説明

電池用包装材料

【課題】ドライラミネーション法により積層された積層体において、金属箔層とヒートシール層の接着強度を保持しながら生産性、低温シール性、密封シール性、耐内容物性に優れる電池用包装材料を提供する。
【解決手段】最外層である基材層12、アルミニウム箔からなるバリア層13、化成処理層13a、フッ素系樹脂層8、最内層であるヒートシール層14が少なくとも順次積層された電池用包装材料において、ヒートシール層14を少なくとも第1ポリプロピレン層と第2ポリプロピレン層で構成し、第2ポリプロピレン層を第1ポリプロピレン層より最内層側に配し、融点が低く、メルトインデックスが高いものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装材料との安定した密封性、防湿性、成形性を示す電池用包装材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池とは、リチウム二次電池ともいわれ、液状、ゲル状および高分子ポリマー状の電解質を持ち、正極・負極活物質が高分子ポリマーからなるものを含むものである。このリチウムイオン電池は、充電時には正極活物質であるリチウム遷移金属酸化物中のリチウム原子(Li)がリチウムイオン(Li+)となって負極の炭素層間に入り込み(インターカレーション)、放電時にはリチウムイオン(Li+)が炭素層間から離脱(デインターカレーション)して正極に移動し、元のリチウム化合物となることにより充放電反応が進行する電池であり、ニッケル・カドミウム電池やニッケル水素電池より出力電圧が高く、高エネルギー密度である上、浅い放電と再充電を繰り返すことにより見掛け上の放電容量が低下する、いわゆるメモリー効果がないという優れた特長を有している。そのため、近年、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラ、小型ビデオカメラ等のポータブル機器用の電源として広く使われている。
【0003】
リチウムイオン電池の構成は、正極集電材(アルミニウム、ニッケル)/正極活性物質層(金属酸化物、カーボンブラック、金属硫化物、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子正極材料)/電解質層(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、炭酸ジメチル、エチレンメチルカーボネート等のカーボネート系電解液、リチウム塩からなる無機固体電解質、ゲル電解質等)/負極活性物質層(リチウム金属、合金、カーボン、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子負極材料)/負極集電材(銅、ニッケル、ステンレス)及び、これらを包装する外装体からなる。外装体としては、従来、金属をプレス加工し円筒状または直方体状等に容器化した金属製缶が用いられていた。
【0004】
しかるに、従来の金属製缶においては、容器外壁がリジッドであるため、電池自体の形状が決められてしまう。そのため、ハード側を電池に合わせ設計するため、該電池を用いるハードの寸法が電池により決定されてしまい形状の自由度がなかった。
【0005】
そのため、近年、形状の自由度が高い積層体からなる外装体(以下外装体)を用いる傾向にある。外装体の材質構成は、電池としての必要な物性、加工性、経済性等から、少なくとも最外層における基材層、バリア層、最内層におけるヒートシール層と前記各層を接着する接着剤層からなる。また、前記構成の外装体からパウチを形成し、リチウムイオン電池本体を収納するパウチタイプ、または、前記外装体をプレスして凹部を形成し、該凹部にリチウムイオン電池本体を収納するエンボスタイプが開発されている。
【0006】
図6(a)は、ピロー状の外装体10を用いるパウチタイプのリチウムイオン電池の斜視図であり、図6(b)はリチウムイオン電池を分解した状態を示す斜視図である。図6(a)及び(b)に示すように、リチウムイオン電池1は、リチウムイオン電池本体2及び外装体10から構成されており、外装体10に収納されたリチウムイオン電池本体2は、その周縁を密封することにより、防湿性を確保している
【0007】
図7は、エンボス部が形成されたトレイ10aとシート10bとから成る外装体10を用いてリチウムイオン電池本体2を密封収納するエンボスタイプのリチウムイオン電池の斜視図である。
【0008】
リチウムイオン電池本体2は、正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、正極及び負極間に充填される電解質と(いずれも図示せず)を含むセル(蓄電部)3と、セル3内の正極及び負極に連結されるとともに先端が外装体5の外部に突出するタブ(金属端子)4から構成されている。
【0009】
図8はエンボスタイプにおける成形を示すオス型21、メス型22のプレス機の構造を示すものである。図8(a)はプレス前の外装体10の斜視図、図8(b)はプレス後、凹状に成形された外装体の斜視図である。ここで、エンボスタイプの外装体10の場合は、図8(a)または図8(b)に示すように、リチウムイオン電池本体を収納する凹部をプレス成形等によって成形する必要がある。
【0010】
また、上記いずれのタイプも、リチウムイオン電池本体を包装材で密封する際に、リチウム電池本体の正極及び負極の各々に接続された金属端子を外部に突出させるとともに包装材で金属端子を挟持した状態で熱接着することにより密封する必要がある。このために、前記包装材料の内層を金属と良好な接着性を有する熱接着性樹脂、例えば、不飽和カルボン酸でグラフト変性した酸変性オレフィン樹脂を用いて熱接着して密封する、あるいは、前記内層を金属との接着性に劣る一般的なオレフィン系樹脂を用い、金属と良好な接着性を有する上記した酸変性オレフィン樹脂からなる金属端子部密封用接着性フィルムを前記金属端子と前記内層との間に介在させて熱接着して密封する方法が一般的にとられている。
【0011】
ところで、積層体の層構成は、上記したように、基材層とアルミニウム等の金属箔からなるバリア層と内層のヒートシール層とからなるものであり、また、リチウム電池本体には電解液として6フッ化リン酸リチウム溶液が用いられ、これは水蒸気と反応してフッ酸を生成し、このフッ酸が前記積層体の内層を透過し、金属箔と内層との接着を低下させて剥離を生じさせ、電池寿命を短いものにするという問題があり、リチウム電池に用いる積層体は外気から浸入する水蒸気を遮断する必要がある。そのため、金属箔より内層側は水蒸気透過の少ない材質で構成する必要があるとともに、端面からの水蒸気透過を可能な限り抑える意味から金属箔より内層側の総厚もリチウム電池本体を確実に密封することができる程度の厚さに設計される。
【0012】
前記金属箔と前記内層との積層方法としては、大別してポリエステル系等の周知のドライラミネーション用接着剤を用いてドライラミネーション法と接着剤を用いることなく行なうサーマルラミネーション法とがあるが、ドライラミネーション法は生産性に優れる反面、接着剤層の厚さとしては3〜5μm程度であるにもかかわらず、接着剤層の断面からの水蒸気透過性が高く、断面から浸入した水蒸気が内層を透過して電解液と反応してフッ酸を生成し、これが前記金属箔と前記内層との間を時間経過とともに剥離させるという問題があり、また、サーマルラミネーション法は接着剤を用いないために断面からの水蒸気透過はドライラミネーション法と比べると格段に優れたものとすることができる反面、生産性においてはドライラミネーション法に比べて劣るという問題がある。
【0013】
そこで、これらの問題を解決し、生産性の高いドライラミネーション法を採用し、水蒸気バリア性の優れた積層体を開発するために、従来、金属箔層の内層側表面にアミノ化フェノール重合体、三化クロム化合物、リン化合物、及びカルボジイミドを含有する化成処理液により形成した化成処理層を設け、フッ素系ポリオールとイソシアネート系硬化剤とにより形成されたフッ素系樹脂を用いた接着剤層との接着強度を高めた積層体(特許文献1)が提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特願2005−285728
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献1で提案された積層体を図6、図7で示したように電池用包装材料として用いる場合、低温シールでは、十分なシール強度が得られず、シール強度を上げるためにシール時間を長くする必要があった。そのため、特許文献1の積層体はドライラミネーション法により効率的に水蒸気バリア性に優れた積層体を製造できるにもかかわらず、電池用包装材料として、リチウム電池の生産性に劣るという問題があった。
【0016】
また、ヒートシール後、積層体の金属端子挟持部における樹脂の埋まりが悪く十分な密封性が確保されないことがあった。これにより、金属端子周辺から水蒸気が浸入し積層体のデラミネーションを引き起こすおそれがあった。
【0017】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、ドライラミネーション法により積層された積層体において、金属箔層とヒートシール層の接着強度を保持しながら生産性を有し、且つ低温シール性、密封シール性、耐内容物性に優れる電池用包装材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、最外層である基材層、アルミニウム箔からなるバリア層、化成処理層、フッ素系樹脂層、最内層であるヒートシール層が少なくとも順次積層された電池用包装材料において、前記ヒートシール層は少なくとも第1ポリプロピレン層と第2ポリプロピレン層を有し、前記第2ポリプロピレン層は前記第1ポリプロピレン層より最内層側に配され、前記第1ポリプロピレン層と比較して融点が低く、メルトインデックスが高いことを特徴とする電池用包装材料である。
【0019】
本発明の第2の構成の電池用包装材料は、前記フッ素系樹脂層が水酸基を含有するフッ素含有共重合体と該フッ素含有共重合体の水酸基と反応する硬化剤とからなる接着剤であり、前記第1ポリプロピレン層が未延伸ポリプロピレン層からなり、前記第2ポリプロピレン層が溶融押出しされたポリプロピレン層からなることを特徴とする。
【0020】
本発明の第3の構成の電池用包装材料は、前記溶融押出しされたポリプロピレン層のメルトインデックスが、5g/10min以上30g/10min以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明の第4の構成の電池用包装材料は、前記溶融押出しされたポリプロピレン層の融点が、120℃以上150℃以下であることを特徴とする。
【0022】
本発明の第5の構成の電池用包装材料は、前記化成処理層が、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、リン化合物、および、カルボジイミドを含有する化成処理液により形成されていることを特徴とする。
【0023】
本発明の第6の構成の電池用包装材料は、前記未延伸ポリプロピレン層の融点が140℃以上180℃以下であることを特徴とする。
【0024】
本発明の第7の構成の電池用包装材料は、前記未延伸ポリプロピレン層がエチレン・プロピレンランダムコポリマ層を含む層であることを特徴とする。
【0025】
本発明の第8の構成の電池用包装材料は、前記基材層表面が、延伸ポリエステル層もしくはポリブチレンテレフタレート層であることを特徴とする。
【0026】
本発明の第9の構成の電池用包装材料は、前記基材層表面にスリップ剤によるコーティング層が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の第1の構成によると、ヒートシール層が複数のポリプロピレン層からなり、融点が低く、メルトインデックスが高い第2ポリプロピレン層を最内層側に配すことにより、ヒートシール層を重ね合わせシール部を加熱及び加圧した場合、第2ポリプロピレン層が他のポリプロピレン層より早く一定の粘性を持って溶融し、外装体内部方向へ押出される。このためヒートシール後、シール部と外装体内部の境界部付近は第2ポリプロピレン層により円滑な曲面が形成され、当該境界部付近を折り曲げる場合や外装体内部でガスが発生し外装体が膨張した場合でも当該部分における応力集中を防ぎ、安定したシール強度を確保することができる。
【0028】
本発明の第2の構成によると、アルミニウム箔の化成処理面とヒートシール層との間に水蒸気透過性の低いフッ素系接着剤を設けることで、ドライラミネート法により、水蒸気バリア性、耐電解液性、耐腐食性等に優れた積層体を効率よく製造することができる。
【0029】
また、未延伸ポリプロピレン層の表面に溶融押出しされたポリプロピレン層を設けることにより、シール強度を保ったままシール温度を下げることができる。これにより、リチウム電池本体を電池用包装材料内に効率よく低温密封シールすることができ、リチウム電池の生産性を向上させることができる。
【0030】
また、流動性の高い溶融押出しされたポリプロピレン層がヒートシールの際、溶融して金属端子挟持部分全体を覆うように密封シールするため前記金属端子挟持部から浸透する外部の水蒸気を遮断し、電解質と水蒸気の反応によるフッ化水素酸の生成を抑制することができる。
【0031】
本発明の第3の構成によると、ヒートシール層である未延伸ポリプロピレン層表面に溶融押出しされたポリプロピレン層のメルトインデックスを5g/10min以上30g/10min以下にすることで、シール強度及び密封シール性を高めることができる。
【0032】
本発明の第4の構成によると、ヒートシール層である未延伸ポリプロピレン層表面に溶融押出しされたポリプロピレン層の融点を120℃以上150℃以下にすることでシール強度を維持しながらヒートシール温度を下げることができる。
【0033】
本発明の第5の構成によると、化成処理層をアミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、リン化合物、および、カルボジイミドを含有する化成処理液で形成することによりアルミニウム箔と接着剤層の接着強度を高める。また、電解液に対しても経時的に安定したものとすることができる。ここで、接着剤層がフッ素系樹脂を主体とした層からなるため水蒸気バリア性がいっそう優れた性能を有する。また、ドライラミネーション法により積層することで生産性よく電池用包装材料を製造することができる。
【0034】
本発明の第6の構成によると、未延伸ポリプロピレン層の融点が140℃以上180℃以下であるため、過充電等により外装体内部で異常な温度上昇が起こり、外装体内部の金属端子、電極、集電体が発熱し、最内層の溶融押出しされたポリプロピレン層が溶融した場合においても、未延伸ポリプロピレン層は溶融せず、金属端子、電極、集電体と金属箔層との接触を防ぐ。これにより、内部短絡の発生を抑えることができる。
【0035】
本発明の第7の構成によると、リチウムイオン電池の収納スペースを確保するために外装体のヒートシール部を折り曲げることがあるが、未延伸ポリプロピレン層が靭性の優れるエチレン・プロピレンランダムコポリマ層を含むことで、前記折り曲げ部におけるクラックの発生を防ぐことができる。これにより、外装体内部の電解質がクラックした箇所から金属箔層と接触することを防ぎ、外装体の絶縁性を確保することができる。
【0036】
本発明の第8の構成によると、基材層表面に延伸ポリエステルもしく層はポリブチレンテレフタレート層を設けることにより、電解質が電池外部へ漏洩し外装体表面に付着したとき外装体表面の白化、絶縁性低下を防止することができる。
【0037】
本発明の第9の構成によると、基材層表面にスリップ剤を塗布しコーティングすることにより、エンボス成形の際、基材層表面と金型の滑り性が確保され、安定してプレス成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】は、本発明の電池用包装材料の層構造を示す概略断面図である。
【図2】は、本発明の電池用包装材料を用いたリチウムイオン電池の金属端子周辺の構造を示す断面拡大図である。
【図3】は、ヒートシール時のヒートシール層の流れを示す本発明に係る電池用包装材の断面図である。
【図4】は、本発明の電池用包装材料をエンボス成形する工程を示す概略斜視図である。
【図5】は、本発明の電池用包装材料を用いたリチウムイオン電池をプラスチックケースに収納した場合の概略斜視図及び断面図である。
【図6】は、従来のパウチタイプのリチウムイオン電池を分解して示す概略斜視図である。
【図7】は、従来のエンボスタイプのリチウムイオン電池を分解して示す概略斜視図である。
【図8】は、従来のエンボス成形工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、水蒸気バリア性、耐電解液性、耐腐食性、密封シール性、低温シール性等に優れたリチウムイオン電池用包装材料である。その外装体について、図等を利用してさらに詳細に説明する。なお、従来例の図6、図7、図8と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
本発明の電池用包装材料の各層を構成する材料等について、図1を参照して説明する。本発明に係る外装体10は最外層に基材層12、最内層にヒートシール層14、その間にアルミニウム箔からなるバリア層13が設けられたものである。
【0041】
アルミニウム箔層13とヒートシール層14はアルミニウム箔13表面に施された化成処理層13aとフッ素系樹脂層8によりドライラミネート法で強固に接着し、積層化している。また、基材層12と化成処理されたアルミニウム箔層13は、ドライラミネート法により接着剤層15で接着している。また、基材層12表面はスリップ剤が塗布されスリップ層11を形成し、ヒートシール層14においては、未延伸ポリプロピレン層16表面に溶融押出しされたポリプロピレン層9が追加工されている。
【0042】
このとき、化成処理層13aをアミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、リン化合物、カルボジイミドを含有する化成処理液で形成することにより、アルミニウム箔13とヒートシール層14との接着強度を高めるとともに電池用包装材として電解質に対して経時的に安定したものとなる。また、フッ素系樹脂層8を接着剤層として設けることにより、水蒸気バリア性に優れた性能も有する。更に、生産性に優れるドライラミネーション法で積層可能であるために効率よく製造することができる。
【0043】
図2は、リチウムイオン電池の正極側タブ周辺の構成を示す断面拡大図である。図1と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。また、図1で示したスリップ層11、化成処理層13a、フッ素系樹脂層8、接着剤層15については簡略化のため省略する。外装体10は複数の層から成る積層構造を有しており、最内層の溶融押出しされたポリプロピレン層9により、金属端子4が挟持された状態でヒートシールされている。
【0044】
通常、ヒートシール層14をヒートシールする場合、未延伸ポリプロピレン層16の融点付近の熱と圧力をシール部にかける必要がある。しかし、未延伸ポリプロピレン層16表面に溶融押出しされたポリプロピレン層9を設けることにより、未延伸ポリプロピレン層16の融点より低温でヒートシールすることができる。
【0045】
また、このとき、溶融押出しされたポリプロピレン層9にメルトインデックスが5g/10min以上30g/10min以下であり、融点が120℃以上150℃以下のものを用いたとき、十分なシール強度を確保しながらシール温度を下げることができる。
【0046】
また、リチウムイオン電池本体を外装体10に封入し電池本体の金属端子4を外側に突出した状態で挟持して密封シールする際、溶融押出しされたポリプロピレン層9の流動性が高いため金属端子の挟持部分全体を覆うようにして外装体10の開口部を密封シールする。そのため前記金属端子挟持部から浸透する外部の水蒸気を遮断し、電解質と水蒸気の反応によるフッ化水素酸の生成を抑制することができる。
【0047】
また、このリチウムイオン電池において、過充電等が原因で外装体10内部の温度が上昇し、金属端子4、電極(不図示)、集電体(不図示)が発熱することがある。このとき、最内層である溶融押出しされたポリプロピレン層9の金属端子4挟持部分が溶融し、その結果、外装体10内の金属箔層13と金属端子4、電極、集電体が接触し短絡を起こす可能性がある。
【0048】
しかし、金属箔13と溶融押出しされたポリプロピレン層9の間の未延伸ポリプロピレン層16の融点が140℃以上180℃以下であれば、溶融押出しされたポリプロピレン層9が溶融した場合においても、未延伸ポリプロピレン層16は融点が高いため容易には溶融しない。したがって、金属端子4、電極、集電体と金属箔13が接触し短絡するのを防ぐことができる。
【0049】
図3(a)は本発明に係る電池用包装材料を用いて封入されたリチウムイオン電池1の断面図であり、図3(b)、(c)は図3(a)のシール部近傍10aを拡大して示す断面図である。ここで、図3は、金属箔層13とヒートシール層14のみを示しその他の層は説明上省略する。またヒートシール層14は最内層側に配された第2ポリプロピレン層24と第1ポリプロピレン層25の2層からなる場合を想定し、第2ポリプロピレン層24とは上記図1、図2で説明した溶融押出しされたポリプロピレン層9、第1ポリプロピレン層25は未延伸ポリプロピレン層16に当たる。
【0050】
一般にヒートシール層14はヒートシール時に加えられる熱及び圧力により溶融し、外装体内側へ押出される。しかし、ヒートシール層14が2層以上のフィルムで構成される場合、各フィルムの配置によりヒートシール後の経時的ラミ強度が異なる。つまり、最内層側に他のフィルムより融点が低く、メルトインデックスが高いフィルムを配すことで、シール後のシール部近傍10aを歪みや切込みが存在しない安定した形状にシールすることができる。
【0051】
図3(b)は第2ポリプロピレン層24が第1ポリプロピレン層25より融点が高く、メルトインデックスが低い場合のヒートシール層14の流れを示した図である。この場合、ヒートシール時、第2ポリプロピレン層24より、第1ポリプロピレン層25の方が融点が低く、メルトインデックスが高いため、第1ポリプロピレン層25は率先して外装体内側へ流れ出そうとするが、第2ポリプロピレン層24はその流れについていけない(図3(b)矢印参照)。このため、シール部近傍10aにおいて、略V字状の切込みが2つ形成される(図3(b)参照)。これにより、外装体を上下に引き剥がす力が働いた場合当該切込みからヒートシール層14の破断が発生し、シール強度の低下が問題となる。
【0052】
図3(c)は、最内層の第2ポリプロピレン層24が第1ポリプロピレン層25より融点が低く、メルトインデックスが高い場合のヒートシール層14の流れを示した図である。シール部を加熱、加圧した場合、最内層の第2ポリプロピレン層24は第1ポリプロピレン層25より融点が低く、メルトインデックスが高いため、第1ポリプロピレン層25より率先して外装体内側へ流れようとする(図3(c)矢印参照)。
【0053】
このため、ヒートシール後、シール部近傍10aでは第2ポリプロピレン層24により円滑な曲面が形成される。従って、図3(b)で示したシール部近傍10aと比較して安定したシール強度を確保することができる。
【0054】
図4(a)は本発明に係る外装体10のプレス加工の一例を示す概略斜視図である。21はオス型、10はプレス前の外装体、22はメス型を示す。プレス前の外装体10はメス型22側にスリップ層11が設けられた面を向け、ポリプロピレン層9が設けられたヒートシール層14の面をオス型21でプレスする。
【0055】
図4(b)は、外装体10がプレスされる際、外装体10に働く力を示す断面図である。凹状にプレスされる場合、メス型22の側壁部22aの深さが大きくなるに従い、基材層12表面とメス型22の内面との滑り性が重要になる。外装体10に対し下向きのプレスをかけたとき、側壁部22aにおいて、ヒートシール層14にオス型21による下向きの力x(矢印)が働くのに対し基材層12には摩擦による上向きの力y(矢印)が働く。したがって外装体10の層間接着面に平行なせん断力が外装体10に働き、このせん断力が及ぼす外装体10への仕事量はメス型22の側壁部22aの深さが深くなるにつれ大きくなり、積層構造の剥離、またはバリア層のクラッキングを引き起こす。したがって、メス型22と基材層12の間の滑り性が重要になる。
【0056】
一方、オス型21とヒートシール層14の間の滑り性が不十分である場合、プレス時、オス型21にヒートシール層14が引き摺られ、ヒートシール層14に皺又は破れが発生することがある。
【0057】
そこで、ヒートシール層14とオス型21の動摩擦係数を下げるためスリップ剤をヒートシール層14表面にコーティングすることが考えられる。しかし、本発明に係る外装体10においては、ポリプロピレン層9が一定の滑り性を有する。このため、新たにスリップ剤をヒートシール層にコーティングする必要はなく安定してエンボス加工をおこなうことができる。
【0058】
図5(a)はリチウムイオン電池1を示す概略斜視図であり、 図5(b)は点線で示されるプラスチックケース19に収納されたリチウムイオン電池1を示す概略斜視図である。
【0059】
エンボス成形された外装体10にリチウムイオン電池本体を封入後、周縁部10bを密封シールしリチウムイオン電池1は完成するが、リチウムイオン電池1を実際に使用する場合、外装体10だけでは、耐衝撃性に弱く、小さな傷が原因でクラッキングを起こすことがある。
【0060】
そこで、リチウムイオン電池1はプラスチックケース19に収納され使用されることがよくある。例えば、携帯電話などに使用される場合、落下時に衝撃を受けるため、プラスチックケースに収納されている。
【0061】
ここで、リチウムイオン電池1の小型化を図る場合、リチウムイオン電池1の外装体周縁シール部10bを折り曲げてプラスチックケース19に収納する必要がある。図5(c)はプラスッチクケース19に収納したリチウムイオン電池1を矢印x方向から見た断面図である。
【0062】
周縁シール部10bの折り目である折り曲げ部10cにおいて、ヒートシール層はヒートシール時に一度溶融し、その後結晶化しているため、折り曲げる際、クラッキングを起こし易い。
【0063】
また、このクラッキングにより外装体10内部の電解質が金属箔層13に接触し、金属箔層13を通電することがある。このとき、リチウムイオン電池の出力は著しく低下するか、電池の機能を失うことになる。
【0064】
しかし、未延伸ポリプロピレン層16が、靭性に優れるエチレン・プロピレンランダムコポリマ層からなる場合、未延伸ポリプロピレン層16のクラッキングを防ぎ外装体10の絶縁性を確保することができる。
【0065】
次に、図1に示した外装体10の各層について具体的に説明する。前記基材層12はエンボス加工する際のプレスに耐え得る展延性を有する必要がある。一般に、延伸ポリエステルまたはナイロンフィルムからなるが、この時、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロンとしては、ポリアミド樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0066】
また、基材層12は耐ピンホール性および電池の外装体とした時の絶縁性を向上させるために、前記ポリエステルフィルム又はナイロンフィルムの他、異なる材質のフィルムを積層化することも可能である。基材層12を積層体化する場合、基材層が2層以上の樹脂層を少なくとも一つを含み、各層の厚みが6μm以上、好ましくは、12〜25μmである。基材層を積層化する例としては、図示はしないが次の1)〜7)が挙げられる。
1)延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
2)延伸ナイロン/延伸ポリエチレンテレフタレート
また、包装材料の機械適性(包装機械、加工機械の中での搬送の安定性)、表面保護性(耐熱性、耐電解質性)、2次加工とてリチウムイオン電池用の外装体をエンボスタイプとする際に、エンボス時の金型と基材層との摩擦抵抗を小さくする目的あるいは電解液が付着した場合に基材層を保護するために、基材層を多層化、基材層表面にフッ素系樹脂層、アクリル系樹脂層、シリコーン系樹脂層、ポリエステル系樹脂層、及びこれらのブレンド物層等を設けることが好ましい。
例えば、
3)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(フッ素系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
4)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(シリコーン系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
5)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
6)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
7)アクリル系樹脂/延伸ナイロン(アクリル系樹脂はフィルム状、または液状コーティング後乾燥で硬化)
【0067】
また、上記延伸ポリエチレンテレフタレートの代わりに延伸ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートを用いた場合にも同様の効果が得られる。
【0068】
ここで、基材層12は、ドライラミネート法を用いて接着剤層15により金属箔層13と貼り合わされる。
【0069】
バリア層13は、外部からリチウムイオン電池の内部に特に水蒸気が浸入することを防止するための層で、バリア層単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成形性)を安定化し、かつ耐ピンホールをもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウム、ニッケルなどの金属、又は、無機化合物、例えば、酸化珪素、アルミナ等を蒸着したフィルムなども挙げられるが、バリア層13として好ましくは厚さが20〜80μmのアルミニウムとする。
【0070】
ピンホールの発生をさらに改善し、リチウムイオン電池の外装体のタイプをエンボスタイプとする場合、エンボス成形におけるクラックなどの発生のないものとするためには、バリア層13として用いるアルミニウムの材質が、鉄含有量が0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%とすることによって、鉄を含有していないアルミニウムと比較して、アルミニウムの展延性がよく、外装体として折り曲げによるピンホールの発生が少なくなり、かつ前記エンボスタイプの外装体を成形する時に側壁の形成も容易にできる。前記鉄含有量が、0.3重量%未満の場合は、ピンホールの発生の防止、エンボス成形性の改善等の効果が認められず、前記アルミニウムの鉄含有量が9.0重量%を超える場合は、アルミニウムとしての柔軟性が阻害され、外装体として製袋性が悪くなる。
【0071】
また、冷間圧延で製造されるアルミニウムは焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性・腰の強さ・硬さが変化するが、本発明において用いるアルミニウムは焼きなましをしていない硬質処理品より、多少または完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウムがよい。前記、アルミニウムの柔軟性・腰の強さ・硬さの度合い、すなわち焼きなましの条件は、加工適性(パウチ化、エンボス成形)に合わせ適宜選定すればよい。たとえば、エンボス成形時のしわやピンホールを防止するためには、成形の程度に応じた焼きなましされた軟質アルミニウムを用いることができる。
【0072】
また、バリア層13であるアルミニウムの表、裏面に化成処理13aを施すことによって、接着剤15との接着強度が向上する。
【0073】
次に、化成処理層13aについて説明する。化成処理層13aはアルミニウム箔13のフッ素系樹脂層15側の面に形成するものである。また、化成処理層13aはアルミニウム箔13とフッ素系樹脂層15とを強固に接着させアルミニウム箔13とヒートシール層14のデラミネーションを防止することができる。
【0074】
具体的には、リン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、トリアジンチオール化合物等の耐酸性皮膜を形成することによってエンボス成形時のアルミニウム箔層13とヒートシール層14との間のデラミネーション防止と、リチウムイオン電池の電解質と水蒸気とによる反応で生成するフッ化水素により、アルミニウム表面の溶解、腐食、特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミが溶解、腐食することを防止し、かつ、アルミニウム表面の接着性(濡れ性)を向上させることができる。
【0075】
化成処理層13aは、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン、リン酸亜鉛等の非クロム系(塗布型)化成処理等によりアルミニウム箔13面に形成されるものであるが、フッ素系樹脂8と強固に接着するという点、また、連続処理が可能であると共に水洗工程が不要で処理コストを安価にすることができるという点などから塗布型化成処理、特にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物、リン化合物、及びカルボジイミド(樹脂)を含有する処理液で処理するのが最も好ましい。
【0076】
まず、アミノ化フェノール重合体について説明する。アミノ化フェノール重合体としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、下記式(化1)、(化2)、(化3)、(化4)で表される繰り返し単位からなるアミノ化フェノール重合体を挙げることができる。なお、式中のXは水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリル基ないしベンジル基を示す。また、R1、R2はヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基を示し、同じ基であってもよいし、異なる基であってもよいものである。
【0077】
下記式(化1)〜(化4)において、X、R1、R2で示されるアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖または分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。また、X、R1、R2で示されるヒドロキシアルキル基としては、たとえば、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ基が1個置換された炭素数1〜4の直鎖ないし分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。なお、下記式(化1)〜(化4)におけるXは水素原子、ヒドロキシル基、および、ヒドロキシアルキル基のいずれかであるのが好ましい。
【0078】
また、下記式(化1)、(化3)で表されるアミノ化フェノール重合体は、繰り返し単位を約80モル%以下、好ましくは繰り返し単位を約25〜約55モル%の割合で含むアミノ化フェノール重合体である。また、アミノ化フェノール重合体の数平均分子量は、好ましくは約500〜約100万、より好ましくは約1000〜約2万である。アミノ化フェノール重合体は、たとえば、フェノール化合物ないしナフトール化合物とホルムアルデヒドとを重縮合して下記(化1)ないし(化3)で表される繰り返し単位からなる重合体を製造し、次いで、この重合体にホルムアルデヒドおよびアミン(R12NH)を用いて水溶性官能基(−CH2NR12)を導入することにより製造される。アミノ化フェノール重合体は、1種ないし2種以上混合して用いることができる。
【0079】
【化1】

【0080】
【化2】

【0081】
【化3】

【0082】
【化4】

【0083】
次に、三価クロム化合物について説明する。三価クロム化合物としては、公知のものを
広く使用することができ、たとえば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロ
ム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリ
ウムクロム等を挙げることができ、好ましくは硝酸クロム、フッ化クロムである。
【0084】
次に、リン化合物について説明する。リン化合物としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、リン酸、ポリリン酸等の縮合リン酸およびこれらの塩等を挙げることができる。ここで、前記塩としては、たとえば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0085】
次に、カルボジイミド(樹脂)について説明する。カルボジイミド(樹脂)としては、一般的に芳香族系ないし脂肪族系ジイソシアネートを末端封止剤の存在下または非存在下でカルボジイミド化触媒の存在下で脱二酸化炭素を伴う縮合反応により製造されるものであるが、脂肪族系ジイソシアネートと末端封止剤の存在下または非存在下でカルボジイミド化触媒の存在下で脱二酸化炭素を伴う縮合反応により製造される式(化5)で表されるポリカルボジイミド樹脂にポリエチレングリコールを付加した式(化6)で表される水性のカルボジイミド樹脂を使用することができる。カルボジイミド(樹脂)は、GPCで測定する数平均分子量が1200〜2500、好ましくは1800〜2200である。
【0086】
【化5】

【0087】
【化6】

【0088】
そして、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、リン化合物、および、カルボジイミド(樹脂)を含有する処理液を用いて形成する化成処理層13aとしては、1m2当たり、アミノ化フェノール重合体が約1〜約200mg、三価クロム化合物がクロム換算で約0.5〜約50mg、リン化合物がリン換算で約0.5〜約50mg、及びカルボジイミド(樹脂)が約0.5〜約200mgの割合で含有されているのが適当であり、アミノ化フェノール重合体が約5〜約150mg、三価クロム化合物がクロム換算で約1.0〜約40mg、リン化合物がリン換算で約1.0〜約40mg、及びカルボジイミド(樹脂)が約1.0〜約150mgの割合で含有されているのがより好ましい。この場合の乾燥温度としては、150〜250℃、好ましくは170〜250℃で、加熱処理(焼付け処理)するのが適当である。
【0089】
また、化成処理層13aの形成方法としては、前記処理液をバーコード法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法等の周知の塗布法を選択して成形すればよい。また、化成処理層13aを形成する前にアルミニウム箔13表面に、予め、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、酸活性化法等の周知の脱脂処理法で処理を施しておく方が、化成処理層13aの機能を最大限に発現させるとともに、長期間維持することができる点から好ましい。
【0090】
次にフッ素系樹脂層8について説明する。フッ素系樹脂層8はアルミニウム箔13とヒートシール層をドライラミネーション法により接着することができる。また、フッ素系樹脂層8は水蒸気透過性をサーマルラミネーション法と同程度に抑えることができるため、生産性よく耐電解液性、耐腐食性等の物性において優れた積層体を提供することができる。
【0091】
フッ素系樹脂層8は、水酸基を含有するフッ素含有共重合体と該フッ素含有共重合体と反応する硬化剤とにより形成される層である。水酸基を含有するフッ素含有共重合体としては、有機溶剤可溶性で分子中に架橋部位を有するものであり、架橋部位としてはアルコール性水酸基(OH基)などである。
【0092】
このようなフッ素含有共重合体としては、たとえば、
1)式:CF2=CFX〔式中、Xはフッ素原子、水素原子ないしトリフルオロメチル基である〕で表されるフルオロオレフィン単量体、
2)式:CH2=CR(CH2)〔式中、Rは炭素数1〜8のアルキル基である〕で表されるβ−メチル置換α−オレフィン単量体、
3)式:CH2=CHR1〔式中、R1は−OR2又は−CH2OR2(但し、R2は水酸基を有するアルキル基)である〕で表される水酸基含有単量体、および、
4)架橋性官能基を有さず、かつ、前記単量体1)、2)、3)と共重合し得る他の単量体から導かれるフッ素含有共重合体を挙げることができる。
【0093】
フルオロオレフィン単量体としては、例えば、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等を挙げることができる。また、前記β−メチル置換α−オレフィン単量体としては、例えば、イソブチレン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン等を挙げることができる。また、水酸基含有単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル等を挙げることができる。
【0094】
また、前記フルオロオレフィン単量体、前記β−メチル置換α−オレフィン単量体、水酸基含有単量体と共重合し得る他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,(イソ)酪酸ビニル,カプロン酸ビニル,ラウリン酸ビニル,ステアリン酸ビニル,安息香酸ビニル,キサフルオロプロピオン酸ビニル,リフルオロ酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、マレイン酸又はフマル酸ジメチル,ジエチル,ジプロピル,ジブチル,ジトリフルオロメチル,ジトリフルオロメチル,ジヘキサフルオロプロピルなどのマレイン酸又はフマル酸のジエステル、メチルビニルエーテル,エチルビニルエーテル,n−プロピルビニルエーテル,iso−ブチルビニルエーテル,tert−ブチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、シクロペンチルビニルエーテル,シクロヘキシルビニルエーテルなどのシクロアルキルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル等の芳香族基を有するビニルエーテル類、あるいは、パーフルオロエチルビニルエーテル,パーフルオロプロピルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル類等の他に、クロトン酸、ビニル酢酸、マレイン酸、スチレン等を挙げることができる。
【0095】
前記水酸基を有するフッ素含有共重合体は、上記式1)〜4)の単量体を乳化重合、溶液重合、懸濁重合等の周知の方法で共重合することにより得ることができる。前記水酸基を有するフッ素含有共重合体はGPCで測定する数平均分子量が1,000〜500,000、好ましくは、3,000〜100,000のものが用いられる。
【0096】
また、前記硬化剤としては、架橋部位である水酸基との反応性の高い有機ポリイソシアネート化合物が適当であり、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、n−ペンタン−1,4−ジイソシアネート、および、これらの三量体、これらのアダクト体やビューレット体、あるいは、これらの重合体で2個以上のイソシアネート基を有するもの、さらに、ブロック化されたイソシアネート類等を挙げることができる。
【0097】
このような水酸基を含有するフッ素含有共重合体と硬化剤とを反応させてフッ素系樹脂を形成する。例えば、前記フッ素含有共重合体を溶媒に溶解し、該フッ素含有共重合体中の水酸基(−OH基)1当量に対して0.3当量以上、好ましくは0.5〜2.0当量となるように前記硬化剤を添加するにが適当である。0.3当量未満の場合はラミネート強度が得られず、また、2.0当量超の場合は未反応のイソシアネート基が多量に残存し、ラミネート強度が低下する恐れがある。
【0098】
次にヒートシール層14について説明する。ヒートシール層14としては、リチウム電池本体の正極及び負極の各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で挟持して熱接着して密封する際にヒートシール層14と金属端子との間に金属端子密封用接着性フィルムを介在させるか否かで樹脂種が異なるものである。金属端子密封用接着性フィルムを介在させる場合には、プロピレン系樹脂の単体ないし混合物などからなるフィルムを用いればよく、金属端子密封用接着性フィルムを介在させない場合、不飽和カルボン酸でグラフと変性した酸変性オレフィン樹脂からなるフィルムを用いればよい。
【0099】
また、ヒートシール層14としてはポリプロピレンが好適に用いられるが、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンの単層または多層、または、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンのブレンド樹脂からなる単層または多層からなるフィルムとしても使用できる。
【0100】
前記各タイプのポリプロピレン、すなわち、ランダムプロピレン、ホモプロピレン、ブロックプロピレンおよび、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンには、低結晶性のエチレンーブテン共重合体、低結晶性のプロピレンーブテン共重合体、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー、シリカ、ゼオライト、アクリル樹脂ビーズ等のアンチブロッキング剤(AB剤)、脂肪酸アマイド系のスリップ剤等を添加してもよい。
【0101】
また、これら多層からなるポリプロピレン層において、靭性に優れるエチレン・プロピレンランダムコポリマを積層中に含むことが特に望ましい。エチレン・プロピレンランダムコポリマはエチレンとプロピレンの共重合体であり、エチレンとプロピレンの繰り返し単位の配列が不規則に重合したものであるため、エチレン樹脂とプロピレン樹脂を溶融しただけのブレンド樹脂等と比較して非常に靭性に優れる。
【0102】
したがって、ヒートシール後、外装体を折り曲げた場合にも、ヒートシール層14にクラックの発生を防止することができる。これは、エチレン・プロピレンランダムコポリマが共重合体であるため、ヒートシール時に一旦溶融し固形化する際もエチレン分子とプロピレン分子が分離して固形化せず、共重合体のまま均一に固形化するためである。したがって、アルミニウム箔に厚みを持たせたことにより、ヒートシール時の熱がアルミニウム箔に保持された場合にも、エチレン・プロピレンランダムコポリマは結晶化し難い。以上よりエチレン・プロピレンランダムコポリマはヒートシール後も一定の靭性を有しヒートシール層として好適に用いることができる。
【0103】
また、未延伸ポリプロピレン層に融点が140〜180℃のものを用いることで、上述したように、リチウムイオン電池において、過充電等が原因で外装体10内部の温度が上昇し、金属端子が発熱し、最内層である溶融押出しされたポリプロピレン層9の金属端子4挟持部分が溶融した場合においても、金属端子と金属箔が接触し短絡するのを防ぐことができる。
【0104】
次に溶融押出しされたポリプロピレン層9について説明する。外装体10のヒートシール層である未延伸ポリプロピレン層表面に溶融押出しされたポリプロピレン層9を追加工することにより、所定のシール強度を確保しながらヒートシール温度を下げることができる。これは、溶融押出しされたポリプロピレン層9は熱をかけたとき、未延伸ポリプロピレン層16と比較して融点が低く、流動性が高いことによると考えられる。
【0105】
通常、未延伸ポリプロピレン層16をヒートシールする場合、未延伸ポリプロピレン層の融点(約190℃)付近の熱と圧力をシール部にかける必要がある。しかし、前記未延伸ポリプロピレン層表面に融点が120〜150℃の溶融押出しされたポリプロピレン層9を設けることにより、未延伸ポリプロピレン層の融点より低温でヒートシールすることができる
【0106】
また、このとき、溶融押出しされたポリプロピレン層9にメルトインデックスが5g/10min以上30g/10min以下のものを用いれば、前記シール温度において十分なシール強度を確保することができる。
【0107】
また、リチウムイオン電池本体を外装体10に封入し電池本体の金属端子を外側に突出した状態で挟持して密封シールする際、溶融押出しされたポリプロピレン層9の流動性が高いため金属端子の挟持部分全体を覆うようにして外装体10の開口部を密封シールする。そのため前記金属端子挟持部から浸透する外部の水蒸気を遮断し、電解質と水蒸気の反応によるフッ化水素酸の生成を抑制することができる。
【0108】
また、積層体10をエンボス加工する場合、溶融押出しされたポリプロピレン層9は未延伸プロピレンフィルムと比較して動摩擦係数が低いため、オス型とヒートシール層の滑り性を向上させ未延伸ポリプロピレン層16の皺や破れの発生を防ぎ、安定してプレス成形することができる。
【0109】
次にスリップ層11について説明する。スリップ層11を形成するスリップ剤としては、アゾ基含有ポリジメチルシロキサンアミドを開始剤としてビニル共重合体を共重合することにより製造されるポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体を用いる。
【0110】
ポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体を用いたスリップ剤は、従来の脂肪酸アマイド系のスリップ剤を用いて連続成形する際の成形金型やガイドロール等にスリップ剤が付着するとともに堆積し、成形品に堆積したスリップ剤が付着する問題や、フッ素樹脂層やシリコーン樹脂層のスリップ剤のように塗膜する際、高温で焼付けする必要がない。したがって、スリップ剤として好適な材料である。
【0111】
ポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体とは以下の構造で示されるものである。
〔1〕.(a1*a2l
〔2〕.a1*(a1*a2m
〔3〕.a2*(a1*a2n
ここで、l、m、nは1〜10の整数、a1は下記式(化7)で表されるポリジメチルシロキサン部分であり、
【0112】
【化7】

【0113】
2はビニル重合体部分である。まず、上記ポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体を合成するためには高分子開始剤法が適用される。上記高分子開始剤法においては、例えば、下記式(化8)で表されるようなポリジメチルシロキサン部分を導入した高分子を用いて共重合可能なビニル短量体を共重合すれば、効率よくブロック共重合体を製造することができる。
【0114】
【化8】

【0115】
また、過酸化型高分子開始剤、アゾ型高分子開始剤等のポリメリック開始剤を用いれば二段階で重合することもできる。例えば、アゾ型高分子開始剤を使用した場合には、下記式(化9)、(化10)に示す二段階の重合となり、
【0116】
【化9】

【0117】
【化10】

【0118】
ここで、m、n、n’、lは1以上の整数、M1は下記式(化11)、(化12)で表されるマクロモノマーであり、
【0119】
【化11】

【0120】
【化12】

【0121】
ここで、M2はM1と共重合可能なビニル単量体であり、Rを例示するならば、下記
式(化13)で表されるような
【0122】
【化13】

などがある。
【0123】
次に、上記高分子開始剤法において使用される共重合可能なビニル単量体としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、テウリル(メタ)アクリレート等の脂肪族ないし環式(メタ)アクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、iso−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類、アクリロニトリル、メタクリロ二トリル等のニトリル系単量体、酢酸ビニル、プロピロン酸ビニル等の脂肪族ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フィン類、クロロプレン、ブタジエン等のジエン類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロトン酸、アトロパ酸、シトラコン酸等のα、β−不飽和カルボン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−メチロ−ルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メチルアクリルアミドグリコレートメチルエーテル等のアミド類、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有単量体、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアリルエーテル等のエポキシ基含有単量体、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、アリルアルコール、カージュラEとアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等との反応物、その他ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール等があり、さらに加水蒸気解性シリル基を有するビニル単量体としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメトキシエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤を使用することができる。上記単量体は1種ないし2種以上混合して用いてもよいものである。なお、本段階で(メタ)アクリレートとは、アクリレートないしメタアクリレートの意味で用いている。
【0124】
前記ポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体の製造方法としては、上記したポリジメチルシロキサンを導入した高分子開始剤によって共重合可能なビニル単量体を添加して重合せしめることにより製造される。上記重合反応は通常溶液において行われる。上記重合反応においては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤等の単独ないし混合溶剤として使用できる。
【0125】
また、上記重合反応においては、必要に応じて、たとえば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の周知の重合開始剤を併用して用いてもよいものである。このようにして得られるポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体において、シロキサン含有比率は1〜60重量%、好ましくは5〜40重量%、その他共重合可能なビニル単量体の含有比率は99〜40重量%、好ましくは95%〜60重量%とし、その中にOH基やエポキシ基を有するビニル単量体が含有されるのが望ましい。このようにして得られるポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体は、他の合成樹脂との相溶性に富み、相溶化剤としても極めて有効であるために、たとえば、シリコーン樹脂やポリビニルアセトアセタールやポリビニルブチラール等の合成樹脂を混合して使用してもよいものである。
【0126】
ポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体をスリップ剤に用いる場合、溶液中において上記重合反応により得られた前記ポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体を含有した樹脂液をグラビア印刷法等の周知の塗布法で基材層表面に塗布するとともに乾燥することによりスリップ剤層11を得ることができる。前記ポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体の塗布量としては、乾燥後に0.05g/m以上、好ましくは、0.08〜0.5g/m、さらに好ましくは0.1〜0.2g/mである。塗布量が0.05g/m未満では、安定した滑り性が得られない(滑り性がばらつく)虞があり、0.5g/m超においても、滑り性の十分な効果は得られるものの、コスト対効果の面で好ましくない。
【0127】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例において、本発明の電池用包装材料について具体的に説明する。
【実施例1】
【0128】
アミノ化フェノール重合体、三化クロム化合物、リン化合物、及び、カルボジイミド樹脂を含有する化成処理液で両面を化成処理して化成処理層を両面に形成したアルミニウム箔(厚さ40μm)の一方の面と25μm厚さの二軸延伸ナイロンフィルム(基材層)とを2液硬化型ポリウレタン系接着部を介して積層した。
【0129】
次にもう一方の化成処理層面にフッ素系ポリオールにIPDIヌレート体及びIPDIをフッ素系ポリオールの水酸基(−OH基)1当量に対してそれぞれ1.1当量添加した接着剤溶液を乾燥後に接着剤層として3.0g/mとなるように塗布・乾燥するとともに厚さ30μmの未延伸ポリプロピレン層を前記接着剤層面に加熱圧縮し積層体を得た。(ドライラミネーション法)
【0130】
次に前記積層体の未延伸ポリプロピレン層表面に融点139℃、メルトインデックス20g/10minのポリプロピレン層を厚さ20μmになるよう溶融押出しして本発明1の積層体を得た。
【0131】
また、上記方法と同様にして得られた積層体の未延伸ポリプロピレン層表面に融点139℃、メルトインデックス20g/10minのポリプロピレンを厚さ50μmになるよう溶融押出しして本発明2の積層体を得た。
【0132】
また、上記未延伸ポリプロピレン層表面にポリプロピレンを溶融押出しする前の積層体を比較例とした。
【0133】
上記得られた本発明1、本発明2、及び比較例の積層体について、下記の評価法にて評価を行い、シール温度とシール強度及びつぶれ量の関係をグラフ1、グラフ2にまとめた。また、シール時間とシール強度及びつぶれ量の関係をグラフ3、グラフ4にまとめた。
【0134】
[グラフ1]

【0135】
[グラフ2]

【0136】
[グラフ3]

【0137】
[グラフ4]

【0138】
シール温度とシール強度の関係を示す評価方法としては、上記作成した積層体を60mm(MD方向)×120mm(TD方向)の短冊片に裁断し、これをTD方向に二つ折りにし、対向する2辺を7mm巾でヒートシールして一方に開口を有する袋を作成し、開口部を7mm巾、面圧1.0MPa、シール時間3.0秒でヒートシールした。このとき、シール温度を150℃、170℃、190℃、210℃と条件を変えてシールしたサンプルを上記積層体ごとに作製した。
【0139】
次にこれらサンプルの前記開口部におけるヒートシール部を15mm巾の短冊状に切り取り、これを引張り機(島津製作所製、AGS−50D(商品名))で300mm/分の速度で引張り、ヒートシール強度を測定した。単位はN/15mm巾である。
【0140】
シール温度とつぶれ量の関係を示す評価方法としては、上記方法と同様にして開口部を有する袋を作成し、開口部を7mm巾、面圧1.0MPa、シール時間3.0秒でヒートシールした。このとき、シール温度を150℃、170℃、190℃、210℃と条件を変えてシールしたサンプルを上記積層体ごとに作製した。次に、これらサンプルのヒートシール前及びヒートシール後の開口部における積層体の総厚を測定した。
【0141】
シール時間とシール強度の関係を示す評価方法としては、上記方法と同様にして開口部を有する袋を作成し、開口部を7mm巾、面圧1.0MPa、シール温度190℃でヒートシールした。このとき、上記条件でシール時間を3秒、6秒、9秒と条件を変えてシールしたサンプルを上記積層体ごとに作製した。
【0142】
次にこれらサンプルの前記開口部におけるヒートシール部を15mm巾の短冊状に切り取り、これを引張り機(島津製作所製、AGS−50D(商品名))で300mm/分の速度で引張り、ヒートシール強度を測定した。単位はN/15mm巾である。
【0143】
シール時間とつぶれ量の関係を示す評価方法としては、上記方法と同様にして開口部を有する袋を作成し、開口部を7mm巾、面圧1.0MPa、シール温度190℃でヒートシールした。このとき、上記条件でシール時間を3秒、6秒、9秒と条件を変えてシールしたサンプルを上記積層体ごとに作製した。次に、これらサンプルのヒートシール前及びヒートシール後の開口部における各総厚を測定した。
【0144】
以上、グラフ1から明らかなように溶融押出しされたポリプロピレン層を未延伸ポリプロピレン層表面に設けることでシール強度が向上することがわかった。また、本発明1と本発明2を比較し、溶融押出しするポリプロピレン層の厚さを厚くすることにより、接着強度も向上することがわかった。これらのことから、シール温度を下げた場合においても、ポリプロピレン層を溶融押出しすることで十分なシール強度を確保することができることがわかった。
【0145】
また、グラフ2から明らかなように未延伸ポリプロピレン層表面に溶融押出しされたポリプロピレン層を設けることにより、ヒートシール時の積層体のつぶれ量が増加することがわかった。これは、比較例1のつぶれ量と比較することで主に溶融押出しされたポリプロピレン層のつぶれによるものであることがわかる。したがって、この溶融押出しされたポリプロピレン層の流動性により、金属端子挟持部分全体を覆うように密封シールすることができ、金属端子挟持部から浸透する外部の水蒸気を遮断し、電解質と水蒸気の反応によるフッ化水素酸の生成を抑制すると考えられる。
【0146】
また、グラフ3及びグラフ4から明らかなように、シール時間を長くすることにより、つぶれ量が増加するのに対し、シール強度はそれほど変化しないことがわかった。したがって、シール強度を強化するためには、シール時間を長くするのではなく、溶融押出しされたポリプロピレン層を設ける方が効果的であると考えられる。また、シール時間を長くすると溶融押出しされたポリプロピレン層だけではなく、未延伸ポリプロピレン層もつぶれ、金属端子とアルミニウム箔が肉薄し、短絡を起こす可能性がある。このため、シール時間は3秒程度が最も好適であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、エネルギー貯蔵用や電気自動車用の電源として好適な、耐久性、安全性の高いリチウムイオン電池等に用いる電池用包装材料に関するものである。
【符号の説明】
【0148】
1 リチウムイオン電池
2 リチウムイオン電池本体
3 セル(蓄電部)
4 金属端子(タブ)
7 挟持部分
8 フッ素系樹脂層
9 溶融押出しされたポリプロピレン層
10 外装体
10a シール部近傍
10b 外装体周縁部
10c 折り曲げ部
12 基材層
13 金属箔層
13a 化成処理層(金属箔層表面)
14 ヒートシール層
15 接着剤層
16 未延伸ポリプロピレン層
19 プラスチックケース
20 プレス成形部
21 オス部
22 メス型
22a 側壁部
23 キャビティー
24 第2ポリプロピレン層
25 第1ポリプロピレン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層である基材層、アルミニウム箔からなるバリア層、化成処理層、フッ素系樹脂層、最内層であるヒートシール層が少なくとも順次積層された電池用包装材料において、
前記ヒートシール層は少なくとも第1ポリプロピレン層と第2ポリプロピレン層を有し、
前記第2ポリプロピレン層は前記第1ポリプロピレン層より最内層側に配され、
前記第1ポリプロピレン層と比較して融点が低く、メルトインデックスが高いことを特徴とする電池用包装材料。
【請求項2】
前記フッ素系樹脂層が水酸基を含有するフッ素含有共重合体と該フッ素含有共重合体の水酸基と反応する硬化剤とからなる接着剤であり、
前記第1ポリプロピレン層が未延伸ポリプロピレン層からなり、
前記第2ポリプロピレン層が溶融押出しされたポリプロピレン層からなることを特徴とする請求項1に記載の電池用包装材料。
【請求項3】
前記溶融押出しされたポリプロピレン層のメルトインデックスが、5g/10min以上30g/10min以下であることを特徴とする請求項2に記載の電池用包装材料。
【請求項4】
前記溶融押出しされたポリプロピレン層の融点が、120℃以上150℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の電池用包装材料。
【請求項5】
前記化成処理層が、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、リン化合物、および、カルボジイミドを含有する化成処理液により形成されていることを特徴とる請求項1及至請求項4のいずれか1に記載の電池用包装材料。
【請求項6】
前記未延伸ポリプロピレン層の融点が140℃以上180℃以下であることを特徴とする請求項2及至請求項5のいずれか1に記載の電池用包装材料。
【請求項7】
前記未延伸ポリプロピレン層がエチレン・プロピレンランダムコポリマ層を含む層であることを特徴とする請求項2及至請求項6のいずれか1に記載の電池用包装材料。
【請求項8】
前記基材層表面が、延伸ポリエステル層もしくはポリブチレンテレフタレート層であることを特徴とする請求項1及至請求項7のいずれか1に記載の電池用包装材料。
【請求項9】
前記基材層表面にスリップ剤によるコーティング層が設けられていることを特徴とする請求項1及至請求項8のいずれか1に記載の電池用包装材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−84607(P2013−84607A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257748(P2012−257748)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2006−265942(P2006−265942)の分割
【原出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】