説明

電気錫合金めっき方法及び電気錫合金めっき装置

【解決手段】 被めっき物を電気めっき槽内に収容した鉛フリーの電気錫合金めっき浴中に浸漬して、該被めっき物を陰極として電気めっきを行うに際し、上記めっき槽内で陽極をカチオン交換膜で形成されたアノードバック又はボックスで隔離して電気めっきを行うことを特徴とする電気錫合金めっき方法、及び、電気錫合金めっき液を収容し、該めっき液に被めっき物を浸漬する電気錫合金めっき槽と、該電気めっき槽内の一部を隔離するカチオン交換膜で形成されたアノードバック又はボックスと、上記アノードバック又はボックス内に設置された陽極とを具備してなることを特徴とする電気錫合金めっき装置を提供する。
【効果】 本発明の電気錫合金めっき方法及び装置は、めっき浴が長期に亘って安定し、効率よくめっきを行うことができる上、陽極として可溶性陽極を使用した場合であっても、金属の置換析出を防ぐことができるものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プリント配線基板や電子工業部品などに電気錫−鉛めっき材料の代替として有効なSn−Pb以外の電気錫合金めっき皮膜を形成する電気錫合金めっき方法及びこれに用いられる電気錫合金めっき装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、半田付けを必要とする部品、例えば、チップ部品、バンプ、コネクターピン、リードフレーム、各種フープ材、パッケージ、プリント基板などの電子機器を構成する部品等に対しては、錫めっきや錫−鉛合金めっきを施すことが行われている。また、プリント基板の製造などにおいても、錫めっきや錫−鉛合金めっき皮膜はエッチングレジスト用として広く使用されている。
【0003】しかし、近年、環境保護問題対策として鉛の規制が強まり、錫−鉛合金めっき材料の代替として鉛フリーのめっき浴が望まれるようになっている。
【0004】この場合、錫めっきでは、半田付け性の劣化や錫めっき皮膜にひげ状結晶ウイスカーの発生の問題があり、十分に対処できない。従って、錫を含む合金めっきの開発が種々行われている。この錫を含む合金めっき浴としては、電気錫−銀、錫−ビスマス、錫−銅あるいは錫−アンチモンめっき液が開発されており、これらの錫合金めっき液でめっきする場合には、可溶性陽極として、錫、錫−銀、錫−ビスマス、錫−銅、錫−アンチモンの使用が考えられる。
【0005】しかしながら、錫と、銀、ビスマス、銅又はアンチモンとは電位差が大きいため、アノードとしての錫にめっき液中の銀、ビスマス、銅あるいはアンチモンが置換析出し、この置換析出は無通電時の場合のみならず通電中にも進行し、その結果、めっき処理中の液の組成変化が大きく、要求される皮膜の合金組成を得ることが困難である。そのため、炭素、白金等の不溶性陽極が使用されているが、不溶性陽極を使用した場合にも通電中にめっき液中に含まれる成分が酸化され、沈殿物が発生するなど浴安定性が悪くなり、長期使用ができないという問題を有している。
【0006】本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、上記不具合を解決し、プリント配線基板や電子工業部品などに電気錫−鉛めっき材料の代替として有効なSn−Pb以外の電気錫合金めっき液を安定して長期使用するための電気錫合金めっき方法及びこれに用いられる電気錫合金めっき装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、鉛フリーの電気錫合金めっきを行う際、めっき槽内に配備される陽極、特に錫陽極をカチオン交換膜で形成したアノードバック又はボックスで隔離し、この陽極側のアノードバック又はボックス内と陰極側のめっき槽内にそれぞれめっき液を導入すること、この場合、特に上記アノードバック又はボックス内に錫イオン濃度を高濃度にした錫めっき液を導入することにより、めっき液中の合金成分、例えば銀、ビスマス、銅あるいはアンチモンが陽極に置換析出するのを防止できること、まためっき液の浴安定性も長期に亘って保持されることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】従って、本発明は、(1)被めっき物を電気めっき槽内に収容した鉛フリーの電気錫合金めっき浴中に浸漬して、該被めっき物を陰極として電気めっきを行うに際し、上記めっき槽内で陽極をカチオン交換膜で形成されたアノードバック又はボックスで隔離して電気めっきを行うことを特徴とする電気錫合金めっき方法、(2)錫合金が錫と、銀、ビスマス、銅及びアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属との合金である(1)記載の電気錫合金めっき方法、(3)上記めっき槽内に電気錫合金めっき液を収容すると共に、上記アノードバック又はボックス内に電気錫めっき液を収容する(1)又は(2)記載の電気錫合金めっき方法、(4)上記アノードバック又はボックス内のめっき液の錫濃度をめっき槽内のめっき液の金属濃度より高くした(1)〜(3)のいずれか1項記載の電気錫合金めっき方法、(5)陽極を錫にて形成した(1)〜(4)のいずれか1項記載の電気錫合金めっき方法、(6)電気錫合金めっき液を収容し、該めっき液に被めっき物を浸漬する電気錫合金めっき槽と、該電気めっき槽内の一部を隔離するカチオン交換膜で形成されたアノードバック又はボックスと、上記アノードバック又はボックス内に設置された陽極とを具備してなることを特徴とする電気錫合金めっき装置、(7)上記アノードバック又はボックス内に電気錫めっき液を収容した(6)記載の電気錫合金めっき装置、及び、(8)上記アノードバック又はボックス内のめっき液の錫濃度をめっき槽内のめっき液の金属濃度より高くした(6)又は(7)記載の電気錫合金めっき装置を提供する。
【0009】以下、本発明につき図面を参照して更に詳しく説明する。図1は、本発明の電気錫合金めっき装置の一実施例を示すもので、図中1は、めっき液2(第1めっき液)を収容する四角箱型の電気錫合金めっき槽である。上記めっき槽1内の一部には、カチオン交換膜で作製された2個のボックス3,3が配設されている。この2個のボックス3,3の上端部は、めっき液面より高く、電気錫合金めっき槽1内に収容される電気錫合金めっき液2(第1めっき液)がオーバーフローしてボックス3,3内に入り込まないようになっている。上記ボックス3,3の内部にはそれぞれ陽極4,4が配備されていると共に、電気錫めっき液5(第2めっき液)が収容され、上記陽極4,4がこの第2めっき液に浸漬されるようになっている。また、図示していないが、上記めっき槽1には第1めっき液2を、ボックス3内には第2めっき液5をそれぞれ導入する導入管が連結されており、めっき槽1とボックス3とにそれぞれ独立してめっき液が導入されるようになっている。従って、電気めっきを行う場合、双方にめっき液を導入すると、ボックス3内のめっき液の錫イオンが交換膜を通ってめっき槽1に移動し、錫イオンが安定して供給される。また、陽極として錫等の可溶性陽極を使用した場合において、第2めっき液5中に含まれるカチオンの移動により、陽極に対する金属析出を防ぐことができる。
【0010】なお、上記実施例では、陽極をめっき槽で隔離するカチオン交換膜を四角箱状のボックスとしたが、アノードバックに代表されるような袋状としてもよく、また、設置個数は2個に限られず、陽極の使用数、形状に応じて適宜な個数とすればよい。また、カチオン交換膜としては、特に制限されるものではないが、スチレン−ジビニルベンゼン系高分子の骨格にスルホン酸基、カルボン酸基等を導入した炭化水素系カチオン交換膜、パーフルオロカーボン主鎖からエーテル結合を介したペンダント側鎖の末端にスルホン酸基、カルボン酸基等が結合したフッ素系カチオン交換膜を使用することができる。
【0011】本発明のめっき方法は、上述した装置を使用してめっきを行うものである。即ち、被めっき物6を配置しためっき槽1に第1めっき液2を導入すると共に、陽極4が配置されたボックス3内に錫めっき液を導入し、陽極側に導入された第2めっき液5中のカチオン(錫イオン)をめっき槽1内の第1めっき液2に移動させながら陰極に通電した被めっき物6に対して電気錫合金めっきを行うものである。
【0012】本発明の方法において、錫合金めっき液としては、公知の錫塩と、錫合金を形成する金属塩を含有するめっき液であればよく、鉛フリーの錫合金として、例えば、錫−ビスマス、錫−銀、錫−銅あるいは錫−アンチモンめっき液を好適に使用することができる。
【0013】従って、使用するめっき液としては、例えば、上記金属の無機酸もしくは有機酸又はその水溶性塩を含有するめっき液を挙げることができる。
【0014】ここで、錫塩としては第1錫塩と第2錫塩とがあり、第1錫塩としては、例えば、メタンスルホン酸第1錫等の有機スルホン酸錫、硫酸錫、塩化錫、臭化錫、ヨウ化錫、酸化錫、リン酸錫、ピロリン酸錫、酢酸錫、クエン酸錫、グルコン酸錫、酒石酸錫、乳酸錫、コハク酸錫、スルファミン酸錫、ホウフッ化錫、ギ酸錫、ケイフッ化錫等が挙げられ、第2錫塩としては、例えば、錫酸ナトリウム、錫酸カリウム等が挙げられる。
【0015】ビスマス塩としては、メタンスルホン酸ビスマス、フェノールスルホン酸ビスマス等の有機スルホン酸ビスマス、硫酸ビスマス、グルコン酸ビスマス等が挙げられる。
【0016】銀塩としては、メタンスルホン酸銀等の有機スルホン酸銀、硫酸銀、塩化銀、グルコン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀等が挙げられる。
【0017】銅塩としては、メタンスルホン酸銅等の有機スルホン酸銅、硫酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、リン酸銅、ピロリン酸銅、酢酸銅、クエン酸銅、グルコン酸銅、酒石酸銅、乳酸銅、コハク酸銅、スルファミン酸銅、ホウフッ化銅、ギ酸銅、ケイフッ化銅等が挙げられる。
【0018】アンチモン塩としては、ホウフッ化アンチモン、塩化アンチモン、酒石酸アンチモニウムカリウム、ピロアンチモン酸カリウム、酒石酸アンチモン、メタンスルホン酸アンチモン、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸アンチモン等が挙げられる。
【0019】上記錫合金めっき液中での錫塩の含有量は、錫として1〜99g/L、特に5〜56g/Lとすることが好ましく、ビスマス塩、銀塩、銅塩あるいはアンチモン塩の含有量は、金属として0.01〜99g/L、特に0.05〜54g/Lとすることが好ましい。また、錫とその他の金属の混合割合は、所望する錫合金めっき皮膜の組成比に応じて適宜決定される。
【0020】これらの組み合わせから錫−ビスマス、錫−銀、錫−銅、錫−アンチモンの各種めっき液を形成することができる。
【0021】上記めっき液に対しては、公知のめっき液に配合される成分を使用でき、例えば、無機酸もしくは有機酸又はその水溶性塩を挙げることができるが、詳しくは、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、リン酸、ピロリン酸、縮合リン酸、スルファミン酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、アミノカルボン酸、ホスホン酸等から選ばれる酸又はそれらの塩の1種又は2種以上が挙げられる。
【0022】ここで、脂肪族カルボン酸として、具体的には、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸等のジカルボン酸、クエン酸、トリカルバリル酸等のトリカルボン酸等を挙げることができ、芳香族カルボン酸としては、フェニル酢酸、安息香酸、アニス酸などが挙げられる。
【0023】また、アミノカルボン酸としては、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等が挙げられ、ホスホン酸としては、アミノトリメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタホスホン酸等が挙げられる。
【0024】更に、脂肪族スルホン酸又は芳香族スルホン酸としては、例えば、置換又は未置換のアルカンスルホン酸、ヒドロキシアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。ここで未置換アルカンスルホン酸は、Cn2n+1SO3H(但し、nは1〜5、好ましくは1又は2である。)で示されるものが使用できる。
【0025】未置換のヒドロキシアルカンスルホン酸は、下記式で示されるものが使用できる。
【0026】
【化1】


(但し、mは0〜2、kは1〜3である。)
【0027】置換のアルカンスルホン酸及びヒドロキシアルカンスルホン酸としては、そのアルキル基の水素原子の一部がハロゲン原子、アリール基、アルキルアリール基、カルボキシル基、スルホン酸基等で置換されたものを使用できる。
【0028】ベンゼンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸は、下記式で示されるものである。
【0029】
【化2】


【0030】また、置換ベンゼンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸としては、そのベンゼン環、ナフタレン環の水素原子の一部が水酸基、ハロゲン原子、アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、メルカプト基、アミノ基、スルホン酸基等で置換されたものを使用できる。
【0031】具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、プロパンスルホン酸、2−プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、2−ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、クロルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシペンタンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−スルホ酢酸、2−スルホプロピオン酸、3−スルホプロピオン酸、スルホコハク酸、スルホマレイン酸、スルホフマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホサリチル酸、ベンズアルデヒド酸、p−フェノールスルホン酸などが例示される。
【0032】この場合、塩としては、ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0033】これら成分のめっき浴中の含有量は10〜400g/L、特に100〜200g/Lが好ましい。少なすぎるとめっき浴の安定性が悪くなり、沈殿物が発生しやすくなる傾向となり、多すぎると効果のない過剰量となる傾向となる。
【0034】本発明に使用される錫合金めっき浴には、更に、必要に応じて非イオン界面活性剤を配合することができる。
【0035】非イオン界面活性剤は、めっき皮膜表面を平滑緻密化させ、析出合金組成を均一化するものとして作用する。この非イオン界面活性剤としては、アルキレンオキサイド系のものが好適であり、ポリオキシエチレン−β−ナフトールエーテル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコールエーテル、ポリエチレングリコールなどを使用することができる。
【0036】その配合量は、めっき液中0.01〜50g/L、特に2〜10g/Lであることが好ましく、少なすぎると高電流密度でヤケやコゲが発生する場合があり、多すぎるとめっき皮膜が黒っぽくなったり、色むらが発生するなどの不利を生じる場合がある。
【0037】また、上記錫合金めっき浴には、必要に応じて、更に陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤及び両性界面活性剤の1種又は2種以上を配合することができる。
【0038】ここで、陽イオン界面活性剤の例としては、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、オクタデシルトリメチルアンモニウム塩、ドデシルジメチルアンモニウム塩、オクタデセニルジメチルエチルアンモニウム塩、ドデシルジメチルエチルアンモニウムベタイン、オクタデシルジメチルアンモニウムベタイン、ジメチルベンジルドデシルアンモニウム塩、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩、ドデシルピコリニウム塩、ドデシルイミダゾリニウム塩、オレイルイミダゾリニウム塩、オクタデシルアミンアセテート、ドデシルアミンアセテートなどが挙げられる。
【0039】陰イオン界面活性剤の例としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、(ポリ)アルキルナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。アルキル硫酸塩としては、ドデシル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレン(EO12)ノニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(EO15)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0040】両性界面活性剤の例としては、ベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられ、また、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドとアルキルアミン又はジアミンとの縮合生成物の硫酸化あるいはスルホン化付加物も使用できる。
【0041】これら界面活性剤の配合量は、めっき液中0.01〜50g/L、特に2〜10g/Lが好ましい。
【0042】また、本発明に使用される錫合金めっき液中には、めっき皮膜表面の平滑剤としてメルカプト基含有芳香族化合物、ジオキシ芳香族化合物及び不飽和カルボン酸化合物の1種又は2種以上を添加することができる。この場合、メルカプト基含有芳香族化合物としては、2−メルカプト安息香酸、メルカプトフェノール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトエチルアミン、メルカプトピリジン等が挙げられ、ジオキシ芳香族化合物としては、ジオキシベンゾフェノン、3,4−ジオキシフェニルアラニン、レゾルシン、カテコール、ヒドロキノン、ジオキシヘキサン、ジパリン等が挙げられ、不飽和カルボン酸化合物としては、安息香酸、フマル酸、フタル酸、アクリル酸、シトラコン酸、メタクリル酸等が挙げられる。これら成分のめっき液中の配合量は0.001〜20g/L、特に0.001〜5g/Lとすることが好ましい。
【0043】錫合金めっき浴のpHは9以下であることが好ましく、特には4以下であることが望ましい。
【0044】本発明においては、被めっき物を浸漬する第1めっき液には上述した錫合金めっき液を、陽極側、即ちカチオン交換膜のアノードバック又はボックス内に収容される第2めっき液には錫塩のみを金属成分として含むめっき液の使用が好ましい。この場合、錫めっき液としては、上述した水溶性錫塩と無機酸もしくは有機酸又はその水溶性塩が含有されためっき液を好適に使用することができる。
【0045】第2めっき液の液中の錫塩の含有量は、錫として1〜99g/L、特に5〜70g/Lが好ましい。無機酸もしくは有機酸又はその水溶性塩の含有量は50〜400g/L、特に100〜200g/Lが好ましい。
【0046】本発明において、上記アノードバック又はボックス内の第2めっき液中の金属(錫)濃度は、めっき槽内の第1めっき液の金属濃度より高くすることが好ましく、通常、第2めっき液中の錫濃度が第1めっき液中の金属濃度に比べ1.1〜5倍、特に1.5〜3倍にすることが好ましい。
【0047】陽極としては、錫又は錫−銀、錫−ビスマス、錫−銅あるいは錫−アンチモンの錫合金を使用し得るが、電気めっきを行った場合、カチオン交換膜内で陽極に含まれる銀、ビスマス、銅あるいはアンチモンが溶解し、その溶解した銀、ビスマス、銅あるいはアンチモンイオンが陽極の錫と置換することを考慮すると、錫陽極を用いるのが最適である。
【0048】このめっき方法及びめっき装置を使用しためっき液中の金属濃度の管理方法としては、錫合金めっき液に対する錫イオンの補給はカチオン交換膜を通して陽極から供給される。また、錫と合金となる他の金属、即ち銀、ビスマス、銅あるいはアンチモンイオンは適宜分析を行い、不足分は、銀、ビスマス、銅あるいはアンチモン塩を含む補給液で供給される。
【0049】なお、本発明の要旨を逸脱しない限り、めっき方法としては、常法を採用し得、ラック法でもバレル法でもよく、高速めっき法を採用することもできる。この場合の陰極電流密度は、めっき法によって0.01〜100A/dm2の範囲で適宜選定されるが、ラック法の場合は通常0.5〜5A/dm2、特に1〜4A/dm2であり、バレル法の場合は通常0.05〜1A/dm2、特に0.1〜0.5A/dm2である。
【0050】更に、めっき温度はめっき槽1内、ボックス3内に収容されるめっき液に対してそれぞれ10〜50℃、特に15〜40℃とすることができる。
【0051】また、撹拌については無撹拌でもよいが、カソードロッキング、スターラーによる撹拌、ポンプによる液流動などの方法が採用し得る。
【0052】本発明の被めっき物は、特に制限されず、電気めっき可能な導電性部分を有するものであればよく、金属等の導電性材料と、セラミック、鉛ガラス、プラスチック、フェライト等の絶縁性材料が複合したものであってもよい。具体的には、チップ部品、バンプ、コネクターピン、リードフレーム、各種フープ材、パッケージ、プリント基板などの電子機器を構成する部品等を挙げることができ、これら被めっき物の表面に錫合金めっき皮膜を形成し得る。
【0053】
【発明の効果】本発明の電気錫合金めっき方法及び装置は、めっき浴が長期に亘って安定し、効率よくめっきを行うことができる上、陽極として可溶性陽極を使用した場合であっても、金属の置換析出を防ぐことができるものである。
【0054】
【実施例】以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0055】〔実施例,比較例〕図1に示されるカチオン交換膜で作製されたボックスを具備した電気錫合金めっき装置を使用し、めっき槽内に被めっき物として銅板を配置し、また陽極として錫陽極をボックス内に配備して、下記条件にて電気めっきを行った。
【0056】めっき終了後、形成されためっき皮膜の合金比率を蛍光X線膜厚計で測定すると共に、液の状態とアノードの表面を目視で検査し、評価した。また、液中の金属濃度を原子吸光分析法で分析した。結果を表1,2に示す。
【0057】また、比較例として同一めっき槽内に陽極と陰極を設置する電気めっき装置を用い、その他の条件を各実施例と同様にしてめっきを行い、評価した。結果を表1,2に併記する。
【0058】
〔実施例1〕
*陰極側めっき液 硫酸第一錫 Snとして9g/L 硫酸銀 Agとして1g/L 硫酸 200g/L グルコン酸 200g/L ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル 5g/L (EO付加モル数7)
2−メルカプト安息香酸 1g/L シラコン酸 0.5g/L*陽極側(交換膜内)めっき液 硫酸第一錫 Snとして15g/L 硫酸 200g/Lめっき条件 液量 陰極側 860ml 陽極側 140ml 陽極浸漬放置時間 3時間 陰極電流密度 2A/dm2 浴温度 25℃ 撹拌 カソードロッカー 陽極 錫(99.99%以上)
めっき時間 30分間
【0059】
〔比較例1〕
液組成:めっき液は実施例1の陰極側の液組成と同じめっき条件 液量 1L 陽極浸漬放置時間 3時間 陰極電流密度 2A/dm2 浴温度 25℃ 撹拌 カソードロッカー 陽極 錫(99.99%以上)
めっき時間 30分間
【0060】
【表1】


【0061】
〔実施例2〕
*陰極側めっき液 メタンスルホン酸錫 Snとして18g/L メタンスルホン酸銅 Cuとして2g/L メタンスルホン酸 200g/L グルコン酸ナトリウム 200g/L ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル 5g/L (EO付加モル数7)
メルカプト乳酸 25g/L*陽極側(交換膜内)めっき液 メタンスルホン酸錫 Snとして30g/L メタンスルホン酸 200g/Lめっき条件 液量 陰極側 860ml 陽極側 140ml 陽極浸漬放置時間 3時間 陰極電流密度 2A/dm2 浴温度 25℃ 撹拌 カソードロッカー 陽極 錫(99.99%以上)
めっき時間 30分間
【0062】
〔比較例2〕
液組成:めっき液は実施例2の陰極側の液組成と同じめっき条件 液量 1L 陽極浸漬放置時間 3時間 陰極電流密度 2A/dm2 浴温度 25℃ 撹拌 カソードロッカー 陽極 不溶性(白金)
めっき時間 30分間
【0063】
【表2】


【0064】以上の結果より、本発明の電気錫合金めっき装置を用いた方法は、陽極への置換析出を防止し、浴の安定性もよいことが認められる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装置を示す簡略図である。
【符号の説明】
1 めっき槽
2 第1めっき液
3 カチオン交換膜ボックス
4 陽極
5 第2めっき液
6 被めっき物

【特許請求の範囲】
【請求項1】 被めっき物を電気めっき槽内に収容した鉛フリーの電気錫合金めっき浴中に浸漬して、該被めっき物を陰極として電気めっきを行うに際し、上記めっき槽内で陽極をカチオン交換膜で形成されたアノードバック又はボックスで隔離して電気めっきを行うことを特徴とする電気錫合金めっき方法。
【請求項2】 錫合金が錫と、銀、ビスマス、銅及びアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属との合金である請求項1記載の電気錫合金めっき方法。
【請求項3】 上記めっき槽内に電気錫合金めっき液を収容すると共に、上記アノードバック又はボックス内に電気錫めっき液を収容する請求項1又は2記載の電気錫合金めっき方法。
【請求項4】 上記アノードバック又はボックス内のめっき液の錫濃度をめっき槽内のめっき液の金属濃度より高くした請求項1乃至3のいずれか1項記載の電気錫合金めっき方法。
【請求項5】 陽極を錫にて形成した請求項1乃至4のいずれか1項記載の電気錫合金めっき方法。
【請求項6】 電気錫合金めっき液を収容し、該めっき液に被めっき物を浸漬する電気錫合金めっき槽と、該電気めっき槽内の一部を隔離するカチオン交換膜で形成されたアノードバック又はボックスと、上記アノードバック又はボックス内に設置された陽極とを具備してなることを特徴とする電気錫合金めっき装置。
【請求項7】 上記アノードバック又はボックス内に電気錫めっき液を収容した請求項6記載の電気錫合金めっき装置。
【請求項8】 上記アノードバック又はボックス内のめっき液の錫濃度をめっき槽内のめっき液の金属濃度より高くした請求項6又は7記載の電気錫合金めっき装置。

【図1】
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【公開番号】特開2000−219993(P2000−219993A)
【公開日】平成12年8月8日(2000.8.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−23414
【出願日】平成11年2月1日(1999.2.1)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】