説明

電気自動車用モーター用結束紐

【課題】結束されたモーター部品の傷付きが少なく、結束時の締め付け性も高く、高温耐油性能が高い、電気自動車用モーター用結束紐を提供する。
【解決手段】電気自動車用モーター用結束紐であって、融点または分解温度が280℃以上の合成繊維のステープルファイバーからなる紡績糸で、24打ち以上のスリーブ状に製紐されている、高温耐油性能が、50%以上であることを特徴とする。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
前記式において、Tは、処理前の前記結束紐の引張強さ、T’は、処理後の前記結束紐の引張強さ。前記引張強さとは、JIS L1013−8.5.1法における引張強さ、前
記処理とは、前記結束紐の全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルードの混合物中に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持されるよう前記容器を加温する処理。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車用モーター用結束紐に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車の排出ガスに含まれる有害物質低減の取り組みと、低燃費化の両立が要請されている。近年では、更に地球規模での環境負荷低減の要請がなされている。このような背景から電気自動車の開発が活発に研究、開発されている。現在、開発が進められている電気自動車としては、高容量二次電池を搭載したピユア電気自動車(PEV)、ガソリンエンジンと高出力二次電池などを組み合わせたハイブリッド自動車(HEV)、燃料電池を搭載した燃料電池車(FCV)、更には、燃料電池と高出力二次電池などを組み合わせた燃料電池ハイブリッド自動車(FCHEV)などがある。いずれにおいても、高効率なモーターの開発が必要になっている。前記モーターとしては、駆動用、発電用、充電用などがある。これらモーターには、高効率化の外に、走行安定性の面から品質の安定化も強く望まれている。特に、電気自動車用モーターとしては、一般的な自動車用モーターに比べ、優れた高温耐油性能が求められている。電気自動車用モーターは、効率を良くするため、ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード)中に存在する必要がある。ATFは高温になる場合があるので、前記モーターには、ATF中での高温耐熱性が要求される。その他、前記モーターの部品には、均質な性能を有する材料の開発が要請されている。
【0003】
従来からポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維のフィラメント糸を電気絶縁材料に使用することが、提案されている(特許文献1〜3参照)。また、高温耐油性能に優れたマルチフィラメントからなる8打ち以上のチューブ状扁平の電気自動車用モーター結束紐が提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平8−13300号公報
【特許文献2】特開平10−273825号公報
【特許文献3】特開2001−248075号公報
【特許文献4】特開2004−176242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の電気絶縁材料から製造された結束紐は、結束時の潤滑性が低いことから、前記結束紐を用いると、結束されたモーター部品、例えばコイルが傷付き易いという問題があった。さらに、そのような結束紐を用いると、ATF中における耐熱性が低いという問題があった。加えてそのような結束紐は剛軟度が高いため、結束する際に結束紐が硬く、締め付け性にも問題があった。別の提案として、従来からポリエチレンテレフタレート(PET)製の角8打ち紐が結束紐として使用されていた。しかし、PET製の結束紐は、高温耐油性能に問題があるうえ、剛軟度が高く、結束する際に結束紐が硬くて、締め付け性に問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、前記のような高温耐油性能に優れたマルチフィラメントからなる8打ち以上のチューブ状扁平の電気自動車用モーター結束紐が提案された。この電気自動車用モーター結束紐は、結束されたモーター部品の傷付きが少なく、結束時の締め付け性も高く、高温耐油性能が高い。従って、前記問題点を解決するものである。本発明は、さらに結束時の締め付け性が向上した前記電気自動車用モーター結束紐を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の電気自動車用モーター用結束紐は、
融点または分解温度が280℃以上の合成繊維のステープルファイバーからなる紡績糸で、24打ち以上のスリーブ状に製紐されている、
高温耐油性能が、50%以上である電気自動車用モーター用結束紐である。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
前記式において、Tは、処理前の前記結束紐の引張強さを意味し、T’は、処理後の前記結束紐の引張強さを意味する。
前記引張強さとは、JIS L1013−8.5.1法における引張強さを意味する。
前記処理とは、前記結束紐の全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルードの混合物中に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持されるよう前記容器を加温する処理を意味する。
【0007】
前記高温耐油性能は、油中高温処理の前後の引張強さを比較するものである。この数値が100%に近いことは、前記電気自動車用モーター用結束紐に高温処理をしても引張強さが変化しない、従って前記電気自動車用モーター用結束紐は高温耐油性能に優れることを意味する。
【0008】
さらに、高温処理は、オートマチック・トランスミッション・フルードと水との混合物中で行われることから、前記高温耐油性能が高いことは、前記結束紐が加水分解にも耐性があることを意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気自動車用モーター用結束紐は、結束されたモーター部品の傷付きが少なく、結束時の締め付け性もさらに高く、高温耐油性能が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の電気自動車用モーター用結束紐のモーター部品は、電気自動車用モーターを構成する部品を意味し、例えば、コイル、ワイヤー、スリーブなどである。本発明の電気自動車用モーター用結束紐は、そのようなモーター部品を結束することにより、前記電気自動車用モーターの製造に用いることができる、組紐状の結束紐である。また、本発明の電気自動車用モーター用結束紐は、紡績糸を用いて製紐されているため、得られた結束紐の表面粗さが、マルチフィラメント糸を用いて製紐した場合よりも向上している。そのため、本発明の結束紐は、結び目が解けにくいという優れた効果を奏する。
【0011】
さらに、本発明の結束紐は、スリーブ状であるため、モータ部品を結束する際にスリーブが潰れて表面積が増加し、さらに結束紐の表面粗さが向上する。そのため、本発明の結束紐は、モータ部品を手で縛るのに適する。ここで、モータ部品の例えばモータステータは、ばらけ防止、小型化、絶縁距離を確保する等の目的のため、コイルエンドを波巻き、重ね巻きなどの巻き線方式で結束紐を用いて縛り上げることがある。この縛りは、大量生産のためには機械を用いて縛るのが主流であるが、機械を用いて縛るためには、ステータ端面とコイルエンドとの間に機械を差し込むための空隙を空ける必要がある。従って、機械を用いて縛ると、コイルエンドの高さを限界まで下げることが困難である。一方、縛りを手で行うと、前記空隙を空ける必要がないため、コイルエンド高さを限界まで下げることが可能である。従って、本発明の結束紐が、モータ部品を手で縛るのに適すると、コイルエンドの高さを抑制し、その結果、コイルエンドの体積が膨らむのを抑制できる。従って、モータステータを搭載するモータの重量および巻き線抵抗の低下を図ることができ、その結果、モータの性能を向上させることができる。
【0012】
また、本発明の電気自動車用モーター用結束紐は、スリーブ状であるため、結束されるモータ部品表面の一部分のみに負荷が集中せず、その結果、モータ部品が絶縁性であってもその負荷を低減できる。なお、本発明の電気自動車用モーター用結束紐は、特に、電気自動車に用いる永久磁石式モータのコイルエンドを結束するのに適する。
【0013】
本発明の電気自動車用モーター用結束紐は、例えば、図2に示すようなモータの固定子において、コイルを結束するために用いることができる。図2中、モータの固定子は、例えば三相モータの固定子であり、固定子コア1と、固定子コア1の内周側に形成された複数のスロット2に収納された各相のコイル3と、各相のコイル3を外部の電源供給端子と接続するためのワイヤー4と、各ワイヤー4を包囲するワイヤー用絶縁チューブ5とを有している。なお、図2において、6はコイル3を結束するための結束紐、7はサーモスタット用絶縁チューブ、8はスロットライナー、9はウエッジ、10は相間紙である。
【0014】
前記ステープルファイバーからなる紡績糸の合成繊維の融点または分解温度は、280℃以上であるが、283℃以上であるのが好ましい。
【0015】
前記ステープルファイバーからなる紡績糸の前記融点または熱分解温度が280℃以上の合成繊維は、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド繊維またはポリエーテルイミド繊維であることが好ましい。前記繊維であれば、前記結束紐の高温耐油性能が高いからである。前記融点または熱分解温度が283℃以上の合成繊維としては、ポリフェニレンサルファイド繊維またはアラミド繊維が挙げられる。前記アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維およびメタ系アラミド繊維が挙げられ、メタ系アラミド繊維が好ましい。
【0016】
前記結束紐は、24打ち以上であるが、24打ち以上48打ち以下であるのが好ましい。24打ち以上48打ち以下の前記結束紐であれば、充分な強力が得られ、かつ耐久性が高いからである。前記結束紐は、24、32、36、または40打ちであるのがより好ましい。紐の太さが大きすぎず、かつ良好な作業性も得られるからである。本発明の前記結束紐は、例えば、中心部が空洞で、容易に動くことができる繊維で組紐に組まれているので、柔軟である。従って、前記結束紐は潤滑性が高く、前記結束紐を用いたときに、結束されたモーター部品は傷付きにくい。
【0017】
前記高温耐油性能は、50%以上であるが、55%以上であるのがより好ましい。電気自動車において長期に渡って安定に走行できるようなモーターが得られるからである。
【0018】
また前記ステープルファイバーからなる紡績糸の太さは、100dtex以上1000以下の範囲であることが好ましい。前記の範囲であれば、高度な紐の柔軟性が得られ、また作業の効率が上がるからである。前記ステープルファイバーからなる紡績糸の太さは、150dtex以上600dtex以下の範囲であるのが、より好ましい。
【0019】
また、前記紡績糸は、単糸または双糸が好ましい。前記結束紐は、前記紡績糸を単独または複数本、引きそろえて製紐されてもよい。前記紡績糸は、フィラメント糸に比べると強度が低い。しかしながら前記紡績糸は、フィラメント糸と比較して糸と糸との間の摩擦が大きく、そのため、前記結束紐を用いて手で結束する際に、糸が滑りにくく、かつ、結束した後も緩みにくい。すなわち、本発明の結束紐は、締め付け性が、フィラメント糸を用いた結束紐の場合より、さらに向上する。その結果、本発明の結束紐を用いてモータ部品として例えばコイルエンドを結束する際、膨張が抑制できてコイルエンドの高さを抑制することができる。また、その結果、本発明の結束紐を用いてモータ部品として例えばコイルエンドを結束する際、巻き線が互いに密着するため、自由に動くことを抑制できる。また、その結果、本発明の結束紐を用いてモータ部品として例えばコイルエンドを手で結束する際、糸が滑りにくいため、手を傷めることを防止できる。
【0020】
また前記結束紐の太さ(JIS L1013−8.3.1(A法)に従い測定)は、7000dtex以上30000dtex以下の範囲であることが好ましい。前記の範囲であれば、結束紐の剛軟度を、結束作業が円滑にできる範囲に保つことができるからである。前記結束紐の太さは、10000dtex以上27000dtex以下の範囲であるのが、より好ましい。
【0021】
また前記結束紐の形状は、チューブ状でかつ偏平状であることが好ましい。このような形状であれば、しっかりした結束作業が可能となる。
【0022】
前記結束紐の引張強さ(JIS L1013−8.5.1に従い測定)は、好ましくは150N以上800N以下、より好ましくは200N以上700N以下である。
【0023】
前記結束紐の伸び率(JIS L1013−8.5.1に従い測定)は、好ましくは20%以上60%以下である。従って、前記結束紐の締め付け性が高く、自動車、特に電気自動車のモーターに用いられると、安定な自動車の走行を実現することが可能である。前記結束紐の伸び率は、より好ましくは30%以上50%以下である。
【0024】
前記結束紐の組ピッチは、18目/インチ以上40目/インチ以下の範囲であるのが好ましい。組ピッチが18目/インチ以上であると、組糸の交差数が適当であり、結束紐の集束性が向上し、ほつれを抑制することが可能だからである。また、組ピッチが40目/インチ以下であると、製紐する速度が適当であり、生産性に問題が生じないからである。前記結束紐の組ピッチは、20目/インチ以上36目/インチ以下の範囲であるのがさらに好ましい。前記組紐の組ピッチとは、1インチ間の組目(山または谷の数)を意味する。
【0025】
前記結束紐が扁平状の場合、前記結束紐の断面の長径は、好ましくは2.0〜5.0mmであり、より好ましくは2.5〜4.5mmである。また、前記結束紐の断面の短径は、好ましくは0.5〜1.5mmであり、より好ましくは0.7〜1.3mmである。
【0026】
前記結束紐は、製紐後に、その表面の少なくとも一部が、毛焼き等の処理をされ、前記表面の毛羽が除去されているのが好ましい。表面毛羽が除去されていると、モーター部品に前記結束紐を用いた際、毛羽の脱落が抑制でき、その結果、オイルが汚れるのを抑制できるからである。前記毛焼きは、例えば、ガスバーナー等の炎の中に、前記紐を短時間(たとえば0.01秒〜0.1秒)通過させることにより、行うことができる。
【0027】
前記結束紐は、製紐後に、樹脂加工されているのが好ましい。前記樹脂加工により、前記結束紐を用いて結束する際、または結束後、前記結束紐からの繊維の毛羽の脱落を抑制することができるからである。前記樹脂加工に使用される樹脂の種類は、電気自動車用モーターの使用条件に耐えられ得る樹脂であれば、特に限定されず、用いることができる。前記樹脂の種類としては、例えば、オレフィン系、酢酸ビニル系、アクリル系、ウレタン系などの樹脂が挙げられる。前記樹脂加工は、前記樹脂を溶媒に溶解または懸濁させた溶液を、前記製紐に塗布、噴霧等により適用し、乾燥させることにより行うことができる。
【0028】
このようにして樹脂加工された結束紐において、前記樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合は、例えば15〜40重量%、好ましくは20〜35重量%である。前記樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合が、15重量%以上であれば、樹脂加工された結束紐において、毛羽押さえ効果が優れているからである。また、前記樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合が、40重量%以下であれば、樹脂加工された結束紐を用いて結束しやすいからである。また、前記樹脂が、酢酸ビニル系の樹脂である場合、前記樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合は、例えば20重量%以上35重量%未満である。前記樹脂が酢酸ビニル系の樹脂である場合、前記樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合が、20重量%以上であれば、樹脂加工された結束紐において、毛羽押さえ効果が優れているからである。また、前記樹脂が酢酸ビニル系の樹脂である場合、前記樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合が、35重量%未満であれば、樹脂加工された結束紐を用いて結束しやすいからである。
【0029】
また、本発明の樹脂加工された結束紐を用いて結束する際の締め付け性は、高い。そのため、モータ部品として例えば、モータステータにおいて、コイルエンドを結束する場合、コイル同士の密着性が高くなる。そしてコイルが緩み体積が膨らむのを抑制できる。そうすると、部品を結束後、結束紐をワニス処理した場合に、結束紐に付着するワニス量が必要最小限となる。結束紐に付着するワニス量が過剰な結束紐を用いて、モータ部品として例えばコイルエンドを結束する際、巻き線間の線膨張差により、巻き線に損傷が発生する場合がある。本発明の樹脂加工された結束紐は、このような損傷発生を抑制することができ、従って、この結束紐を用いて結束されたコイルを含むモータの信頼性が向上する。
【0030】
次に、本発明のモーター用結束紐の製造方法について説明する。本発明のモーター用結束紐の製造方法は、前記合成繊維のステープルファイバーを提供して24打ち以上の製紐機で円筒状になるように製紐して前記モーター用結束紐を得ることを含む。
【0031】
この製造方法で用いる合成繊維のステープルファイバーは、本発明のモーター用結束紐における合成繊維のステープルファイバーと同様である。
【0032】
前記製造方法において、使用する製紐機を適宜選択することにより所望の内径を有するモーター用結束紐を得ることができる。製紐された結束紐は、ボビン巻き、カセ巻き、振り落とし等により引き取り、保管することができる。前記モーター用結束紐は、所望の長さに切断して、モーター用結束紐を得ることができる。前記モーター用結束紐は、製紐後、かつ切断前に熱処理されるのが好ましい。この熱処理により、前記モーター用結束紐は、寸法が安定し、かつ、切断端面のほつれを抑制することができるからである。前記熱処理は、円筒に製紐後、引き続いて行ってもよく、または製紐後、別工程として、連続式もしくはバッチ式で行ってもよい。
【0033】
前記モーター用結束紐は、ハサミ、回転刃等の刃物、ヒートカット等を用いて切断することができる。前記切断された組紐は、切断端面を加熱して溶融させたり、または、前記組紐の開口部の繊維を融着させて、ほつれを防止することができる。
【0034】
前記製造方法において、モーター用結束紐を樹脂加工する工程をさらに含むのが好ましい。前記モーター用結束紐が樹脂加工されていれば、前記結束紐からの繊維の毛羽の脱落を抑制することができるからである。
【0035】
(実施例)
以下実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例における融点または分解温度と電気自動車用モーター用結束紐の高温耐油性能は、以下のようにして測定した。
【0036】
(1)融点または分解温度;DSC法(Differential Scanning Calorimetry:走査型示差熱分析法)を用いて、標準物質とともに試料を10℃/分の上昇温度で加熱し、溶融または分解する温度を測定した。
【0037】
(2)高温耐油性能:長さ60cmの前記結束紐の全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルード(ATF WS(商品名)、エッソ石油(株)製)の混合物(5リットル)中に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持されるよう前記容器を加温した。この処理前の前記結束紐の引張強さ(T)と、処理後の前記結束紐の引張強さ(T’)を、JIS L1013−8.5.1法に準じて測定した。
【0038】
得られた各引張強さを、次の式に導入して、高温耐油性能を求めた。5回測定して得られた値の平均値を算出した。なお、本測定方法においては、ATFとしていずれのATFを用いても良い。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
ここで、T:処理前の前記結束紐の引張強さ
T’:処理後の前記結束紐の引張強さ
【0039】
(3)電気自動車用モーター用結束紐の太さ:JIS L 1013−8.3.1(A法)法に準じて、正量繊度として求めた。すなわち、電気自動車用モーター用結束紐を、棒周1.125mの検尺機を用いて、所定荷重213gf(2.0888N)をかけ、120回/分の速度で巻き返して、所定の糸長90mの小かせをつくり、その質量を測って、見掛繊度を求めた。別途測定した平衡水分率を用いて、次の式により、正量繊度(D)を算出した。試験回数は5回とし、その平均値で表した(小数点以下1けたまで)。
F=D×[(100+RO)/(100+RS)]
ここで、F:正量繊度(tex)
D:見掛繊度(tex)
RO:JIS L 0105の3.1(公定水分率)に規定する公定水分率(%)
RS:平衡水分率(%)
【0040】
(4)電気自動車用モーター用結束紐の引張強さおよび伸び率:JIS L 1013−8.5.1法に準じて求めた。すなわち、電気自動車用モーター用結束紐をゆるく張った状態で、引張試験機のつかみ(試験機の種類:定速伸長形、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分)に取り付けて、試験を行った。初荷重をかけた時の伸びを緩み(mm)として読み、さらに試料を引張り、試料が切断した時の荷重(N)および伸び(mm)を測定し、次の式により引張強さ(N/tex)および伸び率(%)を算出した。試験回数10回試験し、その平均値で表した(引張強さは小数点以下2けたまで、伸び率は小数点以下1けたまで)。
T=SD/F
ここで、T:引張強さ(N/tex)
SD:切断時の強さ(N)
F:試料の正量繊度(tex)
S=「(E2―E1)/(L+E1)]×100
ここで、S:伸び率(%)
E1:緩み(mm)
E2:切断時の伸び(mm)または最高荷重時の伸び(mm)
L:つかみ間隔(mm)
【0041】
(5)電気自動車用モーター用結束紐の目付け(1mあたりの重さ)
標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±2%)で24時間放置したモーター用結束紐を、50cmの長さに切断した。その重量を測定し、2倍乗じて、モーター用結束紐1mあたりの重さを得た。
【0042】
(6)電気自動車用モーター用結束紐の組ピッチ
1インチ角のフレームが付いたリネンテスタ(ルーペ)を用いて、結束紐を観察する。結束紐の、1インチ間の組目(山または谷の数)を半目まで数える。
【0043】
(7)電気自動車用モーター用結束紐の締め付け性
直径0.9mmのコイル用銅線束50本を結束紐を用いて手で縛り、締め易さと締めたあとの固定度合い(戻り)を、以下の5段階評価で示す。
評価5:手縛り性良好で、縛った後の前記結束紐の戻りが無い。
評価4:手縛り性ほぼ良好で、縛ったあとの戻りがわずかである。
評価3:手縛り性は少し良好で、縛ったあとの戻りがあるが、使用可能である。
評価2:手縛り性は不十分で、結びが緩み、実用性不十分である。
評価1:手縛り性不良で、縛った後、結び目が固定されず、緩みが大きい。
【0044】
(8)樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合
樹脂加工前の結束紐の重量(W1)と、樹脂加工後(乾燥後)の結束紐の重量(W2)を測定した。その重量を次の式に導入して、前記割合を求めた。
前記樹脂の割合(重量%)=[(W2−W1)/(W1+W2)]×100
【0045】
(9)樹脂固形分付着量
樹脂加工前の結束紐の重量(W1)と、樹脂加工後(乾燥後)の結束紐の重量(W2)を測定した。その重量を次の式に導入して、前記割合を求めた。
樹脂固形分付着量(重量%)=[(W2−W1)/W1]×100
【0046】
(10)絶縁耐圧試験(BDV)
JIS 3003 10.2b)2個より法に準拠し、BDV試験を実施した。
【0047】
(参考例1)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維(東レ(株)製、(商品名)「トルコン」、融点=285℃)のマルチフィラメント糸(440dtex、100フィラメント、190タイプ)を2本引きそろえ、小巻ボビンに巻いて16本用意した。これを16打ちの製紐機に仕掛け、組紐に製紐し、電気自動車用モーター用結束紐を得た。前記結束紐はチューブ状であるが、外観は扁平楕円状で、長径(幅)2.0mm、短径(厚み)0.5mmであった。この結束紐の高温耐油性能は、91%であった。この結束紐の目付けは0.76g/mであり、組ピッチは18目/インチであり、太さは7600dtexdtexであった。また、この結束紐の引張強さは320N、伸び率は26.3%であった。
【実施例1】
【0048】
PPS繊維(東レ(株)製、商品名「トルコン」、融点=285℃)の20番手紡績糸(糸の太さ:295dtex)を、2本引き揃えて小巻ボビンに巻いて32本用意した。これを丸組織の32打ちの製紐機に仕掛け、突き上げ組紐方式で製紐し、電気自動車用モーター用結束紐を得た。前記結束紐はチューブ状であるが、外観は扁平楕円状で、長径(幅)5mm、短径(厚み)1.2mmであった。この結束紐の高温耐油性能は、86%であった。この結束紐の目付けは2.45g/mであり、組ピッチは32目/インチであり、太さは24500dtexであった。また、この結束紐の引張強さは503N、伸び率は47.1%であった。得られた結束紐の外観を、図1に示す。
【実施例2】
【0049】
実施例1で得られた電気自動車用モーター用結束紐をガスバーナーの炎の中を1m/秒の速度で通過させ、毛焼きした。その後、前記結束紐を、酢酸ビニル系重合体エマルジョン(サイデン化学株式会社製、商品名「サイビノール HSA−50L」)1重量部と水2重量部とを含む樹脂液に浸漬し、前記結束紐を垂直方向に引き上げながら軽くスポンジで絞って80℃で5分間乾燥して樹脂加工した。得られた樹脂加工済み電気自動車用モーター用結束紐において、前記樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合は16重量%であった。また、結束紐の高温耐油性能は、87%であった。この結束紐の目付けは2.714g/mであり、組ピッチは32目/インチであり、太さは27100dtexであった。また、この結束紐の引張強さは501N、伸び率は47.6%であった。
【0050】
実施例1および実施例2で得られた結束紐をそれぞれ用いて電気自動車モータのコイルエンドを手で結束した。実施例1の結束紐は、柔軟で結束時の締め付け性が良く、かつ戻りもなく、束ねたコイルの編組が良好に達成できた。すなわち、実施例1の結束紐は、結束紐を結束する際の張力変動が極めて少なく、結束紐の結束性の安定性が優れていることが確認できた。また、結束することによるコイルへの傷付きは認められなかった。さらに、結束紐は扁平状に重なっており、締め付け製も結束状態も良好であった。実施例2の結束紐は、実施例1の結束紐よりやや硬いが、結束性は良好で緩みはなかった。また、実施例2の結束紐は、実施例1の結束紐より、モーター使用時にオイルへの毛羽落ちが少なかった。また、実施例1および実施例2で得られた結束紐は、比較例1で得られた結束紐より、柔軟で結束時の締め付け性が良く、かつ戻りもなく、束ねたコイルの編組が良好に達成できた。
【実施例3】
【0051】
メタ系アラミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製、(商品名)「コーメックス」、分解温度=400℃)の20番手紡績糸(太さ:295dtex)を、2本引き揃えて小巻ボビンに巻いて32本用意した。これを32打ちの製紐機に仕掛け、突き上げ組紐方式で製紐し、電気自動車用モーター用結束紐を得た。前記結束紐はチューブ状であるが、外観は扁平楕円状で、長径(幅)4.8mm、短径(厚み)1.3mmであった。この結束紐の高温耐油性能は、92%であった。この結束紐の目付けは2.48g/mであり、組ピッチは31目/インチであり、太さは24800dtexであった。また、この結束紐の引張強さは490N、伸び率は47.7%であった。
【0052】
実施例3で得られた結束紐を実施例1と同様にして電気自動車モータのコイルエンドを手で結束した。実施例3の結束紐は、実施例1の結束紐と同程度に柔軟で結束時の締め付け性が良く、かつ戻りもなく、束ねたコイルの編組が良好に達成できた。すなわち、実施例3の結束紐は、結束紐を結束する際の張力変動が極めて少なく、結束紐の結束性の安定性が優れていることが確認できた。また、結束することによるコイルへの傷付きは認められなかった。さらに、結束紐は扁平状に重なっており、締め付け性も結束状態も良好であった。また、実施例3で得られた結束紐は、比較例1で得られた結束紐より、柔軟で結束時の締め付け性が良く、かつ戻りもなく、束ねたコイルの編組が良好に達成できた。
【実施例4】
【0053】
PPS繊維(東レ(株)製、商品名「トルコン」、融点=285℃)の20番手紡績糸(糸の太さ:295dtex)を、2本引き揃えて小巻ボビンに巻いて32本用意した。これを丸組織の32打ちの製紐機に仕掛け、突き上げ組紐方式で製紐し、電気自動車用モーター用結束紐を得た。前記結束紐はチューブ状であるが、外観は扁平楕円状で、長径(幅)5mm、短径(厚み)1.2mmであった。この電気自動車用モーター用結束紐を、ガスバーナーの炎の中を1m/秒の速度で通過させ、毛焼きした。この結束紐の高温耐油性能は、86%であった。この結束紐の目付けは2.45g/mであり、組ピッチは32目/インチであり、太さは24500dtexであった。また、この結束紐の引張強さは490N、伸び率は47.1%であった。
【実施例5】
【0054】
実施例4で製造した結束紐を、酢酸ビニル系重合体エマルジョン(サイデン化学株式会社製、商品名「サイビノール HSA−50L」)40重量部と水60重量部とを含む樹脂液に浸漬し、前記結束紐を垂直方向に引き上げながら軽くスポンジで絞って80℃で5分間乾燥して樹脂加工した。得られた樹脂加工済み電気自動車用モーター用結束紐において、前記樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合は22重量%であった。また、樹脂固形分付着量は約28%であった。結束紐の高温耐油性能は、88%であった。この結束紐の目付けは3.15g/mであり、組ピッチは32目/インチであり、太さは31500dtexであった。また、この結束紐の引張強さは488N、伸び率は45.6%であった。
【0055】
実施例4および実施例5で得られた結束紐を用いてそれぞれ電気自動車モータのコイルエンドを手で結束した。実施例4の結束紐は、柔軟で結束時の締め付け性が良く、かつ戻りもなく、束ねたコイルの編組が良好に達成できた。すなわち、実施例1の結束紐は、結束紐を結束する際の張力変動が極めて少なく、結束紐の結束性の安定性が優れていることが確認できた。また、結束することによるコイルへの傷付きは認められなかった。さらに、結束紐は扁平状に重なっており、締め付け製も結束状態も良好であった。実施例5の結束紐は、実施例4の結束紐よりやや硬いが、結束性は良好で緩みはなかった。また、実施例5の結束紐は、実施例4の結束紐より、モーター使用時にオイルへの毛羽落ちが少なかった。
【0056】
実施例1〜5および参考例1で得られた電気自動車用モーター用結束紐の物性を表1にまとめて示す。
【表1】

【0057】
表1に示すように、本発明の電機自動車用モーター用結束紐は、結束時の締め付け性がより向上し、高温耐油性が高いことが確認できた。
【0058】
[結束紐ヘのワニス付着量]
実施例5および参考例1で得られた結束紐をそれぞれ用いて電気自動車モータのコイルエンドを手で結束した。その結束紐にワニスを真空含浸させ、ワニスを結束紐へ付着させた。このワニス処理の前後の結束紐の重量を測定し、その重量から、結束紐へ付着したワニスの量を得た。コイルエンド7台を用いて得られたワニス量の平均は、実施例5の場合116g、参考例1の場合131gであった。前記結果から、参考例1の場合に比べ、実施例5の結束紐は、ワニス付着量が低く、すなわち、実施例5の結束紐を用いて結束すると、コイルエンドの巻き糸が密着性高く結束されており、かつ、体積の膨らみも低いことが確認できた。
【0059】
[結束紐の絶縁耐性効果]
実施例5および参考例1で得られた結束紐をそれぞれ用いて電気自動車モータのコイルエンドを手で結束した。その後、結束紐を解き、コイルエンドを回収した。実施例5で得られた結束紐を用いてコイルエンドを結束した後、回収したコイルエンドの絶縁性を測定した結果を、図3(a)に示す。また、参考例1で得られた結束紐を用いてコイルエンドを結束した後、分解し、2個より線による絶縁耐圧試験(BDV)を測定した結果を、図3(b)に示す。図3(a)および図3(b)に示すように、実施例5で得られた結束紐の場合は、絶縁電圧が低いが、参考例1で得られた結束紐の場合は、絶縁電圧が高くなっていることが確認できた。結束には同じコイルエンドを用いているため、この結果から、本発明の結束紐は、結束性が良く、その結果、コイル皮膜に与える負担を抑制することができる。従って、巻線皮膜へのダメージを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の電気自動車用モーター用結束紐は、電気自動車用モーター製造用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施例1において得られた電気自動車用モーター用結束紐の外観を示す平面図である。
【図2】本発明の電気自動車用モーター用結束紐の一例の使用例を示す概略斜視図である。
【図3】図3(a)は、実施例5で得られた結束紐を用いてコイルエンドを結束した後、回収したコイルエンドの絶縁性を測定した結果であり、図3(b)は、参考例1で得られた結束紐を用いてコイルエンドを結束した後、回収したコイルエンドの絶縁性を測定した結果である。
【符号の説明】
【0062】
1 固定子コア
2 スロット
3 コイル
4 ワイヤー
5 ワイヤー用絶縁チューブ
6 結束紐
7 サーモスタット用絶縁チューブ
8 スロットライナー
9 ウエッジ
10 相間紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車用モーター用結束紐であって、
融点または分解温度が280℃以上の合成繊維のステープルファイバーからなる紡績糸で、24打ち以上のスリーブ状に製紐されている、
高温耐油性能が、50%以上である電気自動車用モーター用結束紐。
高温耐油性能(%)=(T’/T)×100
前記式において、Tは、処理前の前記結束紐の引張強さを意味し、T’は、処理後の前記結束紐の引張強さを意味する。
前記引張強さとは、JIS L1013−8.5.1法における引張強さを意味する。
前記処理とは、前記結束紐の全体を、密閉容器中の0.5重量%の水と99.5重量%のオートマチック・トランスミッション・フルードの混合物中に入れ、前記容器中の混合物の温度が1000時間の間150℃で維持されるよう前記容器を加温する処理を意味する。
【請求項2】
前記紡績糸に用いられる合成繊維が、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド繊維またはポリエーテルイミド繊維である請求項1に記載の電気自動車用モーター用結束紐。
【請求項3】
前記ステープルファイバーからなる紡績糸の太さが、100dtex以上1000dtex以下の範囲である請求項1または2に記載の電気自動車用モーター用結束紐。
【請求項4】
前記結束紐の太さが、7000dtex以上30000dtex以下の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の電気自動車用モーター用結束紐。
【請求項5】
前記結束紐の形状が、チューブ状でかつ偏平状である請求項1〜4のいずれかに記載の電気自動車用モーター用結束紐。
【請求項6】
前記結束紐のJIS L1013−8.5.1法による引張強さが、150N以上800N以下の範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の電気自動車用モーター用結束紐。
【請求項7】
前記結束紐のJIS L1013−8.5.1法による伸び率が、20%以上60%以下である請求項1〜6のいずれかに記載の電気自動車用モーター用結束紐。
【請求項8】
前記結束紐の表面の少なくとも一部が、毛焼き処理され、前記表面の毛羽が除去されている請求項1〜7のいずれかに記載の電気自動車用モーター用結束紐。
【請求項9】
前記結束紐が、樹脂加工されている請求項1〜8のいずれかに記載の電気自動車用モーター用結束紐。
【請求項10】
前記樹脂加工された結束紐に対する前記樹脂の割合が、20〜35重量%である請求項9に記載の電気自動車用モーター用結束紐。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−174104(P2009−174104A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135598(P2008−135598)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(504094660)株式会社ゴーセン (11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】