、セル1kNを使用し、ASTM D882に基づき引っ張り試験を行い、引っ張り強度(MPa)と引っ張り伸び(%)を求めた。
(10)透明性
フィルムを50mm×50mm角にカットし、日本電色工業製ヘイズメーターNDH2000を使用し、JIS K7105に基づき全光線透過率及び、ヘイズを測定した。
(11)ガラス転移温度
フィルムを10mg測りとり、島津製作所製示差走査熱量計DSC−60型を用いて窒素雰囲気下、20℃/分で昇温してガラス転移温度を測定した。
【0081】
実施例1
ポリフェニレンエーテル(PPE−1)と式(14)で表される籠状シルセスキオキサンを、それぞれポリフェニレンエーテル:96wt%、化式(14)で表される籠状シルセスキオキサン:4wt%で、120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度280℃に設定した300mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、100μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムの平均厚みは、102μmであった。上に示した方法に従ってフィルム評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0082】
実施例2
ポリフェニレンエーテルと式(14)で表される籠状シルセスキオキサンをそれぞれ89wt%、11wt%にした以外は実施例1と同様の操作でフィルム成型を行い、平均厚みが97μmのフィルムを得た。上に示した方法に従ってフィルム評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0083】
実施例3
ポリフェニレンエーテル(PPE−1)と式(15)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体を、それぞれポリフェニレンエーテル:96wt%、式(15)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体:4wt%で、120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機(KZW−15:テクノベル(株)社製)を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度280℃に設定した300mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、100μmの厚さにフィルム成形を行った。得られたフィルムの平均厚みは、105μmであった。上に示した方法に従ってフィルム評価を実施した。その結果を表1に示した。
【0084】
比較例1
ペレット原料として、耐熱難燃性の変性ポリフェニレンエーテル(PPE−1:35wt%、ポリスチレン(G9504(PSジャパン製):65wt%)を用いたこと以外は、実施例1と同様に、シート成形加工した。得られたシートの平均厚みは、110μmであった。これらのシートを、上に示した方法に従って物性評価を実施した。その結果を表1に示した。熱収縮率に関しては、シートの変形が大きく、測定できなかった。
【0085】
比較例2
ポリフェニレンエーテル(PPE−1)と両末端アミノ変性シリコーンオイル(信越化学(株)製KF858)を、それぞれポリフェニレンエーテル:96wt%、両末端アミノ変性シリコーンオイル:4wt%で、120−290℃に設定したベントポート付き二軸押出機[KZW−15:テクノベル(株)製]を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。得られたペレットを、シリンダー温度290℃、Tダイ温度280℃に設定した300mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、100μmの厚さにフィルム成形を行ったところ、上に示した外観検査を行い、樹脂フィルム中に焼けが多く確認された。
【0086】
比較例3
実施例1に従い、ペレットを得た。得られたペレットを、シリンダー温度340℃、Tダイ温度340℃に設定した300mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、100μmの厚さにフィルム成形を行ったところ、上に示した外観検査を行い、樹脂フィルム中に焼けが多く確認された。
【0087】
比較例4
実施例1に従い、ペレットを得た。得られたペレットを、シリンダー温度225℃、Tダイ温度225℃に設定した300mm幅Tダイを備えたスクリュー径15mmの押出機を用い、100μmの厚さにフィルム成形を行ったところ、樹脂圧が高く押し出し成型できなかった。
【0088】
【表1】

【0089】
表1から、本発明により得られるポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムは、電気絶縁用途に必要な特性を備え、電気絶縁用フィルムとして好適であることが示される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により得られるポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムは、透明性が高く、樹脂の焼け等異物が少なく、難燃性、耐吸水性、機械的強度、絶縁性、誘電率、誘電正接といった電気特性にもすぐれるため、電気絶縁用フィルムの分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂30〜99.9重量%と、(b)籠型シルセスキオキサン及び/又は籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体0.1〜70重量%を含む樹脂組成物を押し出し成型してなることを特徴とする電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
【請求項2】
該籠型シルセスキオキサン及び/又は籠型シルセスキオキサンの部分開裂構造体が
[RSiO3/2 (A)
(RSiO3/2(RXSiO) (B)
(一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から6のアルコキシル基、アリールオキシ基、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、複数のRは同一でも異なっていても良い;一般式(B)においてXはOR(Rは水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rで定義された基の中から選ばれる基であり、複数のXは同じでも異なっていても良い、又(RXSiO)中の複数のXが互いに連結して連結構造を形成しても良い;nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。)であること特徴とする請求項1に記載の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
【請求項3】
一般式(A)及び一般式(B)のR、Xの少なくとも一つが、1)不飽和炭化水素結合を含有する基であるか、あるいは、2)窒素原子及び酸素原子の少なくとも1つを含有する極性基を有する基であることを特徴とする請求項1及び2に記載の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
【請求項4】
厚さ0.1mmのフィルムとしたときの全光線透過率が70%以上であり、ヘイズが20以下であることを特徴とする請求項1から3に記載の電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載の樹脂組成物をダイを備えた押出機を用いて、該樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、ダイにおける樹脂温度を、(Tg+30℃)から(Tg+130℃)以下の範囲で厚さが0.1μm以上1mm以下で押出成型することを特徴とする電気絶縁用ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2008−195741(P2008−195741A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29061(P2007−29061)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】