説明

電池モジュールの車両搭載用構造体

【課題】車両の衝突時等における衝撃から電池モジュール及びその電池モジュール制御用の高電圧部品等を保護でき、車両内における省スペース化、軽量化を図った電池モジュールの車両搭載用構造体の提供を目的とする。
【解決手段】電池モジュールを車両に搭載するための構造体であって、当該構造体は電池モジュールを固定するための下枠体を備え、当該下枠体は車両の前後方向のフロント側に位置するフロントフレームとリア側に位置するリアフレーム、及び当該フロントフレームとリアフレームの両端部を連結した左右一対のサイドフレームとを有し、フロントフレームは中空断面形状からなるとともに当該フロントフレームに一体的に形成した車両に固定するための締結用フランジを有し、サイドフレームは当該サイドフレームに一体的に形成した車両に固定するための締結用フランジを有し、前記フロントフレームとサイドフレームの締結用フランジを部分的に重ね合せ、車両側に共締め固定可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両に電池モジュールを搭載するための構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や、モーターとエンジンとを組み合せたハイブリッド自動車は駆動用電源として電池モジュールを搭載する必要がある。
この種の車両に搭載される電池モジュールは繰り返し充放電が可能なニッケル−カドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の二次電池モジュールが例として挙げられる。
車両の1回の充電当たりの走行距離を長くするには電池モジュールの搭載重量が重くなることから、電池モジュールを車両に搭載するのに用いる構造体は軽量化と車両に衝撃が加わった際の安定性の確保の両立が要求される。
特許文献1は車体側面から衝突があった場合に車体側面部と組電池とが干渉するのを抑制する目的で組電池が上方に従って車幅方向寸法が小さくなるように積層する技術を開示する。
しかし、車両の衝突時の変形量を想定するのが難しく、安全率を大きくすると組電池(電池モジュール)の搭載空間が十分に確保できなくなる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−226610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は車両の衝突時等における衝撃から電池モジュール及びその電池モジュール制御用の高電圧部品等を保護でき、車両内における省スペース化、軽量化を図った電池モジュールの車両搭載用構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る車両搭載用構造体は、電池モジュールを車両に搭載するための構造体であって、当該構造体は電池モジュールを固定するための下枠体を備え、当該下枠体は車両の前後方向のフロント側に位置するフロントフレームとリア側に位置するリアフレーム、及び当該フロントフレームとリアフレームの両端部を連結した左右一対のサイドフレームとを有し、フロントフレームは中空断面形状からなるとともに当該フロントフレームに一体的に形成した車両に固定するための締結用フランジを有し、サイドフレームは当該サイドフレームに一体的に形成した車両に固定するための締結用フランジを有し、前記フロントフレームとサイドフレームの締結用フランジを部分的に重ね合せ、車両側に共締め固定可能であることを特徴とする。
ここで、フロント側とは車両にこの構造体を固定した際に車両の進行方向前方側に位置することをいい、リア側とは車両後方側に位置することをいう。
また、電池モジュールとは複数の発電要素を積層したもののみならず、個々の電池を複数個パーケージングしたもの等、車両の駆動電源等に用いられる電池の集合体をいう。
本発明でフロントフレームとサイドフレームの締結用フランジを部分的に重ね合せ、車両側に共締め固定するとは、本発明に係る構造体を車両のフロアやサイドメンバー等の車体の骨組材にボルト等で固定する際にフロントフレームに一体的に形成した締結用フランジとサイドフレームに一体的に形成した締結用フランジとを共通のボルト等の締結具で締め付けることで車両側に固定することをいう。
【0006】
本発明でフロントフレームは上面側に高電圧部品の取付部を有するようにするのが好ましい。
ここで高電圧部品とは、100〜300V等の比較的高電圧が印加されている中継ボックスであるジャンクションボックス(J/B)等の車両の衝突時に発火を抑える必要がある電気部品をいう。
電池モジュールは電池の集合体であり、近年高電圧化の傾向にある。
【0007】
本発明で電池モジュールを下枠体のみを用いて車両側に固定することも可能だが、電池モジュールの上部を覆う上枠体を有し、前記フロントフレームと前記上枠体のフロント側に位置するフロント上フレームとをフロント側壁フレームで連結し、当該フロント側壁フレームは車幅方向に所定の隙間を設けた側面視で略アーチ形状のアーチ連結部を複数有し、当該フロント側壁フレームの内側に前記高電圧部品を配置してあるのが好ましい。
この場合にアーチ連結部間の隙間から前記高電圧部品のメンテナンスが可能になっているのが好ましい。
【0008】
本発明に係る構造体は車両の前方衝突や後方衝突(前後方向の衝撃)及び車両側面衝突(側突)のいずれに対しても保護効果が高いが、構造体を車両に取り付ける際に下枠体のサイドフレームは車両側のホイールハウスの車幅方向内側に沿って取り付けられ、左右のホイールハウスの位置よりも外れた位置に前記フロントフレームが位置するように配置すると、側突時に変形しにくいホイールハウスに位置しつつ、ホイールハウスから外れた部分をフロントフレームにて変形を抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る構造体にあっては、サイドフレームに一体的に形成した締結用フランジと、フロントフレームに一体的に形成した締結用フランジとを車両側にボルト等の締結具で共締め固定することで、衝突荷重が分散する。
即ち、衝突荷重がフロントフレーム及びサイドフレームを介して構造体全体に分散するので、電池モジュールの保護効果が高い。
この場合にフロントフレームの断面形状を中空断面形状にしたことにより、前後方向の変形荷重も高くなるが、車幅方向の変形荷重をより大きく設定することができ、車両の側面部と電池モジュールの干渉を抑え、電池モジュールの損傷を防ぐ。
また、このフロントフレームの上面側に高電圧部品の取付部を形成すると、高電圧部品の損傷も抑えつつ、構造体の軽量化とコンパクト化を図ることができる。
【0010】
本発明で上枠体のフロント上フレームと下枠体のフロントフレームとを側面視で略アーチ状のアーチ連結部で連結すると、次のような効果がある。
本発明に係る構造体の車両取り付け位置に限定はないが、例えば後列座席シートの後方に取り付けた場合、車両後突により、電池モジュールが車両前方側に移動した際に構造体の前側に配置されているシートのバック部分と干渉する恐れがあるが、このアーチ連結部がシートバックとの強い干渉を抑えるように作用する。
また、アーチ連結部間にメンテナンス用の隙間を設けると、高電圧部品に対するアクセスが容易であるとともにアーチ状にしたことにより入力加重も分散する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る電池モジュールの車両搭載用構造体の例を示す。
【図2】構造体から上枠体を取り外した状態を示す。
【図3】上枠体の例を示す。
【図4】(a)は構造体の平面図を示し、(b)はフロント側壁フレームの連結構造例を示す。
【図5】(a)は下枠体からフロントフレームを取り外した状態を示し、(b)はその側面視を示す。
【図6】構造体の車両取付構造例を示す。
【図7】フロントフレームに立上がり部を形成した例を示す。
【図8】フロントフレームに立上がり部を設けた場合の全体図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る電池モジュールの車両搭載用構造体(以下単に構造体という。)100の外観斜視図を図1に示す。
構造体100は図2に示した下枠体10と図3に示した上枠体20とからなる。
下枠体10は車両側に構造体100を固定した際に車両前方側に位置するフロントフレーム11と車両後方側に位置するリアフレーム12との両端部付近を左右一対のサイドフレーム13,14にて連結した枠体になっている。
下枠体10の枠内側にフロアパネル15とフロントフレーム11及びリアフレーム12を内側で連結した連結フレーム16とを有し、フロアパネル15の上面に二点鎖線で示した電池モジュール1を固定する。
また、ジャンクションボックス(J/B)等の高電圧部品を収納した中継箱(高電圧部品)2a,2b,2cをフロントフレーム11の上面側に取り付ける。
【0013】
図2に示した例は下枠体10のリア側にリア側壁フレーム40を予め連結した状態を示す。
フロントフレーム11は中空断面形状からなるアルミニウム合金の押出形材を用いて製作してあり、車両に固定するための締結用フランジ11aが一体的に形成されている。
ここで一体的に形成するとは、フロントフレーム11の本体部と締結用フランジ11aとが物理的に一体になるように押出成形されていることをいう。
本実施例はフロントフレーム11の断面形状を略日字形状の中リブを有する中空断面形状にするとともに本体部の下面からリア側に張り出すように締結用フランジ11aを形成し、本体部の上面からフロント側にフロント側壁フレーム30を締結するフランジ11bを張り出した例になっている。
このフランジ11bにスタッドボルト11cを立設してあり、図1に示すように上枠体20のフロント上フレーム21に上部を連結したフロント側壁フレーム30の下部の取付孔32bをスタットボルト11cに挿通し、ナット32a等で締結する。
【0014】
本実施例では、リアフレーム12も日字断面形状の中空断面からなるアルミニウム合金の押出形材を用いて製作してある。
その他にロ字断面形状や目字断面形状でも良い。
図2に示すようにリアフレーム12は車幅方向に所定の間隔を隔てて、それぞれ前後方向に対向する一対のリブ12aを立設し、このリブ12aの間に縦フレーム42を嵌合溶接し、この縦フレーム42の上端部を連結するように上部フレーム41を取り付けた例になっている。
フロントフレーム11とリアフレーム12との車幅方向両端部付近は、左右のサイドフレーム13,14で連結してあるが、この左右のサイドフレーム13,14もアルミニウム合金の押出形材を用いて製作してあり、車両側との締結用フランジ13a,13b、14a,14bを一体的に形成してある。
サイドフレーム13,14に複数形成した締結用フランジのうち、フロント側の締結用フランジ13a,14aはフロントフレーム11の締結用フランジ11aと重なり合うようになっていて、車両側にボルト等の締結具14cを用いて共締め固定される。
なお、リアフレームにも一体的に締結用フランジを形成し、サイドフレームの締結用フランジとともに車両側に共締め固定してもよい。
【0015】
上枠体20はフロント上フレーム21とリア上フレーム22との両端部付近を左右一対のサイド上フレーム23,24にて連結した枠体になっていて、枠の内側に上パネル25を配置した例になっている。
本実施例は図3に示すようにフロント上フレーム21にフロント側壁フレーム30が予め連結した例となっている。
その構造例を図4(b)に示す。
フロントフレーム11の上面に連結する断面L字形状のパネル体32の上端部とフロント上フレーム21とを側面視でアーチ形状のアーチ連結部31で連結してある。
アーチ状連結部31は複数の中リブ31bを有する中空断面形状になっていて、下端側は対向する一対の連結リブ31aを有し、この連結リブ31aの間にパネル体32の上端部を嵌合させ、溶接等にて連結する。
また、フロント上フレームも中空断面形状になっているとともに対向する一対の連結リブ21aを形成し、その間にアーチ状連結部の上端を嵌合し、溶接等にて連結した例になっている。
隣り合うアーチ状連結部31の間に形成された隙間Sからアクセスできるように高電圧部品2(2a,2b,2c)を配置してあり、メンテナンスが容易になっている。
このように構造体のフロント側をアーチ形状からなるアーチ連結部にしたことにより、シートバック等との干渉時にその衝撃が分散し、高電圧部品を保護する。
【0016】
図6に構造体100を車両のフロア3に取り付け固定した例を示す。
左右のサイドフレーム13,14が車体に有するホイールハウス4の内側に位置するように配置する。
この場合に図示を省略したが、フロントフレーム11の前方に座席が位置し、そのシートバックがフロント側壁フレームに沿って立設し、シートバック上方がアーチ連結部31に沿って後方斜めに傾斜した位置関係になる。
【0017】
フロントフレームに高電圧部品の保護機能を付与した例を図7及び図8に示す。
図1〜図5に示した先の実施例は、上面がフラット状のフロントフレームの上面に高電圧部品を取り付け、車両の後突衝撃におけるシートバックとの干渉からアーチ連結部31を有するフロント側壁フレーム30にて高電圧部品を保護した例であったのに対して、図7及び図8に示した実施例はフロントフレーム11の本体部を中空断面形状のベース部11dから前方側にL字状に立上がり部11eを形成することで、フロントフレーム11そのものに高電圧部品の保護機能を付与した例である。
立上がり部11eは中実断面でもよいが、本実施例は中空断面形状になっている例である。
このようにフロントフレーム11を側面視でL字形状にすると車両の側突衝撃に対しても前後突衝撃に対しても剛性向上及びエネルギー吸収向上を図ることができる。
この場合に高電圧部品をフロントフレーム11の上面側に取り付けるとは、L字形状の内側であって、ベース部11dの上面側であることをいう。
また、本実施例はアーチ連結部31にフロントフレームと連結するためのパネル体31cを一体的に形成し、この下部に設けた取付孔31dをスタッドボルト11cに挿通し、ナット32a等で締結する。
【符号の説明】
【0018】
1 電池モジュール
2(2a,2b,2c) 高電圧部品
10 下枠体
11 フロントフレーム
11a 締結用フランジ
12 リアフレーム
13 サイドフレーム
14 サイドフレーム
14a 締結用フランジ
15 フロアパネル
20 上枠体
21 フロント上フレーム
22 リア上フレーム
23 サイド上フレーム
24 サイド上フレーム
25 上パネル
30 フロント側壁フレーム
31 アーチ連結部
40 リア側壁フレーム
100 構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池モジュールを車両に搭載するための構造体であって、
当該構造体は電池モジュールを固定するための下枠体を備え、
当該下枠体は車両の前後方向のフロント側に位置するフロントフレームとリア側に位置するリアフレーム、及び当該フロントフレームとリアフレームの両端部を連結した左右一対のサイドフレームとを有し、
フロントフレームは中空断面形状からなるとともに当該フロントフレームに一体的に形成した車両に固定するための締結用フランジを有し、
サイドフレームは当該サイドフレームに一体的に形成した車両に固定するための締結用フランジを有し、前記フロントフレームとサイドフレームの締結用フランジを部分的に重ね合せ、車両側に共締め固定可能であることを特徴とする電池モジュールの車両搭載用構造体。
【請求項2】
前記フロントフレームは上面側に高電圧部品の取付部を有することを特徴とする請求項1記載の電池モジュールの車両搭載用構造体。
【請求項3】
電池モジュールの上部を覆う上枠体を有し、前記フロントフレームと前記上枠体のフロント側に位置するフロント上フレームとをフロント側壁フレームで連結し、当該フロント側壁フレームは車幅方向に所定の隙間を設けた側面視で略アーチ形状のアーチ連結部を複数有し、当該フロント側壁フレームの内側に前記高電圧部品を配置してあることを特徴とする請求項2記載の電池モジュールの車両搭載用構造体。
【請求項4】
前記アーチ連結部間の隙間から前記高電圧部品のメンテナンスが可能になっていることを特徴とする請求項3記載の電池モジュールの車両搭載用構造体。
【請求項5】
前記下枠体のサイドフレームは車両側のホイールハウスの車幅方向内側に沿って取り付けられ、左右のホイールハウスの位置よりも外れた位置に前記フロントフレームが位置するように配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかの電池モジュールの車両搭載用構造体の車両取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−89448(P2013−89448A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228722(P2011−228722)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】