説明

電池システムおよび電池の評価方法

【課題】二次電池10の特性を評価する簡単な構成の電池システム1を提供する。
【解決手段】電池システム1は、正極11と負極15と電解質12、14とを有する二次電池10と、初期抵抗値および評価周波数を含む予め測定された二次電池10の固有情報を記憶する記憶部23と、記憶部23に記憶されている評価周波数の交流信号を二次電池10に印加する電源部20と、交流信号から二次電池10の固体電解質界面被膜17のインピーダンスを測定する測定部22と、前記インピーダンスおよび固有情報から二次電池10の劣化度または充電深度の少なくともいずれかを算出する算出部24と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次電池を有する電池システムおよび二次電池の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、電動工具および電気自動車等に二次電池が用いられている。二次電池の中でリチウムイオン電池は、リチウムのイオン化傾向が大きいことから、動作電圧が高く高出力を得やすく、加えて、高エネルギー密度の特徴を有する。さらに、定置用電源や非常用電源などの大型電源への応用も期待されている。
【0003】
ここで、リチウムイオン電池等の二次電池の特性を測定する方法として、交流インピーダンス測定法が知られている。例えば特開2009−97878号公報には、交流インピーダンス法により取得した電池のコールコールプロットを、等価回路モデルを用いて解析する測定方法が開示されている。
【0004】
一方、特開平8−43507号公報には、インピーダンスと電池容量との相関性が高い周波数を特定することで、簡易的に、測定した電池の劣化状態または容量を推定する方法が開示されている。
【0005】
しかし、二次電池の特性メカニズムは複雑であり、より精度の高い測定方法、特に理論に裏付けられた測定方法が求められていた。さらに、交流インピーダンス法で正確な測定を行うためには周波数掃引可能な電源および特殊な解析装置が必要であった。このため、ユーザーが電池の使用中に、その電池の劣化度または充電深度を正確に知ることは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−97878号公報
【特許文献2】特開平8−43507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、二次電池の特性を評価する簡単な構成の電池システムおよび簡単な構成による電池の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の電池システムは、正極と負極と電解質とを有する二次電池と、前記二次電池と同じ仕様の一の二次電池の初期抵抗値および評価周波数を含む固有情報を記憶する記憶部と、前記二次電池に、前記記憶部に記憶されている前記評価周波数の交流信号を印加する電源部と、前記交流信号により、固体電解質界面被膜にもとづくインピーダンスを測定する測定部と、前記インピーダンスおよび前記固有情報から前記二次電池の劣化度または充電深度の少なくともいずれかを算出する算出部と、を具備する。
【0009】
また、別の実施形態の二次電池の評価方法は、複数の二次電池を製造する製造工程と、正極と負極と固体電解質界面被膜とを考慮した等価回路モデルを用いて、一の前記二次電池のコールコールプロット解析を行い、初期抵抗値および評価周波数を含む固有情報を取得する工程と、それぞれの前記二次電池に、前記評価周波数の交流信号を印加し、前記固体電解質界面被膜にもとづくインピーダンスを測定する工程と、前記固有情報および前記インピーダンスから、前記それぞれの二次電池の劣化度または充電深度を算出する工程と、を具備する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態は、二次電池の特性を評価する簡単な構成の電池システムおよび簡単な構成による電池の評価方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態の電池システムの構成を説明するための構成図である。
【図2】リチウムイオン電池の内部インピーダンスを記述するための公知の等価回路モデルである。
【図3】図2に示した等価回路モデルによるコールコールプロットへのフィッティング結果を示す図である。
【図4】リチウムイオン電池の内部インピーダンスを記述するための実施形態の電池システムの等価回路モデルである。
【図5】図4に示した実施形態の等価回路モデルによるコールコールプロットへのフィッティング結果を示す図である。
【図6】図4に示した実施形態の等価回路モデルによるコールコールプロットの解析結果を示す図である。
【図7】実施形態の電池の評価方法によるサイクル試験結果を示す図である。
【図8】実施形態の電池の評価方法によるサイクル試験結果を示す図である。
【図9】実施形態の電池の評価方法によるサイクル試験結果を示す図である。
【図10】実施形態の電池の評価方法によるサイクル試験結果を示す図である。
【図11】実施形態の電池の評価方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】第2実施形態の電池システムの構成を説明するための構成図である。
【図13】第2実施形態の電池システムの効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
<電池システムの構成>
図1に示すように、第1実施形態の電池システム1は、リチウムイオン二次電池(以下、「電池」という)10と、電源部20と、制御部21と、を具備する。電池10は、リチウムイオンを吸蔵/放出する正極11と、電解質12、14と、セパレータ13と、リチウムイオンを吸蔵/放出する負極15と、からなる単位セル19を有する。なお、電池10は複数の単位セル19を有していてもよいし、複数の単位セルからなるユニットを複数個有していてもよい。
【0013】
電池10は、リチウムイオン電池であり、正極11は例えばリチウムコバルト酸化物等を含有しており、負極15は例えば炭素材料等を含有しており、セパレータ13は例えばポリオレフィン等からなる。そして電解質12、14は例えばLiPF6を環状および鎖状カーボネートに溶解した電解質である。なお、多孔質等からなるセパレータの内部に電解質が充填された構造であってもよい。このため、以下、電解質12、14と、セパレータ13とを、あわせた構造を電解質16ということがある。また、後述するように、固体電解質界面被膜17は、電池の副反応により形成され、リチウムイオンは通すが電子は通さない。
【0014】
なお、図1に示した電池10は模式図であり、その単位セル19の構造は公知の各種の構造、例えば、巻回型セル、コイン型セルまたはラミネートセル等でもよい。さらに、正極11、負極15およびセパレータ13等の材料も上記記載の材料に限定されるものではなく、公知の各種材料を用いることができる。
【0015】
制御部21は、記憶部23と、測定部22と、算出部24と、表示部25と、を有する。後述するように、記憶部23は初期抵抗値および評価周波数を含む予め測定された電池10と同じ仕様の電池の固有情報を記憶する。すなわち、同じ仕様の複数の電池10の記憶部23は出荷時に同じ固有情報を記憶している。電源部20は記憶部23に記憶されている評価周波数の交流信号を電池10に印加する。測定部22は電源部20が電池10に印加した交流信号から電池10のインピーダンスを測定する。算出部24は、電池10のインピーダンスおよび固有情報から電池10の劣化度または充電深度の少なくともいずれかを算出する。
【0016】
表示部25は、算出部24の算出結果を使用者が認識できる形態で表示する。なお、電池システム1が他のシステムの一部として使用されている場合等において、他のシステムの表示機能等を用いて使用者が算出結果を認識できれば、表示部25は不要である。
【0017】
<電池システムの動作>
ここで、電池の交流インピーダンス法について説明する。交流インピーダンス法では、電池に対し直流電圧に微小な交流電圧を重畳させた電圧を印加し、応答特性からインピーダンスを測定する。交流インピーダンス測定法は、印加する交流電圧が小さいので、測定対象の二次電池の状態を変化させることなくインピーダンス特性を測定できる。
【0018】
直流電圧成分は、測定する電池の電圧程度に設定される。また、重畳する交流電圧成分は、電池の特性に影響を与えない程度の電圧に設定される。なお重畳する交流電圧成分は、電池の特性に影響を与えない程度の電圧に設定される交流電流を用いても良い。
【0019】
交流インピーダンス測定法では、交流電圧の周波数を高い周波数から低い周波数へ掃引し、所定の周波数間隔で、各周波数における電池のインピーダンスを測定する。
【0020】
なお、以下、コールコールプロットを作成するための交流インピーダンス測定は以下の条件にて行った。
周波数測定範囲:1MHz〜1mHz
電圧振幅:5mV
温度:25℃
【0021】
測定されたインピーダンスの周波数特性は、実数軸を抵抗成分、虚数軸をリアクタンス成分(通常は容量性)とする複素平面図に表すことができる。測定周波数を高周波から低周波に変化させていくと、時計回りに半円含むインピーダンスの軌跡であるコールコールプロットが得られる。
【0022】
コールコールプロットをもとに電池の特性を理論的に解析するためには、等価回路モデルをもとにしたフィッティング処理が行われる。図2に示す一般的な等価回路モデルAは、電池の構造に対応する回路31と、正極11に対応する回路32と、負極15に対応する回路33と、から構成されている。
【0023】
すなわち、電池内部に対向する電極(正極、負極)が存在し、それぞれで電気化学反応が進行する。そして、反応場とインピーダンス測定システムとの間にインダクタンス成分が考えられる。加えて、等価回路モデルAは、過去の知見から電極合剤内の活物質粒子の粒径分布を考慮しており、比較的精度高い解析が可能である。
【0024】
すなわち、図2に示す等価回路モデルAは、回路31(インダクタンスL0と抵抗R0)と、溶液抵抗Rsと、回路32(容量CPE1と抵抗R1と拡散抵抗Zw1)と、回路33(容量CPE2と抵抗R2/xと抵抗R2(1−x)と拡散抵抗ZW2、ZW3)と、からなる。
【0025】
そして、シミュレータに等価回路モデルと各パラメータの初期値を入力し、計算により求められたコールコールプロットが測定データに一致するように各パラメータを調整しながら繰り返し計算するフィッティング処理が行われる。
【0026】
図2に示した等価回路モデルAでは、正極11と負極15の2つの電極が存在するため、コールコールプロットは2つの半円が重なった軌跡を描くものとなる。
【0027】
図3に、等価回路モデルAを用いた、コールコールプロットに対するフィッティング結果を示す。すなわち、等価回路モデルAを用いることで、インダクタンス領域(領域A)と、電荷移動反応領域(領域B)と、では比較的よいフィッティング結果が得られているように見える。しかし、イオン拡散領域(領域C)ではフィッティング結果はよいとは言えない。また精査すると、領域Bも十分な結果が得られているとは言えなかった。
【0028】
これに対して、発明者は、より電池の電気化学的構成に近い等価回路モデルBを考案し、コールコールプロットに対するフィッティングを試みた。図4は、固体電解質界面被膜(Solid Electrolyte Interphase、以下「SEI」という)を考慮した等価回路モデルBである。すなわち等価回路モデルBは、等価回路モデルAにSEIを考慮した回路33(容量CPE3と抵抗R3)が付加されている。
【0029】
固体電解質界面被膜(SEI)は、リチウムイオン二次電池10の副反応により電極表面に形成される膜である。すなわち、SEIは、電解質/電解液の分解反応および電解質/電解液とリチウムイオンとの反応によって電極を覆うように形成される。SEIはリチウムイオンに対して導電性があるが、電子伝導性はない。SEIは、電極と電解質とが過剰に反応することを防止する効果を有することから、電池寿命に大きな影響を及ぼす。
【0030】
図5に、等価回路モデルBを用いた、コールコールプロットに対するフィッティング結果を示す。すなわち、等価回路モデルBを用いることで、イオン拡散領域(領域C)においても良いフィッティング結果が得られた。さらに、インダクタンス領域(領域A)と、電荷移動反応領域(領域B)と、でも、より良いフィッティング結果が得られた。
【0031】
電池の重要な構成要素であるSEIが、等価回路モデルAでは正極および負極の一部としていたため、コールコールプロットは領域Bでは2つの半円が重なった軌跡として解析されていた。これに対して、図6に示すように、等価回路モデルBを用いた解析では、3つの半円に分解された。そして、この3つの半円は、それぞれの時定数、充電状態に対する電荷移動反応およびイオン拡散に関するパラメータ変化、から判断して、低周波側が正極成分であり、中央が負極成分であり、そして高周波側がSEI成分であった。
【0032】
図7および図8に、正極、負極およびSEIによるインピーダンスの周波数依存性を示す。インピーダンスの絶対値は低周波になるほど大きい。一方、SEIにもとづくインピーダンスは高周波になるほど大きく、100Hz以上、特に500Hz以上ではインピーダンスはSEIのみにもとづくと見なしたり、SEIのみにもとづく成分に容易に分離したりできた。
【0033】
等価回路モデルBを用いた解析は、正極、負極およびSEIによるインピーダンス、いわゆる合成インピーダンスから、SEIのみにもとづくインピーダンスを取得することができるため、電池の特性改善に大きく寄与することが期待される。
【0034】
例えば、電池の劣化度の相違による正極、負極およびSEIによるインピーダンスを測定した。
電池の劣化度を変えるためには、サイクル試験を行い、初期、100サイクル、300サイクル、550サイクルにおいてインピーダンスを測定しコールコールプロット解析を行った。サイクル試験は初期容量の100%相当の電圧まで充電し、初期容量の0%の電圧になるまで放電するのを1サイクルとした。
【0035】
図9に示すように、サイクル回数の増加、すなわち、電池の劣化による合成インピーダンスの絶対値の変化は低周波側の方が高周波側よりも大きい。しかし、図10に示すように、変化割合は高周波側が大きい。すでに説明したように高周波側の100Hz以上、特に500Hz以上はSEIのみにもとづくインピーダンスR(SEI)を示している。なお、10kHz以上は電解質にもとづくインピーダンスが支配的となっている。
【0036】
すなわち、500Hz以上10kHz未満の評価周波数により取得される、SEIのみにもとづくインピーダンスR(SEI)は、電池の劣化度を算出するのに適していることが判明した。
【0037】
また、電池の初期抵抗値(公称電池容量)が判明していれば、測定時の電池の最大容量に対する充電されている容量を示す充電深度も、SEIにもとづくインピーダンスR(SEI)から算出可能である。例えば、公称電池容量の1/5レートの電流値で、測定時の電池電圧から電池の定格電圧(電池容量50%時の電圧)までに至る時間から外挿することで充電深度は算出できる。
【0038】
なお、図10においてインピーダンスR(SEI)が、100サイクル後に低下しているのは、界面に生成した膜にひび割れ等が発生したため、表面積に対するSEIの厚さが減少したためと考えられる。
【0039】
以上の説明のように、等価回路モデルBを用いた解析は、電池の劣化による正極、負極およびSEIの特性変化を分離して把握することが可能である。このため、正極、負極またはSEIのいずれかの劣化が、電池の劣化の原因であることが判明した場合には、劣化した構成要素だけを交換することにより、電池の再生が可能となる。すなわち劣化していない構成要素は再利用が可能となるため、省資源化が可能となる。
【0040】
もちろん、電池の開発段階においても、正極、負極およびSEIの特性変化を分離して把握することが有益なのは明らかである。
【0041】
ここで、コールコールプロットによる解析を行うためには、周波数掃引可能な電源を用いた評価システムが必要であり解析も容易ではない。
【0042】
そこで、発明者は、同一仕様の電池であれば、電池システムの生産時に少なくとも1個の電池についてのみコールコールプロットによる解析を行い、得られた電池の固有情報を用いることにより、電池システムの出荷後に、簡単な構成および簡単な方法で、それぞれの電池の劣化度等を算出することを考案し、電池システム1を完成するに至った。
【0043】
電池10の固有情報としては、初期抵抗値および評価周波数である。ここで、評価周波数とは、交流信号の周波数であり、例えばSEIにもとづくインピーダンスR(SEI)を測定するための500Hz以上10kHz未満の周波数である。
【0044】
ここで、図11に示すフローチャートを用いて、電池10の評価方法について説明する。
<ステップS10>
所定の仕様の電池10を有する電池システム1が大量生産される。なお、この段階では、記憶部23には固有情報は記憶されていない。
【0045】
<ステップS11>
大量生産された複数の電池の中から少なくとも1個の電池が選択される。選択される電池の数は生産数にもよるが複数個であることが好ましく、生産中の変動を考慮すると初期ロットと最終ロットとからも、それぞれ選択されることが特に好ましい。
【0046】
正極と負極とSEIを考慮した等価回路モデルBを用いて、選択された電池のコールコールプロット解析を行い、初期抵抗値およびSEIにもとづくインピーダンスR(SEI)を評価するための評価周波数を含む固有情報が取得される。評価周波数は、電池の仕様により異なるが、100Hz以上、好ましくは500Hz以上の容量性リアクタンスを示す周波数であれば正極/負極における電荷移動や拡散の影響を比較的うけずに測定することが可能である。評価周波数の上限は、電解質(電解液)の抵抗が支配的となる、例えば10kHz未満である。
【0047】
<ステップS12>
それぞれの電池システム1の記憶部23に固有情報が記憶される。そして出荷される。すなわち、ここまでの工程は製造時の工程である。
【0048】
<ステップS13>
出荷後に、電池10の劣化度または充電深度の少なくともいずれかを測定するときには、電池システム1の記憶部23に記憶されている評価周波数の交流信号が電源部20により印加され、測定部22により、そのインピーダンスが測定される。
【0049】
<ステップS14>
固有情報および測定されたインピーダンスから、電池10の劣化度または充電深度の少なくともいずれかが算出部24により算出される。
算出部が算出した結果は、表示部25により認識される。
【0050】
以上の説明のように、電池システム1による電池の評価方法は簡単な構成であるが、精度の高い測定方法であり、特に理論に裏付けられた測定方法である。
【0051】
さらに、電池システム1の変形例として、正極11、負極15またはSEI(17)のそれぞれの劣化度を簡単に算出することも可能である。それぞれの劣化度等を知るためには、電池毎に周波数掃引を行い、そのコールコールプロットの解析を行う必要はなく、それぞれの状態を示している特定の周波数のインピーダンスを測定すれば良い。
【0052】
すなわち固体電解質界面被膜の特性変化は、すでに説明した500Hz以上10kHz未満の、例えば1kHzの第1の周波数(評価周波数)fAの交流信号のインピーダンスから電解質16のみの抵抗とほぼ等しい10kHz以上の周波数の値を引いて算出することができる。負極/SEI(17)合成抵抗の特性変化は第2の周波数fBの交流信号のインピーダンスから、そして正極/負極15/SEI(17)合成抵抗の特性変化は第3の周波数fCの交流信号のインピーダンスから電解質16の抵抗を引くことで算出できる。
【0053】
そして、電解質抵抗(10kHz)、SEI抵抗(1kHz)、負極/SEI合成抵抗(100Hz)、正極11/負極15/SEI合成抵抗(1Hz)を測定するだけで、劣化の進行に伴う電池構成要素の抵抗値変化を測定可能である。このため、周波数掃引可能な電源は必要なく、比較的安価な周波数変換回路を備えた電源により測定可能である。
【0054】
すなわち変形例の電池システムでは、電源部20が、記憶部23に記憶されている評価周波数である第1の周波数fAの交流信号と、第1の周波数fAの10倍の第2の周波数の交流信号と、第2の周波数fBの10倍の第3の周波数fCの交流信号と、を電池10に印加し、算出部24が、第1の周波数の交流信号のインピーダンスから固体電解質界面被膜17の特性変化を算出し、第2の周波数の交流信号のインピーダンスから負極15の特性変化を算出し、第3の周波数の交流信号のインピーダンスから正極11の特性変化を算出することができる。
【0055】
なお、上記説明のように、第1の周波数と第2の周波数と第3の周波数とは、所定の比例係数を乗算した関係にある。例えば、上記の例では、第1の周波数fA:第2の周波数fB:第3の周波数fC=1:10:100である。すなわち、第1の周波数を基準にした比例係数は、10および100である。
【0056】
このため、いずれかの周波数、例えば第1の周波数を取得し、その周波数をもとに所定の比例係数を用いて他の周波数を算出することが可能である。言い換えれば、記憶部には、固有情報として。第1の周波数と比例係数とが記憶されていてもよい。なお、比例係数は、電池の初期容量(使用開始時の容量)が変化しても、ほぼ一定である。例えば、公称容量(初期容量)、0.83Ahの低容量電池と、3.6Ahの大容量電池でも、比例係数は、ほぼ一定である。すなわち、比例係数は、電池の容量/出力に依存しない。
【0057】
<第2実施形態>
次に第2実施形態の電池システム1Aについて説明する。電池システム1Aは電池システム1と類似しているので同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0058】
図11に示すように、電池システム1Aは電池10の温度を冷却する冷却部60および温度測定部70を具備する。そして冷却した状態で電池10のインピーダンス測定を行う。冷却温度は0℃以下が好ましく、特に好ましくは−20℃以下である。冷却温度の下限は特に規定されないが電池仕様上の下限である、例えば−30℃である。
【0059】
図12に、25℃、0℃、-20℃における未使用の電池10のインピーダンス測定結果(コールコールプロット)を示す。未使用すなわち使用開始時の電池10は、使用し劣化した電池に比べると、SEI抵抗は小さい。このため、図12に示すように、25℃においては30Hzを頂点とする半円が、0℃においては、30Hz、2Hzを頂点とする2つの半円、-20℃においては250Hz、4Hz、0.2Hzを頂点とする3つの半円が観察された。
【0060】
すでに説明したように、コールコールプロットの半円が示しているのは、低周波側が正極成分であり、中央が負極成分であり、そして高周波側がSEI成分である。なお、常温(25℃)のように見かけ上、1個の半円であっても、解析により、正極/負極/SEIの各成分への分離は可能である。
【0061】
しかし、図12に示す結果は、低温では、常温(25℃)よりも、各成分が分離しやすいことを示している。これは、正極と負極とSEIとでは、それぞれの電荷移動反応の活性化エネルギーが異なるためと考えられる。
【0062】
すなわち、電池10は低温の方が、各成分が分離しやすいため、コールコールプロットから、より精度の高い、SEI成分の抽出が可能である。
【0063】
また、図12に示す結果は、SEIにもとづくインピーダンスを取得するための評価周波数が温度により変化することを示している。すなわち、算出部が、より精度の高い結果を得るためには、温度依存性の情報が必要である。
【0064】
このため、電池システム1Aでは、予め固有情報として温度依存性の情報を記憶部に記憶している。そして算出部は温度依存性情報を用いて、補正処理を行う。さらに冷却部60により電池10を冷却することにより、より精度の高い劣化度または充電深度を算出することができる。
【0065】
なお、電池システム1が他のシステムの一部として使用されている場合等において、他のシステムが電池10の近傍の温度が測定する温度測定機能を有していれば、温度測定部70は不要の場合もある。
【0066】
電池システム1Aおよび電池システム1Aによる評価方法は、電池システム1および電池システム1による評価方法と同様の効果を有し、さらに測定精度が高い。
【0067】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変、例えば、実施形態の構成要素の組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1、1A…電池システム
10…電池
11…正極
12、16…電解質
17…SEI
13…セパレータ
15…負極
19…単位セル
20…電源部
21…制御部
22…測定部
23…記憶部
24…算出部
25…表示部
60…冷却部
70…温度測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と電解質とを有する二次電池と、
前記二次電池と同じ仕様の一の二次電池の初期抵抗値および評価周波数を含む固有情報を記憶する記憶部と、
前記二次電池に、前記記憶部に記憶されている前記評価周波数の交流信号を印加する電源部と、
前記交流信号により、固体電解質界面被膜にもとづくインピーダンスを測定する測定部と、
前記インピーダンスおよび前記固有情報から前記二次電池の劣化度または充電深度の少なくともいずれかを算出する算出部と、を具備することを特徴とする電池システム。
【請求項2】
前記評価周波数が、100Hz以上10kHz未満であることを特徴とする請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
正極と負極と固体電解質界面被膜とを考慮した等価回路モデルを用いて、前記一の二次電池のコールコールプロット解析を行い、前記固有情報が取得されることを特徴とする請求項2に記載の電池システム。
【請求項4】
前記電源部が、前記記憶部に記憶されている、前記評価周波数である第1の周波数の交流信号、第2の周波数の交流信号および第3の周波数の交流信号を前記二次電池に印加し、
前記算出部が、前記第1の周波数の交流信号のインピーダンスから前記固体電解質界面被膜の特性変化を算出し、前記第2の周波数の交流信号のインピーダンスから前記負極の特性変化を算出し、前記第3の周波数の交流信号のインピーダンスから前記正極の特性変化を算出することを特徴とする請求項3に記載の電池システム。
【請求項5】
前記第1の周波数の周波数をもとに、所定の比例係数を用いて、第2の周波数および第3の周波数を算出することを特徴とする請求項4に記載の電池システム。
【請求項6】
前記二次電池の温度を冷却する冷却部、および、前記二次電池の温度を測定する温度測定部を具備することを特徴とする請求項5に記載の電池システム。
【請求項7】
複数の二次電池を製造する製造工程と、
正極と負極と固体電解質界面被膜とを考慮した等価回路モデルを用いて、一の前記二次電池のコールコールプロット解析を行い、初期抵抗値および評価周波数を含む固有情報を取得する工程と、
前記固有情報を、それぞれの前記二次電池の記憶部に記憶する工程と、
それぞれの前記二次電池に、前記評価周波数の交流信号を印加し、固体電解質界面被膜にもとづくインピーダンスを測定する工程と、
前記固有情報および前記インピーダンスから、前記それぞれの二次電池の劣化度または充電深度を算出する工程と、を具備することを特徴とする二次電池の評価方法。
【請求項8】
前記評価周波数が、100Hz以上10kHz未満であることを特徴とする請求項7に記載の二次電池の評価方法。
【請求項9】
前記評価周波数である第1の周波数の交流信号、第2の周波数の交流信号および第3の周波数の交流信号を前記二次電池に印加し、
前記第1の周波数のインピーダンスから前記固体電解質界面被膜の特性変化を算出し、前記第2の周波数のインピーダンスから前記負極の特性変化を算出し、前記第3の周波数のインピーダンスから前記正極の特性変化を算出することを特徴とする請求項8に記載の二次電池の評価方法。
【請求項10】
前記第1の周波数、前記第2の周波数、または前記第3の周波数のいずれかを取得し、その周波数をもとに所定の比例係数を用いて他の周波数を算出することを特徴とする請求項9に記載の二次電池の評価方法。
【請求項11】
0℃以下で前記インピーダンスを測定することを特徴とする請求項10に記載の二次電池の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−88148(P2013−88148A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226143(P2011−226143)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】