説明

電気自動車

【課題】走行安定性を維持可能な電気自動車を提供する。
【解決手段】コントローラ80は、第1車輪21の回転数が第2車輪22の回転数よりも大きい場合に、第1モータ31の最小出力トルクTMINに対する第2モータ32の出力トルクTの比(TMIN:T)が、第1モータ31の定格出力トルクPに対する第2モータ32の定格出力トルクPの比(P:P)と一致するように、第2モータ32の出力トルクTを低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪ごとにモータを備える電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の車輪と、各車輪を独立して駆動させる複数のモータと、を備える電気自動車が広く提供されている。ここで、8つの車輪と8つのモータとを備える電気自動車において、例えば左輪と右輪の2つの車輪がスリップした場合に、スリップしている2つの車輪に対応する2つのモータの出力トルクをカットするとともにスリップしていない6つの車輪に対応する6つのモータの出力トルクを増大させる手法が提案されている(特許文献1参照)。この手法によれば、ヨー方向モーメントが車体に発生しないように制御される限りは、走行安定性と加速性とをともに維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−186107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の手法では、8つの車輪それぞれがスリップしているか否かを検出するセンサが必要である。また、路面状況の急激な変化などによって、ヨー方向モーメントが車体に発生しないように制御できない場合には、走行安定性が低下してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、走行安定性を維持可能な電気自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る電気自動車は、第1車輪と、車体の車幅方向中心線を基準として第1車輪と対称に配置される第2車輪と、第1車輪を駆動させる第1モータと、第2車輪を駆動させる第2モータと、第1車輪の回転数を検出する第1回転数センサと、第2車輪の第2回転数を検出する第2回転数センサと、第1回転数センサと第2回転数センサから回転数を受信する回転数入力部と、所定のアクセル開度に応じた回転数−トルク特性を示すトルクマップを備え、トルクマップに従って、回転数入力部に入力された第1車輪、第2車輪の回転数に対応する出力トルクを取得するトルク取得部と、第1車輪の回転数が第2車輪の回転数より大きい場合に、第1モータの最小出力トルクに対する第2モータの出力トルクの比が、第1モータの定格出力トルクに対する第2モータの定格出力トルクの比と一致するように、第2モータへの出力トルクの指令値を生成するトルク指令生成部と、を備える。
【0007】
第1の態様に係る電気自動車によれば、第2車輪の駆動力が第1車輪の駆動力に近づけられるので、第1車輪の駆動力と第2車輪の駆動力との差を小さくすることができる。従って、第1車輪が内輪となるカーブではオーバーステアを抑制でき、第1車輪が外輪となるカーブではアンダーステアを抑制することができる。このように、電気自動車の左右の駆動バランスを向上させることができるので、電気自動車の走行安定性を維持させることができる。
【0008】
第2の態様に係る電気自動車は、第1車輪と、車体の車幅方向の中心線を基準として第1車輪と対称に配置される第2車輪と、第1車輪を駆動させる第1モータと、第2車輪を駆動させる第2モータと、第1車輪の回転数を検出する第1回転数センサと、第2車輪の第2回転数を検出する第2回転数センサと、第1車輪の前方又は後方に配置される第3車輪と、車幅方向中心線を基準として第3車輪と対称に配置される第4車輪と、第3車輪を駆動させる第3モータと、第4車輪を駆動させる第4モータと、第3車輪の回転数を検出する第3回転数センサと、第4車輪の回転数を検出する第4回転数センサと、第1回転数センサと第2回転数センサと第3回転数センサと第4回転数センサから回転数を受信する回転数入力部と、所定のアクセル開度に応じた回転数−トルク特性を示すトルクマップを備え、トルクマップに従って、回転数入力部に入力された第1車輪、第2車輪、第3車輪、第4車輪の回転数に対応する出力トルクを取得するトルク取得部と、第1車輪の回転数が第2車輪乃至第4車輪の回転数よりも大きい場合に、第1モータの最小出力トルクに対する第2モータの出力トルクの比が、第1モータの定格出力トルクに対する第2モータの定格出力トルクの比と一致するように、第2モータへの出力トルクの指令値を生成し、第1モータの最小出力トルクに対する第3モータの出力トルクの比が、第1モータの定格出力トルクに対する第3モータの定格出力トルクの比と一致するように、第3モータへの出力トルクの指令値を生成し、第1モータの最小出力トルクに対する第4モータの出力トルクの比が、第1モータの定格出力トルクに対する第4のモータの定格出力トルクの比と一致するように、第4のモータへの出力トルクの指令値を生成するトルク指令生成部と、を備える。
【0009】
第2の態様に係る電気自動車によれば、第1車輪の駆動力と第2車輪の駆動力との差だけでなく、前輪と後輪との間における駆動力の差も小さくすることができる。従って、電気自動車の前後の駆動バランスをも向上させることができるので、電気自動車の走行安定性を向上させることができる。
【0010】
第3の態様に係る電気自動車は、第2の態様に係り、第1乃至第4車輪それぞれの車輪径は同じである。
【0011】
第3の態様に係る電気自動車によれば、各車輪の周長に応じて出力トルク値を調整する必要がない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走行安定性を維持可能な電気自動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係る電気自動車の構成を示す模式図
【図2】第1実施形態に係る制御システムの構成を示す機能ブロック図
【図3】アクセル開度に応じた回転数-トルク特性を示すトルクマップ
【図4】出力トルク制御後の回転数-トルク特性を示すトルクマップ
【図5】第2実施形態に係る電気自動車の構成を示す模式図
【図6】アクセル開度に応じた回転数-トルク特性を示すトルクマップ
【図7】出力トルク制御後の回転数-トルク特性を示すトルクマップ
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
《第1実施形態》
(電気自動車1の構成)
実施形態に係る電気自動車1の構成について、図面を参照しながら説明する。図1(a)は、電気自動車1の構成を示す上面透視図である。図1(b)は、電気自動車1の後面図である。図1(c)は、電気自動車1の側面図である。
【0015】
電気自動車1は、車体10と、第1乃至第4車輪21〜24と、第1乃至第4モータ31〜34と、第1乃至第4ドライブシャフト41〜44と、第1乃至第4回転数センサ51〜54と、バッテリ60と、第1乃至第4インバータ71〜74と、コントローラ80と、を備える。なお、後述するように、第1乃至第4モータ31〜34と、第1乃至第4回転数センサ51〜54と、第1乃至第4インバータ71〜74と、コントローラ80とは、第1乃至第4車輪21〜24の動きを制御する制御システム2を構成する。
【0016】
車体10は、図示しないフレームを有しており、電気自動車1の骨格を形成する。
【0017】
第1乃至第4車輪21〜24は、車体10に取り付けられており、車体10を支持している。第1車輪21は、車体10の右前に配置されている。第2車輪22は、車体10の左前において、車体10の車幅方向中心線Lを基準として第1車輪21と対称な位置に配置されている。第3車輪23は、車体10の右後ろに配置されている。第4車輪24は、車幅方向中心線Lを基準として第3車輪23と対称な位置に配置されている。第1車輪21および第2車輪22が、電気自動車1の前輪であり、第3車輪23および第4車輪24が、電気自動車1の後輪である。
【0018】
なお、本実施形態において、第1乃至第4車輪21〜24それぞれは、同一の車輪径を有するものとする。
【0019】
第1乃至第4モータ31〜34および第1乃至第4ドライブシャフト41〜44それぞれは、第1乃至第4車輪21〜24に対応して配置されている。第1モータ31は、第1ドライブシャフト41を介して接続される第1車輪21を駆動させる。第2モータ32は、第2ドライブシャフト42を介して接続される第2車輪22を駆動させる。第3モータ33は、第3ドライブシャフト43を介して接続される第3車輪23を駆動させる。第4モータ34は、第4ドライブシャフト44を介して接続される第4車輪24を駆動させる。
【0020】
なお、本実施形態において、第1乃至第4モータ31〜34それぞれは、同一の定格出力トルク(最大出力)を有するものとする。
【0021】
第1乃至第4回転数センサ51〜54は、第1乃至第4車輪21〜24に対応して配置されている。第1回転数センサ51は、第1車輪21の回転数を検出する。第2回転数センサ52は、第2車輪22の回転数を検出する。第3回転数センサ53は、第3車輪23の回転数を検出する。第4回転数センサ54は、第4車輪24の回転数を検出する。第1乃至第4回転数センサ51〜54それぞれは、検出した回転数をコントローラ80に送信する。
【0022】
バッテリ60は、第1乃至第4モータ31〜34の駆動電力供給源である。バッテリ60の電気エネルギーは、コントローラ80の制御の下、第1乃至第4インバータ71〜74を介して第1乃至第4モータ31〜34に供給される。
【0023】
第1乃至第4インバータ71〜74は、電力変換器の一種である。第1乃至第4インバータ71〜74は、コントローラ80の制御の下、バッテリ60の放電出力(直流)を第1乃至第4モータ31〜34に適した電力形式(例えば、三相交流など)に変換する。
【0024】
コントローラ80は、トルク指令を第1乃至第4インバータ71〜74に出力することによって、第1乃至第4モータ31〜34のトルクを制御する。具体的に、コントローラ80は、最も回転数の大きい車輪に対応する最も出力トルクの小さいモータの出力トルク(「最小出力トルクTMIN」という。)に対する残り3つのモータそれぞれの出力トルクの比を、最小出力トルクモータの定格出力トルクに対する残り3つのモータそれぞれの定格出力トルクの比と一致させる。
【0025】
ただし、上述の通り、本実施形態では第1乃至第4モータ31〜34それぞれの定格出力トルクが同じであるので、最小出力トルクモータの定格出力トルクに対する残り3つのモータそれぞれの定格出力トルクの比は、それぞれ“1”となる。そのため、コントローラ80は、第1乃至第4モータ31〜34それぞれの出力トルクを最小出力トルクTMINに揃える制御を行うこととなる。コントローラ80の構成については次に説明する。
【0026】
(制御システム2の構成)
次に、制御システム2の構成について、図面を参照しながら説明する。図2は、制御システム2の構成を示す機能ブロック図である。制御システム2は、第1乃至第4回転数センサ51〜54と、第1乃至第4インバータ71〜74と、コントローラ80とによって構成される。コントローラ80は、回転数入力部81と、トルク取得部82と、トルク比較部83と、トルク指令生成部84と、を有する。
【0027】
回転数入力部81は、第1乃至第4回転数センサ51〜54から第1乃至第4車輪21〜24それぞれの回転数を受信する。
【0028】
トルク取得部82は、回転数入力部81によって取得された第1乃至第4車輪21〜24それぞれの回転数に基づいて、第1乃至第4モータ31〜34それぞれの出力トルクを取得する。
【0029】
ここで、図3は、所定のアクセル開度に応じた回転数-トルク特性を示すトルクマップである。トルク取得部82は、図3に示す回転数-トルク特性(トルクカーブTC)に従って、第1乃至第4車輪21〜24の回転数に対応する第1乃至第4モータ31〜34の出力トルクを取得する。トルク取得部82は、図3に示すトルクマップのほか、アクセル開度に応じた複数のトルクマップを記憶している。
トルク比較部83は、トルク取得部82によって取得された第1乃至第4モータ31〜34それぞれの出力トルクを比較することによって、いずれが最小出力トルクTMINであるかを判断する。図3に示す例では、第1車輪21を駆動させる第1モータ31の出力トルクが最小出力トルクTMINに該当する。トルク比較部83は、最小出力トルクTMINをトルク指令生成部84に通知する。
【0030】
トルク指令生成部84は、第1モータ31の最小出力トルクTMINに対する第2乃至第4モータ32〜34の出力トルクそれぞれの比が、第1モータ31の定格出力トルクに対する第2乃至第4モータ32〜34それぞれの定格出力トルクの比と一致するように、第1乃至第4モータ31〜34へのトルク指令値を生成する。すなわち、トルク指令生成部84は、次の式(1)〜(3)が成立するように、トルク指令値を調整する。式(1)〜(3)において、TMINは第1モータ31の最小出力トルクであり、T〜Tは第2乃至第4モータ32〜34の出力トルクであり、P〜Pは第1乃至第4モータ31〜34の定格出力トルクである。
【0031】
MIN:T=P:P ・・・(1)
MIN:T=P:P ・・・(2)
MIN:T=P:P ・・・(3)
ただし、本実施形態では、P〜Pは同じであるので、式(1)〜(3)の右辺はすべて“1:1”である。そのため、トルク指令生成部84は、次の式(4)が成立するように、トルク指令値を調整することとなる。
【0032】
=T=T=TMIN ・・・(4)
トルク指令生成部84は、生成したトルク指令値を第1乃至第4インバータ71〜74に出力する。これによって、図4に示すように、第1モータ31の出力トルクは最小出力トルクTMINに維持される一方で、第2乃至第4モータ32〜34の出力トルクは最小出力トルクTMINまで低減される。その結果、第1乃至第4モータ31〜34それぞれの出力トルクは最小出力トルクTMINに揃うように低減される。
【0033】
(作用及び効果)
(1)コントローラ80は、第1車輪21の回転数が第2車輪22の回転数よりも大きい場合に、第1モータ31の最小出力トルクTMINに対する第2モータ32の出力トルクTの比(TMIN:T)が、第1モータ31の定格出力トルクPに対する第2モータ32の定格出力トルクPの比(P:P)と一致するように、第2モータ32の出力トルクTを低減させる(上記式(1)参照)。
【0034】
そのため、第2車輪22の駆動力が第1車輪21の駆動力に近づけられるので、第1車輪21の駆動力と第2車輪22の駆動力との差を小さくすることができる。従って、第1車輪21が内輪となるカーブではオーバーステアを抑制でき、第1車輪21が外輪となるカーブではアンダーステアを抑制することができる。このように、電気自動車1の左右の駆動バランスを向上させることができるので、電気自動車1の走行安定性を維持させることができる。
【0035】
また、コントローラ80は、第1乃至第4車輪21〜24の回転数だけをリアルタイムにモニタリングしていればよく、第1乃至第4車輪21〜24がスリップしているか否かを検出する必要がない。そのため、通常装備の一つである回転数センサ以外のセンサ類を装備していなくてもよい。
【0036】
(2)コントローラ80は、第2モータ32の出力トルクTを低減させるのと同様に、第3モータ33の出力トルクTと第4モータ34の出力トルクTとを低減させる(上記式(2)及び式(3)参照)。
【0037】
そのため、第1車輪21の駆動力と第2車輪22の駆動力との差だけでなく、前輪(第1車輪21および第2車輪22)と後輪(第3車輪23および第4車輪24)との間における駆動力の差も小さくすることができる。従って、電気自動車1の前後の駆動バランスをも向上させることができるので、電気自動車1の走行安定性を向上させることができる。
《第2実施形態》
第2実施形態に係る電気自動車1aについて、図面を参照しながら説明する。第1実施形態との相違点は、前輪を駆動させるモータの定格出力と後輪を駆動させるモータの定格出力とが異なっている点である。以下においては、後輪の出力トルクが前輪の出力トルクの2倍である場合を例に挙げて説明する。
【0038】
(電気自動車1aの構成)
電気自動車1aは、第1モータ131、第2モータ132、第3モータ133および第4モータ134を備える。
【0039】
第1モータ131は、第1ドライブシャフト41を介して接続される第1車輪21を駆動させる。第2モータ132は、第2ドライブシャフト42を介して接続される第2車輪22を駆動させる。第3モータ133は、第3ドライブシャフト43を介して接続される第3車輪23を駆動させる。第4モータ134は、第4ドライブシャフト44を介して接続される第4車輪24を駆動させる。すなわち、第1モータ131および第2モータ132は前輪駆動用モータであり、第3モータ133および第4モータ134は後輪駆動用モータである。
【0040】
ここで、本実施形態において、第3モータ133および第4モータ134それぞれの定格出力トルクは、第1モータ131および第2モータ132それぞれの定格出力トルクの2倍である。すなわち、通常の走行状態において、後輪(第3車輪23および第4車輪24)の出力トルクは、前輪(第1車輪21および第2車輪22)の出力トルクの2倍である。
【0041】
(制御システム2の機能)
第2実施形態に係る制御システム2は、上記第1実施形態に係る制御システム2と同じ構成を有する。ただし、上述の通り、後輪駆動用モータの定格出力トルクが前輪駆動用モータの定格出力トルクの2倍であるため、後輪の出力トルクを前輪の出力トルクの2倍になるように制御することとなる。以下、回転数入力部81と、トルク取得部82と、トルク比較部83と、トルク指令生成部84とについて順次説明する。
【0042】
回転数入力部81は、第1乃至第4回転数センサ51〜54から回転数データを受信する。
【0043】
トルク取得部82は、回転数入力部81によって取得された第1乃至第4車輪21〜24それぞれの回転数に基づいて、第1乃至第4モータ131〜134それぞれの出力トルクを取得する。
【0044】
ここで、図6は、所定のアクセル開度に応じた回転数-トルク特性を示すトルクマップである。図6には、前輪(第1車輪21および第2車輪22)の回転数-トルク特性を示す第1トルクカーブTC1と、後輪(第3車輪23および第4車輪24)の回転数-トルク特性を示す第2トルクカーブTC2とが示されている。トルク取得部82は、第1トルクカーブTC1に従って、第1及び第2車輪21,22の回転数に対応する第1及び第2モータ131,132の出力トルクを取得する。また、トルク取得部82は、第2トルクカーブTC2に従って、第3及び第4車輪23,24の回転数に対応する第3及び第4モータ133,134の出力トルクを取得する。トルク取得部82は、図6に示すトルクマップのほか、アクセル開度に応じた複数のトルクマップを記憶している。
トルク比較部83は、トルク取得部82によって取得された第1乃至第4モータ31〜34それぞれの出力トルクを比較することによって、いずれが最小出力トルクTMINであるかを判断する。図6に示す例では、第1車輪21を駆動させる第1モータ31の出力トルクが最小出力トルクTMINに該当する。トルク比較部83は、最小出力トルクTMINをトルク指令生成部84に通知する。
【0045】
トルク指令生成部84は、第1モータ31の最小出力トルクTMINに対する第2乃至第4モータ32〜34の出力トルクそれぞれの比が、第1モータ31の定格出力トルクに対する第2乃至第4モータ32〜34それぞれの定格出力トルクの比と一致するように、第1乃至第4モータ31〜34へのトルク指令値を生成する。すなわち、トルク指令生成部84は、次の式(5)〜(7)が成立するように、トルク指令値を調整する。式(5)〜(7)において、TMINは第1モータ131の最小出力トルクであり、T〜Tは第2乃至第4モータ132〜134の出力トルクであり、P〜Pは第1乃至第4モータ131〜134の定格出力トルクである。
【0046】
MIN:T=P:P ・・・(5)
MIN:T=P:P ・・・(6)
MIN:T=P:P ・・・(7)
ここで、本実施形態では、PとPは同じであり、PとPは同じであり、かつ、PとPそれぞれはPとPそれぞれの2倍である。そのため、式(1)の右辺は“1:1”であり、式(2),(3)それぞれの右辺は“1:2”である。そのため、トルク指令生成部84は、次の式(8),(9)が成立するように、トルク指令値を調整することとなる。
【0047】
=TMIN ・・・(8)
=T=TMIN×2 ・・・(9)
トルク指令生成部84は、生成したトルク指令値を第1乃至第4インバータ71〜74に出力する。これによって、図7に示すように、第1モータ131の出力トルクは最小出力トルクTMINに維持されるとともに、第2モータ132の出力トルクは最小出力トルクTMINまで低減される。一方で、第3及び第4モータ133,134それぞれの出力トルクは最小出力トルクTMINの2倍まで低減される。このように、制御システム2による出力トルク制御後においても、後輪(第3車輪23および第4車輪24)の出力トルクは、前輪(第1車輪21および第2車輪22)の出力トルクの2倍に維持されている。
【0048】
(作用及び効果)
このように、コントローラ80は、第1車輪21の回転数が第2乃至第4車輪22〜24の回転数よりも大きい場合に、第1モータ131の最小出力トルクTMINに対する第2乃至第4モータ132〜134の出力トルクTの比(TMIN:T:T:T)が、第1モータ131の定格出力トルクPに対する第2乃至第4モータ132〜134の定格出力トルクPの比(P:P:P:P)と一致するように、第2乃至第4モータ132〜134の出力トルクT〜Tを低減させる。
【0049】
そのため、前輪の駆動力と後輪の駆動力との比を維持しながら、第1車輪21の駆動力に応じて第2乃至第4車輪22〜24の駆動力を低減できる。従って、電気自動車1aの前後の駆動バランスを維持しながら左右の駆動バランスを向上させることができるので、電気自動車1aの走行安定性を維持させることができる。
【0050】
(その他の実施形態)
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0051】
(A)上記実施形態において、電気自動車1は、第1乃至第4車輪21〜24を備えることとしたが、これに限られるものではない。電気自動車1は、3つ以上の車輪の中に左右一対の車輪を有していればよい。例えば、電気自動車1は、左右一対の車輪の前後いずれかにもう一つの車輪を備えていてもよいし、左右一対の車輪を3セット以上備えていてもよい。例えば、左右一対の車輪を3セット備える6輪車であっても、上記実施形態と同様に、最小出力トルクTMINに対応する最小出力モータをトルク比較部で特定した後に、最小出力モータの最小出力トルクTMINに対する他の5つのモータの出力トルクの比を最小出力モータの定格出力トルクに対する他の5つのモータの定格出力トルクの比に一致させるようなトルク指令値を生成すればよい。
【0052】
(B)上記実施形態において、コントローラ80は、第3モータ33の出力トルクTと第4モータ34の出力トルクTとを、第2モータ32の出力トルクTと同様に低減させることとしたが、これに限られるものではない。コントローラ80は、第3モータ33の出力トルクTと第4モータ34の出力トルクTを低減させなくてもよい。特に、前輪の車輪径と後輪の車輪径とが異なる場合には、車輪の周長に応じてモータから伝達される出力トルクを調整する必要があるので、前輪と後輪とに同じ制御を実行する必要はない。この場合には、走行安定性の維持と加速性の維持とを両立させることができる。
【0053】
(C)上記実施形態において、コントローラ80は、第1乃至第4モータ31〜34の出力トルクを最小出力トルクTMINに揃える制御を常時実行することとしたが、これに限られるものではない。コントローラ80は、例えば、2つの車輪の回転数差が所定値以上になった場合にのみ、上記制御を実行することとしてもよい。
【0054】
(D)上記実施形態において、第1乃至第4モータ31〜34は、第1乃至第4ドライブシャフト41〜44を介して第1乃至第4車輪21〜24に接続されることとしたが、これに限られるものではない。第1乃至第4モータ31〜34は、第1乃至第4車輪21〜24のリム内に格納される“インホイールモータ”であってもよい。この場合には、電気自動車1は、第1乃至第4ドライブシャフト41〜44を備える必要はない。
【0055】
(E)上記実施形態において、電気自動車1は、第1乃至第4モータ31〜34それぞれに対応する第1乃至第4インバータ71〜74を備えることとしたが、これに限られるものではない。電気自動車1は、第1乃至第4モータ31〜34に接続されたインバータを一つだけ備えていてもよい。
【0056】
(F)上記第2実施形態では、後輪の出力トルクが前輪の出力トルクの2倍である場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られるものではない。後輪の出力トルクと前輪の出力トルクとの比は、電気自動車1の仕様に応じて適宜設定することができる。
【0057】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0058】
1…電気自動車
2…制御システム
10…車体
21〜24…第1乃至第4車輪
31〜34…第1乃至第4モータ
41〜44…第1乃至第4ドライブシャフト
51〜54…第1乃至第4回転数センサ
60…バッテリ
71〜74…第1乃至第4インバータ
80…コントローラ
81…回転数入力部
82…トルク取得部
83…トルク比較部
84…トルク指令生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車輪と、
車体の車幅方向中心線を基準として前記第1車輪と対称に配置される第2車輪と、
前記第1車輪を駆動させる第1モータと、
前記第2車輪を駆動させる第2モータと、
前記第1車輪の回転数を検出する第1回転数センサと、
前記第2車輪の第2回転数を検出する第2回転数センサと、
前記第1回転数センサと前記第2回転数センサから回転数を受信する回転数入力部と、
所定のアクセル開度に応じた回転数−トルク特性を示すトルクマップを備え、前記トルクマップに従って、前記回転数入力部に入力された前記第1車輪、第2車輪の回転数に対応する出力トルクを取得するトルク取得部と、
前記第1車輪の回転数が第2車輪の回転数より大きい場合に、前記第1モータの最小出力トルクに対する第2モータの出力トルクの比が、前記第1モータの定格出力トルクに対する前記第2モータの定格出力トルクの比と一致するように、前記第2モータへの出力トルクの指令値を生成するトルク指令生成部と、
を備える電気自動車。
【請求項2】
第1車輪と、
車体の車幅方向の中心線を基準として前記第1車輪と対称に配置される第2車輪と、
前記第1車輪を駆動させる第1モータと、
前記第2車輪を駆動させる第2モータと、
前記第1車輪の回転数を検出する第1回転数センサと、
前記第2車輪の第2回転数を検出する第2回転数センサと、
前記第1車輪の前方又は後方に配置される第3車輪と、
前記車幅方向中心線を基準として前記第3車輪と対称に配置される第4車輪と、
前記第3車輪を駆動させる第3モータと、
前記第4車輪を駆動させる第4モータと、
前記第3車輪の回転数を検出する第3回転数センサと、
前記第4車輪の回転数を検出する第4回転数センサと、
前記第1回転数センサと前記第2回転数センサと前記第3回転数センサと前記第4回転数センサから回転数を受信する回転数入力部と、
所定のアクセル開度に応じた回転数−トルク特性を示すトルクマップを備え、前記トルクマップに従って、前記回転数入力部に入力された前記第1車輪、前記第2車輪、前記第3車輪、第4車輪の回転数に対応する出力トルクを取得するトルク取得部と、
前記第1車輪の回転数が前記第2車輪乃至前記第4車輪の回転数よりも大きい場合に、前記第1モータの最小出力トルクに対する前記第2モータの出力トルクの比が、前記第1モータの定格出力トルクに対する前記第2モータの定格出力トルクの比と一致するように、前記第2モータへの出力トルクの指令値を生成し、前記第1モータの最小出力トルクに対する前記第3モータの出力トルクの比が、前記第1モータの定格出力トルクに対する前記第3モータの定格出力トルクの比と一致するように、前記第3モータへの出力トルクの指令値を生成し、前記第1モータの最小出力トルクに対する前記第4モータの出力トルクの比が、前記第1モータの定格出力トルクに対する前記第4のモータの定格出力トルクの比と一致するように、前記第4のモータへの出力トルクの指令値を生成するトルク指令生成部と、
を備える電気自動車。
【請求項3】
前記第1乃至第4車輪それぞれの車輪径は同じである、
請求項2に記載の電気自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−17278(P2013−17278A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147427(P2011−147427)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】