説明

電気絶縁用樹脂組成物及びこの組成物を用いた電気機器絶縁物の製造方法

【課題】 ワニス皮膜を柔軟化でき、かつ低誘電率化且つ高熱伝導性付与が可能であり、さらに従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の良好な電気絶縁性などの硬化物特性及び良好な安定性を示すことができる電気絶縁用樹脂組成物及びこの組成物を用いた電気機器絶縁物の製造方法を提供する。
【解決手段】 α,β−不飽和二塩基酸と1以上の水酸基を持つアルコ−ルを必須成分として使用する不飽和ポリエステル(A)、不飽和基を有する反応性希釈剤(B)、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)、平均粒径0.5〜5μmの二酸化ケイ素(D)、一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素(E)及びチタネート系カップリング剤(F)を必須材料として含む電気絶縁用樹脂混合物及びこの組成物を用いた電気機器絶縁物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物及びこの組成物を用いた電気機器絶縁物の製造方法に関し、さらに詳しくは不飽和ポリエステル樹脂とキシレン・ホルムアルデヒド樹脂及び二酸化ケイ素を主成分とする電気絶縁用樹脂組成物及びこの電気絶縁用樹脂組成物を用いて、含浸、浸漬処理し絶縁処理されてなる電気機器絶縁物の製造方法に関する。
さらに、詳しくは、モータ−、トランス、アーマチュア(回転子)、ステ−タ(固定子)などの電気機器用コイルの含浸性を低下することなく、柔軟な硬化皮膜を持ち、短時間で硬化可能であり、誘電率の低下が可能でかつ、通電時の熱上昇を抑えることが可能な電気機器絶縁処理用樹脂組成物及びこの組成物を用いた電気機器絶縁物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステルと架橋性単量体からなる不飽和ポリエステル組成物は、機械的、電気的及び熱的特性、作業性、経済性などの点で調和がとれているため、FRP積層板をはじめ多くの用途に用いられている。
【0003】
この樹脂組成物は、電気絶縁用としても特性、作業性に優れているため、モータ、トランスなどの含浸用ワニスとして広く用いられている。
トランス用の含浸ワニスの要望事項としては、低温短時間硬化及びワニスからの溶剤揮発量の減少(無溶剤化)があげられる。
【0004】
この電源トランスなどの低周波トランスにおいては、通電時に磁歪や磁気力により、鉄心の振動や電磁力によるコイルの振動等によって、騒音(ノイズ)が発生する。
この騒音を防止するために、機器の構造によっても異なるが、絶縁処理用の不飽和ポリエステル樹脂の固着力を大きくして振動の発生そのものを防止することが公知となっている。
【0005】
また、鉄芯を使用しているため、防錆性や高耐熱性の付与も要求されている。
また、近年のデジタル家電化に伴い、家電用電気機器には、大型の鉄芯を使用した低
周波トランスから、小型化が可能な高周波トランスを使用する傾向がある。この高周波トランスには、コア部分に鉄ではなくフェライトを使用している。このため、ワニスの固着力が大きくなると、硬化物が硬くなり、フェライトコアへの応力が増し、コアずれを誘発し、コア部分のクラックを発生させ電気特性を悪化させる不具合が発生している。
【0006】
さらに、家電用電気機器には、小型化が可能な高周波トランスを使用する傾向がある。
これらに対応すべく、各絶縁部材には高周波化に対応した電気特性として低誘電率化が
求められている。
【0007】
上記のような樹脂組成物としては、特許文献1の記載によれば、エポキシ樹脂(誘電率4.0程度)、フェノール樹脂(誘電率4.5程度)、ポリイミド樹脂(誘電率3.8程度)、熱硬化型ポリフェニレンエーテル樹脂(誘電率2.5程度)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(誘電率2.3程度)等の熱硬化性樹脂を主成分として使用している。中でも、エポキシ樹脂が一般的に使用されている。
【0008】
しかし、現在、高周波・低周波トランス等の電気機器の含浸用途として汎用的に使用されている不飽和ポリエステル樹脂はあまり使用されていない。
また、小型・軽量化、高出力化が進んだため、蓄熱温度がより高くなり、特に、電子レンジ、インバータエアコン等の電気機器に用いられる変圧器やリアクトルコイルは、運転時に過大な負荷により発生した熱が放散されずに蓄熱され電気機器の温度が上昇する傾向があるため、使用される各材料は、より耐熱性及び熱放散性が高いものが求められるようになってきた。
【0009】
そこで、樹脂組成物の熱伝導率を上げると共に、コイルへの樹脂組成物の含浸性を向上させ、更に、耐クラック性が優れた樹脂組成物が求められる。
その結果、稼動する事によって発生した電気機器の熱が、大気雰囲気中へ放散し易くなり、電気機器の温度上昇を低減する事が出来る為、電気機器の小型・軽量化、高出力化が可能となる。
また、電気機器の構成部材が同じ場合、電気機器の信頼性向上に寄与できる。
【0010】
さらに、屋外などで使用される電気機器は、屋内で用いられる電気機器と比べ、加水分解などの環境負荷が厳しく、電気絶縁用樹脂組成物として、従来の不飽和ポリエステル樹脂を用いた場合、加水分解により、電気絶縁性が急激に低下してしまう場合が有った。このため、耐環境負荷を向上させた電気絶縁用樹脂組成物が求められるようになってきた。
【0011】
以上より、不飽和ポリエステル樹脂に無機充填剤を添加させて熱伝導率を高めると共に、電気機器への含浸性が良好な無機充填剤混合不飽和ポリエステル樹脂が用いられてきたが、不飽和ポリエステル樹脂に無機充填剤を混合すると、経日放置により、混合していた無機充填剤が沈降してハードケーキとなり、再分散が困難となり、電気絶縁組成物中に占める無機充填剤の含有量が変化し、熱伝導率が変わってしまい、期待した電気機器の熱放散性が得られない場合があった。
【0012】
電気絶縁用樹脂組成物中の無機充填剤の量が多くなると、粘度及び揺変度が高くなり電気機器への含浸性が低下し熱放散性が低下すると共に、硬化物皮膜が厚くなり、クラックが発生し易くなる傾向がある。
また、電気絶縁用樹脂組成物中の無機充填剤の量が少なくなると、含浸性は向上するが、樹脂の熱伝導率が低下するため、電気機器の放熱性が低下する傾向がある。
【0013】
【特許文献1】特開2004−083718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる問題に鑑み、今後トランスの主流となっていくと考える高周波トランス用含浸ワニスの含浸を目的に、電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いた電気機器絶縁物の製造法において、ワニス皮膜を柔軟化でき、かつ低誘電率化且つ高熱伝導性付与が可能であり、さらに従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の良好な電気絶縁性などの硬化物特性及び良好な安定性を示すことができる電気絶縁用樹脂組成物を提供するものであり、さらに、本発明は、この電気絶縁用樹脂混合物を用いた電気機器絶縁物の製造法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、α,β−不飽和二塩基酸と1以上の水酸基を持つアルコ−ルを必須成分として使用する不飽和ポリエステル(A)、不飽和基を有する反応性希釈剤(B)、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)、平均粒径0.5〜5μmの二酸化ケイ素(D)、一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素(E)及びチタネート系カップリング剤(F)を必須材料として含む電気絶縁用樹脂混合物に関する。
【0016】
また、本発明は、不飽和ポリエステル(A)の分子量が、1000〜10000の範囲である上記の電気絶縁用樹脂混合物に関する。
また、本発明は、分子内に不飽和基を有する反応性モノマ(B)が、不飽和ポリエステル(A)100重量部に対して、50〜200重量部含有してなる上記の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、上記の電気絶縁用樹脂組成物100重量部に対して、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)を0.1〜20重量部含有してなる上記の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
【0017】
また、本発明は、上記の電気絶縁用樹脂組成物100重量部に対して、平均粒径が0.5〜5μmの二酸化ケイ素(D)を10〜100重量部、一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素(E)を0.001〜10重量部及びチタネート系カップリング剤(F)を0.01〜1重量部を含有してなる上記の電気絶縁用樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、電気機器を、上記の電気絶縁用樹脂組成物に重合開始剤及び安定剤を含有した電気絶縁用樹脂組成物で被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明になる電気機器絶縁用樹脂組成物は、ワニス硬化物の柔軟性にすぐれるため、応力が加わっても、クラック等が起こりにくい皮膜を提供できる。
また、樹脂組成物の粘度、表面乾燥性は従来品と同等であるため、含浸作業方法に幅広く対応可能である。
さらに、従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の電気絶縁性、固着性等の硬化物特性及び低誘電率化・高熱伝導性が可能で、良好な安定性を示すため、信頼性の高い電気機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明におけるα,β−不飽和二塩基酸と1以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として使用する不飽和ポリエステル(A)としては、不飽和ポリエステルは、不飽和二塩基酸を必須成分とする酸成分及びアルコール成分、さらに必要に応じて変性成分を反応させて得られる。
【0020】
不飽和二塩基酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等が用いられ、これらは単独で用いても併用してもよい。
酸成分としては、上記記載の不飽和二塩基酸のほか飽和酸及びこの飽和酸低級アルキルのジエステル等併用することも出来る。
【0021】
例えば、テレフタル酸モノメチル、テレフタル酸の低級アルキルのジエステル等のテレフタル酸ジエステル、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。
また、イソフタル酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸などを用いることもできる。
【0022】
飽和酸としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバチン酸等の飽和二塩基酸等が挙げられる。飽和酸低級アルキルのジエステルとしては、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。これらは単独で用いても併用してもよい。
【0023】
さらに、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、トール油脂肪酸等の食用油脂肪酸などを併用することもできる。不飽和酸の量は、全酸成分中50〜90当量%の範囲で選択されることが好ましい。
【0024】
アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が用いられ、これらは単独で用いても併用してもよい。必要に応じて用いられる変性成分としては、例えば、アマニ油、大豆油、トール油、脱水ヒマシ油、ヤシ油、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン等が挙げられる。
【0025】
本発明の不飽和ポリエステル(A)の数平均分子量(ゲルパーミッションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値、以下も同じ)は、1000〜10000が好ましく、1500〜5000がより好ましい。1000未満では、樹脂組成物の硬化性および樹脂硬化物特性が極端に劣り、10000を超えると粘度が高すぎ含浸作業性が悪化する傾向がある。
【0026】
本発明に使用される不飽和ポリエステル(A)の製造方法としては、従来から公知の方法によることができる。例えば、必須成分であるα,β−不飽和二塩基酸と1以上の水酸基を持つアルコールのみ又は多塩基酸成分、多価アルコール成分を併用し、縮合反応させ、両成分が反応するときに生じる縮合水を系外に除きながら進められる。全酸成分1当量に対して全アルコール成分は1〜2当量の範囲で使用することが好ましい。
【0027】
縮合水を系外に除去することは、好ましくは不活性気体を通じることによる自然留出又は減圧留出によって行われる。縮合水の留出を促進するため、トルエン、キシレン等の溶剤を共沸成分として系中に添加することもできる。反応の進行は、一般に反応により生成する留出分量の測定、末端の官能基の定量、反応系の粘度の測定などにより知ることができる。
【0028】
合成反応を行うための反応温度は150〜250℃とすることが好ましい。このことから、反応装置としては、ガラス、ステンレス製等のものが選ばれ、撹拌装置、水とアルコール成分の共沸によるアルコール成分の留出を防ぐための分留装置、反応系の温度を高める加熱装置、この加熱装置の温度制御装置等を備えた反応装置を用いるのが好ましい。
【0029】
合成における重縮合反応を行うために調整する反応装置内圧力は、常圧でも全く問題なく反応を進めることができるが、加圧し、多価アルコ−ルの沸点をあげることにより、反応を促進することができる。この場合、常圧〜0.1MPaの範囲で行うことが好ましい。
【0030】
本発明で使用する不飽和基を有する反応性希釈剤(B)としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ターシャリブチルスチレン、ジビニルベンゼン、各種アクリル酸エステル、各種メタクリル酸エステル、各種アリルエステル、各種アリルエーテルなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
不飽和ポリエステル(A)と不飽和基を有する反応性希釈剤(B)の使用量は、不飽和ポリエステル(A)を100重量部に対して、不飽和基を有する反応性希釈剤(B)50〜100重量部の範囲とするのが好ましい。50重量部未満の場合、得られる樹脂組成物の粘度が高すぎてしまい、トランス表面に厚く付着するばかりでなく、内部浸透性も悪くなる傾向があり、不飽和基を有する反応性希釈剤(B)を100重量部を超えると、ワニス粘度が低すぎて、内部に浸透した樹脂付着物が過熱硬化時に流れ出してしまう不具合が発生する傾向がある。
【0032】
本発明に用いられる(C)成分のアルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂は、トルエン・キシレン等のアルキルベンゼンとホルムアルデヒドをアルカリ触媒、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、トリエルアミン等の存在下で反応させて得られるレゾールタイプの樹脂である。キシレン・ホルムアルデヒド樹脂の市販品としては、ゼネラル石油化学工業(株)製、商品名ゼネライト30、ゼネライト50、ゼネライト100、三菱瓦斯化学(株)製、商品名ニカノールL、ニカノールLL、ニカノールLLL等がある。
【0033】
本発明に用いられる(C)成分のアルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂の使用量は、(A)成分の不飽和ポリエステルと(B)成分の不飽和基を有する反応性希釈剤の総量100重量部に対し、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)0.1〜50重量部であるのが好ましく、1〜15重量部であるのがより好ましく、5〜10重量部であるのがさらに好ましい。アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂が50重量部を超えて配合してしまうと、表面乾燥時間及び樹脂組成物の硬化時間が延長し、硬化しづらくなる。また配合量を0.1重量部未満にすると、樹脂組成物の硬化皮膜が柔軟にならずまた、誘電率が低下しない不具合が発生する傾向がある。
【0034】
本発明に用いられる(C)成分の平均粒径20μm以下の二酸化ケイ素は、電気機器を運転するときの放熱性を向上させることを主な目的として配合される。放熱性の観点からは配合量が多い程よいが、この配合量が多くなると電気絶縁用樹脂組成物の粘度及び揺変度が高くなり、含浸性が低下する。
【0035】
このことから、不飽和ポリエステル樹脂組成物を100重量部とするとき、(C)成分の平均粒径20μm以下の二酸化ケイ素は100重量部を超えない範囲であるのが好ましく、70重量部を超えない範囲であるのがより好ましい。
【0036】
また、放熱性を向上させるためには、平均粒径20μm以下の二酸化ケイ素を10重量部以上配合するのが好ましい。平均粒径20μm以下の二酸化ケイ素の配合量が10重量部未満であると熱伝導性が低くなり放熱性が低下する傾向がある。なお、上記の平均粒径は、レーザー回折方式による粒度分布等から算出することができる。
【0037】
本発明に用いられる(D)成分の一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素は、長期保管後に沈降した(C)成分の二酸化ケイ素が固化せずに再分散が容易に出来る事を主な目的として配合される。
【0038】
長期保管後に沈降した二酸化ケイ素の再分散性の容易化の観点からは配合量が多い程よいが、この配合量が多くなると電気絶縁用樹脂組成物の粘度及び揺変度が高くなり、含浸性が低下する。このことから、不飽和ポリエステル樹脂組成物を100重量部とするとき、(D)成分の一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素は10重量部を超えない範囲であるのが好ましく、5重量部を超えない範囲であるのがより好ましい。
【0039】
また、長期保管後に沈降した二酸化ケイ素の再分散性の容易化の観点からは、(D)成分である一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素は0.001重量部以上配合するのが好ましい。
【0040】
一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素の配合量が0.001重量部未満であると、長期保管後に沈降した二酸化ケイ素が固化し、再分散が困難となる傾向がある。
【0041】
一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素(D)としては、表面処理を行っていない二酸化ケイ素の表面をオクチルシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルシリコーンオイル又はヘキサメチルジシラザンなどを用いて化学処理を行い、表面を疎水性にしたものを用いる事が出来る。なお、上記の平均粒径についても、レーザー回折方式による粒度分布等から算出することができる。
【0042】
本発明に用いられる(E)成分のチタン系カップリング剤は、二酸化ケイ素の添加により高くなった粘度及び揺変度の低下を目的に配合される。粘度及び揺変度の低下の観点からは配合量が多いほど粘度及び揺変度は低下するが、この配合量が多くなると粘度が低くなりすぎて、(C)成分の平均粒径20μm以下の二酸化ケイ素の沈降速度が速くなり、長期保管後に沈降した二酸化ケイ素が固化してしまい、再分散が困難となる傾向がある。また、配合量が少なすぎると粘度及び揺変度の低下に効果がなく、コイルへの含浸性が低下する傾向がある。
【0043】
このことから、チタン系カップリング剤の配合量としては、0.01〜10重量部の範囲で、特に、0.05〜0.5重量部の範囲が好ましい。
チタン系カップリング剤としては、チタニウムステアレート、ジ−i−プロキシチタン ジイソステアレート、(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン、2−エチルヘキサノイルオキシトリ(2−プロポキシ)チタン(いずれも日本曹達株式会社製)等を用いることができる。
【0044】
本発明で必要に応じて使用する重合禁止剤としては、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。その配合量は、得られる不飽和ポリエステル樹脂組成物の硬化性により便宜決定されるが、その配合量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して0.01〜5.0重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量部である。
【0045】
また、本発明で用いられる硬化剤としては、ケトンパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、ハイドロパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、アルキルパーエステル類などが挙げられる。硬化剤の量は、硬化条件や樹脂硬化物の外観、特性等の面に影響があるため、それぞれに応じて決定される。材料の保存性、成形サイクルの面から前記不飽和ポリエステル樹脂及び重合性単量体の総量に対して0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。
【0046】
本発明で必要に応じて用いられる安定剤としては、 p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。その配合量は、樹脂組成物の貯蔵安定性、実機処理時の硬化温度及び硬化時間により便宜に決定されるが、その配合量は、通常、樹脂組成物の総量100重量部に対して0.5重量部以下が好ましく、より好ましくは0.01〜0.1重量部である。
【0047】
本発明の樹脂組成物を用いた絶縁処理は、公知の方法で処理されるが、本発明の樹脂組成物中に電気機器を2〜20分間浸漬した後、引き上げ、100〜130℃で1〜3時間加熱して樹脂組成物を硬化させる方法で行われることが望ましい。
【0048】
本発明になる樹脂組成物は、得られるワニス皮膜が柔軟性を有し、低誘電率化が可能でかつ熱伝導性に優れるため、高電圧で使用するフェライトを使用した高周波トランス・スイッチングトランスなどの電気機器の絶縁処理に好適である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに制限するものではない。なお、例中の「部」は特に断らない限り「重量部」を意味する。
〈不飽和ポリエステル(A−1)の合成〉
温度計、チッ素吹き込み管、精留塔及び撹拌装置を備えた3リットルのフラスコに、ジプロピレングリコール1474部(11モル)、イソフタル酸498部(3モル)、無水マレイン酸392部(4モル)、テトラヒドロ無水フタル酸456部(3モル)及びハイドロキノン0.22部をいれ、210℃で10時間加熱縮合し、酸価21.5の不飽和ポリエステル(A−1)を合成した。
【0050】
〈不飽和ポリエステル樹脂組成物(a−1)の作製〉
不飽和ポリエステル(A−1)100部に、スチレン150部及び8%ナフテン酸マンガン1.25部を攪拌溶解し、さらに、不飽和ポリエステル組成物(a−1)にアルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂として、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂(三菱瓦斯化学(株)製、商品名ニカノ−ルLL)10部及び1,1−ジ(タ−シャリ−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン(化薬アクゾ製、製品名トリゴノックス22E−70)を1.5部配合し、不飽和ポリエステル組成物(a−1)を得た。
【0051】
実施例1
不飽和ポリエステル樹脂組成物(a−1)100部、平均粒径2μmの二酸化ケイ素50部、オクチルシランで表面処理を行った一次粒子の平均粒径が20nmの二酸化ケイ素1部及びチタニウムステアレート0.10部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0052】
実施例2
不飽和ポリエステル樹脂組成物(a−1)100部、平均粒径10μmの二酸化ケイ素50部、オクチルシランで表面処理を行った一次粒子の平均粒径が20nmの二酸化ケイ素1部及びチタニウムステアレート0.10部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0053】
比較例1
不飽和ポリエステル樹脂組成物(a−1)100部、平均粒径2μmの二酸化ケイ素50部及びチタニウムステアレート0.10部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0054】
比較例2
不飽和ポリエステル樹脂組成物(a−1)100部及び平均粒径2μmの二酸化ケイ素50部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0055】
比較例3
不飽和ポリエステル樹脂組成物(a−1)100部、平均粒径2μmの二酸化ケイ素50部、表面処理を行わない一次粒子の平均粒径が20nmの二酸化ケイ素1部及びチタニウムステアレート0.10部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0056】
比較例4
不飽和ポリエステル樹脂組成物(a−1)100部、平均粒径10μmの二酸化ケイ素50部、表面処理を行わない一次粒子の平均粒径が20nmの二酸化ケイ素1部及びチタニウムステアレート0.10部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0057】
比較例5
不飽和ポリエステル樹脂組成物(a−1)100部のみを使用して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0058】
次に、得られた各電気絶縁用樹脂組成物について、電気絶縁用樹脂組成物の粘度、揺変度、二酸化ケイ素の沈降性、熱伝導率と誘電率を調べた。その結果を表1に示す。なお、試験方法は、下記の通りである。
【0059】
(1) 樹脂組成物粘度・揺変度
JIS C 2105の試験方法に準じて測定した。
(2) 二酸化ケイ素の沈降性
直径18mmの試験管中にワニスを100mmの高さに入れ、常温で所定期間保管後、ワニス全体の高さに対する二酸化ケイ素の高さを測定した。
【0060】
・ 沈降した二酸化ケイ素の常態
直径60mmのマヨネーズ瓶にワニスを100mmの高さに入れ、常温で所定期間保管後、直径3mm、高さ200mmのガラス棒を落下させ、ガラス棒がマヨネーズ瓶の底まで到達するか否かを試験した。ガラス棒がマヨネーズ瓶の底まで到達した場合をハードケーキ無し、ガラス棒がマヨネーズ瓶の底まで到達しなかった場合をハードケーキ有りと判断した。
【0061】
・ 沈降した二酸化ケイ素の再分散性
直径300mmのぺール缶にワニスを200mmの高さに入れ、常温で所定期間保管後、直径20mmの十字型4枚羽根をぺール缶の中心に、高さは底から100mmにセットし、回転数1000回転/分の速度で1時間攪拌させ、目視により、沈降した二酸化ケイ素が分散出来た場合を再分散可能、沈降した二酸化ケイ素が分散出来ない場合を再分散
不可能と判断した。
【0062】
・ 熱伝導率
直径50mm、厚さ10mmの円盤状の金型内に電気絶縁用樹脂組成物を注型し、温度150℃で3時間硬化させて試験片を作製し、熱伝導率測定装置(ダイナテック株式会社製、シーマテック(商品名))を用いて測定した。
【0063】
・ 誘電率測定
90mm×90mm×0.25mm(t)のブリキ板に、樹脂組成物を塗布し、110℃で1.5時間する。この作業を4回行い、樹脂硬化物塗膜を作製する。この硬化物を23℃に保ち、JIS C 2105に準拠し誘電率を測定した。
・ 測定条件
周波数:50Hz,1kHz,1MHz、主電極:φ=37mmアルミ箔
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−不飽和二塩基酸と1以上の水酸基を持つアルコールを必須成分として使用する不飽和ポリエステル(A)、分子内に不飽和基を有する反応性希釈剤(B)、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)、平均粒径0.5〜5μmの二酸化ケイ素(D)、一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素(E)及びチタネート系カップリング剤(F)を必須材料として含む電気絶縁用樹脂混合物。
【請求項2】
不飽和ポリエステル(A)の分子量が、1000〜10000の範囲である請求項1記載の電気絶縁用樹脂混合物。
【請求項3】
分子内に不飽和基を有する反応性モノマ(B)が、不飽和ポリエステル(A)100重量部に対して、50〜200重量部含有してなる請求項1又は2記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3記載の電気絶縁用樹脂組成物100重量部に対して、アルキルベンゼン・ホルムアルデヒド樹脂(C)を0.1〜20重量部含有してなる請求項1、2又は3記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4記載の電気絶縁用樹脂組成物100重量部に対して、平均粒径が0.5〜5μmの二酸化ケイ素(D)を10〜100重量部、一次粒子の平均粒径が500nm以下の疎水性二酸化ケイ素(E)を0.001〜10重量部及びチタネート系カップリング剤(F)を0.01〜1重量部を含有してなる請求項1、2、3又は4記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項6】
電気機器を、請求項1、2、3、4又は5記載の電気絶縁用樹脂組成物に重合開始剤及び安定剤を含有した電気絶縁用樹脂組成物で被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法。

【公開番号】特開2009−99387(P2009−99387A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270074(P2007−270074)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】