説明

電池パックおよび電池カバー

【課題】
電池パックに含まれる保護回路での自己消費により、電池パック未使用時に電池電圧が低下することを抑制する。
【解決手段】
複数の電池セル2a〜2cと、電池セル2a〜2c毎の電圧異常および過電流等を監視する保護回路(IC13)を具備し、電動工具および充電器と電気的に接続可能な正極端子3aまたは負極端子3bと、その他の端子(4a、4b)を有する電池パック1において、電池パック1を電動工具に非装着状態の際には、特定の端子間(負極端子3bとLD端子4a)を短絡することで保護回路内の消費電力が大きなICへの電源経路を遮断するようにした。このため、保護回路を改良すると共に、非導電材料でできた電池カバー6に導電体7を設け、電池カバー6装着時に導電体7が特定の端子間(3b、4a)を短絡するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コードレス電動工具等に用いられる電池パックに関し、特に、リチウムイオン電池等の二次電池を使用する電池パックにおいて、長期保管による保護回路での自己消費を低減させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コードレスの電動工具は、電源コードがないことから使い勝手が良く、電源が無い場所でも使えるため広く使用されている。コードレスの電動工具には、主電源となる充電式の電池が本体に内蔵されるものもあれば、本体に着脱可能に取付けられるものもある。電動工具の使用時間が長くなる場合においては、複数の電池パックを交換しながら使うことが多い。近年、電動工具においてコードレス電動工具を駆動する駆動電源として、高容量化、軽量化が可能なリチウムイオン二次電池が広く使用されている。例えば特許文献1のような従来技術における電池パックには、電動工具と接続するための端子(電極)が設けられ、電池パックを使用しないときには着脱可能式の電池カバーが取り付けられる。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、過負荷、過充電または過放電を行うと、電池の劣化が起こったり寿命が早まったりするので、電池パック内に専用の保護ICもしくはマイコンよって過放電・過電流を監視することが広く行われる。この場合、電池パック内の専用の保護ICもしくはマイコンは、電池セルによって常時駆動されるため電力を消費しているが、近年では改良が進みより低消費化を図ったものが生産されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−212054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池において、電池の性能を良好に維持するため、電圧異常および過電流等を保護する回路が必要不可欠である。しかし保護回路にはICやマイコンに加え、回路内に構成されている抵抗より常時電力を消費してしまう。その消費対策を何ら施さないと、長期保管により放置された電池は保護回路での自己消費により電圧が低下し、電池の劣化や充電器によっては充電不可能となってしまう恐れがある。
【0006】
本発明の目的は、電池パックに内蔵される保護回路での自己消費電力により電池電圧が低下することを抑制できる電池パックおよび電池カバーを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、保管時など電池パックを使用していないときに、消費電力が大きなICやマイコンへの電源経路を遮断し保護回路全体の消費を低減させるようにした電池パックおよび電池カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、電池パックに内蔵される保護回路内のICやマイコンの電源経路に、ON/OFF可能な半導体素子を設け、通常ON状態で保護回路を機能させ、保管時などで保護回路の機能を必要としない場合にはICやマイコンをOFF状態に移行させることで実現できる。OFF状態への移行は、保護回路に備えられた外部接続可能な端子と、正極端子または負極端子を短絡接続することにより行う。短絡接続を行う手段としては、様々な方法が考えられるが、一つの方法として、装着時に所定の端子間が導通(短絡)するように電池カバーの端子差込部分に導電体を設けることで達成できる。この短絡手段を有する電池カバーを電池パックに装着することにより、電池パックの保護回路内にあるICやマイコンの電源経路を遮断することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電池パックを使用しない場合に電池カバーを装着するようにすれば、保護回路での自己消費を抑えて電池電圧が低下することを抑制できるので、電池の劣化や充電不可となってしまうことを大幅に回避することができる。また電池パックを常時使用する場合には電池カバーを外すだけで、直ちに電池パックが使用可能な状態となるので、従来の電池パックと同様の使い勝手を維持できる。
【0010】
また、電池パックを使わない際には電池カバーを装着して外部接続端子全体を覆うことで、異物等の混入により正極負極端子間が短絡することを防止し、保管時の安全性をさらに向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る電池パックおよび電池カバーの構造を示す分解斜視図である。
【図2】従来の電池パック保護回路の回路図である。
【図3】本発明の実施例に係る電池パック保護回路図である。
【図4】本発明の実施例に係る電池パック保護回路図(抵抗定数の例)である。
【図5】本発明の第2の実施例に係る電池パック保護回路図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図を参照して詳細に説明する。図1は本発明の実施例に係る電池パックおよび電池カバーの構造を示す分解斜視図である。
【0013】
電池パックは、上部ハウジング8と下部ハウジング9の内部に複数の電池セル2a、2b、2cよりなる電池組と、電動工具や充電器の端子と電気的に接触がなされる正極端子3a、負極端子3b、および電池セル毎の電圧異常および過電流等を監視し、異常時に保護回路から信号を出力するLD端子4aと、その他の端子4bを有する保護基板5が収容される。上部ハウジング8には、装着される電動工具(図示せず)の取付部の内壁と対応し、装着のための位置決めをするための複数のリブ8a、8bが設けられる。下部ハウジング9の両側面には、電池パックを電動工具から取り外す際に押すリリースボタン10が設けられる。リリースボタン10の上側には係止爪11が設けられ、係止爪11は電動工具の電池収容室(図示せず)の内壁に形成される凹部と掛止することにより電池パック1を図示しない電動工具に保持する。上部ハウジング8と下部ハウジング9のそれぞれは非導電体の材料にて、例えばプラスチック等の合成樹脂の一体成形により製造され、2本のネジ12によって固定される。電池パックが電動工具の電池パックの収容部の突き当て部(図示せず)に当接するまで挿入されると、電池パックの上部ハウジング8に形成された複数のスリット8cを介して図示しない接続端子が電池パック側に設けられる端子群に挿入され、接続される。
【0014】
電池セル2a、2bは横方向に寝せて並列に配置され、電池セル2cは上下方向に立てて配置される。電池セル2a、2bの上側には、保護基板5が設けられる。保護基板5は複数の端子3a、3b、4a、4bが固定される。保護基板5には更に、電圧異常および過電流等を保護するための保護回路を構成する電子素子が搭載される。尚、用いられる電池セルの本数や電池セルの収納位置、配置方向等は任意であり、図示した以外の収容方法であっても良い。
【0015】
電池パックの端子3a、3b、4a、4bの一部を外部に露出させるスリット8c部分は、外部から装着可能な電池カバー6が設けられる。電池カバー6は電池パックを、図示しない電動工具や充電器に装着しない際に電極部を保護するためのものであり、プラスチック等の非導電性材料の一体成形で構成される。電池カバー6は上部ハウジング8のスリット8c付近の形状と対応するように構成されるもので、湾曲させた曲面部6cが形成され、左右の両側には作業者が装着及び取り外しをし易いように取っ手部6bが形成される。また、電池カバー6の後方側には取付時の位置あわせのためであって、リブ8bと対応する形状の切り欠き部6aが形成される。
【0016】
本実施例では、非導電性材料からなる電池カバー6の一部に、負極端子3bとLD端子4aを短絡接続するための導電体7を設け、電池カバー6を電池パックに装着した時に負極端子3bとLD端子4aが接続されるような構造とした。導電体7は、保護回路を駆動させる電源経路を遮断する手段となるものであり、電池カバー6から垂直方向に延びる2つの平板状の部分である垂直リブ7aが形成される。垂直リブ7aは、電動工具側に設けられる接続端子と同等の形状とすると好ましい。この導電体7の垂直リブ7aが負極端子3bとLD端子4aに挿入されることにより電池カバー6は安定して保持され、併せて負極端子3bとLD端子4aが短絡される。本実施例では、複数の端子のうち、負極端子3bとLD端子4aが接続されるように構成したが、これは電池パック1内に設けるスイッチング素子(FET)の個数を最小限に抑え、コストを抑えるためである。尚、短絡させる端子はこれ以外であっても良く、例えば正極端子3aとLD端子4aを短絡させるように構成しても良い。電池カバー6から延びる垂直リブは、図では省略しているが、導電体7による垂直リブだけでなく、電池カバー6と一体成形で製造される非導電体の垂直リブを設けて、その他の端子4bもいずれかと嵌合させるように構成しても良い。
【0017】
図2は従来の電池パック保護回路の回路図である。電池セル2a〜2cが直列に接続され正極端子3aと負極端子3bを介して電動工具本体に接続されエネルギーを供給する。IC13は電池セルを監視するための制御用集積回路であって、各電池セル毎の電圧と電池に流れる負荷電流を監視し、所定の値と異なる異常な場合にはICの0V端子14から信号を出力し、LD端子4aを介して電動工具内のスイッチをOFFすることで電動工具のモータへのエネルギー供給を停止する。IC13にはVDD端子15から電池セル2aから2cの電源が入力され、常に駆動しているため常時電力を消費している。
【0018】
図3は本発明の実施例に係る電池パック保護回路図である。本実施例では電池セル2a〜2cのプラス側出力からIC13への電源経路の途中にFET16を設けて、FET16を制御することによりIC13のVDD端子15に入力される電力を遮断することができるように構成した。即ち、LD端子4aが負極信号のときにFET17をOFFにするようにして、FET16のゲート信号をゼロ電位にすることによりFET16のソース−ドレイン間をOFFするのでIC13への電源経路は遮断される。
【0019】
一方、LD端子4aがオープンのときはFET17がONとなるためFET16もONとなりIC13への電源経路が接続される。つまり、LD端子4aと負極端子3bを短絡接続することによりIC13への電源経路は遮断され、LD端子4aをオープン状態にすればIC13は通常駆動することが可能である。LD端子4aと負極端子3bを短絡接続する形態としては、様々な方法が考えられるが、本実施例では前述したように電池カバー6を電池パック1のスリット8c付近に装着することによりLD端子4aと負極端子3bが短絡されるように構成した。このように構成することで、作業者はIC13の動作を停止させるか否かを考慮することなく、電池パック1の電動工具への非装着時に電池カバー6を装着するだけで良いので、使い勝手が良いうえに確実に消費電力の低減を実現できる。
【0020】
発明者が実際の電池パック1において調査したところ、電池カバー装着時は保護回路全体の消費電力を大きく低減できた。例として図4の回路図での抵抗定数で計算した場合、保護回路全体の消費電流は電池総電圧が10.8Vで、電池カバー未装着時にIC13等で18.6uAの消費する状態において、電池カバーを装着した時にはFET16,17等の回路だけの消費電力1.1uAですんだので、消費電流を1/17に抑制することが可能となった。
【実施例2】
【0021】
次に図5を用いて本発明の第2の実施例を説明する。第1の実施例の電池カバー6では負極端子3bとLD端子4aを短絡させるように構成した。これに対して第2の実施例の電池カバー26では正極端子3aとLD端子4aを短絡させるように構成した。正極端子3aとLD端子4aを短絡させる場合には、LD端子4aとFET17との間にFET28を追加すればよい。FET28のドレイン端子をFET17のゲート端子及び電池パック21の正極端子3aに、FET28のゲート端子を抵抗を介してLD端子4aに、ソース端子をグランドに接続するようにFET28を配置する。電池カバー26の基本形状は図2で示した形状と導電体27を除いて同じ形状である。導電体27は第1の実施例と違って正極端子3aとLD端子4aを短絡させる形状とされる。正極端子3aとLD端子4aを接続すると、電池電圧がFET28のゲートに印加されオンする。その結果、FET17及びFET16がオフとなり、IC13のVDD端子15への電源経路が遮断される。尚、この構成においては、正極端子3aとLD端子4aを短絡させる電池カバー26の替わりに第1の実施例の電池カバー6を装着しても、IC13への電源経路が遮断されるため消費電力の低減を実現できる。
【0022】
以上のように第2の実施例においてもLD端子4aと正極端子3aを短絡接続することによりIC13への電源経路は遮断され、LD端子4aをオープン状態にすればIC13は通常駆動させることが可能である。但し、第2の実施例のようにLD端子4aと正極端子3aに接続する場合には、LD端子4aを負極端子3bに接続する場合よりFET28が1つ多く必要となるため、コスト面等を考慮すると負極端子3bとLD端子4aだけを短絡させる構成とした方が安く実現できる。
【0023】
以上説明したように、本発明は従来の異常信号端子(LD端子)を流用、且つ共有することで実現可能であり、電池電圧低下による電池劣化や充電不可となってしまう問題を大幅に解決した。さらに電池カバーで外部接続端子全体を覆うことで異物等の混入により正極負極端子間が短絡することを防止できるので、保管時の安全性を十分保つことが可能となった。
【符号の説明】
【0024】
1、21 電池パック
2a、2b、2c 電池セル
3a 正極端子
3b 負極端子
4a LD端子
4b その他の端子
5、25 保護基板
6、26 電池カバー
6a 切り欠き部
6b 取っ手部
6c 曲面部
7、27 導電体
7a (導電体の)垂直リブ
8 上部ハウジング
8a、8b リブ
8c スリット
9 下部ハウジング
10 リリースボタン
11 係止爪
12 ネジ
14 (ICの)0V端子
15 (ICの)VDD端子
16、17、18、28 FET

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルよりなる電池組と、前記電池セル毎の電圧異常および過電流等を監視する保護回路を具備し、電動工具および充電器と電気的に接続可能な正極端子または負極端子と、外部機器と電気的に接続可能な端子を有する電池パックにおいて、前記端子間を電池パック外部から短絡接続することで保護回路を駆動させる電源経路を遮断する手段を有することを特徴とする電池パック。
【請求項2】
前記端子は、前記電動工具及び前記充電器の少なくとも一方と電気的に接続され、前記電池セルの状態信号を出力する情報端子であることを特徴とする請求項1に記載の電池パック。
【請求項3】
前記電池パックの複数の外部接続端子を覆うように電池パックに装着される電池カバーにおいて、前記電池パックの前記外部接続端子間を短絡接続する導電体を有することを特徴とする電池カバー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−105726(P2013−105726A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251166(P2011−251166)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】