説明

電池機能を有する熱交換器および該熱交換器を用いたメタン発酵処理システム

【課題】メタン発酵処理によって得られたメタン発酵液、特に、高温メタン発酵法、超高温メタン発酵法によって得られたメタン発酵液が持っている熱量を有効利用すると共に電力も回収することができる電池機能を有する熱交換器および当該熱交換器を利用したメタン発酵処理システムを提供する。
【解決手段】好気性処理物をメタン発酵処理するためにメタン発酵槽に投入する際に、メタン発酵槽上流に、複極仕切り板間に隔膜を設け、前記隔膜によって分割された一方側には負極活物質として嫌気性処理液を供給し、他方側には正極活物質として好気性処理物を供給して、前記好気性処理物を前記嫌気性処理液によって昇温するような電池機能を有する熱交換器を設けて、嫌気性処理である前記メタン発酵処理によって得られたメタン発酵液と前記好気性処理物との間で熱交換をした後、前記好気性処理物を前記メタン発酵槽に投入するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池機能を有する熱交換器および該熱交換器を用いたメタン発酵処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、生ごみ、家畜糞尿、下水処理汚泥等の有機性廃棄物を原料としてメタン発酵処理(嫌気性処理)を行い、生成するバイオガスからメタンガスを精製してエネルギー変換装置であるガスエンジン等の燃料として使用する技術が知られている。そして、前述した有機性廃棄物をメタン発酵することによって生成されたバイオガスには、メタンが約50〜60体積%、二酸化炭素が約40〜50体積%、硫化水素が約0.3体積%程度含まれている。
【0003】
ここで、硫黄分が残っているバイオガスを、燃料として後段に設けられたガスエンジン等に使用すると、エンジン部分のピストンやシリンダ内に硫黄が析出し、エンジンの効率が落ちたりエンジン自体に故障が発生するため、バイオガスを脱硫装置に通して該ガス中に含まれる硫化水素中の硫黄分を除去、いわゆる脱硫してから燃料としてガスエンジン等に供給することとしている。
【0004】
脱硫方法としては、硫黄酸化細菌等による生物脱硫や金属触媒(鉄触媒等)を用いる脱硫方法があるが、特許文献1には、作用極に微生物(硫黄酸化細菌等)を担持し、対極と該作用極との間にイオン透過性膜を設け、例えば作用極には硫化水素ガス、対極(空気極)には空気または酸素等の対極ガスを供給することにより脱硫し、かつ電力を取り出す硫化水素電池の技術が記載されている(図1)。さらに、特許文献1では、硫化水素の他に有機性物質含有水、アルカリ含有水又はメタン発酵液を供給することにより電力を取り出すことができる旨、記載されている。
【0005】
一方、メタン発酵処理においては、中温メタン発酵法、高温メタン発酵法、超高温メタン発酵法が知られているが、滞留時間は、中温メタン発酵(至適温度37℃)が20〜30日間程度、高温メタン発酵(至適温度55℃)が15日間程度、超高温メタン発酵(至適温度65℃)が10日間程度と、各方法によって異なっており、発酵効率の点から滞留時間が短い高温メタン発酵法、超高温メタン発酵法が増える傾向にある。そして、各発酵法によって得られたメタン発酵液は、窒素成分を除去した後、液肥等に利用されているのが現状である。
【0006】
しかし、高温メタン発酵法、超高温メタン発酵法によって得られたメタン発酵液は、その液温は約50〜65℃と高いことから、窒素分を除去し液肥として使用する前に、発酵液が持っている熱量を有効に利用するための技術が望まれていた。
特許文献1に記載された技術においては、作用極にメタン発酵液を供給することにより電力を取り出す技術が記載されているのみであって、メタン発酵液が持っている熱量を利用する技術は何ら記載されていない。また、空気極を製造するには高いコストや高度な技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−159112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、その目的は、メタン発酵処理によって得られたメタン発酵液、特に、高温メタン発酵法、超高温メタン発酵法によって得られたメタン発酵液が持っている熱量を有効利用すると共に電力も回収することができる電池機能を有する熱交換器および当該熱交換器を利用したメタン発酵処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明に係る電池機能を有する熱交換器の第1の態様は、複極仕切り板間に隔膜を設け、前記隔膜によって分割された一方側には負極活物質として嫌気性処理液を供給し、他方側には正極活物質として好気性処理物を供給して、前記好気性処理物を前記嫌気性処理液によって昇温することを特徴とするものである。
【0010】
本態様によれば、一方側には負極活物質として嫌気性処理液を供給し、他方側には正極活物質として好気性処理物を供給することで電池としの機能を有するだけでなく、嫌気性処理液が好気性処理物よりも温度が高いことで両者の間で熱交換を行うことができ、また電力も回収することができるという効果を有している。
【0011】
本発明に係る電池機能を有する熱交換器の第2の態様は、第1の態様において、前記嫌気性処理は50℃以上のメタン発酵処理であることを特徴とするものである。
【0012】
本態様によれば、第1の態様の効果に加え、50℃以上のメタン発酵処理、いわゆる高温メタン発酵または超高温メタン発酵によって得られるメタン発酵液が有する熱量を、好気性処理物を昇温するために無駄なく有効に利用することができる。また、熱交換した際の温度が高ければ電池の性能を高めやすく電力の回収量も上げることが可能である。
【0013】
本発明に係る電池機能を有する熱交換器の第3の態様は、第1の態様または第2の態様において、前記複極仕切り板が炭素あるいは鉄、または炭素あるいは鉄を含有するシート状物から成ることを特徴とするものでる。
【0014】
本態様によれば、第1の態様または第2の態様の効果に加え、複極仕切り板が炭素あるいは鉄で構成されているので、熱伝導性が良く他の素材で構成されたものより熱交換の効率が良いという効果を有している。また、炭素あるいは鉄を含有するシートで複極仕切り板を構成した場合にも同様の効果を有する。
【0015】
本発明に係るメタン発酵処理システムの態様は、好気性処理物をメタン発酵処理するためにメタン発酵槽に投入する際に、メタン発酵槽上流に、第1の態様から第3の態様のいずれか一つに記載された電池機能を有する熱交換器を設けて、嫌気性処理である前記メタン発酵処理によって得られたメタン発酵液と前記好気性処理物との間で熱交換をした後、前記好気性処理物を前記メタン発酵槽に投入するように構成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本態様によれば、処理された温度が低い好気性処理物をメタン発酵槽に投入する際に、第1の態様から第3の態様のいずれかの電池機能を有する熱交換器を利用して、好気性処理物と嫌気性処理液である高温のメタン発酵液との間で熱交換を行うことにより、メタン発酵液が有する熱量を有効に利用できると共に、メタン発酵の効率の低下を防止することができる。
【0017】
すなわち、温度の低い好気性処理物(通常15〜20℃)をメタン発酵処理する際に、そのままメタン発酵槽に投入すると発酵槽内の温度が下がり、温度が下がった分だけ、元の発酵温度まで発酵槽内の温度を戻す(上げる)必要がある。この際、好気性処理物の温度が低い程、発酵槽内の温度が元に戻るまでに時間がかかり、そのためメタン発酵の効率が低下してしまうことになる。そこで、第1の態様から第3の態様のいずれかの電池機能を有する熱交換器を用いて、メタン発酵槽に投入する前の好気性処理物の温度を、メタン発酵液が有する熱量を利用して好気性処理物との熱交換により上げておくことで、メタン発酵の効率の低下を防ぐことができる。
このように、本態様は、メタン発酵液の熱量を有効利用するとともに、メタン発酵の効率を低下することも防止し、さらに電力も回収することができるという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態であるメタン発酵システムの概略構成図
【図2】本発明に係る電池機能を有する熱交換器の拡大図
【図3】嫌気性処理液、好気性処理物中における電位と電流との関係
【図4】実験装置である簡易メタン発酵システムの概略構成図
【図5】実験例1による時間と電流の関係を表す図
【図6】実験例2による時間と電流の関係を表す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を参照しながら、本発明に係る電池機能を有する熱交換器および該熱交換器を用いたメタン発酵処理システムの実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
[実施形態]
図1には、本発明に係る電池機能を有する熱交換器を用いたメタン発酵システムの概略構成図が示されている。
【0021】
本態様のメタン発酵処理システムは、好気性処理が行われ沈殿槽2に沈殿している好気性処理物Sおよび被発酵材Mをメタン発酵処理(嫌気性処理)するためのメタン発酵槽3、そしてメタン発酵液Lと好気性処理物Sとの熱交換を行いつつ、電力も回収することができる電池機能を有する熱交換器1で構成されている。
なお、メタン発酵処理によってメタン発酵槽3で生成されるバイオガスG1に含まれる硫化水素中の硫黄分を除去(脱硫)するための脱硫装置4が、メタン発酵槽3の下流側に設けられている。
【0022】
本態様で使用される好気性処理物Sは、例えば下水をエアレーション等により好気性処理を行った際の活性汚泥等が挙げられるが、好気性処理の対象は下水に限られるものではなく、他には、家畜糞尿等の有機性廃棄物が挙げられる。なお、好気性処理物の温度は通常15〜20℃程度である。
また、被発酵材Mとしては、例えば畜産廃棄物、下水処理汚泥(活性汚泥)、緑農廃棄物などが挙げられる。畜産廃棄物としては、家畜(例えば、豚、牛、ニワトリ等)の糞尿や、屠体および/またはその加工品が挙げられる。また、緑農廃棄物には家庭の生ゴミの他、産業廃棄物生ごみとして、農水産業廃棄物、食品加工廃棄物等が含まれる。
【0023】
メタン発酵は、いわゆる中温型、高温型、超高温型等のいずれのタイプでも適用可能であるが、メタン発酵液と好気性処理物の熱交換の効率を考慮すると、高温型または超高温型が好ましい。
【0024】
メタン発酵槽3は、絶対嫌気性のメタン発酵菌による活動を維持するために、空気を遮断したタンクにより構成される。発酵槽3は固形物濃度(通常3〜40重量%の範囲)と発酵温度(通常、中温発酵では約32〜37℃、高温発酵では約52〜55℃、超高温発酵では約60〜70℃)によって、形状や運転条件が異なってくる。例えば、高含水率になった原料(固形物濃度10重量%まで)の場合は湿式型の完全混合方式の発酵槽が用いられる。
【0025】
高含水率の原料(固形物濃度を10重量%程度まで)の場合は、完全混合方式の発酵槽を用い、中温メタン発酵菌(至適温度37℃)では滞留時間を20〜30日間程度、高温メタン発酵菌(至適温度55℃)では滞留時間(Retention Time)を15日間程度、超高温メタン発酵菌(至適温度65℃)では滞留時間(Retention Time)を10日間程度、とすることが可能である。なお、メタン発酵の効率およびメタン発酵液と好気性処理物の熱交換の効率を考慮すると、滞留時間が短い高温メタン発酵菌または超高温メタン発酵菌を用いたメタン発酵を行うのが好ましい。
【0026】
一方、低含水率の原料(固形物濃度約20〜40重量%)の場合は、被処理物の固形分濃度を30〜40重量%にして押出し式の発酵槽を使用できる程度の固さに調整する。滞留時間については高含水率の場合と同様に設定することができる。また、C(炭素)/N(窒素)比の調整のために、必要に応じて若干の有機成分を導入することもできる。
【0027】
なお、メタン発酵槽3には昇温維持手段3’が設けられており、これは加熱または保温ができる装置であればよく、温水ヒーター等公知のものが使用可能である。
【0028】
メタン発酵処理によって生成されたバイオガスG1はバイオガスG1に含まれる硫化水素中の硫黄分を除去(脱硫)するための脱硫装置4に送られ、脱硫後、精製されたメタンガスとしてガスエンジン等の燃料に利用される
脱硫装置4としては、生物脱硫等や鉄等の金属触媒を用いた充填塔等公知のものが使用できる。
【0029】
図2には本態様で用いられている電池機能を有する熱交換器1の拡大図が示されている。
【0030】
熱交換器1は、複極仕切り板102、複極仕切り板102間に設けられた隔膜103、および隔膜103によって複極仕切り板102間が分割された一方側の部分(A)と他方側の部分(B)、いわゆる流路(A)、(B)を有する構造を1ユニット(セル)とし、該ユニット(セル)が積層(積層セル)された状態で構成されている。なお、積層された端始と端末には、集電板101が設けられている。
前記一方側の部分(A)には負極活物質として高温のメタン発酵液Lが供給され、前記他方側の部分(B)には正極活物質として低温の好気性処理物S(例えば活性汚泥)を供給することにより両者間で熱交換が成されるとともに電池の機能も有するように構成されている。
本態様では、メタン発酵液Lと活性汚泥Sが対向する状態で供給されているが、並行する状態で供給しても良い。
【0031】
複極仕切り板102の素材としては公知の物が使用できるが、熱伝導性が高い炭素または鉄が好ましい。さらに、複極仕切り板はシート状であっても良く、その場合にも炭素または鉄を含有するシート状物であるものが好ましい。
複極仕切り板に熱伝導性の高い物質を使用することで、各ユニット間でも熱交換ができるので熱交換の効率を向上させることができる。
【0032】
隔膜103としては、孔径の小さい微多孔膜やイオン交換膜等を用いることが可能である。微多孔膜の方がイオン交換膜よりも安価であり、コスト面を考慮すれば微多孔膜を使用するのが好ましい。なお、内部短絡の発生を防止する点を考慮すればイオン交換膜の方が好ましい。
【0033】
集電板101の素材としては、複極仕切り板の材料をそのまま使用するか、あるいは銅シートなどの導電性物質が使用できる。中でも大電力を取り出すことはあまりないのでコスト(価格)の点で鉄製シートなどが好ましい。
なお、本態様ではユニットを3ユニット積層させているが、積層する数は回収する電力を考慮して適宜設定することができる。
【0034】
上述した、熱交換器1で熱交換された嫌気性処理液Lは窒素除去工程を経て液肥等に利用され、好気性処理物Sはメタン発酵槽3へ送られメタン発酵処理(嫌気性処理)される。
【0035】
次に、図3を参照にしながら、熱交換器1を構成する各ユニットの一方側の部分(A)、流路(A)に高温のメタン発酵液を供給し、他方側の部分(B)、流路(B)に低温の好気性処理物(例えば活性汚泥)を供給した際に発生する電位と電流の関係について説明する。
【0036】
なお、なお、図3の電位の測定には基準電極として、銀―塩化銀電極を使用した。
【0037】
図3の(1)には、搾乳牛の糞尿をメタン発酵した際のメタン発酵液(嫌気性処理液)に炭素電極を挿入し、電位をプラス方向からマイナス方向に変化させた後(矢印a)、次に、電位をマイナス方向からプラス方向に変化させた(矢印b)際の電位の変化とそれに対応する電流の変化を示したグラフが記載されている。
一方、(2)には、下水を好気性処理した下水汚泥(好気性処理物)に炭素電極を挿入し、電位をプラス方向からマイナス方向に変化させた後(矢印a’)、次に、電位をマイナス方向からプラス方向に変化させた(矢印b’)際の電位の変化とそれに対応する電流の変化を示したグラフが記載されている。
【0038】
ここで、メタン発酵液の場合である(1)については電位をプラス方向からマイナス方向に変化させた時(矢印a)、活性汚泥の場合である(2)についても電位をプラス方向からマイナス方向に変化させた時(矢印a’)を、例にとって、電位と電流の関係を説明する。
【0039】
(1)については、電位をプラス方向からマイナス方向に変化させた時(矢印a)に、−0.4V付近でグラフがやや下に凸の部分が現れる(X)。つまり、−0.4V付近でメタン発酵液中の物質が還元され、流れる電流に変化が生じたことを意味している。
一方、(2)については、電位をプラス方向からマイナス方向に変化させた時(矢印a’)に+0.35V付近でグラフが下に凸の部分(ピーク)が現れる(Y)。つまり、+0.35V付近で活性汚泥中の物質が酸化され、流れる電流に変化が生じたことを意味している。
【0040】
すなわち、メタン発酵液においては−0.4V付近でメタン発酵液中の物質が還元され、活性汚泥においては+0.35V付近で活性汚泥中の物質が酸化され、それぞれ流れる電流に変化が生じている。よって、図2に示した本発明の熱交換器1の一方側の部分(A)、流路(A)にメタン発酵液を供給し、他方側の部分(B)、流路(B)に好気性処理物(例えば活性汚泥)を供給することにより、約0.75V(0.4V+0.35V)の起電力を得ることができる。
【0041】
また、メタン発酵液の場合である(1)について電位をマイナス方向からプラス方向に変化させた時(矢印b)及び活性汚泥の場合である(2)について電位をマイナス方向からプラス方向に変化させた時(矢印a’)にも上述したことと同様のことが言える。すなわち、(1)については−0.15V付近で上に凸の部分が現れる(X’)。一方、については(2)については、+0.6V付近で上に凸の部分が現れる(Y’)。
従って、得られる起電力は約0.75(0.15V+0.6V)となり、電位をプラス方向からマイナス方向に変化させた場合(a、a’)と一致する。
【0042】
なお、メタン発酵液及び活性汚泥中に含まれ酸化還元反応を起こす物質としては、ポリフェノール類、キノン類、補酵素等が挙げられるが、これらはメタン発酵液や好気性処理物の種類によって含まれる種類や割合が異なる。よって、得られる起電力はメタン発酵液や好気性処理物の種類によって異なることになる。
【0043】
以下、本発明を実験例によって説明する。
まず、実験に用いた装置について説明する。
図4(1)には実験で用いた簡易メタン発酵処理システムの概略構成図が示されている。
なお、本発明の特徴である熱交換器がわかり易いように図4では、熱交換器1’の部分を拡大して記載している。
符号30は1Lのメタン発酵槽(嫌気性処理槽)、符号20は1Lの活性汚泥の沈殿槽であり、それぞれの槽から送液量が10ml/分のシリンダーポンプで、熱交換器1’の流路Aおよび流路Bに、メタン発酵液および活性汚泥を送り込めるように構成されている。
【0044】
図4(2)の(2−1)には複極仕切り板102’の構造が示されている。
複極仕切り板102’は、枠体部Fと該枠体部Fにはめ込まれたプレート部Cと、枠体部Fの上下に設けられた一対のマニホールドDと、該一対のマニホールドDの一方とプレートCとを連通させるスリットEとで構成されている。
プレート部Cには、縦300mm、横200mm、厚さ1mmの硝酸によって表面処理を行ったグラッシーカーボンプレート(有効面積:縦80mm×横50mm)を使用している。
【0045】
図4(2)の(2−2)には、隔膜の一例であるイオン交換膜103’の構造が示されている。
イオン交換膜103’としては、ポリスチレンスルホン酸系陽イオン交換膜を使用し、その上下には、複極仕切り板のマニホールドDと一致する位置に、一対のマニホールDが設けられている。
【0046】
本実験で使用した熱交換器1’は、上述の複極仕切り板102間に、イオン交換膜103’を設けて流路A、Bが構成されるような構造を持つものを1ユニット(セル)とし、それを3つ重ねた三層構造としたものである。
以上に説明した装置を用いて実験を行った。
【0047】
[実験例1]
表1に記載された特性を有する、嫌気性処理液(搾乳牛の糞尿をメタン発酵した際のメタン発酵液)としての消化汚泥、好気性処理物としての活性汚泥を、それぞれメタン発酵槽30、活性汚泥の沈殿槽20からシリンダーポンプ(流量:10ml/分)を用いて、消化汚泥は熱交換器1’の流路Aへ、活性汚泥は熱交換器1’の流路Bに送り込んだ。また、各流路を通過したメタン発酵液および活性汚泥は、再利用するためメタン発酵槽30、活性汚泥の沈殿槽20に戻すようにした。
その後、熱交換器1’で発生した起電力と経時変化にともなう電流の変化を測定した。結果を図5に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1より、活性汚泥を熱交換器1’に送り込む前の温度(開始時の温度)は15℃、一方、消化汚泥を熱交換器1’に送り込む前の温度(開始時の温度)は55℃(高温メタン発酵)であり、熱交換器1’を通過した時の出口温度は活性汚泥が27℃、消化汚泥が35℃となっており、適正に熱交換がされている。
【0050】
一方、上記熱交換がされた際に発生した起電力は0.9Vであった、よって、熱交換することに加え、表1に記載された特性を有する活性汚泥が正極活物質として、また嫌気性処理液である消化汚泥が負極活物質として機能し0.9Vの起電力を得られることがわかった。
また、図5において、起電力0.9V(定電圧)に対し10時間経過するまでは5〜6mAの電流が流れており、電力とし4.5〜5.4Wの電力を回収できることがわかる。
【0051】
[実験例2]
嫌気性処理液と好気性処理物を、表2に記載された特性を有する、嫌気性処理液(搾乳牛の糞尿をメタン発酵した際のメタン発酵液)としての消化汚泥、好気性処理物としての搾乳牛の糞尿に変更した以外は実験例1と同様である。結果を図6に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2より、搾乳牛の糞尿を熱交換器1’に送り込む前の温度(開始時の温度)は15℃、一方、消化汚泥を熱交換器1’に送り込む前の温度(開始時の温度)は55℃(高温メタン発酵)であり、熱交換器1’を通過した時の出口温度は活性汚泥が30℃、消化汚泥が32℃となっており、適正に熱交換がされている。
【0054】
一方、上記熱交換がされた際に発生した起電力は0.9Vであった。
また、図6において、起電力0.9V(定電圧)に対し10時間経過するまでは約17mAの電流が流れており、電力とし約15.3Wの電力を回収できることがわかる。
【0055】
なお、同じ起電力で、発生する電流が実験例1と実験例2で異なるのは、嫌気性処理液、好気性処理物における酸化還元当量の違いによるものである。
実験例1では表1より、活性汚泥の酸化還元当量は10meq/l、消化汚泥の酸化還元当量は15meq/lであるのに対し、実験例2では表2より、搾乳牛の糞尿の酸化還元当量は30meq/l、消化汚泥の酸化還元当量は55meq/lと実験例2の方が実験例1に比べ値がかなり大きい。つまり実験例2の方が電極活物質として機能する物質が多く含まれていることを示している。以上の理由から、同じ起電力であっても発生する電流が異なる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上により、本発明は、嫌気性処理液と好気性処理物との間で熱交換しつつ電力回収も行うことができる発明である。
【符号の説明】
【0057】
1、1’ 熱交換器、 2 沈殿槽、 3 メタン発酵槽、 3’ 温水ヒーター、
4 脱硫装置、 101、101’、 集極板 102、102’ 複極仕切り板、
103、103’ 隔膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複極仕切り板間に隔膜を設け、前記隔膜によって分割された一方側には負極活物質として嫌気性処理液を供給し、他方側には正極活物質として好気性処理物を供給して、前記好気性処理物を前記嫌気性処理液によって昇温することを特徴とする電池機能を有する熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載された電池機能を有する熱交換器において、前記嫌気性処理は50℃以上のメタン発酵処理であることを特徴とする電池機能を有する熱交換器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電池機能を有する熱交換器において、前記複極仕切り板が炭素あるいは鉄、または炭素あるいは鉄を含有するシート状物から成ることを特徴とする電池機能を有する熱交換器。
【請求項4】
好気性処理物をメタン発酵処理するためにメタン発酵槽に投入する際に、メタン発酵槽上流に、請求項1から請求項3のいずれかに記載された電池機能を有する熱交換器を設けて、嫌気性処理である前記メタン発酵処理によって得られたメタン発酵液と前記好気性処理物との間で熱交換をした後、前記好気性処理物を前記メタン発酵槽に投入するように構成されていることを特徴とするメタン発酵処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−212599(P2011−212599A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83552(P2010−83552)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】