説明

電気錠システム

【課題】機械的および電気的耐久性を高めると共に、製造コストの上昇を抑え、また、鍵違いの個数を増やす。
【解決手段】鍵2には複数の抵抗部材11から構成される鍵回路6を設け、錠制御装置3には、鍵回路6の複数の抵抗部材11の抵抗値の組み合わせによって形成される鍵情報を検出し、この鍵情報に基づいて施錠装置4における施解錠動作を制御する錠制御回路8を設ける。鍵2には凹凸や窪みを設ける必要がないため、鍵2の機械的耐久性を高めることができ、鍵回路6にはノイズや静電気に弱い能動素子が設けられていないので鍵2の電気的耐久性を高めることができる。また、抵抗部材11の個数を増加させることにより、製造コストの上昇を抑えながら鍵違いの個数を増やすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路を利用して施錠対象物の施錠を行う電気錠システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なシリンダ錠では、シリンダの鍵穴に鍵が挿入されたとき、鍵に形成された凹凸または窪みによりシリンダ内のタンブラがシアラインに一致するように移動し、これによりシリンダの外筒に対して内筒が回転可能となり、例えばドア等の施錠対象物の施解錠を行うことができるようになる。
【0003】
このような凹凸や窪み等の鍵の形状に依拠して施解錠を行うシリンダ錠では、同一形状の鍵を複製することにより合鍵を作ることができてしまう。このため、鍵の管理を怠ると、不正に複製された合鍵により施錠対象物を意に反して解錠されてしまうおそれがある。また、ピッキングによる不正解錠を許してしまうおそれもある。
【0004】
一方、鍵の形状ないし機械的構造ではなく、電気回路を利用して施解錠を行う電気錠システムが知られている。例えば、下記の特許文献1に記載の電気錠システムでは、鍵と錠にそれぞれ電気回路を設け、鍵が錠の鍵穴に挿入されたときに、鍵側の電気回路から出力されたパターンデータを錠側の電気回路が受け取り、錠側の電気回路でパターンデータの照合を行い、この照合結果に基づいて施錠対象物の施解錠を行う。
【0005】
このような電気錠システムによれば、鍵の形状に依拠して施解錠を行うシリンダ錠と比較して合鍵を作ることが困難であり、また、ピッキングを極めて困難にし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−232881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したように鍵の形状に依拠して施解錠を行うシリンダ錠では、鍵を抜き差ししているうちに鍵の凹凸や窪み、あるいは錠のタンブラが摩耗し、使用期間が極めて長い場合には解錠不良が生じるおそれがある。
【0008】
一方、上述したような特許文献1に記載の電気錠システムでは、鍵や錠が摩耗することによる解錠不良は生じにくい。しかしながら、この電気錠システムでは、鍵から錠に出力するパターンデータを生成するために、フィールドプログラマブルゲートアレイを含む電気回路を鍵に設けている。フィールドプログラマブルゲートアレイのように能動素子を含む電気回路は、ノイズ、静電気等により破損または誤動作するおそれがある。この結果、特許文献1に記載の電気錠システムは、ノイズ、静電気等による解錠不良が生じるおそれがある。
【0009】
この点、フィールドプログラマブルゲートアレイをノイズ、静電気等から保護する回路を鍵に組み込むことにより、上記ノイズ、静電気等による解錠不良の問題を解消することができる可能性がある。しかしながら、このような保護回路を鍵に組み込むことは、多くの場合、電気錠システムの製造コストの上昇を招く。
【0010】
また、特許文献1に記載の電気錠システムでは、鍵から錠に出力されたパターンデータの照合を行うことにより施解錠を制御する。このため、相互に異なる鍵(鍵違い)の個数を増やすためには、パターンデータのデータ長を長くする必要がある。パターンデータのデータ長を長くするためには、鍵に組み込むフィールドプログラマブルゲートアレイにおけるゲートアレイの個数を増加させるか、あるいは1つの鍵に複数のフィールドプログラマブルゲートアレイを設ける等の措置を講ずる必要があり、この結果、電気錠システムの製造コストが上昇してしまう。
【0011】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の第1の課題は、機械的な耐久性および電気的な耐久性を高めることができ、かつ製造コストの上昇を抑えることができる電気錠システムを提供することにある。
【0012】
本発明の第2の課題は、製造コストの上昇を抑えながら鍵違いの個数を増やすことができる電気錠システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の電気錠システムは、鍵と、施錠対象物の施錠を行う施錠装置を制御する錠制御装置とを備えた電気錠システムであって、前記鍵は鍵回路を備え、前記鍵回路は、前記鍵の内部に設けられ、所定の抵抗値を有する複数の抵抗部材と、前記鍵の表面側に設けられ、前記複数の抵抗部材にそれぞれ電気的に接続された複数の鍵側電極とを備え、錠制御装置は、鍵穴を有する鍵穴部材と錠制御回路とを備え、前記錠制御回路は、前記鍵穴内面に設けられ、前記鍵が前記鍵穴に挿入されたときに前記複数の鍵側電極とそれぞれ電気的に接続される複数の錠側電極を有し、前記複数の鍵側電極と前記複数の錠側電極との電気的な接続により前記鍵回路と電気的に接続され、検出電流を前記鍵回路に流すことにより、前記鍵回路の前記複数の抵抗部材の抵抗値の組み合わせによって形成される鍵情報を検出し、当該鍵情報に基づいて前記施錠装置における施解錠動作を制御することを特徴とする。
【0014】
本発明の第1の電気錠システムでは、鍵回路を構成する複数の抵抗部材により形成される鍵情報に基づいて施解錠制御を行うので、鍵に凹凸や窪みを形成する必要がなく、これにより鍵の機械的な耐久性が高まると共に、鍵の形状等について設計の自由度が増す。また、鍵が有する鍵回路が複数の抵抗部材により構成され、能動素子を含まないので、鍵のノイズ、静電気等に対する耐久性が高まる。
【0015】
また、本発明の第2の電気錠システムは、上述した第1の電気錠システムにおいて、前記鍵情報は前記鍵を特定するための鍵特定情報を含み、前記錠制御回路は、前記鍵回路から検出した前記鍵情報に含まれる前記鍵特定情報と、予め記憶された錠照合情報とを照合し、当該鍵特定情報と当該錠照合情報とが一致したときに、前記施錠装置を解錠制御するための制御信号を前記施錠装置に出力することを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の電気錠システムでは、鍵が有する鍵情報に含まれる鍵特定情報と、錠制御装置が有する鍵照合情報とを照合するといった電気的な手段により施錠装置の施解錠動作を制御する構成であるため、優れた機械的および電気的耐久性を有する電気錠システムを実現することができる。
【0017】
また、本発明の第3の電気錠システムは、上述した第2の電気錠システムにおいて、前記鍵情報は、前記鍵が少なくとも照合鍵および登録鍵のいずれであるかを判別するための鍵種類情報を含み、前記錠制御回路は、前記鍵回路から検出した前記鍵情報に含まれる前記鍵種類情報により前記鍵が少なくとも照合鍵および登録鍵のいずれであるかを判別し、前記鍵が照合鍵である場合には、前記鍵回路から検出した前記鍵情報に含まれる前記鍵特定情報と前記鍵照合情報との照合を行い、前記鍵が登録鍵である場合には、前記鍵回路から検出した前記鍵情報に含まれる前記鍵特定情報を前記鍵照合情報として記憶することを特徴とする。
【0018】
本発明の第3の電気錠システムでは、鍵の種類を示す鍵種類情報を鍵に持たせることで、錠制御装置において鍵の種類の判別を自動的に行うことができ、鍵の種類に応じて照合処理、登録処理等を自動的に選択して実行することができる。
【0019】
また、本発明の第4の電気錠システムは、上述した第2ないし第3のいずれかの電気錠システムにおいて、前記鍵特定情報は前記施錠対象物の属性を示す属性情報を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の第4の電気錠システムでは、施錠対象物の属性を示す属性情報を鍵に持たせることで、この属性情報に基づいて鍵の管理等を容易に行うことが可能になる。
【0021】
また、本発明の第5の電気錠システムは、上述した第2ないし第4のいずれかの電気錠システムにおいて、前記鍵特定情報は前記鍵の追番を示す追番情報を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の第5の電気錠システムでは、追番情報を鍵に持たせることで、この追番情報に基づいて鍵の管理等を容易に行うことが可能になる。
【0023】
また、本発明の第6の電気錠システムは、上述した第1ないし第5のいずれかの電気錠システムにおいて、前記錠制御装置の前記鍵穴部材は、前記鍵の前記鍵穴への挿入が開始されたことを検出する鍵挿入開始検出部と、前記鍵の前記鍵穴への挿入が完了したことを検出する鍵挿入完了検出部とを備えていることを特徴とする。
【0024】
本発明の電気錠システムでは、鍵が鍵穴へ完全に挿入されたことを確認してから鍵特定情報の照合処理等を行うことで、鍵特定情報の誤検出や照合の誤動作等を防止することができる。
【0025】
また、本発明の第7の電気錠システムは、上述した第1ないし第6のいずれかの電気錠システムにおいて、前記鍵回路はスイッチ制御回路部を有し、前記錠制御回路は、前記鍵回路と前記錠制御回路とが電気的に接続されていないときには第1の態様となり、前記鍵回路と前記錠制御回路とが電気的に接続されたときには前記スイッチ制御回路部により制御されて第2の態様となるスイッチ部材を有し、前記錠制御回路において、前記スイッチ部材が前記第1の態様となっている間は前記鍵回路から前記鍵情報を正しく検出することが可能な回路が形成されず、前記スイッチ部材が前記第2の態様となっている間は前記鍵回路から前記鍵情報を正しく検出することが可能な回路が形成されることを特徴とする。
【0026】
本発明の第7の電気錠システムでは、鍵回路のスイッチ制御回路部により制御されて錠制御回路のスイッチ部材が第1の態様から第2の態様に切り替わらなければ鍵情報の検出を正しく行うことができないので、鍵回路、錠制御回路等を解析して鍵情報を不正に読み取ることや、錠制御装置を不正な手段で動作させることが極めて困難になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、電気錠システムの機械的な耐久性および電気的な耐久性を高めることができ、かつ製造コストの上昇を抑えることができる。また、本発明によれば、製造コストの上昇を抑えながら鍵違いの個数を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態による電気錠システムを示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による電気錠システムにおける鍵を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による電気錠システムにおける錠制御装置のシリンダを示す縦断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による電気錠システムにおいて鍵がシリンダの鍵穴に挿入された状態を示す縦断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による電気錠システムにおいて、相互に電気的に接続された鍵回路および錠制御回路を示す回路図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による電気錠システムにおける鍵情報のデータ構造を示す説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による電気錠システムにおける鍵特定情報の照合、登録、抹消の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態による電気錠システムにおける鍵回路および錠制御回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図1ないし図7に従って説明する。
【0030】
(電気錠システム)
図1は本発明の第1の実施形態による電気錠システムを示している。図1において、本発明の第1の実施形態による電気錠システム1は、鍵2と錠制御装置3とを備え、これら鍵2と錠制御装置3との協働によって施錠装置4を制御し、これにより施錠対象物の施錠を行うシステムである。
【0031】
鍵2は鍵回路6を備えている。錠制御装置3は、鍵穴7Aを有する鍵穴部材としてのシリンダ7と錠制御回路部8とを備えている。利用者が鍵2の摘み部2Aを持って鍵2の挿入部2Bをシリンダ7の鍵穴7Aに挿入したとき、鍵2の挿入部2Bの表面に配置された鍵側電極12とシリンダ7の鍵穴7A内に配置された錠側電極15(図3参照)とが電気的に接続され、これにより、鍵回路6と錠制御回路部8とが電気的に接続される。
【0032】
後述するように、鍵回路6は複数の抵抗部材11(図2参照)を有している。鍵回路6と接続された錠制御回路部8は、鍵回路6の複数の抵抗部材11に検出電流を流すことにより、これら抵抗部材11の組み合わせによって形成される鍵情報31(図6参照)を検出し、この鍵情報31に基づいて施錠装置4を制御し、施錠対象物の施錠、解錠を行う。なお、施錠対象物は例えば住宅における建具用のドアであり、施錠装置4は例えばドアロック装置である。
【0033】
(鍵)
図2は鍵2を示している。図2において、鍵2は、例えば樹脂等の絶縁材料により形成され、摘み部2Aおよび挿入部2Bを有している。なお、挿入部2Bにおいて鍵回路6が設けられている部分を絶縁材料により形成し、他の部分を例えば金属材料により形成してもよい。
【0034】
また、鍵2の挿入部2Bには鍵回路6が設けられている。鍵回路6は、挿入部2Bの内部に設けられ、所定の抵抗値を有する複数の抵抗部材11と、挿入部2Bの表面側に設けられ、複数の抵抗部材11にそれぞれ電気的に接続された複数の鍵側電極12を備えている。
【0035】
各抵抗部材11は例えば固定の抵抗値を有する抵抗素子であり、各抵抗部材11の抵抗値は、後述する鍵情報31の内容等に応じ、例えば鍵2の製造時に決められる。各抵抗部材11の抵抗値は、鍵情報31の内容等により、相互に異なる場合もあれば、同じになる場合もある。一方、各鍵側電極12は導電性を有する材料により形成されている。
【0036】
鍵回路6は、鍵挿入完了回路部6A、現場コード回路部6B、部屋番号回路部6C、追番回路部6Dおよび鍵種類回路部6Eに分かれており、複数の抵抗部材11および複数の鍵側電極12は、これら回路部6A〜6Eごとに分かれて配置されている。
【0037】
鍵挿入完了回路部6Aは、鍵2がシリンダ7の鍵穴7Aの奥まで完全に挿入され、鍵2の鍵穴7Aへの挿入が完了したことを、シリンダ7に設けられた後述の鍵挿入完了検出部19および鍵挿入状況検出回路に検出させるための回路部である。鍵挿入完了回路部6Aは、例えば1つの抵抗部材11の両端部に2つの鍵側電極12を電気的に接続することにより形成され、鍵2の挿入部2Bの先端部に配置されている。
【0038】
現場コード回路部6Bは、鍵情報31に含まれる鍵特定情報33中の現場コード情報34を形成するための回路部である。現場コード回路部6Bは、例えば、7つの抵抗部材11と、これら抵抗部材11のそれぞれの両端部に電気的に接続された14個の鍵側電極12とから形成されている。現場コード回路部6Bに設けられた7つの抵抗部材11のうちの5つの抵抗部材11の抵抗値を組み合わせることにより、5ビットの2値情報である現場コード情報34が形成される。現場コード情報34の内容については後述する。
【0039】
また、現場コード回路部6Bに設けられた7つの抵抗部材11のうち、残りの2つの抵抗部材11はダミーである。ダミーの抵抗部材11を設けることにより、現場コード情報34が不正に読み取られることを防ぐことができる。ダミーの抵抗部材11の配置を個々の鍵2によって変えることにより、不正読取防止の効果を高めることができる。
【0040】
部屋番号回路部6Cは、鍵情報31に含まれる鍵特定情報33中の部屋番号情報35を形成するための回路部である。部屋番号回路部6Cは、例えば、8つの抵抗部材11と、これら抵抗部材11の一端部に電気的に接続された8つの鍵側電極12と、錠制御回路部8から部屋番号回路部6Cに検出電流を供給するための鍵側電極12(部屋番号回路部6Cにおいて図2中最も右側に配置された電極)とから形成されている。部屋番号情報35の内容については後述する。
【0041】
また、部屋番号回路部6Cに設けられた8つの抵抗部材11のうちの5つの抵抗部材11の抵抗値を組み合わせることにより、5ビットの2値情報である部屋番号情報35が形成される。部屋番号回路部6Cに設けられた8つの抵抗部材11のうち、残りの3つの抵抗部材11はダミーである。ダミーの抵抗部材11を設けることにより、部屋番号情報35が不正に読み取られることを防ぐことができる。ダミーの抵抗部材11の配置を個々の鍵2によって変化させれば、不正読取防止の効果を高めることができる。
【0042】
追番回路部6Dは、鍵情報31に含まれる鍵特定情報33中の追番情報36を形成するための回路部である。追番回路部6Dは、例えば、8つの抵抗部材11と、これら抵抗部材11の一端部に電気的に接続された8つの鍵側電極12と、錠制御回路部8から追番回路部6Dに検出電流を供給するための鍵側電極12(追番回路部6Dにおいて図2中最も右側に配置された電極)とから形成されている。追番回路部6Dに設けられた8つの抵抗部材11のうちの3つの抵抗部材11の抵抗値を組み合わせることにより、3ビットの2値情報である追番情報36が形成される。追番情報36の内容については後述する。
【0043】
また、追番回路部6Dに設けられた8つの抵抗部材11のうち、残りの5つの抵抗部材11はダミーである。現場コード回路部6Bや部屋番号回路部6Cの場合と同様に、ダミーの抵抗部材11により、追番情報36が不正に読み取られることを防ぐことができる。
【0044】
鍵種類回路部6Eは、鍵情報31に含まれる鍵種類情報32を形成するための回路部である。鍵種類回路部6Eは、例えば、2つの抵抗部材11と、これら抵抗部材11の両端部に電気的にそれぞれ接続された4つの鍵側電極12とから形成されている。鍵種類回路部6Eに設けられた2つの抵抗部材11の抵抗値を組み合わせることにより、2ビットの2値情報である鍵種類情報32が形成される。鍵種類情報32の内容については後述する。
【0045】
(シリンダ)
図3は錠制御装置3のシリンダ7を示している。図4はシリンダ7の鍵穴7Aに鍵2が完全に挿入された状態を示している。図3において、シリンダ7は、例えば樹脂等の絶縁材料により形成されている。なお、シリンダ7において錠側電極15および配線16が設けられている部分を絶縁材料により形成し、他の部分を例えば金属材料により形成してもよい。また、シリンダ7には鍵穴7Aが形成されている。鍵2の挿入部2Bが鍵穴7Aに嵌合するように、鍵穴7Aは、鍵2の挿入部2Bの形状にほぼ合致する形状を有している。
【0046】
また、シリンダ7の鍵穴7Aの内面側には複数の錠側電極15が設けられている。各錠側電極15は、導電性を有する材料により形成されている。また、これら錠側電極15は、鍵2の挿入部2Bに設けられた複数の鍵側電極12とそれぞれ対応するように設けられている。すなわち、図4に示すように、鍵2の挿入部2Bが鍵穴7Aに完全に挿入されたとき、複数の鍵側電極12と複数の錠側電極15とはそれぞれ相互に対抗し、かつ相互に接触し、これにより、複数の鍵側電極12と複数の錠側電極15とはそれぞれ相互に電気的に接続される。さらに、シリンダ7の内部には、各錠側電極15と錠制御回路部8とを電気的に接続する配線16が設けられている。
【0047】
また、鍵2の挿入口7Bが形成されたシリンダ7の一端側には、蓋板17および鍵挿入開始検出部としての鍵挿入開始センサ18が設けられている。蓋板17は鍵穴7内において挿入口7Bの近傍に傾転可能に取り付けられている。鍵2の挿入部2Bが鍵穴7Aに挿入されていないときには、蓋板17は、図示しないばね等により付勢され、鍵穴7A内で立ち上がり、鍵穴7A内から挿入口7Bを閉塞している。一方、鍵2の挿入部2Bが鍵穴7Aに挿入されたときには、蓋板17は、鍵2の挿入部2Bの先端により押され、鍵穴7Aの内面に沿うように倒れる。鍵挿入開始センサ18は、蓋板17が倒れたことを検出することにより、鍵2の挿入部2Bの鍵穴7Aへの挿入が開始されたことを検出する。鍵挿入開始センサ18は、例えば、蓋板17との接触を検出する接触センサにより構成されている。
【0048】
また、シリンダ7において、挿入口7Bから見て鍵穴7Aの最も奥側(図3中の最も右側)に配置された2つの錠側電極15により鍵挿入完了検出部19が形成されている。鍵2の挿入部2Bが鍵穴7Aに完全に挿入されたとき、鍵挿入完了検出部19の錠側電極15は、鍵2の挿入部2Bの先端部に設けられた鍵挿入完了回路部6Aの鍵側電極12と接触して電気的に接続される。これら鍵側電極12と錠側電極15との電気的接続を検出することにより、鍵2の挿入部2Bが鍵穴7Aに完全に挿入されたこと、すなわち、鍵2の鍵穴7Aへの挿入が完了したことを認識することができる。
【0049】
(錠制御回路部)
図5は、鍵2の挿入部2Bがシリンダ7の鍵穴7Aに挿入されたことにより相互に電気的に接続された鍵回路6と錠制御回路部8とを示している。なお、図5では、説明の便宜上、鍵回路6については現場コード回路部6Bのみを示し、錠制御回路部8においてCPU(Central Processing Unit)25およびメモリ26を除く部分については現場コード情報34の検出に関する部分のみを示している。
【0050】
図5において、錠制御回路部8は、鍵回路6の抵抗部材11と共に検出電圧を生成する抵抗部材21と、基準電圧を生成する2つの抵抗部材22、23と、検出電圧と基準電圧とを比較するコンパレータ24とから構成される比較回路を、検出すべき鍵情報のビット数等に応じて複数備えている。さらに、錠制御回路部8は、各比較回路と接続され、鍵の挿入状況の認識、鍵の種類の認識、鍵情報の照合処理、登録処理、抹消処理等を行うCPU25と、CPU25に接続され、鍵照合情報の記憶等に用いられるメモリ26とを備えている。さらに、錠制御回路部8は、各比較回路、CPU25およびメモリ26に電力を供給する電源部(図示せず)を備えている。各抵抗部材21、22、23は例えば固定の抵抗値を有する抵抗素子であり、各コンパレータ24は例えばオペアンプである。
【0051】
相互に電気的に接続された鍵回路6および錠制御回路部8は次のように動作する。図5において、抵抗値RA1、RA2、RA3、RA4を有する抵抗部材11、21、22、23と、これらの抵抗部材11、21、22、23が接続された、図5中の最も上側に位置するコンパレータ24とから構成される1つの比較回路に着目する。この比較回路において、抵抗部材11と抵抗部材21とが接続された線路に電圧V1を印加し、当該線路に検出電流を流すと、抵抗部材11の抵抗値RA1と抵抗部材21の抵抗値RA2とにより電圧V1が分圧され、検出電圧が生成される。そして、この検出電圧はコンパレータ24の一方の入力端子に入力される。また、抵抗部材22と抵抗部材23とが接続された線路に電圧V2を印加すると、抵抗部材22の抵抗値RA3と抵抗部材23の抵抗値RA4とにより電圧V2が分圧され、基準電圧が生成される。そして、この基準電圧はコンパレータ24の他方の入力端子に入力される。コンパレータ24は、それぞれ入力された検出電圧と基準電圧とを比較し、例えば、検出電圧が基準電圧よりも高い場合にはハイレベル(H)の出力電圧をCPU25に出力し、検出電圧が基準電圧よりも低い場合にはローレベル(L)の出力電圧をCPU25に出力する。このようなコンパレータ24の比較動作を数式で表すと次のようになる。
【0052】
【数1】

上記数式より、抵抗値RA2、RA3、RA4が一定であり、抵抗値RA1が一定でない(すなわち挿入する鍵2を変更すれば、抵抗値RA1が変化することがある)場合には、抵抗値RA1に応じてコンパレータ24の出力電圧のレベルが決まる。すなわち、鍵2に設けられた鍵回路6の抵抗部材11の抵抗値RA1によって錠制御回路部8のコンパレータ24の出力電圧のレベルが決まる。
【0053】
錠制御回路部8に設けられた複数の比較回路がこのような比較動作をそれぞれ行うことにより、各コンパレータ24からCPU25に出力される出力電圧のレベルは、鍵回路6の複数の抵抗部材11の抵抗値の組み合わせによって形成される鍵情報31を構成する各ビットの状態を示すこととなる。したがって、CPU25は、各コンパレータ24から出力される出力電圧のレベルに基づいて鍵情報31を認識することができる。CPU25は、このようにして認識した鍵情報31に基づいて、後述する照合処理、登録処理および抹消処理を行う。
【0054】
また、錠制御回路部8のCPU25は、鍵挿入開始センサ18から出力される検出信号に基づいて、鍵2の挿入部2Bの鍵穴7Aへの挿入を認識する機能を備えている。また、錠制御回路部8には、鍵挿入完了検出部19の錠側電極15と鍵挿入完了回路部6Aの鍵側電極12とが接触し、これら錠側電極15と鍵側電極12とが電気的に接続されたことを検出する鍵挿入状況検出回路(図示せず)を備え、CPU25は、この鍵挿入状況検出回路からの出力に基づいて、鍵2の挿入部2Bが鍵穴7Aに完全に挿入されたことを認識する機能を備えている。なお、この鍵挿入状況検出回路は、上述した鍵情報31の各ビット状態を検出するための比較回路と同様の構成により実現することができる。
【0055】
(鍵情報)
図6は鍵情報の構成を示している。図6に示すように、鍵情報31は、鍵種類情報32および鍵特定情報33から構成されている。鍵種類情報32は、鍵2の種類、すなわち、鍵2が照合鍵、登録鍵、抹消鍵のいずれであるかを示す情報である。登録鍵とは、鍵情報31を錠制御装置3に登録するときに使用する鍵である。照合鍵とは、登録鍵により鍵情報31の登録が済んだ後、施錠対象物の施解錠を行うときに使用する鍵である。抹消鍵とは、鍵情報31の登録を錠制御装置3から抹消するときに使用する鍵である。鍵種類情報32は、2ビットの2値情報であり、鍵回路6の鍵種類回路部6Eにおける2つの抵抗部材11の抵抗値の組み合わせにより形成される。例えば、照合鍵を示す鍵種類情報32は「00」であり、登録鍵を示す鍵種類情報32は「01」であり、抹消鍵を示す鍵種類情報32は「10」である。
【0056】
鍵特定情報33は、現場コード情報34、部屋番号情報35および追番情報36から構成されている。現場コード情報34は、例えば、1つの建物を特定するための情報である。建物が異なれば、現場コード情報34も異なる。現場コード情報34は、例えば5ビットの2値情報であり、鍵回路6の現場コード回路部6Bに含まれる5つの抵抗部材11の抵抗値の組み合わせにより形成される。
【0057】
部屋番号情報35は、例えば、建物における1つの部屋を特定するための情報である。部屋が異なれば、部屋番号情報35も異なる。部屋番号情報35は、例えば5ビットの2値情報であり、鍵回路6の部屋番号回路部6Cに含まれる5つの抵抗部材11の抵抗値の組み合わせにより形成される。
【0058】
追番情報36は、例えば、鍵2の追番を示す情報である。追番情報36は、例えば3ビットの2値情報であり、鍵回路6の追番回路部6Dに含まれる3つの抵抗部材11の抵抗値の組み合わせにより形成される。例えば、オリジナルの鍵2には追番情報36として「000」が割り当てられ、1個目の合鍵2には追番情報36として「001」が割り当てられ、2個目の合鍵2には追番情報36として「010」が割り当てられる。
【0059】
(照合、登録、抹消の処理)
図7は錠制御回路部8のCPU25における鍵情報31の照合、登録および抹消の動作を示している。図7において、電気錠システム1を稼働させるべく、錠制御回路部8に外部から電力を供給すると、錠制御回路部8のCPU25が起動し、CPU25において初期設定が行われる(ステップS1)。初期設定完了後、CPU25は、鍵2の鍵穴7Aへの挿入が開始されるのを待つ(ステップS2)。
【0060】
鍵2の鍵穴7Aへの挿入が開始されると、シリンダ7の蓋板17が倒れ、これを鍵挿入開始センサ18が検出し、鍵挿入開始センサ18からCPU25に検出信号を出力される。CPU25はこの検出信号に基づいて、鍵2の鍵穴7Aへの挿入が開始されたことを認識する(ステップS2:YES)。
【0061】
そして、鍵2の挿入部2Bが鍵穴7Aに完全に挿入されると、鍵2の挿入部2Bの先端部に設けられた鍵挿入完了回路6Aの鍵側電極12と、鍵穴7Aの最も奥側に設けられた鍵挿入完了検出部19の錠側電極15とが互いに接触し、これら鍵側電極12と錠側電極15とが電気的に接続される。錠制御回路部8に設けられた鍵挿入状況検出回路が、これら鍵側電極12と錠側電極15との電気的接続を検出し、鍵挿入状況検出回路からCPU25に検出信号が出力される。CPU25はこの検出信号に基づいて、鍵2の挿入部2Bが鍵穴7Aに完全に挿入され、鍵2の鍵穴7Aへの挿入が完了したことを認識し(ステップS3:YES)、処理をステップS6に移行させる。
【0062】
一方、鍵2の鍵穴7Aへの挿入が開始されたことを認識してから所定時間経過しても、鍵挿入状況検出回路から検出信号が出力されないときには、CPU25は鍵2の鍵穴7Aへの挿入が不完全であると判断し(ステップS3:NO)、例えば警告ランプ(図示せず)を点滅させ、鍵2の挿入をやり直すべき旨の警告を利用者に向けて発する(ステップS4)。続いて、CPU25は、処理を初期状態に戻すためにリセット処理を行い(ステップS5)、ステップS2に戻って利用者が鍵2の挿入をやり直すのを待つ。
【0063】
さて、鍵2の鍵穴7Aへの挿入が完了したとき、鍵回路6の各鍵側電極12とシリンダ7の各錠側電極15とが相互に接触し、両者が相互に電気的に接続される。そして、錠制御回路部8からの検出電流が、鍵回路6の各抵抗部材11を流れる。この結果、錠制御回路部8の各比較回路により、検出電圧と基準電圧との比較が行われ、鍵回路6の各抵抗部材11の抵抗値の組み合わせによって形成される鍵情報31の各ビットの状態に対応したレベルを有する出力電圧が各比較回路のコンパレータ24からCPU25に出力される。CPU25は、各コンパレータ24からの出力電圧のレベルに基づいて鍵情報31を認識し、この認識した鍵情報31をCPU25の内部メモリ(図示せず)に一時的に記憶する。続いて、CPU25は、この鍵情報31に含まれる鍵種類情報32に基づいて、鍵穴7Aに挿入されている鍵2の種類を判別する(ステップS6)。
【0064】
判別の結果、鍵穴7Aに挿入されている鍵2が照合鍵の場合には、CPU25は鍵情報31に含まれる鍵特定情報33の照合処理を行う(ステップS7)。この照合処理において、CPU25は、鍵特定情報33と、メモリ26に記憶された鍵照合情報とを照合し、両者が一致した場合には(ステップS8:YES)、照合完了ランプ(図示せず)を点灯させることにより照合が完了したことを利用者に伝えると共に、施解錠制御信号を施錠装置4に出力する(ステップS9)。施錠装置4は、この施解錠制御信号に応じ、施錠対象物がまだ施錠されていない場合には施錠対象物を施錠し、施錠対象物がすでに施錠されている場合には施錠対象物を解錠する。
【0065】
一方、照合処理において、鍵特定情報33と鍵照合情報とが一致しなかったときには、CPU25は警告ランプを点滅させことにより、照合に失敗したことを利用者に伝える(ステップS4)。この場合、CPU25は施解錠制御信号の施錠装置4への出力を行わない。この結果、施錠装置4は、施錠対象物がまだ施錠されていない場合には施錠対象物が施錠されていない状態を維持し、施錠対象物がすでに施錠されている場合には施錠対象物が施錠された状態を維持する。続いて、CPU25はリセット処理を行い、鍵穴7Aに挿入されている鍵2に係る鍵情報31をCPU25の内部メモリから消去し(ステップS5)、処理をステップS2に戻す。
【0066】
また、ステップS6の判別の結果、鍵穴7Aに挿入されている鍵2が登録鍵の場合には、CPU25は鍵特定情報33の登録処理を行う(ステップS10)。この登録処理において、CPU25は鍵情報31に含まれる鍵特定情報33を鍵照合情報としてメモリ26に記憶する。登録処理が完了したときには(ステップS11:YES)、登録完了ランプ(図示せず)を点灯させることにより登録が完了したことを利用者に伝える(ステップS12)。
【0067】
一方、登録に失敗したときには、警告ランプを点灯させることによりその旨を利用者に伝えた後(ステップS4)、鍵穴7Aに挿入されている鍵2に係る鍵情報31を内部メモリから消去し(ステップS5)、処理をステップS2に戻す。
【0068】
また、ステップS6の判別の結果、鍵穴7Aに挿入されている鍵2が抹消鍵の場合には、CPU25は鍵照合情報の抹消処理を行う(ステップS13)。この抹消処理において、CPU25は鍵情報31に含まれる鍵特定情報33と一致する鍵照合情報をメモリ26から消去する。抹消処理が完了したときには(ステップS14:YES)、抹消完了ランプ(図示せず)を点灯させることにより抹消が完了したことを利用者に伝える(ステップS15)。
【0069】
一方、抹消に失敗したときには、警告ランプを点灯させることによりその旨を利用者に伝えた後(ステップS4)、鍵穴7Aに挿入されている鍵2に係る鍵情報31を内部メモリから消去し(ステップS5)、処理をステップS2に戻す。
【0070】
照合処理、登録処理または抹消処理が完了したときには、CPU25は、内蔵のタイマをスタートさせ(ステップS16)、照合処理、登録処理または抹消処理が完了してから所定時間が経過するまでに、鍵2が鍵穴7Aから抜かれたか否かを判断する(ステップS17)。照合処理、登録処理または抹消処理が完了してから所定時間が経過するまでに、鍵2が鍵穴7Aから抜かれた場合には(ステップS17:YES)、タイマをリセットし(ステップS18)、処理をステップS2に戻す。
【0071】
一方、照合処理、登録処理または抹消処理が完了してから所定時間が経過しても、鍵2が鍵穴7Aから抜かれない場合には(ステップS19:YES)、CPU25は警告ランプを点滅させ、鍵2の抜き忘れを利用者に伝えると共に(ステップS20)、タイマをリセットし(ステップS21)、処理をステップS16に戻す。これにより、利用者が鍵の抜き忘れに気付いて鍵2を鍵穴7Aから抜くまで、警告ランプの点滅が繰り返し行われる。
【0072】
以上説明した通り、本発明の第1の実施形態による電気錠システム1では、鍵2に設けられた複数の抵抗部材11の抵抗値の組み合わせによって形成される鍵情報31を錠制御装置3の錠制御回路部8により検出および照合して施錠装置4の施解錠動作の制御を行う。これにより、鍵の形状に依拠して施解錠を行う従来のシリンダ錠のように、鍵の凹凸や錠のタンブラの摩耗により解錠不良が生じることがない。したがって、電気錠システム1によれば、鍵2およびシリンダ7の機械的な耐久性を高めることができる。
【0073】
また、電気錠システム1における鍵情報31は、鍵2に設けられた複数の抵抗部材11の抵抗値の組み合わせによって形成される。鍵情報31を形成するために鍵2に設けられた電気素子は受動素子のみであるため、ノイズおよび静電気等に対する耐久性が高い。したがって、電気錠システム1によれば、ノイズまたは静電気等により鍵回路6が破損し、または誤動作することを防止することができ、このような電気的な障害により解錠不良等が生じるのを防ぐことができ、電気的な耐久性を高めることができる。しかも、ノイズまたは静電気等の電気的な障害から鍵回路6等を保護するための保護回路等を設ける必要がないため、優れた電気的耐久性を簡単な構造により実現することができ、電気錠システム1の製造コストを低く抑えることができる。
【0074】
また、電気錠システム1によれば、鍵回路6の抵抗部材11の個数を増やして鍵情報31のデータ長(ビット数)を増加させることにより、鍵違いの個数を増やすことができる。したがって、鍵違いの個数を極めて簡単に増やすことができ、膨大な鍵違いを作り出すことができる電気錠システムを低コストで実現することができる。
【0075】
また、電気錠システム1では、鍵回路6の鍵種類回路部6Eにおける2つの抵抗部材11の抵抗値の組み合わせによって鍵種類情報32を形成し、この鍵種類情報32を検出することにより、鍵2が照合鍵、登録鍵、抹消鍵のいずれであるかを判別し、鍵特定情報33の照合処理、登録処理および抹消処理の選択を自動的に行う。したがって、利用者は、鍵特定情報33の照合、登録および抹消を、鍵穴7Aに挿入する鍵2の種類を選ぶだけで簡単にかつ確実に行うことができる。
【0076】
また、電気錠システム1では、現場コード情報34および部屋番号情報35といった施錠対象物の属性を示す属性情報を用いて鍵特定情報33を構成する。これにより、施錠対象物の管理者や他の管理システム等は、鍵特定情報33に基づいて鍵2または錠制御装置3の管理を容易に行うことができる。例えば、鍵特定情報33を読み取る専用の手段を用いて鍵2の鍵特定情報33を読み取ることにより、その鍵2がどの建物のどの部屋の鍵かを特定することができる。
【0077】
また、電気錠システム1の鍵特定情報33には、鍵2の追番を示す追番情報36が含まれている。これにより、施錠対象物の管理者や他の管理システム等は、追番情報36に基づいて鍵2の追番管理を容易に行うことができる。
【0078】
また、電気錠システム1によれば、鍵挿入開始センサ18により鍵2の鍵穴7Aへの挿入開始を容易かつ正確に認識することができ、また、鍵回路6の鍵挿入完了回路部6A、シリンダ7の鍵挿入完了検出部19および錠制御回路部8の鍵挿入状況検出回路により、鍵2が鍵穴7Aに完全に挿入されたことを容易かつ正確に認識することができる。したがって、鍵情報31の誤検出等に起因する電気錠システム1の誤動作等を防止することができる。
【0079】
また、電気錠システム1によれば、鍵回路6に設ける抵抗部材11等の電気的な構成により鍵違いを作り出すことができるため、鍵2の形状、シリンダ7の形状、および鍵穴7Aの形状を自由に設計することができる。これにより、特定の用途への適合性、使い易さ、またはデザインに優れた鍵2、シリンダ7および鍵穴7Aを実現することができる。
【0080】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について図8に従って説明する。なお、図8において、図5に示す第1の実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。図8に示すように、本発明の第2の実施形態による電気錠システム41では、鍵42の鍵回路43に含まれる複数の抵抗部材44のうちの例えば1つの抵抗部材44がスイッチ制御回路部45を形成している。さらに、鍵回路43に含まれる複数の抵抗部材44のうちの例えば2つの抵抗部材44により、鍵情報を構成する複数のビットのうちの1つのビットの状態を示すように構成されている。さらに、錠制御装置46の錠制御回路部47において、スイッチ制御回路部45に基づいてリレー(スイッチ部材)48がオフ(第1の態様)からオン(第2の態様)に切り替わらなければ、鍵情報のビットの状態を検出するための回路部が形成されない構成となっている。
【0081】
すなわち、鍵42が鍵穴に完全に挿入され、鍵回路43と錠制御回路部47とが電気的に接続されると、鍵回路43においてスイッチ制御回路部45を形成している抵抗部材44と、錠制御回路部47に設けられたリレー48とが接続され、これによりリレー48がオフからオンに切り替わる。これにより、鍵回路43に含まれる抵抗部材44と、錠制御回路部47に含まれる抵抗部材49とが電気的に接続され、鍵回路43に含まれる2つの抵抗部材44、錠制御回路部47に含まれる3つの抵抗部材49、50,51および錠制御回路部47に含まれる1つのコンパレータ52から構成される比較回路が形成される。そして、この比較回路では、次式に示す比較動作が行われ、鍵回路43に含まれる2つの抵抗部材44の抵抗値に応じて決定されるレベルを有する出力電圧がコンパレータ52からCPU25に出力される。
【0082】
【数2】

このような構成を有する電気錠システム41では、登録済みの正しい鍵42を鍵穴に挿入しなければ、リレー48がオンにならず、錠制御回路部47の一部が形成されない。したがって、電気錠システム41によれば、鍵回路43の構成、錠制御回路部47の構成、および鍵情報の内容等を不正に解析されることを極めて困難にすることができ、施錠対象物の不正解錠を効果的に防止することができる。
【0083】
なお、本発明の電気錠システムにおいて、鍵回路を構成する抵抗部材の個数、鍵回路の具体的な回路構成(すなわち複数の抵抗部材の具体的な接続態様)は、図2、図3、図8等に示すものに限定されない。鍵情報のデータ長やデータ構造等に応じ、抵抗部材の個数や接続態様を変更することができる。また、錠制御回路部における抵抗部材の個数や回路構成についても同様である。
【0084】
また、鍵回路を構成する抵抗部材として、抵抗素子ではなく、コンデンサ、コイルといった他のインピーダンス素子を用いることも可能である。この場合には、鍵回路に供給する検出電流として交流電流を用いる構成とすることができる。
【0085】
また、上述した各実施形態では、施錠対象物が建物の部屋のドアである場合を例にあげたが、電気錠システム1(41)の施錠対象物はこれに限らない。本発明は、ロッカー、金庫、自動車など様々な構造物の施解錠に適用することができ、さらには、自動車のイグニッション装置等にも適用することができる。この場合、鍵情報には、施錠対象物や適用対象物に応じた管理コード情報を含めることができる。
【0086】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電気錠システムもまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1、41 電気錠システム
2、42 鍵
3、46 錠制御装置
4 施錠装置
6、43 鍵回路
6A 鍵挿入完了回路部
6B 現場コード回路部
6C 部屋番号回路部
6D 追番回路部
6E 鍵種類回路部
7 シリンダ(鍵穴部材)
7A 鍵穴
8、47 錠制御回路部(錠制御回路)
11、44 抵抗部材
12 鍵側電極
15 錠側電極(錠制御回路)
16 配線(錠制御回路)
18 鍵挿入開始センサ(鍵挿入開始検出部)
19 鍵挿入完了検出部
31 鍵情報
32 鍵種類情報
33 鍵特定情報
34 現場コード情報(属性情報)
35 部屋番号情報(属性情報)
36 追番情報
45 スイッチ制御回路部
48 リレー(スイッチ部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵と、施錠対象物の施錠を行う施錠装置を制御する錠制御装置とを備えた電気錠システムであって、
前記鍵は鍵回路を備え、
前記鍵回路は、
前記鍵の内部に設けられ、所定の抵抗値を有する複数の抵抗部材と、
前記鍵の表面側に設けられ、前記複数の抵抗部材にそれぞれ電気的に接続された複数の鍵側電極とを備え、
前記錠制御装置は、鍵穴を有する鍵穴部材と錠制御回路とを備え、
前記錠制御回路は、
前記鍵穴内面に設けられ、前記鍵が前記鍵穴に挿入されたときに前記複数の鍵側電極とそれぞれ電気的に接続される複数の錠側電極を有し、
前記複数の鍵側電極と前記複数の錠側電極との電気的な接続により前記鍵回路と電気的に接続され、検出電流を前記鍵回路に流すことにより、前記鍵回路の前記複数の抵抗部材の抵抗値の組み合わせによって形成される鍵情報を検出し、当該鍵情報に基づいて前記施錠装置における施解錠動作を制御することを特徴とする電気錠システム。
【請求項2】
前記鍵情報は前記鍵を特定するための鍵特定情報を含み、
前記錠制御回路は、前記鍵回路から検出した前記鍵情報に含まれる前記鍵特定情報と、予め記憶された錠照合情報とを照合し、当該鍵特定情報と当該錠照合情報とが一致したときに、前記施錠装置を解錠制御するための制御信号を前記施錠装置に出力することを特徴とする請求項1に記載の電気錠システム。
【請求項3】
前記鍵情報は、前記鍵が少なくとも照合鍵および登録鍵のいずれであるかを判別するための鍵種類情報を含み、
前記錠制御回路は、前記鍵回路から検出した前記鍵情報に含まれる前記鍵種類情報により前記鍵が少なくとも照合鍵および登録鍵のいずれであるかを判別し、前記鍵が照合鍵である場合には、前記鍵回路から検出した前記鍵情報に含まれる前記鍵特定情報と前記鍵照合情報との照合を行い、前記鍵が登録鍵である場合には、前記鍵回路から検出した前記鍵情報に含まれる前記鍵特定情報を前記鍵照合情報として記憶することを特徴とする請求項2に記載の電気錠システム。
【請求項4】
前記鍵特定情報は前記施錠対象物の属性を示す属性情報を含むことを特徴とする請求項2ないし3のいずれかに記載の電気錠システム。
【請求項5】
前記鍵特定情報は前記鍵の追番を示す追番情報を含むことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の電気錠システム。
【請求項6】
前記錠制御装置の前記鍵穴部材は、
前記鍵の前記鍵穴への挿入が開始されたことを検出する鍵挿入開始検出部と、
前記鍵の前記鍵穴への挿入が完了したことを検出する鍵挿入完了検出部とを備えていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電気錠システム。
【請求項7】
前記鍵回路はスイッチ制御回路部を有し、
前記錠制御回路は、前記鍵回路と前記錠制御回路とが電気的に接続されていないときには第1の態様となり、前記鍵回路と前記錠制御回路とが電気的に接続されたときには前記スイッチ制御回路部により制御されて第2の態様となるスイッチ部材を有し、
前記錠制御回路において、前記スイッチ部材が前記第1の態様となっている間は前記鍵回路から前記鍵情報を正しく検出することが可能な回路が形成されず、前記スイッチ部材が前記第2の態様となっている間は前記鍵回路から前記鍵情報を正しく検出することが可能な回路が形成されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の電気錠システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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