説明

電池インピーダンス測定装置

【課題】電池を実際に使用している自動車や発電プラント、家庭用蓄電システムなどのオンサイトにおいて、電池の内部インピーダンス特性をリアルタイムで測定できる電池インピーダンス測定装置を実現すること。
【解決手段】複数個の電池セルが直列に接続され、実負荷を高周波域を含む負荷変動を生じる状態で駆動する電池モジュールをリアルタイムで測定監視する電池監視装置に用いられるインピーダンス測定装置であって、前記各セルの電圧波形データおよび電流波形データを離散フーリエ変換し、電圧波形データの離散フーリエ変換結果を電流波形データの離散フーリエ変換結果で除算することによりインピーダンスを演算するDFT演算部と、このDFT演算部で演算されたインピーダンスに基づき、予め指定された等価回路モデルにおいて定数フィッティングを行う回路定数推定演算部と、任意の周波数におけるインピーダンスを出力するインピーダンス推定演算部、とで構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池監視装置に用いられる電池インピーダンス測定装置に関し、詳しくは、電池を実際に使用している自動車や発電プラント、家庭用蓄電システムなどのオンサイト(現場)において、電池のインピーダンスをリアルタイムで測定できる電池インピーダンス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繰り返し充電が行える二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車などの走行モータ駆動電源として用いられるとともに、化石燃料に頼らない太陽発電や風力発電などの環境負荷が比較的少ないエネルギーを蓄えることができるという視点からも、産業界や公共機関や一般家庭などでも広く用いられつつある。
【0003】
一般に、これらの二次電池は、所定数の電池セルを直列に接続することで所望の出力電圧が得られる電池モジュールとして構成され、所望の出力電圧が得られる所定数の電池モジュールを並列に接続することで所望の電流容量(AH)が得られる電池パックとして構成されている。
【0004】
ところで、自動車に走行モータ駆動電源として搭載される二次電池は、充電時間、航続距離などの利便性から、当面はリチウムイオン電池が主流になると考えられている。
【0005】
図10は、従来の二次電池を用いた電池システムの一例を示すブロック図である。図10において、電池モジュール10は、複数の電池セル111〜11nと電流センサ12が直列接続されたものであり、負荷Lと直列に接続されている。
【0006】
電池監視装置20は、電池モジュール10を構成する複数の電池セル111〜11nと電流センサ12に個別に対応するように設けられている複数のA/D変換器211〜21n+1と、これらA/D変換器211〜21n+1の出力データが内部バス22を介して入力される処理装置23とで構成されている。
【0007】
電池モジュール10の各電池セル111〜11nの出力電圧と電流センサ12の検出信号は、それぞれ対応するA/D変換器211〜21n+1に入力されてデジタル信号に変換され、これらA/D変換器211〜21n+1の出力データは内部バス22を介して処理装置23に入力される。
【0008】
処理装置23は、A/D変換器211〜21n+1の出力データに基づいてたとえば各電池セル111〜11nの内部抵抗値を求めるとともにそれらの内部抵抗値から所望の電流を取り出す場合の電圧降下分を推定し、これらのデータを外部バス30を介して上位の電池システム制御部40に伝送する。
【0009】
電池システム制御部40は、電池監視装置20から入力されるデータに基づき、現在の電池モジュール10の出力電圧で安定に負荷装置Lを駆動できるように、電池モジュール10および負荷装置Lを制御する。
【0010】
このような電池モジュール10を構成する二次電池の性能を評価する指標の一つに、図11および図12に示すような内部インピーダンス特性がある。図11は満充電された電池を高温状態に放置した場合のインピーダンス特性例図であり、図12は高温状態で充放電を繰り返した場合におけるインピーダンス特性例図である。なお、図11および図12において、左図は交流インピーダンス測定結果に基づく複素インピーダンスを複素座標にプロットしたコールコールプロットを示し、右図はそのインピーダンス周波数特性を表すボード線図を示している。
【0011】
図11の左図は、放置期間がたとえば1年、2年、・・と長くなるのにしたがって交流インピーダンスが大きくなっていく過程を示している。図12の左図は、充放電がたとえば50回、100回、・・と繰り返されるのにしたがって交流インピーダンスが大きくなっていく過程を示している。
【0012】
インピーダンスが大きくなると、電流を取り出すときの電池電圧降下が大きくなり、十分な出力電圧が得られなくなる。各右図の周波数が低い部分は、自動車のアクセルを長い時間踏み続けることに相当する。これらのデータから、周波数が低い部分ではインピーダンスが大きくなるため、どんどん電圧降下が大きくなることが推測できる。すなわち、電池の劣化に伴って出力特性が変化し、十分な出力を取り出せなくなってしまう。
【0013】
図13は二次電池の交流インピーダンスを測定する従来の測定回路の一例を示すブロック図であって、図10と共通する部分には同一の符号を付けている。図13において、電池10と電流センサ12の直列回路の両端には、掃引信号発生器50が接続されている。この掃引信号発生器50は、図11および図12の右図に示す周波数特性領域を含む範囲で出力周波数が掃引変化する交流信号を、電池10と電流センサ12の直列回路に出力する。
【0014】
交流電圧モニタ60は、電池10の両端の交流電圧を測定してインピーダンス演算装置80に入力する。交流電流モニタ70は、電流センサ12に流れる交流電流を測定してインピーダンス演算装置80に入力する。
【0015】
インピーダンス演算装置80は、掃引信号発生器50の出力信号の各周波数における交流電圧モニタ60の測定電圧と交流電流モニタ70の測定電流との比である電池10の複素インピーダンスを算出する。これら算出された複素インピーダンスを複素平面にプロットすることにより、図11や図12に示すようなコールコールプロットを得ることができる。
【0016】
このようにして作成されるコールコールプロットから、たとえば図14に示すような電池10の等価回路の各パラメータを推定できる。なお、図14の等価回路は、直流電源Eと、抵抗R1と、抵抗R2とコンデンサC2の並列回路と、抵抗R3とコンデンサC3の並列回路と、抵抗R4とインダクタンスL4の並列回路とが直列接続されている。このような交流法によるインピーダンスの測定については、自動測定方法も含めて特許文献1に詳しく記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2003−4780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前述のように、電池の内部インピーダンス特性を測定することにより、電池の様々な情報を得ることができるので、電池を実際に使用している自動車や発電プラント、家庭用蓄電システムなどのオンサイト(現場)において電池の内部インピーダンス特性を測定できれば、それらの情報に基づいて電池の現状を把握するとともに、電池の現状に応じて常に最大限有効に活用するように制御することができる。
【0019】
しかし、図10に示す従来のシステム構成では、各電池セル111〜11nの内部抵抗値を求めることはできるものの、処理装置23と電池システム制御部40との間のデータ通信が間欠的になることから、各電池セル111〜11nの電圧データは周期がたとえば100ms以上の離散的データとなってしまう。
【0020】
この結果、電圧、電流、温度などで構成されるテーブルを参照して各電池セル111〜11nの状態を検知できるようにするのに留まり、情報が多く詰まっている各電池セル111〜11nの内部インピーダンス特性を測定することはできない。
【0021】
また、図13に示す従来の測定回路によれば、掃引信号発生器50が必要であり、オンサイトの各セルについて図13のような測定回路を実装することはコスト的、スペース的にも実現は困難である。
【0022】
本発明は、これらの課題を解決するものであって、その目的は、電池を実際に使用している自動車や発電プラント、家庭用蓄電システムなどのオンサイトにおいて電池監視装置に用いられる電池の内部インピーダンス特性をリアルタイムで測定できる電池インピーダンス測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
複数個の電池セルが直列に接続され、実負荷を高周波域を含む負荷変動を生じる状態で駆動する電池モジュールをリアルタイムで測定監視する電池監視装置に用いられるインピーダンス測定装置であって、
前記各セルの電圧波形データおよび電流波形データを離散フーリエ変換し、電圧波形データの離散フーリエ変換結果を電流波形データの離散フーリエ変換結果で除算することによりインピーダンスを演算するDFT演算部と、
このDFT演算部で演算されたインピーダンスに基づき、予め指定された等価回路モデルにおいて定数フィッティングを行う回路定数推定演算部と、
任意の周波数におけるインピーダンスを出力するインピーダンス推定演算部、
とで構成されていることを特徴とする。
【0024】
請求項2の発明は、
複数個の電池セルが直列に接続され、実負荷を高周波域を含む負荷変動を生じる状態で駆動する電池モジュールをリアルタイムで測定監視する電池監視装置に用いられるインピーダンス測定装置であって、
前記各セルの電圧波形データおよび電流波形データを離散フーリエ変換し、電圧波形データの離散フーリエ変換結果を電流波形データの離散フーリエ変換結果で除算することによりインピーダンスを演算するDFT演算部と、
このDFT演算部で演算されたインピーダンスデータの特徴に基づいて最適な等価回路モデルを選択する回路モデル選択部と、
この回路モデル選択部で選択された等価回路モデルにおいて定数フィッティングを行う回路定数推定演算部、
とで構成されていることを特徴とする。
【0025】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の電池インピーダンス測定装置において、
前記等価回路モデルに不変回路定数を与えることによりインピーダンス推定を行うことを特徴とする。
【0026】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の電池インピーダンス測定装置において、
前記定数推定時の等価回路モデルには不変回路定数を含まず、インピーダンス推定時にのみ不変回路定数を使用することを特徴とする。
【0027】
請求項5の発明は、請求項2に記載の電池インピーダンス測定装置において、
前記回路モデル選択部は、等価回路モデルの具体的な構成について、以下の手順で順次決定することを特徴とする。
1)ワールブルグ素子の有無
2)LR並列回路の有無
3)RC並列回路の段数
【発明の効果】
【0028】
これらにより、電池を実際に使用する自動車や発電プラント、家庭用蓄電システムなどのオンサイトにおいて、電池の内部インピーダンス特性を測定でき、電池状態をリアルタイムで監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に基づく電池インピーダンス測定装置が用いられる電池監視装置の具体例を示すブロック図である。
【図2】電力/インピーダンス演算部24の具体例を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図4】電池のインピーダンス特性例図である。
【図5】図14の等価回路についての定数推定インピーダンス特性例図である。
【図6】本発明の他の実施例を示すブロック図である。
【図7】a=4の相関係数Corr(i)のグラフである。
【図8】サンプルインピーダンス特性例図である。
【図9】他のサンプルインピーダンス特性例図である。
【図10】従来の二次電池を用いた電池システムの一例を示すブロック図である。
【図11】満充電された電池を高温状態に放置した場合のインピーダンス特性例図である。
【図12】高温状態で充放電を繰り返した場合におけるインピーダンス特性例図である。
【図13】二次電池の交流インピーダンスを測定する従来の測定回路の一例を示すブロック図である。
【図14】電池の等価回路例図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に基づく電池インピーダンス測定装置が用いられる電池監視装置の具体例を示すブロック図であり、図10と共通する部分には同一の符号を付けている。図1において、電池監視装置20は、電池モジュール10を構成する複数n個の各電池セル111〜11nに対応して設けられている複数n個の電力/インピーダンス演算部241〜24nと、これら電力/インピーダンス演算部241〜24nの出力データが内部バス25を介して入力される電池モジュール状態管理部26と、負荷装置Lとしての自動車の駆動系を構成しているアクセルL1の動きを監視するアクセルワーク監視部27とで構成されている。
【0031】
負荷装置Lとしての自動車の駆動系は、アクセルL1とインバータL2とモータL3が実質的に直列接続されている。インバータL2は、電池モジュール10と直列に接続されていて、電池モジュール10からモータL3を回転駆動するのに必要な駆動電力が供給される。モータL3は、運転者がたとえばペダル操作するアクセルL1の動きに応じてインバータL2に供給される駆動電力量を制御することにより、運転者の意図する回転速度で回転するように緩急制御される。
【0032】
運転者のペダル操作に伴うアクセルL1の動きは、アクセルワーク監視部27で連続的に監視検出されていて、その検出信号は電池モジュール状態管理部26および内部バス25を介して各電力/インピーダンス演算部241〜24nに入力される。
【0033】
電力/インピーダンス演算部241〜24nには、それぞれに対応する各電池セル111〜11nから電圧信号が入力されるとともに、電流センサ12から電流信号が入力されている。
【0034】
ここで、運転者のペダル操作に伴うアクセルL1の動きは、各電池セル111〜11nの出力電圧波形および電流センサ12の出力電流波形に、広帯域の周波数成分を含む階段波的な立ち上がりや立ち下がりの変化を与えることになる。
【0035】
電力/インピーダンス演算部241〜24nは、これら広帯域の周波数成分を含む波形データに対して離散フーリエ変換(DFT)または高速フーリエ変換(FFT)を行い、その結果から所望の周波数領域における等価回路定数を推定する。これにより、電池を実際に使用している自動車やプラントなどのオンサイトにおいて、電池の内部インピーダンス特性を測定でき、電池状態をリアルタイムで監視できる。
【0036】
電池モジュール状態管理部26は、各電力/インピーダンス演算部241〜24nで測定される電池モジュール10を構成する各電池セル111〜11nの瞬時電力情報および内部インピーダンス情報を取り込むとともに、これらのデータを外部バス30を介して上位の電池システム制御部40に伝送する。
【0037】
電池システム制御部40は、電池監視装置20から入力されるデータに基づき、現在の電池モジュール10の出力電圧で安定に負荷装置Lを駆動できるように電池モジュール10および負荷装置Lを制御するとともに、各電池セル111〜11nの瞬時電力量の変化動向や内部インピーダンス情報の変化動向などに基づいて各電池セル111〜11nの性能の推移状況を把握し、充電を促すアラームを発信したり、性能劣化の傾向を解析して電池モジュール10の交換時期予測データなども出力する。
【0038】
図2は、電力/インピーダンス演算部24の具体例を示すブロック図である。図2において、各電池セル111〜11nの電圧信号Vは、アンチエイリアスフィルタ24aを介してA/D変換器24bに入力され、A/D変換器24bの出力データは等価回路パラメータ測定部24cに入力される。
【0039】
電流センサ12からの電流信号Iは、アンチエイリアスフィルタ24dを介してA/D変換器24eに入力され、A/D変換器24eの出力データは等価回路パラメータ測定部24cに入力される。
【0040】
A/D変換器24b、24eは、電池モジュール状態管理部26→アクセル変化量検出部24f→クロック制御部24g→可変クロック発生部24hで構成され、アクセルワーク監視部27から検出出力されるアクセル変化信号に基づき生成される可変クロック系統により駆動される。これにより、発進、加速、高速走行、低速走行、減速、停止、後退、それらの緩急など、運転者のアクセルワークに基づいたクロックが生成されて、それぞれの状態における電圧信号Vおよび電流信号Iがデジタルデータに変換される。
【0041】
なお、A/D変換器24b、24eのサンプリングクロック周波数は、各電池セル111〜11nの内部インピーダンスを測定したい周波数帯域に応じて変更することもできる。たとえば1kHzまでの内部インピーダンスを測定する場合は、サンプリングクロック周波数を2Ksample/sとし、アンチエイリアスフィルタ24a、24dの低域通過帯域を1kHz以下とする。
【0042】
等価回路パラメータ測定部24cには、測定しようとしている各電池セル111〜11nの等価回路パターンなどの等価回路の情報が格納されている等価回路情報格納部24iが接続されている。等価回路パラメータ測定部24cで測定された等価回路の各パラメータは、内部バス25を介して電池モジュール状態管理部26に取り込まれる。
【0043】
A/D変換器24b、24eの出力データは、電力測定部24jにも入力される。これにより、電力測定部24jは各電池セル111〜11nの瞬時電力を測定し、測定結果を電力情報格納部24kに格納する。電力情報格納部24kに格納された電力情報は、内部バス25を介して電池モジュール状態管理部26に取り込まれる。
【0044】
近年、電池に対して定電圧や定電流で正弦波を印加してインピーダンス特性を求め、充放電の温度特性や充電残量や性能劣化の度合などを推定して電池の状態を把握する研究が盛んに行われている。
【0045】
電池が自動車などのシステムに組み込まれる前の単体の状態では、整備された測定環境でインピーダンス測定が行えるが、システムに組み込まれてしまうと、システム上の制約などにより、十分なインピーダンス測定ができない場合がある。特に、自動車の駆動源として搭載された場合には、システム側のサンプルレートが不十分で、高い周波数領域がサンプルできないことが想定される。この場合、予め測定した測定範囲相当での比較ができなくなってしまう。
【0046】
図3は任意の周波数におけるインピーダンス推定機能を有する本発明の一実施例を示すブロック図であり、図2の電力/インピーダンス演算部24を構成する等価回路パラメータ測定部24cの具体例を示している。A/D変換器24b、24eの出力データは、波形データ記憶部c1に逐次格納される。
【0047】
DFT演算部c2は、波形データ記憶部c1に逐次格納される電圧信号および電流信号の波形データを離散フーリエ変換し、電圧信号の離散フーリエ変換結果を電流信号の離散フーリエ変換結果で除算することによりインピーダンスを演算し、演算されたインピーダンスデータをインピーダンスデータ記憶部c3に格納する。なお、波形データの形態によっては、DFT演算部c2に代えてFFT演算部を用いることにより、演算処理の高速化が図れる。
【0048】
回路定数推定演算部c4は、インピーダンスデータ記憶部c3に格納されているインピーダンスデータに基づき、予め指定された等価回路モデルにおいて、定数フィッティングを行う。回路定数推定演算部c4で推定演算された回路定数は、たとえば図14に示した等価回路の場合、R4とL4は不変回路定数記憶部c5に格納され、その他のR1、R2、C2、R3、C3は回路定数記憶部c6に格納される。
【0049】
インピーダンス推定演算部c7は、任意の周波数におけるインピーダンスを出力する。
インピーダンスデータが実在する周波数領域については、インピーダンスデータ記憶部c3に格納されているインピーダンスデータをそのまま出力する。インピーダンスデータが実在しない周波数領域については、不変回路定数記憶部c5および回路定数記憶部c6に格納されている回路定数に基づき推定演算し、その演算結果を出力する。
【0050】
解析条件記憶部c8には、外部から解析条件が格納される。解析条件は主に各演算部における演算条件をあらわすが、基準測定かシステム搭載時測定かの情報も含む。
【0051】
図4は電池のインピーダンス特性例図であり、(A)は正弦波を周波数範囲1Hz〜2.5kHzで掃引するとともに、各測定周波数点で十分なサンプルレートを確保しながら測定した結果を示している。以降、(A)を基準特性とする。
【0052】
(B)は(A)の基準特性から周波数範囲1〜50Hzを切り出したものである。これは、電池をたとえば自動車システムに搭載した場合の制約により、高周波数領域が測定できない場合を想定している。(A)に表示されている虚軸の+側(グラフの下半分)は電池のL(インダクタンス)の情報を含む領域であるが、(B)ではその部分が完全に欠落している。
【0053】
電池のインダクタンスについては、構造的な特性であり、電極や電解溶液の劣化などでは経時変化しないとする考えがある。この考えに基づけば、(A)の基準特性から予め等価回路定数を求め、経時変化しない定数については、電池をシステム搭載後も、これらの定数を使用できる。
【0054】
(C)は(A)の基準特性を、図14の等価回路モデルに基づき定数フィッティングして求めたR1,R2,R3,C2,C3,L4,R4から導き出したインピーダンス特性曲線である。フィッティングは公知の演算式に基づいて行うことができる。
【0055】
(D)は(B)で推定した回路定数R1,R2,R3,C2,C3と予め取得したL4,R4を用いて、図14の等価回路モデルに基づき定数フィッティングして求めた結果から導き出したインピーダンス特性曲線である。(D)のインピーダンス特性曲線は、(C)のインピーダンス特性曲線とほぼ等しくなっている。すなわち、(B)で推定した回路定数R1,R2,R3,C2,C3と予め取得したL4,R4を用いることにより、(A)の基準特性に相当する周波数範囲におけるインピーダンス特性を推定することができる。
【0056】
なお、図3の実施例では等価回路モデルに不変回路定数を与えることによりインピーダンス推定を行っているが、等価回路上に不変回路定数を与えるのではなく、不変回路定数から時系列データを作り出し、それを測定した時系列データに足しこんだ上で、他の回路定数を推定するようにしてもよい。
【0057】
また、図3の実施例ではL成分は低い周波数領域には影響しないという前提で定数推定を行っている。よって、定数推定時の等価回路モデルには不変回路定数L4,R4を含まず、インピーダンス推定時にのみ不変回路定数L4,R4を使用している。ところが、電池の特性によってはL成分が低い周波数領域にも影響を及ぼす可能性がある。その場合には、定数推定時の等価回路に不変回路定数L4,R4を含んだ上で定数推定するようにしてもよい。
【0058】
ところで、電池の等価回路モデルの選択にあたっては、予め、測定対象とする電池固有の特性や測定周波数範囲を認識した上で適切な等価回路モデルを選択しないと、図5のインピーダンス特性例図に示すように実物とはかけ離れた定数推定結果となる場合がある。
【0059】
図5は、図14の等価回路について、同じインピーダンスデータから異なる周波数範囲のデータを抽出し、定数推定を行った結果である。(A)は0.1Hz以上を抽出した結果であり、定数フィッティングにより導き出したインピーダンス特性曲線と、実際のインピーダンス特性が一致している。
【0060】
これに対し、(B)は1.0Hz以上を抽出した結果であって、定数フィッティングにより導き出したインピーダンス特性曲線から大きく外れている。これは、実物はワールブルグ素子を含んでいるにもかかわらず、データにはその特性が顕著に現れていないことにより、局所解に陥っていると推測できる。このように、同じ等価回路モデルでも、定数推定に用いるインピーダンスの周波数範囲が異なると、全く異なる結果が得られることがある。
【0061】
このような不都合は、等価回路パラメータ測定部24cとして図6に示すように構成されたものを用い、インピーダンスデータの特徴に基づいて最適な等価回路モデルを選択することにより回避でき、回路定数推定精度の向上が図れる。
【0062】
図6は最適な等価回路モデルを選択する機能を有する本発明の他の実施例を示すブロック図であり、図3と共通する部分には同一の符号を付けている。図6において、回路モデル選択部c9は、DFT演算部c2で推定されインピーダンスデータ記憶部c3に格納されているインピーダンスデータの特徴に基づいて最適な等価回路モデルを選択する。回路定数推定演算部c4は、インピーダンスデータ記憶部c3に格納されているインピーダンスデータおよび回路モデル選択部c9で選択された最適な等価回路モデルに基づき、各回路定数の推定演算を行う。
【0063】
一般的に使用される電池の等価回路モデルは、n段のRC並列回路と、1段のLR並列回路と、ワールブルグ素子とで構成されている。そこで、回路モデル選択部c9は、このような等価回路モデルの具体的な構成について、以下の手順で順次決定する。
1)ワールブルグ素子の有無
2)LR並列回路の有無
3)RC並列回路の段数
【0064】
1)まず、ワールブルグ素子については、低周波数側のインピーダンス実軸・虚軸の相関係数を用いて、有無を判断する。たとえば、Corr<−0.99であればワールブルグ有と判定する。相関係数は下式より算出する。
【0065】

【0066】
ここで、Corr(i)はi番目インピーダンスデータ周辺の相関係数、ZrealjおよびZimgjはj番目インピーダンスデータの実部・虚部をあらわす。
【0067】

【0068】

【0069】
は、各々i-a〜i+a番目インピーダンスの実部・虚部データの平均値をあらわす。なお、インピーダンスデータは周波数の昇順に並んでいるものとする。
【0070】
図7は、a=4の相関係数Corr(i)のグラフである。今回のサンプルデータではワールブルグ「有」と判断される。
【0071】
2)次に、LR並列回路の有無を判定する。高周波数測のインピーダンス虚軸が+値であれば、LR並列回路が必要と判断する。図8のサンプルインピーダンス特性図の場合には、LR並列回路「有」と判断される。
【0072】
3)最後にRC並列回路の段数を決定する。全データにおいて相関係数が−から+方向に、Corr(i)=−0.95を跨いだ回数で判定する。ただし、インピーダンスの虚軸が+領域で跨いでいる場合は、LRの特性とみなしてカウントしない。図9(A)に示すサンプルデータでは、a,b,cの3点で相関係数が−0.95を跨いでいるが、c点は(B)に示すようにインピーダンスの虚軸が320Hzを越えた+領域で跨いでいるのでカウントせず、RC並列回路は2段と判断する。
【0073】
これらにより、回路定数推定演算部c4で推定演算される各回路定数の推定精度の向上が図れる。
【0074】
十分な測定環境下で電圧・電流データを取得できれば、インピーダンスの特徴を抽出することは可能である。しかし、たとえば電池を自動車に搭載した状態では、ノイズなどの影響で必ずしも良好な測定結果が得られるとは限らない。
【0075】
その場合には、複数の等価回路モデル候補を選択した上で並列に定数推定演算を行い、対象インピーダンスデータとの誤差が最小なものを最終的な出力としてもよい。
【0076】
さらに、繰り返し演算中において、随時対象インピーダンスデータとの誤差を算出し、基準値を満たさないもの、または、明らかに収束していないものについては、演算を打ち切って他のモデルを選択するという機能を設けてもよい。
【0077】
なお、本発明で用いる電力/インピーダンス演算部24は、半導体集積回路化技術を用いることにより超小型にパッケージ化でき、たとえば自動車に搭載される電池モジュールの各電池セルに取り付ける場合にもきわめて微小のスペースが確保できればよい。
【0078】
また、上記各実施例では、自動車に搭載される電池モジュールの各電池セルの内部インピーダンスを測定する例について説明したが、自動車以外の発電プラント、家庭用蓄電システムなどに設けられる蓄電池の監視にも有効である。
【0079】
以上説明したように、本発明の電池インピーダンス測定装置によれば、電池を実際に使用している自動車や発電プラント、家庭用蓄電システムなどのオンサイトにおいて、電池の内部インピーダンス特性を測定し、電池状態をリアルタイムで監視できる電池監視装置が実現できる。
【符号の説明】
【0080】
24c 等価回路パラメータ測定部
c1 波形データ記憶部
c2 DFT演算部
c3 インピーダンスデータ記憶部
c4 回路定数推定演算部
c5 不変回路定数記憶部
c6 回路定数記憶部
c7 インピーダンス推定演算部
c8 解析条件記憶部
c9 回路モデル選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の電池セルが直列に接続され、実負荷を高周波域を含む負荷変動を生じる状態で駆動する電池モジュールをリアルタイムで測定監視する電池監視装置に用いられるインピーダンス測定装置であって、
前記各セルの電圧波形データおよび電流波形データを離散フーリエ変換し、電圧波形データの離散フーリエ変換結果を電流波形データの離散フーリエ変換結果で除算することによりインピーダンスを演算するDFT演算部と、
このDFT演算部で演算されたインピーダンスに基づき、予め指定された等価回路モデルにおいて定数フィッティングを行う回路定数推定演算部と、
任意の周波数におけるインピーダンスを出力するインピーダンス推定演算部、
とで構成されていることを特徴とする電池インピーダンス測定装置。
【請求項2】
複数個の電池セルが直列に接続され、実負荷を高周波域を含む負荷変動を生じる状態で駆動する電池モジュールをリアルタイムで測定監視する電池監視装置に用いられるインピーダンス測定装置であって、
前記各セルの電圧波形データおよび電流波形データを離散フーリエ変換し、電圧波形データの離散フーリエ変換結果を電流波形データの離散フーリエ変換結果で除算することによりインピーダンスを演算するDFT演算部と、
このDFT演算部で演算されたインピーダンスデータの特徴に基づいて最適な等価回路モデルを選択する回路モデル選択部と、
この回路モデル選択部で選択された等価回路モデルにおいて定数フィッティングを行う回路定数推定演算部、
とで構成されていることを特徴とする電池インピーダンス測定装置。
【請求項3】
前記等価回路モデルに不変回路定数を与えることによりインピーダンス推定を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電池インピーダンス測定装置。
【請求項4】
前記定数推定時の等価回路モデルには不変回路定数を含まず、インピーダンス推定時にのみ不変回路定数を使用することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電池インピーダンス測定装置。
【請求項5】
前記回路モデル選択部は、等価回路モデルの具体的な構成について、以下の手順で順次決定することを特徴とする請求項2に記載の電池インピーダンス測定装置。
1)ワールブルグ素子の有無
2)LR並列回路の有無
3)RC並列回路の段数

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−29412(P2013−29412A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165410(P2011−165410)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】