説明

電気自動車

【課題】 左右の車輪を個別に駆動する複数のモータを備えた電気自動車において、1輪分のモータ異常が発生した場合に、停止させることなく、車両姿勢の安定化を図って走行を可能とする。
【解決手段】 各モータ6の異常を検出するモータ異常検出手段37と、片側異常時対応制御手段38とを設ける。片側異常時対応制御手段38は、モータ異常検出手段37により、車両の同じ前後方向位置にある左右のいずれか一方の車輪2,3のモータ6にモータ停止以外の異常が検出された場合に、同じ前後方向位置にある他方の車輪2,3のモータ6を、異常の検出されたモータ6の動作状態と同じ動作状態に近づくように制御する。この制御は、他方のモータ6のトルクを強制的に減じる制御、回生ブレーキとして作用させる制御、他方の車輪2,3のブレーキ作動の制御等とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪を個別に駆動するモータを備えたバッテリ駆動、燃料電池駆動等のインホイールモータ車両等となる電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車において、車両の走行安定性の向上や、車両有効スペース確保が図れるインホイールモータ駆動装置が開発されている。例えば、4輪ともインホイールモータ駆動装置で駆動する車両や、2輪をインホイールモータ駆動装置で駆動し、残り2輪を従動輪とする車両がある。また、インホイールモータ駆動装置を用いない形式の電気自動車においても、車輪を個別に駆動するモータを備えた電気自動車がある。
【0003】
このような4輪または左右2輪を、インホイールモータ駆動装置等のモータで個別に駆動する車両において、1輪分のモータが故障した場合、故障のモータにブレーキ力が作用すると、車両のスピン等に繋がる。その際の車両の姿勢安定を保つために、従来は左右両方のモータを停止させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−172935公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、左右の1輪分のモータが故障した場合、従来は左右両方のモータを停止させている。しかし、急激な両輪停止は、車両の急停止による問題が生じる場合がある。また、モータの故障,異常が軽度であれば、車両姿勢の安定化を図り、修理工場や、路上の退避場所への走行等を可能とすることが望まれる。
【0006】
この発明の目的は、左右の車輪を個別に駆動する複数のモータを備えた電気自動車において、1輪分のモータ異常が発生した場合に、停止させることなく、車両姿勢の安定化を図って走行を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の電気自動車は、車両の左右の車輪2,3を個別に駆動する複数のモータ6と、これらのモータ6を制御するモータ制御装置20とを備えた電気自動車において、前記各モータ6の異常を検出するモータ異常検出手段37と、このモータ異常検出手段37により、車両の同じ前後方向位置にある左右のいずれか一方の車輪2,3のモータ6にモータ停止以外の異常が検出された場合に、同じ前後方向位置にある他方の車輪2,3のモータ6を、異常の検出されたモータ6の動作状態と同じ動作状態に近づくように制御する片側異常時対応制御手段38とを設けたことを特徴とする。ここで言う「モータの異常」は、モータ6の故障の場合と、モータ6自体は故障していなくても、制御系の失陥など、何らかの要因でモータ6が正常な動作をしていない場合とを含む。
【0008】
この構成によると、車両左右のうちの1輪のモータ6に故障等の異常が発生した場合、片側異常時対応制御手段38の制御により、モータ異常の車輪2,3と同じ前後方向位置にある他方の車輪2,3のモータ6を、異常の検出されたモータ6の動作状態と同じ動作状態に近づくように制御する。この制御は、一般的には、車輪2,3の回転を減速させる制御とするのが良いが、ある程度までの軽度の異常であれば、加速させる制御であっても良い。このように、他方の車輪2,3のモータ6を、異常の検出されたモータ6の動作状態と同じ動作状態に近づくように制御することで、モータ異常による左右の車輪2,3の回転の不均等が軽減され、車両の走行姿勢の安定を保つことができる。このため、1輪分のモータ異常が発生した場合に、停止させることなく、車両姿勢の安定化を図って走行を可能とでき、例えば、路上の退避場所等の安全な場所まで走行して停止させたり、修理工場へ走行するなど、故障への対応が容易な場所まで安全に走行してモータ異常への対処を図ることができる。
【0009】
この発明において、前記片側異常時対応制御手段38は、前記モータ異常検出手段37で検出された異常が、モータ6にブレーキ力が発生した異常である場合に、同じ前後方向位置にある他方のモータ6のトルクを強制的に減じる制御、回生ブレーキとして作用させる制御、および前記他方のモータ6で駆動される車輪2,3に対するブレーキ9,10を作動させる制御のいずれか一つ以上を行わせるのが良い。
1輪のモータ6にブレーキ力が発生した場合、車両のスピン等につながる恐れがあるが、片側異常時対応制御手段38は、同じ前後方向位置にある他方の車輪2,3のモータ6のトルクを強制的に減じるか、回生ブレーキとして作用させるか、または他方のモータ6で駆動される車輪2,3のブレーキを作動させる。モータ6にブレーキ力が発生した異常が、ある程度軽度のブレーキ力の発生であれば、回生ブレーキとして作用させる制御やブレーキを作動させる制御は、車両停止まで行う必要はなく、減速させれば良い。このように他方の車輪2,3の回転を落とす制御を行い、左右の車輪2,3の駆動のバランスを得ることで、車両姿勢を安定して走行させることができる。
【0010】
この発明において、前記モータ異常検出手段38は、検出対象のモータ6で駆動される車輪2,3に対して前後および左右のいずれかに隣接する車輪2,3を駆動するモータ6についてのモータ電流、モータ回転数、モータ駆動用のインバータ装置22へのトルク指令値、および車輪用軸受4に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサ41の荷重検出値のいずれかを、検出対象のモータ6における、モータ電流、モータ回転数、モータ駆動用インバータ装置22へのトルク指令値、および荷重検出値とそれぞれ比較することで、異常の検出を行うようにしても良い。
前後に隣接する車輪2,3は、通常であればほぼ同じ回転速度となる。左右に隣接する車輪2,3は、直線走行時は同じ回転速度となり、曲線路の走行時でも、回転半径等に応じた回転速度の関係になる。また、車輪2,3の駆動力は、前記荷重センサ4の荷重検出値に現れる。そのため、モータ電流、モータ回転数、トルク指令値、荷重センサの荷重検出値のいずれかを、検出対象のモータ6における、モータ電流、モータ回転数、トルク指令値、荷重検出値等につき、検出対象のモータ6の値と隣接する車輪2,3を駆動するモータについての値とを比較すれば、モータ異常が検出できる。
【0011】
この発明において、前記モータ異常検出手段37は、検出されたモータ電流が、モータ駆動用のインバータ装置22へのトルク指令値に相当するモータ電流値の設定倍数以上になった場合に異常と判断するものであっても良い。モータ6が正常で有れば、モータ電流と、トルク指令値に相当するモータ電流値はある範囲を保つ。そのため、モータ電流値が設定倍数以上になったことを検出することによっても、モータ異常が判断できる。なお、上記の「設定倍数」は、1以上であっても、1未満であっても良く、制御目的などに応じて適宜に定めれば良い。また、1未満の場合は、この明細書においては零に近い値であるほど、倍率が高いと言う。
【0012】
この発明において、前記モータ異常検出手段37は、モータ電流値が、モータ駆動用のインバータ装置22へのトルク指令値に相当するモータ電流値に略一致している場合に、異常検出対象とするモータ6の回転数が、このモータ6で駆動される車輪に対して前後または左右に隣接する車輪2,3のモータの回転数の設定倍数以上となったときに、異常と判断するものであってもよい。上記の「略一致している場合」とは、通常に生じるトルク指令値とモータ電流値の差の範囲内であることであり、略一致しているか否かの判断は、適宜の範囲を設定して、その範囲内に電流値の差があれば、略一致していると判断すれば良い。
トルク指令値に対してモータ電流値が一致している場合であっても、モータ6の回転数はある範囲等で大きく変わることがあるが、前後または左右に隣接する車輪2,3のモータの間では、正常であれば、モータ回転数は、ある程度の定まった範囲内となる。したがって、前後または左右に隣接する車輪2,3のモータの回転数の設定倍数以上となったときに、異常と判断することで、適切なモータ異常の判断が行える。
【0013】
この発明において、前記モータ異常検出手段37は、モータ電流値が、モータ駆動用のインバータ装置22へのトルク指令値に相当するモータ電流値に略一致している場合に、異常検出対象のモータ6に連結される車輪用軸受4に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサ41における車両進行方向の検出荷重FX が、異常検出対象のモータ6で駆動される車輪2,3に対して前後または左右に隣接する車輪2,3の車輪用軸受に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサ41における車両進行方向の検出荷重FX に対して、設定倍数となったときに異常と判断するものであっても良い。
車輪用軸受4に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサ41における車両進行方向の検出荷重FX は、モータトルクに対応した値となる。このため、前後または左右の車輪2,3の間で、荷重センサ41による車両進行方向の検出荷重FX を比較することによっても、モータ6の異常が検出できる。
【0014】
この発明において、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU21と、直流電力を交流電力に変換するインバータ31を含むパワー回路部28および前記ECUから与えられるトルク指令に従って前記パワー回路部を制御するモータコントロール部29を有するインバータ装置29とを備え、前記インバータ装置22は各モータ毎に設けられ、これらECU21とインバータ装置22とで前記モータ制御装置20が構成され、前記インバータ装置22の前記モータコントロール部29に前記モータ異常検出手段37および片側異常時対応制御手段38を設けても良い。この場合に、個々のインバータ装置22に、前記モータ異常検出手段37および前記片側異常時対応制御手段38を設けても良い。
また、前記インバータ装置22の前記モータコントロール部29に前記モータ異常検出手段37を設け、前記ECU21に前記片側異常時対応制御手段38を設けても良い。
【0015】
電気自動車における制御系は、一般的にはメインのECU21とモータ6毎のインバータ装置22で構成される。この一般的な形式の制御系において、この発明を適用する場合、前記のようにインバータ装置22にモータ異常検出手段37や片側異常時対応制御手段38を設けることが、高機能化により煩雑化が進むECU21の負担を軽減することができ、またECU21の設計とインバータ装置22の設計とを分離し易くなる。例えば、インホイールモータ駆動装置のモータ6とインバータ装置22をセットして製造販売する業者において、独自に開発をすることができる。
片側異常時対応制御手段38については、インバータ装置22で制御するモータ6とは別のモータ6に影響を与えるため、インバータ装置22に設けるよりもECU21に設ける方が、制御系が簡素化できる場合もある。
【0016】
この発明において、前記モータ6は、車輪用軸受4と、この車輪用軸受4とモータ6の間に介在した減速機7とを有するインホイールモータ駆動装置8を構成するものであっても良い。インホイールモータ駆動装置8は、各車輪を独立でトルクコントロールできるため、木目細かい車両制御ができる点で優れているが、車輪2,3の個別の駆動となるため、左右輪の片側のみのモータ異常による問題が発生する。この問題が、この発明によって効果的に解消できる。
【0017】
前記インホイールモータ駆動装置8における減速機7は、サイクロイド減速機であっても良い。サイクロイド減速機は円滑な動作で高減速比が得られる。高減速比を有する減速機6を介して車輪2,3にトルク伝達する場合、モータ異常を原因としたトルクは拡大されて車輪2,3に伝達される。そのため、この発明による左右の駆動を揃える制御が、より一層効果的となる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の電気自動車は、車両の左右の車輪を個別に駆動する複数のモータと、これらのモータを制御するモータ制御装置とを備えた電気自動車において、前記各モータの異常を検出するモータ異常検出手段と、このモータ異常検出手段により、車両の同じ前後方向位置にある左右のいずれか一方の車輪のモータにモータ停止以外の異常が検出された場合に、同じ前後方向位置にある他方の車輪のモータを、異常の検出されたモータの動作状態と同じ動作状態に近づくように制御する片側異常時対応制御手段とを設けたため、左右の車輪を個別に駆動する複数のモータを備えながら、1輪分のモータ異常が発生した場合に、停止させることなく、車両姿勢の安定化を図って走行を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図2】同電気自動車のインホイールモータユニットの概念構成を示すブロック図である。
【図3】同電気自動車におけるECU、各インバータ装置、およびそのモータ誤動作チェック・コントロール手段の概念構成を示すブロック図である。
【図4】同電気自動車におけるモータ故障の車輪と他の車輪との関係を示す説明図である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る電気自動車の制御系の概念構成を示すブロック図である。
【図6】前記各実施形態に係る電気自動車におけるインホイールモータ駆動装置の破断正面図である。
【図7】図6のVII −VII 線断面図である。
【図8】図7の部分拡大断面図である。
【図9】前記電気自動車における車輪用軸受と外方部材の側面図と荷重検出用の信号処理ユニットとを組み合わせた図である。
【図10】同電気自動車におけるセンサユニットの拡大平面図である。
【図11】同センサユニットの断面図である。
【図12】同電気自動車における回転センサの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4と共に説明する。この電気自動車は、車体1の左右の後輪となる車輪2および左右の前輪となる車輪3が共に駆動輪とされた4輪駆動の自動車である。前輪となる車輪3は操舵輪とされている。各車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4を介して車体1に支持されている。車輪用軸受4は、図1ではハブベアリングの略称「H/B」を付してある。各車輪2,3は、それぞれ独立の走行用のモータ6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して駆動輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成している。インホイールモータ駆動装置8は、一部または全体が車輪2内に配置される。各インホイールモータ駆動装置8は、後述のインバータ装置22と共に、インホイールモータユニット30を構成する。各車輪2,3には、電動式等の摩擦ブレーキである機械式のブレーキ9,10がそれぞれ設けられている。なお、「機械式」とは、回生ブレーキと区別のための用語であり、油圧ブレーキもー含まれる。
【0021】
左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、操舵機構12により操舵される。転舵機構11は、タイロッド11aを左右移動させることで、車輪用軸受5を保持した左右のナックルアーム11bの角度を変える機構であり、操舵機構12の指令によりEPS(電動パワーステアリング)モータ13を駆動させ、回転・直線運動変換機構(図示せず)を介して左右移動させられる。操舵角は操舵角センサ15で検出し、このセンサ出力はECU21に出力され、その情報は左右輪の加速・減速指令等に使用される。
【0022】
制御系を説明する。自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるメインのECU21と、このECU21の指令に従って各走行用のモータ6の制御をそれぞれ行う複数(図示の例では4つ)のインバータ装置22と、ブレーキコントローラ23とが、車体1に搭載されている。前記ECU21とインバータ装置22とで、モータ制御装置20が構成される。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。なお、ECU21や他の各コンピュータは、例えばマイクロコンピュータである。
【0023】
ECU21は、機能別に大別すると駆動に関する制御を行う駆動制御部21aと、その他の制御を行う一般制御部21bとに分けられる。駆動制御部21aは、トルク配分手段48を有していて、トルク配分手段48は、アクセル操作部16の出力する加速指令と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵角センサ15の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令をトルク指令値として生成し、インバータ装置22へ出力する。トルク配分手段48は、ブレーキ操作部17の出力する減速指令があったときに、モータ6を回生ブレーキとして機能させる制動トルク指令値と、機械式のブレーキ9,10を動作させる制動トルク指令値とに配分する機能を持つ。回生ブレーキとして機能させる制動トルク指令値は、各走行用のモータ6,6に与える加速・減速指令のトルク指令値に反映させる。機械式のブレーキ9,10を動作させる制動トルク指令値は、ブレーキコントローラ23へ出力する。トルク配分手段48は、上記の他に、出力する加速・減速指令を、各車輪2,3の車輪用軸受4に設けられた回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報を用いて補正する機能を有していても良い。アクセル操作部16は、アクセルペダルとその踏み込み量を検出して前記加速指令を出力するセンサ16aとでなる。ブレーキ操作部17は、ブレーキペダルとその踏み込み量を検出して前記減速指令を出力するセンサ17aとでなる。
【0024】
ECU21の一般制御部21bは、各種の補機システム25を制御する機能、コンソールの操作パネル26からの入力指令を処理する機能、表示手段27に表示を行う機能などを有する。前記補機システム25は、例えば、エアコン、ライト、ワイパー、GPS、アエバッグ等であり、ここでは代表して一つのブロックとして示す。
【0025】
ブレーキコントローラ23は、ECU21から出力される制動指令に従って、各車輪2,3の機械式のブレーキ9,10に制動指令を与える手段であり、制動専用のECUとなる電子回路やマイコン等により構成される。メインのECU21から出力される制動指令には、ブレーキ操作部17の出力する減速指令によって生成される指令の他に、ECU21の持つ安全性向上のための手段によって生成される指令がある。ブレーキコントローラ23は、この他にアンチロックブレーキシステムを備える。
【0026】
インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントロール部29とで構成される。モータコントロール部29は、このモータコントロール部29が持つインホイールモータ駆動装置8に関する各検出値や制御値等の各情報(「IWMシステム情報」と称す)をECU21に出力する機能を有する。
【0027】
図2は、インホイールモータユニット30の概念構成を示すブロック図である。インバータ装置22のパワー回路部28は、バッテリ19(図1)の直流電力をモータ6の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とで構成される。モータ6は3相の同期モータ、例えばIPM型(埋込磁石型)同期モータ等からなる。インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0028】
モータコントロール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。モータコントロール部29は、上位制御手段であるECU21から与えられるトルク指令等による加速・減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える。また、モータコントロール部29は、インバータ31からモータ6に流すモータ電流値を電流センサ35から得て、電流フィードバック制御を行う。この電流制御では、モータ6のロータの回転角を角度センサ36から得て、ベクトル制御等の回転角に応じた制御を行う。
【0029】
この実施形態は、モータコントロール部29に、次のモータ異常検出手段37および片側異常時対応制御手段38からなるモータ誤動作チェック・コントロール手段34および異常報告手段47を設けたものである。
モータ異常検出手段37は、このモータ異常検出手段37が設けられたインバータ装置22で駆動されるモータ6の異常を検出する。なお、ここで言う「モータの異常」は、モータ6の故障の場合と、モータ6自体は故障していなくても、制御系の失陥など、何らかの要因でモータ6が正常な動作をしていない場合とを含む。
片側異常時対応制御手段38は、モータ異常検出手段37によりモータ停止以外のモータ6の異常が検出された場合、つまり車両の同じ前後方向位置にある左右のいずれか一方の車輪2,3のモータ6にモータ停止以外の異常が検出された場合に、同じ前後方向位置にある他方の車輪2,3のモータ6を、異常の検出されたモータ6の動作状態と同じ動作状態に近づくように制御する手段である。片側異常時対応制御手段38は、例えば、図4に示す後輪のうちの右側の車輪2R のモータ6の異常が検出された場合、同じく後輪のうちの左側の車輪2L のモータ6を、異常の検出されたモータ6の動作状態と同じ動作状態に近づくように制御する。
【0030】
このように、左右における他方の車輪2,3のモータ6を、異常の検出されたモータ6の動作状態と同じ動作状態に近づくように制御することで、モータ異常による左右の車輪2,3の回転の不均等が軽減され、車両の走行姿勢の安定を保つことができる。このため、1輪分のモータ6の異常が発生した場合に、停止させることなく、車両姿勢の安定化を図って走行を可能とでき、例えば、路上の退避場所等の安全な場所まで走行して停止させたり、修理工場へ走行するなど、故障への対応が容易な場所まで安全に走行してモータ異常への対処を図ることができる。上記の同じ動作状態に近づける制御は、車輪2,3の回転を減速させる制御とするのが良いが、ある程度までの軽度の異常であれば、加速させる制御であっても良い。上記の「ある程度までの軽度の異常」であるか否かの判断は、片側異常時対応制御手段38に適宜設定した値で行う。
【0031】
片側異常時対応制御手段38は、モータ異常検出手段37で検出された異常が、モータ6にブレーキ力が発生した異常である場合に、同じ前後方向位置にある他方のモータ6のトルクを強制的に減じる制御、回生ブレーキとして作用させる制御、および前記他方のモータ6で駆動される車輪2,3に対するブレーキ9,10を作動させる制御のいずれか一つ以上を行わせるのが良い。他方のモータ6のトルクを強制的に減じる制御、または回生ブレーキとして作用させる制御を行う場合は、ECU21のトルク配分手段48を介して制御しても良く、またインバータ装置22同士の間で直接に制御指令を与えるようにしても良い。ブレーキ9,10を作動させる制御を行う場合、ブレーキコントローラ23を介して行う。
【0032】
左右の片側となる1輪のモータ6にブレーキ力が発生した場合、車両のスピン等につながる恐れがあるが、片側異常時対応制御手段38により、同じ前後方向位置にある他方の車輪2,3のモータ6のトルクを強制的に減じるか、回生ブレーキとして作用させるか、または他方のモータ6で駆動される車輪2,3のブレーキを作動させ、左右の車輪2,3の駆動のバランスを得ることで、車両姿勢を安定して走行させることができる。モータ6にブレーキ力が発生した異常が、ある程度軽度のブレーキ力の発生であれば、回生ブレーキとして作用させる制御やブレーキを作動させる制御は、車両停止まで行う必要はなく、減速させれば良い。このように他方の車輪2,3の回転を落とす制御を行い、左右の車輪2,3の駆動のバランスを得ることで、車両姿勢を安定して走行させることができる。「ある程度軽度のブレーキ力」であるか否かは、適宜設定して判断すれば良い。
【0033】
なお、片側異常時対応制御手段38を各インバータ装置22に設け、ECU21を介することなく、各インバータ装置22の間で直接に異常対応の制御を行う場合は、各インバータ装置22のモータコントロール部29に、他のインバータ装置22に設けられた片側異常時対応制御手段38の出力する指令に対応してモータ制御する機能を持たせる。
【0034】
モータ異常の検出の説明する。モータ異常検出手段38は、検出対象のモータ6で駆動される車輪2,3に対して前後および左右のいずれかに隣接する車輪2,3を駆動するモータ6についてのモータ電流、モータ回転数、モータ駆動用のインバータ装置22へのトルク指令値Tr、および車輪用軸受4に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサ41の荷重検出値のいずれかを、検出対象のモータ6における、モータ電流、モータ回転数、モータ駆動用インバータ装置22へのトルク指令値、および荷重検出値とそれぞれ比較することで、異常の検出を行うようにしても良い。
モータ異常検出手段38において、モータ6のモータ電流の検出値は前記電流センサ35の検出値を用いる。モータ回転数は角度センサ36から得る。モータ駆動用のインバータ装置22へのトルク指令値Trは、トルク配分手段48で配分して与えられる指令値である。荷重センサ41については、後に図9〜図11と共に具体例を説明する。
【0035】
前後に隣接する車輪2,3は、通常であれば同じ回転速度となる。左右に隣接する車輪2,3(つまり後輪同士、前輪同士)は、直線走行時は同じ回転速度となり、曲線路の走行時でも、回転半径等に応じた回転速度の関係になる。また、車輪2,3の駆動力は、前記荷重センサ4の荷重検出値に現れる。そのため、モータ電流、モータ回転数、トルク指令値、荷重センサの荷重検出値のいずれかにつき、検出対象のモータ6と、隣接する車輪2,3を駆動するモータ6についての値を比較すれば、モータ異常が検出できる。
【0036】
モータ異常検出手段38は、モータ電流が、モータ駆動用のインバータ装置22へのトルク指令値Trに相当するモータ電流値が設定倍数以上になった場合に異常と判断するものであっても良い。モータ6が正常で有れば、モータ電流と、トルク指令値に相当するモータ電流値とはある範囲を保つ。そのため、モータ電流値が設定倍数以上になったことを検出することによっても、モータ異常が判断できる。なお、上記の「設定倍数」は、1以上であっても、1未満であっても良く、制御目的などに応じて適宜に定めれば良い。
【0037】
この他に、モータ異常検出手段38は、モータ電流値が、モータ駆動用のインバータ装置22へのトルク指令値Trに相当するモータ電流値に略一致している場合に、異常検出対象とするモータ6の回転数が、このモータ6駆動される車輪に対して前後または左右に隣接する車輪2,3のモータの回転数の設定倍数以上となったときに、異常と判断するものであってもよい。上記の「略一致している場合」とは、通常に生じるトルク指令値とモータ電流値の差の範囲内であることであり、略一致しているか否かの判断は、適宜の判定を設定して、その範囲内に電流値の差があれば、略一致していると判断すれば良い。
トルク指令値に対してモータ電流値が一致している場合であっても、モータ6の回転数はある範囲等で大きく変わることがあるが、前後または左右に隣接する車輪2,3のモータの間では、正常であれば、モータ回転数は、ある程度の定まった範囲内となる。したがって、前後または左右に隣接する車輪2,3のモータの回転数の設定倍数以上となったときに、異常と判断することで、適切なモータ異常の判断が行える。
【0038】
また、モータ異常検出手段37は、モータ電流値が、モータ駆動用のインバータ装置22へのトルク指令値に相当するモータ電流値に略一致している場合に、異常検出対象のモータ6に連結される車輪用軸受4に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサ41における車両進行方向の検出荷重FX が、異常検出対象のモータ6で駆動される車輪2,3に対して前後または左右に隣接する車輪2,3の車輪用軸受に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサ41における車両進行方向の検出荷重FX に対して、設定倍数となったときに異常と判断するものであっても良い。
車輪用軸受4に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサ41における車両進行方向の検出荷重FX は、モータトルクに対応した値となる。このため、前後または左右の車輪2,3の間で、荷重センサ41による車両進行方向の検出荷重FX を比較することによっても、モータ6の異常が検出できる。
【0039】
報告手段47は、モータ異常検出手段37でモータ異常を検出した場合、または片側異常時対応制御手段38でモータ異常に対する処理を行った場合、またはその両方の場合に、ECU21に、その異常検出や異常対応の処理の報告となる信号を送信する。ECU21は、この異常報告手段47の報告を受けて、対応する制御を行う手段や、コンソールの表示手段27に、運転者に知らせるための表示を行う手段(これら両手段を纏めて図2にECU内対応制御部49として示す)が設けられる。
【0040】
例えば、片側異常時対応制御手段38がモータ異常に対応する制御を行った場合に、報告手段47がその異常に対応した制御内容をECU21に報告した場合、ECU21は、この報告を受けて、車両全体の協調制御が行えるように、適宜の定められた制御を行うと共に、コンソールの表示手段27に、運転者にモータ6の異常発生やそれに対応した制御を行った旨を知らせる表示を行う。異常発生の表示は、モータ異常検出手段37により異常を検出した信号に応答して行うようにしても良い。
【0041】
この電気自動車によると、このように、片側のモータ6に異常が発生した場合に、他方の車輪2,3のモータ6を、異常の検出されたモータ6の動作状態と同じ動作状態に近づくように制御するため、モータ異常による左右の車輪2,3の回転の不均等が軽減され、車両の走行姿勢の安定を保つことができる。
【0042】
この実施形態では、モータ6にインホイールモータ駆動装置8を採用しているため、コンパクト化の面で優れているが、車輪2,3の個別の駆動となるため、左右輪の片側のみのモータ異常による問題が発生する。この問題が、上記のように効果的に解消される。
インホイールモータ駆動装置8における減速機7は、サイクロイド減速機としたため、円滑な動作で高減速比が得られる。しかし、高減速比を有する減速機6を介して車輪2,3にトルク伝達する場合、モータ異常を原因としたトルクは拡大されて車輪2,3に伝達される。そのため、この実施形態による左右の駆動を揃える制御が、より一層効果的となる。
【0043】
また、モータ異常検出手段37および片側異常時対応制御手段38はインバータ装置22に設けたため、高機能化により煩雑化が進むECU21の負担を軽減することができ、またECU21の設計とインバータ装置22の設計とを分離し易くなる。例えば、インホイールモータ駆動装置のモータ6とインバータ装置22をセットして製造販売する業者において、独自に開発をすることができる。
【0044】
なお、片側異常時対応制御手段38は、図5に示すようにECU21に設けても良い。片側異常時対応制御手段38による制御は、その片側異常時対応制御手段38が設けられたインバータ装置22で制御するモータ6とは別のモータ6に影響を与えるため、インバータ装置22に設けるよりもECU21に設ける方が、制御系が素化できる場合もある。この他に、モータ異常検出手段37および片側異常時対応制御手段38を、共にECU21に設けても良い。
【0045】
次に、図6〜図8と共に、前記インホイールモータ駆動装置8の具体例を示す。このインホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4とモータ6との間に減速機7を介在させ、車輪用軸受4で支持される駆動輪2のハブとモータ6の回転出力軸74とを同軸心上で連結してある。減速機7は、サイクロイド減速機であって、モータ6の回転出力軸74に同軸に連結される回転入力軸82に偏心部82a,82bを形成し、偏心部82a,82bにそれぞれ軸受85を介して曲線板84a,84bを装着し、曲線板84a,84bの偏心運動を車輪用軸受4へ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0046】
車輪用軸受4は、内周に複列の転走面53を形成した外方部材51と、これら各転走面53に対向する転走面54を外周に形成した内方部材52と、これら外方部材51および内方部材52の転走面53,54間に介在した複列の転動体55とで構成される。内方部材52は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受4は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体55はボールからなり、各列毎に保持器56で保持されている。上記転走面53,54は断面円弧状であり、各転走面53,54は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材51と内方部材52との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材57でシールされている。
【0047】
外方部材51は静止側軌道輪となるものであって、減速機7のアウトボード側のハウジング83bに取り付けるフランジ51aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ51aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔64が設けられている。また、ハウジング83bには,ボルト挿通孔64に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔94が設けられている。ボルト挿通孔94に挿通した取付ボルト65をボルト螺着孔94に螺着させることにより、外方部材51がハウジング83bに取り付けられる。
【0048】
内方部材52は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ59aを有するアウトボード側材59と、このアウトボード側材59の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材59に一体化されたインボード側材60とでなる。これらアウトボード側材59およびインボード側材60に、前記各列の転走面54が形成されている。インボード側材60の中心には貫通孔61が設けられている。ハブフランジ59aには、周方向複数箇所にハブボルト66の圧入孔67が設けられている。アウトボード側材59のハブフランジ59aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部63がアウトボード側に突出している。このパイロット部63の内周には、前記貫通孔61のアウトボード側端を塞ぐキャップ68が取り付けられている。
【0049】
減速機7は、上記したようにサイクロイド減速機であり、図8のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板84a,84bが、それぞれ軸受85を介して回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着してある。これら各曲線板84a,84bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン86を、それぞれハウジング83bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材60に取り付けた複数の内ピン88を、各曲線板84a,84bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔89に挿入状態に係合させてある。回転入力軸82は、モータ6の回転出力軸74とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸82はインボード側のハウジング83aと内方部材52のインボード側材60の内径面とに2つの軸受90で両持ち支持されている。
【0050】
モータ6の回転出力軸74が回転すると、これと一体回転する回転入力軸82に取り付けられた各曲線板84a,84bが偏心運動を行う。この各曲線板84a,84bの偏心運動が、内ピン88と貫通孔89との係合によって、内方部材52に回転運動として伝達される。回転出力軸74の回転に対して内方部材52の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0051】
前記2枚の曲線板84a,84bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着され、各偏心部82a,82bの両側には、各曲線板84a,84bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部82a,82bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト91が装着されている。
【0052】
図8に拡大して示すように、前記各外ピン86と内ピン88には軸受92,93が装着され、これらの軸受92,93の外輪92a,93aが、それぞれ各曲線板84a,84bの外周と各貫通孔89の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピン86と各曲線板84a,84bの外周との接触抵抗、および内ピン88と各貫通孔89の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板84a,84bの偏心運動をスムーズに内方部材52に回転運動として伝達することができる。
【0053】
図6において、モータ6は、円筒状のモータハウジング72に固定したモータステータ73と、回転出力軸74に取り付けたモータロータ75との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータである。回転出力軸74は、減速機7のインボード側のハウジング83aの筒部に2つの軸受76で片持ち支持されている。
【0054】
モータステータ73は、軟質磁性体からなるステータコア部77とコイル78とでなる。ステータコア部77は、その外周面がモータハウジング72の内周面に嵌合して、モータハウジング72に保持されている。モータロータ75は、モータステータ73と同心に回転出力軸74に外嵌するロータコア部79と、このロータコア部79に内蔵される複数の永久磁石80とでなる。
【0055】
モータ6には、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を検出する角度センサ36が設けられる。角度センサ36は、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を表す信号を検出して出力する角度センサ本体70と、この角度センサ本体70の出力する信号から角度を演算する角度演算回路71とを有する。角度センサ本体70は、回転出力軸74の外周面に設けられる被検出部70aと、モータハウジング72に設けられ前記被検出部70aに例えば径方向に対向して近接配置される検出部70bとでなる。被検出部70aと検出部70bは軸方向に対向して近接配置されるものであっても良い。ここでは、各角度センサ36として、磁気エンコーダまたはレゾルバが用いられる。モータ6の回転制御は上記モータコントロール部29(図1,2)により行われる。このモータ6では、その効率を最大にするため、角度センサ42の検出するモータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度に基づき、モータステータ73のコイル78へ流す交流電流の各波の各相の印加タイミングを、モータコントロール部29のモータ駆動制御部33によってコントロールするようにされている。
なお、インホイールモータ駆動装置8のモータ電流の配線や各種センサ系,指令系の配線は、モータハウジング72等に設けられたコネクタ99により纏めて行われる。
【0056】
図2に示す前記荷重センサ24は、例えば図9に示す複数のセンサユニット120と、これらセンサユニット120の出力信号を処理する信号処理ユニット130とで構成される。センサユニット120は、車輪用軸受4における静止側軌道輪である外方部材51の外径面の4か所に設けられる。図8は、外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。ここでは、これらのセンサユニット120が、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる外方部材51における外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に設けられている。信号処理ユニット130は、外方部材51に設けられていても良く、まインバータ装置22のモータコントロール部29に設けられていても良い。
【0057】
信号処理ユニット130は、上記4箇所のセンサユニット120の出力を比較し、定められた演算式に従って、車輪用軸受4に作用する各荷重、具体的には、車輪2の路面・タイヤ間で作用荷重となる直方向荷重Fz 、駆動力や制動力となる車両進行方向荷重Fx 、および軸方向荷重Fy を演算し、出力する。前記センサユニット120を4つ設け、各センサユニット120を、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる外方部材51の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に円周方向90度の位相差で等配しているので、車輪用軸受4に作用する垂直方向荷重Fz 、車両進行方向荷重Fx 、軸方向荷重Fy を精度良く推定することができる。垂直方向荷重Fz は、上下2つのセンサユニット120の出力を比較することで得られ、車両進行方向荷重Fx は、前後2つのセンサユニット120の出力を比較することで得られる。軸方向荷重Fy は、4つのセンサユニット120の出力を比較することで得られる。信号処理ユニット130による上記各荷重Fx ,Fy ,Fz の演算は、試験やシミュレーションで求められた値を基に、演算式やパラメータを設定しておくことで、精度良く行うことができる。なお、より具体的には、上記の演算には各種の補正を行うが、補正については説明を省略する。
【0058】
上記各センサユニット120は、例えば、図10および図11に拡大平面図および拡大断面図で示すように、歪み発生部材121と、この歪み発生部材121に取り付けられて歪み発生部材121の歪みを検出する歪みセンサ122とでなる。歪み発生部材121は、鋼材等の弾性変形可能な金属製の厚さ3mm以下の薄板材からなり、平面概形が全長にわたり均一幅の帯状で中央の両側辺部に切欠き部121bを有する。また、歪み発生部材121は、外輪1の外径面にスペーサ123を介して接触固定される2つの接触固定部121aを両端部に有する。歪みセンサ122は、歪み発生部材121における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。ここでは、その箇所として、歪み発生部材121の外面側で両側辺部の切欠き部121bで挟まれる中央部位が選ばれており、歪みセンサ122は切欠き部121bの周辺の周方向の歪みを検出する。
【0059】
前記センサユニット120は、その歪み発生部材121の2つの接触固定部121aが、外輪1の軸方向に同寸法の位置で、かつ両接触固定部121aが互いに円周方向に離れた位置に来るように配置され、これら接触固定部121aがそれぞれスペーサ123を介してボルト124により外輪1の外径面に固定される。前記各ボルト124は、それぞれ接触固定部121aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔125からスペーサ123のボルト挿通孔126に挿通し、外方部材51の外周部に設けられたねじ孔127に螺合させる。このように、スペーサ123を介して外方部材51の外径面に接触固定部121aを固定することにより、薄板状である歪み発生部材121における切欠き部121bを有する中央部位が外輪1の外径面から離れた状態となり、切欠き部121bの周辺の歪み変形が容易となる。接触固定部121aが配置される軸方向位置として、ここでは外方部材51のアウトボード側列の転走面53の周辺となる軸方向位置が選ばれる。ここでいうアウトボード側列の転走面53の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面53の中間位置からアウトボード側列の転走面53の形成部までの範囲である。外方部材51の外径面における前記スペーサ123が接触固定される箇所には平坦部1bが形成される。
【0060】
歪みセンサ122としては、種々のものを使用することができる。例えば、歪みセンサ122を金属箔ストレインゲージで構成することができる。その場合、通常、歪み発生部材121に対しては接着による固定が行われる。また、歪みセンサ122を歪み発生部材121上に厚膜抵抗体にて形成することができる。
【0061】
図12は、図1,図2の回転センサ24の一例を示す。この回転センサ24は、車輪用軸受4における内方部材52の外周に設けられた磁気エンコーダ24aと、この磁気エンコーダ24aに対向して外方部材51に設けられた磁気センサ24bとでなる。磁気エンーダ24aは、円周方向に磁極N,Sを交互に着磁したリング状の部材である。この例では、回転センサ24は両列の転動体55,55間に配置しているが、車輪用軸受4の端部に設置しても良い。
【0062】
なお、上記実施形態では、図1,2に示すように、ECU21とインバータ装置22とを離して設けたが、ECU21とインバータ装置22とは同じコンピュータで構成されていても良い。また、上記実施形態は、4輪ともモータ駆動の電気自動車にいつて説明したが、この発明は、例えば前後いずれか2輪を従動輪とした4輪の電気自動車にも適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…車体
2,3…車輪
4…車輪用軸受
6…モータ
7…減速機
8…インホイールモータ駆動装置
9,10…機械式のブレーキ
20…モータ駆動装置
21…ECU
22…インバータ装置
24…回転センサ
28…パワー回路部
29…モータコントロール部
30…インホイールモータユニット
31…インバータ
32…PWMドライバ
33…モータ駆動制御部
34…モータ誤動作チェック・コントロール手段
35…電流センサ
36…角度センサ
37…モータ異常検出手段
38…片側異常時対応制御手段
47…異常報告手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右の車輪を個別に駆動する複数のモータと、これらのモータを制御するモータ制御装置とを備えた電気自動車において、
前記各モータの異常を検出するモータ異常検出手段と、このモータ異常検出手段により、車両の同じ前後方向位置にある左右のいずれか一方の車輪のモータにモータ停止以外の異常が検出された場合に、同じ前後方向位置にある他方の車輪のモータを、異常の検出されたモータの動作状態と同じ動作状態に近づくように制御する片側異常時対応制御手段とを設けたことを特徴とする電気自動車。
【請求項2】
請求項1において、前記片側異常時対応制御手段は、前記モータ異常検出手段で検出された異常が、モータにブレーキ力が発生した異常である場合に、同じ前後方向位置にある他方のモータのトルクを強制的に減じる制御、回生ブレーキとして作用させる制御、および前記他方のモータで駆動される車輪に対するブレーキを作動させる制御のいずれか一つ以上を行わせる電気自動車。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記モータ異常検出手段は、検出対象のモータで駆動される車輪に対して前後および左右のいずれかに隣接する車輪を駆動するモータについてのモータ電流、モータ回転数、モータ駆動用のインバータ装置へのトルク指令値、および車輪用軸受に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサの荷重検出値のいずれかを、検出対象のモータにおける、モータ電流、モータ回転数、モータ駆動用インバータへのトルク指令値、および荷重検出値とそれぞれ比較することで、異常の検出を行う電気自動車。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記モータ異常検出手段は、検出されたモータ電流が、モータ駆動用のインバータ装置へのトルク指令値に相当するモータ電流値の設定倍数以上になった場合に異常と判断する電気自動車。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、前記モータ異常検出手段は、モータ電流値が、モータ駆動用のインバータ装置へのトルク指令値に相当するモータ電流値に略一致している場合に、異常検出対象とするモータの回転数が、このモータで駆動される車輪に対して前後または左右に隣接する車輪のモータの回転数の設定倍数以上となったときに、異常と判断する電気自動車。
【請求項6】
請求項1または請求項2において、前記モータ異常検出手段は、モータ電流値が、モータ駆動用のインバータ装置へのトルク指令値に相当するモータ電流値に略一致している場合に、異常検出対象のモータに連結される車輪用軸受に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサにおける車両進行方向の検出荷重FX が、異常検出対象のモータで駆動される車輪に対して前後または左右に隣接する車輪の車輪用軸受に取付けられたタイヤ・路面間の作用荷重を検出する荷重センサにおける車両進行方向の検出荷重FX に対して、設定倍数となったときに異常と判断する電気自動車。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、直流電力を交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部および前記ECUから与えられるトルク指令に従って前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備え、前記インバータ装置は各モータ毎に設けられ、これらECUとインバータ装置とで前記モータ制御装置が構成され、前記インバータ装置の前記モータコントロール部に前記モータ異常検出手段および片側異常時対応制御手段を設けた電気自動車。
【請求項8】
請求項7において、個々のインバータ装置に、前記モータ異常検出手段および前記片側異常時対応制御手段を設けた電気自動車。
【請求項9】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、直流電力を交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部および前記ECUから与えられるトルク指令に従って前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備え、前記インバータ装置は各モータ毎に設けられ、これらECUとインバータ装置とで前記モータ制御装置が構成され、前記インバータ装置の前記モータコントロール部に前記モータ異常検出手段を設け、前記ECUに前記片側異常時対応制御手段を設けた電気自動車。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記モータは、車輪用軸受と、この車輪用軸受とモータの間に介在した減速機とを有するインホイールモータ駆動装置を構成する電気自動車。
【請求項11】
請求項9において、前記減速機はサイクロイド減速機である電気自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−186929(P2012−186929A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48632(P2011−48632)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】