説明

電気絶縁用二軸配向フィルム

【課題】ポリエステルを主とするフィルムでありながら室温で480V/μm以上という従来よりもさらに優れた耐電圧特性を有し、しかも優れた誘電正接(tanδ)を備える電気絶縁用二軸配向フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルおよびポリスチレンを含有する二軸配向フィルムであって、該フィルムの重量を基準としてポリエステルの含有量が50重量%以上95重量%未満であり、該フィルムがフィルム重量を基準として0.001重量%以上3重量%以下の範囲でヒンダードフェノール系安定剤を含み、25℃におけるフィルムの絶縁破壊電圧が480V/μm以上であり、かつ120℃におけるフィルムの誘電正接が0.007以下である電気絶縁用二軸配向フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気絶縁用二軸配向フィルムに関する。さらに詳しくは、ポリエステルを主とするフィルムでありながら耐電圧特性および誘電正接(tanδ)に優れる電気絶縁用二軸配向フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より結晶性熱可塑性樹脂からなる電気絶縁用フィルムとして、例えばポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂からなるフィルムが知られており、フィルムコンデンサー用フィルム、フレキシブルプリント回路基板用フィルム、モーター絶縁用フィルムなどとして用いられている。フィルムコンデンサーは、上述の結晶性熱可塑性樹脂フィルムとアルミニウム箔等の金属薄膜とを重ね合わせ、巻回または積層する方法により製造されている。またフレキシブルプリント回路基板は結晶性熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に金属薄膜を積層して回路を形成するなどの方法により製造されている。またモータ絶縁用フィルムは、例えばモーターのコイルとステーターとの絶縁を行うウエッジ材やスロット材として用いられている。
【0003】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車などの電気絶縁材料に対し、より高い耐電圧特性が求められている。
自動車エンジンルーム内で使用可能な耐熱性、耐湿性、電気特性に優れたコンデンサー用ポリエステルフィルムとして、例えば特許文献1には極限粘度や結晶化度が特定範囲にあるポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを用いることが開示されている。
【0004】
また安定剤の添加により、誘電特性や耐電圧特性に優れたコンデンサー用フィルムとして、特許文献2においてフェノール系安定剤が多量に添加された熱可塑性樹脂フィルムが提案されており、具体的には熱可塑性樹脂の製造中に安定剤を添加することが開示されている。同様に特許文献3には酸化分解防止能を有する少なくとも1種の安定剤を結晶性ポリエステルに対して100〜10000ppmの濃度で存在させることが開示されており、当該文献では安定剤が結晶性ポリエステルに化学的に結合した状態で存在することによって、表面欠陥の発生が減少し、製造時においてフィルム製造装置の汚染を減少することができることを特徴としている。そしてポリエステルと安定剤とを化学的に結合した状態にするために、カルボキシル基および/またはエステル基を有するヒンダードフェノールをポリエステルの重縮合反応時に混合して使用することが好ましいことが開示されている。
【0005】
そして、特許文献4にはチタン化合物とラジカル補足型安定剤1000〜50000ppmを含有する電気絶縁用ポリエステルフィルムが開示されており、ポリエステルと化学的に結合しているラジカル補足剤の割合が200ppmを超えないこと、高い耐電圧特性が得られ、さらに長期熱処理後も初期耐電圧が維持されることが記載されている。
また、ポリエステルの耐電圧特性を向上させる別の手法として、ポリスチレンなどを添加することが特許文献5において開示されている。
しかしながら、耐熱性に優れるポリエステルを主とするフィルムでありながら、室温で480V/μm以上もの優れた耐電圧特性を有し、しかも優れた誘電正接(tanδ)を備える電気絶縁用二軸配向フィルムは未だ提供されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−173855号公報
【特許文献2】特開2005−289065号公報
【特許文献3】特開2003−301039号公報
【特許文献4】WO2008/149869号パンフレット
【特許文献5】WO2005/073318号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、ポリエステルを主とするフィルムでありながら室温で480V/μm以上という従来よりもさらに優れた耐電圧特性を有し、しかも優れた誘電正接(tanδ)を備える電気絶縁用二軸配向フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステルに一定量のポリスチレンを配合した組成物を用いて形成される二軸配向フィルムにおいて、さらにヒンダードフェノール系安定剤を用いることにより、従来のポリエステル系フィルムでは困難であった室温で480V/μm以上もの非常に高い絶縁破壊電圧特性が得られ、同時に120℃におけるフィルムの誘電正接が0.007以下であるポリエステル系の電気絶縁用二軸配向フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、ポリエステルおよびポリスチレンを含有する二軸配向フィルムであって、該フィルムの重量を基準としてポリエステルの含有量が50重量%以上95重量%未満であり、該フィルムがフィルム重量を基準として0.001重量%以上3重量%以下の範囲でヒンダードフェノール系安定剤を含み、25℃におけるフィルムの絶縁破壊電圧が480V/μm以上であり、かつ120℃におけるフィルムの誘電正接が0.007以下である電気絶縁用二軸配向フィルムによって達成される。
【0010】
また本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、好ましい態様として、該ヒンダードフェノール系安定剤がアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノール系安定剤であること、該フィルムがフィルム重量を基準として0.01重量%以上2重量%未満の範囲でフラーレン類を含有してなること、該フィルムがフィルム重量を基準として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で相溶化剤を含有してなること、該フィルムがフィルム重量を基準として5重量%以上25重量%以下の範囲でポリフェニレンエーテルを含有してなること、該ポリエステルがポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、該ポリスチレンがシンジオタクチックポリスチレンであること、フィルムコンデンサー用またはモーター絶縁用であること、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、ポリエステルを主とするフィルムでありながら室温で480V/μm以上という従来よりもさらに優れた耐電圧特性を有し、しかも優れた誘電正接(tanδ)を備えることから、従来のポリオレフィン系樹脂では適用が難しかった高温使用を含む用途や、従来のポリエステル系樹脂では適用が難しかった高電圧使用を含む用途などに好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステル>
本発明のポリエステルは、ジオールとジカルボン酸との重縮合によって得られるポリマーであり、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、特に高温での耐電圧特性の観点から、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが最も好ましい。本発明におけるポリエステルは、単独でも他のポリエステルとの共重合体、2種以上のポリエステルとの混合体のいずれであってもかまわない。共重合体または混合体における他の成分は、ポリエステルの繰返し単位のモル数を基準として10モル%以下、さらに5モル%以下であることが好ましい。共重合成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分のうちの主たる成分以外のものを用いることが好ましい。
【0013】
本発明のポリエステルは、従来公知の方法、例えばジカルボン酸とジオール、および必要に応じて共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。
【0014】
ポリエステル製造時の触媒としてチタン化合物を使用することが好ましく、本発明のヒンダードフェノール系安定剤との相乗効果により耐電圧特性が一層向上する。チタン化合物はポリエステルに可溶なチタン化合物であることが好ましい。ここでポリエステルに可溶なチタン化合物とは、有機チタン化合物を意味し、具体的にはテトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウムおよびチタントリスアセチルアセトネートで例示される化合物、ならびに前記のチタン化合物と無水トリメリット酸等の芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物を挙げることができる。これらの中でも、テトラブチルチタネートおよびトリメリット酸チタンが好ましい。トリメリット酸チタンは、無水トリメリット酸とテトラブチルチタネートとを反応せしめて得られる化合物である。
【0015】
かかるチタン化合物は、エステル交換法では、エステル交換反応開始前に添加しても、エステル交換反応中、エステル交換反応終了後、重縮合反応の直前に添加しても構わない。またエステル化法では、エステル化反応終了後に添加しても、重縮合反応の直前に添加しても構わない。
またポリエステルに含まれるチタン化合物の含有量は、ポリエステルの重量を基準として、チタン元素換算で5〜20ppmの範囲が好ましく、さらに好ましくは7〜18ppm、特に好ましくは8〜17ppmである。チタン化合物量が下限に満たないと、ポリエステル製造時の生産が遅延することがある。一方上限を超えると得られたポリエステルの耐熱安定性が悪くなり、またチタン化合物の析出物によって耐電圧特性が低下することがある。
【0016】
ポリエステルの重合触媒として一般的に用いられているアンチモン化合物は、析出物を形成しやすく、また使用する触媒量も多いことから、アンチモン化合物由来の析出物が耐電圧特性を低下させる要因となることがある。一方、チタン化合物を用いた場合、重合反応を維持できる範囲で触媒量を微量にすることが可能となり、耐電圧特性を阻害する要因となる析出物を少なくできるため、フィルムとした時に優れた耐電圧特性を発現することができる。またチタン化合物としてポリエステルに可溶なチタン化合物を用いることで、さらに析出物が少なくなり、耐電圧特性がより向上することがある。
【0017】
従って、触媒としてチタン化合物以外の触媒化合物、例えばアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物等をチタン化合物と併用しても構わないが、併用する場合はチタン化合物以外の触媒化合物の使用量は少ない方が好ましい。チタン化合物以外の触媒化合物の使用量が多い場合、触媒由来の析出物が発生しやすくなり、結果としてフィルムの耐電圧特性が下がることがある。なお析出物による耐電圧特性低下のメカニズムは、発生した析出物が電解集中を起こすためと考えられる。チタン化合物以外の触媒を併用する時には、その含有量をポリエステルの重量を基準として、5ppm以下、特には実質的に含有しないことが好ましい。
【0018】
ポリエステルの固有粘度は、ο−クロロフェノール中、35℃において、0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.80dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.4dl/g未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方固有粘度が0.8dl/gを超える場合は重合時の生産性が低下することがある。
【0019】
かかるポリエステルの含有量は、フィルムの重量を基準として50重量%以上95重量%未満である。また含有量の下限は、好ましくは55重量%、より好ましくは60重量%、さらに好ましくは65重量%であり、一方、含有量の上限は、好ましくは90重量%未満、より好ましくは85重量%未満、さらに好ましくは80重量%未満、特に好ましくは75重量%未満である。
【0020】
<ポリスチレン>
本発明においてポリエステルとともに用いられるポリスチレンとして、スチレンやポリ(アルキルスチレン)等のスチレン誘導体などからなる単独重合体または共重合体が挙げられる。また、アタクティックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、アイソタクティックポリスチレン等の各種のポリスチレンをいずれも用いることができるが、これらの中でも特に耐熱性の観点からシンジオタクチックポリスチレンが好ましい。
【0021】
本発明におけるシンジオタクチックポリスチレンは、立体化学構造がシンジオタクチック構造を有するポリスチレンであり、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体の総称として使用される。一般にタクティシティーは、同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により測定され、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッド等によって示すことができる。本発明におけるシンジオタクチックポリスチレンは、ダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、ペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のタクティシティーを有するポリスチレンである。
【0022】
かかるシンジオタクチックポリスチレンとして、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)あるいはこれらのベンゼン環の一部が水素化された重合体やこれらの混合物、またはこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
ポリ(アルキルスチレン)として、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)、ポリ(ブチルスチレン)が例示される。
ポリ(ハロゲン化スチレン)として、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)が例示される。
またポリ(アルコキシスチレン)として、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)が挙げられる。
【0023】
これらのうち、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)またはポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)が好ましく例示される。
共重合シンジオタクチックポリスチレンの共重合成分は、全繰り返し単位を基準として0.1モル%以上10モル%以下であることが好ましい。共重合成分の下限値は、より好ましくは1モル%、さらに好ましくは3モル%、特に好ましくは5モル%である。
シンジオタクチックポリスチレンを用いる場合、その分子量および分子量分布について特に制限はないが、重量平均分子量が10000以上のものが好ましく、50000以上のものがより好ましい。重量平均分子量が10000未満では、耐電圧特性の向上効果が十分でないことがある他、製膜性が低下することがある。
【0024】
かかるポリスチレンの含有量はフィルムの重量を基準として5重量%以上50重量%未満である。またポリスチレンの含有量の下限は、好ましくは7重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上である。一方、ポリスチレンの含有量の上限は、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下である。かかる範囲内でポリスチレンをポリエステルとともに用いることにより、ポリエステルの有する耐熱性を維持しながら耐電圧特性および誘電正接とを向上させることができる。特にフィルムとしての誘電正接が向上し、電気絶縁用に用いたときにポリエステル樹脂による自己発熱をより低減させることができる。
【0025】
<ヒンダードフェノール系安定剤>
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、該フィルム重量を基準として0.001重量%以上3重量%以下の範囲でヒンダードフェノール系安定剤を含有する。
かかるヒンダードフェノール系安定剤として、高分子量型のヒドロキシフェニルプロピオネート、高分子量型のヒドロキシベンジルベンゼン、アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールが用いられる。
【0026】
高分子量型のヒドロキシフェニルプロピオネートとして、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが例示される。
また高分子量型のヒドロキシベンジルベンゼンとして、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが例示される。
【0027】
また、アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールとして、炭素数2〜10のアルキレン鎖を有することが好ましく、特にヘキサメチレンビスアミド型のヒンダードフェノールが一般に入手しやすい。また、アミド結合を介してヒンダードフェノールを両末端に有しており、具体的なヒンダードフェノール化合物として、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]が例示される。
アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールの中でも130℃以上200℃以下の融点のヒンダードフェノール化合物を用いることが好ましく、さらに150℃以上170℃以下であることが好ましい。融点が下限値に満たない場合、フィルム製膜時の昇華物が増えることがある。一方、かかるヒンダードフェノール化合物の構造上、融点の上限値は自ずと制限される。
また、アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールの蒸気圧は20℃で1×10E−10Pa以下であることがことが好ましく、さらに好ましくは1×10E−11Pa以下、特に好ましくは5×10E−12Pa以下である。蒸気圧が上限値を超えると、フィルム製膜工程やマスターペレット作成工程において、安定剤の昇華量が多くなり、工程内の排気工程を汚染するため作業効率が低下したり、ダイ汚れやフィルム表面析出が増えることがある。また排気能力の低下により、安定剤の分散化が十分でないことがある。
【0028】
これらのヒンダードフェノール系安定剤の中でも、アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールを安定剤として用いることにより、フィルム製膜工程もしくはマスターペレットの作成工程で安定剤が昇華しにくく、ダイ汚れや昇華物の析出を抑制でき、かつ安定剤の有効量が高まり従来よりもさらに優れた耐電圧特性が得られるため好ましい。しかも、アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールを安定剤として用いることにより、樹脂と化学的に結合した場合であっても樹脂が脆くならないためフィルム製膜性が安定する。アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールをポリエステル系樹脂の安定剤として用いることは従来知られていなかったが、ポリエステル系樹脂に該安定剤を用いる場合、フィルム製膜工程もしくはマスターペレットの作成工程で添加して用いても樹脂と化学的に結合しやすく、安定剤自体の昇華しにくさと相まって、ダイ汚れや昇華物の析出抑制、およびフィルム中の安定剤の有効量増加により、耐電圧特性がより向上する。
【0029】
ヒンダードフェノール系安定剤として汎用されているペンタエリスリトール型のフェノール系安定剤などは、フィルム製膜工程もしくはマスターペレットの作成工程で添加した場合に樹脂と化学的に結合が生じにくく、例えばポリエステル樹脂と反応させるために樹脂の重合時に添加されることが多い。しかしながら安定剤が架橋剤的に樹脂と結合することで、得られる樹脂の溶融粘度は高いものの十分な重合度を得にくいことがあり、そのためフィルム製膜時にクリップで坦把するエッジ部分が折れるなどのフィルム製膜性の低下を伴うことがある。また、このように樹脂との反応性が低いヒンダードフェノール系安定剤をフィルム製膜工程やマスターペレット作成工程で添加した場合、製膜時に安定剤の一部が昇華し、ダイ汚れや昇華物のフィルム表面析出などが生じ、添加量に対する安定剤の有効量が減少することがある。
【0030】
かかるヒンダードフェノール系安定剤の含有量は、好ましくは0.01重量%以上2重量%以下、より好ましくは0.1重量%以上2重量%以下、さらに好ましくは0.3重量%以上1.5重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以上1.0重量%以下である。フェノール系安定剤の含有量が下限値に満たない場合、十分な耐電圧特性が得られない。またフェノール系安定剤の含有量が上限値を超える場合、増量に見合う耐電圧特性の向上が期待できない他、樹脂との未反応物によるダイ汚れや昇華物のフィルム表面析出が生じることがある。
【0031】
<フラーレン類>
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、フィルム重量を基準として0.01重量%以上2重量%未満の範囲でフラーレン類を含有することができる。本発明のフィルムにおいて、ヒンダードフェノール系安定剤とともにフラーレン類を併用することにより、さらに耐電圧特性を高めることができ、また延伸性が向上する。
かかるフラーレン類として、フラーレン、フラーレン誘導体、およびこれらの混合物を挙げることができる。フラーレンとは球状または楕円状の炭素分子であり、本発明の目的を満たす限り限定されないが、C60、C70、C74、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96、C98、C100、およびこれら化合物の2量体ならびに3量体などを挙げることができる。
【0032】
本発明において、上述のフラーレンの中でもC60、C70、およびこれらの2量体ならびに3量体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。C60、C70は工業的に得やすく、また樹脂に対する分散性に優れているので特に好ましい。これらのフラーレンは2種以上を併用してもよく、複数を併用する場合はC60、C70を併用することが好ましい。
【0033】
また本発明におけるフラーレン誘導体とは、フラーレンを構成する少なくとも1つの炭素に有機化合物の一部分を形成する原子団や無機元素からなる原子団が結合した化合物を指し、フィルム製膜性が阻害されなければフラーレンと同様に用いることができ、フラーレンの分散性が高まることがある。フラーレン誘導体としては、例えば水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン等が挙げられる。またフラーレン誘導体は、カルボキシル基、アルキル基、アミノ基などの置換基を含んでいてもよい。
【0034】
本発明のフィルムがフラーレン類を含有する場合、その含有量の下限値は基材層の重量を基準として0.01重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.03重量%である。フラーレン類の含有量が下限値に満たないと、耐電圧特性をさらに向上させたり、延伸性向上効果が十分に発現しないことがある。
一方、フラーレン類を用いる場合、2重量%未満の範囲内の使用にとどめることが好ましく、さらに1重量%以下の範囲であることが好ましい。上限値を超えてフラーレン類を使用すると、かえって耐電圧特性が低下することがある。
【0035】
フラーレン類をフィルムに含有させる方法として、1)フラーレン類を溶媒に溶解させて、該フラーレン類溶液に樹脂原料を加えて重合反応を行う方法、2)樹脂の重合後期にフラーレン類を添加する方法、3)フラーレン類を溶媒に溶解させて、該フラーレン類溶液に樹脂を添加する方法、4)二軸混練機を用いて樹脂とフラーレン類とを溶融混練する方法、が例示される。
溶媒を用いる場合、溶媒に対するフラーレン類の溶解度が5.0mg/ml以上であるものが好ましく、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート中にフラーレン類を含有させる場合、溶媒としてナフタレン類が好ましく例示され、具体的にはナフタレン;1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、ジメチルナフタレンなどのアルキルナフタレン類;1−フェニルナフタレン;1−クロロナフタレン、1−ブロモ−2−メチルナフタレンなどのハロゲン化ナフタレン類;ジアミノナフタレン;2,6−ジメチルナフタレンジカルボン酸エステルなどのエステル類が挙げられる。
【0036】
<相溶化剤>
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、ポリエステルとともに一定量のポリスチレンを含有せしめるために相溶化剤を用いることが好ましく、フィルム重量を基準として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で相溶化剤を含有してなることが好ましい。
本発明において用いられる相溶化剤として、ポリエステルとポリスチレンの中間の溶解性パラメーター(以下、SP値と略記することがある)を有する低分子量化合物もしくは熱可塑性樹脂、ポリエステルの末端基と反応性を有する反応基を有し、ポリスチレンとの相溶性に優れる低分子量化合物もしくは熱可塑性樹脂が例示され、例えばオキサゾリン基含有ポリスチレン、酸変性ポリスチレン、スチレン-フマル酸共重合体、酸変性ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。酸変性ポリフェニレンエーテルに用いられるポリフェニレンエーテルとして、後述のポリフェニレンエーテルが例示される。また、かかる酸変性ポリフェニレンエーテルとしてフマル酸変性ポリフェニレンエーテルが例示される。
【0037】
相溶化剤の含有量の下限値は、より好ましくは0.1重量%、さらに好ましくは0.5重量%である。また相溶化剤の含有量の上限値は、より好ましくは2重量%、さらに好ましくは1.5重量%である。
本発明のフィルムにおいてさらに相溶化剤を併用することにより、もともと相溶性に乏しいポリエステルとポリスチレンとの相溶性を高め、ポリスチレンの含有量を高めることができ、耐電圧特性および誘電正接を向上させることができる。
【0038】
<ポリフェニレンエーテル>
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、フィルム重量を基準として5重量%以上25重量%以下の範囲でポリフェニレンエーテルを含有することができる。かかるポリフェニレンエーテルとして公知の化合物を用いることができ、好ましいものとして、ポリ(2,3−ジメチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−メチル−6−クロロメチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ〔2−(4’−メチルフェニル)−1,4−フェニレンエーテル〕,ポリ(2−ブロモ−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−フェニル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−クロロ−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−メチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−クロロ−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−クロロ−6−ブロモ−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−メチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−クロロ−6−メチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2,6−ジブロモ−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル),ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル)及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられる。
【0039】
また、ポリフェニレンエーテルの含有量の下限値はより好ましくは7重量%である。また、ポリフェニレンエーテルの含有量の上限値はより好ましくは20重量%、さらに好ましくは15重量%である。
【0040】
本発明のフィルムにおいて、さらにポリフェニレンエーテルを併用することにより、高温耐電圧特性をより良好なものとすることができ、またフィルム製膜性を向上させることができる。
ポリフェニレンエーテルの含有量が下限値に満たないと、ポリフェニレンエーテル添加による耐電圧特性の向上効果が十分に発現しないことがある。また、ポリスチレンの配合比によってはポリエステルとポリスチレンを組成とするフィルム製膜の際の結晶化が早く、フィルム製膜性が低下することがあるが、ポリフェニレンエーテルの含有量が下限値に満たないと、ポリフェニレンエーテル添加によるフィルム製膜性の向上効果が十分に発現しないことがある。
【0041】
<耐電圧特性>
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムの耐電圧特性は絶縁破壊電圧で評価される。本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、25℃における絶縁破壊電圧が480V/μm以上であり、好ましくは500V/μm以上、より好ましくは530V/μm以上、さらに好ましくは550V/μm以上である。絶縁破壊電圧が下限値に満たない場合、例えば電気自動車やハイブリッド自動車など、より高い耐電圧特性が求められている電気絶縁材料に使用したときの電気特性が十分でない。一方、25℃における絶縁破壊電圧は、より高い方がこれらの電気絶縁材料として用いたときの信頼性が高くなり好ましいが、その上限値は樹脂材料の性質上おのずと制限され、通常は700V/μm以下である。
【0042】
かかる耐電圧特性は、ポリエステルとポリスチレンとを含有し、かつヒンダードフェノール系安定剤を用いることによって達成され、さらにフラーレン類、相溶化剤、ポリフェニレンエーテルなどのいずれかを単独で、好ましくは組み合わせて用いることにより、さらに高い耐電圧特性が得られる。また、ポリエステルの重合触媒を選択することによっても耐電圧特性を高めることができる。さらに滑り性や巻取り性を付与するために粒子を添加する場合、粒子として後述する種類のものを用いることにより、かかる耐電圧特性を維持しながら滑り性を付与することができる。
【0043】
ここで、25℃における絶縁破壊電圧は、測定方法で詳述するように、JIS規格C2151に記載の平板電極法に準拠して、東京精電(株)製、装置名ITS−6003を用いて直流電流、0.1kV/sの昇圧条件で測定した値である。
また、本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、120℃における絶縁破壊電圧が300V/μm以上であることが好ましく、さらに好ましくは305V/μm以上である。120℃の高温でもかかる高い絶縁破壊電圧を備えることにより、120℃といった過酷な環境で電気絶縁用フィルムとして使用することができる。
【0044】
<誘電正接>
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、120℃におけるフィルムの誘電正接が0.007以下である。ポリエステルを主とするフィルムでありながら、従来のポリエステルフィルムでは困難であった優れた誘電正接特性を備え、しかも120℃の高温でもかかる誘電正接特性を備えることにより、120℃といった過酷な環境で電気絶縁用フィルムとして使用することができる。
【0045】
<粒子>
(球状架橋高分子樹脂粒子(A))
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、粒子を添加する場合、平均粒径0.5μm以上3.0μm以下の球状架橋高分子樹脂粒子(A)をフィルムの重量を基準として0.01重量%以上1.5重量%以下含有することが好ましい。かかる粒子をフィルム中に含むことにより、本発明の高い耐電圧特性を低下させることなく、フィルムに滑り性や巻取り性を付与することができる。球状架橋高分子樹脂粒子(A)の代わりに他の粒子を用いた場合、滑り性や巻取り性は向上するものの、高い耐電圧特性が損なわれることがある。
【0046】
また球状架橋高分子樹脂粒子(A)の表面はシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤で表面処理されていることにより、耐電圧特性をさらに向上させることができる。
球状架橋高分子樹脂粒子(A)として、シリコーン樹脂粒子、ポリアクリル樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、アクリル−スチレン共重合体樹脂粒子が例示されるが、特にシリコーン樹脂粒子が好ましい。
【0047】
(不活性粒子(B))
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、球状架橋高分子樹脂粒子(A)に加えて、さらに平均粒径が0.01μm以上0.5μm未満であり、かつ球状架橋高分子樹脂粒子(A)の平均粒径より0.4μm以上小さい不活性粒子(B)をフィルムにフィルムの重量を基準として0.05重量%以上2.0重量%以下含有することが好ましい。球状架橋高分子樹脂粒子(A)に加えて小サイズの不活性粒子(B)をさらに含有することによって、本発明の高い耐電圧特性を低下させることなく、より効率的にフィルムに滑り性や巻取り性を付与することができ、さらに耐削れ性を良好なものとすることができる。
【0048】
不活性粒子(B)の平均粒径は、球状架橋高分子樹脂粒子(A)の平均粒径よりも小さいことが好ましく、その差が0.4μm以上であることが好ましい。その差は、さらに好ましくは0.5μm以上であり、特に好ましくは0.7μm以上である。また球状架橋高分子樹脂粒子(A)と不活性粒子(B)の平均粒径差は、大きくても2.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下、特に好ましくは1.0μm以下である。
球状架橋高分子樹脂粒子(A)と不活性粒子(B)の平均粒径差をかかる範囲にすることで、より効率的に滑り性や巻取り性を向上させることができ、さらに耐削れ性を良好なものとすることができる。
【0049】
不活性粒子(B)の平均粒径は0.01μm以上0.5μm未満が好ましく、さらに好ましくは0.1μm以上0.4μm以下である。不活性粒子(B)の平均粒径が下限値に満たないと、滑り性や巻取り性の向上効果が十分に発現しないことがある。また、不活性粒子(B)の平均粒径が上限値を超える場合は耐削れ性効果が十分に発現しないことがあり、また耐電圧特性が低下することがある。
不活性粒子(B)の種類としては、球状架橋高分子樹脂粒子(B1)を使用することが最も好ましい。その場合、球状架橋高分子樹脂粒子(B1)の種類、粒径比、相対標準偏差、粒子の表面処理については、球状架橋高分子樹脂粒子(A)の好ましい範囲内で球状架橋高分子樹脂粒子(B1)にも適用されることが好ましい。
【0050】
<フィルム厚み>
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムの厚みは、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.5〜15μm、さらに好ましくは1.0〜10μmである。フィルム厚みが下限値に満たないと製膜が困難であることがあり、また十分な耐電圧特性が発現しないことがある。一方、フィルム厚みが上限値を超えると、フィルムコンデンサーやモーター絶縁などの電気絶縁部品の小型化が難しいことがある。
【0051】
<塗布層>
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、さらにフィルムの片面または両面に塗布層を設けてもよい。該塗布層は、ワックス、シリコーン化合物、フッ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を塗布層の重量を基準として1〜50重量%含有してなることが好ましい。塗布層がこれら化合物の少なくとも1種を含有することにより、塗布層を介して積層される金属層との接着力が弱まり、フィルムの欠陥部に絶縁破壊が生じて短絡状態となったときに短絡電流によりその付近の金属層が容易に飛散し、従来よりもさらに優れた自己回復性(セルフヒーリング性)を得ることができる。一方、塗布層がこれら化合物を含んでいない場合、塗布層が十分な剥離性を備えていないため、金属層との接着力を弱めることができず、フィルムの欠陥部に絶縁破壊が生じて短絡状態となったときにその付近の金属層が容易に飛散することができず、十分な自己回復性を示すことができないことがある。
【0052】
(ワックス)
ワックスとして、ポリオレフィン系ワックス、エステル系ワックスなどが挙げられ、その他、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等の天然ワックスも例示される。ポリオレフィン系ワックスの一例として、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックスが挙げられる。また、エステル系ワックスとして、例えば炭素数8個以上の脂肪族モノカルボン酸および多価アルコールからなるエステル系ワックスが挙げられ、具体的にはソルビタントリステアレート、ペンタエリスリットトリペヘネート、グリセリントリパルミテート、ポリオキシエチレンジステアレートが例示される。かかるワックスの中でも、ポリオレフィン系ワックスを用いることがより高い自己回復性が得られる点で好ましい。また塗布層中での良好な分散性の観点で、ワックスはエマルジョンの状態で用いられることが好ましい。
【0053】
(シリコーン化合物)
シリコーン化合物としては反応性基を有するシリコーン化合物を用いることが好ましい。反応性基を含有しないシリコーンを用いた場合には塗布層が欠落することがあり、基材層が短絡状態となったときに、その部分の金属層が基材層から容易に飛散することができず、十分な自己回復性を示すことができないことがある。
この反応性基を有するシリコーン化合物としては、ケイ素原子に直接結合した反応性基を有し、アミノ基を含む有機基、エポキシ基を含む有機基、カルボン酸基を含む有機基、シラノール基もしくは加水分解によりシラノール基を生成する有機基から選ばれる反応性基を1種以上含有するものを用いることが好ましい。
シリコーン化合物は、種類の異なる反応性基を有するシリコーン化合物の混合体でもよい。かかるシリコーン化合物は分子量が1000〜500000であることが好ましい。1000未満であると塗膜凝集力が低下して塗布層の欠落が生じやすいことがあり、500000を超えると粘性が高くなりハンドリングしにくいことがある。
【0054】
(フッ素化合物)
フッ素化合物として、フルオロエチレン系モノマーを用いた重合体、フッ化アルキル(メタ)アクリレート系モノマーを用いた重合体などが挙げられる。フルオロエチレン系モノマーを用いた(共)重合体として、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ジフルオロエチレン、モノフルオロエチレン、ジフルオロジクロロエチレン等の(共)重合体が挙げられる。
【0055】
(含有量)
ワックス、シリコーン化合物、フッ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量は、塗布層の重量を基準として1〜50重量%であることが好ましい。またこれら化合物の含有量は、さらに好ましくは10〜50重量%である。含有量が下限値に満たない場合、離型層を介した本発明のフィルムと金属層との接着力が高く、フィルムの欠陥部に絶縁破壊が生じて短絡状態となったときに短絡電流によってその付近の金属層が容易に飛散できず、十分な自己回復性が得られないことがある。一方、該含有量が上限値を超える場合、塗布層の離型性が高すぎて金属層が剥離しやすく、巻回などの加工時に容易に金属層が脱離してしまい、不良品が生じることがある。
【0056】
(その他の添加剤)
塗布層は、その他、界面活性剤、架橋剤、滑剤などを含んでいてもよい。
界面活性剤は、フィルムへの水性塗液の濡れ性を高めたり、塗液の安定性を向上させる目的で使用され、例えば、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン型、ノニオン型界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤は、塗布層の重量を基準として1〜60重量%含まれていることが好ましい。
【0057】
また、架橋剤を添加することにより、塗布層の凝集力を向上させることができ好ましい。架橋剤として、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物を例示することができ、その他のカップリング剤を用いることもできる。架橋剤の添加量は、塗布層の重量を基準として5〜30重量%であることが好ましい。
塗布層の厚みは、乾燥後の厚みとして、好ましくは0.005〜0.5μm、さらに好ましくは0.005〜0.2μmである。塗布層の厚みが下限値に満たない場合は自己回復性が十分に発現しないことがある。また塗布層の厚みが上限値を超える程度に厚くしても、さらなる自己回復性が得られないことがある。
【0058】
(金属層)
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムの少なくとも片面に金属層が積層されていてもよい。金属層の材質については、特に制限はないが、例えばアルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、銅およびこれらの合金が挙げられる。さらにこれらの金属層は若干量酸化されていてもよい。また、金属層を簡便に形成できるため、金属層は蒸着法により形成された蒸着型金属層であることが好ましい。
【0059】
また、金属層を積層するにあたり、本発明の塗布層の面上にさらに金属層を設けることにより、フィルムと金属層とが適度な接着力を有し、フィルムコンデンサー製造において巻回などの加工を施す場合には金属層の剥離がなく、一方、フィルムの欠陥部に絶縁破壊が生じて短絡状態となったときに短絡電流により金属層が容易に飛散し、従来よりもさらに優れた自己回復性を示すことができる。また、金属層を本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムの両面に設ける場合、例えば両面蒸着のように両面同時に金属層を設ける方法を用いることにより、少ない工程数で金属層を設けることができる。
【0060】
<ヒンダードフェノール系安定剤の添加方法>
本発明におけるヒンダードフェノール系安定剤の添加方法は、樹脂の重合時に添加する方法、フィルム製膜工程やマスターペレット作成工程で添加する方法のいずれの方法でもよいが、フィルム製膜工程やマスターペレット作成工程で添加する方法が好ましい。特にアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールは昇華しにくい安定剤であり、フィルム製膜工程もしくはマスターペレットの作成工程で添加してもダイ汚れや昇華物の析出を抑制しやすい特徴がある。また、アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールはフィルム製膜工程もしくはマスターペレットの作成工程でポリエステルと化学的に結合しやすいため、フィルム製膜工程やマスターペレット作成工程での添加が好ましい。
【0061】
アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールは重合時に添加しても昇華物の析出を抑制しやすく、その後のフィルム製膜工程でのダイ汚れや昇華物の析出を抑制しやすい。一方、アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールをポリエステル樹脂に対して用いる場合は、重合工程でもポリエステルと化学的に結合しやすいため、ペンタエリスリトール型ヒンダードフェノールのような架橋的な反応ではないものの、得られるポリマーの重合度に影響することがあり、場合によってはフィルム製膜性に影響することがある。
【0062】
以下に1)マスターペレット作成工程における添加方法、2)フィルム製膜工程における添加方法、について詳述する。
1)のマスターペレット作成工程における添加方法として、二軸混練機を用いて、重合した樹脂チップとヒンダードフェノール系安定剤とを予め溶融混練し、マスターペレットを作成する方法が挙げられる。かかる方法として、固体状の樹脂に所定量のヒンダードフェノール系安定剤を添加し、これらを混合してから二軸混練機で溶融混練する方法、樹脂を溶融させてから所定量のヒンダードフェノール系安定剤を添加して二軸混練機で溶融混練する方法などが挙げられる。この場合、ヒンダードフェノール系安定剤は直接添加してもよく、予めマスターポリマーを作成してから添加してもよい。得られたマスターペレットは、さらに2)のフィルム製膜工程において樹脂チップと所望の割合でブレンドして用いることができる。マスターポリマー中のヒンダードフェノール系安定剤濃度は0.5〜10重量%であることが好ましい。安定剤の濃度が下限値に満たない場合、マスターポリマーの配合量が増え効率的でないことがある。一方、該濃度が上限値を超える範囲でマスターポリマーを製造するのは製造上難しいことがある。
【0063】
2)のフィルム製膜工程における添加方法とは、重合した樹脂チップとヒンダードフェノール系安定剤の粉体とを予め混合し、かかる混合物をフィルム製膜のために用いる押出機の原料投入口に添加し、該押出機中で溶融混練する方法である。この場合、ヒンダードフェノール系安定剤は1)の方法と同様、粉体の状態で用いてもよく、また1)の方法で予め作成したマスターポリマーの状態で用いてもよい。
【0064】
<フィルム製膜方法>
本発明の二軸配向フィルムを得る方法を以下に述べるが、以下の例に限定されるものではない。具体的には、前述のヒンダードフェノール系安定剤の添加方法によってヒンダードフェノール系安定剤を樹脂組成物に添加しつつ、押出機に供給してTダイよりシート状に成形する。
Tダイより押し出されたシート状成形物を表面温度10〜60℃の冷却ドラムで冷却固化し、この未延伸フィルムを例えばロール加熱または赤外線加熱によって加熱した後、縦方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。かかる縦延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。縦延伸温度はポリエステルのガラス転移点(Tg)より高い温度、更にはTgより20〜40℃高い温度とするのが好ましい。縦延伸倍率は、使用する用途の要求に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは2.5倍以上5.0倍以下、更に好ましくは3.0倍以上4.5倍以下である。縦延伸倍率が下限に満たない場合、フィルムの厚み斑が悪くなり良好なフィルムが得られないことがある。また縦延伸倍率が上限を超える場合、製膜中に破断が発生しやすくなる。
【0065】
得られた縦延伸フィルムは、続いて横延伸を行い、その後必要に応じて熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、かかる処理はフィルムを走行させながら行う。横延伸処理はポリエステルのガラス転移点(Tg)より20℃以上高い温度から始め、ポリエステルの融点(Tm)より(120〜30)℃低い温度まで昇温しながら行う。また横延伸最高温度は、好ましくはTmより(100〜40)℃低い温度である。
横延伸倍率は、使用する用途の要求に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは2.5倍以上5.0倍以下、更に好ましくは3.0倍以上4.5倍以下である。横延伸倍率が下限に満たない場合、フィルムの厚み斑が悪くなり良好なフィルムが得られないことがある。また横延伸倍率が上限を超える場合、製膜中に破断が発生しやすくなる。
二軸延伸されたフィルムは、その後、必要に応じて熱固定処理が施される。熱固定処理を施すことにより、得られたフィルムの高温条件下での寸法安定性を高めることができる。
【0066】
本発明の二軸配向フィルムは、ポリエステルとしてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用いる場合、200℃における熱収縮率は−3〜3%であることが好ましく、さらに好ましくは−2〜2%、特に好ましくは−1〜1%である。200℃における熱収縮率が上述の範囲を満たさない場合、該フィルムに金属膜を蒸着して積層フィルムを製造し、フィルムコンデンサーとした場合に、コンデンサを熱処理した際に変形が生じたり、セルフヒーリング性が低下することがある。200℃における熱収縮率を上述の範囲内にするためには、熱固定処理を(Tm−100℃)以上、さらには(Tm−70)℃〜(Tm−40)℃の範囲で行うことが好ましい。
【0067】
また本発明の二軸配向フィルムは、熱収縮を抑えるためにさらにオフライン工程においてアニール処理を施しても構わない。例えばポリエステルとしてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用いる場合、150〜220℃で1〜60秒間熱処理した後、50〜80℃の温度雰囲気下で徐冷する方法が挙げられる。
【0068】
塗布層をさらに設ける場合、フィルム延伸工程において塗布する方法が挙げられる。この場合、塗布液は水性塗布液の形態で使用されることが好ましい。水性塗布液の固形分濃度は、通常20重量%以下、好ましくは1〜10重量%である。
水性塗布液のフィルムへの塗布は、任意の段階で実施することができるが、フィルムの製造過程で実施するのが好ましく、さらには配向結晶化が完了する前のフィルムに塗布するのが好ましく、なかでも、未延伸フィルムまたは一方向に配向した一軸延伸フィルムに塗布層用の水性塗液を塗布し、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施すのが好ましい。
塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独または組合せて用いることができる。
また本発明の塗布層は、フィルム二軸延伸工程後に別工程で付与されたものであってもよい。
【0069】
<用途>
本発明の二軸配向フィルムは優れた耐電圧特性を有することから、電気絶縁用フィルムとして好適に使用することができ、具体的には、フィルムコンデンサー、ウエッジ材やスロット材などのモーター絶縁部材、フレキシブルプリント回路基板、フラットケーブルなどの電気絶縁用途のベースフィルムとして用いることができる。
【0070】
これらの電気絶縁用途のうち、例えばフィルムコンデンサーは、本発明の二軸配向フィルムの片面または両面に金属層を積層した積層フィルムを巻回または積層することによって得られる。
また、フレキシブルプリント回路基板は、本発明の二軸配向フィルムの少なくとも片面に銅箔または導電ペーストからなる金属層を積層させ、金属層に微細な回路パターンを形成することによって得られる。
またウエッジ材やスロット材などのモーター絶縁部材は、本発明の二軸配向フィルムをRのついたポンチを用いて変形加工を行うことによって得られる。
【0071】
かかる電気絶縁用途の中でも、本発明の二軸配向フィルムは優れた耐電圧特性に加えて優れた誘電正接により自己発熱抑制に優れることから、高温下での自己発熱抑制が求められるフィルムコンデンサーの絶縁フィルムとして特に好適に用いられ、例えば使用環境の温度が高くなりやすい電気自動車はハイブリッド自動車などのフィルムコンデンサーの絶縁フィルムとして好適に用いられる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量%および重量%を意味する。
【0073】
(1)ヒンダードフェノール系安定剤の含有量
得られたフィルムサンプル20mgを重トリフルオロ酢酸:重クロロホルム=1:1の混合溶媒に溶解し、600Mの1H−NMR装置を用いて積算回数256回で測定して、フェノール系安定剤の含有量を求めた。
なお、測定に際し、アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールにあたる、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド](「Irganox(登録商標)1098」)の場合は、tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルとアミド結合との間の炭化水素鎖に起因する水素に起因するピーク強度を測定した。かかるNMR測定結果をもとに、安定剤が樹脂と反応している場合はもとの安定剤に換算した含有量を求めた。また、ポリマーと未反応な安定剤と、ポリマーと反応した安定剤とが混在し、同じ炭化水素鎖に着目しても複数のピーク位置が検出される場合は、それらの合計値より含有量を求めた。
その他のヒンダードフェノール系安定剤についても同様に、着目する水素に起因するピーク強度を測定し、樹脂との反応状態を確認しながら、フィルムに含まれるヒンダードフェノール系安定剤の合計値より含有量を求めた。
【0074】
(2)絶縁破壊電圧
i)室温における絶縁破壊電圧
得られた二軸配向フィルムを用い、JIS規格C2151に記載のDC試験のうち平板電極法に準拠して、東京精電株式会社製ITS−6003を用いて、0.1kV/secの昇圧速度で測定し、破壊時の電圧を絶縁破壊電圧として測定した。
測定はn=50で行い、平均値を絶縁破壊電圧とした。なお測定は25℃の室温で実施した。
ii)120℃での絶縁破壊電圧
120℃での絶縁破壊電圧について、JIS規格K6911に準拠し、得られたフィルムサンプルを用いて試験片寸法10cm×10cm、電極形状;上部電極Φ20mmの球状、下部電極100mm×100mm×100μm厚み(ステンレス製)、昇圧速度;DC0.1kV/sec、試験雰囲気シリコンオイル中(JIS c2320絶縁油適合品)、試験装置;耐電圧試験器TOS5101(菊水電子工業製)を用いて、120℃の温度下でn=3測定し、それらの平均値より求めた。
【0075】
(3)tanδ(誘電正接)
得られたフィルムサンプルを用い、JIS C2151に準拠して、アルミ蒸着を施し、恒温槽(安藤電気株式会社 T0−9形)にセットし、30−180℃の範囲で10℃ピッチ、LCRメーター(HEWLETT PACKAD 4284A)を用いて1KHzにおける誘電正接(tanδ)を求めた。
【0076】
(4)フィルム厚み
電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0077】
(5)フィルム製膜性
ポリマーを押出機に供給し、ダイスを通じて溶融押出する際の揮発成分の発生状況、およびフィルムの延伸製膜工程におけるフィルム製膜性について、以下の基準によって評価した。
○: ポリマー溶融押出時に揮発成分などなく、製膜工程も破断することなく生産できる
△: ポリマー溶融押出時に揮発成分が見られるが、破断することなく生産できる
×; ポリマー溶融押出時に揮発成分が見られるか、破断が時々発生し安定生産できない
××: ポリマー溶融押出時に揮発成分が著しいか、破断が多発し生産できない
【0078】
<チタン触媒PENポリマーの作成方法>
P1; 2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(以下、NDCと称することがある。)100部、エチレングリコール(以下、EGと称することがある。)60部およびチタン化合物(トリメリット酸チタンをチタン元素量が15mmol%となるように添加)をSUS製容器に仕込み、140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、反応混合物を重合反応器に移し、295℃まで昇温し、30Pa以下の高真空下にて重縮合反応させ、固有粘度0.60dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。
【0079】
<フェノール系安定剤含有PENポリマーの作成方法>
P2; P1の方法により得られたポリエステル樹脂、及びアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールとして「Irganox(登録商標)1098」(N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド])(融点156〜161℃、蒸気圧1.3×10E-12Pa(20℃))を用い、フェノール系安定剤の含有量が組成物重量を基準として2重量%(20000ppm)となるよう設定温度300℃の2軸押出機に投入し、溶融混練を行ってポリエステル樹脂組成物(マスターペレット)を得た。
P3; P1の方法により得られたポリエステル樹脂、及びアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールとして「Irganox(登録商標)1098」(N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)])(融点156〜161℃、蒸気圧1.3×10E-12Pa(20℃))を用い、フェノール系安定剤の含有量が組成物重量を基準として5重量%(50000ppm)となるよう設定温度300℃の2軸押出機に投入し、溶融混練を行ってポリエステル樹脂組成物(マスターペレット)を得た。
【0080】
<フラーレン類含有PENポリマーの作成方法>
P4; 2−メチルナフタレン100重量部とフラーレン類0.31重量部をフラスコに入れて良く攪拌した。温度は約200℃で行った。次にP1のポリマーを70℃で6時間乾燥し、63重量部を少量ずつ加えた。約1時間から2時間攪拌後、温度を徐々に上昇させて最終的に290℃に上昇させたところで減圧を開始し、2−メチルナフタレンを除去して樹脂組成物を得た。ポリマー重量に対するフラーレン類の添加量は0.5重量%(5000ppm)であった。
なお、フラーレン類としてアルドリッチ社製のC60を使用した。
【0081】
[実施例1]
P1ポリマー10重量%、P2ポリマー59重量%、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(出光興産株式会社製、グレード;90ZC)30重量%、相溶化剤(フマル酸変性ポリフェニレンエーテル(出光興産株式会社、CX−1)1重量%をブレンドし、ブレンドしたポリマーを180℃で6時間乾燥後、300℃に加熱された押出機に供給した。
押出機で溶融混練後、290℃のダイスよりシート状に成形して冷却ロールにて冷却固化した未延伸フィルムを140℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.6倍で延伸した後、60℃のロール群で冷却し、続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、横延伸最高温度が150℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に4.0倍で延伸した。その後、テンター内で210℃で5秒間熱固定を行い、さらに200℃で1%熱弛緩を行った後、均一に除冷して室温まで冷却し、2μm厚みの二軸配向フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは絶縁破壊電圧が高いことに加え、120℃の高温における誘電正接が低く、自己発熱抑制に優れていた。またフィルム製膜性にも優れていた。
【0082】
[実施例2]
P1ポリマーに代えてP4ポリマー10重量%用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは絶縁破壊電圧が高いことに加え、120℃の高温における誘電正接が低く、自己発熱抑制に優れていた。またフィルム製膜性にも優れていた。
【0083】
[実施例3]
P2ポリマーの含有量を49重量%、P4ポリマーの含有量を20重量%に変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0084】
[実施例4]
P2ポリマーの含有量を69重量%に変更し、P4ポリマーを用いなかった以外は実施例2と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0085】
[比較例1]
P1ポリマーを70重量%、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(出光興産株式会社製、グレード;90ZC)30重量%をブレンドした以外は実施例1と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本比較例のフィルムはフィルム製膜時にフィルム破断が時々発生した。また本比較例のフィルムは実施例ほどの高い絶縁破壊電圧特性は得られなかった。
【0086】
[比較例2]
P2ポリマーをP1ポリマーに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本比較例のフィルムは実施例ほどの高い絶縁破壊電圧特性は得られなかった。
【0087】
[比較例3]
P1とP2のポリマーを50重量%:50重量%でブレンドした以外は実施例1と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本比較例のフィルムは高い絶縁破壊電圧は得られたものの、誘電正接特性が十分ではなかった。
【0088】
[実施例5]
シンジオタクチックポリスチレン樹脂の含有量を20重量%に変更し、ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアプラスチックス株式会社製PX−100L)を10重量%用いた以外は実施例2と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムは非常に高い絶縁破壊電圧特性を有しており、かつ誘電正接が低く、自己発熱抑制に優れていた。またフィルム製膜性も良好であった。
【0089】
[実施例6]
P2ポリマーの含有量を69重量%に変更し、P4ポリマーを用いなかった以外は実施例5と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。ポリフェニレンエーテル樹脂を併用することにより、実施例4のフィルムよりもさらに高い絶縁破壊電圧特性が得られた。
【0090】
[実施例7]
P2ポリマーとP4ポリマーの代わりに、P1ポリマーを29重量%、P3ポリマーを40重量%用いた以外は実施例2と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。ヒンダードフェノール系安定剤により高い絶縁破壊電圧特性が得られたものの、ポリマー溶融押出時に揮発成分が見られた。
【0091】
[比較例4]
P2ポリマーをP1ポリマーに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い、2μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。誘電正接特性は優れるものの、ヒンダードフェノール系安定剤を用いていないため、実施例ほどの高い絶縁破壊電圧特性が得られなかった。
【0092】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムは、ポリエステルを主とするフィルムでありながら室温で480V/μm以上という従来よりもさらに優れた耐電圧特性を有し、しかも優れた誘電正接(tanδ)を備えることから、従来のポリエステル系樹脂では適用が難しかった高電圧使用を含む用途に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルおよびポリスチレンを含有する二軸配向フィルムであって、該フィルムの重量を基準としてポリエステルの含有量が50重量%以上95重量%未満であり、該フィルムがフィルム重量を基準として0.001重量%以上3重量%以下の範囲でヒンダードフェノール系安定剤を含み、25℃におけるフィルムの絶縁破壊電圧が480V/μm以上であり、かつ120℃におけるフィルムの誘電正接が0.007以下であることを特徴とする電気絶縁用二軸配向フィルム。
【請求項2】
該ヒンダードフェノール系安定剤がアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノール系安定剤である請求項1に記載の電気絶縁用二軸配向フィルム。
【請求項3】
該フィルムがフィルム重量を基準として0.01重量%以上2重量%未満の範囲でフラーレン類を含有してなる請求項1または2に記載の電気絶縁用二軸配向フィルム。
【請求項4】
該フィルムがフィルム重量を基準として0.01重量%以上3重量%以下の範囲で相溶化剤を含有してなる請求項1〜3のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向フィルム。
【請求項5】
該フィルムがフィルム重量を基準として5重量%以上25重量%以下の範囲でポリフェニレンエーテルを含有してなる請求項1〜4のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向フィルム。
【請求項6】
該ポリエステルがポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1〜5のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向フィルム。
【請求項7】
該ポリスチレンがシンジオタクチックポリスチレンである請求項1〜6のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向フィルム。
【請求項8】
フィルムコンデンサー用またはモーター絶縁用である請求項1〜7のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向フィルム。

【公開番号】特開2012−229370(P2012−229370A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99790(P2011−99790)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】