説明

電気自動車用駆動装置

【課題】電動モータ1aと、摩擦ローラ式減速機2bと、変速装置3a及び回転伝達装置4aとで、互いに異なる種類の潤滑剤を使用する事ができて、これら各要素1a、2b、3a、4aに、それぞれの性能を十分に発揮させつつ、前記摩擦ローラ式減速機2bのトルク伝達容量を確保できる構造を実現する。
【解決手段】前記電気自動車用駆動装置を収納するケーシング32を、モータ収納部33と、減速機収納部34と、変速装置収納部35と、回転伝達装置収納部36とから構成する。これら各収納部33、34、35、36を結合して一体化する。そして、前記モータ収納部33と前記減速機収納部34との間と、この減速機収納部34と前記変速装置収納部35との間とに、それぞれシール50a、50bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの出力を変速(減速)してから駆動輪に伝達する、電気自動車用駆動装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年普及し始めている電気自動車の利便性を向上させるべく、充電1回当りの走行可能距離を長くする為に、電動モータの効率を向上させる事が重要である。そして、この効率を向上させるには、高速回転する小型の電動モータを使用し、この電動モータの出力軸の回転を減速してから駆動輪に伝達する事が効果がある。この様な場合に使用する減速機のうち、少なくとも前記電動モータの出力軸に直接繋がる第一段目の減速機は、運転速度が非常に速くなるので、運転時の振動及び騒音を抑える為に、摩擦ローラ式減速機を使用する事が考えられる。又、前記電動モータの出力軸と、駆動輪に繋がるデファレンシャルギヤとの間に変速装置を設ける事で、車両の走行速度と加速度との関係を、ガソリンエンジンを搭載した自動車に近い、滑らかなものにできるものと考えられる。この点に就いて、図3を参照しつつ説明する。
【0003】
例えば、前記電動モータの出力軸と前記デファレンシャルギヤの入力部との間部分に、減速比の大きな動力伝達装置を設けた場合、電気自動車の加速度(G)と走行速度(km/h)との関係は、図3の実線aの左半部と鎖線bとを連続させた様になる。即ち、低速時の加速性能は優れているが、高速走行ができなくなる。これに対して、前記間部分に減速比の小さな動力伝達装置を設けた場合、前記関係は、図3の鎖線cと実線aの右半部とを連続させた様になる。即ち、高速走行は可能になるが、低速時の加速性能が損なわれる。これに対して、前記間部分に変速装置を設け、車速に応じてこの変速装置の減速比を変えれば、前記実線aの左半部と右半部とを連続させた如き特性を得られる。この特性は、図3に破線dで示した、同等の出力を有するガソリンエンジン車とほぼ同等であり、加速性能及び高速性能に関して、ガソリンエンジン車と同等の性能を得られる事が分かる。
【0004】
図4は、この様な事情に鑑みて先に考えた、電気自動車用駆動装置の1例を示している(特願2011−51297)。この先発明に係る電気自動車用駆動装置は、電動モータ1と、摩擦ローラ式減速機2と、変速装置3と、回転伝達装置4とを備える。そして、この摩擦ローラ式減速機2の入力軸5と、前記電動モータ1の出力軸6とを互いに同心に配置して、トルクの伝達を可能に接続する。又、前記摩擦ローラ式減速機2の出力軸(図示省略)を、前記変速装置3の入力側伝達軸7と同心に配置して、トルクの伝達を可能に接続する。
【0005】
前記変速装置3は、前記入力側伝達軸7と出力側伝達軸8との間に、減速比が互いに異なる、1対の歯車伝達機構9a、9bを設けている。そして、1対のクラッチ機構10a、10bの切り換えにより、何れか一方の歯車伝達機構9a(9b)のみを、動力の伝達を可能な状態として、前記入力側伝達軸7と前記出力側伝達軸8との間の減速比を、高低の2段階に変換可能としている。
更に、前記回転伝達装置4は、複数の歯車を組み合わせた、一般的な歯車伝達機構であり、前記出力側伝達軸8の回転をデファレンシャルギヤ11の入力部に伝達し、左右1対の駆動輪を回転駆動する様に構成している。
【0006】
上述の様な先発明に係る電気自動車用駆動装置の構造によれば、電気エネルギの効率的利用の為、前記電動モータ1として、小型且つ高回転型(例えば最高回転速度が3〜4万min-1程度)のものを使用しても、運転時の振動及び騒音を抑えられる。即ち、第一段目の減速機として、前記摩擦ローラ式減速機2を使用しているので、高速回転部分での振動の発生を抑えられる。それぞれが歯車伝達機構である、前記変速装置3及び回転伝達装置4の回転速度は、一般的なガソリンエンジンを搭載した自動車の変速装置部分の運転速度と同程度(最高で数千〜1万min-1程度)に抑えられるので、何れの部分でも、不快な振動や騒音が発生する事はない。
【0007】
上述の様な電気自動車用駆動装置に組み込んで使用可能な摩擦ローラ式減速機として、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。このうちの特許文献3に記載された従来構造に就いて、図5〜7により説明する。この特許文献3に記載された摩擦ローラ式減速機2aは、入力軸5aと、出力軸12と、太陽ローラ13と、環状ローラ14と、それぞれが中間ローラである複数個の遊星ローラ15、15と、ローディングカム装置16とを備える。
このうちの太陽ローラ13は、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子17a、17bを前記入力軸5aの周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、このうちの太陽ローラ素子17aを、前記入力軸5aに対する相対回転を可能に配置して成る。前記両太陽ローラ素子17a、17bの外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としている。従ってこの転がり接触面の外径は、軸方向中間部で小さく、両端部に向かうに従って大きくなる。
【0008】
又、前記環状ローラ14は、全体を円環状としたもので、前記太陽ローラ13の周囲にこの太陽ローラ13と同心に配置した状態で、図示しないハウジング等の固定の部分に支持固定している。又、前記環状ローラ14の内周面は、軸方向中央部に向かうに従って内径が大きくなる方向に傾斜した転がり接触面としている。
又、前記各遊星ローラ15、15は、前記太陽ローラ13の外周面と前記環状ローラ14の内周面との間の環状空間18の円周方向複数箇所に配置している。前記各遊星ローラ15、15は、それぞれが前記入力軸5a及び前記出力軸12と平行に配置された、自転軸である遊星軸19、19の周囲に回転自在に支持している。これら各遊星軸19、19の基端部は、前記出力軸12の基端部に結合固定されたキャリア20に支持固定している。前記各遊星ローラ15、15の外周面は、母線形状が部分円弧状の凸曲面で、それぞれ前記太陽ローラ13の外周面と前記環状ローラ14の内周面とに転がり接触している。
【0009】
更に、前記ローディングカム装置16は、一方の太陽ローラ素子17aと、前記入力軸5aとの間に設けて、この入力軸5aの回転に伴ってこのローラ素子17aを、他方のローラ素子17bに向け押圧しつつ回転させるものである。この様なローディングカム装置16を構成する為に、前記入力軸5aの中間部に係止された支え環21と前記一方の太陽ローラ素子17aとの間に、この支え環21の側から順番に、皿ばね22と、カム板23と、複数個の玉24、24とを設けている。そして、互いに対向する、前記一方の太陽ローラ素子17aの基端面と前記カム板23の片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面25、25と駆動側カム面26、26とを設けている。これら各カム面25、26はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って漸次浅くなる形状を有する。
【0010】
この様なローディングカム装置16は、前記入力軸5aが停止している状態では、前記各玉24、24が、図7の(A)に示す様に、前記各カム面25、26の最も深くなった部分に位置する。この状態では、前記皿ばね22の弾力により、前記一方の太陽ローラ素子17aを前記他方の太陽ローラ素子17bに向け押圧する。これに対して、前記入力軸5aが回転すると、前記各玉24、24が、図7の(B)に示す様に、前記各カム面25、26の浅くなった部分に移動する。そして、前記一方の太陽ローラ素子17aと前記カム板23との間隔を拡げ、前記一方の太陽ローラ素子17aを前記他方の太陽ローラ素子17bに向け押圧する。この結果、この一方の太陽ローラ素子17aは前記他方の太陽ローラ素子17bに向け、前記皿ばね22の弾力と、前記各カム面25、26に対して前記各玉24、24が乗り上げる事により発生する推力とのうちの、大きな方の力で押圧されつつ回転駆動される。
【0011】
前記摩擦ローラ式減速機2aの運転時には、前記各遊星ローラ15、15と、前記太陽ローラ13の外周面及び前記環状ローラ14の内周面との転がり接触部である、各トラクション部で、高面圧下でトルク伝達が行われる。従って、これら各トラクション部には、一般的な潤滑油に比べてトラクション係数が高い、トラクションオイルの油膜を介在させる必要がある。又、前記ローディングカム装置16によりこれら各トラクション部の面圧を上昇させる為に、前記各ローラ15、13、14の周面は、何れも、軸方向に関して径が変化する非円筒面としている。この為、前記各トラクション部で、周面同士の接触部分が自転しつつ公転する、スピンが発生する。高面圧下でスピンが発生した場合、前記各トラクション部での発熱が無視できない程度になるので、これら各トラクション部を冷却する必要がある。例えば、前述の図4に示した様な電気自動車用駆動装置を構成する摩擦ローラ式減速機2の場合には、大きな動力を伝達する関係上、前記各トラクション部での発熱量が相当に多くなるので、これら各トラクション部に、トラクションオイルを注ぐ(循環させる)事が好ましい。
【0012】
一方、前述した図4に示す様な電気自動車用駆動装置は、電動モータ1と、摩擦ローラ式減速機2と、変速装置3と、回転伝達装置4とを一体のケーシングに収納して全体を小型に構成する必要がある。従って、何らの対策も施さない場合には、これら各要素1、2、3、4のトラクション部や回転支持部に設けた軸受、各歯車の噛合部等に、1種類の潤滑剤(トラクションオイル)が注がれる事になる。但し、高速回転部を潤滑する事のみを考えた場合、トラクションオイルは、必ずしも最適な潤滑剤とは言えない場合がある。従って、前記各部の摺動抵抗を小さくして動力損失を少なくしたり、金属接触に伴う著しい摩耗が発生するのを防止しつつ、前記摩擦ローラ式減速機2の各トラクション部に十分量のトラクションオイルを供給する為には、前記各要素1、2、3、4毎に、それぞれ異なる種類の潤滑剤を使用する事が好ましい場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭59−187154号公報
【特許文献2】特開昭61−136053号公報
【特許文献3】特開2004−116670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、摩擦ローラ式減速機と、この摩擦ローラ式減速機と隣接する要素とで互いに異なる種類の潤滑剤を使用する事ができて、これら各要素の回転支持部に設けた軸受や各歯車の噛合部等の摺動抵抗を小さくして動力損失を少なくしたり、金属接触が発生するのを防止しつつ、各トラクション部でのトルク伝達容量の確保、並びに、これら各トラクション部の冷却を十分に行う事ができる電気自動車用駆動装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の電気自動車用駆動装置は、電動モータと、摩擦ローラ式減速機と、変速装置と、回転伝達装置とを備える。
特に、本発明の電気自動車用駆動装置に於いては、この電気自動車用駆動装置を収納するケーシングが、前記電動モータを納めるモータ収納部と、前記摩擦ローラ式減速機を納める減速機収納部と、前記変速装置を納める変速装置収納部と、前記回転伝達装置を納める回転伝達装置収納部とから成り、これら各収納部を一体(別体に構成した複数のユニットを後から結合固定する構造も含む)に構成する。そして、これら各収納部のうち、前記モータ収納部と前記減速機収納部との間部分と、この減速機収納部と前記変速装置収納部との間部分とのうちの少なくとも一方の間部分に、シール(シールリング)を設ける。そして、前記摩擦ローラ式減速機と、このシールを介してこの摩擦ローラ式減速機と隣接する要素部分とを、互いに異なる種類の潤滑剤で潤滑する。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明の電気自動車用駆動装置によれば、各要素を一体のケーシングに収納して全体を小型に構成しつつ、摩擦ローラ式減速機と、シールを介してこの摩擦ローラ式減速機と隣接する要素部分とで、互いに異なる種類の潤滑剤を使用する事ができる。この結果、前記各要素の回転支持部に設けた軸受や各歯車の噛合部等の摺動抵抗を小さくして動力損失を少なくしたり、金属接触に伴う著しい摩耗が発生するのを防止しつつ、前記摩擦ローラ式減速機のトラクション部に十分量のトラクションオイルを供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の1例を、上部に側方から見た断面を、上下方向中間部に鎖線aに沿って切断し下方から見た状態を、下部に鎖線bに沿って切断し後方から見た状態を、それぞれ示す展開図。
【図2】図1のX部拡大図。
【図3】電気自動車用駆動装置に変速装置を組み込む事による効果を説明する為の線図。
【図4】電気自動車用駆動装置の斜視図。
【図5】電気自動車用駆動装置に組み込む、摩擦ローラ式減速機の従来構造の1例を示す断面図。
【図6】一部を省略して示す、図5のY−Y断面図。
【図7】ローディングカム装置が推力を発生していない状態(A)と同じく発生している状態(B)とをそれぞれ示す、図6のZ−Z断面に相当する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の1例]
図1〜2は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の電気自動車用駆動装置は、前述した先発明に係る構造と同様に、電動モータ1aと、摩擦ローラ式減速機2bと、変速装置3aと、回転伝達装置4aとを備える。このうちの電動モータ1aは、出力軸27により、この出力軸27と同心且つ一体に設けられた、前記摩擦ローラ式減速機2bの入力軸5aを回転駆動する。
【0019】
又、前記摩擦ローラ式減速機2bは、前記入力軸5aにより太陽ローラ13aを回転駆動し、複数個の中間ローラ28、28を介して環状ローラ14aに伝達し、この環状ローラ14aの回転を連結部29を介して出力軸12aから取り出す様にしている。前記各中間ローラ28、28は、それぞれの中心部に設けた自転軸30を中心として自転するのみで、前記太陽ローラ13aの周囲で公転する事はない。この太陽ローラ13aは、互いに同じ形状を有する1対の太陽ローラ素子17c、17cを互いに同心に組み合わせて成り、これら両太陽ローラ素子17c、17cを軸方向両側から挟む位置に、1対のローディングカム装置16a、16aを設置している。これら両ローディングカム装置16a、16aは、前述の図5〜7に示した従来構造の場合と同様に、前記入力軸5aの回転に伴って各玉24、24が各カム面25、26の浅くなった部分に移動する事により、軸方向厚さを拡げる。尚、前記両ローディングカム装置16a、16aは、前記従来構造のローディングカム装置16と同様の、それぞれ複数ずつの被駆動側、駆動側各カム面25、26及び玉24、24に加えて、予圧付与の為に、カム板23a、23aと前記両太陽ローラ素子17c、17cとを相対回転する方向に押圧するばねを設けている。この部分の構造に関しては、本発明の要旨とは関係しないし、別の構造を採用する事もできる。
【0020】
又、前記変速装置3aは、前記摩擦ローラ式減速機2bの出力軸12aと同心且つ一体に設けられた入力側伝達軸7aと、この入力側伝達軸7aと平行に配設した出力側伝達軸8aとの間に、減速比が互いに異なる、1対の歯車伝達機構9c、9dを設けている。そして、1対のクラッチ機構10c、10dの切り換えにより、何れか一方の歯車伝達機構9c(9d)のみを、動力の伝達を可能な状態として、前記入力側伝達軸7aと前記出力側伝達軸8aとの間の減速比を、高低の2段階に変換可能としている。
又、前記回転伝達装置4aは、複数の歯車を組み合わせた、一般的な歯車伝達機構であり、前記変速装置3aの出力側伝達軸8aの回転をデファレンシャルギヤ11aの入力部に伝達し、このデファレンシャルギヤ11aの左右1対の出力軸31a、31bにより、等速ジョイントを介して左右1対の駆動輪を回転駆動する様に構成している。
【0021】
上述の様な電気自動車用駆動装置は、この電気自動車用駆動装置を構成する各要素1a、2b、3a、4aを、一体のケーシング32に収納する事で、全体を小型に構成している。このケーシング32は、前記電動モータ1aを納めるモータ収納部33と、前記摩擦ローラ式減速機2bを納める減速機収納部34と、前記変速装置3aを収納する変速装置収納部35と、前記回転伝達装置4aを収納する回転伝達装置収納部36とを備える。この様なケーシング32は、鍛造或いは鋳造により造った複数のユニットを、ボルト或いは溶接等により結合する事で一体に構成する。
【0022】
即ち、前記変速装置収納部35及び前記回転伝達装置収納部36の片半部(図1の左半部)の内周面に形成した凹部37a、37aに、前記変速装置3aを構成する入力側、出力側両伝達軸7a、8aと、前記回転伝達装置4aを構成する中間軸38との片端部を、それぞれ玉軸受39a、39aを介して回転自在に支持する。この状態で、前記減速機収納部34と一体に造られた、前記両収納部35、36の他半部(図1の右半部)の内周面に形成した凹部37b、37bに、前記各軸7a、8a、38の他端部を、それぞれ玉軸受39b、39bを介して回転自在に支持しつつ、前記両収納部35、36の片半部に同じく他半部を結合固定する。この様にして、前記変速装置3aと前記回転伝達装置4aとを、前記変速装置収納部35と前記回転伝達装置収納部36とに、それぞれ納める。
更に、前記摩擦ローラ式減速機2bを納めた前記減速機収納部34の他端部(図1〜2の右側)に前記モータ収納部33を、ボルト40a、40aにより結合固定する。即ち、この減速機収納部34の他端部外周面に設けた外向フランジ状の鍔部41にねじ孔42、42を、前記モータ収納部33の本体部分43の片端部外周面(図1〜2の左側)に設けた外向フランジ状の鍔部44aに取付孔45、45を、それぞれ形成している。そして、前記各ねじ孔42、42とこれら各取付孔45、45とを整合させた状態で、これら各取付孔45、45を挿通した前記各ボルト40a、40aを前記各ねじ孔42、42に螺合し更に締め付ける事で、前記モータ収納部33を前記減速機収納部34に結合固定する。そして、このモータ収納部33の本体部分43に前記電動モータ1aを収納した状態で、この本体部分43の他端側開口を蓋体46により塞ぐ。即ち、この電動モータ1aの出力軸27の中間部を前記本体部分43の片端面中央部に形成した貫通孔47aに、同じく他端部を前記蓋体46の中央部に形成した貫通孔47bに、それぞれ挿通した状態で、前記出力軸27をこれら両貫通孔47a、47bの内側に、それぞれ玉軸受39c、39dにより回転自在に支持する。この状態で、前記本体部分43の他端部外周面に設けた外向フランジ状の鍔部44bに形成したねじ孔48、48と、前記蓋体46の外周寄り部分に形成した取付孔49、49とを整合させ、これら各取付孔49、49を挿通したボルト40b、40bを前記各ねじ孔48、48に螺合し更に締め付ける。
この様にして、前記各要素1a、2b、3a、4aを収納するケーシング32を一体とし、前記電気自動車用駆動装置全体を小型に構成している。
【0023】
本例の場合、前記モータ収納部33と前記減速機収納部34との間部分と、この減速機収納部34と前記変速装置収納部35との間部分とに、それぞれシール50a、50bを設けている。即ち、前記モータ収納部33の本体部分43の片端中央部の貫通孔47aの内周面と、前記電動モータ1aの出力軸27と同心に設けられた、前記摩擦ローラ式減速機2bの入力軸5aの外周面との間に、シール50aを設けている。この結果、前記電動モータ1aを潤滑する潤滑剤が前記減速機収納部34に、前記摩擦ローラ式減速機2bを潤滑する潤滑剤が前記モータ収納部33に、相互に浸入しない様にしている。同様に、前記減速機収納部34の片端部内周面と、前記変速装置3aの入力側伝達軸7aと同心に設けられた、前記摩擦ローラ式減速機2bの出力軸12aに支持した連結部29の基端部外周面との間に、シール50bを設けている。この結果、前記摩擦ローラ式減速機2bを潤滑する潤滑剤が前記変速装置収納部35(及び前記回転伝達装置収納部36)に、前記変速装置3a(及び回転伝達装置4a)を潤滑する潤滑剤が前記減速機収納部34に、相互に浸入しない様にしている。
この様なシール50a、50bとして、セルフシールリング等の弾性シールリングやメカニカルシールを使用する事ができる。
【0024】
上述の様に構成する本例の電気自動車用駆動装置によれば、この電気自動車用駆動装置を構成する各要素1a、2b、3a、4aを一体のケーシング32に収納して小型に構成しつつ、前記電動モータ1aと、前記摩擦ローラ式減速機2bと、前記変速装置3a及び前記回転伝達装置4aとを潤滑する潤滑剤をそれぞれ異ならせる事ができる。従って、例えば前記電動モータ1aをグリース等の、少量で十分な耐久性を確保し易い潤滑油で、前記摩擦ローラ式減速機2bをトラクションオイルで、前記変速装置3a及び前記回転伝達装置4aをミッションオイルやATF(オートマチックトランスミッションフルード)で、それぞれ潤滑する。この結果、前記各軸7a、8a、27、38を回転自在に支持する玉軸受39a〜39dや、前記変速装置3a及び前記回転伝達装置4aの各歯車の噛合部の摺動抵抗を小さくして動力損失を少なくしたり、金属接触に伴う著しい摩耗が発生するのを防止できる。又、前記摩擦ローラ式減速機2bの各トラクション部にはトラクションオイルが供給されるので、これら各トラクション部でのトルク伝達容量を確保すると共に、これら各トラクション部の冷却を十分に行う事ができる。
【0025】
尚、前記電動モータ1a及び前記摩擦ローラ式減速機2bを潤滑する潤滑剤を同じにできる場合には、前記両シール50a、50bのうち、前記モータ収納部33と前記減速機収納部34との間部分のシール50aを省略する事もできる。この様な場合、例えば前記電動モータ1a及び前記摩擦ローラ式減速機2bをトラクションオイルで、前記変速装置3a及び前記回転伝達装置4aをATFで、それぞれ潤滑する。
同様に、前記摩擦ローラ式減速機2b及び前記変速装置3a、前記回転伝達装置4aを潤滑する潤滑剤を同じにできる場合には、前記減速機収納部34と前記変速装置収納部35との間部分のシール50bを省略する。この様な場合、例えば前記電動モータ1aをグリース等で、前記摩擦ローラ式減速機2b及び前記変速装置3a、前記回転伝達装置4aをトラクションオイルで、それぞれ潤滑する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
上述した様な、本発明を実施する場合に、変速装置3aと回転伝達装置4aとを軸方向に長いシャフト等で動力伝達を可能に接続し、ケーシング32とこのシャフトの外周面との間にシールを設ければ、前記変速装置3aと前記回転伝達装置4aとを潤滑する潤滑剤を互いに異ならせる事ができる。従って、例えば電動モータ1aをグリース等で、摩擦ローラ式減速機2bをトラクションオイルで、前記変速装置3aをATFで、前記回転伝達装置4aをデフオイルで、それぞれ潤滑する事ができる。
又、上述の様な構造に於いて、前記電動モータ1a及び前記摩擦ローラ式減速機2bを潤滑する潤滑剤を同じにできる場合には、モータ収納部33と減速機収納部34との間部分のシール50aを省略する事もできる。この様な場合、例えば前記電動モータ1a及び前記摩擦ローラ式減速機2bをトラクションオイルで、前記変速装置3aをATFで、前記回転伝達装置4aをデフオイルで、それぞれ潤滑する。
同様に、前記摩擦ローラ式減速機2b及び前記変速装置3aを潤滑する潤滑剤を同じにできる場合には、前記減速機収納部34と変速装置収納部35との間部分のシールを省略する。この様な場合、例えば前記電動モータ1aをグリース等で、前記摩擦ローラ式減速機2b及び前記変速装置3aをトラクションオイルで、前記回転伝達装置4aをデフオイルで、それぞれ潤滑する。
【0027】
尚、本発明の技術的範囲からは外れるが、上述の様なシャフトを設けた構造に於いて、前記電動モータ1a及び前記摩擦ローラ式減速機2b、前記変速装置3aを潤滑する潤滑剤を同じにできる場合には、前記両シール50a、50bを、何れも省略する事もできる。この様な場合、例えば前記電動モータ1a及び前記摩擦ローラ式減速機2b、前記変速装置3aをトラクションオイルで、前記回転伝達装置4aをデフオイルで、それぞれ潤滑する。
【0028】
更に、本発明の電気自動車用駆動装置に関する発明を実施する場合に、摩擦ローラ式減速機は、前述した図5に示す様な、遊星ローラ式の摩擦ローラ式減速機とする事もできる。
又、摩擦ローラ式減速機と回転伝達装置との間に組み込む変速装置の種類は問わない。図示の構造の他に、遊星歯車式の変速装置を採用する事もできる。更には、ベルト式若しくはトロイダル式の無段変速装置を採用する事もできる。無段変速装置を採用すれば、前述の図3に示した様な、車両の走行速度と加速度との関係を、より理想に近い、滑らかなものにできる。
【符号の説明】
【0029】
1、1a 電動モータ
2、2a、2b 摩擦ローラ式減速機
3、3a 変速装置
4、4a 回転伝達装置
5、5a 入力軸
6 出力軸
7、7a 入力側伝達軸
8、8a 出力側伝達軸
9a〜9d 歯車伝達機構
10a〜10d クラッチ機構
11、11a デファレンシャルギヤ
12、12a 出力軸
13、13a 太陽ローラ
14、14a 環状ローラ
15 遊星ローラ
16、16a ローディングカム装置
17a〜17c 太陽ローラ素子
18 環状空間
19 遊星軸
20 キャリア
21 支え環
22 皿ばね
23、23a カム板
24 玉
25 被駆動側カム面
26 駆動側カム面
27 出力軸
28 中間ローラ
29 連結部
30 自転軸
31a、31b 出力軸
32 ケーシング
33 モータ収納部
34 減速機収納部
35 変速装置収納部
36 回転伝達装置収納部
37 凹部
38 中間軸
39a〜39d 玉軸受
40a、40b ボルト
41 鍔部
42 ねじ孔
43 本体部分
44a、44b 鍔部
45 取付孔
46 蓋体
47a、47b 貫通孔
48 ねじ孔
49 取付孔
50a、50b シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、この電動モータの出力軸と共に回転する入力軸を有する摩擦ローラ式減速機と、この摩擦ローラ式減速機の出力軸により回転駆動される入力側伝達軸及び出力側伝達軸を有し、これら入力側伝達軸と出力側伝達軸との間の減速比を、少なくとも高低の2段階に変換可能な変速装置と、この変速装置の出力側伝達軸の回転を駆動輪に伝達する為の回転伝達装置とを備えた電気自動車用駆動装置に於いて、
この電気自動車用駆動装置を収納するケーシングが、前記電動モータを納めるモータ収納部と、前記摩擦ローラ式減速機を納める減速機収納部と、前記変速装置を納める変速装置収納部と、前記回転伝達装置を納める回転伝達装置収納部とから成り、これら各収納部が一体に構成されており、これら各収納部のうち、前記モータ収納部と前記減速機収納部との間部分と、この減速機収納部と前記変速装置収納部との間部分とのうちの少なくとも一方の間部分にシールを設け、前記摩擦ローラ式減速機と、このシールを介してこの摩擦ローラ式減速機と隣接する要素部分とを互いに異なる種類の潤滑剤で潤滑する事を特徴とする電気自動車用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107536(P2013−107536A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255285(P2011−255285)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】