説明

電気自動車の制御装置

【課題】電池の電極間電位差が低下して所定値となってもさらに電池の放電を可能とし電気自動車の走行を可能とする電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】放電カーブで第一平坦部と第二平坦部とをもつ材料を有する正極と、放電により正極が第一平坦部の終点に至ったとき容量が残存する負極と、を有するリチウムイオン二次電池10と、電極間電位差を検出する電位差検出手段11と、電極間電位差が所定値となったとき、リチウムイオン二次電池の放電がさらに必要かどうか判断する判断手段12と、判断手段が放電がさらに必要と判断したとき、または、人による放電の指示があったときは正極の第二平坦部を使用して放電を行い、判断手段が放電が必要でないと判断したとき、または、人による放電終了の指示があったときは放電を終了する放電制御手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行なわれている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用二次電池と比較して極めて高い出力特性および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、全ての電池の中で比較的高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
電気自動車を駆動するリチウムイオン二次電池の出力特性を維持するために、直列接続された各二次電池のSOC(State Of Charge)を検出し、検出したSOCに基づいて各二次電池の放電制御をすることで二次電池の容量均等化を高精度に行なう技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−8732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術は、直列接続されたリチウムイオン二次電池全体としてのSOCが所定値以下になり電池容量が減少すると車両を駆動することができなくなる。このような場合、車両を意図したところへ移動させることができないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものである。すなわち、二次電池の電池容量が減少し電池の電極間電位差が低下して所定値となってもさらに電池の放電を可能とする。これにより、電気自動車を必要に応じてさらに走行させ所望の位置まで移動させることを可能とする電気自動車の制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係る電気自動車の制御装置は、リチウムイオン二次電池と、電位差検出手段と、判断手段と、放電制御手段とを有する。リチウムイオン二次電池は、放電カーブで第一平坦部と第二平坦部とをもつ材料を有する正極と、放電により正極が第一平坦部の終点に至ったとき電極の容量が残存する負極と、を有する。電位差検出手段は、正極と負極との電位差を検出する。判断手段は、電位差検出手段が検出した電位差が所定値となったとき、リチウムイオン二次電池の放電がさらに必要かどうか判断する。放電制御手段は、判断手段が放電がさらに必要と判断したとき、または、人による放電の指示があるときは正極の第二平坦部を使用して放電を行い、判断手段が放電が必要でないと判断したとき、または、人による放電の指示がないときは放電を終了する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電気自動車の制御装置によれば、二次電池の電池容量が減少し電池の電極間電位差が低下して所定値となってもさらに電池の放電を可能とする。これにより、電気自動車を必要に応じてさらに走行させ所望の位置まで移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置のシステム図である。
【図2】本発明の実施形態に使用するリチウムイオン二次電池の外観を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に使用するリチウムイオン二次電池の断面図である。
【図4】本発明の実施形態に使用する積層型リチウムイオン二次電池の正極とプレドープした負極の放電カーブを示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置を実施するためのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置について説明する。図面において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張され、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置のシステム図である。
【0013】
本実施形態に係る電気自動車の制御装置1は、リチウムイオン二次電池10、電圧センサ(電位差検出手段)11、電流センサ13、コントローラ(判断手段、放電制御手段)12、インバータ14、モータ15、を有してなる。これらの構成要素は全部または一部を電気自動車に実装することができる。リチウムイオン二次電池10は電気自動車の駆動用電源として使用する。
【0014】
本実施形態に使用するリチウムイオン二次電池10について説明する。
【0015】
図2は、リチウムイオン二次電池10の外観を示す斜視図である。
【0016】
図2に示すように、リチウムイオン二次電池10は、たとえば、長方形状の扁平な形状を有し、その両側部からそれぞれ電力を取り出すための正極タブ22Aおよび負極タブ22Bが引き出される。発電要素20は、積層型二次電池10の外装材(たとえば、ラミネートフィルム)21によって包まれ、その周囲は熱融着されており、正極タブ22Aおよび負極タブ22Bを引き出した状態で密封される。
【0017】
図3はリチウムイオン二次電池の断面図である。図3には積層型(扁平型)電池を示したが、リチウムイオン二次電池は、例えば、巻回型(円筒型)電池であってもよい。
【0018】
図3に示すように、リチウムイオン二次電池10の発電要素20は、正極活物質層231と、負極活物質層32とが集電体33のそれぞれの面に形成された積層型電池用電極35を複数有する。各積層型電池用電極35は、電解質層34を介して積層されて発電要素20を形成する。隣接する正極活物質層31および集電体33は正極を構成し、隣接する負極活物質層32および集電体33は負極を構成する。
【0019】
隣接する正極活物質層31、電解質層34および負極活物質層32は、電池として機能する最小単位である単電池層30を構成する。単電池層30は並列に接続されることができる。
【0020】
本実施形態においては、リチウムイオン二次電池10の正極を構成する正極活物質層31は、放電カーブで第一平坦部と第二平坦部とをもつ材料で構成する。負極を構成する負極活物質層32は、放電により正極が第一平坦部の終点に至ったとき電極(負極)の容量が残存するようにリチウムをプレドープする。
【0021】
図4は、本実施形態に使用するリチウムイオン二次電池10の正極とプレドープした負極の放電カーブを示す図である。図4には、比較のため、プレドープしていない負極の放電カーブ(点線)も示した。
【0022】
図4の横軸は比容量、縦軸は電極の電位を示す。比容量とは、正極の放電カーブにおける第一平坦部終了時の正極の容量を100としたときの正極(または負極)の相対的な容量減少量である。
【0023】
図4に示すように、本実施形態においては、リチウムイオン二次電池10の正極の放電カーブは、2つの平坦部すなわち第一平坦部と第一平坦部より平坦部の正極電位が低い第二平坦部とを有する。また、負極の放電カーブの平坦部の末端が正極の放電カーブの少なくとも第一平坦部の末端より比容量が大きい側に位置させる。このような負極の特性は、負極の容量が正極の第一平坦部の末端より大きくなるように負極にリチウムをプレドープすることで実現できる。すなわち、放電により正極が第一平坦部の終点に至ったときに負極の容量が残存するように負極にリチウムをプレドープすることで実現できる。また、リチウムをプレドープしなくても、正極の初回充放電効率が負極のそれよりも低い材料を用いることで同様の効果を実現しても良い。
【0024】
本実施形態においては、負極の放電カーブの平坦部の末端が正極の放電カーブの第二平坦部の末端より比容量が大きい側に位置させることがさらに望ましい。このような負極の特性は、負極の容量が正極の第二平坦部の末端より大きくなるように負極にリチウムをプレドープすることで実現できる。すなわち、放電により正極が第二平坦部の終点に至ったときに負極の容量が残存するように負極にリチウムをプレドープすることで実現できる。また、この場合も、リチウムをプレドープしなくても、正極の初回充放電効率が負極のそれよりも低い材料を用いることで同様の効果を実現しても良い。
【0025】
本実施形態は、負極の放電カーブの平坦部の末端が正極の放電カーブの少なくとも第一平坦部の末端より比容量が大きい側に位置させることにより、次の効果を奏する。
【0026】
本実施形態においては、電池の放電により電池容量が減少し電池の電極間電位差が所定値(例えば、2.75V)以下となっても、正極の第二平坦部における容量を利用してさらに放電することが可能となる。これは、電極間電位差が所定値以下となっても第二平坦部により正極の電位が維持されるとともに、負極の放電カーブの平坦部の末端が正極の放電カーブの第一平坦部の末端より比容量が大きい側に位置させることで正極の第二平坦部における容量を利用しても電池の電極間電位差を維持できるからである。このような再放電を可能とすることにより、電気自動車を必要に応じてさらに走行させ所望の位置まで移動させることができる。
【0027】
さらに、本実施形態は、負極の放電カーブの平坦部の末端が正極の放電カーブの第二平坦部の末端より比容量が大きい側に位置させることにより、上記効果に加えて次の効果を奏する。
【0028】
一般に、リチウムイオン二次電池は、正極よりも負極の劣化の方が大きい。しかし、本実施形態においては、通常の放電(第一平坦部を利用した放電)が終了し、正極の第二平坦部の容量を利用した放電を実施するときであっても、電池の電極間電位差の低下による放電の終了は正極の放電カーブの電位規制となる。そのため、電池容量が劣化しても通常の放電後の放電容量を大きく保つことができる。
【0029】
なお、負極をプレドープしていない場合は、一般に負極の放電カーブの平坦部の末端が正極の放電カーブの第二平坦部の末端より比容量が小さい側に位置する。したがって、この場合は、電池の放電により正極が放電カーブの第二平坦部に至る前に負極の電位が上昇するため、正極の第二平坦部の容量を利用した放電を実施することができない。また、電池の電極間電位差の低下による放電の終了は負極の放電カーブの電位規制となるため、電池容量の劣化は劣化の速い負極の劣化に依存してしまうことになる。
【0030】
電圧センサ11は、リチウムイオン二次電池10の正負の出力端子間に接続する。電圧センサによりリチウムイオン二次電池10の電極間電位差を測定することができる。
【0031】
電流センサ13は、リチウムイオン二次電池10の正の出力端子とリチウムイオン二次電池10の負荷であるインバータとの間に接続する。電流センサ13によりリチウムイオン二次電池10の放電電流を測定することができる。
【0032】
コントローラ12は、電圧センサ11からリチウムイオン二次電池10の電極間電位差の測定値を受信するとともに、リチウムイオン二次電池10、インバータ14を制御する。
【0033】
コントローラ12は、コンピュータおよびコンピュータプログラムで構成することができる。しかし、コントローラ12は一部または全部を半導体チップからなるプロセッサで構成してもよい。
【0034】
コントローラ12は、電圧センサ11から受信したリチウムイオン二次電池10の電極間電位差の測定値が、放電により正極が第一平坦部の末端に至ったときの電極間電位差(所定値)となったとき、リチウムイオン二次電池10の放電がさらに必要かどうか判断する。リチウムイオン二次電池10の放電がさらに必要と判断したときはリチウムイオン二次電池10を制御し正極の第二平坦部を利用して放電を行う。リチウムイオン二次電池10の放電がさらに必要でないと判断したときはリチウムイオン二次電池10を制御し放電を終了させる。
【0035】
リチウムイオン二次電池の通常の放電後、リチウムイオン二次電池10の放電がさらに必要かどうかの判断および該放電の指示は、人(例えば、電気自動車の運転手)が行なってもよい。この場合は、例えば、コントローラに対し人による放電の指示を送信するための送信装置を電気自動車のハンドルに設け、該指示を受信したコントローラ12が再放電を開始するようにリチウムイオン二次電池10を制御するようにしてもよい。
【0036】
リチウムイオン二次電池10の電極間電位差が上記所定値となったとき、コントローラ12は警告信号を発生するようにしてもよい。警告信号は、例えば、ブザーによる警告音とすることができる。人は、警告信号に基づいて再放電の指示をすることができる。
【0037】
また、リチウムイオン二次電池10の放電がさらに必要かどうかの判断は、コントローラ12による判断を人による放電の指示に対し優先させてもよい。コントローラ12による判断を優先させることで、コントローラ12により電気自動車が停止することが危険だと判断された場合にコントローラ12によりリチウムイオン二次電池10に放電させることで急停止を防止し、危険を回避することができる。
【0038】
インバータ14は、リチウムイオン二次電池10が出力する直流電圧を3相交流電圧に変換する。
【0039】
モータ15は、インバータから3相交流電圧を受け、電気自動車を駆動するためのトルクを発生させる。
【0040】
図5は、本実施形態に係る電気自動車の制御装置を実施するためのフローチャートを示す図である。本フローチャートは、図1に示す本実施形態に係る電気自動車の制御装置1により実施することができる。
【0041】
電気自動車の走行時において、放電によりリチウムイオン二次電池10の電極間電位差(出力電圧)が低下し下限電圧である2.75V(所定値)に達したことを、電圧センサ11から受信した電極間電位差の測定値に基づいてコントローラ12が検知する(S500)。
【0042】
コントローラ12は、下限電圧を変更するかどうか判断する(S501)。すなわち、下限電圧を変更することでリチウムイオン二次電池10の放電をさらに行なう必要があるかどうかを判断する。コントローラ12は、さらに電気自動車を走行または移動させる必要がある場合に下限電圧を変更する必要があると判断する。
【0043】
さらに電気自動車を走行または移動させる必要がある場合とは、例えば、電気自動車が高速で走行しているため急停車させることにより危険が生じる場合が考えられる。
【0044】
コントローラ12が下限電圧を変更する必要があると判断したときは(S501,YES)、下限電圧を2.75Vから2.5Vに変更(リミットの閾値の緩和)することでリチウムイオン二次電池10の再放電を行い(S502)、電気自動車を走行または移動可能にする。
【0045】
変更後の下限電圧の値は2.5Vに限らず、さらに低くてもよい。
【0046】
リチウムイオン二次電池10の再放電は、再放電により電極間電位差が低下し変更後の下限電圧である2.5Vに達したことを、電圧センサ11から受信した出力電圧の測定値に基づいてコントローラ12が検知する(S503)まで行なうことができる。
【0047】
このように、本実施形態に係る電気自動車の制御装置によれば、二次電池の電池容量が減少し電池の電極間電位差が低下して所定値となってもさらに電池の放電を可能とする。これにより、電気自動車を必要に応じてさらに走行させ所望の位置まで移動させることができる。
【0048】
以下、本実施形態に係る電気自動車の制御装置1の構成要素であるリチウムイオン二次電池10についてさらに詳細に説明する。
【0049】
[電極]
(集電体)
集電体(負極集電体、正極集電体)としては、いずれも電池用の集電体材料として従来用いられている部材が適宜採用されうる。一例を挙げると、正極集電体および負極集電体としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼(SUS)、チタンまたは銅が挙げられる。中でも、電子伝導性、電池作動電位という観点からは、正極集電体としてはアルミニウムが好ましく、負極集電体としては銅が好ましい。集電体の一般的な厚さは、10〜20μmである。ただし、この範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。
【0050】
(負極活物質層)
負極活物質層は負極活物質を含み、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電剤、バインダー、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)などをさらに含んで構成される。
【0051】
負極活物質層中に含まれる成分の配合比は特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。また、活物質層の厚さについても特に制限はなく、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0052】
負極の容量Aと正極の容量Cとの比(以下、単に「A/C比」と称する)は1.3程度以上あればよい。また、正極の放電カーブの第二平坦部を利用した放電容量を大きくするために、A/C比は1.4以上とすることが望ましい。さらに望ましくは、A/C比を1.6以上とする。
【0053】
負極にリチウムをプレドープする場合、A/C比が2程度までは、A/C比が大きくなるにしたがってリチウムイオン二次電池の容量も増大する。これは、正極の放電カーブの第一平坦部が終了する末端における負極の電位が低く保たれるからである。
【0054】
A/C比は大きいほどよいが、A/C比を大きくすると負極が厚くなって容量密度を損なうため、A/C比は3以下に抑えることが望ましい。A/C比を2以下にすることで、容量密度の低下を抑えつつ本実施形態の効果が得られるため、さらに望ましい。
【0055】
(a)負極活物質
負極活物質はリチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されず、従来公知の負極活物質をいずれも使用できるが、炭素材料またはリチウムと合金化する材料を使用することが好ましい。炭素材料やリチウムと合金化する材料は、電池の充電時の体積膨張率が大きいため、本発明の効果を顕著に発揮しうる。
【0056】
かようなリチウムと合金化する材料としては、リチウムと合金化する元素の単体、これらの元素を含む酸化物および炭化物等が挙げられる。リチウムと合金化する材料を用いることにより、炭素系材料に比して高いエネルギー密度を有する高容量の電池を得ることが可能となる。上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、負極活物質は、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、SiまたはSnの元素を含むことがより好ましく、Siを含むことが特に好ましい。
【0057】
酸化物としては、一酸化ケイ素(SiO)、SiO(0<x<2)、二酸化スズ(SnO)、SnO(0<x<2)、SnSiOなどを用いることができる。また、炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)などを用いることができる。
【0058】
炭素材料としては、高結晶性カーボンであるグラファイト(天然グラファイト、人造グラファイト等)、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。
【0059】
この他、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−遷移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が使用可能である。
【0060】
負極活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、負極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。このような範囲であれば、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。
【0061】
なお、これら負極活物質は、単独で用いてもよく、場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。ただし、本発明の効果を顕著に発揮するためには、炭素材料および/またはリチウムと合金化する材料を活物質中に好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%を含む。
【0062】
(b)導電剤
導電剤とは、導電性を向上させるために配合される添加物をいう。本実施形態に用いられうる導電剤は特に制限されず、従来公知のものを利用することができる。例えば、アセチレンブラック、デンカブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。導電剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0063】
(c)バインダー
負極活物質層はバインダーを含んでもよい。バインダーは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。
【0064】
バインダーとしては、以下に制限されることはないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリアクリロニトリル(PAN)などの熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂;ならびにスチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料が挙げられる。
【0065】
(d)電解質
電解質は、リチウムイオンのキャリアーとしての機能を有する。電解質としてはかような機能を発揮できるものであれば特に限定されないが、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0066】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられうる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が例示される。また、支持塩(リチウム塩)としては、Li(CFSON、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiAsF、LiTaF、LiClO、LiCFSO等の電極の合剤層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
【0067】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0068】
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することが容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、特に限定されない。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVDF−HFP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびこれらの共重合体等が挙げられる。ここで、上記のイオン伝導性ポリマーは、正極合剤層および負極合剤層において電解質として用いられるイオン伝導性ポリマーと同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。電解液(電解質塩および可塑剤)の種類は特に制限されず、上記で例示したリチウム塩などの電解質塩およびカーボネート類などの可塑剤が用いられうる。
【0069】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。従って、電解質として真性ポリマー電解質を用いることで電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0070】
ゲルポリマー電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0071】
これらの電解質は1種単独であってもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
(正極活物質層)
正極活物質層は正極活物質を含み、必要に応じて導電剤、バインダー、電解質、電解質支持塩などをさらに含んで構成される。正極活物質層の構成要素のうち、正極活物質以外は、上記で説明した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。正極活物質層中に含まれる成分の配合比および正極活物質層の厚さについても特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0073】
(正極活物質)
本実施形態においては、正極の放電カーブで第一平坦部と第二平坦部とをもつ正極活物質を用いる。また、正極には1種の正極活物質だけを用いることには限定されず、放電カーブの平坦部が2つ以上あれば、2種以上の正極活物質を混合して用いても良い。
【0074】
正極の放電カーブで二つ以上の平坦部を有するのは、正極に対するリチウムの挿入、脱離の際に正極活物質の結晶構造が変化することが原因であり、正極活物質の組成比を変えることで充放電中に結晶構造が変化する正極活物質を調整することができる。
【0075】
例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)溶液(溶媒はN−メチル−2−ピロリドン(NMP))を用いてLiMn:カーボンブラック:PVdFの組成比を84:10:6に調整した正極スラリーを用いて正極活物質を調整することができる。
【0076】
正極活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、1〜100μmである。このような範囲であれば、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。
【0077】
[電解質層]
電解質層は、非水電解質を含む層である。電解質層に含まれる非水電解質(具体的には、リチウム塩)は、充放電時に正負極間を移動するリチウムイオンのキャリアーとしての機能を有する。非水電解質としてはかような機能を発揮できるものであれば特に限定されないが、(d)電解質の項で説明した液体電解質、ゲルポリマー電解質、および真性ポリマー電解質を特に制限なく用いることができる。液体電解質、ゲルポリマー電解質、および真性ポリマー電解質の具体的な形態については、上記の(d)電解質の項で説明しため、詳細はここでは省略する。
【0078】
これらの電解質層に含まれる非水電解質は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。また、上述した活物質層に用いた電解質と異なる電解質を用いてもよいし、同一の電解質を用いてもよい。
【0079】
なお、電解質層が液体電解質やゲルポリマー電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いる。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0080】
電解質層の厚さは、内部抵抗を低減させるには薄ければ薄いほどよいといえる。電解質層の厚さは、1〜100μm、好ましくは5〜50μm、とするのがよい。
【0081】
[絶縁層]
絶縁層(シール部)としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよい。例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
【0082】
[外装体]
リチウムイオン二次電池では、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、発電要素全体を外装体に収容するのが望ましい。外装体としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができほか、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた発電要素を覆うことができる袋状のケースを用いることができる。ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0083】
[電池の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。
【0084】
(1)負極活物質層の形成工程
負極活物質層の形成方法は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池について公知の方法を好ましく使用することができる。具体的には、まず、負極活物質ならびに必要に応じて結着剤、導電剤および電解質などを含む電極材料をスラリー粘度調整溶媒に分散して、負極活物質スラリーを調製する。
【0085】
この際、後述する(3)積層体の作製工程において使用する正極活物質の容量の1.1倍超の容量に相当する量の負極活物質を含むようにする。A/C比を1.1よりも大きくすることができる。より具体的には、(1)負極活物質層の形成工程および(3)積層体の作製工程において、A/C比が所望の範囲となるように、負極活物質および正極活物質の塗布量を調節すればよい。
【0086】
スラリー粘度調整溶媒としては、特に制限されることはないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどが挙げられる。スラリーはホモジナイザーまたは混練装置などを用いて溶媒および固形分よりインク化される。活物質ならびに必要に応じて結着剤、導電剤および電解質などの電極材料を混合・分散する順序は特に制限されない。これらの電極材料を同時に混合・分散してもよいし、原料成分の種類毎に段階的に混合・分散するようにしてもよい。
【0087】
次いで、負極活物質層を形成するための集電体を準備し、上記で調製したスラリーを、集電体の表面(片面または両面)に塗布し、塗膜を形成する。スラリーを集電体に塗布するための塗布手段は特に限定されないが、例えば、自走型コーター、ドクターブレード法、スプレー法、インクジェット法などの一般に用いられる手段が採用されうる。
【0088】
続いて、集電体の表面(片面または両面)に形成された塗膜を乾燥させる。これにより、塗膜中の溶媒が除去される。塗膜を乾燥させるための乾燥手段も特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、加熱処理が例示される。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、スラリーの塗布量やスラリー粘度調整溶媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。得られた乾燥物をプレスすることにより、集電体の表面(片面または両面)に負極活物質層が形成される。プレス手段については、特に限定されず、従来公知の手段が適宜採用されうる。プレス手段の一例を挙げると、カレンダーロール、平板プレスなどが挙げられる。
【0089】
(2)リチウムプレドープ層の形成工程
続いて、負極活物質層の表面にリチウムを含むリチウムプレドープ層が形成された負極前駆体を作製する。負極前駆体は、後述するリチウムドープ工程においてリチウムプレドープ層中のリチウムが負極活物質層にドープされることにより、負極となる。
【0090】
リチウムプレドープ層は負極活物質層の表面に形成すればよい。負極前駆体は負極集電体上に形成された負極活物質層の表面に金属リチウムを含むリチウムプレドープ層が形成された構造を有する。本実施形態では、後述するリチウムドープ工程においてリチウムプレドープ層中のリチウムが負極活物質層にドープされ、負極が得られる。この際、リチウムプレドープ層中のリチウムの量を調整することにより、負極活物質へのリチウムイオンのドープ容量を所望の範囲に調整することができる。
【0091】
本実施形態では負極の容量が正極の第二平坦部の末端より大きくなるように負極をプレドープする。すなわち、放電により正極が第二平坦部の終点に至ったときに負極の容量が残存するように負極にプレドープするための金属リチウムの量を調整すればよい。
【0092】
上述のように、リチウムプレドープ層は、リチウムを含んで構成され、後述するリチウムドープ工程において負極活物質層にドープするためのリチウム(イオン)の吸蔵層として機能する。リチウムプレドープ層を構成するリチウム(リチウム源)としては、負極活物質へのドープが可能であれば特に制限されないが、金属リチウムまたはリチウム合金であることが好ましい。リチウム合金としては、(a)負極活物質の項で説明したリチウムと合金化する元素の単体、これらの元素を含む酸化物および炭化物等のリチウム合金を好ましく使用することができる。リチウムプレドープ層の形態も特に制限されず、リチウム金属箔をそのまま使用してもよいし、リチウム粒子やリチウム合金粒子の集合体を使用してもよい。リチウム粒子とは、金属リチウムが微細に粉砕されたリチウムの粉末を意味する。なお、リチウム粒子の形状は特に制限されず、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうる。
【0093】
リチウムプレドープ層の形成方法は特に制限されない。例えば、リチウム箔を負極活物質層の表面に配置する(貼り付ける)方法、リチウム粒子を負極活物質層の表面に塗布する方法、リチウム蒸着膜を負極活物質層の表面に転写する方法、リチウム化合物を還元する方法、電気化学的手法により負極活物質層の表面にリチウム膜を形成する方法、などが挙げられる。
【0094】
リチウムプレドープ層の厚さやサイズ(面内方向の大きさ)は、負極活物質へドープするリチウムの容量が所望の範囲となるように調整すればよい。一例を挙げると、リチウムプレドープ層の厚さは1〜100μm程度である。
【0095】
上記工程により、負極活物質層の表面に金属リチウムを含むリチウムプレドープ層が形成された負極前駆体が得られる。
【0096】
なお、集電体上に形成された負極活物質層の表面にリチウムプレドープ層を形成してもよいが、例えば、集電体と負極活物質層との間にリチウムプレドープ層を形成してもよい。この場合には、上記の負極活物質層の形成工程において、集電体上にリチウムプレドープ層を形成し、リチウムプレドープ層の表面に負極活物質層を形成すればよい。
【0097】
(3)積層体の作製工程
上記で得られた負極前駆体と正極とを電解質層を介して積層させ、積層体を作製する。
【0098】
まず、正極を作製する。正極の作製方法は特に限定されず、リチウムイオン二次電池について公知の方法を好ましく使用することができる。具体的には、負極活物質層の形成と同様にして、正極活物質ならびに必要に応じて結着剤、導電剤および電解質などを含む電極材料をスラリー粘度調整溶媒に分散して、正極活物質スラリーを調製する。そして、負極活物質層の形成と同様にして、正極活物質スラリーを集電体上に塗布して乾燥させた後にプレスすることにより、集電体の表面(片面または両面)に正極活物質層が形成された正極が得られる。
【0099】
次いで、正極または負極前駆体を、セパレータ(電解質層に相当)を介して正極活物質層とリチウムプレドープ層または負極活物質層とが対向するように積層させることにより積層体を作製することができる。
【0100】
そして、正極、負極前駆体のそれぞれに集電板および/またはリードを接続し、集電板またはリードが導出するように、積層体をアルミニウムのラミネートフィルムバッグに収容する。その後、注液機により電解液を注液して、減圧下で端部をシールして電池とする。
【0101】
(4)リチウムドープ工程
続いて、リチウムプレドープ層の金属リチウムを負極活物質にドープすることにより負極前駆体を負極に変換する。具体的には、電解液の注液により、リチウムプレドープ層内のリチウムが負極活物質にドープされる。なお、リチウムプレドープ層が金属リチウムから構成される場合、すなわち、リチウムプレドープ層がリチウム元素のみから構成される場合には、リチウムのドープ後にはリチウムプレドープ層が消失し、負極前駆体は負極へと変換される。一方、リチウムプレドープ層がリチウム合金のようにリチウム元素以外の材料を含んで構成される場合には、リチウムのドープ後においてもリチウムプレドープ層(例えば、リチウム合金の場合にはリチウムと合金化する元素)が残存する。これにより、リチウムイオンがドープされた負極活物質を含む負極活物質層を有するリチウムイオン二次電池が得られる。
【0102】
(エージング工程)
上記工程により得られた電池(発電要素)は、好ましくは所定の時間エージングされる。当該処理は1回のみ行われてもよいし、複数回行われてもよい。エージング工程を実施することにより、活物質層における単位面積当たりのリチウム量を均一化することができ、信頼性の向上した電池が得られる。
【0103】
エージングの温度は、リチウム量の均一化のために必要な時間(エージング時間)を短縮する点で好ましくは20〜80℃、より好ましくは40〜60℃である。また、エージング時間は、リチウムのドープ量により異なるが、通常24〜120時間程度である。
【0104】
上記では電解質が液体電解質である場合の積層型電池を例に挙げて説明したが、ゲル電解質や真性ポリマー電解質を用いた場合についても、公知の技術を参照して実施可能であり、ここでは省略する。
【0105】
[電気自動車]
上述したリチウムイオン二次電池10は、電気自動車の駆動用電源として用いられる。リチウムイオン二次電池10は、例えば、自動車ならばハイブリッド車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いられうる。これにより、高寿命で信頼性の高い電気自動車が提供されうる。
【0106】
以上、本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置について説明したが、本実施形態は以下の効果を奏する。
・リチウムイオン二次電池の電池容量が減少し電池の出力電圧が低下して所定値となってもさらに電池の放電を可能とする。これにより、電気自動車を必要に応じてさらに走行させ所望の位置まで移動させることができる。
・さらに、負極の放電カーブの平坦部の末端が正極の放電カーブの第二平坦部の末端より右に位置させる。これにより、通常の放電が終了し、正極の第二平坦部の容量を利用した放電を実施するときであっても、電池の電極間電位差の低下による放電の終了は正極の放電カーブの電位規制となる。そのため、電池容量が劣化しても通常の放電後の放電容量を大きく保つことができる。
【実施例】
【0107】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例により説明する。ただし、本発明が以下に説明される実施例に限定されるものではない。
【0108】
[評価方法]
各種負極電極を作成し、LiMnを対極としたラミネート電池に組み込み、充放電サイクル特性の評価を実施した。
【0109】
25℃雰囲気下にて、電池の電圧が2.5Vから4.2V間で充放電サイクルテストを実施した。充放電の電流密度は0.5mA/cmとした。
【0110】
[実施例1〜3]
(a)正極スラリーの調整
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)溶液(溶媒はN−メチル−2−ピロリドン(NMP))を用いてLiMn:カーボンブラック:PVdFの組成比を84:10:6として正極スラリーを調整した。
【0111】
(b)負極スラリーの調整
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)溶液(溶媒はNMP)を用いてMAG−D:カーボンブラック:PVdFの組成比を90:2:8として負極スラリーを調整した。
【0112】
(c)電極の作製
ドクターブレードを用いて、正極スラリー、負極スラリーをそれぞれアルミ箔、銅箔上にスラリーを塗布し、乾燥して電極を作製した。このようにして作製した電極を打ち抜き、プレスした。
【0113】
(d)リチウムプレドープ
リチウムプレドープを施すセルにのみ、厚さ30μmのリチウム箔を必要量だけ負極上に載置し、プレスした。
【0114】
(e)電池作製
上記の正極と負極、ポリエチレン製多孔質フィルムを積層した。この積層体を外装体に載置、電解液を注液し、封口することにより電池を作製した。電池作製後、リチウムを負極にドープさせるため、60℃で3日間エージングした。
【0115】
(f)電解液
1M LiPF+EC/DEC=4/6を用いた。
【0116】
[比較例1〜2]
リチウムプレドープを行なわないことを除いて実施例と同様のセルを作製した。
【0117】
[セル構成]
実施例および比較例のセル構成は、下記表1の通りとした。
【0118】
【表1】

【0119】
[評価結果]
下記表2に評価結果を示す。
【0120】
【表2】

【0121】
表2は、セルの電極電位差が2.75Vとなったときおよび2.5Vとなったときの放電容量の評価結果をそれぞれ示したものである。ここで、放電容量は、比較例1のセルの電極電位差が2.75Vとなったときの容量を100とした場合の相対値である。
【0122】
表2によれば、セルの電極電位差が2.75Vのときと2.5Vのときの放電容量の差は、実施例1〜3はそれぞれ6、15、41である。これらの放電容量の差に相当する容量は、セル放電時においてセルの下限電圧のリミットを緩和することで電気自動車の走行に利用できる。従って、本発明の実施形態を実施することによる再放電により電気自動車は十分走行できることが実証された。
【0123】
一方、比較例1〜2は、セルの電極電位差が2.75Vのときと2.5Vのときの放電容量の差はそれぞれ2であり、再放電によっても電気自動車は走行できない。
【符号の説明】
【0124】
1 電気自動車の制御装置、
10 リチウムイオン二次電池、
11 電圧センサ(電位差検出手段)、
12 コントローラ(判断手段、放電制御手段)、
13 電流センサ、
14 インバータ、
15 モータ、
20 発電要素、
21 外装材、
30 単電池層、
31 正極活物質層、
32 負極活物質層、
33 集電体、
34 電解質層、
35 積層型電池用電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電カーブで第一平坦部と第二平坦部とをもつ材料を有する正極と、放電により前記正極が前記第一平坦部の終点に至ったとき容量が残存する負極と、を有するリチウムイオン二次電池と、
前記正極と前記負極との電位差を検出する電位差検出手段と、
前記電位差検出手段が検出した前記電位差が所定値となったとき、前記リチウムイオン二次電池の放電がさらに必要かどうか判断する判断手段と、
前記判断手段が放電がさらに必要と判断したとき、または、人による放電の指示があるときは前記正極の前記第二平坦部を使用して放電を行い、前記判断手段が前記放電が必要でないと判断したとき、または、人による放電の指示がないときは放電を終了する放電制御手段と、
を有することを特徴とする電気自動車の制御装置。
【請求項2】
前記負極は、放電により前記正極が前記第一平坦部の終点に至ったとき容量が残存するようにリチウムがプレドープされたことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車の制御装置。
【請求項3】
前記負極は、放電により前記正極が前記第二平坦部の終点に至ったとき容量が残存することを特徴とする請求項1に記載の電気自動車の制御装置。
【請求項4】
前記負極は、放電により前記正極が前記第二平坦部の終点に至ったとき容量が残存するようにリチウムがプレドープされたことを特徴とする請求項2または3に記載の電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−65474(P2012−65474A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208363(P2010−208363)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】