説明

電気電子部品封止用樹脂組成物、電気電子部品封止体の製造方法および電気電子部品封止体

【課題】 アルミニウム材への初期密着強度に優れ、かつ冷熱サイクル負荷や150℃以上の高温下での環境負荷に対する耐久性に優れる電気電子部品封止用樹脂組成物、およびこれを用いた電気電子部品封止体を提供する。
【解決手段】 ポリカーボネート成分が共重合されている結晶性ポリエステル樹脂(A)、 エポキシ樹脂(B)、 フッ素樹脂(C)、 を含有し、 水分率0.1%以下に乾燥して220℃に加熱し圧力1MPaを付与し、孔径1.0mm、厚み10mmのダイより押し出したときの溶融粘度が5dPa・s以上3000dPa・s以下である、電気電子部品封止用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物によって封止された電気電子部品封止体およびその製造方法、この用途に適した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車・電化製品に広汎に使用されている電気電子部品は、その使用目的を達成する為に、外部との電気絶縁性が必須とされ、電気電子部品の形状に確実に追随し未充填部が発生しない封止方法が求められている。加温溶融するだけで粘度が低下し封止できるホットメルト樹脂は、封止後冷却するだけで固化して封止体が形成されるので生産性が高く、加熱して樹脂を溶融除去することで部材のリサイクルが容易に可能となる等の優れた特徴を有し、電気電子部品封止用に適している。
【0003】
電気絶縁性・耐水性が共に高いポリエステルはこの用途に非常に有用な材料と考えられるが、一般に溶融粘度が高く、複雑な形状の部品を封止するには数百MPa以上の高圧での射出成型が必要となり、電気電子部品を破壊してしまう虞があった。これに対し、特許文献1には、特定の組成および物性を有するポリエステル樹脂と酸化防止剤とを含有するモールディング用ポリエステル樹脂組成物が開示されており、電気電子部品を破損しない低圧での封止が可能であることが開示されている。この樹脂組成物により、初期密着性の良好な成型品が得られるようになり、一般電気電子部品へのポリエステル系樹脂組成物の適用が可能となった。また、特許文献2には、結晶性ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂とポリオレフィン樹脂が配合されている電気電子部品封止用樹脂組成物が開示されている。この組成物は、ガラスエポキシ板やガラスフィラー30重量%入りポリブチレンテレフタレート板に対する初期接着強度が高く、また−40℃と80℃の冷熱1000サイクル負荷、85℃・85%RH・1000時間負荷および105℃・1000時間負荷による密着強度の低下も抑制されている。
【0004】
また、自動車用途として、エンジンルーム内等に設置される電子基板には発熱体が有る場合が多く、熱の蓄積を防ぐためにアルミニウム製の放熱板を置く等の対策がなされている。また、自動車用途のワイヤーハーネスは、軽量化のために、銅線からアルミニウム線への移行が進んできている。そのような状況にて、封止材にはアルミニウム材への密着性が求められることが多くなってきている。
【0005】
また、特許文献3には、特定のポリエステル樹脂とフェノール変性キシレン樹脂が配合されたホットメルト接着剤組成物が、スズメッキ銅および二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに対して、0℃、25℃および100℃において良好な初期接着性を示すことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3553559号公報
【特許文献2】特開2010−150471号公報
【特許文献3】特許第4389144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の樹脂組成物から形成された封止体は、例えば−40℃と80℃の冷熱サイクル負荷に長期間さらされると、密着強度の大幅低下が起こると共に封止状態が保てなくなる場合がある、との問題点があった。一方、アルミニウム材の封止に適用した場合には冷熱サイクル負荷耐久性が十分ではないことが判明した。また、特許文献3の樹脂組成物はそもそも封止剤ではなく、また、アルミニウム材の封止に適用した場合には冷熱サイクル負荷耐久性が十分でないことが判明した。また、特許文献1〜3のいずれの樹脂組成物も、150℃・1000時間の高温長時間負荷耐久性が十分でなく、大幅に密着性が低下することが判明した。このように、自動車エンジンルーム内等の冷熱サイクル負荷や高温長時間負荷に対する高度な耐久性が要求される環境に対応できる電気電子部品封止用樹脂組成物は実現されていなかった。
【0008】
本発明の課題は、150℃以上の連続使用環境下であっても、アルミニウム材に対する初期密着性に優れ、なおかつ、冷熱サイクル負荷に対する耐久性に優れる電気電子部品封止体を形成することができる電気電子部品封止用樹脂組成物を提供すること、またそれを用いた電気電子部品封止体の製造方法および電気電子部品封止体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為、本発明者等は鋭意検討し、以下の発明を提案するに至った。即ち本発明は、
<1> ポリカーボネート成分が共重合されている結晶性ポリエステル樹脂(A)、
エポキシ樹脂(B)、フッ素樹脂(C)、
を含有し、
水分率0.1%以下に乾燥して220℃に加熱し圧力1MPaを付与し、孔径1.0mm、厚み10mmのダイより押し出したときの溶融粘度が5dPa・s以上3000dPa・s以下である、
電気電子部品封止用樹脂組成物。
<2> 前記エポキシ樹脂(B)がビスフェノール型エポキシ樹脂である<1>に記載の樹脂組成物。
<3> 前記結晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、エポキシ樹脂(B)が0.1〜100重量部、およびフッ素樹脂(C)が0.1〜100重量部配合されている<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4> 前記フッ素樹脂(C)の融点が220℃以下である<1>〜<3>のいずれかに記載の樹脂組成物。
<5> アルミニウム板に対する、−40℃30分と150℃30分の冷熱サイクルを1000サイクル付加前後のT型剥離強度保持率が50%以上である<1>〜<4>のいずれかに記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
<6> アルミニウム板に対する初期T型剥離強度が0.5N/mm以上である、<1>〜<5>のいずれかに記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
<7> <1>〜<6>のいずれかに記載の樹脂組成物を、加熱して混練した後、電気電子部品を挿入した金型に樹脂組成物温度130℃以上260℃以下かつ樹脂組成物圧力0.1MPa以上10MPa以下で注入する、電気電子部品封止体の製造方法。
<8> <1>〜<6>のいずれかに記載の樹脂組成物で封止された電気電子部品封止体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物を電気電子部品封止体において封止材として用いることにより、高温下での滞留があってもゲル化物や硬化凝集物を生じる懸念が少なく、アルミニウム材への初期密着性に優れ、なおかつ、−40℃30分と150℃30分の1000サイクル冷熱サイクル負荷を経た後も接着強度が保持されている高度な冷熱サイクル負荷耐久性を発揮する。このため、本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物を用いて封止した電気電子部品封止体は、冷熱サイクルの過酷な環境負荷に対する耐久性が発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電気電子部品封止体は、電気電子部品を金型内部にセットした金型の中に、加熱し混練して流動性を与えた樹脂または樹脂組成物を、0.1〜10MPaの低圧で射出して、樹脂または樹脂組成物によって電気電子部品を包み込み封止することによって製造することができる。すなわち、従来一般的にプラスチックの成型に用いられている40MPa以上の高圧での射出成型に比べて、非常に低圧で行われるため、射出成型法による封止でありながら、耐熱性及び耐圧性に制限のある電気電子部品を破壊することなく封止することができるものである。封止樹脂または封止樹脂組成物を適切に選択することにより、アルミニウム材をはじめとする金属製部材に対して、環境負荷に耐える密着耐久性を有する封止体を得ることができるものである。以下に、発明実施の形態の詳細を順次説明していく。
【0012】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物は、ポリカーボネート成分が共重合されている結晶性ポリエステル樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、およびフッ素樹脂(C)を含有し、水分率0.1%以下に乾燥して220℃に加熱し圧力1MPaを付与し、孔径1.0mm、厚み10mmのダイより押し出したときの溶融粘度が5dPa・s以上3000dPa・s以下である。
【0013】
<結晶性ポリエステル樹脂(A)>
本発明に用いられる結晶性ポリエステル樹脂(A)は、主としてポリエステルセグメントからなるハードセグメントと主としてポリカーボネートセグメントからなるソフトセグメントとがエステル結合により結合された化学構造からなる。
【0014】
本発明に用いられる結晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する主としてポリカーボネートセグメントからなるソフトセグメントは、ポリカーボネート成分、典型的にはポリカーボネートジオールを共重合することにより形成することができる。ポリカーボネート成分が共重合されていることによって、低溶融粘度や高柔軟性、高密着性といった特徴を発揮する。前記ポリカーボネート成分の共重合比率は前記結晶性ポリエステル樹脂(A)を構成するハードセグメント成分全体を100重量%としたとき25重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが更に好ましく、35重量%以上であることが特に好ましい。また、75重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることが更に好ましく、65重量%以下であることが特に好ましい。前記ポリカーボネート成分の共重合比率が低すぎると溶融粘度が高くなり成形に高圧を要するようになったり、結晶化速度が速くショートショットが発生しやすい等の問題を生じる傾向にある。また、前記ポリカーボネート成分の共重合比率が高すぎると耐熱性が不足する等の問題を生じる傾向にある。また、前記ポリカーボネート成分はポリ(アルキレンカーボネート)成分から主としてなる脂肪族ポリカーボネート成分であることが好ましい。ここで、主としてなるとは、ポリ(アルキレンカーボネート)成分が脂肪族ポリカーボネート成分の50重量%以上を占めることであるが、75重量%以上を占めるものがより好ましく、90重量%以上を占めるものが更に好ましい。また、ポリ(アルキレンカーボネート)を構成するアルキレン基としては炭素数4〜16の直鎖アルキレン基がより好ましく、より長鎖のアルキレン基のほうが冷熱サイクル負荷耐久性に優れる傾向にある。入手容易性を考慮すると、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基であることが好ましい。また、ポリ(アルキレンカーボネート)を構成するアルキレン基が2種以上の混合物である共重合タイプのポリカーボネートであっても良い。
【0015】
また、本発明に用いられる結晶性ポリエステル樹脂(A)のハードセグメントとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等の耐熱性結晶性ポリエステルセグメントが好ましい。より好ましくは、PBT、PBNである。その他の結晶性ポリエステルを使用すると、耐熱性の不足や、耐久性、低温特性が悪化する場合がある。
【0016】
一方、本発明に用いられる結晶性ポリエステル樹脂(A)において、低い溶融粘度を保持する範囲内であれば、少量の芳香族系共重合成分も使用できる。好ましい芳香族系共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物等の芳香族系グリコールが挙げられる。特に、ダイマー酸や、ダイマージオールの様な分子量の比較的高い脂肪族系成分を導入することにより、モールド後の素早い結晶固化による良好な金型離型性が得られる場合がある。
【0017】
ダイマー酸、水添ダイマー酸、ダイマージオール、水添ダイマージオールのような炭素数10以上の脂肪族または脂環族ジカルボン酸および/または炭素数10以上の脂肪族または脂環族ジオールを共重合し、ブロック的なセグメントを本発明のポリエステル樹脂(A)に導入する場合、ポリエステル樹脂(A)の全酸成分と全グリコール成分の合計を200モル%としたとき2モル%以上であることが好ましく、さら好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、最も好ましくは20モル%以上である。上限は耐熱性やブロッキング等の取り扱い性を考慮すると70モル%以下、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下である。
【0018】
本発明に用いられる結晶性ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は3000以上であることが好ましく、より好ましくは5000以上、さらに好ましくは7000以上である。また、数平均分子量の上限は好ましくは50000以下、より好ましくは40000以下、さらに好ましくは30000以下である。数平均分子量が3000未満であると、封止用樹脂組成物の耐加水分解性や高温高湿下での強伸度保持が不足することがあり、50000を超えると、220℃での溶融粘度が高くなることがある。
【0019】
また、本発明に用いられる結晶性ポリエステル樹脂(A)は、必要に応じて無水トリメリット酸、トリメチロールプロパン等の三官能以上のポリカルボン酸やポリオールを共重合し、分岐を有するポリエステルとしても差し支えない。
【0020】
本発明の封止用樹脂組成物の熱劣化を出来るだけ生じさせずに封止体を製造するためには、樹脂組成物が210〜240℃での速やかに溶融することが好ましく、そのためには結晶性ポリエステル樹脂(A)の融点の上限は210℃が望ましい。より好ましくは、200℃である。下限は、該当する用途で求められる耐熱温度より5〜10℃以上高くすると良い。
【0021】
本発明に用いられる結晶性ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、公知の方法をとることができるが、例えば、上記のジカルボン酸及びジオール成分を150〜250℃でエステル化反応後、減圧しながら230〜300℃で重縮合することにより、目的のポリエステル樹脂を得ることができる。あるいは、上記のジカルボン酸のジメチルエステル等の誘導体とジオール成分を用いて150℃〜250℃でエステル交換反応後、減圧しながら230℃〜300℃で重縮合することにより、目的のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0022】
ポリエステル樹脂の組成及び組成比を決定する方法としては例えばポリエステル樹脂を重クロロホルム等の溶媒に溶解して測定するH−NMRや13C−NMR、ポリエステル樹脂のメタノリシス後に測定するガスクロマトグラフィーによる定量(以下、メタノリシス−GC法と略記する場合がある)等が挙げられる。本発明においては、ポリエステル樹脂(A)を溶解でき、なおかつH−NMR測定に適する溶剤がある場合には、H−NMRで組成及び組成比を決定することとする。適当な溶剤がない場合やH−NMR測定だけでは組成比が特定できない場合には、13C−NMRやメタノリシス−GC法を採用または併用することとする。
【0023】
<エポキシ樹脂(B)>
本発明に用いられるエポキシ樹脂(B)は、グリシジルエーテル、グリシジルエステル、グリシジルアミン、脂環族エポキサイド、脂肪族エポキサイド等、グリシジル基を有するものであれば、特に限定されない。例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテルタイプ、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ、トリグリシジルイソシアヌレート、グリシジルヒンダントイン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミン、あるいは3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイドなどが挙げられる。これらのうち、特に、封止用樹脂組成物に高い密着力を発揮させるためにはポリエステル樹脂(A)に対して相溶性が良いものがより好ましい。エポキシ樹脂(B)の好ましい数平均分子量は450〜40000である。数平均分子量が低すぎると封止用樹脂組成物軟化し易くなって機械的物性が劣ることがあり、数平均分子量が高すぎるとエポキシ樹脂(B)とポリエステル樹脂(A)との相溶性が低下し密着性が損なわれる恐れがある。
【0024】
<フッ素樹脂(C)>
本発明に用いられるフッ素樹脂(C)とは、ポリオレフィンの水素の一部または全部がフッ素に置換された構造からなるもの、または、ポリオレフィンの水素の一部がフッ素で置換され他の一部がパーフルオロアルキルエーテル基で置換された構造からなるもの、のことである。本発明に用いられるフッ素樹脂(C)の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体およびポリクロロトリフルオロエチレンを挙げることができる。その中でも、分散性等を考慮し、エチレンやプロピレンが共重合され融点が低いものが好ましい。また、マレイン酸等で変性されたタイプであっても差し支えない。
【0025】
さらに本発明に用いられるフッ素樹脂(C)は、融点が220℃以下のフッ素樹脂を用いることが好ましく、さらに好ましくは210℃以下である。フッ素樹脂の融点が高すぎると、本発明の樹脂組成物によって封止体を製造する際樹脂組成物の溶融粘度が大幅に増加し低圧成形が困難になるおそれがあり、また(A)成分と(C)成分との相溶性が低く、樹脂組成物と被封止物とのの密着性が発現できないおそれがある。
【0026】
さらに本発明に用いられるフッ素樹脂(C)は、ASTM D 3307により測定したメルトマスフローレイト(以下MFRと略記することがある)が、20〜100g/10分であることが好ましい。MFRが低いことは溶融粘度が高いことと同義であり、(A)成分と(C)成分との相溶性が低下して樹脂組成部と被封止物との密着性が損なわれるおそれがある。MFRが高いことは溶融粘度が低いことと同義であり、樹脂組成物が極めて軟化し易く、封止体の機械的物性が劣るおそれがある。
【0027】
本発明において、フッ素樹脂(C)を封止用樹脂組成物に配合することは、電気電子部品の封止に際し、初期密着性と冷熱サイクルに対する密着耐久性の向上、といった優れた特性を発揮する。(C)成分は(A)成分の結晶化やエンタルピー緩和によるひずみエネルギーを緩和する効果を発揮するものと考えられる。本発明における(C)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、0.5重量部以上であることが好ましく、3重量部以上であることがより好ましく、5重量部以上であることが更に好ましい。また、50質量部以下であることが好ましく、40重量部以下であることがより好ましく、30重量部以下であることが更に好ましい。(C)成分の配合比率が低すぎると、(A)成分の結晶化やエンタルピー緩和によるひずみエネルギーの緩和が小さく、密着強度が低下する傾向がある。また、(C)成分の配合比率が高すぎる場合にも逆に密着性や樹脂物性を低下させてしまう傾向があり、また(A)成分と(C)成分がマクロな相分離を起こして破断伸度が低下し、また平滑な表面を得られないなど成型性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0028】
<その他の成分>
本発明の封止用樹脂組成物には、本発明に用いられる(A)成分、(B)成分および(C)成分のいずれにも該当しない、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリル、エチレンビニルアセテート等の他の樹脂、イソシアネート化合物、メラミン等の硬化剤、タルクや雲母等の充填材、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、三酸化アンチモン、臭素化ポリスチレン等の難燃剤を配合しても全く差し支えない。これらの成分を配合することにより、密着性、柔軟性、耐久性等が改良される場合がある。その際の(A)成分は、本発明の樹脂組成物全体に対して50重量%以上含有することが好ましく、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上である。(A)成分の含有量が50重量%未満であるとポリエステル樹脂(A)自身が有する、優れた電気電子部品に対する密着性、密着耐久性、伸度保持性、耐加水分解性、耐水性が低下する虞がある。
【0029】
本発明の封止体が高温高湿度環境に長期間曝される場合には、酸化防止剤を添加することが好ましい。例えば、ヒンダードフェノール系として、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,1,3−トリ(4−ヒドロキシ−2−メチル−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパノイック酸、ペンタエリトリチルテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−5−メチル−ベンゼンプロパノイック酸、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、リン系として、3,9−ビス(p−ノニルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(オクタデシロキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリ(モノノニルフェニル)フォスファイト、トリフェノキシフォスフィン、イソデシルフォスファイト、イソデシルフェニルフォスファイト、ジフェニル2−エチルヘキシルフォスファイト、ジノニルフェニルビス(ノニルフェニル)エステルフォスフォラス酸、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルフォスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ペンタエリスリトールビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルフォスファイト)、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)2−エチルヘキシルフォスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、チオエーテル系として4,4’−チオビス[2−t−ブチル−5−メチルフェノール]ビス[3−(ドデシルチオ)プロピオネート]、チオビス[2−(1,1−ジメチルエチル)−5−メチル−4,1−フェニレン]ビス[3−(テトラデシルチオ)−プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス(3−n−ドデシルチオプロピオネート)、ビス(トリデシル)チオジプロピオネートが挙げられ、これらを単独に、または複合して使用できる。添加量は封止用樹脂組成物全体に対して0.1重量%以上5重量%以下が好ましい。0.1重量%未満だと熱劣化防止効果に乏しくなることがある。5重量%を超えると、密着性等に悪影響を与える場合がある。
【0030】
<電気電子部品封止用樹脂組成物>
本発明の封止用樹脂組成物は220℃での溶融粘度が5〜3000dPa・sであることが望ましく、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の種類と配合比率を適切に調整することにより、達成することができる。たとえば、本発明の封止用樹脂組成物が(A)成分、(B)成分、(C)成分からなる場合には、封止用樹脂組成物の溶融粘度は以下の式で概算することができ、必要に応じて更に微調整することにより、適切な溶融粘度の樹脂組成物を得ることができる。
封止用樹脂組成物の溶融粘度(概算値)={(A)成分の溶融粘度}×{(A)成分の重量分率}+{(B)成分の溶融粘度}×{(B)成分の重量分率}+{(C)成分の溶融粘度}×{(C)成分の重量分率}
例えば、(A)成分に共重合するポリエーテルジオールの共重合比率を高くすることや、(A)成分の分子量を低くすることは、(A)成分の溶融粘度を低下させ、本発明の樹脂組成物の溶融粘度を低くする方向に作用する。また、(A)成分の分子量を高くすることは(A)成分の溶融粘度を増大させ、本発明の樹脂組成物の溶融粘度を高くする方向に作用する。(B)成分、(C)成分についても同様である。
【0031】
本発明の封止用樹脂組成物の溶融粘度は以下のようにして測定した値である。すなわち、封止用樹脂組成物を水分率0.1%以下に乾燥し、次いで島津製作所株式会社製フローテスター(型番CFT−500C)にて、220℃に加温安定した封止用樹脂組成物を、1.0mmの孔径を有する厚み10mmのダイを1MPaの圧力で通過させたときの粘度の測定値である。3000dPa・s以上の高溶融粘度になると、高い樹脂凝集力や耐久性が得られるが、複雑な形状の部品への封止の際には高圧の射出成型が必要となるため、封止される部品の破壊を生じることがある。2000dPa・s以下、好ましくは1000dPa・s以下の溶融粘度を有する封止用樹脂組成物を使用することで、0.1〜100MPaの比較的低い射出圧力で、電気絶縁性に優れた電気電子部品封止体が得られると共に、電気電子部品の特性も損ねない。また、封止用樹脂組成物注入操作の観点からは220℃での溶融粘度は低いほうが好ましいが、樹脂組成物の密着性や凝集力を考慮すると下限としては5dPa・s以上が望ましく、さらに好ましくは10dPa・s以上、より好ましくは50dPa・s以上、最も好ましくは100dPa・s以上である。
【0032】
本発明において、特定の部材と封止用樹脂組成物の密着強度は、1枚の板状部材の上に封止用樹脂組成物を成形にて接着した測定用試料片を作成し、これのT型剥離強度を測定することにより判定する。測定用試験片の作成方法やT型剥離強度の測定方法は、後述する実施例に記載の方法に従って行うものとする。
【0033】
本発明の電気電子部品封止体は、電気電子部品を挿入した金型に本発明の樹脂組成物を溶融して注入することによって製造することができる。より具体的には、スクリュータイプのホットメルト成型加工用アプリケーターを用いた場合において、200〜280℃前後で加熱溶融し、射出ノズルを通じて金型へ注入され、その後一定の冷却時間を経た後、成型物を金型から取り外して電気電子部品封止体を得ることができる。樹脂組成物の注入時の温度および圧力は、温度130℃以上260℃以下かつ圧力0.1MPa以上10MPa以下であることがより好ましい。このような条件で封止されることにより、封止される電気電子部品の破損が生じにくく、またショートショット、バリおよびひけのない形状良好な封止体を得やすい。
【0034】
ホットメルト成型加工用アプリケーターの型式は特に限定されないが、例えばNordson社製ST2、井元製作所製竪型押し出し成型機IMC−18F9等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例、比較例を挙げるが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例、比較例に記載された各測定値は次の方法によって測定したものである。
【0036】
<融点、ガラス転移温度の測定>
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、一度250℃で5分ホールドした後、液体窒素で急冷して、その後−150℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した。得られた曲線の変曲点をガラス転移温度、吸熱ピークを融点とした。
【0037】
<初期密着性の評価>
密着強度試験片の作成方法
0.5mm厚のアルミ板(TP技研株式会社製A5052)を70mm×70mmの大きさに切断し、表面をアセトンで拭いて油分を取り除いた。次いでこのアルミ板を平板成型用金型(金型内面寸法:幅100mm×長さ100mm×厚み5mm)の内部に固定し、アルミ板の一辺に幅10mmのセロハンテープを貼りつけた。次いでスクリュー型ホットメルト成型加工用アプリケーター(井元製作所製竪型低圧押し出し成型機IMC−18F9)を用いて100mm×100mmの面の中心に設けたゲートから封止用樹脂組成物を注入し、成型を行った。成型条件は、成型樹脂温度220℃、成型圧力3MPa、保圧圧力3MPa、冷却時間15秒、吐出回転を50%設定(最大吐出を100%として)とした。成型物を離型し、各々がセロハンテープ貼りつけ部を有する幅20mmの短冊状となるように切断し、密着強度試験片を得た。
【0038】
初期密着性の評価
前記密着試験片を23℃、相対湿度50%の雰囲気下にて3時間以上100時間以内保管した。次いで、セロハンテープ貼りつけ部よりアルミ板と樹脂を剥離させ、T型剥離強度を測定した。引張速度は50mm/分とした。
評価基準 ◎:T型剥離強度2.0N/mm以上
○:T型剥離強度2.0N/mm未満1.0N/mm以上
△:T型剥離強度1.0N/mm未満0.5N/mm以上
×:T型剥離強度0.5N/mm未満
【0039】
<冷熱サイクル負荷耐久性試験>
初期密着性を評価したのと同様にして作成した密着強度試験片に対して、−40℃で30分、次いで150℃で30分の環境下におくことを1サイクルとする1000サイクルの環境負荷を与え、次いでT型剥離強度を測定し、T型剥離強度保持率を算出した。なお、T型剥離強度保持率は下記数式で定義される値である。
【0040】
【数1】

【0041】
評価基準 ◎:T型剥離強度保持率80%以上
○:T型剥離強度保持率80%未満70%以上
△:T型剥離強度保持率70%未満50%以上
×:T型剥離強度保持率50%未満
【0042】
<溶融特性試験>(溶融特性の評価)
樹脂および封止用樹脂組成物の溶融粘度の評価方法
島津製作所製、フローテスター(CFT−500C型)にて、220℃に設定した加熱体中央のシリンダー中に水分率0.1%以下に乾燥した樹脂または封止用樹脂組成物を充填し、充填1分経過後、プランジャーを介して試料に荷重を加え、圧力1MPaで、シリンダー底部のダイ(孔径:1.0mm、厚み:10mm)より、溶融した試料を押出し、プランジャーの降下距離と降下時間を記録し、溶融粘度を算出した。
【0043】
低圧成型性評価方法
平板成型用金型を使用し、ホットメルト成型加工用アプリケーターとして井元製作所製低圧成型アプリケーターIMC−18F9を用いて封止用樹脂組成物からなる平板(100mm×100mm×10mm)を成型した。なお、ゲート位置は100mm×100mmの面の中心とした。
成型条件:成型樹脂温度220℃、成型圧力3MPa、保圧圧力3MPa、冷却時間15秒、吐出回転50%設定。
【0044】
評価基準 ◎:完全に充填され、バリもヒケもなし。
○:完全に充填されるが、若干のバリが発生する。
△:ショートショット無く充填されるが、ヒケ有り。
×:ショートショット有り。
【0045】
<高温長時間負荷耐久性試験>(耐熱老化性の評価)
スクリュー型ホットメルト成型加工用アプリケーター(井元製作所製竪型低圧押し出し成型機IMC−18F9)を用いて100mm×100mmの面の中心に設けたゲートから封止用樹脂組成物を注入し、成型を行い、2mm厚の平板を作製した。成型条件は、成型樹脂温度220℃、成型圧力3MPa、保圧圧力3MPa、冷却時間15秒、吐出回転を50%設定(最大吐出を100%として)とした。上記条件により製作した平板をJIS3号型ダンベルに打ち抜き、JISK6251の測定方法に従って引張破断伸度を測定し、その値を「初期引張破断伸度」とした。また、同様に作成したダンベルを150℃雰囲気下で1000時間保管した後に、同様に引張破断伸度測定を実施し、その値を「150℃、1000時間負荷試験後の引張破断伸度」とした。引張破断伸度保持率は下記の数式に従って算出した。
【0046】
【数2】

【0047】
評価基準 ◎:引張破断伸度保持率65%以上
○:引張破断伸度保持率65%未満50%以上
△:引張破断伸度保持率50%未満30%以上
×:引張破断伸度保持率30%未満
【0048】
脂肪族ポリカーボネートジオールAの製造例
ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール(数平均分子量2000)100質量部とジフェニルカーボネート9.6質量部とを反応容器に仕込み、温度205℃、130Paで反応させた。2時間後、内容物を冷却し、生成したポリマーを取り出し、脂肪族ポリカーボネートジオールAを得た。脂肪族ポリカーボネートジオールAの数平均分子量は13000であった。
【0049】
脂肪族ポリカーボネートジオールBの製造例
脂肪族ポリカーボネートジオールAの製造例において、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオールをポリ(テトラメチレンカーボネート)ジオール(数平均分子量2000)に変更し、その他は同様にして、脂肪族ポリカーボネートジオールBを得た。脂肪族ポリカーボネートジオールBの数平均分子量は13000であった。
【0050】
ポリエステル樹脂Aの製造例
ハードセグメント成分である数平均分子量20000のポリブチレンテレフタレート(PBT)100質量部とソフトセグメント成分である脂肪族ポリカーボネートジオールA67質量部とを、230℃〜245℃、130Pa下で1時間攪拌し、樹脂が透明になったことを確認した。その後、内容物を取り出し冷却した。次いで、ラスミットLGを0.3部、Irganox1010を0.3部加え、250℃で混練して、ポリエステル樹脂Aを得た。
【0051】
ポリエステル樹脂B〜Eの製造例
ポリエステル樹脂Aの製造例において、ハードセグメント成分とソフトセグメント成分の種類および/または配合量を変更し、ポリエステル樹脂B〜Eを得た。ポリエステル樹脂B〜Eの組成と物性を表1に示した。
【0052】
ポリエステル樹脂Fの製造例
撹拌機、温度計、溜出用冷却器を装備した反応缶に、酸成分としてナフタレンジカルボン酸1を、グリコール成分として酸成分の75モル%に相当する1,4−ブタンジオールを投入した。次いで、テトラブチルチタネートを酸成分とグリコール成分の最終的な合計仕込み量100質量部あたり0.25質量部加え、170〜220℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、酸成分の25モル%に相当するポリテトラメチレングリコール「PTMG1000」(三菱化学社製)を投入し、さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1330」(チバガイギー社製)を0.5質量部投入し、255℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて255℃で665Paとした。そしてさらに133Pa以下で30分間重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂Fを得た。このポリエステル樹脂Hの融点は190℃で、溶融粘度は500dPa・sであった。
【0053】
ポリエステル樹脂Gの製造例
撹拌機、温度計、溜出用冷却器を装備した反応缶に酸成分としてテレフタル酸を、グリコール成分として酸成分の70モル%に相当する1,4−ブタンジオールを投入した。次いで、テトラブチルチタネートを酸成分とグリコール成分の最終的な合計仕込み量100質量部に対して0.25質量部加え、170〜220℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、酸成分の30モル%に相当するポリテトラメチレングリコール「PTMG1000」(三菱化学社製)を投入し、さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1330」(チバガイギー社製)を0.5質量部投入し、255℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて255℃で665Paとした。そしてさらに133Pa以下で30分間重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂Iを得た。このポリエステル樹脂Gの融点は160℃で、溶融粘度は100dPa・sであった。
【0054】
【表1】

【0055】
PBT:ポリブチレンテレフタレート、数平均分子量2000
PBN:ポリブチレンナフタレート、数平均分子量2000
PTMG1000:ポリテトラメチレングリコール、数平均分子量1000
【0056】
実施例1
ポリエステル樹脂A100質量部、フッ素樹脂Aを20質量部、エポキシ樹脂Aを15質量部を均一に混合した後、二軸押し出し機を用いてダイ温度220℃において溶融混練し、樹脂組成物1を得た。樹脂組成物1の配合組成及び評価結果を表2に示した。<溶融特性試験>において、1819dPa・sと良好な溶融特性であった。<密着強度試験>において、初期密着強度は1.5MPaと良好であり、<冷熱サイクル負荷耐久性試験>において冷熱サイクル試験後のT型剥離強度は1.1MPa、T型剥離強度保持率は73%と良好であった。また、<高温長時間負荷耐久性試験>において、引張破断伸度保持率は75%と良好であった。
【0057】
実施例2〜9、比較例1〜7
実施例1と同様にして、但し配合を表2〜表4に記載のように変更して、電気電子部品封止用樹脂組成物2〜15を調製し、ついで評価を行なった。評価結果を表2〜3に示した。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
フッ素樹脂A:ネオフロンEFEP RP−4020、ダイキン工業(株)製、融点155〜170℃、MFR25〜50g/10分。
フッ素樹脂B:ネオフロンEFEP RP−5000、ダイキン工業(株)製、融点190〜200℃、MFR20〜30g/10分
フッ素樹脂C:ネオフロンPFA AP−202、ダイキン工業(株)製、融点298℃、MFR3.3g/10分。
エポキシA:JER1007、三菱化学(株)製、ビスフェノール型エポキシ樹脂。
エポキシB:UG4070、東亞合成(株)製、多官能エポキシ樹脂。
エポキシC:EX−145、ナガセケムテックス(株)製、モノエポキシ樹脂。
【0062】
比較例1は、ポリカーボネート成分が共重合されている結晶性ポリエステル樹脂(A)に換えてポリテトラメチレングリコール成分が共重合されている結晶性ポリエステル樹脂を用いた例である。比較例1では、<密着強度試験>において初期密着強度は2.5MPa、冷熱サイクル試験後のT型剥離強度は1.3MPaと初期密着性および冷熱サイクル耐久性に優れ、<溶融特性試験>において溶融粘度は1810dPa・sと良好な結果を示したが、<高温長時間負荷耐久性試験>では伸度保持率は15%と不良であった。
【0063】
比較例2は、ポリカーボネート成分が共重合されている結晶性ポリエステル樹脂(A)に換えてポリテトラメチレングリコール成分が共重合されている結晶性ポリエステル樹脂を用いた例である。比較例2では、<密着強度試験>において初期密着強度は2.0MPa、冷熱サイクル試験後は1.0MPaとなり、密着性結果には優れる結果となった。しかし、<高温長時間負荷耐久性試験>では保持率は25%と不良であった。
【0064】
比較例3は、フッ素樹脂(C)を用いなかった場合の例である。比較例3では、<溶融特性試験>では490dPa・sと良好な結果となり、また<密着強度試験>において初期密着強度は2.1MPaと良好であったが、冷熱サイクル試験後は0.1MPaとなり、不良な結果となった。
【0065】
比較例4は、フッ素樹脂(C)の種類がフッ素樹脂Cであった場合、エポキシ樹脂(B)がエポキシ樹脂Bを用いた場合の例である。比較例4では、<溶融特性試験>では12588dPa・sと成型が困難な不良結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物は、電気電子部品封止体用封止剤として用いると、アルミニウム材への初期密着強度に優れ、なおかつ冷熱サイクル負荷を経た後も高度な密着耐久性を発揮し、有用である。また、本発明の電気電子部品封止体は、冷熱サイクルの過酷な環境負荷に対する耐久性が発揮され、有用である。本発明の電気電子部品封止体は、例えば自動車、通信、コンピュータ、家電用途各種のコネクター、ハーネスやあるいは電子部品、プリント基板を有するスイッチ、センサーのモールド成型品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート成分が共重合されている結晶性ポリエステル樹脂(A)、
エポキシ樹脂(B)、フッ素樹脂(C)、
を含有し、
水分率0.1%以下に乾燥して220℃に加熱し圧力1MPaを付与し、孔径1.0mm、厚み10mmのダイより押し出したときの溶融粘度が5dPa・s以上3000dPa・s以下である、
電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(B)がビスフェノール型エポキシ樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記結晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、エポキシ樹脂(B)が0.1〜100重量部、およびフッ素樹脂(C)が0.1〜100重量部配合されている請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂(C)の融点が220℃以下である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
アルミニウム板に対する、−40℃30分と150℃30分の冷熱サイクルを1000サイクル付加前後のT型剥離強度保持率が50%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項6】
アルミニウム板に対する初期T型剥離強度が0.5N/mm以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物を、加熱して混練した後、電気電子部品を挿入した金型に樹脂組成物温度130℃以上260℃以下かつ樹脂組成物圧力0.1MPa以上10MPa以下で注入する、電気電子部品封止体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物で封止された電気電子部品封止体。

【公開番号】特開2013−112771(P2013−112771A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261786(P2011−261786)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】