説明

電気自動車の車体構造

【課題】インバータのメンテナンスを容易にする。
【解決手段】車両のフレームFの床面よりも上に座席Sを備えるようにし、走行用モータ34に電力を供給するバッテリ51と、前記走行用モータ34用に電力を変換するインバータ50とを、車両のフレームFの床面よりも下に収納するようにした電気自動車の車体構造において、前記バッテリ51を前記座席Sよりも前方に、前記インバータ50を前記座席の直下に配置する電動自動車の車体構造とした。バッテリを座席よりも前方に、インバータを座席の直下に配置したことにより、座席を取り外すことで、インバータが床面を通じて上方に露出させることができ、インバータのメンテナンスを容易にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車の車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の車輪(操舵輪)を動作させる転舵装置として、例えば、図9に示すものがある。この転舵装置は、操舵アクチュエータによって動作するものである。
すなわち、操舵アクチュエータとしてのモータ1から、ボールネジ機構2を駆動することによって、車幅方向のねじ軸3に対してナット軸4をその軸方向に進退させるようになっている。このナット軸4の進退により、操舵リンク機構7のタイロッドアーム5を経てナックルアーム6を車幅方向に押し引きし、車幅方向両側の車輪8に操舵角を与える構成である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年の電動自動車では、走行用駆動手段としての電動モータを、前輪や後輪、あるいは、前後輪の車輪にそれぞれ備えたインホイールモータ車が知られている。インホイールモータ車では、各車輪が走行用駆動手段としての走行用モータを備えている。
【0004】
このインホイールモータ車において、走行用モータは、一般に、各車輪のホイール内側の空間に収容される。また、ホイール及びインホイールモータは、車体のフレームから引き出されたロアアームとアッパアームとによって支持されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ところで、インホイールモータ車に用いられるインホイールモータ車用転舵装置として、本件出願人は、特願2010−187805において、ホイールハウスに収まるコンパクトな構造を提案している。
【0006】
このインホイールモータ車用転舵装置は、アッパアームに設けた上下方向の転舵軸周りに固定ギヤを配置し、ホイール側には、各ホイール毎に転舵アクチュエータを配置している。
【0007】
例えば、図8(a)(b)に示すように、転舵アクチュエータ10の駆動軸11は、ギヤケース12に支持されたピニオンギヤ13に連結されており、そのウォーム13が、転舵軸20側のウォームホイール21に噛み合っている。ウォームホイール21は転舵軸20に固定であり、且つ、ギヤケース12に対してフリーである。また、ギヤケース12は、ホイール連結部材14を介して車輪8のホイールwに固定されている。
【0008】
転舵アクチュエータ10の駆動力によりウォーム13が回転すると、そのウォーム13はウォームホイール21側から反力を受けて、ギヤケース12とともに転舵軸20周りを回転する。車輪8は、ホイール連結部材14、ギヤケース12、転舵アクチュエータ10等とともに転舵軸20周りを回転し、一定の操舵角αが与えられる。
【0009】
また、一般的な電気自動車では、走行用モータ34は、走行用駆動手段コントローラ装置(モータ制御部)によりその駆動が制御される。すなわち、その走行用駆動手段コントローラ装置を介して、運転者が行うアクセル操作に連動して、その走行用モータ34の回転方向、回転速度等の駆動が制御される。
【0010】
この走行用駆動手段コントローラ装置は、上位の制御手段となる電気制御ユニット(ECU)から与えられるモータ駆動指令に応じて、走行用モータを制御する装置である。電気制御ユニットは、アクセルの操作量や、その他システムによる補正を勘案してモータ駆動指令を出力する機能を備える。走行用駆動手段コントローラ装置は、インバータを介して電気制御ユニットに接続される。走行用モータ34は、バッテリからインバータを経て供給される電力を駆動エネルギーとしている。
【0011】
逆に、インバータは、走行用駆動手段コントローラ装置によって制御され、バッテリからの出力を、走行用モータに適合する電力の形式に変換する。このインバータは、例えば、走行用モータが3相電流で駆動される同期モータ等からなる場合は、三相交流形式に変換した電力を走行用モータ34に供給する。
すなわち、走行用駆動手段コントローラ装置は、電気制御ユニットから送信される指令信号に相当するトルクを走行用モータ34で出力できるように、インバータを制御して電力を供給させるようにする。
【0012】
なお、従来のインホイールモータ車では、インバータを、例えば、インホイールモータを備えた車輪の近傍にそれぞれ配置したり(例えば、特許文献3参照)、あるいは、駆動輪である前輪や後輪の車軸近傍に配置したものがある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−326459号公報
【特許文献2】特開2006−62388号公報
【特許文献3】特開2007−216932号公報(第11頁第4図)
【特許文献4】特開2008−213774号公報(第11頁第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、走行用モータの出力や仕様によっては、インバータの容量が大きくなり、そのインバータの平面視占有面積が大きくなる場合がある。このように、サイズが大きいインバータを使用しなければならない電気自動車の場合、従来は、例えば、図9に示すように、サイズが大きいインバータ50を車体の前方に、比較的重量の大きいバッテリ51を車体の中心に配置していた。
【0015】
また、インホイールモータ車のように、複数の走行用モータに対応して複数のインバータ50を備えなければならない場合、インバータ50の平面視占有面積は、さらに大きくなる傾向がある。
なぜならば、メンテナンスの都合上、複数のインバータ50を、上下方向に並列して配置するのが好ましくないからである。また、複数のインバータ50を上下方向に並列して配置するには、それに対応する充分な高さの空間が必要となる。特に、小型の電気自動車の場合は、そのような充分な高さの空間を確保することが容易ではないからである。
【0016】
このように、平面視占有面積の大きいインバータ50を車体前方に配置すると、そのインバータ50は、図9に示すように、左右のタイヤハウス上を覆うように配置せざるを得なくなる。このため、車両の重心が高くなってしまうという問題がある。
また、車体前方のスペースは、運転席や助手席の前方に位置し、各種機器類が配置される箇所でもある。このため、その機器類が支障して、インバータ50のメンテナンスが煩雑であるという問題もある。
【0017】
そこで、この発明は、インバータのメンテナンスを容易にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、この発明は、車両のフレームの床面よりも上に座席を備えるようにし、走行用モータに電力を供給するバッテリと、前記走行用モータ用に電力を変換するインバータとを、車両のフレームの床面よりも下に収納するようにした電気自動車の車体構造において、前記バッテリを前記座席よりも前方に、前記インバータを前記座席の直下に配置したことを特徴とする電気自動車の車体構造を採用した。
【0019】
インバータが座席の直下であれば、座席を取り外すことで、インバータを床面を通じて上方に露出させることができる。このため、インバータのメンテナンスを容易にすることができる。
なお、車両のフレームは、その一部がインバータの直上を通過していても差し支えないが、インバータの修理・調整・取り替え等の各種メンテナンス作業を阻害しないように、フレームは、インバータの直上をできる限り通過しない構成とすることが望ましい。
【0020】
この構成において、少なくとも車体前方の左右の車輪に、それぞれ前記走行用モータとしてのインホイールモータと転舵手段とを備え、前記バッテリーは、前記車体前方の左右の車輪のタイヤハウス間に配置される構成を採用することができる。
【0021】
すなわち、一般に、バッテリはインバータと比較してサイズが小さいので、平面視占有面積も相対的に小さくて済む。このため、車両の前方寄りのスペースのうち、特に、車輪のタイヤハウス間に収めることも可能である。
このとき、前記転舵手段が、前記車輪を少なくとも90度以上の角度で転舵可能である構成である場合、タイヤハウスの大きさは、車体前後方向、車体幅方向へともに大きくなる。このような場合にも、インバータを車体の中央に配置したことで、そのタイヤハウス間の幅の狭い空間を、バッテリの配置スペースとして活用できる。
【0022】
なお、重量の大きいバッテリを、車両の座席よりも前方に配置したことで、車両の前方に重心が移動し、走行用モータを備えた駆動輪へ加わる荷重が大きくなる。このため、車輪から路面へのトラクションの伝達性能を向上させることができる。
【0023】
前記車輪を少なくとも90度以上の角度で転舵可能とする転舵手段とは、ホイールw側に設けた転舵アクチュエータによって、ホイールを、車体側に設けた転舵軸周りに回転させることで転舵する構成を採用することができる。
具体的には、前記転舵手段は、車両のフレームから引き出されたアッパアームに設けた上下方向の転舵軸周りにウォームホイールを配置し、前記車輪のホイールにはホイール連結部材を介してギヤケースを固定し、そのギヤケースに転舵アクチュエータを配置して、その転舵アクチュエータの駆動軸を前記ギヤケースに支持されたウォームに連結してそのウォームを前記ウォームホイールに噛み合わせて構成され、前記転舵アクチュエータによる前記駆動軸の回転により、前記ウォームが前記ギヤケースとともに前記転舵軸周りを回転して前記車輪を転舵する構成が挙げられる。
【0024】
また、これらの各構成において、前記転舵手段用の制御手段を備える転舵ドライバは前記左右の車輪毎に別々に設けられ、左の車輪に対応する転舵ドライバは前記インバータの車体幅方向左側に隣接して配置され、右の車輪に対応する転舵ドライバは前記インバータの車体幅方向右側に隣接して配置される構成を採用することができる。
転舵ドライバは、対応する転舵手段にできるだけ近い所に配置するのが望ましく、また、タイヤハウス内よりも車体側に設ける方が、走行時における雨水や泥の浸入を防ぎやすい。したがって、転舵ドライバを車体側に設けることとし、その転舵ドライバをインバータの側方(車体幅方向外側)の空間を利用して左右別々に配置すれば、車両全体の重量バランスがよくなる。また、この位置であれば、インバータのメンテナンスに転舵ドライバが支障することもない。
【0025】
これらの各構成において、前記インバータは、前記各車輪が備えるインホイールモータに対応して複数設けられ、その複数のインバータは、車体幅方向に並列して配置される構成を採用することができる。複数のインバータを配置する場合は、それらを車体前後方向に並列して配置することも可能であるが、このように車体幅方向に配置する方が、インバータのメンテナンス上有利である。座席を取り外せば、車体の幅方向両側のどちらからでも、メンテナンスができるからである。
また、特に、2人乗り以上の電気自動車の場合は、座席は車体幅方向に並列して設けられる場合が多いので、座席の占有場所とインバータの占有場所とを合致させやすい。このため、座席を取り外せばインバータ全体を露出させることが簡単に可能である。
【0026】
これらの各構成において、車両は車体前後に左右の車輪を備える四輪車であり、前記インホイールモータは全ての前記車輪に設けられている構成とすることができる。また、前記転舵手段は全ての前記車輪に設けられている構成とすることができる。
【0027】
全輪にインホイールモータが備えられている場合、インバータはその全輪に対応して複数設けられる。このとき、車体右側の車輪のインホイールモータに対応するインバータは車体右寄りに、車体左側の車輪のインホイールモータに対応するインバータは車体左寄りに配置されることが望ましい。同じく、全輪に転舵手段が備えられている場合、転舵ドライバはその全輪に対応して複数設けられる。このとき、車体右側の車輪に対応する転舵ドライバは車体右寄りに、車体左側の車輪に対応する転舵ドライバは車体左寄りに配置されることが望ましい。
【発明の効果】
【0028】
この発明は、バッテリを座席よりも前方に、インバータを座席の直下に配置したことにより、座席を取り外すことで、インバータを床面を通じて上方に露出させることができ、インバータのメンテナンスを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)〜(d)は、この発明の一実施形態の四輪車の各車輪の操舵状態と、機器類の配置状態を示す模式図
【図2】(a)(b)は、機器類を取付けた車体のフレームを示す斜視図
【図3】同実施形態の電気自動車の分解斜視図
【図4】機器類を取付けた車体のフレームを示し、(a)は左側面図、(b)は平面図、(c)は右側面図、(d)は正面図、(e)は底面図
【図5】車体のフレームを示し、(a)は左側面図、(b)は平面図、(c)は右側面図、(d)は正面図、(e)は底面図
【図6】車輪の転舵手段の詳細を示し、(a)は正面図、(b)は側面図
【図7】電気自動車の制御系統を示すブロック図
【図8】インホイールモータ車の転舵時の作用を示す説明図で、(a)は平面図、(b)は正面図
【図9】従来例の模式図
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態は、走行用駆動手段(走行用モータ)34としてのインホイールモータ(以下、インホイールモータ34と称する)を、各車輪8にそれぞれ備えた電気自動車の車体構造に関するものである。この実施形態の車両は、前後輪の全ての車輪8にインホイールモータ34及び転舵手段33が設けられている。すなわち、全ての車輪8が駆動輪及び操舵輪となっている。
【0031】
図1に、この実施形態における車輪8の操舵例を示す。図1(a)は、図中左側に示す左右の前輪を、運転席から見て左方向に操舵した状態である。図1(b)は、同じく右方向に操舵した状態である。図1(c)は、全輪を車体の中心から放射状に向けたパーキング状態である。
図1(d)は、全輪を車体の中心周りに形成される仮想円周の接線方向に沿って操舵した状態である。全ての車輪8を仮想円周に沿って同方向に駆動すれば、車体はその場に留まりながら、360度回転することが可能である。各車輪8の駆動方向を別々に制御出来るインホイールモータ34を搭載しているので、このような動作が可能である。
【0032】
このように、転舵手段33は、各車輪8のホイールwを少なくとも90度以上の角度で転舵可能とするものである。その構成は、前述の図8に示す構成と同様、ホイールw側に設けた転舵アクチュエータ10によって、ホイールwを、車体側に設けた転舵軸20周りに回転させることで転舵する構成を採用している。
【0033】
インホイールモータ34は、図6に示すように、各車輪8のホイールwのリム内側の空間に収容される。また、そのリム内側には、ホイールwを制動する制動手段35が組み込まれている。なお、装置を動作させるための配線類は、その一部を図示省略している。ホイールwにはタイヤが嵌められている。
【0034】
インホイールモータ34は、そのインホイールモータ34の駆動時に回転しないホイール連結部材14を備える。また、このホイール連結部材14は、車体幅方向内側へ突出するアッパステー14a及びロアステー14bを備える。
【0035】
アッパステー14aは、その先端に設けたアッパジョイント43を介して、アッパアーム41の先端に連結される。また、ロアステー14bは、その先端に設けたロアジョイント44を介して、ロアアーム42の先端に連結される。
これらのアッパジョイント43及びロアジョイント44の中心間を通る直線Kは、サスペンション(図示せず)のキングピン中心線に一致する。この直線Kを、以下、キングピン中心線Kと称する。
【0036】
このように、ホイールw及びインホイールモータ34は、車体のフレームF(図1、図2等参照)に対して、アッパアーム41側のアッパジョイント43、ロアアーム42側のロアジョイント44を介して固定されている。また、制動手段35は、ホイールwに一体回転可能に取付けられている。インホイールモータ34及び制動手段35は、ホイールwの支持軸と同心に配置されている。
【0037】
ホイールwとロアアーム42との接続点であるロアジョイント44は、図6(b)に示すようにインホイールモータ34を避けて、ホイールwよりも内方(車体幅方向中央側)へ距離L1だけオフセットしている。
【0038】
また、この実施形態では、アッパジョイント43は、アッパアーム41と、そのアッパアーム41の先端に取付けられたT字状部材45とによって構成されている。
すなわち、T字状部材45は、水平方向へ伸びる軸状の横部材45aと、その横部材45aの長さ方向中心から突出する軸状の縦部材45bとを備える。横部材45aは、アッパアーム41の先端に設けたブラケットに対して、その向きが車体前後方向へ向くように固定される。また、縦部材45bは、その軸方向が、前記キングピン中心線Kに一致する向きに配置される。
【0039】
ただし、T字状部材45は、横部材45aがブラケットに対して軸周り回転可能に支持されているので、縦部材45bは、車体幅方向に対して揺動可能である。この縦部材45bが、転舵手段33に対応する上下方向の転舵軸20として機能する。
【0040】
転舵手段33の構成は、前述のように、転舵アクチュエータ(モータ)10の駆動軸11は、ギヤケース12に支持されたウォーム13に連結されており、そのウォーム13が、転舵軸20側のウォームホイール21に噛み合っている。ウォームホイール21は転舵軸20に固定であり、且つ、ギヤケース12に対してフリーである。また、ギヤケース12は、ホイール連結部材14を介して車輪8のホイールwに固定されている(前述の図8参照)。
【0041】
転舵アクチュエータ10の駆動力によりウォーム13が回転すると、そのウォーム13はウォームホイール21側から反力を受けて、ギヤケース12とともに転舵軸20周りを回転する。車輪8は、ホイール連結部材14、ギヤケース12、転舵アクチュエータ10等とともに転舵軸20周りを回転し、一定の操舵角αが与えられる。
【0042】
この実施形態の電気自動車の制御系統の構成は、図7に示すブロック図の通りである。
【0043】
すなわち、ホイールw側には、転舵手段33、インホイールモータ34、制動手段35が備えられている。また、その転舵手段33とは別に車体側に設けられた転舵入力手段31、その転舵入力手段31からの入力信号に基づき、前記転舵手段33、インホイールモータ34、制動手段35の操作を制御する制御手段32を備える。転舵入力手段31は、運転席に備えられたステアリング装置の動作を電気信号に変換し、その電気信号を制御手段32に伝達する機能を有する。
【0044】
インホイールモータ34は、走行用駆動手段コントローラ装置36により駆動される。この走行用駆動手段コントローラ装置36を介して、運転者が行うアクセル操作に連動して、インホイールモータ34の回転方向、回転速度、回転角度等の駆動が制御される。なお、インホイールモータ34は、3相電流で駆動される同期モータ等からなる。
【0045】
この走行用駆動手段コントローラ装置36は、上位の制御手段となる電気制御ユニット(ECU)38から与えられるモータ駆動指令に応じて、インホイールモータ34を制御する装置である。電気制御ユニット38は、アクセルの操作量や、その他システムによる補正を勘案してモータ駆動指令を出力する機能を備える。
【0046】
また、インホイールモータ34の駆動に必要な電力は、バッテリ51からインバータ50を経て供給される。インバータ50は、走行用駆動手段コントローラ装置36によって制御され、バッテリ51からの出力を、インホイールモータ34に適合する電力の形式に変換する。
【0047】
制動手段35は、ホイールwの支持軸に取付けられたブレーキディスクと、そのブレーキディスクに当接するブレーキパッドを備えたキャリパー、ブレーキパッドを押圧する制動用電動アクチュエータ等を備える。
【0048】
制動手段35は、制動手段コントローラ装置37によりその制動の開始、解除、制動の強弱の加減等が制御される。この制動手段コントローラ装置37は、前記電気制御ユニット38から与えられる制動指令に応じて、制動手段35を制御する装置である。電気制御ユニット38は、運転者が行うブレーキペダルの操作量や、その他システムによる補正を勘案して制動指令を出力する機能を備える。
【0049】
転舵手段33の転舵アクチュエータ10の動作は、その転舵手段33とは別に設けた転舵入力手段31からの入力信号に基づき、制御手段32がその転舵の開始、終了、転舵角等を制御する。制御手段32は、車体側に設けた転舵ドライバ52に備えられる。
【0050】
この転舵入力手段31からの入力信号は、例えば、パワーステアリングのトルクセンサ出力や、アシストモータの電流値や電気信号が利用できる。この実施形態のように、転舵アクチュエータ10として電動アクチュエータを採用した場合は、後者のアシストモータの電流値や電気信号が利用できる。
【0051】
なお、この実施形態では、制御手段32は、ホイールwが転舵する際の転舵入力手段31からの入力信号に基づいて、そのホイールwに設けた制動手段35の制動を解除又は弛緩する制御を行い、転舵の動作をスムーズに行うことができるようになっている。この制御は、制御手段32からの信号に基づいて、電気制御ユニット38、制動手段コントローラ装置37を通じて行われる。
【0052】
また、この実施形態では、制御手段32は、ホイールwが転舵する際の転舵入力手段31からの入力信号に基づいて、インホイールモータ34の制御も行う。この制御は、制御手段32からの信号に基づいて、電気制御ユニット38、走行用駆動手段コントローラ装置36を通じて行われる。すなわち、制御手段32は、ホイールwが転舵する際に、そのホイールwに設けたインホイールモータ34をその転舵に伴ってホイールwが回転しようとする方向に駆動させ、転舵の動作をスムーズに行うことができるようになっている。
【0053】
車両のフレームFに対する機器類の配置について、以下説明する。
【0054】
車両のフレームFは、図3に示すように、その床面よりも上に座席Sを備えることができるようになっている。座席Sの前方には、ステアリングや運転者が視認する各種メータ類(図示せず)、アクセルペダルやブレーキペダル(図4(d)参照)等を備えることができるようになっている。図中の符号Cは、車体の居室の前後左右及び上方を覆うキャビンである。この実施形態では、乗降口Dは、車体の前方に開口して設けられている。
【0055】
インホイールモータ34に電力を供給するバッテリ51と、そのインホイールモータ34用に電力を変換するインバータ50とは、車両のフレームFの床面よりも下に収納される。図1(a)〜(d)や図2、図3の各図に示すように、バッテリ51は、座席Sよりも前方に、インバータ50は、座席Sの直下に配置される。
【0056】
フレームFは、図4及び図5に示すように、平面視矩形を成し床面を構成する枠状の第1フレームf1と、最も下方に位置する第2フレームf2とを備える。第1フレームf1と第2フレームf2とは、上下方向の複数本の第5フレームf5で支持されている。
【0057】
その第1フレームf1と第2フレームf2とを結ぶように、車体前方側には、第3フレームf3が突出して設けられている。また、車体後方側には第4フレームf4が突出して設けられている。
【0058】
この第1フレームと第2フレームとで挟まれた空間がインバータ50の配置スペースとなっており、第3フレーム内の空間がバッテリ51の配置スペースとなっている。また、第4フレーム内の空間は、インバータ50を冷却するための水ポンプ54、ラジエタ55、水配管ヘッダタンク56の配置スペースとなっている。
【0059】
なお、枠状の第1フレームf1は、車体幅方向に伸びる第6フレームf6と、車体前後方向に伸びる第7フレームf7とによって補強されている。また、第3フレームの前方にはステップ57が突出して設けられている。乗降の際は、このステップ57からバッテリ51の上方に位置する床面を経て、居室内の座席Sに至る。
【0060】
このように、インバータ50が座席の直下であるので、座席Sを取り外すことで、インバータ50を床面を通じて上方に露出させることができる。このため、インバータ50のメンテナンスを容易にすることができる。
なお、車両のフレームFは、その一部がインバータ50の直上を通過していても差し支えないが、この実施形態のように、フレームFが、インバータ50の直上を通過しない構成とすることが望ましい。インバータ50の修理・調整・取り替え等の各種メンテナンス作業を阻害しないからである。
【0061】
なお、電気制御ユニット38は、インバータ50の直上、すなわち、座席Sとインバータ50の間に配置されているが、電気制御ユニット38は軽量であるので、その着脱が容易である。このため、電気制御ユニット38は、インバータ50のメンテナンスには大きく影響しない。必要であれば、電気制御ユニット38は、他の場所に配置してもよい。
また、走行用駆動手段コントローラ装置36や制動手段コントローラ装置37の設置位置は任意であるが、それぞれ、ホイールwの近傍や、あるいは、電気制御ユニット38の近傍等に配置することができる。
【0062】
また、重量の大きいバッテリ51を、座席Sの前方のスペースのうち、特に、前方のタイヤハウスT1,T2間に配置したので、車両の前方に重心が移動し、駆動輪へ加わる荷重が大きくなる。このため、車輪8から路面へのトラクションの伝達性能を向上させることができる。
【0063】
また、この実施形態では、特に、転舵手段33が、車輪8を少なくとも90度以上の角度で転舵するものであり、タイヤハウスTの大きさは、車体前後方向、車体幅方向へともに従来よりも大きく設定されている。さらに、従来のように、車輪8が車体のフレームFから外側に突出する形態ではなく、全て、フレームFの外縁の内側に収まった構成となっている。
このような、タイヤハウスT間の間隔が狭くなった構成において、インバータ50を車体の中央に配置したことで、そのタイヤハウスT間の幅の狭い空間を、バッテリ51の配置スペースとして活用できる。
【0064】
また、インバータ50は、四つの車輪8がそれぞれ備えるインホイールモータ34に対応して二つ設けられている。その二つのインバータ50は、車体幅方向に並列して配置されている。
【0065】
このように、複数のインバータ50を車体幅方向に並列して配置すれば、インバータ50のメンテナンス上有利である。座席Sを取り外せば、車体の幅方向両側のどちらからでも、メンテナンスができるからである。
また、この実施形態のように小型の電気自動車の場合であって、乗員2名に相当する座席は車体幅方向に並列して設けられる場合は、横長の座席の占有場所と横長のインバータの占有場所とを合致させやすい。このため、座席を取り外せばインバータ全体を露出させることが簡単に可能である。
【0066】
また、この実施形態では、転舵手段33用の制御手段32を備える転舵ドライバ52;52a,52bは、左右の車輪8毎に別々に設けられている。
すなわち、左の前後の車輪8に対応する転舵ドライバ52aは、インバータ50の車体幅方向左側に隣接して配置され、右の前後の車輪8に対応する転舵ドライバ52bは、インバータ50の車体幅方向右側に隣接して配置されている。
【0067】
このように、転舵ドライバ52;52a,52bをインバータ50の側方(車体幅方向外側)の空間を利用して左右別々に配置すれば、車両全体の重量バランスがよくなる。また、この位置であれば、インバータ50のメンテナンスに転舵ドライバが支障することもない。
【符号の説明】
【0068】
1 モータ
2 ボールネジ機構
3 ねじ軸
4 ナット軸
5 タイロッドアーム
6 ナックルアーム
7 操舵リンク機構
8 車輪(操舵輪)
10 転舵アクチュエータ
11 駆動軸
12 ギヤケース
13 ウォーム
14 ホイール連結部材
14a アッパステー
14b ロアステー
20 転舵軸(キングピン)
21 ウォームホイール
30 インホイールモータ車用転舵装置
31 転舵入力手段
32 制御手段
33 転舵手段
34 インホイールモータ(走行用駆動手段/走行用モータ)
35 制動装置
36 走行用駆動手段コントローラ装置
37 制動手段コントローラ装置
38 電気制御ユニット(ECU)
41 アッパアーム
42 ロアアーム
43 アッパジョイント
44 ロアジョイント
50 インバータ
51 バッテリー
52、52a,52b 転舵ドライバー
54 水ポンプ
55 ラジエタ
56 水配管ヘッダタンク
57 ステップ
w ホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフレーム(F)の床面よりも上に座席(S)を備えるようにし、走行用モータ(34)に電力を供給するバッテリ(51)と、前記走行用モータ(34)用に電力を変換するインバータ(50)とを、車両のフレーム(F)の床面よりも下に収納するようにした電気自動車の車体構造において、
前記バッテリー(51)を前記座席(S)よりも前方に、前記インバータ(50)を前記座席の直下に配置したことを特徴とする電気自動車の車体構造。
【請求項2】
少なくとも車体前方の左右の車輪(8)に、それぞれ前記走行用モータ(34)としてのインホイールモータと転舵手段(33)とを備え、前記バッテリー(51)は、前記車体前方の左右の車輪(8)のタイヤハウス(T1,T2)間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車の車体構造。
【請求項3】
前記転舵手段(33)は、前記車輪(8)を少なくとも90度以上の角度で転舵可能であることを特徴とする請求項2に記載の電気自動車の車体構造。
【請求項4】
前記転舵手段(33)は、車両のフレーム(F)から引き出されたアッパアーム(41)に設けた上下方向の転舵軸(20)周りにウォームホイール(21)を配置し、前記車輪(8)のホイール(w)にはホイール連結部材(14)を介してギヤケース(12)を固定し、そのギヤケース(12)に転舵アクチュエータ(10)を配置して、その転舵アクチュエータ(10)の駆動軸(11)を前記ギヤケース(12)に支持されたウォーム(13)に連結してそのウォーム(13)を前記ウォームホイール(21)に噛み合わせて構成され、前記転舵アクチュエータ(10)による前記駆動軸(11)の回転により、前記ウォーム(13)が前記ギヤケース(12)とともに前記転舵軸(20)周りを回転して前記車輪(8)を転舵することを特徴とする請求項3に記載の電気自動車の車体構造。
【請求項5】
前記転舵手段(33)用の制御手段(32)を備える転舵ドライバー(52a,52b)は前記左右の車輪(8)毎に別々に設けられ、左の車輪(8)に対応する転舵ドライバー(52a)は前記インバータ(50)の車体幅方向左側に隣接して配置され、右の車輪(8)に対応する転舵ドライバー(52b)は前記インバータ(50)の車体幅方向右側に隣接して配置されることを特徴とする請求項3又は4に記載の電気自動車の車体構造。
【請求項6】
前記インバータ(50)は、前記各車輪(8)が備えるインホイールモータに対応して複数設けられ、その複数のインバータ(50)は、車体幅方向に並列して配置されることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一つに記載の電気自動車の車体構造。
【請求項7】
前記車両は車体前後に左右の車輪(8)を備える四輪車であり、前記インホイールモータは全ての前記車輪(8)に設けられていることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一つに記載の電気自動車の車体構造。
【請求項8】
前記車両は車体前後に左右の車輪(8)を備える四輪車であり、前記転舵手段(33)は全ての前記車輪(8)に設けられていることを特徴とする請求項2乃至7のいずれか一つに記載の電気自動車の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−112168(P2013−112168A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260305(P2011−260305)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】