説明

電気自動車のパワーユニット懸架構造

【課題】車両走行時に発生する車両の全方向の荷重や、駆動時や減速時のモータのトルク変動によって起こるモータ軸中心の回転荷重を効率良く吸収し、パワーユニットの振動を緩和して車体への振動伝播を低減させ、パワーユニットが周囲の構造物と接触するのを低減させ、モータの高電圧ケーブル等の破損を抑える。
【解決手段】車両後方にパワーユニット4が搭載され、車両幅方向にモータ2及び減速機3の共通の軸Cが配置され、パワーユニット4の周囲には、サブフレーム8が設けられ、フロントクロスフレーム部11は、パワーユニット4の前部に対し車両前方視で重複して配置され、モータ2の軸Cに対して平行に配置され、リヤクロスフレーム部12は、パワーユニット4の側部に対し車両側方視で重複して配置され、パワーユニット4の左右両側部は、サイドフレーム部9,10に設けた懸架ブラケット13,14、円形マウントゴム15,16、モータ側マウントブラケット17,18を介して車体に懸架されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の車両後方に搭載されるパワーユニットの懸架構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に配慮して、ガソリンエンジンの自動車とともに、モータ(電動機)の駆動力により走行する電気自動車(EV)などが提供されている。そのため、電気自動車の車両後方には、モータ及び減速機によって構成されるパワーユニットが搭載されている。
【0003】
このようなパワーユニットは、比較的容量が大きく、かつ重量があることから、従来の電気自動車では、リヤフロアなどの車体下部に剛性を高めた特別な構造を設けることにより、パワーユニットを懸架することが行われている(例えば、特許文献1〜4参照)。その一例として、パワーユニットの周囲に当該パワーユニットを車体下部に懸架するためのフレームが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4508260号公報
【特許文献2】特開2008−222032号公報
【特許文献3】特開2008−195259号公報
【特許文献4】特開2003−72392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の電気自動車におけるパワーユニットを懸架する構造では、パワーユニット、フレーム及び車体の相互位置やパワーユニットの車体への懸架部分の位置が、車両走行時に発生する車両の上下方向、幅方向及び前後方向の荷重や、駆動時や減速時のモータのトルク変動による縦方向(車両上下方向)の回転荷重などを十分に考慮して配置されていないので、当該荷重を効率良く吸収できず、車体への振動伝播を低減させることができないという問題があった。
また、従来の懸架構造では、車両に対して前方からの衝撃荷重や後方からの衝撃荷重が掛かる場合、当該荷重を効率良く吸収できないことによって、パワーユニットの車体への懸架部分のゴムブッシュが破断したり、あるいは、パワーユニットと車両前方の構造物とが接触するおそれがあった。
さらに、従来の懸架構造では、車両に対して側方から衝撃荷重が掛かる場合、車両側方の構造物がパワーユニットに接触しやすい配置構成となっているので、モータの高電圧ケーブル及びモータ電極端子が破損するおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両走行時に発生する車両の上下方向、幅方向及び前後方向の荷重や、駆動時や減速時のモータのトルク変動によって起こるモータ軸中心の回転荷重などを効率良く吸収し、パワーユニットの振動を緩和して車体への振動伝播を低減させ、パワーユニットが周囲の構造物と接触するのを低減させるとともに、モータの高電圧ケーブル及びモータ電極端子の破損を抑えることが可能な電気自動車のパワーユニット懸架構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、車両後方にはモータ及び減速機によって構成されるパワーユニットが搭載され、車両幅方向には前記モータ及び前記減速機の共通の軸が配置され、前記パワーユニットの周囲には、前記パワーユニットを車体に懸架するためのフレームが設けられている電気自動車のパワーユニット懸架構造において、前記フレームの車両幅方向に延びる前部は、前記パワーユニットの前部に対し車両前方視で重複して配置されているとともに、前記モータの軸に対して平行に配置され、前記フレームの車両前後方向に延びる側部は、前記パワーユニットの側部に対し車両側方視で重複して配置されており、前記パワーユニットの左右両側部は、前記フレームの側部に設けた懸架ブラケット、前記モータの軸の延長線上に中心部を配置した円形マウントゴム、及びモータ側マウントブラケットを介して車体に懸架されている。
【0008】
また、本発明において、前記フレームの車両幅方向に延びる後部は、前記フレームの前部及び側部よりも車両上方に配置されており、車両上方へ向かって延びる傾斜部と、車体に懸架される懸架部とによって構成されている。
さらに、本発明において、前記フレームの一方の側部から車両上方へ向かって延びる前記フレームの後部の傾斜部、もしくは、前記フレームの一方の側部に配置したモータ側マウントブラケットは、前記モータの電極配線部と車両側方視で重なるように配置されている。
【0009】
また、本発明において、前記パワーユニット周辺のリヤフロアは、前部よりも後部が高く配置され、これら前部と後部との間に車両後方へ向かって上方に延びる斜面部を有し、前記リヤフロアの前部は、前記リヤフロアの前部もしくは斜面部に懸架されている。
さらに、本発明において、前記パワーユニットの車両前方側であって、前記パワーユニットの車両幅方向中央付近は、前記モータの軸中心と同じ高さ位置で前記フレームの前部に懸架され、前記パワーユニットの車両後方側は、長手のブラケットを介して前記フレームよりも車両後方の車体に懸架されている。
【0010】
そして、本発明において、前記パワーユニットの車両後方側の車体懸架部分には、車両幅方向に延びる第1補強メンバと車両前後方向に延びる第2補強メンバとが交差する付近であり、かつラテラルロッドのサポートメンバが接続する部分に近接して、取付ブラケットが設けられている。
また、本発明において、前記フレームの後部の車体懸架点は、前記パワーユニットの中心を挟んで車両幅方向に2以上あり、前記車体懸架点の少なくとも2点は、車両前後方向にオフセットして配置され、前記ラテラルロッドのサポートメンバを設けている側の点が車両後方に配置されているとともに、前記フレームの後部の傾斜部付近に位置する左右両側のL字状縦部分のうち、前記ラテラルロッドのサポートメンバを設けている側が車両後方に配置されている。
【発明の効果】
【0011】
上述の如く、本発明に係る電気自動車のパワーユニット懸架構造は、車両後方にはモータ及び減速機によって構成されるパワーユニットが搭載され、車両幅方向には前記モータ及び前記減速機の共通の軸が配置され、前記パワーユニットの周囲には、前記パワーユニットを車体に懸架するためのフレームが設けられており、前記フレームの車両幅方向に延びる前部は、前記パワーユニットの前部に対し車両前方視で重複して配置されているとともに、前記モータの軸に対して平行に配置され、前記フレームの車両前後方向に延びる側部は、前記パワーユニットの側部に対し車両側方視で重複して配置されており、前記パワーユニットの左右両側部は、前記フレームの側部に設けた懸架ブラケット、前記モータの軸の延長線上に中心部を配置した円形マウントゴム、及びモータ側マウントブラケットを介して車体に懸架されているので、次のような効果を得ることができる。
【0012】
すなわち、本発明のパワーユニット懸架構造によれば、車両走行時に発生するパワーユニットに基づく車両上下方向、車両幅方向及び車両前後方向の荷重を、モータの軸を中心に左右の懸架部分で懸架することが可能となり、パワーユニットの近傍を通るフレームの側部で受け止めることができる。
したがって、本発明の懸架構造におけるパワーユニットの懸架部分への荷重の方向は、車両の上下方向、幅方向及び前後方向が主流となり、円形マウントゴムの円形面を捩る不規則な変形が低減するので、当該荷重の吸収効率を向上させ、パワーユニットの振動に基づく車体への振動伝播を低減できるとともに、円形マウントゴムの寿命を長くすることができる。
【0013】
また、本発明のパワーユニット懸架構造によれば、駆動時や減速時のモータのトルク変動によって起こるモータ軸中心の回転荷重などが、円形マウントゴムの円形面の捩れで吸収されるので、当該回転荷重などを効率良く吸収することができる。
しかも、本発明のパワーユニット懸架構造によれば、車両に対する前方からの衝撃荷重や後方からの衝撃荷重が掛かる場合でも、当該荷重が円形マウントゴムの圧縮する方向の力となるので、衝撃荷重を効率良く吸収でき、パワーユニットの車体への懸架部分のマウントゴム等が破断することはなくなるとともに、フレーム前部の存在でパワーユニットと車両前方の構造物との接触を低減させることができる。
【0014】
一方、本発明において、前記フレームの車両幅方向に延びる後部は、前記フレームの前部及び側部よりも車両上方に配置されており、車両上方へ向かって延びる傾斜部と、車体に懸架される懸架部とによって構成されているので、フレーム全体の形状が車両側方視で略L字状となり、L字状の屈曲部の変形によりパワーユニットからの振動を吸収でき、パワーユニットの振動を緩和する効果を得ることができ、車室内の騒音を低減させることができる。
【0015】
また、本発明において、前記フレームの一方の側部から車両上方へ向かって延びる前記フレームの後部の傾斜部、もしくは、前記フレームの一方の側部に配置したモータ側マウントブラケットは、前記モータの電極配線部と車両側方視で重なるように配置されているので、モータ側マウントブラケットの存在によってモータ電極端子の露出を減らすことが可能になり、車両に対して側方から衝撃荷重が掛かる場合、車両側方の構造物がパワーユニットに直接接触することがなくなり、モータの高電圧ケーブル及びモータ電極端子の破損を低減させることができる。
【0016】
さらに、本発明において、前記パワーユニット周辺のリヤフロアは、前部よりも後部が高く配置され、これら前部と後部との間に車両後方へ向かって上方に延びる斜面部を有し、前記リヤフロアの前部は、前記リヤフロアの前部もしくは斜面部に懸架されているので、車両側方視で略L字状のフレームと階段状のリヤフロアとによって車両側方視で四角形を形成することになり、パワーユニットの懸架剛性を向上させることができる。
【0017】
また、本発明において、前記パワーユニットの車両前方側であって、前記パワーユニットの車両幅方向中央付近は、前記モータの軸中心と同じ高さ位置で前記フレームの前部に懸架され、前記パワーユニットの車両後方側は、長手のブラケットを介して前記フレームよりも車両後方の車体に懸架されているので、モータの駆動時や減速時に起こるモータ軸中心での揺動および回転荷重を効率良く吸収することができる。しかも、パワーユニットの車両後方側懸架のみをフレームではなく車体に取付けているので、パワーユニットの大きな揺動を車体剛性によって抑えることができるとともに、車両後方からの荷重入力時にはフレームよりも早く荷重を掛けて、長手のブラケットの脱落などでパワーユニットへの荷重負荷を遅らせることができる。
その結果、フレーム構造をパワーユニットのモータ軸を基準に配置して、懸架位置を決めることが可能となるので、当該荷重を懸架部の各々に分担させることができ、効率の良い荷重吸収を実現できる。
【0018】
さらに、本発明において、前記パワーユニットの車両後方側の車体懸架部分には、車両幅方向に延びる第1補強メンバと車両前後方向に延びる第2補強メンバとが交差する付近であり、かつラテラルロッドのサポートメンバが接続する部分に近接して、取付ブラケットが設けられているので、車体懸架部分の剛性が向上することになり、上記発明と同様の効果を得ることができる。
【0019】
そして、本発明において、前記フレームの後部の車体懸架点は、前記パワーユニットの中心を挟んで車両幅方向に2以上あり、前記車体懸架点の少なくとも2点は、車両前後方向にオフセットして配置され、前記ラテラルロッドのサポートメンバを設けている側の点が車両後方に配置されているとともに、前記フレームの後部の傾斜部付近に位置する左右両側のL字状縦部分のうち、前記ラテラルロッドのサポートメンバを設けている側が車両後方に配置されているので、車両に対して後方から衝撃荷重が掛かるとき、モータの高電圧端子と反対側の部分に先に荷重が作用することになり、高電圧端子の車両前方への移動を遅らせることができる。
したがって、本発明の懸架構造によれば、高電圧端子と該高電圧端子の前方の部品との接触を減らすことが可能となり、高電圧端子の破損を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る電気自動車のパワーユニット懸架構造が適用された車体後部において、パワーユニットを懸架した状態を車両の下方から見た斜視図である。
【図2】図1において、パワーユニットを懸架した状態を車両の上方から見た平面図である。
【図3】図1において、パワーユニットを懸架した状態を車両左側から見た側面図である。
【図4】図1において、パワーユニットを懸架した状態を車両右側から見た側面図である。
【図5】図1において、パワーユニットを懸架した状態を車両後方側の斜め下方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1〜図5は本発明の実施形態に係る電気自動車のパワーユニット懸架構造を示すものである。
【0022】
本発明の実施形態に係るパワーユニット懸架構造が適用される自動車は、商用車等のRR車(リヤドライブ車)からなる電動車両であって、電力が供給されるモータ(電動機)の駆動力により走行する電気自動車1である。この電気自動車1の車両後方には、図1〜図5に示すように、モータ2及び減速機3によって構成されるパワーユニット4が搭載されており、モータ2及び減速機3の共通の軸Cは、車両幅方向に沿って配置されている。
パワーユニット4は、減速機3をモータ2の車両幅方向の左側部に連結して構成され、その長手方向が車両幅方向に向かって配置されている。そして、パワーユニット4の車両前方には、図4に示すように、モータ2に電力を供給するバッテリーパック5が配置されている。なお、図1〜図5における矢印F方向は車両前方を示し、符号Lは車両左側を示し、符号Rは車両右側を示している。
【0023】
本実施形態の電気自動車1の車体下部には、車両前方のフロントフロア6と、該フロントフロア6に連結される車両後方のリヤフロア7とが車両前後方向及び車両幅方向に延在した状態で設けられており、該リヤフロア7の下方には、パワーユニット4を車体のリヤフロア7に支持して懸架するためのサブフレーム(フレーム)8が配設されている。
このリヤフロア7は、図1及び図3〜図5に示すように、前部7aよりも後部7bが一段高くなるように形成されて配置されており、これら前部7aと後部7bとの間には、車両後方へ向かって上方に傾斜しながら徐々に延びる斜面部7cが設けられ、全体形状が車両側方視で階段状に形成されている。そして、パワーユニット4の前部は、リヤフロア7の前部7aもしくは斜面部7cの下方に懸架され、パワーユニット4の後部は、リヤフロア7の高くなった後部7bの下方に懸架されている。しかも、リヤフロア7の斜面部7cの車両前後方向の長さは、平面形状部分の前部7a及び後部7bよりも短く、前後に屈曲部を有していることから、当該斜面部7cは、他の部分よりも剛性が高くなっており、モータ2からの放射音、電極部の突起形状部からの放射音のリヤフロア7の透過を低減させる効果を具備している。
また、リヤフロア7の後部7bであって、モータ2の上方の箇所には、後述するモータ電極端子取付部への作業用の開口部(図示せず)が設けられており、該開口部の大きさ及び形状は、高電圧ケーブル等の接続及び取り外しの作業性や、リヤフロア7の剛性に影響が生じない範囲に形成されている。
【0024】
本実施形態のサブフレーム8は、図1〜図5に示すように、車両前後方向に延びる左右一対のサイドフレーム部(フレーム側部)9,10と、これらサイドフレーム部9,10の間を連絡すべく、車両幅方向に延びる前後一対のクロスフレーム部(フレーム前後部)11,12とを備えており、これらフレーム部によってパワーユニット4の周りを囲むような閉回路形状に構成されている。
【0025】
フロントクロスフレーム部11は、パワーユニット4の前部に対し車両前方視で重複して配置されているとともに、モータ2の軸Cに対して平行に配置されている。また、サイドフレーム部9,10は、パワーユニット4の側部に対し車両側方視で重複して配置されている。
また、リヤクロスフレーム部12は、上方に立ち上がって形成され、フロントクロスフレーム部11及びサイドフレーム部9,10よりも車両上方に配置されており、車両上方へ向かって延びる傾斜部12aと、車体側のリヤフロア7に懸架される懸架部12bとによって構成されている。このため、サブフレーム8の全体形状は、車両側方視で略L字状に形成され、車両前後方向の中間部分が、変形可能な略L字状の屈曲部分を備えていることになる。しかも、車両側方視で略L字状のサブフレーム8と階段状のリヤフロア7とによって、車両側方視で四角形が形成されることになる。
さらに、サイドフレーム部9,10のうち、車両右側のサイドフレーム部10から車両上方へ向かって延びるリヤクロスフレーム部12の傾斜部12a、もしくは、車両右側のサイドフレーム部10に配置した後述のモータ側マウントブラケットは、モータ2の電極配線部と車両側方視で重複して配置されている。
【0026】
本実施形態のパワーユニット4の左右両側部は、図1〜図5に示すように、サブフレーム8のサイドフレーム部9,10に設けた懸架ブラケット13,14、モータ2の軸Cの延長線上に中心部を配置した円形マウントゴム15,16、及びモータ側サイドマウントブラケット17,18を介して車体側のリヤフロア7に懸架されている。モータ側サイドマウントブラケット17,18は、減速機3及びモータ2側が二股に形成され、減速機3及びモータ2の側部の2箇所に取付けられる本体部分17a,18aと、車両前後方向に沿って延在してサイドフレーム部9,10に懸架される懸架部分17b,18bとからそれぞれ構成されている。
【0027】
また、パワーユニット4の車両前方部側であって、当該パワーユニット4の車両幅方向中央付近は、モータ2の軸Cの中心と同じ高さ位置でサブフレーム8のフロントクロスフレーム部11に懸架されている。このため、モータ2の前部には、図1、図2及び図4に示すように、フロントクロスフレーム部11に支持されるモータ側フロントマウントブラケット19が設けられている。モータ側フロントマウントブラケット19は、モータ2側が二股に形成され、モータ2の前部の2箇所に取付けられる本体部分19aと、車両幅方向に沿って延在してフロントクロスフレーム部11に懸架される懸架部19bとから構成されている。
【0028】
さらに、パワーユニット4の車両後方部側は、図3〜図5に示すように、サブフレーム8に取付けられることなく、長手のブラケット20を介してサブフレーム8のリヤクロスフレーム部12よりも車両後方に位置する車体のリヤフロア7側に懸架されている。しかも、パワーユニット4の車両後方側の車体懸架部分には、車両幅方向に延びる第1補強メンバ21と車両前後方向に延びる第2補強メンバ22とが交差する付近であり、かつラテラルロッド23のサポートメンバ24が接続する部分に近接して、取付ブラケット25が設けられている。
【0029】
長手のブラケット20は、車両前後方向に延びながら車両後方へ向かって斜めに立ち上がって配置されており、基端部分がパワーユニット4の後部に取付けられ、先端部分が取付ブラケット25に支持されている。そして、取付ブラケット25は、長手のブラケット20の先端部分を架設すべく、開口部分が下向きの断面略U字状に形成されており、第1補強メンバ21の下面に固定されている。
なお、第1補強メンバ21及び第2補強メンバ22は、リヤフロア7の下面にそれぞれ接合されている。また、ラテラルロッド23は、車輪の横向き反力を支えるため、車両幅方向に沿って車体と図示しない車軸間に配置されており、一端は、リヤフロア7の下面から車両下方へ向かって延在する支持ブラケット26の下端部に回動自在に支持され、他端は、図示しない車軸側に回動自在に支持されている。
【0030】
一方、本実施形態のサブフレーム8の後部であるリヤクロスフレーム部12の車体懸架点27,28は、図2に示すように、パワーユニット4の中心を挟んで車両幅方向に2以上あり、車体懸架点27,28の少なくとも2点は、車両前後方向にオフセットして配置されている。しかも、ラテラルロッド23のサポートメンバ24を設けている側の車体懸架点27は、反対側の車体懸架点28と比べて車両後方に配置されているとともに、サブフレーム8のリヤクロスフレーム部12の傾斜部12a付近に位置する左右両側のL字状縦部分のうち、ラテラルロッド23のサポートメンバ24を設けている側が車両後方に配置されている。
【0031】
このように、本発明の実施形態に係る電気自動車1のパワーユニット懸架構造においては、サブフレーム8のフロントクロスフレーム部11が、パワーユニット4の前部に対し車両前方視で重複して配置され、モータ2の軸Cに対して平行に配置され、サブフレーム8のサイドフレーム部9,10が、パワーユニット4の側部に対し車両側方視で重複して配置されており、パワーユニット4の左右両側部は、サブフレーム8のサイドフレーム部9,10に設けた懸架ブラケット13,14、モータ2の軸Cの延長線上に中心部を配置した円形マウントゴム15,16及びモータ側マウントブラケット17,18を介してリヤフロア7に懸架されているため、パワーユニット4と車両前方の構造物との接触を減らし、車両走行時に発生するパワーユニット4に基づく車両全方向の荷重を、モータ2の軸Cを中心に左右の懸架部分で懸架できるとともに、パワーユニット4の近傍を通るサブフレーム8のサイドフレーム部9,10で受けることができる。
しかも、本実施形態の懸架構造においては、モータ2の駆動時や減速時に起こる軸C中心での回転荷重等や、車両への前後方向からの衝撃荷重を円形マウントゴム15,16の弾性変形などによって効率良く吸収することができる。
したがって、本実施形態の懸架構造によれば、パワーユニット4の振動に起因する車体への振動伝播を低減させ、車内居住性の向上を図ることができる。また、円形マウントゴム15,16の破断を抑えることが可能となり、円形マウントゴム15,16の耐久性向上と長寿命化を実現できる。
【0032】
また、本実施形態のパワーユニット懸架構造においては、車両右側のサイドフレーム部10から車両上方へ向かって延びるリヤクロスフレーム部12の傾斜部12a、あるいは、車両右側のサイドフレーム部10に配置したモータ側マウントブラケット18が、モータ2の電極配線部と車両側方視で重複して配置されているため、車両側方から衝撃荷重が掛かる場合でも、車両側方の構造物とパワーユニット4との直接接触を防ぎ、モータ2の高電圧ケーブルやモータ電極端子の破損を低減させることができる。しかも、車両側方視で略L字状のサブフレーム8と階段状のリヤフロア7とによって、車両側方視で四角形が形成されることになるため、パワーユニット4の懸架部分の剛性を高めることができる。
【0033】
さらに、本実施形態の懸架構造においては、パワーユニット4の車両前方側の車両幅方向中央付近が、モータ2の軸C中心と同じ高さ位置でサブフレーム8のフロントクロスフレーム部11に懸架され、パワーユニット4の車両後方側のみが、長手のブラケット20を介してリヤクロスフレーム部12よりも車両後方の車体に懸架されているとともに、第1補強メンバ21と第2補強メンバ22とが交差する付近で、ラテラルロッド23のサポートメンバ24が接続する部分に近接して設けた取付ブラケット25を介して懸架されているため、モータ2の駆動時や減速時に起こる揺動荷重などを効率良く吸収することができ、パワーユニット4の大きな揺動を車体剛性によって抑えることができる。しかも、本実施形態の懸架構造において、リヤクロスフレーム部12の車体懸架点27,28が、パワーユニット4の中心を挟んで車両幅方向に2以上あって車両前後方向にオフセットして配置され、ラテラルロッド23のサポートメンバ24を設けている側の車体懸架点27が車両後方に配置され、また、リヤクロスフレーム部12の傾斜部12a付近に位置するサポートメンバ24側のL字状縦部分が車両後方に配置されているため、車両後方から衝撃荷重が掛かると、モータ2の高電圧端子と反対側の部分に先に荷重が加わり、高電圧端子の車両前方への移動を遅らせ、高電圧端子と該高電圧端子の前方の部品との接触を減らし、高電圧端子の破損を低減させることができる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 電気自動車
2 モータ
3 減速機
4 パワーユニット
7 リヤフロア
7a 前部
7b 後部
7c 斜面部
8 サブフレーム
9,10 サイドフレーム部(フレームの側部)
11,12 クロスフレーム部(フレームの前後部)
12a 傾斜部
12b 懸架部
13,14 懸架ブラケット
15,16 円形マウントゴム
17,18 モータ側サイドマウントブラケット
19 モータ側フロントマウントブラケット
20 長手のブラケット
21,22 補強メンバ
23 ラテラルロッド
24 サポートメンバ
25 取付ブラケット
26 支持ブラット
27,28 車体懸架点
C モータの軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後方にはモータ及び減速機によって構成されるパワーユニットが搭載され、車両幅方向には前記モータ及び前記減速機の共通の軸が配置され、前記パワーユニットの周囲には、前記パワーユニットを車体に懸架するためのフレームが設けられている電気自動車のパワーユニット懸架構造において、
前記フレームの車両幅方向に延びる前部は、前記パワーユニットの前部に対し車両前方視で重複して配置されているとともに、前記モータの軸に対して平行に配置され、前記フレームの車両前後方向に延びる側部は、前記パワーユニットの側部に対し車両側方視で重複して配置されており、
前記パワーユニットの左右両側部は、前記フレームの側部に設けた懸架ブラケット、前記モータの軸の延長線上に中心部を配置した円形マウントゴム、及びモータ側マウントブラケットを介して車体に懸架されていることを特徴とする電気自動車のパワーユニット懸架構造。
【請求項2】
前記フレームの車両幅方向に延びる後部は、前記フレームの前部及び側部よりも車両上方に配置されており、車両上方へ向かって延びる傾斜部と、車体に懸架される懸架部とによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車のパワーユニット懸架構造。
【請求項3】
前記フレームの一方の側部から車両上方へ向かって延びる前記フレームの後部の傾斜部、もしくは、前記フレームの一方の側部に配置したモータ側マウントブラケットは、前記モータの電極配線部と車両側方視で重なるように配置されていることを特徴とする請求項2に記載の電気自動車のパワーユニット懸架構造。
【請求項4】
前記パワーユニット周辺のリヤフロアは、前部よりも後部が高く配置され、これら前部と後部との間に車両後方へ向かって上方に延びる斜面部を有し、前記リヤフロアの前部は、前記リヤフロアの前部もしくは斜面部に懸架されていることを特徴とする請求項2に記載の電気自動車のパワーユニット懸架構造。
【請求項5】
前記パワーユニットの車両前方側であって、前記パワーユニットの車両幅方向中央付近は、前記モータの軸中心と同じ高さ位置で前記フレームの前部に懸架され、前記パワーユニットの車両後方側は、長手のブラケットを介して前記フレームよりも車両後方の車体に懸架されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気自動車のパワーユニット懸架構造。
【請求項6】
前記パワーユニットの車両後方側の車体懸架部分には、車両幅方向に延びる第1補強メンバと車両前後方向に延びる第2補強メンバとが交差する付近であり、かつラテラルロッドのサポートメンバが接続する部分に近接して、取付ブラケットが設けられていることを特徴とする請求項5に記載の電気自動車のパワーユニット懸架構造。
【請求項7】
前記フレームの後部の車体懸架点は、前記パワーユニットの中心を挟んで車両幅方向に2以上あり、前記車体懸架点の少なくとも2点は、車両前後方向にオフセットして配置され、前記ラテラルロッドのサポートメンバを設けている側の点が車両後方に配置されているとともに、前記フレームの後部の傾斜部付近に位置する左右両側のL字状縦部分のうち、前記ラテラルロッドのサポートメンバを設けている側が車両後方に配置されていることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の電気自動車のパワーユニット懸架構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−171529(P2012−171529A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36898(P2011−36898)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】