説明

電池正極材料及び電池正極材料の製造方法

【課題】アルカリ電池の電池正極材料において、電解液であるアルカリ溶液中へのAg成分の溶出を抑制し、電池の自己放電を起こし難くすることで、よりアルカリ電池を長寿命とするアルカリ電池の電池正極材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】組成式AgMOからなる複合酸化物(ただし、MはCo・Mn・Ni・Biの遷移金属いずれか一種以上)からなる電池正極材料であって、
KOH40質量%水溶液50mL中で、電池正極材料1gを60℃24時間保持した時に該水溶液中へのAg溶出量が28mg/L以下であることを特徴とする、電池正極材料が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池正極材料及び電池正極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型携帯用電子機器等の普及に伴い、アルカリ電池がその電源として多く用いられている。更に、昨今の電子機器、時計用等の電源用電池として一層の小型化および長期信頼性のニーズが高まっており、アルカリ電池の高性能化のために研究開発が鋭意行われている。
【0003】
AgMO(M=Co・Mn・Ni・Bi等の遷移金属いずれか一種以上)系複合酸化物は導電性に優れ、活物質の性質を持ち、さらにその水素吸収性能の高さからアルカリ電池の正極材料として種々の方法で用いることが提案されている。特許文献1〜3は、銀とニッケルの複合酸化物であるAgNiOを電池の正極材料として使用することを開示している。例えば特許文献1では硝酸銀と硝酸ニッケルを等モル(モル比=1/1)で反応させてAgNiOを合成しており、このAgNiOを正極材料とした電池では平坦な放電電圧曲線が得られていると記載されている。特許文献2には二酸化マンガンを正極活物質として使用するアルカリ電池においてAgNiOを水素吸収剤として使用することが記載されている。特許文献3には正極容器に酸化銀または二酸化マンガンをAgNiOと混合して装填したボタン電池が記載されている。また、特許文献4では、AgCoOの正極材料の記載が為され、また、特許文献5では、Ag−Bi−(M)―O系(MはNi,Co、Mn等の遷移元素を表す)の正極材料の記載が為されている。また、特許文献6ではAgNiCoの正極材料の記載が為されている。
【0004】
上記特許文献1〜6などの記載によれば、AgMO系複合酸化物は導電性に優れ、活物質としての機能も備えるから、それ単独でも正極活物質として機能するほか、これをカーボンに変えて酸化銀に適量配合することによって高容量の正極材料を構成することができると考えられる。
【0005】
酸化銀電池に求められる特性のうち、特に重視されるのは、例えば5年以上の使用に耐え得ること等の長寿命である。高温下になる場合や、常温中に数年間保管した場合にも変わらない特性を有しなければならない。しかし、酸化銀(AgO)やAgMOは電解液中で、Ag成分がアルカリ溶液中に溶解し、溶解したAg成分がZn負極に到達し、Zn負極と反応して自己放電を生じたり、正極材料自身の分解反応によってAgが析出し、これによる自己放電が起こることがある。
【0006】
このような自己放電を抑制するために、正極と負極の間にセロハンを設置し、そのセロハンで溶解したAg成分を捕集することで負極への拡散を防ぐ技術が開発されている。更にはポリプロピレンフィルムやPEGF膜を正極とセロハンの間に設置し、これらを多層化することも採用されている。しかし、セロファンがAg成分により酸化され、その機能が劣化することは避けられない。また、セパレータの多層化についても電池の容積に限界があることから、これにも限界がある。
【0007】
正極側からの対策として、正極材料からのAgの溶出を防ぐ方法としては、例えば特許文献7には正極材料にCdを添加して銀の溶出を抑える方法、特許文献8には、黒鉛を使用せずに導電性を持たせた正極を二酸化マンガンとカーボンの混合成型体で挟む方法などが提案されている。更に、特許文献9には、酸化銀について酸化銀粉体の比表面積、一次粒子径及び結晶粒子径を所定の範囲とする制御を行うことにより、電解液への銀イオン溶出速度を抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57−849号公報
【特許文献2】特開平11−162474号公報
【特許文献3】米国特許公開US2002/0127469A1
【特許文献4】特開2000−299103号公報
【特許文献5】特開2003−187797号公報
【特許文献6】特開2010−15912号公報
【特許文献7】特開昭59−167963号公報
【特許文献8】特開平2−12762号公報
【特許文献9】特開2004−265865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した様に電池の自己放電に関しては、セパレータ側では種々の改良が試みられているが、Cdを添加する方法は、今後、環境上望まれていない。また、二酸化マンガンとカーボンの混合成型体を正極とセパレータの間に設置する方法では、電池製造工程が煩雑となることは否めず、コスト高になってしまう、さらに黒鉛を使用しないことで得た高容量化の効果を低くしてしまうといった問題がある。また、AgMO系複合酸化物について粉体の比表面積、一次粒子径及び結晶粒子径を所定の範囲とする制御を行うことで電解液への銀イオン溶出速度を抑えることは、結晶系の維持等と相反し困難である。
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、正極材料に環境上望まれていないCdを添加せずに、また、二酸化マンガンとカーボンの混合成型体を正極とセパレータの間に設置するといった電池製造工程を煩雑化せずに、アルカリ電池正極材料たるAgMO系複合酸化物から電解液たるアルカリ溶液中へのAg成分の溶出を抑制し、アルカリ電池の自己放電を起こし難くすることで、よりアルカリ電池を長寿命とする、また、黒鉛等の使用を抑制することによりアルカリ電池の放電容量を高容量化する電池正極材料たるAgMOおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、電池正極材料AgMO系複合酸化物と、カップリング剤(但し、シランカップリング剤を除く)もしくは金属イオン封鎖剤とを混合処理することにより付着させることで、正極材料AgMO2系複合酸化物から電解液へのAg溶出を抑制できることを見いだした。
【0012】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するために手段としては、以下の通りである。
(1)組成式AgMOからなる複合酸化物(ただし、MはCo・Mn・Ni・Biの遷移金属いずれか一種以上)からなる電池正極材料であって、KOH40質量%水溶液50mL中で、電池正極材料1gを60℃24時間保持した時に該水溶液中へのAg溶出量が28mg/L以下であることを特徴とする、電池正極材料。
(2)組成式AgMOからなる複合酸化物(ただし、MはCo・Mn・Ni・Biの遷移金属いずれか一種以上)に対して、シランカップリング剤を除くカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤を付着させたことを特徴とする、(1)に記載の電池正極材料。
(3)前記金属イオン封鎖剤がイミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール(1H−1,2,3−トリアゾール、2H−1,2,3−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、4H−1,2,4−トリアゾール)、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1H−1,2,3,4−テトラゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、4−メチルベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、1,2,3,4−オキサトリアゾール、1,2,3,4−チアトリアゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3,5−チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾールおよびこれらの塩の群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(2)に記載の電池正極材料。
(4)前記金属イオン封鎖剤が、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾールのナトリウム塩、ベンゾトリアゾールのカリウム塩、トリアゾールからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、(2)に記載の電池正極材料。
(5)前記金属イオン封鎖剤が、ベンゾトリアゾールのナトリウム塩、トリアゾールからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、(2)に記載の電池正極材料。
(6)前記金属イオン封鎖剤が、高分子アミンより選択される1種以上であることを特徴とする、(2)に記載の電池正極材料。
(7)前記金属イオン封鎖剤が、ポリエチレンイミンより選択される1種以上であることを特徴とする、(2)に記載の電池正極材料。
(8)前記カップリング剤がチタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤より選択される1種以上であることを特徴とする、(2)に記載の電池正極材料。
(9)前記カップリング剤がチタネート系カップリング剤の群より選択される1種以上であることを特徴とする、(2)に記載の電池正極材料。
(10)前記組成式AgMOからなる複合酸化物は、組成式AgNiy、AgNiCo、AgCoもしくはAgNiBiであることを特徴とする、(1)〜(9)のいずれかに記載の電池正極材料。
(11)前記組成式AgMOからなる複合酸化物は、組成式AgNiy(ただしx/yは0.25以上1.9以下)、組成式AgNiCo(ただし0.5≦a/(b+c)≦1.9、0<c/(b+c)<1)、組成式AgCo(ただしm:nが0.9:0.1〜0.4:0.6、且つm+n=1.0)もしくは組成式AgNiBi2ただし、X/(Y+Z)が1より大きく1.9以下、且つZは0.4以下)であることを特徴とする、(1)〜(9)のいずれかに記載の電池正極材料。
(12)レーザー回折法もしくは篩別法による平均粒径D50が0.1μm以上500μm未満であることを特徴とする、(1)〜(11)のいずれかに記載の電池正極材料。
(13)組成式AgMOからなる複合酸化物(ただし、MはCo・Mn・Ni・Biの遷移金属いずれか一種以上)とシランカップリング剤を除くカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤を混合することを特徴とする、電池正極材料の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、正極材料に環境上望まれていないCdを添加せずに、また、二酸化マンガンとカーボンの混合成型体を正極とセパレータの間に設置するといった電池製造工程を煩雑化せずに、アルカリ電池正極材料たるAgMO系複合酸化物から電解液たるアルカリ溶液中へのAg成分の溶出を抑制し、アルカリ電池の自己放電を起こし難くすることで、よりアルカリ電池を長寿命とする、また、黒鉛等の使用を抑制することによりアルカリ電池の放電容量を高容量化する電池正極材料たるAgMOおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態にかかる電池正極材料は例えば組成式AgMOからなる複合酸化物(ただし、MはCo・Mn・Ni・Biの遷移金属いずれか一種以上)とシランカップリング剤を除くカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤を混合することで生成される。
【0015】
<組成式AgMOからなる複合酸化物>
本発明にかかる電池正極材料の製造方法の実施の形態において、組成式AgMOからなる複合酸化物としては、組成式AgNi(ただしx/yは0.25以上1.9以下である)、組成式AgNiCo、(ただし0.5≦a/(b+c)≦1.9、0<c/(b+c)<1)、組成式AgCo(m:nが0.9:0.1〜0.4:0.6(ただしm+n=1.0とする)および組成式AgNiBi2X/(Y+Z)が1より大きく1.9以下であり、Zは0.4以下)で表される材料が挙げられる。これらの材料の中でも、組成式AgNi(ただしx/yは0.25以上1.9以下である)、組成式AgNiCo、(ただし0.5≦a/(b+c)≦1.9、0<c/(b+c)<1)が特に好適である。これら組成式AgMOからなる複合酸化物と、カップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤とを混合処理し、さらに必要に応じて、適宜その他の工程を行うことで本実施の形態にかかる電池正極材料が得られる。
【0016】
<混合処理>
具体的には、上記例示した組成式AgMOからなる複合酸化物を生成し、カップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤を含む液体中に、生成された組成式AgMOからなる複合酸化物を入れ、撹拌し、得られたスラリーを、濾過、洗浄、乾燥することで目的の電池正極材料を得ることができる。
【0017】
<カップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤>
上記混合処理においては、組成式AgMOからなる複合酸化物と混合させるためのカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤が必要とされる。
カップリング剤の例としては、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤などを挙げることができ、これらのカップリング剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なお、一般的なカップリング剤であるシランカップリング剤は金属とカップリング反応する場合にはTi−O−M結合等の方がSi−O−M結合より優れた耐加水分解性と強度を示すため、望ましくない。
【0018】
また、金属イオン封鎖剤の例としては、アゾール構造を有する化合物、高分子アミン、ジカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。アゾール構造を有する化合物の具体例としては、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、1H−1,2,3−トリアゾール、2H−1,2,3−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、4H−1,2,4−トリアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1H−1,2,3,4−テトラゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、1−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、1,2,3,4−オキサトリアゾール、1,2,3,4−チアトリアゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3,5−チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾールおよびこれらの塩などが挙げられ、ベンゾトリアゾールおよびその塩、トリアゾールが望ましい。ベンゾトリアゾールの塩(ベンゾトリアゾールナトリウム等)やトリアゾールは水溶性であり、取り扱いやすい。更に、トリアゾールが付着したAgMOからなる複合酸化物は、アルカリ水溶液である電池の電解液になじみやすく好適である。
【0019】
また、高分子アミンとしては高分子イミンが好ましく、中でもポリエチレンイミンが好ましい。さらに、分子量600以上のポリエチレンイミンが好ましい。ポリエチレンイミンは自身がアルカリ性でありアルカリ溶液である電解液中での保存性に優れている。加えて、ポリエチレンイミンが付着したAgMOからなる複合酸化物はアルカリ水溶液である電池の電解液になじみやすく好適である。
【0020】
<カップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤の量>
本発明にかかる電池正極材料を得るために混合処理されるカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤の添加量は、組成式AgMOからなる複合酸化物に対し、0.01質量%以上5%質量以下であり、より好ましくは0.01質量%以上4質量%以下であり、さらに好ましくは0.02質量%以上3質量%以下である。混合処理されるカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤が組成式AgMOからなる複合酸化物に対し0.05質量%よりも少ない場合、Ag溶出量を低減させる事が困難となり、混合処理されるカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤が5質量%を超えると、製造される電池正極材料の放電容量の高容量化が実現しない恐れがある。
【0021】
<混合処理されるカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤を含む液体>
上述したように混合処理において用いられるカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤は液体に混合・溶解し使用することができる。カップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤を混合・溶解させるための溶媒としては、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができるが、水、有機溶媒、などが好ましい。前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、平均分子量200以下のものが好ましく、分子量200以下のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、それらの混合物)がより好ましい。有機溶媒よりも水を用いた方が設備等は簡便で済み、イオン交換水等、不純物濃度の低い水を用いると特性の制御等が行いやすい。
【0022】
<濾過、洗浄、乾燥>
カップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤と混合処理された後の、組成式AgMOからなる複合酸化物を含むスラリーを濾過、洗浄、乾燥する各工程においては公知の方法を用いることが出来る。濾過・洗浄方法としては、例えば、ヌッチェ等を用いる減圧吸引濾過、フィルタープレス等を用いる加圧濾過等が挙げられる。また、乾燥方法としては、例えば、箱型乾燥機を用いた真空乾燥、大気乾燥、コニカル型真空乾燥機、気流式乾燥機等が挙げられる。
【0023】
<乾燥後の処理>
乾燥して得られた電池正極材料には、必要に応じて解砕処理や分級処理を施す事ができる。解砕処理や分級処理については、公知の方法を用いることが出来る。解砕処理方法としては、例えば、乳鉢、コーヒーミル、ヘンシェルミル、ハンマーミル等を用いる機械解砕等が挙げられる。また、分級処理方法としては、例えば、篩、風力分級機等を用いる方法が挙げられる。
【0024】
<混合処理する工程>
なお、本実施の形態にかかる電池正極材料を得る際に、上述した様な液中(溶媒中)での混合だけでなく、濾過中等に混合を実施しても本発明の効果を何ら阻害するものではない。混合する際には、組成式AgMOからなる複合酸化物と混合されるべきカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤とが付着する状態を作り出せれば本発明の効果は発揮され、混合における工程の順序は本発明の効果を何ら阻害するものではない。
【0025】
この様にして得られた電池正極材料は、電解液に対する銀の溶出量が28mg/L以下であり、付着種及び付着量の選択により22mg/L以下にすることもできる。また、レーザー回折法もしくは篩別法による平均粒径D50が0.1μm以上、500μm未満である。電池正極材料の粒子径(平均粒子径)については,粒子径が0.1μm未満では嵩高い粉体となり、電池容器(缶体)への投入時の流動性が悪くなって取り扱い難くなる。平均粒径が500μmを超えると小型アルカリ電池の缶体に入れることが難しくなる。したがって、平均粒径は0.1μm〜500μm、好ましくは0.5〜500μm、さらに好ましくは1.0〜300μmであるのがよい。
【0026】
なお、組成式AgMOからなる複合酸化物と混合されるべきカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤とが付着した状態でレーザー回折法による平均粒径が0.1〜10μmの正極材料を、いわゆる造粒による粗大化により、篩別法による平均粒径を10μm以上500μm未満、より好ましくは50μm〜300μm、さらに好ましくは50〜200μmにしても良い。造粒を行い粒径が大きくなることにより、粉塵発生が少なくなり、また、安息角が約30°〜45°に小さくなり、粉体秤量時の流動性がより良くなるため、粉体ハンドリング時の作業性が良化される。
【0027】
造粒の方法としては公知の方法、例えば噴霧造粒乾燥(大川原化工機製L−8bやFOC−16、東京理科機械製SD−1000等)、乾式造粒(ローラーコンパクタ:フロイント産業製TF−Labo、ターボ工業製WP−160×60、栗本鉄工所製RCP−66K等)、高速攪拌造粒(奈良機械製作所製NMG−1L、アイリッヒ製R02、不二パウダル製SPG−2)等の造粒装置各単独もしくは整粒機(中央加工機製ミニプレマックスやプレマックス、日本グラニュレータ製ロールグラニュレーターGRN−1531、奈良機械製作所製ネビュライザー NS−mini、フロイント産業製オシレーター、不二パウダル製マルメライザーQJ−230T等)等との組み合わせを用いることができる。
【0028】
具体的には噴霧造粒乾燥を行えば平均粒径が50〜100μm程度の球状粒子を簡便に得ることができる。乾式造粒と整粒機を用いる場合、さらに分級を行うことで所望の粒子を得ることができる。造粒の際の造粒圧力と造粒速度を調整することにより、粒子の強度を調整することができる。また高速攪拌造粒を用いる場合、例えばバインダーとして純水を用いた場合は乾燥の前もしくは後に分級を行うことで所望の粒子を得ることができる。バインダーの量・攪拌速度の選択により得られる粒径・粒子強度の調節ができ、粗大化し過ぎた粒子については整粒機を組み合わせることで収率を高くすることも可能である。
【0029】
以上説明したように製造される本実施の形態にかかる電池用正極材料においては、従来の製造方法により製造された電池正極材料よりも、電解液へのAg溶出が抑制され、アルカリ電池の自己放電を起こし難くすることで酸化銀電池を長寿命、高容量とすることができる。また、正極材料に環境上望まれていないCdを添加する必要もなく、さらには、二酸化マンガンとカーボンの混合成型体を正極とセパレータの間に設置するといった電池製造工程を煩雑化させることもない。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
<正極材料AgNiOの作成>
5Lビーカーに、2.5Lの純水、10molのNaOHおよび2.5molのKを投入し、液温を30℃に調整した。この液に、Ag1.25molに相当するAgNO水溶液1Lを10分間かけて投入し、30℃に2.5時間保持した。
【0031】
この液に、Ni1.25molに相当するNi(NO水溶液1.0Lを10分かけて投入し、30℃に12時間保持し、反応を終了した。反応スラリーをろ紙でろ過し、ケーキを得た。このケーキを純水で十分に洗浄したものを未処理の試料Aとした。この試料Aを真空中70℃で30時間かけて乾燥し、AgNiO粉を得た。この粉を乳鉢で解砕し、未処理の試料Bとした。
<混合処理>
【0032】
300mlビーカーに、純水150mlを入れ、撹拌しながらチタネートカップリング剤KR44(味の素ファインテクノ(株)製)0.5gを添加した。KR44を添加してから5分後に未処理の試料Bを50g添加し、撹拌しながら1時間保持し混合して、混合処理されたAgNiOを含むスラリーを得た。混合処理されたAgNiOを含むスラリーを濾過し、純水5Lで洗浄し、ケーキを得た。
【0033】
得られたケーキを大気乾燥機にて、70℃10時間の乾燥処理を実施し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を瑪瑙乳鉢で解砕し、混合処理されたAgNiO(電池正極材料)を得た。
【0034】
<Ag溶出量の測定>
得られた混合処理されたAgNiO(電池正極材料)について、Ag溶出量を測定した。測定方法としては以下の通りである。50mLのKOH40質量%水溶液に試料1gを入れ、1分間撹拌を行ったあと密閉し、密閉状態で60℃の乾燥機に24時間保持した。その後遠心分離と濾過により粉を分離し、固液分離した液をICPにて分析を行った。
【0035】
<平均粒径の測定>
得られたAgNiO(電池正極材料)について、平均粒径を求めた。平均粒径はレーザー回折式粒子径分布測定装置(HELOSシステム・sympatec社製)を用いて測定した。この測定法は高圧ガスで粒子を分散させてレーザー回折を行う乾式による粒径分析である。この測定器は試料の分散圧を任意に調整できるが、本実施例では4barの分散圧とした。実施例1で得られた混合処理したAgNiOについて測定したAg溶出量、平均粒径を表1に示す。なお、表1には後述する実施例2〜6および比較例1、2についての測定結果も記載している。
【表1】

【0036】
[実施例2]
300mlビーカーに、ベンゾトリアゾールナトリウム40質量%水溶液0.27gを添加した。純水(イオン交換水)151mlを加え攪拌し、混合溶液を作成した。純水を添加してから5分後に、実施例1と同様に作製した未処理の試料Bを27g添加し、撹拌しながら1時間保持し混合した。混合処理されたAgNiOを含むスラリーを濾過し、純水5Lで洗浄し、ケーキを得た。
【0037】
得られたケーキを真空乾燥機にて、70℃10時間の乾燥処理を実施し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を瑪瑙乳鉢で解砕し、混合処理されたAgNiO(電池正極材料)を得た。得られた混合処理したAgNiO(電池正極材料)について測定したAg溶出量、平均粒径を表1に示す。
【0038】
[実施例3]
500mlビーカーに、純水200mlを入れ、撹拌しながら実施例1と同様に作製した未処理の試料A(45.3質量%の水を含む)を95g添加し、AgNiOを含むスラリーを作成した。作成したAgNiOを含むスラリーを撹拌しながら、ベンゾトリアゾールナトリウム40質量%水溶液2.15gを添加し、1時間保持し混合した。ベンゾトリアゾールナトリウムを添加したAgNiOを含むスラリーを得た後は、実施例1を繰り返した。得られた混合処理されたAgNiO(電池正極材料)について測定したAg溶出量、平均粒径を表1に示す。
【0039】
[実施例4]
5lビーカーに、純水3800mlを入れ、撹拌しながら実施例1と同様に作製した未処理の試料Bを350g添加し、AgNiOを含むスラリーを作成した。作成したAgNiOを含むスラリーを撹拌しながら、1,2,4−トリアゾール3.5gを水50gに溶解した液を添加し、1時間保持し混合した。トリアゾールを添加したAgNiOを含むスラリーを得た後は、実施例1を繰り返した。得られた混合処理されたAgNiO(電池正極材料)について測定したAg溶出量、平均粒径を表1に示す。
【0040】
[実施例5]
500mlビーカーに、純水(イオン交換水)151mlを加えた後、実施例1と同様に作製した未処理の試料Bを15g加え攪拌し、混合スラリーを作成した。試料Bを加えてから5分後に、スラリーを攪拌しながら分子量10000のポリエチレンイミンの10質量%水溶液0.15gを添加し、撹拌しながら1時間保持し混合した。ポリエチレンイミンを添加したAgNiOを含むスラリーを得た後は、実施例1を繰り返した。得られた混合処理されたAgNiO(電池正極材料)について測定したAg溶出量、平均粒径を表1に示す。
【0041】
[実施例6]
5Lビーカーに、2.0Lの純水、9molのNaOHおよび1.05molのNaを投入し、液温を50℃に調整した。この液を撹拌しながら、Ag1.05molに相当するAgNO水溶液1Lを30分間かけて投入し、その後50℃に維持して1時間撹拌を継続し、懸濁液を得た。
【0042】
この懸濁液を撹拌しながら、Ni0.5molに相当するNi(NOと、Co0.5molに相当するCo(NOが溶解している混合水溶液1Lを30分間かけて投入し、その後、50℃に維持して4時間撹拌を継続し、次いで、この液にNaを1molを追加投入し、その後50℃に維持して12時間撹拌を継続して、反応を終了し、スラリーを得た。前記スラリーを濾紙で濾過し、ケーキを得た。このケーキを純水で十分に洗浄したあと、真空中100℃で24時間かけて乾燥しAgNi0.5Co0.5乾燥粉を得た。この乾燥粉を乳鉢で解砕し、未処理の試料Cとした。
【0043】
200mlビーカーに、分子量10000のポリエチレンイミンの10%水溶液を2.0gを入れ、純水100mlを加えた。この溶液を攪拌しながら、上記未処理の試料Cを20g添加し、攪拌しながら1時間保持し混合した。ポリエチレンイミンを添加したAgNi0.5Co0.5を含むスラリーを得た。混合処理されたAgNi0.5Co0.5を含むスラリーを濾過し、純水5Lで洗浄し、ケーキを得た。得られたケーキを大気乾燥機にて、70℃10時間の乾燥処理を実施し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を瑪瑙乳鉢で解砕し、混合処理されたAgNi0.5Co0.5(電池正極材料)を得た。
【0044】
混合処理されたAgNi0.5Co0.5(電池正極材料)について、実施例1と同様にして、Ag溶出量および、平均粒径の測定をおこなった。溶出量、平均粒径を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
実施例1で混合処理する前のAgNiO(試料B)について測定したAg溶出量、平均粒径を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
実施例6で混合処理する前のAgNi0.5Co0.5(試料C)について測定したAg溶出量、平均粒径を表1に示す。
【0047】
以上の実施例1〜6におけるAg溶出量と、比較例1、2におけるAg溶出量を比べた場合、実施例1〜6におけるAg溶出量の方が比較例1、2におけるAg溶出量より少ないことが表1から分かる。従って、本発明にかかる電池正極材料においては、従来の電池正極材料と比べAg成分の電解液への溶出が抑制され、自己放電が起こりにくくなっていることが分かった。また、実施例1〜6で製造された電池正極材料の平均粒径は、0.1μm以上、500μm未満の範囲内であったため、電池容器(缶体)への投入時の流動性が確保されていることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、電池正極材料及び電池正極材料の製造方法に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式AgMOからなる複合酸化物(ただし、MはCo・Mn・Ni・Biの遷移金属いずれか一種以上)からなる電池正極材料であって、
KOH40質量%水溶液50mL中で、電池正極材料1gを60℃24時間保持した時に該水溶液中へのAg溶出量が28mg/L以下であることを特徴とする、電池正極材料。
【請求項2】
組成式AgMOからなる複合酸化物(ただし、MはCo・Mn・Ni・Biの遷移金属いずれか一種以上)に対して、シランカップリング剤を除くカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤を付着させたことを特徴とする、請求項1に記載の電池正極材料。
【請求項3】
前記金属イオン封鎖剤がイミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール(1H−1,2,3−トリアゾール、2H−1,2,3−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、4H−1,2,4−トリアゾール)、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1H−1,2,3,4−テトラゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、4−メチルベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、1,2,3,4−オキサトリアゾール、1,2,3,4−チアトリアゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3,5−チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾールおよびこれらの塩の群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の電池正極材料。
【請求項4】
前記金属イオン封鎖剤が、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾールのナトリウム塩、ベンゾトリアゾールのカリウム塩、トリアゾールからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の電池正極材料。
【請求項5】
前記金属イオン封鎖剤が、ベンゾトリアゾールのナトリウム塩、トリアゾールからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の電池正極材料。
【請求項6】
前記金属イオン封鎖剤が、高分子アミンより選択される1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の電池正極材料。
【請求項7】
前記金属イオン封鎖剤が、ポリエチレンイミンより選択される1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の電池正極材料。
【請求項8】
前記カップリング剤がチタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の電池正極材料。
【請求項9】
前記カップリング剤がチタネート系カップリング剤の群より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の電池正極材料。
【請求項10】
前記組成式AgMOからなる複合酸化物は、組成式AgNiy、AgNiCo、AgCoもしくはAgNiBiであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の電池正極材料。
【請求項11】
前記組成式AgMOからなる複合酸化物は、組成式AgNiy(ただしx/yは0.25以上1.9以下)、組成式AgNiCo(ただし0.5≦a/(b+c)≦1.9、0<c/(b+c)<1)、組成式AgCo(ただしm:nが0.9:0.1〜0.4:0.6、且つm+n=1.0)もしくは組成式AgNiBi2(ただし、X/(Y+Z)が1より大きく1.9以下、且つZは0.4以下)であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の電池正極材料。
【請求項12】
レーザー回折法もしくは篩別法による平均粒径D50が0.1μm以上500μm未満であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の電池正極材料。
【請求項13】
組成式AgMOからなる複合酸化物(ただし、MはCo・Mn・Ni・Biの遷移金属いずれか一種以上)とシランカップリング剤を除くカップリング剤もしくは金属イオン封鎖剤を混合することを特徴とする、電池正極材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−198755(P2011−198755A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34177(P2011−34177)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】