説明

電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】従来のポリエステルフィルムよりもさらに高い耐電圧特性を有するポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルムの重量平均分子量が30,000以上100,000以下であり、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)で表わされる多分散度が2.5以上3.5以下であって、絶縁破壊電圧が530V/μm以上である電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気絶縁用に好適な二軸配向ポリエステルフィルムに関するものであり、さらに詳しくは、高い耐電圧特性が求められる電気絶縁用に好適な二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは電気絶縁性が求められるフィルムコンデンサーやモーター絶縁などの電気絶縁フィルムとして広く用いられている。フィルムコンデンサーは電気絶縁フィルムとアルミニウム箔等の金属薄膜とを重ね合わせ、巻回または積層する方法により製造され、またモーター絶縁用フィルムは、例えばモーターのコイルとステーターとの絶縁を行うウエッジ材やスロット材として用いられている。
【0003】
近年、電気あるいは電子回路の小型化の要求に伴い、これらフィルムコンデンサーやモーターについても小型化や実装化が進んでおり、従来よりもさらに高い電気絶縁性が求められている。また自動車用途において、運転室内での使用のみならず、エンジンルーム内にまで使用範囲が拡大しており、高温領域での耐電圧特性に優れたフィルムコンデンサーが要求されている。
【0004】
自動車エンジンルーム内で使用可能な耐熱性、耐湿性、電気特性に優れたコンデンサー用ポリエステルフィルムとして、例えば特許文献1には極限粘度や結晶化度が特定範囲にあるポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを用いることが開示されている。また誘電特性や耐電圧特性に優れたコンデンサー用フィルムとして、特許文献2においてフェノール系安定剤が多量に添加された熱可塑性樹脂フィルムが提案されているが、近年、さらに高い耐電圧特性が求められている。
また、特許文献3には活性エネルギー線照射により硬化する硬化性の誘電体層をフィルムの少なくとも一方の表面の金属蒸着層上に設け、蒸着工程でのフィルム熱負けを抑制し、耐電圧、耐久性を付与することが提案されている。
【0005】
一方で、特許文献4において比較的厚みの厚いポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムの表面に放射線を照射する手法が提案されているが、その目的は耐熱寸法安定性を高めることにあり、かかる手法でポリエステルフィルムの耐電圧特性を高めることについて検討はなされていない。
このように、より高い耐電圧特性を有するポリエステルフィルムの検討が進められているものの、更なる耐電圧特性の向上が求められている状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−173855号公報
【特許文献2】特開2005−289065号公報
【特許文献3】特開平10−284339号公報
【特許文献4】特開平5−295137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来のポリエステルフィルムよりもさらに高い耐電圧特性を有するポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、一定厚みのポリエステルフィルムに特定の雰囲気下で活性エネルギー線を一定量照射することにより、硬化剤を用いていないにもかかわらずポリエステルフィルムの重量平均分子量を効率的に高めることができ、従来のポリエステルフィルムよりもさらに高い耐電圧特性を有するポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明はポリエステルフィルムの重量平均分子量が30,000以上100,000以下であり、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)で表わされる多分散度が2.5以上3.5以下であって、絶縁破壊電圧が530V/μm以上である電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムである。
【0010】
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、好ましい態様として、活性エネルギー線照射によって得られてなること、前記活性エネルギー線照射が下記式(1)で表わされる照射前後の多分散度の比が1.2以上1.8以下となる範囲で行われてなること、
X=(Mw/Mn)a/(Mw/Mn)b ・・・(1)
(上式中、Xは活性エネルギー線照射前後の多分散度の比、(Mw/Mn)aは活性エネルギー線照射後の多分散度(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)、(Mw/Mn)bは活性エネルギー線照射前の多分散度(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)をそれぞれ表わす)
フィルム厚みが0.5μm以上40μm以下であること、ポリエステルがポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、フェノール系安定剤をフィルム重量に対して0.001重量%以上3重量%以下含有し、該フェノール系安定剤がアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールであること、該フェノール系安定剤がヘキサメチレンビスアミド型のヒンダードフェノールであること、不活性粒子として球状架橋高分子粒子を含有すること、フィルムコンデンサー用であること、の少なくともいずれか1つを具備する態様を含む。
【0011】
また本発明は、上述の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムの少なくとも片面に金属層が積層された電気絶縁用積層フィルムを包含するものである。
さらに本発明には、上述の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムを製造する方法であって、酸素濃度が10ppm以上500ppm以下となるように窒素置換した雰囲気下で合計照射線量0.1MGy以上10MGy以下の範囲で活性エネルギー線を二軸配向ポリエステルフィルムに照射する電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法が包含される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは活性エネルギー線照射等によって高分子量化されたポリエステルを一定量含むことにより、従来のポリエステルフィルムよりもさらに高い耐電圧特性を有することから、フィルムコンデンサーやモータ絶縁などの電気絶縁用フィルムとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステルフィルム>
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルによって構成される二軸延伸により得られる二軸配向フィルムである。
かかるポリエステルは、ジオールとジカルボン酸との重縮合によって得られるポリマーであり、かかるジカルボン酸として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸およびセバシン酸が挙げられ、またジオールとして、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと略記することがある)が好ましく、特に高温での耐電圧特性の観点からポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。
【0014】
本発明におけるポリエステル樹脂は、単独でも他のポリエステルとの共重合体、2種以上のポリエステルとの混合体のいずれであってもかまわない。共重合体または混合体における他の成分は、繰返し単位のモル数を基準として10モル%以下、さらに5モル%以下であることが好ましい。共重合成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分のうち、主たる成分以外の成分が挙げられる。
【0015】
本発明のポリエステルは、従来公知の方法で、例えばジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換触媒を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。
【0016】
ポリエステルの重縮合反応にはアンチモン系化合物、ゲルマニウム系化合物、チタン系化合物などの公知のものを用いることができる。本発明のフィルムは、ポリエステル製造時の触媒としてチタン化合物を使用した場合、さらに耐電圧特性が向上する。チタン化合物はポリエステル樹脂に可溶なチタン化合物であることが好ましい。ここでポリエステル樹脂に可溶なチタン化合物とは、有機チタン化合物を意味し、具体的にはテトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウムおよびチタントリスアセチルアセトネートで例示される化合物、ならびに前記のチタン化合物と無水トリメリット酸等の芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物を挙げることができる。これらの中でも、テトラブチルチタネートおよびトリメリット酸チタンが好ましい。トリメリット酸チタンは、無水トリメリット酸とテトラブチルチタネートとを反応せしめて得られる化合物である。
【0017】
かかるチタン化合物は、エステル交換法では、エステル交換反応開始前に添加しても、エステル交換反応中、エステル交換反応終了後、重縮合反応の直前に添加しても構わない。また、エステル化法では、エステル化反応終了後に添加しても、重縮合反応の直前に添加しても構わない。
【0018】
またポリエステル樹脂に含まれるチタン化合物の含有量は、ポリエステル樹脂の重量を基準として、チタン元素換算で5〜20ppmの範囲が好ましく、さらに好ましくは7〜18ppm、特に好ましくは8〜17ppmである。チタン化合物量が下限に満たないと、ポリエステル製造時の生産が遅延することがあり、一方上限を超えると得られたポリエステルの耐熱安定性が悪くなり、またチタン化合物の析出物によって耐電圧特性が低下することがある。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムには、ポリエステル以外の熱可塑性樹脂を少量用いてもよく、フィルム重量を基準として、30重量%以下、さらには15重量%以下の範囲で用いることが好ましい。ポリエステル以外の熱可塑性樹脂としてポリオレフィン、ポリスチレンが好ましく、中でも耐熱性の高いシンジオタクチックポリスチレンが好ましい。
【0020】
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム厚みが0.5μm以上40μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以上10μm以下、さらに
好ましくは1.5μm以上5μm以下である。本発明の分子量特性は、フィルムの厚みが比較的薄いことにより、活性エネルギー線照射によって達成されるものである。
【0021】
<重量平均分子量および多分散度>
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、重量平均分子量が30,000以上100,000以下であり、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)で表わされる多分散度が2.5以上3.5以下である。
かかる重量平均分子量は30,000以上50,000以下であることが好ましく、31,000以上40,000以下であることがさらに好ましい。また、多分散度は2.7以上3.2以下であることが好ましく、さらに好ましくは2.8以上3.1以下である。
【0022】
本発明のかかる重量平均分子量および多分散度は、延伸して得られた二軸配向ポリエステルフィルムに対して活性エネルギー線を一定量照射することによって得られ、高分子量化されたポリエステルを一定量含むことにより、フィルム表面を含めてポリエステルフィルムの特性を損なうことなく、530V/μm以上という従来のポリエステルフィルムよりもさらに高い耐電圧特性が発現する。
【0023】
本発明においてかかる重量平均分子量および多分散度を有するポリエステルフィルムを得るためには、0.5μm以上40μm以下のフィルム厚みの二軸配向ポリエステルフィルムに対して酸素濃度が10〜500ppmとなるよう窒素置換した雰囲気下で、合計照射線量0.1〜10MGyの範囲で活性エネルギー線を照射する方法が挙げられる。
【0024】
かかる分子量特性を有する本発明のポリエステルフィルムは、比較的厚みの薄いポリエステルフィルムに対して活性エネルギー線を一定量照射することにより、ポリエステルフィルム中に三次元架橋構造が一定量形成されていると推察され、かかる構造を有することにより、ポリエステルフィルムでありながら耐電圧特性が著しく向上すると考えられる。
【0025】
また、本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、活性エネルギー線照射が下記式(1)で表わされる照射前後の多分散度の比が1.2以上1.8以下となる範囲で行われてなることが好ましく、さらに1.3以上1.5以下となる範囲で行われてなることが好ましい。
X=(Mw/Mn)a/(Mw/Mn)b ・・・(1)
(上式中、Xは活性エネルギー線照射前後の多分散度の比、(Mw/Mn)aは活性エネルギー線照射後の多分散度(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)、(Mw/Mn)bは活性エネルギー線照射前の多分散度(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)をそれぞれ表わす)
【0026】
活性エネルギー線照射後の多分散度が照射前の多分散度より一定量高く、高分子量化したポリエステルがフィルム中に存在することにより、フィルム表面を含めてポリエステルフィルムの特性を損なうことなく、530V/μm以上という従来のポリエステルフィルムよりもさらに高い耐電圧特性が発現する。
【0027】
<活性エネルギー線照射>
ポリエステルフィルムに照射する活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、電子線、X線、α線、β線、γ線を使用することができ、これらの中で電子線、X線、α線、β線、γ線が好ましく、電子線が特に好ましい。
通常、活性エネルギー線の照射はフィルムのどちらの面から行っても構わない。活性エネルギー線をポリエステルフィルム面に照射する場合、酸素濃度が10〜500ppmとなるよう窒素置換した雰囲気下で、合計照射線量が0.1〜10MGyの範囲で照射することが好ましい。
ポリエステルフィルム表面にかかる照射線量の活性エネルギー線を照射することにより、前述の重量平均分子量および多分散度を有するポリエステルフィルムが得られ、耐電圧特性が向上する。
【0028】
<フェノール系安定剤>
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、フェノール系安定剤をフィルム重量に対して0.001重量%以上3重量%以下の範囲で含有させてもよく、かかるフェノール系安定剤としてアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールが例示される。
また、該フェノール系安定剤の含有量は、好ましくは0.1重量%以上2重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下1.5重量%以下である。
【0029】
アルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールとして、炭素数2〜10のアルキレン鎖を有することが好ましく、特にヘキサメチレンビスアミド型のヒンダードフェノールが一般に入手しやすい。また、アミド結合を介してヒンダードフェノールを両末端に有しており、具体的なヒンダードフェノール化合物として、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]が挙げられる。
【0030】
本発明のポリエステルフィルム中にさらに該フェノール系安定剤が含まれることにより、さらに安定剤に起因する耐電圧特性の向上が得られる。
また、かかる種類のフェノール系安定剤を本発明のフィルムに用いることにより、フィルム製膜工程もしくはマスターペレットの作成工程での安定剤の昇華が生じにくく、フェノール系安定剤の中でも特にポリエステルに対して高い耐電圧特性が得られる。
【0031】
<不活性粒子>
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、不活性粒子として球状架橋高分子粒子を含有することが好ましい。また、平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下である球状架橋高分子粒子(A)をフィルム重量を基準として0.01重量%以上1.5重量%以下含有することがさらに好ましい。かかる粒子をフィルム中に含むことにより、本発明の高い耐電圧特性を低下させることなく、フィルムに滑り性や巻取り性を付与することができる。
【0032】
球状架橋高分子粒子(A)の平均粒径は、好ましくは0.5μm以上2.0μm以下、さらに好ましくは0.8μm以上1.6μm以下である。球状架橋高分子粒子(A)の平均粒径が下限値に満たないとフィルムの滑り性や巻取り性が十分でないことがある。また球状架橋高分子粒子(A)の平均粒径が上限値を超える場合は耐電圧特性が低下することがある。特にフィルムコンデンサー用途においては、スペースファクターの増大や絶縁欠陥の増加により絶縁破壊電圧が低下しやすい。なお、本発明における平均粒径は、測定方法において述べるように、フィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡を用いて測定する方法で求めたものである。
球状架橋高分子粒子(A)の含有量は、好ましくは0.1重量%以上1.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以上1.0重量%以下である。
【0033】
本発明の球状架橋高分子粒子(A)は、その形状が実質的に球状もしくは真球状であることが好ましく、具体的には球状の度合いを表わす粒径比が1.0以上1.3以下であることが好ましく、さらに1.0以上1.2以下であることが好ましい。ここで粒径比とは、球状架橋高分子粒子の長径の平均値(Dl)と短径の平均値(Ds)の比で表わされる粒径比Dl/Dsで表わされる。これら長径の平均値(Dl)、短径の平均値(Ds)は、測定方法において述べるように、フィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡を用いて測定する方法で求めたものである。粒径比が大きくなると粒子形状が球状でなくなるため、粒子の周囲にボイドができやすくなり、絶縁欠陥が生じやすく、耐電圧特性が低下しやすい。
【0034】
球状架橋高分子粒子(A)は粒径分布がシャープであることが好ましく、相対標準偏差が0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下である。相対標準偏差が小さく粒径分布がシャープであると、フィルム表面の大突起の高さが均一となり、絶縁欠陥が減少し、耐電圧特性をより向上させることができる。
【0035】
また球状架橋高分子粒子(A)の表面はシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤で表面処理されていることにより、耐電圧特性をさらに向上させることができる。
球状架橋高分子粒子(A)として、シリコーン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル−スチレン共重合体樹脂などを架橋させた球状の架橋高分子粒子が例示されるが、特に架橋されたシリコーン粒子が好ましい。
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、球状架橋高分子粒子(A)に加えて、さらに平均粒径が0.01μm以上0.5μm未満であり、かつ球状架橋高分子粒子(A)の平均粒径より0.4μm以上小さい不活性粒子(B)をフィルム重量を基準として0.05重量%以上2.0重量%以下含有することが好ましい。球状架橋高分子粒子(A)に加えて小サイズの不活性粒子(B)をさらに含有することによって、本発明の高い耐電圧特性を低下させることなく、より効率的にフィルムに滑り性や巻取り性を付与することができ、さらに耐削れ性を良好なものとすることができる。
【0036】
不活性粒子(B)の平均粒径は、球状架橋高分子粒子(A)の平均粒径よりも小さいことが好ましく、その差が0.4μm以上であることが好ましい。さらに好ましくは0.5μm以上であり、特に好ましくは0.7μm以上である。また球状架橋高分子粒子(A)と不活性粒子(B)の平均粒径差は、大きくても2.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下、特に好ましくは1.0μm以下である。
【0037】
不活性粒子(B)の平均粒径は0.01μm以上0.5μm未満が好ましく、さらに好ましくは0.1μm以上0.4μm以下である。不活性粒子(B)の平均粒径が下限値に満たないと、滑り性や巻取り性の向上効果が十分に発現しないことがある。また、不活性粒子(B)の平均粒径が上限値を超える場合は耐削れ性効果が十分に発現しないことがあり、また耐電圧特性が低下することがある。
【0038】
不活性粒子(B)の含有量は、好ましくはフィルム重量を基準として0.05重量%以上2.0重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以上0.6重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以上0.4重量%以下である。
【0039】
不活性粒子(B)の種類としては、球状架橋高分子粒子(B1)を使用することが最も好ましい。その場合、球状架橋高分子粒子(B1)の粒径比、相対標準偏差、粒子の表面処理については、球状架橋高分子粒子(A)の好ましい範囲内で球状架橋高分子粒子(B1)にも適用されることが好ましい。
【0040】
本発明で用いる各種の粒子をフィルム中に含有させる方法は特に限定されない。例えば樹脂の重合中の任意の過程で添加あるいは析出させる方法、溶融押出する任意の過程で添加する方法が挙げられ、効果的に分散させるため、分散剤、界面活性剤などを用いてもよい。
【0041】
<耐電圧特性>
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムの耐電圧特性は絶縁破壊電圧で評価され、25℃における絶縁破壊電圧が530V/μm以上であり、好ましくは550V/μm以上、さらに好ましくは570V/μm以上である。ポリエステルフィルムでありながら、このような高い耐電圧特性を有することにより、従来のポリエステルフィルムでは使用が難しかったような高い耐電圧特性が求められる電気絶縁用途に好適に用いることができ、特にフィルムコンデンサー用途の中でも従来であればポリオレフィンなどが用いられていた分野に好適に用いることができる。
【0042】
本発明において、かかる耐電圧特性はポリエステルフィルムが上述の重量平均分子量および多分散度を有することで得られ、さらにフェノール系安定剤を用いることで、より耐電圧特性が向上する。
ここで、絶縁破壊電圧は、JIS C2151に記載の平板電極法に準拠して、東京精電株式会社製、装置名ITS−6003を用いて直流電流、100V/sの昇圧条件で測定した値である。
【0043】
<積層構成>
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは単層であってもよく、2層以上の積層構成であってもよい。2層以上の積層の場合、本発明の重量平均分子量および多分散度を有する層を少なくとも1層含むことが必要であり、3層以上の積層の場合、かかる層を複数層有することが好ましい。
また、本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは、さらにポリエステルフィルムの片面または両面に塗布層を設けても良く、該塗布層として例えばワックス、シリコーン化合物、フッ素化合物が挙げられる。塗布層を設ける場合、これら化合物を塗布層の重量を基準として1〜50重量%含有してなることが好ましい。
【0044】
塗布層がこれら化合物の少なくとも1種を含有することにより、塗布層を介して積層した金属層との接着力が弱まり、フィルムの欠陥部に絶縁破壊が生じて短絡状態となったときに短絡電流によりその付近の金属層が容易に飛散し、従来よりもさらに優れた自己回復性(セルフヒーリング性)が得られやすい。一方、塗布層がこれら化合物を含んでいない場合、塗布層が十分な剥離性を備えていないため、金属層との接着力を弱めることができず、フィルムの欠陥部に絶縁破壊が生じて短絡状態となったときに短絡電流によりその付近の金属層が容易に飛散し難く、十分な自己回復性を示すことができないことがある。また、塗布層は界面活性剤、架橋剤、滑剤などを含んでいてもよい。
【0045】
<フィルム製造方法>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、公知の二軸延伸方法を用いて製膜される。具体的には、原料となるポリエステル組成物を押出機に供給してTダイよりシート状物を得て、表面温度10〜60℃の冷却ドラムで冷却固化し、この未延伸フィルムを例えばロール加熱または赤外線加熱によって加熱した後、縦方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。かかる縦延伸はポリエステルのガラス転移点(Tg)より高い温度、更にはTgより20〜40℃高い温度で行うのが好ましい。縦延伸倍率は、使用する用途の要求に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは2.5倍以上5.0倍以下、更に好ましくは3.0倍以上4.5倍以下の範囲で行う。
【0046】
得られた縦延伸フィルムは、続いて横延伸を行い、その後必要に応じて熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとする。横延伸処理は樹脂のガラス転移点(Tg)より20℃以上高い温度から始め、樹脂の融点(Tm)より(120〜30)℃低い温度まで昇温しながら行う。また横延伸最高温度は、好ましくはTmより(100〜40)℃低い温度である。横延伸倍率は、使用する用途の要求に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは2.5倍以上5.0倍以下、更に好ましくは3.0倍以上4.5倍以下である。
【0047】
二軸延伸されたフィルムは、その後、必要に応じて熱固定処理が施される。熱固定処理は(Tm−100℃)以上、さらには(Tm−70)℃〜(Tm−40)℃の範囲で行うことが好ましい。熱固定処理を施すことにより、得られたフィルムの高温条件下での寸法安定性を高めることができる。
このようにして得られた二軸配向ポリエステルフィルムを用い、酸素濃度が10ppm以上500ppm以下となるように窒素置換した雰囲気下において、フィルム表面に合計照射線量0.1MGy以上10MGy以下の範囲で活性エネルギー線を照射して本発明の分子量特性を有する二軸配向ポリエステルフィルムが得られる。
【0048】
<用途>
本発明の二軸配向フィルムは電気絶縁フィルムとして好適に使用することができ、具体的には、フィルムコンデンサー、ウエッジ材やスロット材などのモーター絶縁部材、フレキシブルプリント回路基板、フラットケーブルなどの電気絶縁用途のベースフィルムとして用いることができ、特に高い耐電圧特性が求められるフィルムコンデンサーに好適に用いられる。
これらの電気絶縁用途のうち、例えばウエッジ材やスロット材などのモーター絶縁部材は、本発明の二軸配向フィルムをR(曲面)のついたポンチを用いて変形加工を行うことによって得られる。
【0049】
またフィルムコンデンサーは、本発明の二軸配向フィルムの少なくとも片面に金属層を積層した積層フィルムを巻回または積層することによって得られる。
金属層の材質については、特に制限はないが、例えばアルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、銅およびこれらの合金が挙げられる。さらにこれらの金属層は若干量酸化されていてもよい。また、金属層を簡便に形成できるため、金属層は蒸着法により形成された蒸着型金属層であることが好ましい。
また、金属層を本発明の電気絶縁用二軸配向フィルムの両面に設ける場合、例えば両面蒸着のように両面同時に金属層を設ける方法を用いることにより、少ない工程数で金属層を設けることができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の各評価項目は下記の方法により測定および評価した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0051】
(1)室温下での絶縁破壊電圧
得られた二軸配向フィルムを用い、JIS規格C2151に記載のDC試験のうち平板電極法に準拠して、東京精電株式会社製ITS−6003を用いて、0.1kV/secの昇圧速度で測定し、破壊時の電圧を絶縁破壊電圧として測定した。測定はn=50で行い、平均値を絶縁破壊電圧とした。なお測定は25℃の室温で実施した。
【0052】
(2)フィルム厚み
電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0053】
(3)平均分子量測定
ポリエステルフィルム1mgにHFIP:クロロホルム(1:1)0.5mlを加えて溶解し、クロロホルムを9.5mlを加えて、メンブレンフィルター0.45μmでろ過し、GPC分析を行った。測定機器、条件は以下のとおりである。
GPC:HLC−8020 東ソー製
検出器:UV−8010 東ソー製
カラム:TSK−gelGMHHR・M×2 東ソー製
移動相:HPLC用クロロホルム
流速:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(254nm)
注入量:200μl
較正曲線用試料:ポリスチレン(Polymer Laboratories製EasiCal“PS−1”)
得られたGPCクロマトグラムをもとに、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)をそれぞれ算出し、さらにその比(Mw/Mn)より多分散度を求めた。
また活性エネルギー線照射前後のそれぞれのポリエステルフィルムについてGPC分析を行い、それぞれの多分散度を求めて下記式(1)より活性エネルギー線照射前後の多分散度の比を求めた。
X=(Mw/Mn)a/(Mw/Mn)b ・・・(1)
(上式中、Xは活性エネルギー線照射前後の多分散度の比、(Mw/Mn)aは活性エネルギー線照射後の多分散度(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)、(Mw/Mn)bは活性エネルギー線照射前の多分散度(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)をそれぞれ表わす)
【0054】
(4)フェノール系安定剤の含有量
得られたフィルムサンプル20mgを重トリフルオロ酢酸:重クロロホルム=1:1の混合溶媒に溶解し、600Mの1H−NMR装置を用いて積算回数256回で測定して、tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルとアミド結合との間の炭化水素鎖に起因する水素に起因するピーク強度を測定した。かかるNMR測定結果をもとに、安定剤が樹脂と反応している場合はもとの安定剤に換算した含有量を求めた。また、ポリマーと未反応な安定剤と、ポリマーと反応した安定剤とが混在し、同じ炭化水素鎖に着目しても複数のピーク位置が検出される場合は、それらの合計値より含有量を求めた。
【0055】
(5)粒子の平均粒径および粒径比
フィルムサンプルの小片を走査型電子顕微鏡用試料台に固定し、日本電子(株)製スパッタリング装置(JIS−1100型イオンスパッタリング装置)を用いて、フィルム表面に0.13Paの真空下で0.25kV、1.25mAの条件でイオンエッチング処理を10分間施した。さらに同じ装置で金スパッターを施し、走査型電子顕微鏡を用いて1万〜3万倍で観測し、日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500にて、少なくとも100個の粒子についてその面積相当粒径(Di)、長径(Dli)および短径(Dsi)を求めた。粒子の個数をnとし、得られた値を下記式(2)にあてはめて、面積相当粒径(Di)の数平均値を平均粒径(D)とした。
【数1】

同様に、得られた値を下記式(3)、(4)にあてはめて、長径の平均値(Dl)と短径の平均値(Ds)を求め、Dl/Dsを粒径比とした。
【数2】

【数3】

【0056】
(6)粒子の粒径の相対標準偏差
測定方法(5)によって求められたそれぞれの粒子の面積相当粒径(Di)および平均粒径(D)から、下記式(5)により粒子の粒径の相対標準偏差を求めた。
【数4】

【0057】
(7)活性エネルギー線照射
活性エネルギー線(EB)照射装置として、型式CB250/30/20mAの30cmラボ機(株式会社アイエレクトロンビーム社製)を用いた。
照射条件として、30cm角のトレーにフィルムを載せて4隅をテープで固定し、酸素濃度10〜500ppm(N2で置換)の雰囲気下で、線量100kGyの時は加速電圧150kV、ビーム電流10.1mA、フィルム搬送速度10.0m/min、パス回数1回で活性エネルギー線照射処理を施す。照射線として熱電子を高電圧によって加速させてビームとして利用する電子線を用いた。また、例えば線量200kGyの場合はパス回数を2回、300kGyの場合はパス回数を3回、1MGyの場合はパス回数を10回、とパス回数を調整して照射線量を調整し、活性エネルギー線照射処理を施した。
【0058】
<チタン触媒PENポリマーの作成方法>
P1; 2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(以下、NDCと称することがある。)100部、エチレングリコール(以下、EGと称することがある。)60部、チタン化合物(トリメリット酸チタンをチタン元素量が15mmol%となるように添加)をSUS製容器に仕込み、140℃から240℃に昇温しながらエステル交換反応させた後、反応混合物を重合反応器に移し、295℃まで昇温し、30Pa以下の高真空下にて重縮合反応させ、固有粘度0.6dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。なお触媒失活剤としてトリメリットホスフェートを添加した。
【0059】
<フェノール系安定剤含有PENポリマーの作成方法>
P2; P1の方法により得られたポリエステル樹脂、及びアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールとして「Irganox(登録商標)1098」(N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド])(融点156〜161℃、蒸気圧1.3×10E-12Pa(20℃))を用い、フェノール系安定剤の含有量が組成物重量を基準として2重量%(20000ppm)となるよう設定温度300℃の2軸押出機に投入し、溶融混練を行ってポリエステル樹脂組成物(マスターペレット)を得た。
【0060】
<アンチモン触媒PENポリマーの作成方法>
P3; ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチル100重量部およびエチレングリコール60重量部を酢酸マンガンの存在下、常法によりエステル交換反応を行った後、次いで三酸化アンチモンをアンチモン元素量で300ppmとなるよう添加して常法により重縮合させてポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。なお触媒失活剤としてトラエチルフォスフォノアセテートを添加した。本樹脂中の各元素の濃度を原子吸光法によって測定した結果、Mn=50ppm、Sb=300ppm、P=50ppmであった。
【0061】
<フェノール系安定剤含有PENポリマーの作成方法>
P4; P3の方法により得られたポリエステル樹脂、及びアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールとして「Irganox(登録商標)1098」(N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド])(融点156〜161℃、蒸気圧1.3×10E-12Pa(20℃))を用い、フェノール系安定剤の含有量が組成物重量を基準として2重量%(20000ppm)となるよう設定温度300℃の2軸押出機に投入し、溶融混練を行ってポリエステル樹脂組成物(マスターペレット)を得た。
【0062】
<シランカップリング剤で表面処理されたシリコーン樹脂粒子の調整>
攪拌翼つきの10リットルのガラス容器に0.06重量%の水酸化ナトリウムを含む水溶液7000gを張込み、上層へポリオキシエチレンラウリルエーテル0.01重量%を含む1000gのメチルトリメトキシシランを静かに注入し、2層を形成したのち、10〜15℃でわずかに回転させながら2時間界面反応させ、球状粒子を生成させた。その後、系内の温度を70℃として約1時間熟成させ、冷却後、減圧濾過機で濾過し、水分率約40%のシリコーン樹脂粒子のケーク状物を得た。次に別のガラス容器に、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを2重量%分散させた水溶液4000gを張込み、そこへ先の反応で得られたケーク状物を全量加えてスラリー化し、内温70℃、攪拌下3時間かけて表面処理を行い、冷却後、減圧濾過機で濾過処理し、ケーク状物を得た。続いてこのケーク状物を純水600gに全量加えて再度スラリー化し、常温で1時間攪拌し、その後再度減圧濾過機にて濾過処理することにより、余分の乳化剤およびシランカップリング剤が除去された水分率約40%のケーク状物を得た。最後に、このケーク状物を100℃で15torrにて10時間減圧処理し、凝集粒子の少ない、シランカップリング剤で表面処理されたシリコーン樹脂粒子の粉末約400gを得た。また必要な粒子量に応じて、仕込み量を増やしてもよい。
【0063】
[実施例1]
P1とP2のポリマーを50重量%:50重量%でブレンドし、ブレンドしたポリマーを180℃で6時間乾燥後、300℃に加熱された押出機に供給した。押出機に該ポリマーを供給する際、球状架橋高分子粒子(A)として、上述の方法でシランカップリング剤で表面処理された、平均粒径1.2μm、相対標準偏差0.14、粒径比1.1のシリコーン樹脂粒子、及び不活性粒子(B)として、上述の方法でシランカップリング剤で表面処理された、平均粒径0.3μm、相対標準偏差0.17、粒径比1.1のシリコーン樹脂粒子をそれぞれ表1に記載した量添加した。
押出機で溶融混練後、290℃のダイスよりシート状に成形して冷却ロールにて冷却固化した未延伸フィルムを140℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.6倍で延伸した後、60℃のロール群で冷却した。
続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、横延伸最高温度が150℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に4.0倍で延伸した。その後、テンター内で210℃で5秒間熱固定を行い、さらに200℃で1%熱弛緩を行った後、均一に除冷して室温まで冷却し、2μm厚みの二軸配向フィルムを得た。フィルム中のフェノール系安定剤量は1.0重量%であった。
得られたフィルムに150kVの加速電圧で表に示す線量の活性エネルギー線照射をおこなった。活性エネルギー線照射を行うことにより、フィルムの重量平均分子量が増え、また多分散度も増加し、550V/μmもの高い絶縁破壊電圧が得られた。
【0064】
[実施例2〜4]
照射線量、フィルム厚み、フェノール系安定剤量を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0065】
[実施例5]
P1とP2のポリマー組成に代えて、P3とP4のポリマーを50重量%:50重量%でブレンドして用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0066】
[比較例1]
二軸配向ポリエステルフィルムに活性エネルギー線照射を行わなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0067】
[比較例2]
活性エネルギー線照射量を15MGyに変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。活性エネルギー線照射を行わなかった比較例1の二軸配向ポリエステルフィルムよりも耐電圧特性が低下した。活性化エネルギー線量が過剰に与えられたことによりポリマー切断が生じたと推察される。
【0068】
[比較例3]
フェノール系安定剤を含まない二軸配向ポリエステルフィルムを用い、活性エネルギー線照射を行わなかった以外は実施例3と同様の操作を行った。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムは活性エネルギー線照射等によって高分子量化されたポリエステルを一定量含むことにより、従来のポリエステルフィルムよりもさらに高い耐電圧特性を有することから、フィルムコンデンサーやモータ絶縁などの電気絶縁用フィルムとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの重量平均分子量が30,000以上100,000以下であり、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)で表わされる多分散度が2.5以上3.5以下であって、絶縁破壊電圧が530V/μm以上であることを特徴とする電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
活性エネルギー線照射によって得られてなる請求項1記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記活性エネルギー線照射が下記式(1)で表わされる照射前後の多分散度の比が1.2以上1.8以下となる範囲で行われてなる請求項2に記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
X=(Mw/Mn)a/(Mw/Mn)b ・・・(1)
(上式中、Xは活性エネルギー線照射前後の多分散度の比、(Mw/Mn)aは活性エネルギー線照射後の多分散度(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)、(Mw/Mn)bは活性エネルギー線照射前の多分散度(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)をそれぞれ表わす)
【請求項4】
フィルム厚みが0.5μm以上40μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ポリエステルがポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1〜4のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
フェノール系安定剤をフィルム重量に対して0.001重量%以上3重量%以下含有し、該フェノール系安定剤がアルキレンビスアミド型のヒンダードフェノールである請求項1〜5のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
該フェノール系安定剤がヘキサメチレンビスアミド型のヒンダードフェノールである請求項6に記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
不活性粒子として球状架橋高分子粒子を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項9】
フィルムコンデンサー用である請求項1〜8のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムの少なくとも片面に金属層が積層された電気絶縁用積層フィルム。
【請求項11】
請求項1に記載の電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムを製造する方法であって、酸素濃度が10ppm以上500ppm以下となるように窒素置換した雰囲気下で合計照射線量0.1MGy以上10MGy以下の範囲で活性エネルギー線を二軸配向ポリエステルフィルムに照射することを特徴とする電気絶縁用二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−214527(P2012−214527A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78797(P2011−78797)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】