説明

電気錠システム

【課題】機械的・電気的耐久性を高め、製造コストの上昇を抑えながら鍵違いの個数を増やし、不正な合鍵の作成を困難にする。
【解決手段】鍵2に鍵回路5を設け、鍵回路5に鍵検出回路部13〜18を設ける。鍵検出回路部13〜18には抵抗素子を設け、錠制御回路部7は、鍵検出回路部13〜18に設けられた抵抗素子の抵抗値を検出し、これら抵抗値を組み合わせることにより鍵情報を生成し、この鍵情報に基づいて錠の施解錠動作を制御する。各鍵検出回路部13〜18にはポリスイッチが設けられているため、所定の電圧を印加しなければ、抵抗素子の抵抗値を読み取ることができない。また、各鍵検出回路部13〜18にはダイオードにより電流の向きが制御された2つの線路が設けられ、各線路に抵抗素子が接続されているため、印加する電圧の向きを切り換えることで、1つの鍵検出回路部につき2通りの抵抗値を検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路を利用して主に建造物の扉等を施錠する電気錠システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なシリンダ錠では、シリンダの鍵穴に鍵が挿入されたとき、鍵に形成された凹凸または窪みによりシリンダ内のタンブラがシアラインに一致するように移動し、これによりシリンダの外筒に対して内筒が回転可能となり、扉等の施解錠を行うことができるようになる。
【0003】
このような凹凸や窪み等の鍵の形状に依拠して施解錠を行うシリンダ錠では、同一形状の鍵を複製することにより合鍵を作ることができてしまう。このため、鍵の管理を怠ると、不正に複製された合鍵により扉等を意に反して解錠されてしまうおそれがある。また、ピッキングによる不正解錠を許してしまうおそれもある。
【0004】
一方、鍵の形状ないし機械的構造ではなく、電気回路を利用して施解錠を行う電気錠システムが知られている。例えば、下記の特許文献1に記載の電気錠システムでは、鍵と錠にそれぞれ電気回路を設け、鍵が錠の鍵穴に挿入されたときに、鍵側の電気回路から出力されたパターンデータを錠側の電気回路が受け取り、錠側の電気回路でパターンデータの照合を行い、この照合結果に基づいて扉等の施解錠を行う。
【0005】
このような電気錠システムによれば、鍵の形状に依拠して施解錠を行うシリンダ錠と比較して合鍵を作ることが困難であり、また、ピッキングを極めて困難にし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−232881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したように鍵の形状に依拠して施解錠を行うシリンダ錠では、鍵を抜き差ししているうちに鍵の凹凸や窪み、あるいは錠のタンブラが摩耗し、使用期間が極めて長い場合には解錠不良が生じるおそれがある。
【0008】
一方、上述したような特許文献1に記載の電気錠システムでは、鍵や錠が摩耗することによる解錠不良は生じにくい。しかしながら、この電気錠システムでは、鍵から錠に出力するパターンデータを生成するために、フィールドプログラマブルゲートアレイを含む電気回路を鍵に設けている。フィールドプログラマブルゲートアレイのように能動素子を含む電気回路は、ノイズ、静電気等により破損または誤動作するおそれがある。このため、特許文献1に記載の電気錠システムは、ノイズ、静電気等による解錠不良が生じるおそれがある。この点、フィールドプログラマブルゲートアレイをノイズ、静電気等から保護する回路を鍵に組み込むことも考えられるが、保護回路の追加により電気錠システムの製造コストが上昇してしまう。
【0009】
また、特許文献1に記載の電気錠システムでは、鍵から錠に出力されたパターンデータの照合を行うことにより施解錠を制御する。このため、相互に異なる鍵(鍵違い)の個数を増やすためには、パターンデータのデータ長を長くする必要がある。パターンデータのデータ長を長くするためには、鍵に組み込むフィールドプログラマブルゲートアレイにおけるゲートアレイの個数を増加させるか、あるいは1つの鍵に複数のフィールドプログラマブルゲートアレイを設ける等の措置を講ずる必要があり、このため、電気錠システムの製造コストが上昇してしまう。
【0010】
以上のような従来技術の問題を解決するために、本出願人は、複数の抵抗素子を鍵に内蔵し、複数の抵抗素子の抵抗値の組み合わせによって形成される鍵情報を鍵から読み出して照合を行うことにより施解錠を行う電気錠システムを開発した。この電気錠システムによれば、抵抗素子を利用して施解錠を行うため、鍵の形状に依拠して施解錠を行う上述のシリンダ錠のように、鍵や錠の摩耗による解錠不良は生じにくい。また、抵抗素子は受動素子であり、ノイズ、静電気等に強いため、ノイズ、静電気等による解錠不良を防止することができる。さらに、鍵に内蔵する抵抗値の個数を増やすことにより、特許文献1に記載の電気錠システムと比較して製造コストの上昇を抑えながら、鍵違いの個数を増やすことができる。
【0011】
ところが、複数の抵抗素子を単に鍵に内蔵しただけでは、汎用の電気計測器等を用いて各抵抗素子の抵抗値を読み取り、不正な合鍵を容易に作ることができてしまう。
【0012】
また、抵抗素子の個数を増加させて鍵違いの個数を増やすと、多数の抵抗素子を鍵に内蔵しなければならない。このため、鍵内の多数の抵抗素子と錠制御装置内の照合回路とを電気的に接続させるために鍵および錠側のそれぞれに多数の電極を設けなければならない。電極の個数が多くなると、鍵と錠側との間で電極の接触不良等が生じやすくなる等の問題が生じる。
【0013】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の第1の課題は、機械的および電気的耐久性を高め、かつ製造コストの上昇を抑えながら鍵違いの個数を増やすことができる電気錠システムを提供することにある。
【0014】
また、本発明の第2の課題は、機械的および電気的耐久性を高め、かつ不正な合鍵の作成を困難にすることができる電気錠システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の第1の電気錠システムは、鍵と、錠を制御する錠制御装置とを備えた電気錠システムであって、前記鍵は鍵回路を備え、前記鍵回路は、前記鍵の内部に設けられ、所定の抵抗値を有する複数の抵抗部材と、前記鍵の内部に設けられ、所定の特性を有する電流のみを流し、または所定の特性を有する電流のみを制限する電気部材と、前記鍵の表面に設けられ、前記複数の抵抗部材および前記電気部材に電気的に接続された複数の鍵側電極とを備え、前記錠制御装置は、鍵穴を有する鍵穴部材と錠制御回路とを備え、前記錠制御回路は、前記鍵穴の内面に設けられ、前記鍵が前記鍵穴に挿入されたとき、または挿入される間に、前記複数の鍵側電極のそれぞれと電気的に接続される複数の錠側電極を有し、前記複数の鍵側電極と前記複数の錠側電極との電気的な接続により前記鍵回路と電気的に接続され、前記所定の特性を有する電流を前記鍵回路に流すことにより、前記鍵回路の前記複数の抵抗部材の抵抗値の組み合わせによって形成される鍵情報を検出し、当該鍵情報に基づいて前記錠における施解錠動作を制御することを特徴とする。
【0016】
上記第1の電気錠システムでは、鍵の形状に依拠して施解錠を行うのではないため、鍵や錠の摩耗による解錠不良は生じにくい。また、鍵回路を構成する抵抗部材も電気部材も受動素子により構成することができるため、ノイズ、静電気等に強い。また、所定の特性を有する電流のみを流し、または所定の特性を有する電流のみを制限する電気部材を鍵回路に組み込むことにより、鍵回路に所定の特性を有する電流を流さなければ鍵情報を正確に検出することができない構成とすることができ、これにより、不正な合鍵の作成を困難にすることができる。
【0017】
また、本発明の第2の電気錠システムは、上述した本発明の第1の電気錠システムにおいて、前記電気部材は、所定の電流値よりも大きい電流値を有する電流のみを制限し、前記鍵回路は、前記複数の抵抗部材のうちの少なくとも1つの抵抗部材と当該電気部材とが互いに並列に接続された第1の回路部を含んでいることを特徴とする。
【0018】
上記第2の電気錠システムでは、鍵回路において、所定の電流値よりも大きい電流値を有する電流を第1の回路部に流さなければ、第1の回路部に含まれている抵抗部材の抵抗値を検出することができない。これにより、不正な合鍵の作成を困難にすることができる。また、第1の回路部に含まれている抵抗部材と電気部材とにより、固有な電圧−電流特性を作り出すことができ、この固有な電圧−電流特性を鍵情報の一部として用いることができる。これにより、鍵情報を、汎用の電気計測器等を用いて単に抵抗部材の抵抗値を検出するだけでは特定不可能なものとすることができる。
【0019】
また、本発明の第3の電気錠システムは、上述した本発明の第2の電気錠システムにおいて、前記第1の回路部における前記電気部材はポリスイッチであることを特徴とする。
【0020】
上記第3の電気錠システムでは、ポリスイッチを用いることにより、所定の電流値よりも大きい電流値を有する電流のみを制限する電気部材を容易に実現することができる。
【0021】
また、本発明の第4の電気錠システムは、上述した本発明の第1ないし第3のいずれかの電気錠システムにおいて、前記電気部材は、所定の方向の電流のみを流し、前記鍵回路は、前記複数の抵抗部材のうちの少なくとも1つの抵抗部材と当該電気部材とが互いに直列に接続された第2の回路部を含んでいることを特徴とする。
【0022】
上記第4の電気錠システムでは、鍵回路において、一の方向の電流のみを流す一の電気部材と一の抵抗部材とを互いに直列に接続した一の第2の回路部と、他の方向の電流のみを流す他の電気部材と他の抵抗部材とを互いに直列に接続した他の第2の回路部とを互いに並列に接続した回路を形成し、この回路の両端に一対の鍵側電極をそれぞれ接続することで、当該一対の鍵側電極間に流す電流の向きを切り換えることにより2通りの抵抗値を検出することが可能な回路を形成することができる。このような回路を鍵回路において複数個形成することにより、鍵側電極および錠側電極の個数の増加を抑えつつ、抵抗部材の個数、すなわち鍵情報を形成する抵抗値の個数を増加させることができる。したがって、鍵側電極および錠側電極の個数の増加を抑えつつ、鍵違いの個数を増やすことができる。
【0023】
また、本発明の第5の電気錠システムは、上述した第4の電気錠システムにおいて、前記第2の回路部における前記電気部材はダイオードであることを特徴とする。
【0024】
上記第5の電気錠システムでは、ダイオードを用いることにより、所定の方向の電流のみを流す電気部材を容易に実現することができる。
【0025】
また、本発明の第6の電気錠システムは、上述した本発明の第1ないし第5の電気錠システムにおいて、前記電気部材は、所定の電流値以下の電流値を有する電流のみを流し、前記鍵回路は、前記複数の抵抗部材のうちの少なくとも1つの抵抗部材と当該電気部材とが互いに直列に接続された第3の回路部を含んでいることを特徴とする。
【0026】
上記第6の電気錠システムでは、鍵回路において、所定の電流値以下の電流値を有する電流を第3の回路部に流さなければ、第3の回路部に含まれている抵抗部材の抵抗値を検出することができない。これにより、不正な合鍵の作成を困難にすることができる。
【0027】
また、本発明の第7の電気錠システムは、上述した本発明の第6の電気錠システムにおいて、前記第3の回路部における前記電気部材はヒューズであることを特徴とする。
【0028】
上記第7の電気錠システムでは、ヒューズを用いることにより、所定の電流値以下の電流値のみを流す電気部材を容易に実現することができる。第3の回路部に含まれる電気部材としてヒューズを用いた場合には、所定の電流値よりも大きい電流値を有する電流を第3の回路部に流すことにより、ヒューズが切断され、その後、第3の回路部に含まれる抵抗部材の抵抗値を検出することができなくなる。例えば、汎用の電気計測器等により抵抗部材の抵抗値を測定する際に当該電気計測器等から出力される電流によりヒューズが切断されるようにすれば、汎用の電気計測器等を用いて第3の回路部に含まれる抵抗部材の抵抗値を検出することが困難となり、それゆえ、不正な合鍵の作成を困難にすることができる。一方、電気錠システムの管理者は、鍵回路における第3の回路部を、例えば鍵の種類を特定するための回路部として用いることもできる。例えば、電気錠システムの管理者は、鍵を、鍵情報の照合用の鍵として用いる場合には第3の回路部のヒューズを切断せず、鍵を、鍵情報の登録用の鍵として用いる場合には第3の回路部のヒューズを切断する。これにより、錠制御装置は、鍵に内蔵された鍵回路の第3の回路部に電流が流れるか否かを検出することで、第3の回路部に設けられたヒューズが切断されているか否かを判断することができ、その鍵が照合用の鍵か、登録用の鍵かを識別することができる。
【0029】
また、本発明の第8の電気錠システムは、上述した第1ないし第7のいずれかの電気錠システムにおいて、前記電気部材は、所定の電圧値以下における電流のみを制限し、前記鍵回路は、前記複数の抵抗部材のうちの少なくとも1つの抵抗部材と当該電気部材とが互いに直列に接続された第4の回路部を含んでいることを特徴とする。
【0030】
上記第8の電気錠システムでは、鍵回路において、例えば、印加電圧が0から所定の電圧値まで増加する間は電流値が0であり、印加電圧が所定の電圧値を超えて増加すると、第4の回路部に含まれている抵抗部材の抵抗値に応じて電流値が増加するといった電圧−電流特性を作り出すことができる。この電圧−電流特性を鍵情報の一部として用いることにより、鍵情報を、汎用の電気計測器等を用いて単に抵抗部材の抵抗値を検出するだけでは特定不可能なものとすることができる。
【0031】
また、本発明の第9の電気錠システムは、上述した本発明の第8の電気錠システムにおいて、前記第4の回路部における前記電気部材はツェナーダイオードであることを特徴とする。
【0032】
上記第9の電気錠システムでは、ツェナーダイオードを用いることにより、所定の電圧値以下における電流のみを制限する電気部材を容易に実現することができる。
【0033】
また、本発明の第10の電気錠システムは、上述した本発明の第1ないし第9の電気錠システムにおいて、前記錠制御回路は、前記鍵回路から検出した前記鍵情報と、予め記憶された照合情報とを照合し、当該鍵情報と当該照合情報とが一致したときに、前記錠を解錠制御するための制御信号を前記錠に出力することを特徴とする。
【0034】
上記第10の電気錠システムでは、鍵情報に基づく錠の施解錠動作の制御を容易にかつ高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、機械的および電気的耐久性を高め、かつ製造コストの上昇を抑えながら鍵違いの個数を増やすことができる。また、機械的および電気的耐久性を高めながら、不正な合鍵の作成を困難にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態による電気錠システムを示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による電気錠システムの内部構造を示す説明図である。
【図3】鍵回路に設けられた基準設定回路部の内部構成を示す回路図である。
【図4】図3中の基準設定回路部の電圧-電流特性を示す特性線図である。
【図5】鍵回路に設けられた種類検出回路部の内部構成を示す回路図である。
【図6】図5中の種類検出回路部の電圧-電流特性を示す特性線図である。
【図7】鍵回路に設けられた鍵検出回路部の内部構成を示す回路図である。
【図8】図7中の鍵検出回路部の電圧-電流特性を示す特性線図である。
【図9】鍵情報の構造を示す説明図である。
【図10】鍵回路に設けられた挿入検出回路部の内部構成を示す回路図である。
【図11】図10中の挿入検出回路部の電圧-電流特性を示す特性線図である。
【図12】錠制御回路部の動作を示すフローチャートである。
【図13】鍵情報の検出結果の具体例を示す説明図である。
【図14】本発明の第2の実施形態による電気錠システムにおける鍵検出回路部の内部構成を示す回路図である。
【図15】図14中の鍵検出回路部の電圧-電流特性を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について図1ないし図13を参照しながら説明する。
【0038】
(電気錠システム)
図1は本発明の第1の実施形態による電気錠システムを示している。図1において、本発明の第1の実施形態による電気錠システム1は、鍵2と錠制御装置3とを備え、これら鍵2と錠制御装置3との協働により錠4を制御し、これにより、例えば建造物の扉等の施錠対象物の施錠を行うシステムである。
【0039】
鍵2は鍵回路5を備えている。一方、錠制御装置3は、鍵穴6Aを有する鍵穴部材としてのシリンダ6と錠制御回路部7とを備えている。シリンダ6は例えば扉に取り付けられている。利用者は、施解錠を行うとき、鍵2の摘み部2Aを持って鍵2の挿入部2Bをシリンダ6の鍵穴6Aに挿入する。また、錠制御装置3は、スピーカ、ブザー等の音声出力装置8およびランプ等の表示装置9を備えている。音声出力装置8および表示装置9はそれぞれ、施解錠が正常に終了したこと、鍵穴6Aに挿入された鍵が、電気錠システム1を構成する鍵2とは異なる別の鍵や棒状の異物であること、鍵2の抜き忘れ等を音および光により利用者等に報知する手段である。音声出力装置8および表示装置9は例えばユニット化されて扉や扉近傍に取り付けられている。
【0040】
(鍵)
図2は電気錠システム1の内部構造を示している。図2において、鍵2は、例えば樹脂等の絶縁材料により形成され、摘み部2Aおよび挿入部2Bを有している。なお、挿入部2Bにおいて鍵回路5が設けられている部分を絶縁材料により形成し、他の部分を例えば金属材料により形成してもよい。
【0041】
また、鍵2の挿入部2Bには鍵回路5が設けられている。鍵回路5は、挿入部2Bの内部に設けられ、所定の抵抗値を有する複数の抵抗部材と、挿入部2Bの内部に設けられ、所定の特性を有する電流のみを流し、または所定の特性を有する電流のみを制限する電気部材と、挿入部2Bの表面に設けられ、複数の抵抗部材および電気部材に電気的に接続された複数の鍵側電極21P、21Qとを備えている。
【0042】
本実施形態において、各抵抗部材としては、例えば固定の抵抗値を有する抵抗素子が用いられている。各抵抗部材の抵抗値は、鍵情報の内容等に応じ、例えば鍵2の製造時に決められる。また、電気部材としては、ポリスイッチ、ダイオードおよびヒューズが用いられている。また、各鍵側電極21P、21Qは導電性を有する材料により形成されている。鍵側電極21Pは、挿入部2Bの一側表面部(例えば図2中上側の表面部)に所定の間隔をもって一列に配列され、鍵側電極21Qは、挿入部2Bの他側表面部(例えば図2中下側の表面部)に所定の間隔をもって一列に配列されている。
【0043】
鍵回路5は、基準設定回路部11、種類検出回路部12、鍵検出回路部13〜18、および挿入検出回路部19、20に分かれており、複数の抵抗部材および電気部材はこれら回路部11〜20ごとに分かれて配置されている。また、本実施形態では、各回路部11〜20につき一対の鍵側電極21P、21Qが接続されている。各回路部11〜20の内部構成等については後に図3ないし図11を参照しながら説明する。
【0044】
(錠制御装置)
図2において、錠制御装置3のシリンダ6は、例えば樹脂等の絶縁材料により形成されている。なお、シリンダ6において錠側電極31P、31Q、32P、32Qおよび配線33が設けられている部分を絶縁材料により形成し、他の部分を例えば金属材料により形成してもよい。また、シリンダ6には鍵穴6Aが形成されている。鍵2の挿入部2Bが鍵穴6Aに嵌合するように、鍵穴6Aは、鍵2の挿入部2Bの形状にほぼ合致する形状を有している。
【0045】
また、シリンダ6の鍵穴6Aの内面部には4つの錠側電極31P、31Q、32P、32Qが設けられている。錠側電極31Pは、鍵穴6Aの一側内面部(例えば図2中上側の内面部)において鍵穴6Aの開口部に近い位置に設けられ、錠側電極31Qは、鍵穴6Aの他側内面部(例えば図2中下側の内面部)において鍵穴6Aの開口部に近い位置に設けられている。具体的には、錠側電極31P、31Qは、変形等のない鍵2の挿入部2Bが鍵穴6Aに完全に挿入されたとき、鍵2の摘み部2A側から挿入部2Bの先端側に向かって数えて2番目(図2中右から2番目)の鍵側電極21P、21Qとそれぞれ対向する位置に配置されている。
【0046】
一方、錠側電極32Pは、鍵穴6Aの一側内面部において鍵穴6Aの奥側に設けられ、錠側電極32Qは、鍵穴6Aの他側内面部において鍵穴6Aの奥側に設けられている。具体的には、錠側電極32P、32Qは、変形等のない鍵2の挿入部2Bが鍵穴6Aに完全に挿入されたとき、鍵2の挿入部2Bの最も先端側(図2中最も左)に配置された鍵側電極21P、21Qとそれぞれ対向する位置に配置されている。
【0047】
また、各錠側電極31P、31Q、32P、32Qは、導電性を有する材料により形成されている。さらに、各錠側電極31P、31Q、32P、32Qと錠制御回路部7とは配線33を介して電気的に接続されている。
【0048】
各鍵側電極21P、21Qと一対の錠側電極31P、31Qとの電気的な接続は、鍵2の鍵穴6Aへの挿入が開始され、鍵2の挿入部2Bが鍵穴6A内を移動している間に順次行われる。すなわち、鍵2の鍵穴6Aへの挿入が開始された直後、まず、挿入部2Bの最も先端側に配置された一対の鍵側電極21P、21Qが、錠側電極31P、31Qと接触し、両者が短時間電気的に接続される。続いて、挿入部2Bの先端側から2番目に配置された一対の鍵側電極21P、21Qが、錠側電極31P、31Qと接触し、両者が短時間電気的に接続される。続いて、挿入部2Bの先端側から3番目に配置された一対の鍵側電極21P、21Qが、錠側電極31P、31Qと接触し、両者が短時間電気的に接続される。このように、鍵2の挿入部2Bが鍵穴6Aの奥側に移動するのに連れて、挿入部2Bに配置された各対の鍵側電極21P、21Qが、挿入部2Bの先端側から摘み部2Aが設けられた基端側に向けて順次に、一対の錠側電極31P、31Qに電気的に接続されていく。そして、図2に示すように、鍵2の挿入部2Bが鍵穴6Aに完全に挿入されたときには、鍵2の摘み部2A側から挿入部2Bの先端側に向かって数えて2番目に配置された一対の鍵側電極21P、21Qが錠側電極31P、31Qと接触すると共に、鍵2の挿入部2Bの最も先端側に配置された一対の鍵側電極21P、21Qが錠側電極32P、32Qと接触する。ただ、鍵2が変形等のない正常な状態である限り、摘み部2Aに最も近い位置に配置された一対の鍵側電極21P、21Qは、錠側電極31P、31Qに接触することはない。しかし、鍵2が変形してしまったり、鍵2の挿入部2Bが摩耗しているために、鍵2が通常よりも鍵穴6Aの奥側に潜り込んでしまった場合には、摘み部2Aに最も近い位置に配置された一対の鍵側電極21P、21Qが、錠側電極31P、31Qに接触し、両者が電気的に接続される。
【0049】
鍵2の挿入部2Bが鍵穴6A内を移動し、各対の鍵側電極21P、21Qが、一対の錠側電極31P、31Qと順次に電気的に接続される間に、鍵2に設けられた鍵回路5の各回路部11〜20が錠制御回路部7と順次に電気的に接続される。錠制御回路部7は、各回路部11〜20が錠制御回路部7と電気的に接続されている間に、各回路部11〜20に電圧を印加して、所定の特性を有する電流を流し、各回路部11〜20に設けられている抵抗部材の抵抗値等の検出を行う。各回路部11〜20と錠制御回路部7とが電気的に接続されている時間は短いが、この時間内に、錠制御回路部7は各回路部11〜20に設けられた抵抗部材の抵抗値等の検出を完遂することができる。そして、鍵2の挿入部2Bが鍵穴6Aに完全に挿入され、鍵2の挿入部2Bの最も先端側に配置された一対の鍵側電極21P、21Qが一対の錠側電極32P、32Qと接触して、両者が電気的に接続されたとき、錠制御回路部7は、各回路部11〜20に設けられた抵抗部材の抵抗値等の検出が完了したことを認識する。その後、錠制御回路部7は、検出された各抵抗部材の抵抗値等から鍵情報を生成し、この鍵情報と、予め記憶された照合情報とを照合し、当該鍵情報と当該照合情報とが一致したときに、錠4を解錠制御または施錠制御するための制御信号を錠4に出力する。
【0050】
錠制御回路部7には、このような検出処理、照合処理、制御信号出力処理等を行うためのCPU(Central Processing Unit)34、および上記照合情報の記憶等を行うメモリ35が設けられている。また、錠制御回路部7は、音声出力装置8および表示装置9と配線36を介して電気的に接続され、音声出力装置8による音声出力および表示装置9の表示を制御する。これら錠制御回路部7による処理については、後に図12および図13を参照しながら説明する。
【0051】
(基準設定回路部)
図3は、鍵2の鍵回路5内に設けられた基準設定回路部11の内部構成を示している。図4は基準設定回路部11における電圧−電流特性を示している。基準設定回路部11は、主として、鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様を検出すると共に、鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとの間の接触抵抗を検出するための回路部である。図3において、基準設定回路部11は、電気部材としてのダイオード41、抵抗部材としての抵抗素子42、および電気部材としてのポリスイッチ43を備えている。ダイオード41は順方向降下電圧VFAを有し、抵抗素子42は抵抗値Rを有する。ダイオード41および抵抗素子42は線路A1において互いに直列に接続されている。一方、ポリスイッチ43はトリップ電流|IAT|を有する。ポリスイッチ43は、絶対値がトリップ電流|IAT|よりも大きい電流のみを制限する電気部材である。すなわち、ポリスイッチ43は、自らに流れる電流の絶対値がトリップ電流|IAT|以下であるときには低抵抗となり、その電流の流通を実質的に許し、自らに流れる電流の絶対値がトリップ電流|IAT|を超えるときには高抵抗となり、その電流の流通を実質的に遮断する。ポリスイッチ43は線路A2に接続されている。そして、線路A1および線路A2は、挿入部2Bの最も先端側に配置された一対の鍵側電極21P、21Q間に互いに並列に接続されている。
【0052】
基準設定回路部11が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vと線路A1に流れる電流iA1との関係は、図4中の特性線CA1に示す通りである。すなわち、鍵側電極21P、21Q間に正の電圧+vを印加したときには、線路A1には電流iA1が流れる。この場合の特性線CA1の傾きは抵抗素子42の抵抗値R、および鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとの接触抵抗により定まる。また、特性線CA1とX軸との交点は、ダイオード41の順方向降下電圧VFAにより定まる。一方、鍵側電極21P、21Q間に負の電圧−vを印加したときには、ダイオード41の作用により線路A1には電流が流れない。
【0053】
また、基準設定回路部11が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vと線路A2に流れる電流iA2との関係は、図4中の特性線CA2に示す通りである。すなわち、鍵側電極21P、21Q間に正の電圧+vまたは負の電圧−vを印加したとき、これによりポリスイッチ43に流れる電流iA2の絶対値がトリップ電流|IAT|以下である間はポリスイッチ43が低抵抗となるため、特性線CA2の傾きが大きくなり、電流iA2の絶対値が増加する。ところが、ポリスイッチ43に流れる電流iA2の絶対値がトリップ電流|IAT|を超えるとポリスイッチ43が高抵抗となるため、電流iA2の絶対値が急激に減少し、その後、特性線CA2の傾きが小さくなる。また、鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vが+VATまたは−VATのとき、ポリスイッチ43を流れる電流iA2の絶対値がトリップ電流|IAT|となる。
【0054】
鍵2が鍵穴6Aに挿入される間、基準設定回路部11に接続された鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとが電気的に接続され、これにより基準設定回路部11と錠制御回路部7とが電気的に接続される。このとき、錠制御回路部7は基準設定回路部11に、まず、絶対値が|VAT|よりも大きい正の電圧+vを印加し、続いて、絶対値が|VAT|よりも大きい負の電圧−vを印加し、これにより、線路A1を流れる電流iA1の傾きを読み取る。なお、ダイオードの順方向降下電圧VFAが一定の値であり、この順方向降下電圧VFAが予めメモリ35に記憶されている場合には、絶対値が|VAT|よりも大きい一定の正の電圧+VAPまたは負の電圧−VAP(いずれも図示せず)を印加し、電圧+VAPまたは電圧−VAPに対応する電流iA1の値を読み取ることにより、電流iA1の傾きを算出することができる。また、ダイオードの順方向降下電圧VFAが一定の値とならない場合や、順方向降下電圧VFAが未知である場合には、絶対値が|VAT|よりも大きい範囲で正の印加電圧+vまたは負の印加電圧−vを変化させ、互いに異なる2つの電圧値にそれぞれ対応する2つの電流iA1の値を読み取ることにより、電流iA1の傾きを算出することができる。
【0055】
その後、錠制御回路部7は、読み取った電流iA1の傾きに基づいて、鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様を認識する。すなわち、鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様には2つの態様がある。第1の態様は、図2に示すように、鍵側電極21Pと錠側電極31P(32P)とが互いに接触すると共に、鍵側電極21Qと錠側電極31Q(32Q)とが互いに接触する態様である。一方、第2の態様は、鍵側電極21Qと錠側電極31P(32P)とが互いに接触すると共に、鍵側電極21Pと錠側電極31Q(32Q)とが互いに接触する態様である。図2中の鍵2の上下を逆にして鍵穴6Aに挿入したとき第2の態様になる。
【0056】
鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様が第1の態様である場合、正の電圧+vが印加されたときに電流iA1の傾きが0よりも大きい値となり、負の電圧−vが印加されたときに電流iA1の傾きが0となる。一方、鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様が第2の態様である場合、正の電圧+vが印加されたときに電流iA1の傾きが0となり、負の電圧−vが印加されたときに電流iA1の傾きが0より大きい値となる。錠制御回路部7は、0よりも大きい電流iA1の傾きの値を読み取ったのが、正の電圧+vを印加したときか、負の電圧−vを印加したときかを判断することにより、鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様を認識する。
【0057】
さらに、錠制御回路部7は、読み取った電流iA1の傾きの値から、予めメモリ35に記憶された抵抗素子42の抵抗値Rを引くことにより、鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとの間の接触抵抗を検出する。
【0058】
(種類検出回路部)
図5は、鍵2の鍵回路5内に設けられた種類検出回路部12の内部構成を示している。図6は種類検出回路部12における電圧−電流特性を示している。種類検出回路部12は、鍵穴6Aに挿入された鍵2の種類を検出するための回路部である。図5において、種類検出回路部12は、電気部材としてのダイオード51、52、電気部材としてのヒューズ53、54、抵抗部材としての抵抗素子55、56、および電気部材としてのポリスイッチ57を備えている。各ダイオード51、52は順方向降下電圧VFBを有する。各ヒューズ53、54は、錠制御回路部7から種類検出回路部12に印加される電圧によって切断されることがないように形成されている。各抵抗素子55、56は抵抗値Rを有する。ダイオード51、ヒューズ53および抵抗素子55は線路B1においてそれぞれ直列に接続されている。ダイオード52、ヒューズ54および抵抗素子56は線路B2においてそれぞれ直列に接続されている。一方、ポリスイッチ57はトリップ電流|IBT|を有する。ポリスイッチ57は、絶対値がトリップ電流|IBT|よりも大きい電流のみを制限する電気部材である。ポリスイッチ57は線路B3に接続されている。そして、線路B1、線路B2および線路B3は、挿入部2Bの先端側から摘み部2Bに向かって数えて2番目に配置された一対の鍵側電極21P、21Q間に互いに並列に接続されている。また、ダイオード51とダイオード52とは向きが互いに逆である。
【0059】
種類検出回路部12が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vと線路B1に流れる電流iB1との関係は、図6中の特性線CB1に示す通りである。すなわち、鍵側電極21P、21Q間に正の電圧+vを印加したときには、線路B1には電流iB1が流れる。この場合の特性線CB1の傾きは抵抗素子55の抵抗値R、および鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとの接触抵抗により定まる。また、特性線CB1とX軸との交点は、ダイオード51の順方向降下電圧VFBにより定まる。一方、鍵側電極21P、21Q間に負の電圧−vを印加したときには、ダイオード51の作用により線路B1には電流が流れない。
【0060】
種類検出回路部12が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vと線路B2に流れる電流iB2との関係は、図6中の特性線CB2に示す通りである。すなわち、鍵側電極21P、21Q間に正の電圧+vを印加したときには、ダイオード52の作用により線路B2には電流が流れない。一方、鍵側電極21P、21Q間に負の電圧−vを印加したときには、線路B2には電流iB2が流れる。この場合の特性線CB2の傾きは抵抗素子56の抵抗値R、および鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとの接触抵抗により定まる。また、特性線CB2とX軸との交点は、ダイオード52の順方向降下電圧VFBにより定まる。
【0061】
また、種類検出回路部12が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vと線路B3に流れる電流iB3との関係は、図6中の特性線CB3に示す通りである。すなわち、鍵側電極21P、21Q間に正の電圧+vまたは負の電圧−vを印加したとき、これによりポリスイッチ57に流れる電流iB3の絶対値がトリップ電流|IBT|以下である間はポリスイッチ57が低抵抗となるため、特性線CB3の傾きが大きくなり、電流iB3の絶対値が増加する。ところが、ポリスイッチ57に流れる電流iB3の絶対値がトリップ電流|IBT|を超えるとポリスイッチ57が高抵抗となるため、電流iB3の絶対値が急激に減少し、その後、特性線CB3の傾きが小さくなる。また、鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vが+VBTまたは−VBTのとき、ポリスイッチ57を流れる電流iB3の絶対値がトリップ電流|IBT|となる。
【0062】
鍵2が鍵穴6Aに挿入される間、種類検出回路部12に接続された鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとが電気的に接続され、これにより種類検出回路部12と錠制御回路部7とが電気的に接続される。このとき、錠制御回路部7は種類検出回路部12に、まず、絶対値が|VBT|よりも大きい正の電圧+vを印加し、続いて、絶対値が|VBT|よりも大きい負の電圧−vを印加し、これにより、線路B1を流れる電流iB1の傾き、および線路B2を流れる電流iB2の傾きを読み取る。
【0063】
その後、錠制御回路部7は、読み取った電流iB1の傾きおよび電流iB2の傾きに基づいて、鍵穴6Aに挿入された鍵2の種類を認識する。すなわち、鍵2には、登録鍵、抹消鍵、照合鍵といった3つの種類がある。登録鍵は、当該鍵の鍵情報を錠制御回路部7のメモリ35に照合情報として記憶するときに用いる鍵である。抹消鍵は、当該鍵の鍵情報に対応する照合情報を錠制御回路部7のメモリ35から消去するときに用いる鍵である。照合鍵は、当該鍵の鍵情報と、錠制御回路部7のメモリ35にすでに記憶されている照合情報とを照合して錠4の施解錠動作を制御するときに用いる鍵である。例えば、電気錠システム1が適用された建造物の管理者は、鍵2を登録鍵として用いる場合には、専用の装置を用いて、鍵2の種類検出回路部12に、錠制御回路部7から種類検出回路部12に印加される電圧の絶対値よりも大きな絶対値を有する正の電圧を印加し、線路B1のヒューズ53を切断する(線路B2のヒューズ55は切断しない)。また、管理者は、鍵2を抹消鍵として用いる場合には、専用の装置を用いて、鍵2の種類検出回路部12に、錠制御回路部7から種類検出回路部12に印加される電圧の絶対値よりも大きな絶対値を有する負の電圧を印加し、線路B2のヒューズ55を切断する(線路B1のヒューズ53は切断しない)。また、管理者は、鍵2を照合鍵として用いる場合には、鍵2の種類検出回路部12にこのような電圧を印加せず、ヒューズ53、55をいずれも切断しない。
【0064】
鍵穴6Aに挿入された鍵2が登録鍵であり、当該鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様が第1の態様である場合には、電流iB1の傾きが0となり、電流iB2の傾きが0よりも大きい値となる。鍵穴6Aに挿入された鍵2が登録鍵であり、当該鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様が第2の態様である場合には、電流iB1の傾きが0よりも大きい値となり、電流iB2の傾きが0となる。また、鍵穴6Aに挿入された鍵2が抹消鍵であり、当該鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様が第1の態様である場合には、電流iB1の傾きが0よりも大きい値となり、電流iB2の傾きが0となる。鍵穴6Aに挿入された鍵2が抹消鍵であり、当該鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様が第2の態様である場合には、電流iB1の傾きが0となり、電流iB2の傾きが0よりも大きい値となる。一方、鍵穴6Aに挿入された鍵2が照合鍵である場合、電流iB1の傾きも電流iB2の傾きも0よりも大きい値となる。錠制御回路部7は、上述した基準設定回路部11により検出された鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様と、種類検出回路部12における電流iB1、iB2の傾きとに基づいて、鍵穴6Aに挿入された鍵2の種類を判断する。
【0065】
(鍵検出回路部)
図7は、鍵2の鍵回路5内に設けられた鍵検出回路部13の内部構成を示している。図8は鍵検出回路部13における電圧−電流特性を示している。図9は鍵情報の一例を示している。鍵検出回路部13は、鍵穴6Aに挿入された鍵2の鍵情報の一部を検出するための回路である。図7において、鍵検出回路部13は、電気部材としてのダイオード61、62、抵抗部材としての抵抗素子63、64、および電気部材としてのポリスイッチ65を備えている。各ダイオード61、62は順方向降下電圧VFKを有する。抵抗素子63は抵抗値RK1を有し、抵抗素子64は抵抗値RK2を有する。ダイオード61および抵抗素子63は線路K1においてそれぞれ直列に接続されている。ダイオード62および抵抗素子64は線路K2においてそれぞれ直列に接続されている。一方、ポリスイッチ65はトリップ電流|IKT|を有する。ポリスイッチ65は、絶対値がトリップ電流|IKT|よりも大きい電流のみを制限する電気部材である。ポリスイッチ65は線路K3に接続されている。そして、線路K1、線路K2および線路K3は、挿入部2Bの先端側から摘み部2Bに向かって数えて3番目に配置された一対の鍵側電極21P、21Q間に互いに並列に接続されている。また、ダイオード61とダイオード62とは向きが互いに逆である。
【0066】
鍵検出回路部13が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vと線路K1に流れる電流iK1との関係は、図8中の特性線CK1に示す通りである。すなわち、鍵側電極21P、21Q間に正の電圧+vを印加したときには、線路K1には電流iK1が流れる。この場合の特性線CK1の傾きは抵抗素子63の抵抗値RK1、および鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとの接触抵抗により定まる。また、特性線CK1とX軸との交点は、ダイオード61の順方向降下電圧VFKにより定まる。一方、鍵側電極21P、21Q間に負の電圧−vを印加したときには、ダイオード61の作用により線路K1には電流が流れない。
【0067】
鍵検出回路部13が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vと線路K2に流れる電流iK2との関係は、図8中の特性線CK2に示す通りである。すなわち、鍵側電極21P、21Q間に正の電圧+vを印加したときには、ダイオード62の作用により線路K2には電流が流れない。一方、鍵側電極21P、21Q間に負の電圧−vを印加したときには、線路K2には電流iK2が流れる。この場合の特性線CK2の傾きは抵抗素子64の抵抗値RK2、および鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとの接触抵抗により定まる。また、特性線CK2とX軸との交点は、ダイオード62の順方向降下電圧VFKにより定まる。
【0068】
また、鍵検出回路部13が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vと線路K3に流れる電流iK3との関係は、図8中の特性線CK3に示す通りである。すなわち、鍵側電極21P、21Q間に正の電圧+vまたは負の電圧−vを印加したとき、これによりポリスイッチ65に流れる電流iK3の絶対値がトリップ電流|IKT|以下である間はポリスイッチ65が低抵抗となるため、特性線CK3の傾きが大きくなり、電流iK3の絶対値が増加する。ところが、ポリスイッチ65に流れる電流iK3の絶対値がトリップ電流|IKT|を超えるとポリスイッチ65が高抵抗となるため、電流iK3の絶対値が急激に減少し、その後、特性線CK3の傾きが小さくなる。また、鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vが+VKTまたは−VKTのとき、ポリスイッチ65を流れる電流iK3の絶対値がトリップ電流|I|となる。
【0069】
鍵2が鍵穴6Aに挿入される間、鍵検出回路部13に接続された鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとが電気的に接続され、これにより鍵検出回路部13と錠制御回路部7とが電気的に接続される。このとき、錠制御回路部7は鍵検出回路部13に、まず、絶対値が|VKT|よりも大きい正の電圧+vを印加し、続いて、絶対値が|VKT|よりも大きい負の電圧−vを印加し、これにより、線路K1を流れる電流iK1の傾き、および線路K2を流れる電流iK2の傾きを読み取る。
【0070】
その後、錠制御回路部7は、読み取った電流iK1の傾きおよび電流iK2の傾きに基づいて、鍵穴6Aに挿入された鍵2の鍵情報の一部を認識する。すなわち、鍵2は固有の鍵情報を有している。鍵情報は、図9に示すように例えば192ビットの情報であり、物件コード、部屋コードおよび鍵管理コードを含んでいる。また、鍵管理コードは鍵2の追番を示す情報を含んでいる。鍵情報は、それぞれ16ビットの長さを有する12個の情報片に分割され、鍵2の鍵回路5内に設けられた6つの鍵検出回路部13〜18に設けられている合計12個の抵抗素子の抵抗値として鍵2に記録されている。例えば、情報片「1」(16進数)が抵抗値10KΩ、情報片「2」が抵抗値12kΩ、情報片「3」が抵抗値15kΩ、情報片「C」が82kΩというように記録されている。また、12個の情報片を12個の抵抗素子の抵抗値としてそれぞれ記録する順番も予め決められている。例えば、鍵情報の第177〜192ビットを構成する情報片は、鍵検出回路部13に設けられた抵抗素子63の抵抗値RK1として記録され、鍵情報の第161〜176ビットを構成する情報片は、鍵検出回路部13に設けられた抵抗素子64の抵抗値RK2として記録されている。
【0071】
錠制御回路部7は、電流iK1の傾きの値から、上述した基準設定回路部11により検出された接触抵抗の値を引き、これにより抵抗素子63の抵抗値RK1を算出し、さらに、この抵抗値RK1に基づいて、鍵情報の第177〜192ビットを構成する情報片の値を特定する。また、錠制御回路部7は、電流iK2の傾きの値から、上述した基準設定回路部11により検出された接触抵抗の値を引き、これにより抵抗素子64の抵抗値RK2を算出し、さらに、この抵抗値RK2に基づいて、鍵情報の第161〜176ビットを構成する情報片の値を特定する。なお、電流iK1の傾きおよび電流iK2の傾きの識別は、上述した基準設定回路部11により検出された、鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様に基づいて行われる。
【0072】
ここで、ポリスイッチ65の作用について説明する。図8中の特性線CK1またはCK2から分かる通り、鍵検出回路部13に印加する電圧が、トリップ電流|IKT|に対応する電圧値+VKTまたは−VKT以下である場合には、ポリスイッチ65が低抵抗となるため、線路K3に電流が流れる。この結果、電気錠システム1が適用された建造物の管理者以外の者(例えば鍵2の合鍵を不正に作ろうする者)が、汎用の電気計測器等を用いて、鍵2の鍵検出回路部13に設けられた抵抗素子63、64の抵抗値RK1、RK2を検出しようとしても、これらを検出することができない。もっとも、絶対値が|VKT|よりも大きい電圧を鍵検出回路部13に印加すれば、抵抗値RK1、RK2を検出することができるが、抵抗値RK1、RK2だけでなく|VKT|も秘匿されているため、汎用の電気計測器等を用いて抵抗値RK1、RK2を検出することは実際上極めて困難である。
【0073】
各鍵検出回路14〜18の構成および動作も鍵検出回路13の構成および動作と同様である。もっとも、各鍵検出回路13〜18における各抵抗素子の抵抗値は、鍵情報を構成する情報片の値に応じてそれぞれ異なる。また、各鍵検出回路13〜18における各ダイオードの順方向降下電圧は、それぞれ同一にしてもよいし、異なるようにしてもよい。また、各鍵検出回路13〜18におけるポリスイッチのトリップ電流の値も、それぞれ同一にしてもよいし、異なるようにしてもよい。
【0074】
(挿入検出回路部)
図10は、鍵2の鍵回路5内に設けられた挿入検出回路部19、20の内部構成を示している。図11は挿入検出回路部19、20における電圧−電流特性を示している。挿入検出回路部19は、鍵2が鍵穴6Aに完全に挿入されたことを検出するための回路部であり、挿入検出回路部20は、鍵2が変形しているために、鍵2が通常よりも鍵穴6Aの奥側に潜り込んでしまったことを検出するための回路部である。図10において、挿入検出回路部19は、トリップ電流|IDT1|を有するポリスイッチ71を摘み部2Aから挿入部2Bの先端側に向かって数えて2番目に配置された一対の鍵側電極21P、21Q間に接続することにより構成されている。また、挿入検出回路部20は、トリップ電流|IDT2|を有するポリスイッチ72を最も摘み部2A側に配置された一対の鍵側電極21P、21Q間に接続することにより構成されている。
【0075】
種類検出回路部19が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vとポリスイッチ71に流れる電流iD1との関係は、図11中の特性線CD1に示す通りである。また、種類検出回路部20が接続された鍵側電極21P、21Q間に印加する電圧vとポリスイッチ72に流れる電流iD2との関係は、図11中の特性線CD2に示す通りである。図11から分かる通り、ポリスイッチ71のトリップ電流|IDT1|と、ポリスイッチ72のトリップ電流|IDT2|とは互いの異なり、トリップ電流|IDT1|に対応する電圧値+VDT1、−VDT1と、トリップ電流|IDT2|に対応する電圧値+VDT2、−VDT2とは互いに異なる。
【0076】
変形等がない鍵2が鍵穴6Aに完全にかつ正常に挿入されたときには、挿入検出回路部19に接続された鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとが電気的に接続され、これにより挿入検出回路部19と錠制御回路部7とが電気的に接続される。このとき、錠制御回路部7は挿入検出回路部19に、例えば電圧値がVDT1およびVDT2を含む範囲で変化する正の電圧+vを印加し、これにより、ポリスイッチ71のトリップ電流|IDT1|に対応するVDT1を検出する。VDT1の検出に成功したときには、錠制御回路部7は、変形等がない鍵2が鍵穴6Aに完全にかつ正常に挿入されたと判断する。
【0077】
一方、変形あるいは挿入部2Bが摩耗した鍵2が鍵穴6A内に潜り込んでしまったときには、挿入検出回路部20に接続された鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとが電気的に接続され、これにより挿入検出回路部20と錠制御回路部7とが電気的に接続される。このとき、錠制御回路部7は挿入検出回路部20に、例えば電圧値がVDT1およびVDT2を含む範囲で変化する正の電圧+vを印加し、これにより、ポリスイッチ72のトリップ電流|IDT2|に対応するVDT2を検出する。VDT2が検出されたときには、錠制御回路部7は、変形あるいは挿入部2が摩耗した鍵2が鍵穴6Aに潜り込んでしまっていると判断する。
【0078】
他方、鍵2の鍵穴6Aへの挿入が開始されてから所定時間経過したにもかかわらず、VDT1もVDT2も検出されないときには、錠制御回路部7は、鍵2が鍵穴6Aに完全または正常に挿入されていないと判断する。これについては後述する。
【0079】
(錠制御回路部の動作の流れ)
図12は錠制御装置3の錠制御回路部7の動作の流れを示している。図13は、鍵穴6Aに挿入された鍵2における鍵回路5内の各回路部11〜20により検出された情報を示している。図12において、錠制御装置3の電源が投入されると(ステップS1)、錠制御回路部7は初期設定を行い(ステップS2)、その後、鍵2の鍵穴6Aへの挿入が開始されるのを待つ(ステップS3)。そして、鍵2またはこれに似た形状を有する他の物の鍵穴6Aへの挿入が開始されたとき、錠制御回路部7は、このことを検出する(ステップS3:YES)。例えば、鍵穴6Aの開口部には、鍵2が挿入されていないときは開口部を閉じ、鍵2が挿入されたときには、鍵2の挿入部2Bの先端に押されて回動ないし揺動することにより開口部を開く蓋部が設けられており、開口部近傍には、蓋部が回動ないし揺動して開口部を開いたことを検出するセンサ(例えば接触センサや位置センサ)が設けられている。錠制御回路部7はこのセンサによる検出結果に基づいて、鍵2または他の物の鍵穴6Aへの挿入が開始されたことを認識する。続いて、錠制御回路部7は、タイマをスタートさせる(ステップS4)。
【0080】
続いて、錠制御回路部7は、鍵穴6Aへの挿入が開始されたものが鍵2であるか否かを判断する(ステップS5)。鍵穴6Aへの挿入が開始されたものが鍵2である場合には、挿入開始時に、錠側電極31P、31Qと、当該鍵2の挿入部2Bの最も先端側に配置された一対の鍵側電極21P、21Qとが接触して両者が電気的に接続され、これにより錠制御回路部7と基準設定回路部11とが電気的に接続される。錠制御回路部7は、基準設定回路部11に電圧vを印加し、図4に示す基準設定回路部11における電圧−電流特性を検出する。この検出が成功したとき、錠制御回路部7は、鍵穴6Aへの挿入が開始されたものが鍵2であることと判断し(ステップS5:YES)、処理をステップS8に進める。一方、基準設定回路部11における電圧−電流特性が検出されなかったときには(ステップS5:NO)、錠制御回路部7は、タイマの値を参照しながら、鍵2または他の物の鍵穴6Aへの挿入が開始されてから所定時間が経過するまでの間、ステップS5およびS6の処理を繰り返し行う(ステップS6:NO)。そして、基準設定回路部11における電圧−電流特性が検出されないまま、鍵2または他の物の鍵穴6Aへの挿入が開始されてから所定時間が経過したとき、錠制御回路部7は鍵穴6Aへの挿入が開始されたものが他の物であると判断する(ステップS6:YES)。この場合、錠制御回路部7は、音声出力装置8および表示装置9を制御し、鍵穴6Aに異物が挿入されたことを示す警報を出力し(ステップS7)、処理をステップS3に戻す。
【0081】
一方、鍵穴6Aへの挿入が開始されたものが鍵2であるとき、錠制御回路部7は、鍵2の鍵穴6Aへの挿入態様の検出、鍵側電極21P、21Qと錠側電極31P、31Qとの間の接触抵抗の検出、鍵2の種類の検出、および鍵情報の検出を順次行い、これら検出した情報をメモリ35に記憶する(ステップS8)。これらの情報の検出は、上述したように、鍵2の挿入部2Bが鍵穴6A内を移動している間に、錠制御回路部7が、鍵2における鍵回路5内の基準設定回路部11、種類検出回路部12、鍵検出回路部13〜18と順次に接続されることにより行われる。
【0082】
続いて、錠制御回路部7は、鍵2が鍵穴6Aに完全にかつ正常に挿入されたか否かを判断する(ステップS9)。鍵2が鍵穴6Aに完全にかつ正常に挿入されたときには、上述したように、錠制御回路部7と挿入検出回路部19とが接続され、錠制御回路部7と挿入検出回路部20との接続がない。錠制御回路部7は、このことを、例えばポリスイッチ71のトリップ電流|VDT1|に対応する電圧VDT1が検出されたこと、およびポリスイッチ72のトリップ電流|VDT2|に対応する電圧VDT2が検出されなかったことにより認識し、この認識に基づいて、鍵2が鍵穴6Aに完全にかつ正常に挿入されたと判断し(ステップS9:YES)、処理をステップS12に進める。一方、ポリスイッチ71のトリップ電流|VDT1|に対応する電圧VDT1(または−VDT1)が検出されなかったとき、あるいはポリスイッチ72のトリップ電流|VDT2|に対応する電圧VDT2(または−VDT2)が検出されたときには、錠制御回路部7は、鍵2が鍵穴6Aに完全にまたは正常に挿入されていないと判断し(ステップS9:NO)、鍵2の鍵穴6Aへの挿入が開始されてから所定時間が経過するまでの間、ステップS5〜S10の処理を繰り返し行う(ステップS10:NO)。そして、鍵2が鍵穴6Aに完全にまたは正常に挿入されていないまま、鍵2の鍵穴6Aへの挿入が開始されてから所定時間が経過したとき(ステップS10:YES)、錠制御回路部7は、音声出力装置8および表示装置9を制御し、鍵2の鍵穴6Aへの挿入が不完全または異常であることを示す警報を出力し(ステップS11)、処理をステップS3に戻す。
【0083】
一方、鍵2が鍵穴6Aに完全にかつ正常に挿入された場合には、錠制御回路部7は、タイマをストップさせる。そして、錠制御回路部7は、ステップS8において鍵2から検出してメモリ35に記憶した情報に基づいて演算を行い、例えば図13に示すように、鍵2に記録された鍵情報を生成する。続いて、当該鍵2が照合鍵である場合には、錠制御回路部7は、この生成した鍵情報と、メモリ35に記憶された照合情報とを比較し、両者が一致するか否かを判断する(照合処理:ステップS12)。そして、鍵情報と照合情報とが一致したときには、錠制御回路部7は錠4に施解錠制御信号を出力する(ステップS13)。これにより、錠4は施解錠動作を行う。この結果、今まで施錠されていた施錠対象物は解錠され、今まで施錠されていなかった施錠対象物は施錠される。一方、鍵情報と照合情報とが一致しなかったときには、錠制御回路部7は錠4に施解錠制御信号を出力しない。これにより、錠4は施解錠動作を行わず、この結果、今まで施錠されていた施錠対象物は施錠された状態が維持され、今まで施錠されていなかった施錠対象物は施錠されていない状態が維持される。
【0084】
なお、当該鍵2が登録鍵である場合には、錠制御回路部7は、ステップS12およびS13の処理を行わず、その代わりに、生成した鍵情報を照合情報としてメモリ35に記憶する処理(登録処理)を行う。一方、当該鍵2が抹消鍵である場合には、錠制御回路部7は、ステップS12およびS13の処理を行わず、その代わりに、生成した鍵情報と一致する照合情報をメモリ35から消去する処理(抹消処理)を行う。
【0085】
施解錠制御、登録処理または抹消処理が完了した後、錠制御回路部7は、タイマをリセットし、スタートさせ(ステップS14)、鍵穴6Aから鍵2が抜かれたか否かを判断する(ステップS15)。この判断は、鍵2の挿入部2Bの最も先端側に配置された一対の鍵側電極21P、21Qと錠側電極32P、32Qとが接触から非接触に変わったか否かを検出することにより実現することができる。施解錠制御、登録処理または抹消処理が完了してから所定の時間が経過しても鍵2が鍵穴6Aから抜かれない場合には(ステップS16:YES)、錠制御回路部7は、音声出力装置8および表示装置9を制御し、鍵2の抜き忘れを示す警報を出力する(ステップS17)。一方、施解錠制御、登録処理または抹消処理が完了してから所定の時間が経過するまでに鍵2が鍵穴6Aから抜かれた場合には、錠制御回路部7は、音声出力装置8および表示装置9を制御し、施解錠動作が正常に終了したことを示す音声および光により報知する(ステップS18)。
【0086】
以上説明したとおり、本発明の第1の実施形態による電気錠システム1によれば、鍵2に抵抗値として記録された鍵情報を検出し、この鍵情報を照合情報と照合することにより錠4の施解錠動作を制御するため、鍵や錠の摩耗による解錠不良は生じにくい。また、鍵回路を構成する抵抗部材も電気部材も受動素子により構成することができるため、ノイズ、静電気等に強い。
【0087】
また、各鍵検出回路部13〜18に設けられたポリスイッチ65のトリップ電流に対応する電圧値の絶対値よりも大きい絶対値を有する電圧を各鍵検出回路部13〜18に印加しなければ、各鍵検出回路部13〜18に設けられた各抵抗素子63、64等の抵抗値を検出することができない。この結果、鍵2に抵抗値として記録された鍵情報を、汎用の電気計測機器等を用いて読み取ることはきわめて困難である。また、基準設定回路部11に設けられたポリスイッチ43や種類設定回路部12に設けられたポリスイッチ57も、鍵回路5の回路構成の分析を困難にする。したがって、鍵2の合鍵が不正に作られることを防止することができる。また、各回路部11〜18に設けられたポリスイッチのトリップ電流を、例えば回路部11〜18ごとに異ならせることで、鍵回路5の回路構成の分析をより一層困難にすることができる。
【0088】
また、各鍵検出回路部13〜18では、互いに並列に接続された2つの線路K1、K2にそれぞれ互いに向きが異なるダイオード61、62を設けている。これにより、各鍵検出回路部13〜18に流す電流の向きを切り換えることで、線路K1に設けられた抵抗素子63の抵抗値と、線路K2に設けられた抵抗素子64の抵抗値とをそれぞれ独立させて高精度に検出することができる。この結果、1つの鍵検出回路部につき、2つの抵抗素子の抵抗値を検出することができるので、鍵側電極21P、21Qの個数の増加を抑えながら、抵抗素子の個数を増やすことができ、これにより鍵情報の長さを長くすることができ(ビット数を増やすことができ)、鍵違いの個数を増やすことができる。
【0089】
また、種類検出回路部12においてヒューズ53、54の切断の有無によって鍵2の種類を検出することにより、鍵2の種類の自動的な検出を簡単な構成で実現することができる。
【0090】
また、挿入検出回路部19、20では、ポリスイッチ71、72のトリップ電流を互いに異ならせることにより、鍵2の鍵穴6Aへの挿入の状況を容易にかつ高精度に検出することができる。
【0091】
(第2の実施形態)
図14は、本発明の第2の実施形態による電気錠システムにおける鍵の鍵回路内に設けられた鍵検出回路部の内部構成を示している。図15は図14中の鍵検出回路部における電圧−電流特性を示している。図14において、本発明の第2の実施形態における鍵検出回路部81は、第1の実施形態における各鍵検出回路13〜18と同様に、鍵穴に挿入された鍵の鍵情報の一部を検出するための回路である。第2の実施形態における鍵検出回路部81の特徴は、ツェナーダイオードを設けることにより、汎用の電気計測器等を用いて鍵情報を読み取ることをより一層困難にした点にある。
【0092】
すなわち、鍵検出回路部81は、電気部材としてのツェナーダイオード82、83、電気部材としてのダイオード84、85、抵抗部材としての抵抗素子86、87、および電気部材としてのポリスイッチ88を備えている。各ツェナーダイオード82、83はツェナー電圧VZM1、VZM2をそれぞれ有し、各ダイオード84、85は順方向降下電圧VFMを有する。抵抗素子86、87は抵抗値RM1、RM2をそれぞれ有する。ツェナーダイオード82、ダイオード84および抵抗素子86は線路M1においてそれぞれ直列に接続されている。ツェナーダイオード83、ダイオード85および抵抗素子87は線路M2においてそれぞれ直列に接続されている。一方、ポリスイッチ88はトリップ電流|IMT|を有し、線路K3に接続されている。そして、線路K1、線路K2および線路K3は、一対の鍵側電極21P、21Q間に互いに並列に接続されている。また、ダイオード84とダイオード85とは向きが互いに逆であり、ダイオード84とツェナーダイオード82とは向きが互いに逆であり、ダイオード85とツェナーダイオード83とは向きが互いに逆である。
【0093】
鍵検出回路部81の電圧−電流特性の特徴は、図15に示すように、線路M1における電圧−電流特性を示す特性線CM1とX軸との交点が、ダイオード84の順方向降下電圧VFMとツェナーダイオード82のツェナー電圧VZM1とを加算した値により決まり、線路M2における電圧−電流特性を示す特性線CM2とX軸との交点が、ダイオード85の順方向降下電圧VFMとツェナーダイオード83のツェナー電圧VZM2とを加算した値により決まる点にある。
【0094】
このような構成を有する鍵検出回路部81において、電気錠システム1が適用された建造物の管理者以外の者(例えば鍵2の合鍵を不正に作ろうとしている者)が、汎用の電気計測器等を用い、線路M1を流れる電流iM1の傾きを読み取り、抵抗素子86の抵抗値RM1を検出するためには、絶対値がダイオード84の順方向降下電圧VFMとツェナーダイオード82のツェナー電圧VZM1とを加算した値よりも大きい電圧を鍵側電極21P、21Q間に印加しなければならず、これを実現するためには、ダイオード84の順方向降下電圧VFMおよびツェナーダイオード82のツェナー電圧VZM1を予め知らなければならない。したがって、ダイオード84の順方向降下電圧VFMおよびツェナーダイオード82のツェナー電圧VZM1を秘匿しておくことにより、抵抗素子86の抵抗値RM1の検出を極めて困難にすることができる。同様に、ダイオード85の順方向降下電圧VFMおよびツェナーダイオード83のツェナー電圧VZM2を秘匿しておくことにより、抵抗素子87の抵抗値RM2の検出を極めて困難にすることができる。
【0095】
このように、本発明の第2の実施形態における鍵検出回路部81によれば、鍵2の合鍵が不正に作られることを、より一層効果的に防止することができる。
【0096】
なお、鍵検出回路部の各線路にヒューズを設け、不正に鍵2の合鍵を作ろうとする者が汎用の電気計測器を用いて鍵検出回路部に電圧を印加したときに、ヒューズが切断されるように構成してもよい。この場合、錠制御回路部7が当該鍵検出回路部の各線路を流れる電流の傾き等を検出するために印加する電圧によってはヒューズが切断されないように、適切なヒューズ切断電圧値を有するヒューズを選択して用いる。このような鍵検出回路部の回路図は、形式的には、図5に示す種類検出回路部12の回路図と同じになる。
【0097】
また、上述した各実施形態では、6つの鍵検出回路部13〜18を設ける構成としたが、鍵検出回路部の個数は2つ以上5つ以下でもよいし、7つ以上でもよい。
【0098】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電気錠システムもまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
1 電気錠システム
2 鍵
3 錠制御装置
4 錠
5 鍵回路
6 シリンダ(鍵穴部材)
6A 鍵穴
7 錠制御回路部(錠制御回路)
21P、21Q 鍵側電極
31P、31Q、32P、32Q 錠側電極
11 基準設定回路部
12 種類検出回路部
13〜18、81 鍵検出回路部
19、20 挿入検出回路部
41、51、52、61、62、84、85 ダイオード
42、55、56、63、64、86、87 抵抗素子
43、57、65、71、72、88 ポリスイッチ
53、54 ヒューズ
82、83 ツェナーダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵と、錠を制御する錠制御装置とを備えた電気錠システムであって、
前記鍵は鍵回路を備え、
前記鍵回路は、
前記鍵の内部に設けられ、所定の抵抗値を有する複数の抵抗部材と、
前記鍵の内部に設けられ、所定の特性を有する電流のみを流し、または所定の特性を有する電流のみを制限する電気部材と、
前記鍵の表面に設けられ、前記複数の抵抗部材および前記電気部材に電気的に接続された複数の鍵側電極とを備え、
前記錠制御装置は、鍵穴を有する鍵穴部材と錠制御回路とを備え、
前記錠制御回路は、
前記鍵穴の内面に設けられ、前記鍵が前記鍵穴に挿入されたとき、または挿入される間に、前記複数の鍵側電極のそれぞれと電気的に接続される複数の錠側電極を有し、
前記複数の鍵側電極と前記複数の錠側電極との電気的な接続により前記鍵回路と電気的に接続され、前記所定の特性を有する電流を前記鍵回路に流すことにより、前記鍵回路の前記複数の抵抗部材の抵抗値の組み合わせによって形成される鍵情報を検出し、当該鍵情報に基づいて前記錠における施解錠動作を制御することを特徴とする電気錠システム。
【請求項2】
前記電気部材は、所定の電流値よりも大きい電流値を有する電流のみを制限し、前記鍵回路は、前記複数の抵抗部材のうちの少なくとも1つの抵抗部材と当該電気部材とが互いに並列に接続された第1の回路部を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の電気錠システム。
【請求項3】
前記第1の回路部における前記電気部材はポリスイッチであることを特徴とする請求項2に記載の電気錠システム。
【請求項4】
前記電気部材は、所定の方向の電流のみを流し、前記鍵回路は、前記複数の抵抗部材のうちの少なくとも1つの抵抗部材と当該電気部材とが互いに直列に接続された第2の回路部を含んでいることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電気錠システム。
【請求項5】
前記第2の回路部における前記電気部材はダイオードであることを特徴とする請求項4に記載の電気錠システム。
【請求項6】
前記電気部材は、所定の電流値以下の電流値を有する電流のみを流し、前記鍵回路は、前記複数の抵抗部材のうちの少なくとも1つの抵抗部材と当該電気部材とが互いに直列に接続された第3の回路部を含んでいることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電気錠システム。
【請求項7】
前記第3の回路部における前記電気部材はヒューズであることを特徴とする請求項6に記載の電気錠システム。
【請求項8】
前記電気部材は、所定の電圧値以下における電流のみを制限し、前記鍵回路は、前記複数の抵抗部材のうちの少なくとも1つの抵抗部材と当該電気部材とが互いに直列に接続された第4の回路部を含んでいることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の電気錠システム。
【請求項9】
前記第4の回路部における前記電気部材はツェナーダイオードであることを特徴とする請求項8に記載の電気錠システム。
【請求項10】
前記錠制御回路は、前記鍵回路から検出した前記鍵情報と、予め記憶された照合情報とを照合し、当該鍵情報と当該照合情報とが一致したときに、前記錠を解錠制御するための制御信号を前記錠に出力することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の電気錠システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−196057(P2011−196057A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62452(P2010−62452)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)
【Fターム(参考)】