説明

電気自動車用充電ケーブル

【課題】ケーブル外径が細く、遮蔽の必要のない柔軟性に優れた電気自動車用充電ケーブルを提供する。
【解決手段】給電線の導体断面積を均等に2分割して4本の給電線にし、同一極性の給電線を並列または対角に配置するケーブル構造にする。給電線導体断面積を均等に2分割し、4本の給電線にすることにより、ケーブル外径を細くすることができ、取扱い性や収納性の優れた柔軟性のある電気自動車用充電ケーブルが得られる。また、給電線の導体断面積2分割することにより、給電線外径が細くなるため、給電線の導体間距離が短くなることにより、給電線極性間の特性インピーダンスを低減させることができ、給電線から発生するノイズの外部への放出を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の充電用ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力源としてバッテリに蓄電された電力を用いて走行する電気自動車の実用化が進んでいる。これらの電気自動車は、各家庭に供給されている商用電源、または屋外の充電施設から電力供給を受けて、バッテリを充電している。
バッテリの充電には、電源供給口と車両搭載の電源バッテリとを接続する電気自動車用充電ケーブルが用いられている。
充電ケーブルは、一般的には陽極(+極)および陰極(−)の2本の給電線と複数本の信号制御線から構成されている。この種の充電ケーブルの給電線には、大電流を安全に電気自動車のバッテリに供給して短時間で充電を完了するために、比較的断面積の大きな導体が用いられている。
【0003】
また、給電線に大きな電流が流れることにより、これらの給電線に近接する信号制御線に対してのノイズを防止するため、信号制御線には確実に遮蔽を施されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような電気自動車のバッテリを充電するために用いられる充電ケーブルは、給電線の導体断面積が大きいために、ケーブル外径が大きくなり柔軟性が損なわれる。また、信号制御線に遮蔽を施すことによっても、ケーブルの剛性が高くなる。従って、取扱い性や収納性の点から柔軟性のある電気自動車用充電ケーブルの開発が望まれている。
【0005】
従来技術の外径が大きく、剛性の高い電気自動車用充電ケーブルには、次のような問題がある。
(1)外径が大きく、剛性が高いため、充電ケーブルの長さを十分確保して、この長さ分の弾性を利用して取扱い性を良くしなければならない。
(2)充電作業をする際には、充電ケーブルを屈曲させるために大きな曲率半径が必要となり、大きな作業スペースを確保する必要がある。
(3)自動車のトランク内の充電ケーブル収納装置に充電ケーブルを巻き取る際に、充電ケーブル収納装置を大きくする必要がある。
(4)ケーブル外径を大きくする分だけコストが高くなり、また車両の重量増の一因になる。
【0006】
本発明はこれらの問題点を解決するためになされたもので、給電線の導体断面積が同一でもケーブル外径が小さく、柔軟性に優れ、使い勝手の良い、安価な充電ケーブルを提供することを目的とする。
【0007】
さらに本発明は、遮蔽を施さなくても、電力供給源(インバータ、コンバータ)から給電線へ伝播する伝導ノイズが信号制御線に回り込むことによって起こる信号制御線に接続される電気機器の誤動作や、また給電線を伝播するノイズが給電線をアンテナとして放射ノイズとして放出され、信号制御線や近接した位置の電子機器に対してノイズとなることを防止する充電ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の電気自動車用充電ケーブルは、設定された給電線の導体断面積を均等に2分割して、同一な導体断面積の4本の給電線と適宜必要な複数本の信号制御線を撚り合わせて構成される集合体にシースを施すことにより、ケーブル外径を細くした電気自動車用充電ケーブルであって、前記充電ケーブルの両端において4本の給電線導体を2本ずつに合わせることによって、充電側給電口および電気自動車の受電口陽極の(+極)および陰極(−)に接続することを特徴としている。
【0009】
また、給電線導体を2分割することにより、外径を細くした4本の給電線の同一極性の給電線を並列または対角に配置することによって、導体断面積を2分割しない給電線の導体間距離よりも導体間距離を短くして、給電線極性間の特性インピーダンスを低減させることにより、給電線内のノイズを給電線外部に放出しないことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、給電線の導体断面積が同じでも、充電ケーブル外径を小さくすることが可能になり、剛性の小さい・柔軟性に優れた使い勝手の良い電気自動車用充電ケーブルを提供することができる。
【0011】
また、給電線から漏れるノイズを確実に低減できるため、信号制御線の遮蔽やケーブル全体の遮蔽の必要がなくなることにより、剛性の小さい・安価な電気自動車用充電ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の同一極性の給電線を並列に配置した電気自動車用充電ケーブルの断面図
【図2】本発明の同一極性の給電線を対角に配置した電気自動車用充電ケーブルの断面図
【図3】従来の電気自動車用充電ケーブルの断面図
【図4】従来の電気自動車用充電ケーブルの信号制御線の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の電気自動車用充電ケーブルは、下記の2つの知見に基づいて創作されたものである。
【0014】
本発明の電気自動車用充電ケーブルは図1および図2に示すように、給電線4本と複数本の信号制御線から構成され、同一極性の給電線を並列(図1)または対角(図2)に配置することによって、極性の異なる給電線導体間の距離を短くなるように配置したものである。
【0015】
(1)給電線の導体断面積を均等に2分割して、給電線を4本にすることによる給電線集合撚り外径の細径化

給電線の導体外径は、設定された導体断面積から次の式により導き出される。
A=πr^2 より
d=2・√(A/π)
d:導体外径 A:導体面積 r:導体半径
【0016】
給電線の絶縁体の厚さは、給電線に要求される絶縁抵抗から決定されるが、そのときの給電線外径は次の式から導き出される。

絶縁抵抗R=0.366ρlog(D/d)×10^-5
給電線外径D=[10^(R/(0.366ρ×10^-5))]×d

R:給電線の絶縁抵抗(Ω・km)
ρ:絶縁体材質の体積固有抵抗(Ω・cm)
D:給電線外径
d:導体外径
【0017】
給電線を撚り合わせた時の集合外径は、次の式から導き出される。

給電線の集合外径Da=〔(1+1/sin(π/n)〕×D

Da:集合外径
n:集合撚りの給電線の心数
D:給電線外径
【0018】
上述の式より、給電線の導体断面積を2分割しない場合の断面積をA=1とし(ケーブルの給電線本数2本)、均等に2分割した場合の断面積をA=0.5(ケーブルの給電線本数4本)とし、給電線に要求される絶縁抵抗R=50×106Ω・kmおよび給電線に使用される材料の体積固有抵抗ρ=5×1013Ω・cm(絶縁材料をPVCにした時の値)として集合撚り外径を算出すると、
2分割しない場合の断面積A=1のとき
導体外径d=1.13、 給電線外径D=2.12、 給電線集合撚り外径Da=4.23
2分割した場合の断面積A=0.5のとき
導体外径d=0.80、 給電線外径D=1.50、 給電線集合撚り外径Da=3.61
になる。
【0019】
上記の結果より、給電線の導体断面積を均等に2分割することによって、給電線集合撚り外径を約15%細径化できる。このことにより、電気自動車用充電ケーブルの細径化が可能になる。
【0020】
(2)給電線の導体断面積を均等に2分割し、給電線を細径化し、極性の異なる給電線導体間の距離を短くすることによるノイズ低減
電力源から充電ケーブルに供給される電力は、インバータやコンバータを介して、充電に適した電気成分(周波数・電圧など)に変換されて供給される。インバータやコンバータは、スイッチング制御によって電力変換をおこなっているため、スイッチングに起因するノイズが発生し易く、生じたノイズは、電力波形に重なる形で給電線を伝播する。
【0021】
給電線を伝播するノイズは、様々な周波数成分からなり、給電線の絶縁体が持つ静電容量を介して外部へ放出され易い性質がある。
【0022】
充電ケーブルにおいては、給電線の絶縁体が持つ静電容量がノイズの拡散に影響を与えており、この絶縁体の静電容量を介して異なる極性(逆方法へ流れる)を持った隣接する絶縁心線(他の給電線や信号制御線)へノイズを伝播させている。
【0023】
給電線を伝播するノイズの拡散を防止する方策としては、極性の異なる(逆方向へ流れる)給電線間の静電容量を増加させることで、陽極(+極)を伝播するノイズが陰極(GND)の給電線にリークし易くする。これによって、ノイズを給電線内でループさせ、給電線の外部へのノイズ放出を低減するということが効果的である。
【0024】
静電容量は次の式で表される。

静電容量C=(12.05ε)/〔log10(D1+√(D12−k2・d2)/(k・d)〕

C:静電容量(nF/km)
D1:給電線の導体間距離(mm)
k:導体実効外径係数
d:導体径(mm)
ε:実効比誘電率
このことより、静電容量は、異なる極性の給電線の導体間隔が小さくなるほど、大きくなることがわかる。
【0025】
また、給電線に電流が流れると、給電線の持つインダクタンスによって誘導起電力が生じる。誘導起電力は、電流の流れで生じた磁束により、電流の流れと逆方向に生じる電圧のことであり、電流の流れを阻害する。よって、陰極(GND)へリークさせたノイズを効率よく流すうえで、インダクタンスの低減が有効となる。
インダクタンスは次の式で表される。

インダクタンスL=0.4loge(2D1/d)+0.1μ

L:インダクタンス(mH/km)
D1:導体間距離(mm)
d:導体径(mm)
μ:導体の比透磁率(銅=1)
このことより、インダクタンスは、異なる極性の給電線の導体間隔が小さいほど、小さくなることがわかる。
【0026】
上述したと静電容量Cとインダクタンスおよび特性インピーダンスZ0には、次の関係がある。
Zo=√(L/C)
効果的なノイズ低減効果を発揮するためには、静電容量Cが大きいほど、また、インダクタンスLが小さいほど、上式に当てはめれば、特性インピーダンスZ0が低いほどノイズ低減効果が高いことになる。
【0027】
上述の原理に基づき、本発明は2本の給電線の導体断面積を均等に2分割して、給電線を4本として、給電線の外径を細径化することによって極性の異なる給電線同士の導体間距離を短くすることと、さらには同一極性の給電線を対角に配置して異なる極性の給電線を隣接させて、その導体間距離を短くすることによって、静電容量を大きく、インダクタンスを小さくし、特性インピーダンスZ0を下げることによりノイズを低減するものである。
以下、本発明の実施形態に係わるケーブル構造について、図面を参照して具体的に説明する。
【実施例1】
【0028】
図1は、給電線の導体断面積を35.6mm2に設定した場合の本発明を適用した電気自動車用充電ケーブルの断面図であり、表1はこの充電ケーブルの構成および特性インピーダンス性能を示したものである。
【0029】
図1において、給電線の導体は、素線径0.18mmの素線を700本撚り合わせたもので、その断面積は、設定された給電線導体断面積の1/2の導体断面積のものである。この導体の外側に前述の式から算出された厚さのPVCの絶縁被覆を形成した。そして、陽極の給電線1a・1b(2本)と陰極の給電線2a・2b(2本)を同一の極性の給電線が並列になるように配置し、対撚りされた遮蔽が施されていない信号制御線3とを合わせて、図1の断面図に示すような配置で撚り合わせ、その外側にシース4を形成した。この充電ケーブルの給電線導体径は5.50mm、給電線外径9.1mm、集合撚り外径22.3mmであった。
なお、信号制御線3は、給電線の集合体に生じる空間に配置することにより、給電線の集合撚り外径に与える影響はない。
また、給電線極性間の特性インピーダンスはディジタルサンプリングオシロスコープ「テクトロニクス社製TDS8200」を用いてTDR方式で測定したところ46Ωであった。
【実施例2】
【0030】
陽極の給電線1a・1b(2本)と陰極の給電線2a・2b(2本)を、同一の極性の給電線が対角の位置に配置した以外は同じ条件で充電ケーブルを製作した。
この充電ケーブルの給電線導体径、給電線外径、集合撚り外径は実施例1と同じであった。
また、給電線極性間の特性インピーダンスを実施例1と同じくTDR方式で測定したところ27Ωであった。
【比較例】
【0031】
図3は、給電線の導体断面積を実施例と同じ35.6mm2に設定した場合の従来の電気自動車用充電ケーブルの断面図であり、表1はこの充電ケーブルの構成および特性インピーダンス性能を示したものである。
【0032】
図3において、給電線の導体は、素線径0.18mmの素線を1400本撚り合わせたものである。この導体の外側に前述の式から算出した厚さのPVCの絶縁被覆を形成した。そして、陽極の給電線5と陰極の給電線6および図4に拡大して示す遮蔽が施された対撚り信号制御線7を図3の配置で撚り合わせ、その外側にシース8を形成した。この充電ケーブルの給電線導体径は7.77mm、給電線外径12.9mm、集合撚り外径26.1mmであった。
なお、信号制御線7は、本発明の実施例の図1および図2の充電ケーブルと同様に、給電線の集合体に生じる空間に配置することにより、給電線の集合撚り外径に与える影響はない。
また、給電線極性間の特性インピーダンスを実施例1と同じくTDR方式で測定したところ77Ωであった。
【0033】
表1の実施例と比較例を対比してわかるように、同一導体断面積において、本発明の電気自動車用充電ケーブルは、従来の電気自動車用充電ケーブルに比べて、集合撚り外径を理論通り約15%細径化できた

また、シースの厚さを、保護の目的から同一厚の3.60mmに設定した場合でも、本発明の充電ケーブル外径は29.5mm、従来充電ケーブルは33.3mmになり約11%の細径化が図れた。
【0034】
異なる極性の給電線間の特性インピーダンスは、従来の電気自動車用充電ケーブルでは、77Ωであったが、表1の実施例1は、46Ωであった。これは、給電線の絶縁外径が細くなることにより、極性の異なる給電線の導体間隔が小さくなったことによる。
【0035】
また、表1の実施例2では、異なる極性の給電線間のインピーダンスは、27Ωであった。これは、
実施例1(図1)では、対角に配置されていた異なる極性の給電線が、実施例2(図2)では、隣接に配置されたことで、図1の1a−2b間及び1b−2a間の静電容量が大きくなり、インダクタンスが小さくなったことによる。
【0036】
給電線が発生するノイズ量の比率は、給電線極性間の特性インピーダンスに反比例し、本発明の電気自動車用充電ケーブルでは、従来の電気自動車充電ケーブルから発生するノイズに比べて、実施例1では40%の低減ができ、実施例2では65%の低減ができた。
【0037】
このことにより、従来の充電ケーブルの信号制御線7から遮蔽を省くことが可能になった。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は給電線の導体断面積35.6mm2に限定されるものでなく、いかなる導体断面積のものにおいても本発明の趣旨を逸脱しない範囲で同様の効果が得られる。
【0039】
【表1】

【符号の説明】
【0040】
1a 2分割導体断面積の給電線(陽極)
1b 2分割導体断面積の給電線(陽極)
2a 2分割導体断面積の給電線(陰極)
2b 2分割導体断面積の給電線(陰極)
3 遮蔽なし信号制御線
4 シース
5 2分割していない導体断面積の給電線(陽極)
6 2分割していない導体断面積の給電線(陰極)
7 遮蔽された信号制御線
8 シース
9 介在
10 押さえ巻きテープ
11 編組シールド
12 アルミテープシールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給される電力量から設定された給電線導体の断面積を均等に2分割して4本の給電線導体にし、前記導体の外側に絶縁被覆が形成されて成る4本の給電線と適宜必要な複数本の信号制御線を撚り合わせて構成される電気自動車用充電ケーブルにおいて、前記同一極性の給電線を並列または対角に配置し、そのケーブルの両端において、4本の給電線導体を2本ずつ合わせることによって、陽極(+極)および陰極(−)の給電線にして充電側給電口と電気自動車の受電口に接続することを特徴とする電気自動車用充電ケーブル

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−59495(P2012−59495A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200792(P2010−200792)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(390002598)沖電線株式会社 (45)
【Fターム(参考)】