説明

電池パックおよび電池パックの機能を恒久的に停止させる方法

【課題】 電池ブロックと電気回路部とを切り離してセルのみを交換するという手口によって製造された不正な電池パックを、携帯型電子機器で使用できないようにする。
【解決手段】 電池パック内部で電池ブロックからの出力電圧値および放電電流値を定常的に測定し、当該出力電圧値の単位時間あたりの変化量を算出する。出力電圧値の単位時間あたりの変化量、もしくは放電電流値が所定の値を超えた場合に、当該電池パックの充放電の動作に関わる電気回路の動作を恒久的に停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型電子機器において使用される電池パックの不正な改造を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型電子機器の中でも代表的な存在であるノート型パーソナル・コンピュータ(以後ノートPC)は、CPUの動作周波数の上昇に伴い最大消費電力も年々増加する傾向にある。さらに、電池での長時間動作や小型軽量性などの要求にも応えねばならないことから、近年のノートPCで使用される電池は、従来のニッケル・カドミウム蓄電池から、よりエネルギー密度の高いリチウム・イオン蓄電池やニッケル水素蓄電池などが主流になっている。それと同時に、充放電状態を厳密に管理して電池パックを効率的に使用するために、電池パック自体がマイクロ・コンピュータを持ち、ノートPC本体と情報を交換しつつ充電および放電を制御するスマート・バッテリと呼ばれるバッテリ装置の仕組みが一般的なものになっている。スマート・バッテリは、米国インテル社および米国デュラセル社によって提唱されたSBS(Smart Battery System)と呼ばれる規格に準拠したバッテリ装置であり、同規格に準拠した電池パックは、インテリジェント電池とも呼ばれる。
【0003】
インテリジェント電池に対応した電池パックは、複数のセルを組み合わせ形成した電池ブロックと、CPU、電流測定回路、電圧測定回路および各種センサなどを基板に実装した電気回路部で構成されている。そして、CPUがコミュニケーション・ラインを介してノートPC本体のエンベデッド・コントローラと通信を行い、セルからノートPC本体への放電および充電を管理し、安定した放電を長時間にわたって継続することが可能である。また、ノートPCは、セルの充電容量の残量に応じて消費電力モードを変更したり、残量が少なくなった場合にディスプレイ上に警告を表示した上で動作を終了したりするということも可能になっている。
【0004】
リチウム・イオン電池は、過充電または過放電が行われた場合に、発火、発煙、破裂および特性の劣化などの危険性が高い。このため、インテリジェント電池の電気回路部は、セルの電圧が満充電電圧以上になると、充電電流を遮断して過充電を防止する。そしてセルの電圧が放電禁止電圧以下になると、放電電流を遮断して過放電を防止する。また、過電流が流れた時には電流を遮断してセルの劣化および電気回路の破損を防止する。そして、満充電電圧、放電禁止電圧もしくは過電流の状態が解消された後は、当該インテリジェント電池は再び正常に使用できる。
【0005】
また、ノートPCの動作に必要な電圧の確保、あるいは電池パックによる動作時間を長くするなどの要求から、電池ブロックは例えば2並列3直列などのような形で、複数のセルを組み合わされて構成することが一般的である。複数のセルを並列接続で使用する場合、電位差の異なるセルを2個以上並列に接続すると、両者間の電位差とセルの内部抵抗で決まる電池間電流が流れる。セルの内部抵抗は非常に小さいので、並列接続すると電池ブロック間に僅かな電位差があったとしても大きな電池間電流がセルに流れて、回路素子の焼損やセルの劣化などを招く。
【0006】
満充電電圧、放電禁止電圧、電位差などのような物理的特性が、セルの種類によって大きく異なることは言うまでもない。それどころか、同一種類・同一型式のセルであっても、製造ロットが別であれば物理的特性が異なり、さらに同一ロットであってもさらに厳密に条件を管理しないと並列接続はできない。したがって、複数のセルを組み合わせて1つの電池ブロックを形成するときには、各セルの充放電特性を厳密に管理して慎重に行う必要がある。
【0007】
なお、インテリジェント電池に関わる技術として、たとえば特許文献1はエンベデッド・コントローラからの制御でハードウェア・リセットを実行可能なインテリジェント電池について開示している。また、電子機器の不正な使用を検出する技術として、特許文献2はバッテリによるバックアップを失ってRAMのデータが消失することにより、複写機のプリント枚数に関する不正を検出する技術について開示している。特許文献3はシステムの起動投入時および再起動時に不揮発性メモリの状態をチェックし、不正使用の有無を検出する技術について開示している。
【特許文献1】特開2003−173220号公報
【特許文献2】特開平08−337032号公報
【特許文献3】特開2000−013831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インテリジェント電池の電池パックは、電池ブロックの寿命で全体の寿命が定まる。したがって、市場に出回っている電池パックの電池ブロックだけを交換して、電池パックの再生を試みようとする業者が存在する。しかし、複数のセルを組み合わせて電池ブロックを形成する場合には、各セルの厳密な特性管理が行われないと、電池パックの発火、発煙、破裂などを招いてしまい、電子機器の損傷や火災の原因になる。したがって、電池パックの電池ブロックを交換する作業は、十分な製造技術を保有する正当な製造者以外は行うべきではない。
【0009】
規定の充放電回数を超えて寿命を終えた電池パックは、当該電池パックを製造もしくは販売した業者によって回収されてリサイクルされるか、もしくは無害化されて廃棄される必要がある。特にリチウム・イオン蓄電池の正極に使用されるコバルト酸リチウムは、埋蔵量の少ないレアメタル(希少金属)であるコバルトを含み、また人体に対する毒性もあるので、適正にリサイクルされなければならない。
【0010】
ところが、電池ブロックを交換して再生した電池パックを低廉なコストで供給する業者が現実に存在する。本明細書においては、市場に出回った真正な電池パックを改造して再販売する行為を不正な行為ということにする。不正に再生された電池パックに使用される電池ブロックは、たとえばパッケージの肉厚が薄い、内部物質の密閉が不十分である、内部物質の組成が均一でない、内部物質に不純物が多く含まれているなどのような欠点を有する場合がある。さらに、セル間の充放電特性が十分に管理されて組み合わせられていないため、複数のセルを並列接続で使用する場合に過大な電池間電流が流れやすくなる。これらの理由から、それらの不正なセルが取り付けられた電池パックは、発火、発煙、破裂などの事故が発生する危険性が極めて高い。
【0011】
再生されて販売されている電池パックの安全性をユーザが認識することは困難であるため、不正な電池パックによる危険性を防ぐためには、正当な電池パック自体が再生ができないような構造になっていることが望ましい。そこで、本発明の目的は、再生が困難な電池パックを提供することにある。さらに本発明の目的は、電池パックにおいて再生が困難なように充放電機能を停止させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
電池パックは電池ブロックと充放電回路とプロセッサを含んで構成されている。プロセッサは電池ブロックから電力の供給を受けて動作し、かつ電池ブロックの電圧および電流を監視している。電池パックが電子機器に装着されて使用されている状態では、電子機器の負荷状態にかかわらず、電池ブロックの電圧変動は比較的小さい。電子機器から取り外された電池パックの内部が開放されて電池ブロックが交換される場合には、電子機器に装着されて動作しているときにはありえないような大きな電圧変動をプロセッサが検出する。したがって、プロセッサが電池ブロックの出力電圧を定期的に測定し、当該出力電圧の単位時間あたりの変化量を算出することで、正規の電池ブロックが外されたことを検出することが可能になる。
【0013】
正規の電池ブロックが電池パックから外された場合には、プロセッサが充放電回路の動作を恒久的に停止させることで、電池ブロックの交換による電池パックの再生を防ぐことができる。なお、充放電回路の動作を恒久的に停止させるとは、再び当該電池パックの外装を開けて部品交換や制御プログラムの書き換えなどをしない限り、当該電池パックの再利用が不可能となる状態にすることを意味する。
【0014】
電池パックの充放電回路の機能が恒久的に停止させられると、当該電池パックはもはやユーザが使用することはできなくなる。したがって、本発明にかかる機能停止措置は誤動作が起きないようにしておく必要がある。電池パックに不揮発性メモリを設け、プロセッサが所定の周期で測定した出力電圧値から出力電圧値の単位時間あたりの変化量dV/dtを複数記憶してそれらに対して平均化などの適当な処理を加えることで、より的確に停止措置を実行することが可能になる。
【0015】
プロセッサは、電池ブロックの出力電圧値がリセット電圧値と呼ばれる一定の電圧値に下がった場合自らの動作を停止する。したがって、電池ブロックを充放電回路から取り外してプロセッサに供給する電圧を遮断すると、プロセッサはリセットされる。その後、交換された電池ブロックが保有する電圧がプロセッサに印加されたり、電池パックが装着された電子機器から充電電圧が印加されたりするとプロセッサは再び起動されてリセット動作を行う。換言すれば、リセット動作が発生したこと自体が、電池ブロックの出力電圧値がリセット電圧値を下回り、単位時間あたりの電圧変化量が所定の値より大きい状態が発生したことを意味する。
【0016】
よって、プロセッサの電源電圧が低下して動作を停止するときに、不揮発性メモリに記憶されていた単位時間あたりの電圧変化量が所定の値より大きい場合に、電池ブロックが取り外されたことを示す不正状態を不揮発性メモリに設定してリセット動作時に充放電回路の機能を停止させるためのトリガにすることができる。すなわち、電圧変化量が所定の値を超えないでプロセッサが動作を停止する場合は不揮発性メモリに不正状態を設定しないで、電圧変化量が所定の値を超えた後にプロセッサが動作を停止する場合は不揮発性メモリに不正状態を設定する。
【0017】
そしてプロセッサは、リセット動作において不揮発性メモリに設定された状態を参照することで、電池ブロックが交換されたことを検出することが可能になる。あるいは、プロセッサはリセット動作において、不揮発性メモリに記憶された電圧値を参照して電圧変化量を算出し、単位時間あたりの電圧変化量が所定の値より大きい場合に電池ブロックが交換されたことを検出するようにしてもよい。
【0018】
電池パック内に設けられた、充放電の動作に関わる充放電回路の動作を恒久的に停止する措置は、より具体的に言えばたとえば充放電回路に設けられた過放電防止用スイッチもしくは過充電防止用スイッチの機能を停止させる動作、あるいはヒューズを溶断する動作、さらにはプロセッサが実行する制御用プログラムを書き換える動作などが考えられるが、必ずしもそれらに限定されない。ただし、いずれの措置も停止された状態を回復するためには電池パックの外装を開放する必要がある状態にするため、ユーザには解除することが困難かまたは不可能であるため、そのような電池パックは商品として成立しなくなる。
【0019】
電池パックの出力端子または電池ブロックの両端に何らかの負荷を接続して、当該電池ブロックを強制的に放電し出力電圧値をリセット電圧値以下にまで下げて電池ブロックを交換する方法も考えられる(以後、このような放電を強制放電という)。その場合は、単位時間あたりの電圧変化量dV/dtが所定の値を超えないため、プロセッサの電源電圧がリセット電圧値を下回った時点で前述の不正状態が不揮発性メモリに設定されないので、その後に電池ブロックを交換されてプロセッサがリセット動作をするときにプロセッサは充放電回路の恒久的な停止をすることができない。
【0020】
電池ブロックがリセット電圧値に到達する前に放電停止電圧値に到達すると、プロセッサは電池パックの放電を停止するように充放電回路を制御する。電池パックが放電を停止したあとは、通常の状態では電池ブロックは自然放電とプロセッサなどの回路素子に供給する電力だけで放電するため、その放電電流は非常に小さい。このような小さな放電電流で電池ブロックの電圧がリセット電圧に到達する場合は、不揮発性メモリに不正状態を設定しない。放電停止電圧値からリセット電圧値まで通常の状態で放電する場合には、2年といった長い時間を費やすので、電池パックの再生を試みる者は、強制放電により電池ブロックの電圧をリセット電圧値まで下げるのが通常であると考えられる。
【0021】
しかし、電池ブロックの電圧が放電停止電圧値より下がった状態で強制放電が行われる場合は、通常状態に比べて放電電流が非常に大きく、単位時間あたりの電圧変化量も大きい。電池ブロックの電圧が放電停止電圧値より下がった状態で行われる強制放電は、電池ブロックを交換する意図があるとみなして、プロセッサは充放電回路に対して強制的な停止措置を講ずる。
【0022】
電池ブロックの電圧が放電停止電圧値より下がった状態で強制放電が行われる場合には、当該電池ブロックの放電電流値を測定して、放電電流値が通常の放電電流値を超えた場合に同じように強制放電が行われたことを検出できる。放電電流を検出する方法は、電圧の変化量を検出する方法に比べて高い精度で行うことができるという利点がある。また、プロセッサと不揮発性メモリとが同一の集積回路の中で形成されていることがさらに望ましい。このことにより、不揮発性メモリに記憶された内容を外部から参照、改変、消去などをすることが困難になるので、動作が停止された電気回路を再び使用可能にすることがより困難になる。本発明は、上記のような特徴を持った電池パックとしてだけでなく、電池パックの機能を停止する方法としても提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、再生が困難な電池パックを提供することができた。さらに本発明により、電池パックにおいて再生が困難なように充放電機能を停止させる方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本実施の形態が適用されるノートPC11で、電源装置に関わるブロック構成を示す図である。当該ノートPC11の電源装置20は、電池パック10、ACアダプタ12、充電器18、DC−DCコンバータ22などから構成される。電池パック10は、SBS規格に準拠したインテリジェント電池で、ノートPC11に着脱可能なように構成されている。電池パック10は、市場で交換部品または予備部品として単独で流通している。ACアダプタ12は、商用電源(図示せず)に接続される電源供給装置である。充電器18は、ACアダプタ12から供給された直流電源によって電池パック10を充電する。ACアダプタ12および電池パック10から供給される電力は、DC−DCコンバータ22を経由してノートPC内の各部へ供給される。
【0025】
ノートPC11本体は、ISAバス29に接続されたエンベデッド・コントローラ14を備える。エンベデッド・コントローラ14はノートPC11の電源管理機能を担うものであり、電源装置20を制御し、同時にISAバス29、PCI−ISAブリッジ28、PCIバス27、CPUブリッジ26、FSバス24などを介して、CPU23、メインメモリ25、およびノートPC11を構成するその他のハードウェア要素と相互接続され、通信することが可能である。なお、ディスプレイ、磁気ディスク、光学ディスク、キーボードなど、ノートPC11を構成するハードウェア要素の多くは公知であるので、図1では記載を省略している。
【0026】
図2は、本実施の形態が適用される電池パック10、および当該電池パックの周辺に関わる構成を示した図である。図3は、電池パック10内部の回路構成をさらに詳しく示した図である。電池パック10は、充放電が行われる蓄電池の本体であり、複数の単セルからなる電池ブロック41、電池パック10を制御すると共にエンベデッド・コントローラ14とコミュニケーション・ライン16(CLOCKおよびDATAの2線)を介して通信を行うMPU43、電池パック10から充放電される放電電流値を計測する電流測定回路45、および、電池ブロック41の出力電圧値を計測する電圧測定回路47、および電圧調整器49などを備えている。電池ブロック41は、例えば2並列3直列(1.8Ah/セル)の6セルで構成されるリチウム・イオン組電池である。以後、電池パック10内部の電気回路で、電池ブロック41を除いた部分を総称して電気回路部という。
【0027】
この電池パック10の内部に搭載されたMPU43は、8〜16ビット程度のCPUの他に、RAM、不揮発性メモリ装置である2系統のフラッシュメモリ51および53、アナログ入出力、タイマ、デジタル入出力などを1個のパッケージの中に備えており、電池パック10の制御プログラムを第1のフラッシュメモリ51から読み込み、単独で実行することが可能である。CPUおよびフラッシュメモリ51、53などを合わせて1個のパッケージとして構成することにより、当該フラッシュメモリ51、53に記憶された内容を当該MPUの外部から参照、改変、消去などをすることが困難になる。
【0028】
電流測定回路45、電圧測定回路47から出力された測定結果であるアナログ信号は、MPU43のアナログ端子に入力され、その内部でA/D(Analog to Digital)変換されて処理される。これによって、MPU43は電池の容量や充放電回数などの電池の管理に関わる情報を把握している。把握された電池に関わる情報は、通信経路であるコミュニケーション・ライン16を介し、SBSで定められたプロトコルによってシステム側のエンベデッド・コントローラ14に送信される。
【0029】
電流測定回路45では、電池ブロック41から流れる放電電流Iによって、抵抗(RS)の両端に電圧I×RSの電位差が発生する。この電圧は、オペアンプ(AMP1)によって差動増幅される。また、オペアンプ(AMP2)とトランジスタによって、オペアンプ(AMP1)の出力電圧値に比例する電流I1が抵抗(R4)を流れる。最終的にセル41の放電電流Iの値は、抵抗(R5)に発生する電圧I1×R5に変換することができる。この電圧(I1×R5)はMPU43のA/D#2ポートに出力される。また、電圧測定回路47では、電池ブロック41の出力電圧値がオペアンプ(AMP3)によって差動増幅して変換され、一旦、低い電圧に落とされた後にMPU43のA/D#1ポートに出力される。MPU43は、これらの出力電圧値をA/D変換することによって電池ブロック41の現在の放電電流および電圧を常に測定することができる。測定された現在の電流および電圧は、一定間隔ごとにMPU43内部の第2のフラッシュメモリ53に保存される。本実施例では1000ミリ秒間隔で記録を行っている。
【0030】
そしてMPU43は、エンベデッド・コントローラ14とコミュニケーション・ライン16を通じて通信するDATA端子、および3つのFET55、57、58を制御する出力ポートを備えている。D−FET55は電池ブロック41の放電を制御するFETであり、C−FET57は充電を制御するFETである。またFET58をオンにすると、ヒューズ59の近傍にある電熱線60に電流を流し、ヒューズ59を溶断することができる。D−FET55、C−FET57、およびヒューズ59は電池パック10の充放電回路を構成する。
【0031】
電池ブロック41の出力電圧値は、+出力端子63および−出力端子65を通り、DC−DCコンバータ22へ出力される。電圧調整器49は、電池ブロック41の電圧が所定の範囲であれば一定の電圧を出力してMPU43の電源端子Vccに供給する。ハードウェア・リセット回路50は、電池ブロック41の出力電圧が低下して電圧調整器49がMPU43の電源端子Vccに一定の電圧を供給できなくなったことを検出し、MPU43にハードウェア・リセット信号を出力する。尚、電池ブロック41の近傍にはサーミスタ61が配置され、このサーミスタに発生する電圧が、エンベデッド・コントローラ14に出力される。
【0032】
以上で述べた電池パック10の構成は、SBS規格に準拠したインテリジェント電池の構成としては一般的なものである。本発明に係る機能停止方法は、電池パック10に対してハードウェアの追加もしくは変更などを特に必要とせず、第1のフラッシュメモリ51に保持され、MPU43上で実行される電池パック10の制御に関わるプログラムとして提供することが可能である。従って、本発明を実現する上で電池パック10に対して必要な投資コストは小さい。
【0033】
なお、図2および3は本実施の形態を説明するために、主要なハードウェアの構成および接続関係を簡素化して記載したに過ぎないものである。たとえば、直列に接続した複数のセルで電池ブロック41を構成する場合、電圧測定回路47は各々の電池セルの電圧を測定するようになっているが、図2および3では図面の錯綜を回避するために、各々のセルに対する電圧測定回路については図示していない。他にも、電池パック10およびその周辺の回路を構成するためには、これら以外にも多くの電気回路および装置が使われるが、それらは当業者には周知であるので詳しく言及しない。もちろん、図2および3で記載した複数のブロックを1個の集積回路としたり、逆に1個のブロックを複数の集積回路に分割して構成したりすることも、当業者が任意に選択することができる範囲においては本発明の範囲に含まれる。
【0034】
図4は、ノートPC11に装着された電池ブロック41が放電状態において出力する1セルあたりの電圧の、時間の経過に対する変化を示す図である。リチウム・イオン蓄電池によって構成された電池ブロック41では、通常動作領域101を構成する電圧値は1セルあたり2.7〜4.2Vである。電池ブロック43の電圧が通常動作領域101から外れると、電池ブロック41の特性の大幅な劣化、および発火などの事故の原因になる。図4では、4.2V近辺まで充電された電池ブロック41が放電を開始してノートPC本体へ電力を供給している。放電を続けるにつれて、電池ブロック41の出力電圧は緩やかに低下する。出力電圧値が2.7Vに設定された放電停止電圧値を下回った場合、D−FET55がオフになって電池ブロック41からノートPC本体への電力供給は停止される。ノートPC本体への電力供給が停止されても、MPU43を初めとする電池パック10の電気回路部は、電池ブロック41から電力供給を受けて動作し続けている。電池ブロック41がさらに放電を続け、出力電圧が1.3Vに設定されたリセット電圧値を下回った場合、MPU43はリセットされ、電池パック10の電気回路部は動作を停止する。以後、出力電圧が2.7V以上4.2V未満の領域を通常動作領域101、出力電圧が1.3V以上2.7V未満の領域を過放電領域103、出力電圧が1.3V未満の領域をリセット領域105という。
【0035】
図4では、時間の経過とともにセルの電圧が低下する様子が示されている。通常動作領域101での電圧低下傾向は、ノートPC11の使用状態に依存する。過放電領域103では電圧低下の原因が自然放電とMPUや電圧測定回路などを動作させる僅かの電力であるため、時間当たりの電圧の低下量は非常に小さく、放電停止電圧値からリセット電圧値に到達するまでの期間は最短でも約2年程度である。リセット領域105では、自然放電だけで電圧が低下するので時間当たりの電圧の低下量はさらに小さくなる。
【0036】
図5は、不正なセル交換が行われた時の、電池ブロック41の出力電圧を測定する電圧測定回路47によって測定された電圧値の変動を示す図である。図6は、不正な電池ブロックの交換を行う際の電池ブロック41周辺の操作について示す図である。図6は、図2および3で示した電池パック10内部の回路図のうち、電池ブロック41、および出力端子63、65の周辺だけを抜き出して示している。今、電圧測定回路47によって測定された電圧値がリセット電圧値以上である状態で、電池パック10の外装が開けられ、図6の(A)に示すように電池ブロック41が電気回路部から取り外されて不正なセル201に置き換えられるものとする。セル41が単純に取り外される場合は、図5の(A)の151に示すように電圧値はゼロになり、MPU43の動作は停止する。その後、不正な電池ブロック201が取り付けられて図5の(A)の153に示すように電圧値が再び上昇してMPU43が動作を再開する際に、MPU43はリセットされ再起動してリセット動作を行う。
【0037】
電圧測定回路47によって測定された電圧値がリセット電圧値に到達するまでの間には、必ず過放電領域103を通過する。過放電領域103では、自然放電とMPU43などの回路の一定の消費電力で放電が行われるため、電圧値の単位時間当たりの変化量dV/dtはほぼ一定で値が小さい。このような電圧変化量dV/dtを経て電圧値がリセット電圧109に到達した場合は、本実施の形態では正常なリセット電圧109への到達であるとして、フラッシュメモリ53に正常状態を示すリセット・フラグを設定するようにしておく。また、図5(A)に示すように大きな電圧変化量dV/dtを経てリセット電圧109に到達した場合は、フラッシュメモリ53にリセット・フラグが設定されないことが不正状態を示す。
【0038】
MPU43がリセット動作をするときに必ずフラッシュメモリ53のリセット・フラグを参照するように制御プログラムは構成されている。不正に電池ブロック41が交換されて図5(A)に示すような電圧変化dV/dtが発生した場合には、MPU43がリセット動作をするときにフラッシュメモリ53上のリセット・フラグを検出しないため、電池ブロック41の取り外しがあり不正な電池ブロックの交換があったものと認定することができる(条件A)。
【0039】
以上で述べた条件Aにより電池ブロックを交換したことが検出されるのを回避するため、業者が図6(B1)に示すように電池ブロック41の両端に別の負荷203を接続し、強制放電してリセット電圧まで下げることもありうる。また、業者が図6(B2)に示すように電池パック10の出力端子63および65に負荷203を接続し、同様に電池ブロック41を強制放電することも考えられる。この場合、電池ブロック41の出力電圧値がリセット電圧値を下回ったときに条件Aで述べたような正常状態を示すリセット・フラグが設定され、正常にMPU43がリセットされる状態を作り出すことができる。その上で図6(A)と同様にして当該電池ブロックが取り外されて不正な電池ブロック201に置き換えられても、条件Aでは不正な電池ブロックの交換を検出することができない。
【0040】
しかし、この場合は図5(B)に示すように、過放電領域103における電圧測定回路47によって測定された電圧値の単位時間当たりの低下量dV/dtは、自然放電と回路の消費電力による放電の場合に比べて急激である。過放電領域では、セルの自己放電と回路の消費電力を合わせて電流値は5μA程度であり、かつ電池ブロックの容量が一例では80mAhであることから、1セルあたりの放電停止電圧値2.7Vからリセット電圧値1.3Vまでの過放電領域103でのdV/dtは(2.7V−1.3V)×(5μA/80mAh)=87.5μV/時間程度であり、曲線155で示すように緩やかな電圧の低下である。これに対して、強制放電時の出力電圧値の低下は、たとえば同じ放電停止電圧値2.7Vからリセット電圧値1.3Vまでの放電を16時間で行うとすると(2.7V−1.3V)/16h=87.5mV/時間となり、曲線157に示すように急激な電圧の低下となる。このように、強制放電がある場合とない場合とでは、dV/dtの値は10の3乗程度のオーダーの違いがある。従って、電圧測定回路47が測定している電池ブロックの出力電圧値から、MPU43が電圧変化量dV/dtを計算し、その値がたとえば1セルあたり100μV/時間以上であれば不正な電池ブロックの交換などを意図した強制放電があったとみなすことができる(条件B1)。
【0041】
また、電圧測定回路47によって測定された電圧値が過放電領域103にある場合で、図6(B2)に示すように電池パック10の出力端子63および65に負荷203を接続して強制放電が行われる場合、図2および3に示した電池パックでは過放電電圧状態からの保護機能が働いて、D−FET55がオフにされて電圧の出力は停止される。しかし、実際にはD−FETが存在せず、過放電電圧状態に基づいて電圧の出力を停止することができない実施形態もありうる。その場合は、条件B1による検出の他に、電流測定回路45で放電電流を測定することによって、放電電流値の変動から強制放電の有無を検出することで通常の使用状態とは異なる放電が行われたことを検出することができる。過放電領域103であれば、電池パック10の外部に電力が供給されることはなく、電池パック10内部でだけ電池ブロック41の電力が消費される。しかも当該電池パックの電気回路部は消費電力が3μA程度と小さいので、放電電流値はセルの自己放電を合わせても5μA程度とごく僅かである。これに対して、たとえば80mAhの容量の電池ブロックで放電停止電圧値2.7Vからリセット電圧値1.3Vまでの放電を16時間で行おうとすると、80mAh/16h=5mAの放電電流値が必要である。このように、強制放電がある場合とない場合とでは、放電電流値は10の3乗程度のオーダーの違いがある。したがって、電圧値が過放電領域103にある状態で放電電流値がたとえば10μA以上であれば、不正なセル交換などを意図した強制放電があったとみなすことができる(条件B2)。
【0042】
この条件B2による強制放電の検出は、条件B1による検出と比べて、より高い精度で強制放電を検出できるという利点がある。ただし、電圧測定回路47によって測定された電圧値が通常動作領域にあり、ノートPC本体11に電力が供給されているときに電池パック10から出力される放電電流は、当該ノートPCの動作状況の変化(たとえばCPUの負荷、ディスプレイの輝度、磁気ディスクおよび光学ディスクの使用など)によって大きく変動するため、通常の使用による放電電流と強制放電による放電電流を区別することは困難である。このため、電圧値が過放電領域103にある状態でのみ、この条件による判断を行う。
【0043】
なお、電池ブロック41の出力電圧値が過放電領域103にある間は、電池ブロック41の電力は電池パック10内部でだけ消費されるので、出力電圧値が放電停止電圧値からリセット電圧値に低下するまで、たとえば上例のセルの自己放電と回路の消費電流を合わせて5μA程度で、かつ電池ブロックの容量が80mAhの電池パックでは、1セルあたりの放電停止電圧値2.7Vからリセット電圧値1.3Vに低下するまで80mAh/(5μA×24時間×30日)=約22ヶ月以上となる。このため、電池パック10に対して自然放電に近い緩やかな放電をさせて、上記の条件B1およびB2による強制放電の検出を免れようとしても電池パックの再生ビジネスが成立しない可能性が高い。
【0044】
電圧測定回路47で検出される電圧がゼロになることによって発生するMPU43のリセット動作を回避するため、業者は電池ブロック41の出力電圧が通常動作領域101にある状態で、図6(C)に示すように電池ブロック41の各セルの両端に別の電圧源205を接続して、電池ブロック41を取り外したときに電圧が低下しないようにした上で、電池ブロック41を不正な電池ブロック201に交換する可能性がある。この場合、図5(C)に示すように、電圧源205の接続161、電池ブロック41の取り外し162、不正な電池ブロック201の取り付け163、および電圧源205の取り外し164の4段階の操作があり、特にこのうち電池ブロック41の取り外し162および不正な電池ブロック201の取り付け163で、通常の使用状態ではあり得ない短時間での電圧の変動がありうる。しかしこの場合、電圧測定回路47が測定する電圧がリセット電圧値を下回らないため、そもそもMPU43がリセットされることがない。このため、前述の条件Aでは不正な操作を検出できない。また、条件B1およびB2による不正な操作の検出は電池ブロック41の出力電圧が過放電領域103にある状態に限定されており、通常動作領域101ではそれらの条件による判定はない。
【0045】
しかし、電池ブロック41の出力電圧が通常動作領域101にある場合も、図5(C)の161〜164のような短時間での電圧の変動を、特にセルごとの出力電圧の変動により判定することができる。電池パック内の電池ブロック41から出力される電圧値は、通常動作領域101にある場合はノートPC11の動作状況に関わらず変動が比較的小さい。また、図5(C)で示した操作は1セルごとに行われる必要があるが、前述のように電池間電流によるセルおよび回路素子への悪影響を防ぐため、全てのセルが均一に電圧を出力する必要がある。このことが、別の電圧源の接続および電池ブロックの交換などのような状態を検出する条件となる。たとえば特定のセルの出力電圧が変化し、セル間の出力電圧の差が通常動作領域101で50mV以上となった場合、電池ブロック41の取り外しおよび交換があったとみなすことができる(条件C)。全てのセルに対してこのように厳しく電圧を管理しつつ電圧源を接続し、不正なセルへの交換を行うのは事実上困難である。
【0046】
図7および図8は、以上で述べた各々の条件に基づいた不正な電池ブロックの交換の検出に係る処理を、フローチャートで書き表した図である。まず図7の処理は、電池パック10において電池ブロック41の出力電圧値がリセット電圧値以上であり、MPU43が動作している間に一定の周期(1000ms)で実行される(ブロック301)。MPU43は、電流測定回路45および電圧測定回路47から出力されたアナログ信号をアナログ端子で受け、A/D変換することにより、電池ブロック41から出力される電圧値および放電電流値を測定し、各々の測定結果を第2のフラッシュメモリ53上に記憶する(ブロック303〜307)。そして、電池ブロック41の現在の電圧値について判断する(ブロック309)。
【0047】
もし電池ブロック41の現在の電圧値がリセット領域105に到達したら、MPU43は電池パック10が正常な処理によってリセットされたことを示すリセット・フラグを第2のフラッシュメモリ53上に記憶し(ブロック311)、自らの動作を停止して(ブロック313)処理を終了する(ブロック339)。以後、電圧値が回復してリセット電圧値105以上になるまで、MPU43の動作は再開されない。
【0048】
もし電池ブロック41の現在の電圧値が通常動作領域101にあるなら、現在の電圧値と1周期(1000ms)前の電圧値から、電圧の単位時間あたりの変化量dV/dtを算出する(ブロック323)。その際、より正確な判断を期すため、現在の電圧値と過去数周期分の電圧値から移動平均を算出し、そこから電圧の変化量dV/dtを算出してもよい。電圧の変化量dV/dtを判断し(ブロック325、条件B1)、またセル間の出力電圧の差を判断し(ブロック326、条件C)、どちらかが基準値以上であれば、条件B1およびCに基づいて、別の電圧源の接続、強制放電、不正な電池ブロック交換などのような異常があったことを示す異常フラグを第2のフラッシュメモリ53上に記憶し(ブロック335)、電池パック10の充放電回路を恒久的に停止する処理を行う(ブロック337)。基準値未満であればそのまま処理を終了する(ブロック339)。なお、電池パック10を恒久的に停止する処理についての詳細は後述する。
【0049】
電池ブロック41の現在の電圧値が過放電領域103に到達したときは、現在の放電電流値を判断し(ブロック333)、基準値以上であれば、条件B2に基づいて通常動作領域101の時の処理と同じく異常フラグを第2のフラッシュメモリ53上に記憶し(ブロック335)、電池パック10の充放電回路を恒久的に停止する処理を行う(ブロック337)。基準値以内であれば、通常動作領域の時の処理と同じく電圧の単位時間あたりの変化量dV/dt、およびセル間の出力電圧の差を判断する処理に進む(ブロック323〜)。
【0050】
図8の処理は、リセットされたMPU43が再起動される時に実行される(ブロック401)。MPU43の初期化(ブロック403)の後、第1のフラッシュメモリ51から電池パック10の制御に係る制御プログラムが読み込まれ、MPU43で実行される(ブロック405)。最初に第2のフラッシュメモリ53の内容が読み込まれ、当該フラッシュメモリ上のリセット・フラグ、および異常フラグの有無が判断される(ブロック407、409)。リセット・フラグが無い場合、条件Aに基づいて電池ブロック41の不正な取り外しがあったと判断される。また、異常フラグがある場合、条件B1、B2、Cのいずれかに基づいて、別の電圧源の接続、強制放電、不正な電池ブロックの交換などのような異常があったと判断される。つまり、リセット・フラグおよび異常フラグによって、フラッシュメモリ上に不正状態が設定される。不正状態が設定されている場合は、電池パック10を恒久的に停止する処理を行う(ブロック411)。該当しない場合は、そのまま処理を終了し、電池パック10の使用を開始する(ブロック413)。
【0051】
なお、図7に示したMPU43が動作している間に一定の周期で実行される処理で、異常フラグを第2のフラッシュメモリ53上に記憶して電池パック10を恒久的に停止する処理(ブロック335〜337)の代わりに、異常フラグを記憶せずにMPU43をリセットするという動作も考えられる。この場合、図8に示したMPU43が再起動される時に起動される処理で、第2のフラッシュメモリ53上に記憶されたリセット直前の時点から過去の電圧値および放電電流値を読み込み、電圧の単位時間あたりの変化量dV/dtを算出し、前述の条件A,B1,B2,Cの各々に基づいて不正状態の有無を判断する。不正状態がある場合に、電池パック10を恒久的に停止する処理を行えばよい。
【0052】
以上に述べた処理によって、不正な電池ブロックの交換が原因であると想定した異常が発見された場合、電池パック10を恒久的に停止する処理を行う。恒久的に停止するということは、再び当該電池パックの外装を開けて、部品もしくはMPU43の制御プログラムを交換しない限り、当該電池パックの再利用が不可能であるような状態にすることである。より具体的には、D−FET55をオフにして電池ブロック41の放電を停止すること、C−FET57をオフにして電池ブロック41の充電を停止すること、またはFET59をオンにしてヒューズ59を溶断することが考えられる。ただし、FET55、57をオフにする処理およびヒューズ59を溶断する処理をした後でも、当該FETまたはヒューズの部分を電気的に短絡することによって電池ブロック41から出力端子63および65への通電を回復することは容易に考えられる。
【0053】
そこで、当該電池パックを恒久的に停止する処理には、第1のフラッシュメモリ51に保持された電池パック10の制御プログラム自体を書き換え、MPU43の機能を恒久的に停止する動作も含まれる。図9は、電池パック10を恒久的に停止する処理を、フローチャートで書き表した図である。電池パック10に異常が発見され、当該処理が起動されると(ブロック501)、まずD−FET55およびC−FET57がオフにされ(ブロック503〜505)、引き続いてFET58がオンにされてヒューズ59が溶断される(ブロック507)。ノートPC本体にコミュニケーション・ライン16を介して異常の発生を知らせた後(ブロック509)、当該コミュニケーション・ラインを介した通信を停止する(ブロック511)。さらに第1のフラッシュメモリ51の記憶内容を消去し(ブロック513)、異常用プログラムを書き込み(ブロック515)、その上で第1および第2のフラッシュメモリ51、53を書き込み不能にする(ブロック517)。
【0054】
この状態でMPU43自身をリセットすれば(ブロック519)、再び起動されたMPU43は電池パック10の制御に関わる動作を一切行わない異常用プログラムが動作するだけである(ブロック521〜523)。MPU43はプロセッサとフラッシュメモリとが1つの集積回路の中で形成されており、しかもフラッシュメモリは既に書き込み不能にされているため、外部から第1および第2のフラッシュメモリ51、53の内容を読み書きすることは実質上不可能である。このため、実質上MPU43は使用不可能となって処理が完了する(ブロック525)。MPU43を何度リセットしても、使用不可能な状態が変化することはない。
【0055】
もちろん、MPU43が使用不可能にされた電池パック10をノートPC11本体に取り付けた場合、エンベデッド・コントローラ14からコミュニケーション・ライン16を介して行われる通信に対してMPU43からの応答がないので、ノートPC11本体側で電池パック10が取り付けられたことを認識しない。この時、たとえ出力端子63および65から電力を出力できる状態にあったとしても、ノートPC11は当該電池パックを電源として使用できない。つまり、MPU43を動作しないようにすることにより、電池パック10の電気回路部は動作しなくなる。これによって、電池ブロックを電気回路部から切り離して交換して不正な電池パックを提供しようとする行為が成立しないようにすることができる。
【0056】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
ノートPCに限らず、電源としてインテリジェント電池を使用する電子機器全般に利用可能である。また、SBS規格に準拠していなくても、電池パック内にプロセッサを有し、本体と通信を行うことにより充放電を管理する電池を使用する電子機器全般に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施の形態が適用されるノートPCで、電源装置に関わるブロック構成を示す図である。
【図2】本実施の形態が適用される電池パック、および当該電池パックの周辺に関わる構成を示した図である。
【図3】本発明の実施例に係る電池パック内部の回路構成をさらに詳しく示した図である。
【図4】電池ブロック41が放電状態において出力する1セルあたりの電圧の、時間の経過に対する変化を示す図である。
【図5】不正なセル交換が行われた時の、電圧測定回路47で検出される電圧値の変動を示す図である。
【図6】不正な電池ブロックの交換を行う際の電池ブロック周辺の操作について示す図である。
【図7】本発明の実施例に係る、MPUが動作している間に一定の周期で起動される処理を、フローチャートで書き表した図である。
【図8】本発明の実施例に係る、電池パックが起動される際に実行される処理を、フローチャートで書き表した図である。
【図9】本発明の実施例に係る、電池パックを恒久的に停止する処理を、フローチャートで書き表した図である。
【符号の説明】
【0059】
10 電池パック
11 ノートPC
12 ACアダプタ
14 エンベデッド・コントローラ
16 コミュニケーション・ライン
18 充電器
20 電源装置
22 DC−DCコンバータ
41 電池ブロック
43 MPU
45 電流測定回路
47 電圧測定回路
49 電圧調整器
51 第1のフラッシュメモリ
53 第2のフラッシュメモリ
55 D−FET(放電用電界効果トランジスタ)
57 C−FET(充電用電界効果トランジスタ)
59 ヒューズ
63 +出力端子
65 −出力端子
101 通常動作領域
103 過放電領域
105 リセット領域
107 放電停止電圧値
109 リセット電圧値
201 不正な電池ブロック
203 別の負荷
205 別の電圧源




























【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器に使用する電池パックであって、
電池ブロックと、
前記電池ブロックに対する充放電パスを形成する充放電回路と、
前記電池ブロックの電圧の単位時間あたりの変化量が所定の値を超えたときに前記充放電回路の機能を恒久的に停止させるプロセッサと
を有する電池パック。
【請求項2】
前記電池パックが書き込みおよび読み出しをすることができる不揮発性メモリを有し、前記プロセッサは前記電池ブロックの電圧の単位時間あたりの変化量を所定の周期で前記不揮発性メモリに記憶し、記憶された前記電圧の単位時間あたりの変化量を参照して前記充放電回路の機能を恒久的に停止させる、請求項1記載の電池パック。
【請求項3】
前記プロセッサと前記不揮発性メモリは1つの半導体装置に一体に形成されている、請求項2記載の電池パック。
【請求項4】
前記プロセッサは前記電圧の単位時間あたりの変化量が所定の値を超えた後に前記電池ブロックの電圧がリセット電圧値まで低下した場合に前記不揮発性メモリに不正状態を設定し、リセット動作において前記設定された不正状態を参照して前記充放電回路の機能を恒久的に停止させる、請求項2記載の電池パック。
【請求項5】
前記プロセッサはリセット動作において前記電圧の単位時間あたりの変化量を参照して前記充放電回路の機能を恒久的に停止させる、請求項2記載の電池パック。
【請求項6】
前記プロセッサが前記充放電回路の機能を恒久的に停止させる動作が、前記充放電回路に設けられた過放電防止用スイッチの機能を停止させる動作、前記充放電回路に設けられた過充電防止用スイッチの機能を停止させる動作、前記充放電回路に設けられたヒューズを溶断する動作、および前記プロセッサが実行する制御用プログラムを書き換える動作からなるグループから選択されたいずれか1つの要素または任意の複数の要素の組み合わせである、請求項1記載の電池パック。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記電池ブロックの電圧が放電停止電圧値まで低下したとき前記電池パックが放電を停止するように充放電回路を制御し、前記電池ブロックの電圧が前記放電停止電圧値と前記プロセッサが動作を停止するリセット電圧値の間にあって放電電流値が所定の値を超えたときに前記充放電回路の機能を恒久的に停止させる、請求項1記載の電池パック。
【請求項8】
前記電池パックが書き込みおよび読み出しをすることができる不揮発性メモリを有し、前記プロセッサは前記電池ブロックの放電電流値を所定の周期で前記不揮発性メモリに記憶し、前記不揮発性メモリに記憶された前記放電電流値に関連する情報を参照して前記充放電回路の機能を恒久的に停止させる、請求項1記載の電池パック。
【請求項9】
電子機器に使用する電池パックであって、
電池ブロックと、
前記電池ブロックに対する充放電パスを形成する充放電回路と、
前記電池ブロックの電圧が放電停止電圧値まで低下したとき前記電池パックが放電を停止するように充放電回路を制御し、前記電池ブロックの電圧が前記放電停止電圧値より低いリセット電圧値まで低下したとき動作を停止するプロセッサとを有し、
前記プロセッサは前記電池ブロックの電圧が前記放電停止電圧値と前記リセット電圧値の間にあって前記電池ブロックの放電電流値が所定の値を超えたときに前記充放電回路の機能を恒久的に停止させる電池パック。
【請求項10】
前記所定の値が前記の電池ブロックの自然放電時の放電電流値よりも大きい、請求項9記載の電池パック。
【請求項11】
前記プロセッサが書き込みおよび読み出しをすることができる不揮発性メモリを有し、前記プロセッサは前記電池ブロックの放電電流値を所定の周期で前記不揮発性メモリに記憶し、前記電池ブロックの電圧が前記放電停止電圧値と前記リセット電圧値の間にあるときに前記不揮発性メモリに記憶された前記放電電流値を参照して前記充放電回路の機能を恒久的に停止させる、請求項9記載の電池パック。
【請求項12】
前記プロセッサは前記放電電流値が所定の値を超えた場合に前記不揮発性メモリに不正状態を設定し、前記プロセッサはリセット動作において前記設定された不正状態を参照して前記充放電回路の機能を恒久的に停止させる、請求項11記載の電池パック。
【請求項13】
電池ブロックとプロセッサと不揮発性メモリとを有する電池パックにおいて該電池パックの機能を停止させる方法であって、
前記プロセッサが所定の周期で前記電池ブロックの電圧値を監視するステップと、
前記プロセッサが前記電池ブロックの電圧の変化量が所定の値を超えたときに前記電池パックの機能を恒久的に停止させるステップと
を有する電池パックの機能停止方法。
【請求項14】
前記プロセッサが前記電圧値または前記電圧の変化量を不揮発性メモリに記憶するステップを有し、前記停止させるステップは前記不揮発性メモリに記憶された情報を参照するステップを含む、請求項13記載の電池パックの機能停止方法。
【請求項15】
前記電圧の変化量が所定の値を超えた場合に不揮発性メモリに不正状態を設定するステップを有し、前記停止させるステップは前記プロセッサがリセット動作において前記不揮発性メモリに設定された不正状態を参照するステップを含む、請求項14記載の電池パックの機能停止方法。
【請求項16】
前記停止させるステップは前記プロセッサが前記不揮発性メモリに記憶された前記電圧の変化量を参照するステップを含む、請求項14記載の電池パックの機能停止方法。
【請求項17】
前記プロセッサが前記電池ブロックの放電電流値を監視するステップと、
前記プロセッサが、前記電池ブロックの電圧が前記電池ブロックの放電停止電圧値と前記プロセッサのリセット電圧値の間にあって前記放電電流値が所定の値を超えたときに前記電池パックの機能を恒久的に停止させるステップとを有する、請求項14記載の電池パックの機能停止方法。
【請求項18】
電池ブロックとプロセッサと不揮発性メモリとを有する電池パックにおいて該電池パックの機能を停止させる方法であって、
前記プロセッサが前記電池ブロックの放電電流値を監視するステップと、
前記プロセッサが、前記電池ブロックの電圧が前記電池ブロックの放電停止電圧値と前記プロセッサのリセット電圧値の間にあって前記放電電流値が所定の値を超えたときに前記電池パックの機能を恒久的に停止させるステップと
を有する電池パックの機能停止方法。
【請求項19】
前記所定の値が前記電池ブロックの自然放電時の放電電流値よりも大きい、請求項18記載の電池パックの機能停止方法。
【請求項20】
前記プロセッサが前記電池ブロックの放電電流値を所定の周期で前記不揮発性メモリに記憶するステップと、
前記電池ブロックの電圧が前記放電停止電圧値と前記リセット電圧値の間にあるときに前記不揮発性メモリに記憶された前記放電電流値を参照して前記充放電回路の機能を恒久的に停止させるステップとを有する、請求項18記載の電池パックの機能停止方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−194052(P2007−194052A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10583(P2006−10583)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(505205731)レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド (292)
【Fターム(参考)】