説明

電気自動車のフロントサスペンション構造

【課題】アウタロータ式インホイールモータを搭載した前輪駆動車において、キングピン軸を安定して位置決めし、キングピンオフセットを低減した安定した運転を実現する。
【解決手段】アウタロータ式インホイールモータを搭載した前輪ホイール1を、2本のアッパリンク2と2本のロアリンク3とで車体側部材であるにサブレーム7に連結する。両リンク2、3同士の交点により構成されるキングピン軸を前輪ホイール1のタイヤの接地中心Oを通るように設定し、キングピン軸の位置決め安定化のために前記各リンクのサブフレーム7との支持点にボールジョイントを内蔵したゴムブッシュ8を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車のフロントサスペンション構造に係り、特にアウタロータ式インホイールモータを搭載した前輪駆動電気自動車におけるフロントサスペンションのリンク構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アウタロータ式インホイールモータを搭載した車両として、例えば特許文献1に記載された構成のものが知られている。
また、特許文献2には、インホイールモータを前輪及び後輪に備えた四輪車両において、車両の挙動を安定させるため、前輪と後輪の制動力や駆動力の配分に基づき、前輪及び後輪のキングピンオフセットとホイールストロークの変化の関係を設定する設計手法が記載されている。
さらに、特許文献3には、内燃機関自動車の懸架装置において、サスペンションのリンク剛性を上げて機敏な運転操作を可能にするために、マルチリンクサスペンションを採用し、リンクの車体側取付部の支持点にゴムブッシュを設けた構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−199879号公報
【特許文献2】特開2008−68832号公報
【特許文献3】特開平7−186649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に前輪駆動車は、回生ブレーキの効果により航続距離を伸ばす点で有利である。しかし、アウタロータ式インホイールモータを搭載した車両は、後輪駆動車は広く実用化されているものの、前輪駆動車は操舵輪の懸架装置の構造やレイアウト上の制約などからキングピンオフセットが大きくなり、実用に至っていないのが現状である。
【0005】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、アウタロータ式インホイールモータを搭載した前輪駆動車において、キングピンオフセットを低減して安定した運転を実現し、併せて路面からの振動吸収と操舵時及び走行時の大きな動きに追従しつつキングピン軸の安定した位置決めが実現されるフロントサスペンションの構造を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため本発明は、前輪にアウタロータ式インホイールモータを搭載した電気自動車のフロントサスペンション構造において、前記前輪が2本のアッパリンクと2本のロアリンクとで車体側部材に連結され、前記両リンク同士の交点により構成されるキングピン軸が前輪タイヤの接地中心乃至それよりも車幅方向外側を通るように配置された構成を有することを特徴とする。
【0007】
前記構成において、2本のアッパリンクの内の車両前方側のアッパリンクと、2本のロアリンクの内の車両後方側のロアリンクとが、それぞれ車両平面視で、車体に対して略直角となるように配置されていることが好ましい。
【0008】
本発明によれば、フロントサスペンションをそれぞれ一対のアッパとロアの4本のリンクにより構成することで、機械効率の高いアウタロータ式インホイールモータを前輪に搭載して支持することができる。そして、アッパとロアの両リンクにより構成されるキングピン軸を前輪タイヤの接地中心を通るにように配置し、つまりキングピンオフセットをゼロに近づけることにより、前輪の駆動力、制動力、路面外乱による車輪の回頭モーメントが抑制され、駆動、制動、不整地走行時の安定した運転を実現することができる。実用上は、左右輪で路面摩擦が大きく異なる路面であるスプリット路における制動時までを考慮すれば、キングピン軸を前輪タイヤの接地中心よりも車幅方向外側を通るように配置して、キングピンオフセットがマイナスとなるように設定することが好ましい。
また、車両前方側に配置されるアッパリンクと、車両後方側に配置されるロアリンクとが車両平面視で車体に対して略直角となるように配置することで、アッパとロアの両リンクともに短いリンクにより構成することができ、車体幅の狭い車両に対してもアウタロータ式インホイールモータも搭載して実用化ができる。
【0009】
前記の通り、アウタロータ式インホイールモータを搭載した前輪駆動車は、懸架装置として4本の短いリンクで構成されるマルチリンクサスペンションを採用して構成することができ、安定した運転性能を得るには前記4本のリンクによって構成されるキングピン軸の安定した位置決めが重要である。これを達成する手段として、例えばレーシングカーのようなボールジョイントのみで構成されたリンクとしたのでは、乗り心地や振動の面で乗用車として実用性に欠ける。
そこで、本発明では、前記構成のフロントサスペンション構造において、2本のアッパリンクと2本のロアリンクの車体側部材との支持点に、各々ボールジョイント内蔵のゴムブッシュを設け、これにより、サスペンションリンクの動きに追従しながらキングピン軸が安定して位置決めされるようにし、路面からの振動の吸収を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態のフロントサスペンション構造の前方から見た状態のホイールとこれを支持するアッパリンクとロアリンクの配置を示した図である。
【図2】図1のフロントサスペンション構造の部材構成を示す概略斜視図である。
【図3】図1のフロントサスペンション構造を平面視した状態における(A)はアッパリンク、(B)はロアリンクの配置をそれぞれ示した図である。
【図4】図1のフロントサスペンション構造におけるキングピンオフセットの設定の一例を示した図である。
【図5】図1のフロントサスペンション構造におけるキングピンオフセットの設定の他の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好適な一実施形態を、図面を参照して説明する。なお、本実施形態のサスペンション構造は左右の前輪について対称の構成であり、以下、一側の前輪を支持する態様を示して説明する。
【0012】
本実施形態はアウタロータ式インホイールモータを搭載した前輪駆動車の前輪のサスペンションに適用したものであり、図1及び図2に示されるように、前輪ホイール1を2本のアッパリンク2と2本のロアリンク3とで車体4側に連結した構成のものである。
【0013】
より詳しくは、前輪ホイール1は、アウタロータ式インホイールモータ(図示を省略)を装備し、その固定子部に取付けられた車輪側部材であるナックル5にボールジョイント6を介して前記各アッパリンク2とロアリンク3とが連結されている。
【0014】
アッパリンク2とロアリンク3はそれぞれ2本のリンクにより構成されており、各リンクは各々、車輪側端部は前記ボールジョイント6を介してナックル5に連結され、車体側端部は、車体側部材であるサブフレーム7との支持点に設けられた、ボールジョイントを内蔵した薄い肉厚のゴムブッシュ8を介して車体4に対して上下方向に揺動可能に支持されている(図3参照)。図中、符番9はロアリンク3とサブレーム7との間に設置された緩衝装置である。
【0015】
また、図3に示されるように、アッパリンク2は、車両の前方側と後方側に並置される2本のアッパリンク21、22の配置を平面視したときに、車両前方側のアッパリンク21は車体4に対して略直角をなすように、車両後方側のアッパリンク22は車体4に対して傾斜して交差する向きとなるように取付けてある。一方、ロアリンク3は、車両の前方側と後方側に並置される2本のロアリンク31、32の配置を平面視したときに、車両前方側のロアリンク31は車体4に対して傾斜して交差する向きをなし、車両後方側のロアリンク32は車体4に対して略直角をなすように取付けてある。
【0016】
そして、図4に示されるように、これらアッパリンク2とロアリンク3はそのキングピン軸、つまり2本のアッパリンク21、22の車輪側端部の延長線上の交点Uと、2本のロアリンク32、32の車輪側端部の延長線上の交点Lを結んで構成される軸が、前輪ホイール1のタイヤの路面との接地中心Oを通るように、すなわちキングピンオフセットがゼロとなるように、或いはゼロに近づけて設定されている。
【0017】
本形態のサスペンション構造はこのように構成されているので、アッパとロアの4本のリンク2、3により、機械効率の高いアウタロータ式インホイールモータを装備した前輪ホイール1を車体のスペース上の制約を受けることなく支持することができ、キングピンオフセットがゼロとなるように前記両リンクを配置するとともに、前記両リンクの車体側部材との全ての支持点にボールジョイント内蔵のゴムブッシュ8を設けることで、サスペンションリンクの動きに追従してキングピン軸が安定して位置決めされ、駆動、制動、不整地走行時の安定した運転を実現することができる。
【0018】
なお、実用上はスプリット路における制動時までを考慮して、図5に示されるように、キングピン軸と路面との交点Kが、前輪ホイール1のタイヤの接地中心Oよりも車幅方向外側となるように、つまりキングピンオフセットがマイナスとなるように設定することが好ましい。
【0019】
なお、図示したサスペンション構造及びこれを構成する部材の態様は本発明の形態の一例を示すものであり、本発明は図示した形態に限定されない。
【符号の説明】
【0020】
1 前輪ホイール、2,21,22 アッパリンク、3,31,32 ロアリンク、4 車体、5 ナックル、6 ボールジョイント、7 サブフレーム、8 ボールジョイント内蔵ゴムブッシュ、9 緩衝装置





【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪にアウタロータ式インホイールモータを搭載した電気自動車のフロントサスペンション構造において、
前記前輪が2本のアッパリンクと2本のロアリンクとで車体側部材に連結され、
前記両リンク同士の交点により構成されるキングピン軸が前輪タイヤの接地中心乃至それよりも車幅方向外側を通るように配置された構成を有することを特徴とする電気自動車のフロントサスペンション構造。
【請求項2】
2本のアッパリンクの内の車両前方側のアッパリンクと、2本のロアリンクの内の車両後方側のロアリンクとが、それぞれ車両平面視で、車体に対して略直角となるように配置されたことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車のフロントサスペンション構造。
【請求項3】
2本のアッパリンクと2本のロアリンクの車体側部材との支持点に、各々ボールジョイント内蔵のゴムブッシュを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気自動車のフロントサスペンション構造。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−201342(P2012−201342A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70789(P2011−70789)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(511073571)株式会社SIM−Drive (8)
【Fターム(参考)】