説明

電池パック処理装置および処理方法

【課題】発火を防止することができ、かつ、腐食しにくくメンテナンスが容易な電池破砕装置および破砕方法を提供する。
【解決手段】単電池cと筐体bとからなる電池パックPを、放電液に浸漬させて放電させるための処理装置Aであって、冷却液を保持し、電池パックPが没入される冷却槽10と、冷却液に没入された電池パックPの筐体bに内部に放電液が流入できる開口部を形成する開口機20とを備える。単電池cを個々に放電液に浸漬したのと同じ状態にでき、短時間で放電を行うことができる。単電池cが潰れて短絡することにより発熱しても冷却液で単電池cを冷やすことで発火を抑制することができ、発火したとしても直ぐに消火されるため火災となることがなく安全である。開口機20は大気中に設置できるので、装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスが容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池パック処理装置および処理方法に関する。さらに詳しくは、導電性を有する液体に浸漬させて電池パックを放電する電池パック処理装置および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度、高いセル電圧等の優れた特性を有することから、携帯電話、ポータブルビデオカメラ、ノートパソコン等の電子機器を中心に広範に利用されている。また、これら電子機器に用いられる電池は、安全性、使いやすさ、必要電圧等を考慮して、必要とする本数の単電池を樹脂製の筐体に収納した電池パックの形態で市販される場合が多い。
【0003】
リチウムイオン電池等の二次電池は、数百回程度の充放電を繰り返すと電極や電解液の劣化等が生じ、充電できる電気量が減少してくる。このような電池は寿命と判断され、廃電池として廃棄される。ここで、リチウムイオン電池には、コバルトやニッケル等の希少金属をはじめとする有価物が使用されているため、電池を解体して有価金属を回収し再資源化する処理が行なわれる。
【0004】
一般に、電池の再資源化は、電池を破砕した後に種々の方法を用いて有価金属を選別することにより行われる。
ところが、未放電の電池が含まれていると、電池の破砕を行う際に、電池が潰れて短絡することにより発熱し、電池内の電解質に含まれる有機溶媒が揮発してガスが噴射されたり、場合によっては発火点を超えて炎が燃え上がったりする場合がある。特に、充電された単電池の電圧が3.5〜4Vと、従来の電池よりも高電圧となるリチウムイオン電池では、この発熱や爆発が顕著であり危険である。
【0005】
このような問題に対して、安全に電池を破砕する種々の方法が提案されている。その一例として、充放電状態に関わらず電池をそのまま高温の炉内に投入して焙焼することにより、発熱や発火の影響を抑制する方法がある(例えば特許文献1)。また、他の一例として、導電性を有する液体(以下、放電液という。)に浸漬させて電池を放電させ、放電後に電池を破砕する方法がある(例えば特許文献2)。
【0006】
しかるに、焙焼処理を行う方法では、電池パック内に保護回路基板が含まれているために半田に由来する鉛が飛散したり、樹脂製の筐体が分解し窒素化合物が排出されるために排ガス処理設備の増強が必要になったりする等の問題がある。
【0007】
また、放電液に浸漬させて電池を放電させる方法では、単電池を個々に放電液に浸漬する場合は数時間から24時間程度の比較的短時間で放電できるが、電池パックごと放電液に浸漬する場合は、単電池個々の場合の数倍から10倍程度の長時間が必要である。これは電池パックの内部には、過放電を防止するための過放電保護回路が組み込まれており、電池パックごと放電液に浸漬しても過放電保護回路が働いて放電電流が抑制され単電池個々を浸漬した場合のような大電流での放電が行なわれないためである。
このように、電池パックを放電するには長時間を必要とするため、場合によっては、十分に放電されていない電池を破砕処理してしまい、その結果、火災が発生するという危険性がある。
【0008】
そこで、特許文献3には、電池を破砕する破砕装置を放電液中へ浸没させ、放電液中で電池を破砕する方法が提案されている。
放電液中で電池を破砕することで、電池の過度の温度上昇を抑制することができ、発火を防ぐことができる。
しかし、腐食性の高い放電液に破砕装置を潜没させるため、破砕装置が腐食しやすいという問題がある。特に破砕装置内のギヤボックス等の機構部分を潜没させると腐食しやすい。そのため破砕装置のメンテナンスを頻繁に行う必要があるが、それにもかかわらず、破砕装置のメンテナンスが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−346160号公報
【特許文献2】特開平11−97076号公報
【特許文献3】特開平11−260426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、発火を防止することができ、かつ、腐食しにくくメンテナンスが容易な電池破砕装置および破砕方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の電池パック処理装置は、単電池と該単電池を収納する筐体とからなる電池パックを、放電液に浸漬させて放電させるための処理装置であって、冷却液を保持し、該冷却液に前記電池パックが没入される冷却槽と、前記冷却液に没入された前記電池パックの前記筐体に、該筐体の内部に前記放電液が流入できる開口部を形成する開口機とを備えることを特徴とする。
第2発明の電池パック処理装置は、第1発明において、前記開口機は、前記電池パックを加圧して、前記筐体に前記開口部を形成するものであることを特徴とする。
第3発明の電池パック処理装置は、第2発明において、前記開口機は、加圧板を備え、該加圧板と前記冷却槽の底面とで前記電池パックを挟んで加圧するプレス機であることを特徴とする。
第4発明の電池パック処理装置は、第1、第2または第3発明において、前記冷却液は、非引火性であり、かつ、前記冷却槽および前記開口機を腐食しない性質を有する液体であることを特徴とする。
第5発明の電池パック処理装置は、第4発明において、前記冷却液は、水であることを特徴とする。
第6発明の電池パック処理装置は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記単電池に含まれる電解質が流出した前記冷却液から、該電解質を除去する電解質除去器を備えることを特徴とする。
第7発明の電池パック処理装置は、第1、第2、第3、第4、第5または第6発明において、前記放電液を保持し、前記筐体に前記開口部が形成された前記電池パックが該放電液に浸漬される放電槽と、前記電池パックを、前記冷却槽から前記放電槽に搬送する搬送機とを備えることを特徴とする。
第8発明の電池パック処理装置は、第7発明において、前記搬送機は、前記電池パックを収容し、前記冷却液および前記放電液を流入、排出することができる搬送籠と、前記冷却槽に挿入された前記搬送籠を引き上げ、前記放電槽に挿入する搬送クレーンとを備えることを特徴とする。
第9発明の電池パック処理方法は、単電池と該単電池を収納する筐体とからなる電池パックを、放電液に浸漬させて放電させるための処理方法であって、前記電池パックを冷却液に没入した状態で、前記電池パックの前記筐体に、該筐体の内部に前記放電液が流入できる開口部を形成することを特徴とする。
第10発明の電池パック処理方法は、第9発明において、前記電池パックを加圧して、前記電池パックの前記筐体に前記開口部を形成することを特徴とする。
第11発明の電池パック処理方法は、第9または第10発明において、前記冷却液は、非引火性であり、かつ、前記冷却液を保持する冷却槽、および、前記筐体に前記開口部を形成する開口機を腐食しない性質を有する液体であることを特徴とする。
第12発明の電池パック処理方法は、第11発明において、前記冷却液は、水であることを特徴とする。
第13発明の電池パック処理方法は、第9、第10、第11または第12発明において、前記単電池に含まれる電解質が流出した前記冷却液から、該電解質を除去することを特徴とする。
第14発明の電池パック処理方法は、第9、第10、第11、第12または第13発明において、前記筐体に前記開口部が形成された前記電池パックを、前記放電液に浸漬することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、電池パックの筐体に放電液が流入できる開口部を形成するので、筐体に収納された単電池を個々に放電液に浸漬したのと同じ状態にできる。そのため、電流が電池パック内の過放電保護回路をバイパスして流れることで短時間で放電を行うことができる。また、冷却液に電池パックが没入された状態で筐体に開口部を形成するので、単電池が潰れて短絡することにより発熱しても冷却液で単電池を冷やすことで発火を抑制することができ、発火したとしても直ぐに消火されるため火災となることがなく安全である。さらに、開口機は大気中に設置できるので、装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスが容易である。
第2発明によれば、電池パックを加圧することにより、筐体が破壊され、開口部を形成することができる。そのため、筐体に収納された単電池を個々に放電液に浸漬したのと同じ状態にでき、電流が電池パック内の過放電保護回路をバイパスして流れることで短時間で放電を行うことができる。
第3発明によれば、加圧板と冷却槽の底面とで電池パックを挟んで加圧することにより、筐体が破壊され、開口部を形成することができる。また、加圧時に加圧板のみを冷却液に浸ければよく、その他の機構部分等を冷却液に浸ける必要がないので、開口機が腐食しにくく、装置のメンテナンスが容易である。さらに、一度に多数の電池パックに開口部を形成することができる。
第4発明によれば、冷却液は非引火性であるから、単電池が潰れて短絡することにより発火したとしても、冷却液に引火することがなく安全である。また、冷却液は冷却槽や開口機を腐食しない性質を有するので、装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスの頻度を低く抑えることができる。
第5発明によれば、冷却液は水であるから、非引火性であり、かつ、冷却槽および開口機を腐食しない性質を有する。そのため、単電池が潰れて短絡することにより発火したとしても、冷却液に引火することがなく安全であり、また、装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスの頻度を低く抑えることができる。
第6発明によれば、冷却液から電解質を除去するので、電解質により冷却槽や開口機が腐食されず、装置のメンテナンスの頻度を低く抑えることができる。
第7発明によれば、開口部が形成された電池パックを放電液に浸漬することができるので、筐体に収納された単電池を個々に放電液に浸漬したのと同じ状態にできる。そのため、電流が電池パック内の過放電保護回路をバイパスして流れることで短時間で放電を行うことができる。
第8発明によれば、電池パックを収容した搬送籠を、冷却槽から引き上げ、放電槽に挿入することで、電池パックを冷却槽から放電槽に搬送することができる。また、搬送籠に多数の電池パックを収容することで、一度に多数の電池パックに開口部を形成し、放電することができる。
第9発明によれば、電池パックの筐体に放電液が流入できる開口部を形成するので、筐体に収納された単電池を個々に放電液に浸漬したのと同じ状態にできる。そのため、電流が電池パック内の過放電保護回路をバイパスして流れることで短時間で放電を行うことができる。また、冷却液に電池パックが没入された状態で筐体に開口部を形成するので、単電池が潰れて短絡することにより発熱しても冷却液で単電池を冷やすことで発火を抑制することができ、発火したとしても直ぐに消火されるため火災となることがなく安全である。
第10発明によれば、電池パックを加圧することにより、筐体が破壊され、開口部を形成することができる。そのため、筐体に収納された単電池を個々に放電液に浸漬したのと同じ状態にでき、電流が電池パック内の過放電保護回路をバイパスして流れることで短時間で放電を行うことができる。
第11発明によれば、冷却液は非引火性であるから、単電池が潰れて短絡することにより発火したとしても、冷却液に引火することがなく安全である。また、冷却液は冷却槽や開口機を腐食しない性質を有するので、装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスの頻度を低く抑えることができる。
第12発明によれば、冷却液は水であるから、非引火性であり、かつ、冷却槽および開口機を腐食しない性質を有する。そのため、単電池が潰れて短絡することにより発火したとしても、冷却液に引火することがなく安全であり、また、装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスの頻度を低く抑えることができる。
第13発明によれば、冷却液から電解質を除去するので、電解質により冷却槽や開口機が腐食されず、装置のメンテナンスの頻度を低く抑えることができる。
第14発明によれば、開口部が形成された電池パックを放電液に浸漬することができるので、筐体に収納された単電池を個々に放電液に浸漬したのと同じ状態にできる。そのため、電流が電池パック内の過放電保護回路をバイパスして流れることで短時間で放電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る電池パック処理装置の概略図である。
【図2】一般的な電池パックの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る電池パック処理装置Aの概略図であって、図中、10は冷却液を保持する冷却槽、20は冷却槽10に挿入された電池パックPを加圧するプレス機、30は放電液を保持する放電槽、40は電池パックPを冷却槽10から放電槽30に搬送する搬送機である。
【0015】
後述のごとく、冷却槽10の底面にはプレス機20の加圧力が加わるため、冷却槽10はその加圧力に耐え得る材質、例えば鉄でできている。
冷却槽10に保持される冷却液は、冷却槽10およびプレス機20を腐食しない性質を有する液体であることが好ましい。冷却槽10やプレス機20が腐食しにくく、電池パック処理装置Aのメンテナンスの頻度を低く抑えることができるからである。
また、冷却液は、非引火性であることが好ましい。後述のごとく、本実施形態のようにプレスを使用する場合においては、プレス機20で電池パックPを加圧すると発火する恐れがあり、プレスされた状態で発火した場合、他の電池にも引火するなどして連鎖的に反応し、冷却槽10の内圧を不用意に上昇させ、最悪の場合破裂するなどの危険性も高まる。これに対して冷却液が非引火性であれば、電池パックPが発火したとしても、冷却液に引火することがなく安全だからである。
具体的には、冷却液として水を用いることができる。水は、冷却槽10およびプレス機20を腐食しない性質を有し、かつ、非引火性だからである。しかも水の場合は、放電液ほど電気伝導性が高くないので、冷却槽内で放電が急激に進行し、発熱を誘引する恐れも減じる利点がある。また、硫酸ナトリウム水溶液も用いることができる。
【0016】
後述のごとく、プレス機20で電池パックPを加圧すると、電池パックPの内部の単電池に含まれる電解質が冷却液に流出する場合がある。そうすると、冷却液の腐食性が徐々に高まり、冷却槽10やプレス機20が腐食する恐れがある。そのため、冷却槽10には、冷却液から電解質を除去する電解質除去器11を取り付けることが好ましい。
電解質除去器11は、冷却液から電解質を除去できるものであれば何でもよいが、例えば、冷却槽10内の冷却液の一部あるいは全部を抜き出し、冷却液に含まれる塩化物イオンや金属イオンなどの電解質分を中和やイオン交換樹脂への通液などによって除去し、除去後の冷却液を再び冷却槽10に戻すものが考えられる。
電解質除去器11を取り付ければ、冷却槽10内の冷却液から電解質を除去できるので、電解質により冷却槽10やプレス機20が腐食されず、電池パック処理装置Aのメンテナンスの頻度を低く抑えることができる。
【0017】
また、電解質除去器11から出た液を、冷却装置を通して冷却槽に戻す構成とすれば、冷却液の温度上昇を抑制し、いっそう安定した操業を行なうことができる。
【0018】
電池パックPは搬送籠41に多数収容され、そのまま冷却槽10に投入され、冷却槽10の中でプレス機20で加圧される。
プレス機20は、油圧シリンダと、油圧シリンダのロッド先端に取り付けられた加圧板21と、油圧シリンダの圧力制御を行う制御装置とからなる。加圧板21は搬送籠41の内寸よりも若干小さい寸法を有する板であり、加圧板21が搬送籠41の内部を下降し、加圧板21と搬送籠41の底面とで電池パックPを挟んで、加圧できるようになっている。
なお、プレス機20は、特許請求の範囲に記載の「開口機」に相当する。また、プレス機20としては、油圧プレスに限らず、機械プレス等種々の型式のプレス機を採用することができる。
【0019】
放電槽30は、放電液によって腐食しないように防食性の材質、例えばFRPでできている。そして、放電槽30は、前述の搬送籠41を挿入できる寸法を有している。
【0020】
搬送機40は、前述の搬送籠41と、その搬送籠41を搬送するホイストクレーン42と、ホイストクレーン42が走行するレール43とからなる。
搬送籠41は、冷却槽10および放電槽30に挿入できる寸法を有しており、中に多数の電池パックPを収容できるようになっている。また、搬送籠41の上面は開口しており、電池パックPを投入したり、プレス機20の加圧板21を上方から挿入したりできるようになっている。
搬送籠41の底面の数ヵ所には水切り孔が形成されている。そのため、搬送籠41を冷却槽10に挿入すれば電池パックPを冷却液に浸漬でき、冷却槽10から引き上げれば冷却液を切ることができる。また、搬送籠41を放電槽30に挿入すれば電池パックPを放電液に浸漬でき、放電槽30から引き上げれば放電液を切ることができるようになっている。なお、搬送籠41の底面には、プレス機20の加圧力が加わるため、その加圧力に耐え得るだけの厚みを持たせてある。さらになお、搬送籠41は、網で形成してもよい。
【0021】
ホイストクレーン42は、搬送籠41を冷却槽10に挿入し、引き上げることができ、冷却槽10から放電槽30まで移動させ、放電槽30に挿入し、引き上げることができる。
なお、ホイストクレーン42は特許請求の範囲に記載の「搬送クレーン」に相当する。搬送クレーンとしては、ホイストクレーン42以外にも、搬送籠41を冷却槽10に挿入し、引き上げることができ、冷却槽10から放電槽30まで移動させ、放電槽30に挿入し、引き上げることができるものであれば、どのような搬送手段を用いてもよい。
【0022】
電池パックPの構成には種々のものがあるが、例えば図2に示すように、リチウムイオン電池等である複数本の単電池cと、その複数の単電池cを収納する樹脂製の筐体bとから構成されている。一般に、筐体bは上部材ubおよび下部材lbとからなり、この2つの部材ub,lbの中に単電池cを収納した後に、それぞれの周囲が接合され筐体として形成されている。また、筐体bには電池パックPを取り付ける装置と単電池cとを電気的に接続するための端子tが設けられる。さらに、過放電を防止するための過放電保護回路fが組み込まれる。
【0023】
つぎに、電池パック処理装置Aを用いた電池パックPの処理方法について説明する。
廃電池として廃棄された多数の電池パックPは搬送籠41に投入され、ホイストクレーン42によって搬送籠41ごと冷却槽10に挿入される。
つぎに、プレス機20の油圧シリンダが伸長し、加圧板21と搬送籠41の底面とで多数の電池パックPを挟んで一度に加圧する。プレス機20の加圧力は各電池パックPにほぼ均一に作用するため、各電池パックPは筐体bが破壊され、筐体bの内部に通ずる開口部が形成される。
このとき、一般的には、筐体bの上部材ubと下部材lbとの接合部が潰れ変形することで、開口部が形成される。また、場合によっては、筐体bが2つに割れることもある。
【0024】
このように、加圧時にはプレス機20の加圧板21のみを冷却液に浸ければよく、プレス機20のその他の機構部分等を冷却液に浸ける必要がないので、プレス機20が腐食しにくく、装置のメンテナンスが容易である。また、プレス機20は大気中に設置できるので、装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスが容易である。
【0025】
ところで、プレス機20で電池パックPを加圧していくと、筐体bが破壊されるとともに、筐体bに収納された単電池cも潰される。そのため、過剰な圧力を加えると、未放電の単電池cが含まれていると、単電池cが潰れて短絡することにより発熱し、単電池c内の電解質に含まれる有機溶媒が揮発してガスが噴射されたり、場合によっては発火点を超えて炎が燃え上がったりする場合がある。特に、電圧の高いリチウムイオン電池では、この発熱や爆発が顕著であり危険である。
【0026】
そこで、プレス機20の制御装置により、プレス機20の加圧力を、筐体bに開口部が形成でき、かつ、単電池cが発火する圧力よりも小さい圧力とすることが好ましい。このようにすれば、単電池cが潰れて短絡することにより発火することがなく、安全である。
【0027】
ただし、本発明の場合、冷却液に電池パックPが没入された状態で筐体bに開口部を形成するので、単電池cが潰れて短絡することにより発熱しても冷却液で単電池cを冷やすことで発火を抑制することができる。また、発火したとしても直ぐに消火されるため火災となることがなく安全である。
【0028】
なお、電池パックPの形状によっては、一部の電池パックPにプレス機20の加圧力が十分に伝わらない場合も考えられる。このような場合には、電池パックPと共に、小物体を搬送籠41に投入すればよい。
このようにすれば、電池パックPと電池パックPとの間に、小物体が挟まり、その小物体によって加圧力が伝達されるので、全ての電池パックPにプレス機20の加圧力を効果的に伝えることができる。
小物体は、プレス機20の加圧力により破砕されないように電池パックPより硬質であり、かつ電池パックPよりも寸法の小さな物であればよい。具体的には、鋼球、砕石、棒材などを用いることができる。
なお、小物体を投入することにより、低い加圧力で開口部を形成できるという効果もある。
【0029】
つぎに、プレス機20による加圧が終わると、ホイストクレーン42が、搬送籠41を冷却槽10から引き上げ、冷却槽10から放電槽30まで移動させ、放電槽30に挿入する。このようにして、多数の電池パックPを一度に冷却槽10から放電槽30に搬送することができる。
なお、搬送籠41に上記小物体を投入した場合には、搬送籠41を冷却槽10から放電槽30まで移動させる間に、電池パックPと小物体とを分別し、小物体を回収することが好ましい。このようにすれば、小物体を再利用できるからである。電池パックPと小物体は、篩分けや磁石を用いて分別することができる。
【0030】
放電槽30に投入された電池パックPは筐体bに開口部が形成されているから、放電液はその開口部から筐体bの内部に流入する。したがって、単電池cを個々に放電液に浸漬したのと同じ状態にできる。
前述の通り、電池パックPをそのまま放電液に浸漬しても筐体bに設けられた端子tを通して放電することができるが、過放電を防止するための過放電保護回路fが働いて放電電流が抑制されるため、放電するのに単電池c個々の場合の数倍から10倍程度の長時間が必要である。これに対して、本発明では、単電池cを個々に放電液に浸漬したのと同じ状態にできるため、電流が電池パック内の過放電保護回路fをバイパスして流れることで数時間から24時間程度短時間で放電を行うことができる。その結果、操業上の手間やコストを低減することができる。
また、搬送籠41に多数の電池パックPを収容することで、一度に多数の電池パックPを放電することができる。
【0031】
(他の実施形態)
上記実施形態では、電池パック処理装置Aは、冷却槽10と放電槽30を1つずつ備えているが、1つの冷却槽10に対して複数の放電槽30を備え、ホイストクレーン42をその1つの冷却槽10と各放電槽30との間を移動できるように構成してもよい。
冷却槽10で電池パックPを加圧するのにかかる時間に対して、放電槽30で電池パックPを放電する時間の方が長時間となるので、上記構成とすることにより、冷却槽10および放電槽30の稼働率を最適化することができる。
【0032】
(試験)
つぎに、上記実施形態に係る電池パック処理方法の試験について説明する。
(実施例1)
試験は、ノートパソコン用リチウムイオン電池パックを用いて行った。本電池パックには、18650型(直径18mm、長さ65mmの円筒型)のリチウムイオン電池の単電池が6本収容されており、単電池3本が並列に接続されたもの2組が直列に接続されている。筐体の外径は幅115mm、奥行70mm、高さ23mmである。なお、本電池パックの電圧仕様は7.4Vである。また、冷却槽はステンレス製の水槽であり、冷却液として水が入れられている。放電槽はFRP製の水槽であり、放電液として濃度が1mol/lの塩化ナトリウム水溶液が入れられている。
【0033】
電池パックを加圧する前に、電池パックの端子間電圧を測定した結果、7.4Vであった。単電池3本が並列に接続されたもの2組が直列に接続されているので、それぞれの単電池の電圧は3.7Vである。
つぎに、電池パック一つを冷却槽に没入し、冷却槽の底面と加圧板とで挟んでプレス機で加圧した。このときプレス機の加圧力を約70kg/cm2とした。なお、本加圧力は電池パックに加えられる圧力である。加圧後の電池パックの筐体は、接合部が変形し、放電液が流入できる開口部が形成されていた。
つぎに、電池パックを放電槽に投入し、放電液に24時間浸漬した。
放電液に浸漬後、筐体を解体して単電池を取り出し、単電池の電圧を測定した結果、いずれの単電池も1V以下となっていた。電圧が1.5V以下であれば、単電池が短絡しても発火しないことが知られているので、以上の操作により、十分放電されていることが確認できた。
【0034】
(実施例2)
実施例1において、3つの電池パックを重ねて冷却槽に没入し、冷却槽の底面と加圧板とで挟んでプレス機で加圧した。このときプレス機の加圧力を約70kg/cm2とした。加圧後の電池パックの筐体は、3つとも、接合部が変形し、放電液が流入できる開口部が形成されていた。
つぎに、その3つの電池パックを放電槽に投入し、放電液に24時間浸漬した。
放電液に浸漬後、筐体を解体して単電池を取り出し、単電池の電圧を測定した結果、いずれの電池パックのいずれの単電池も1V以下となっていた。このことから、一度に複数の電池パックを処理しても、すべての電池パックに開口部を形成し、十分放電できることが確認できた。
【0035】
(実施例3)
実施例2において、3つの電池パックを重ねて冷却槽に没入し、冷却槽の底面と加圧板とで挟んでプレス機で加圧した。このときプレス機の加圧力を約100kg/cm2とした。そうすると、冷却槽内で電池パックが発熱し、冷却液が突沸し、冷却槽の周囲に飛散した。したがって、単電池が短絡して発火したと考えられる。
しかし、炎が発生することなく、安全に処理できることが確認できた。
【0036】
(実施例4)
実施例2において、3つの電池パックを重ねて冷却槽に没入する際に、小物体として直径5〜8mmの鋼球を数個、電池パックの間に挟まるようにした。プレス機の加圧力を徐々に上げながら、電池パックを加圧すると、70kg/cm2に達する前に電池パックに開口部が形成された。
これより、電池パックとともに小物体を没入することで、低い加圧力で開口部を形成できることが確認できた。
【0037】
(比較例1)
実施例3において、冷却槽内の冷却液を抜き、3つの電池パックを大気中に置いた。この電池パックを冷却槽の底面と加圧板とで挟んでプレス機で加圧した。このときプレス機の加圧力を約100kg/cm2とした。
そうすると、一つの電池パックからガスが噴出した後激しい炎が発生し、連鎖的に他の電池パックに引火して火災が発生した。
このことから、大気中で電池パックに過剰な圧力を加えると危険であることが分かった。また、実施例3のように過剰な圧力を加えたとしてもの電池パックを冷却液に没入している場合には、安全であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る電池破砕装置および破砕方法は、リチウムイオン電池等の電池を安全に破砕するために利用される。
【符号の説明】
【0039】
10 冷却槽
11 電解質除去器
20 プレス機
21 加圧板
30 放電槽
40 搬送機
41 搬送籠
42 ホイストクレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単電池と該単電池を収納する筐体とからなる電池パックを、放電液に浸漬させて放電させるための処理装置であって、
冷却液を保持し、該冷却液に前記電池パックが没入される冷却槽と、
前記冷却液に没入された前記電池パックの前記筐体に、該筐体の内部に前記放電液が流入できる開口部を形成する開口機とを備える
ことを特徴とする電池パック処理装置。
【請求項2】
前記開口機は、前記電池パックを加圧して、前記筐体に前記開口部を形成するものである
ことを特徴とする請求項1記載の電池パック処理装置。
【請求項3】
前記開口機は、加圧板を備え、該加圧板と前記冷却槽の底面とで前記電池パックを挟んで加圧するプレス機である
ことを特徴とする請求項2記載の電池パック処理装置。
【請求項4】
前記冷却液は、非引火性であり、かつ、前記冷却槽および前記開口機を腐食しない性質を有する液体である
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の電池パック処理装置。
【請求項5】
前記冷却液は、水である
ことを特徴とする請求項4記載の電池パック処理装置。
【請求項6】
前記単電池に含まれる電解質が流出した前記冷却液から、該電解質を除去する電解質除去器を備える
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の電池パック処理装置。
【請求項7】
前記放電液を保持し、前記筐体に前記開口部が形成された前記電池パックが該放電液に浸漬される放電槽と、
前記電池パックを、前記冷却槽から前記放電槽に搬送する搬送機とを備える
ことを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の電池パック処理装置。
【請求項8】
前記搬送機は、
前記電池パックを収容し、前記冷却液および前記放電液を流入、排出することができる搬送籠と、
前記冷却槽に挿入された前記搬送籠を引き上げ、前記放電槽に挿入する搬送クレーンとを備える
ことを特徴とする請求項7記載の電池パック処理装置。
【請求項9】
単電池と該単電池を収納する筐体とからなる電池パックを、放電液に浸漬させて放電させるための処理方法であって、
前記電池パックを冷却液に没入した状態で、
前記電池パックの前記筐体に、該筐体の内部に前記放電液が流入できる開口部を形成する
ことを特徴とする電池パック処理方法。
【請求項10】
前記電池パックを加圧して、前記電池パックの前記筐体に前記開口部を形成する
ことを特徴とする請求項9記載の電池パック処理方法。
【請求項11】
前記冷却液は、非引火性であり、かつ、前記冷却液を保持する冷却槽、および、前記筐体に前記開口部を形成する開口機を腐食しない性質を有する液体である
ことを特徴とする請求項9または10記載の電池パック処理方法。
【請求項12】
前記冷却液は、水である
ことを特徴とする請求項11記載の電池パック処理方法。
【請求項13】
前記単電池に含まれる電解質が流出した前記冷却液から、該電解質を除去する
ことを特徴とする請求項9、10、11または12記載の電池パック処理方法。
【請求項14】
前記筐体に前記開口部が形成された前記電池パックを、前記放電液に浸漬する
ことを特徴とする請求項9、10、11、12または13記載の電池パック処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−160269(P2012−160269A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17423(P2011−17423)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】