説明

電気錠

【課題】扉を加工して通信線を通過させるための空所を形成することが不要となり、扉を簡単且つ低コストで製造できる電気錠を提供することを課題とする。
【解決手段】扉Dの片面側に配設される電動サムターン1と、扉Dの他面側に配設される利用者認証装置4と、利用者認証装置4及び電動サムターン1間の通信を行うための通信手段を備える。前記利用者認証装置4により利用者が認証された場合に電動サムターン1によって施開錠を切り替える又は施開錠の切り替えを可能とする電気錠である。電動サムターン1はデッドボルトDBを出没させるための出力軸7を備える。該出力軸7内に前記通信手段の通信信号を通過させるための通信用空所18を形成する。該通信用空所18を介して前記通信手段による利用者認証装置4及び電動サムターン1間の通信を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動サムターンによりデッドボルトを出没させる電気錠に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動サムターンを備えた電気錠が知られている(例えば特許文献1)。電動サムターンはモータを備え、モータの駆動力により扉の端面から出没自在に設けたデッドボルトを出没させて、扉の施開錠を行う。また、この種の電気錠は、扉の電動サムターンと反対側の面に設けたキーシリンダを操作することで、室外側又は屋外側から施開錠を行えるようになっている。
【0003】
また、電気錠には上記キーシリンダに代えて指紋認証装置のような利用者認証装置を設け、該利用者認証装置により特定の利用者を認証した場合に、電動サムターンによって施開錠を切り替える又は電動サムターンによる施開錠の切り替えを可能とし、これにより扉の室外側又は屋外側からは利用者認証装置により認証された特定の利用者のみが扉の施開錠を行えるようしたものがある。
【特許文献1】実開平1−39027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記利用者認証装置を利用した電気錠は、例えば利用者認証装置と電動サムターンを通信線で接続して利用者認証装置及び電動サムターン間の通信を行うが、この場合、扉を加工して前記通信線を通過させるための空所を形成する等し、この空所を利用して配線処理を行う必要がある。
【0005】
本発明は上記従来の問題点に鑑みて発明したものであって、扉を加工して通信線を通過させるための空所を形成することなく容易に通信手段による通信を実現できる電気錠を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の請求項1に係る電気錠は以下の構成を有する。扉Dの片面側に配設される電動サムターン1と、扉Dの他面側に配設される利用者認証装置4と、利用者認証装置4及び電動サムターン1間の通信を行うための通信手段を備える。前記利用者認証装置4により利用者が認証された場合に電動サムターン1によって施開錠を切り替える又は施開錠の切り替えを可能とする電気錠である。電動サムターン1はデッドボルトDBを出没させるための出力軸7を備える。該出力軸7に前記通信手段の通信信号を通過させて利用者認証装置4及び電動サムターン1間の通信を行うための通信用空所18を形成する。
【0007】
また、本発明の請求項2に係る電気錠は請求項1において以下の構成を有する。上記通信手段を赤外線16により通信を行う赤外線通信手段とする。
【0008】
また、本発明の請求項3に係る電気錠は請求項1又は請求項2において以下の構成を有する。上記利用者認証装置4はアクティブICタグから送信された識別データに基づいて利用者を認証するアクティブタグ式認証装置である。該利用者認証装置4に電動サムターン1による施開錠の切り替えを行うための操作部を設ける。該利用者認証装置4により特定の利用者を認証した場合にのみ前記操作部による施開錠の切り替えを可能とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明は、出力軸内に通信手段の通信信号を通過させるための通信用空所を形成することで、出力軸に形成した通信用空所を介して通信手段による利用者認証装置及び電動サムターン間の通信を行うことができ、扉を加工して通信線を通過させるための空所を形成することなく、容易に通信手段による通信を実現できる。
【0010】
また請求項2に係る発明では、請求項1に係る発明の効果に加えて、通信手段を赤外線により通信を行う赤外線通信手段とすることで、煩雑な配線処理が不要となる。また、通信線が切断されて電動サムターン及び利用者認証装置間の通信が途絶えるといった事態が生じることがなく、耐久性を向上できる。
【0011】
また請求項3に係る発明では、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、利用者認証装置にて特定の利用者を認証し且つ操作部が操作された際に施開錠の切り替えを行うようにすることで、アクティブICタグを所有する利用者が施開錠の切り替えの意思がある場合にのみ施開錠の切り替えを行うことができ、防犯性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の第1の実施形態について添付図面に基づいて説明する。図1乃至図3に示す本実施形態の電気錠は、扉Dに埋設される錠前3と、錠前3に取付け固定される電動サムターン1及び利用者認証装置4を備えている。錠前3にはデッドボルトDBが扉Dの端面から出没自在となるように収容してあり、電動サムターン1が備えているモータ2によってデッドボルトDBを出没させることで扉Dの施錠及び開錠が行われる。
【0013】
電動サムターン1は、扉Dの屋内側や室内側の面となる片面に沿って配設されるサムターンケーシング10内に、正逆回転自在なモータ2と、動力伝達機構8と、モータ2の駆動を制御する制御部としての回路板5を収容して構成される。図示は省略するが、動力伝達機構8はモータ2の回転軸の回転を減速して電動サムターン1の出力部となる出力軸7に伝達する複数の歯車を備えている。
【0014】
錠前3に取付けられるサムターンケーシング10は、扉D側に位置するケーシング本体11と、扉Dと反対側に位置する手動操作用のハンドル15と、からなる。ケーシング本体11はハンドル15側に開口する有底円筒状をしており、ハンドル15はケーシング本体11側に開口する有底円筒状をしている。
【0015】
ハンドル15の軸方向の一端部はケーシング本体11内に回動自在に嵌合し、ケーシング本体11の開口はハンドル15によって閉塞されている。
【0016】
ケーシング本体11の底部11aの中央部には出力軸7が挿通される開口13を形成してあり、出力軸7は開口13を介してケーシング本体11の底部11aから突出している。ケーシング本体11から突出した出力軸7の先部は錠前3に貫通形成した軸嵌合孔6に嵌合して接続してある。
【0017】
また、回路板5はケーシング本体11の底部11aの内面に沿って配設され、前述のケーシング本体11から扉D側向けて突出する出力軸7は回路板5を貫通している。
【0018】
上記錠前3の軸嵌合孔6は錠前3の動力入力部となり、電動サムターン1の出力軸7を回動すれば出力軸7の回転力が軸嵌合孔6を介して錠前3に伝達される。
【0019】
即ち、扉Dの施錠を行う場合は、モータ2を駆動し、モータ2の回転軸(図示せず)を回転して前記軸嵌合孔6に嵌合した出力軸7を所定角度(具体的には90度)回動する。これにより出力軸7の回転力は錠前3に伝えられ、錠前3のデッドボルトDBが扉Dの端面から突出する。
【0020】
逆に扉Dの開錠を行う場合は、モータ2を駆動し、モータ2の回転軸を上記施錠時と逆方向に回転する。これにより出力軸7は施錠時と逆方向に施錠時と同角度(具体的には90度)回動し、この出力軸7の回転力が錠前3に伝えられ、錠前3のデッドボルトDBが扉D内に没する。
【0021】
また、図示は省略するが、ハンドル15は出力軸7に連結される動力伝達機構8の伝達部材9に連結してある。これによりハンドル15をケーシング本体11に対して軸回りに回動操作することで伝達部材9と共に出力軸7を回動し、手動により施錠及び開錠が行われる。
【0022】
なお、電動サムターン1及び利用者認証装置4は扉Dに取り付けても良いものとする。
【0023】
一方、利用者認証装置4は識別情報として指紋を読み取って認証を行う指紋認証装置や、利用者が保有するICチップに登録した識別情報を非接触で読み取って認証を行う非接触ICチップ認証装置等からなり、利用者の識別情報を読み取り、読み取られた識別情報が予め登録された特定の利用者の識別情報である場合にのみ当該利用者が特定の利用者であると判定し、利用者の認証を行う。
【0024】
上記利用者認証装置4は、扉Dの電動サムターン1が配設される面と反対側の面、即ち、屋外側や室外側の面に沿って配設される認証装置ケース12内に認証装置本体14を収納して構成される。
【0025】
認証装置ケース12は錠前3に取付けられるものであって、扉Dの反対側の面にある電動サムターン1に対応する箇所に位置する。
【0026】
認証装置ケース12の扉D側の端部は錠前3の認証装置ケース12側の面に形成した凹所19に嵌め込んである。凹所19の底面からは前記軸嵌合孔6が開口している。軸嵌合孔6から利用者認証装置4側に突出した出力軸7の先端部は認証装置ケース12の扉D側の端部を貫通し、その最先端部は認証装置ケース12内に至っている。
【0027】
また、電気錠は利用者認証装置4及び電動サムターン1間の通信を行うための通信手段を備えている。
【0028】
本実施形態の通信手段は有線の通信手段であって、利用者認証装置4の認証装置本体14と電動サムターン1の回路板5とを通信線17にて電気的に接続することで構成してある。
【0029】
ここで、前記電動サムターン1の出力軸7には通信手段を構成する通信線17を通過させるための通信用空所18が形成されている。通信用空所18は中空の出力軸7の基端部に出力軸7の外周面から出力軸7内の空所に至る連通孔18bを形成することで形成される。
【0030】
即ち、通信用空所18は、出力軸7の先端面から出力軸7の軸方向に伸びて出力軸7の基端部に至る主孔部18aと、主孔部18aの出力軸7基端側の端部から出力軸7の外側に向かって形成した連通孔18bからなる。
【0031】
主孔部18aは出力軸7の先端面から開口して認証装置ケース12内に連通している。また、連通孔18bの出力軸7外側の端部は出力軸7の外周面の周方向の一部から開口し、サムターンケーシング10内に連通している。
【0032】
そして認証装置本体14に接続された通信線17は、認証装置ケース12内の空所、通信用空所18の主孔部18a及び連通孔18b、サムターンケーシング10内における回路板5の扉Dと反対側の空間を順に通過して回路板5に接続してあり、既述の通信用空所18を介して利用者認証装置4及び電動サムターン1間の通信を行えるようになっている。即ち、通信用空所18は前記通信手段を構成する通信線17の通信信号を通過させるための空所となる。
【0033】
上記利用者認証装置4により利用者が認証された際には、認証装置本体14は通信手段により電動サムターン1に通信信号を送信して電動サムターン1に施開錠の切り替えを命令し、これを受けて電動サムターン1の回路板5は電動サムターン1のモータ2を駆動して施開錠の切り替えを行う。なお、この施開錠の切り替えは、利用者が認証される度に施錠と開錠を交互に行ったり、利用者が認証された際に開錠のみを行い、施錠は自動で行うようにする等、利用状況に応じて適宜設計変更可能である。
【0034】
以上説明した本実施形態の電気錠は、出力軸7内に通信手段の通信信号を通過させるための通信用空所18を形成したので、通信線17を出力軸7内に形成した通信用空所18に通して簡単に配線処理を行うことができ、しかもこの場合、扉Dを加工して通信線17を通過させるための空所を形成することが不要となり、扉Dを容易に形成できる。
【0035】
なお、前記利用者認証装置4の認証装置ケース12はキーシリンダのケースを兼用するものであり、認証装置本体14に替えてキーシリンダ本体を認証装置ケース12に取り付けるだけで容易に扉Dにキーシリンダを設けることができる。
【0036】
次に第2の実施形態について説明する。なお、以下の説明では上記第1の実施形態と同一の構成については同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0037】
図4に示す本実施形態の電気錠は、上記通信手段を赤外線16により通信を行う赤外線通信手段としている。該赤外線通信手段は、利用者認証装置4の認証装置本体14に設けた送信部20と、電動サムターン1の回路板5に設けた受信部21とで構成してあり、送信部20から通信用空所18に向けて送信された赤外線16は、認証装置ケース12内の空所、通信用空所18の主孔部18a及び連通孔18b、サムターンケーシング10内における回路板5の扉Dと反対側の空間を順に通過して受信部21にて受信されるようになっており、既述の通信用空所18を介して利用者認証装置4及び電動サムターン1間の通信を行えるようになっている。即ち、通信用空所18は前記通信手段の通信信号である赤外線16を通過させるための空所となっている。
【0038】
このように本実施形態では通信手段を赤外線16により通信を行う赤外線通信手段とすることで、煩雑な配線処理が不要となり、また、通信線が切断されて電動サムターン1及び利用者認証装置4間の通信が途絶えるといった事態が生じることがなく、耐久性を向上できる。
【0039】
なお、本実施形態では通信手段を赤外線通信手段としたが、通信手段をその他の無線通信手段により構成しても良いものとする。
【0040】
次に第3の実施形態について説明する。なお、以下の説明では上記第2の実施形態と同一の構成については同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0041】
図5に示す本実施形態の電気錠は、利用者認証装置4の認証装置本体14を利用者が保有するアクティブICタグから送信された識別データを非接触で読み取って利用者の認証を行うものとしたアクティブタグ式認証装置である。また、認証装置本体14には、電動サムターン1による施開錠の切り替えを室外側又は屋外側から行うための操作部として押し釦スイッチ22を設けている。
【0042】
そして利用者認証装置4は特定の利用者を認証した場合にのみ前記押し釦スイッチ22による施開錠の切り替えを行えるように設定してあり、利用者認証装置4にて特定の利用者を認証し且つ押し釦スイッチ22が操作された際に、電動サムターン1に信号を送信して電動サムターン1による施開錠の切り替えを行うようにしている。つまり利用者認証装置により利用者が認証された場合にのみ電動サムターン1による施開錠の切り替えを可能としている。
【0043】
なお、この施開錠の切り替えは、押し釦スイッチ22が操作される度に施錠と開錠を交互に行ったり、押し釦スイッチ22が操作された際に開錠のみを行い、施錠は自動で行うようにする等、利用状況に応じて適宜設計変更可能である。
【0044】
このように本実施形態では利用者認証装置4にて特定の利用者を認証し且つ押し釦スイッチ22が操作された際に施開錠の切り替えを行うようにすることで、アクティブICタグを所有する利用者が施開錠の切り替えの意思がある場合にのみ施開錠の切り替えを行うことができ、防犯性を高めることができる。
【0045】
なお、本実施形態では通信手段を赤外線通信手段としたが、第1の実施形態と同様に有線の通信手段としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施形態の電気錠を示す概略側断面である。
【図2】同上の電気錠を説明する斜視図である。
【図3】同上の電動サムターンの図示を省略した電気錠を説明する斜視図である。
【図4】第2の実施形態の電気錠を示す概略側断面である。
【図5】第3の実施形態の電気錠を示す概略側断面である。
【符号の説明】
【0047】
D 扉
DB デッドボルト
1 電動サムターン
4 利用者認証装置
7 出力軸
18 通信用空所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉の片面側に配設される電動サムターンと、扉の他面側に配設される利用者認証装置と、利用者認証装置及び電動サムターン間の通信を行うための通信手段を備え、前記利用者認証装置により利用者が認証された場合に電動サムターンによって施開錠を切り替える又は施開錠の切り替えを可能とする電気錠において、電動サムターンはデッドボルトを出没させるための出力軸を備え、該出力軸に前記通信手段の通信信号を通過させて利用者認証装置及び電動サムターン間の通信を行うための通信用空所を形成して成ることを特徴とする電気錠。
【請求項2】
上記通信手段を赤外線により通信を行う赤外線通信手段とすることを特徴とする請求項1に記載の電気錠。
【請求項3】
上記利用者認証装置はアクティブICタグから送信された識別データに基づいて利用者を認証するアクティブタグ式認証装置であり、該利用者認証装置に電動サムターンによる施開錠の切り替えを行うための操作部を設け、該利用者認証装置により特定の利用者を認証した場合にのみ前記操作部による施開錠の切り替えを可能とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気錠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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