説明

電池用正極活物質、該電池用正極活物質を用いた電池、及び該電池用正極活物質の製造方法

【課題】Agの使用量を低減しても、放電容量を維持することができると共に電解液中での安定性を向上して貯蔵後の放電容量を維持することができる電池用正極活物質、該電池用正極活物質を用いた電池、及び該電池用正極活物質の製造方法の提供。
【解決手段】本発明の電池用正極活物質は、銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物を含む電池用正極活物質において、前記銀の質量及び前記銅の質量の合計が前記複合酸化物の質量の80%〜90%であり、前記銀及び前記銅のモル比が実質的に1:1であり、前記複合酸化物が粉末X線回折法による測定において面間隔2.88±0.05オングストローム、面間隔2.77±0.05オングストローム、面間隔2.42±0.05オングストローム、面間隔2.19±0.05オングストロームに特徴的な回折ピークをもつ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用正極活物質、該電池用正極活物質を用いた電池、及び該電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、時計、計測機器、カメラ等に装着される小型のアルカリ電池(通称ボタン電池と称される)として、酸化銀電池が普及している。酸化銀電池は、正極活物質として酸化銀(AgO及びAgOの少なくともいずれか)、負極活物質として亜鉛末、電解液としてアルカリ溶液(例えばKOHやNaOHの水溶液)を用いて構成されるものが一般である。銀は高価な材料であるが、酸化銀は小型でも高容量が要求される場合の不可欠な正極活物質とされており、このためにボタン電池の殆どは酸化銀電池で構成されていると言っても過言ではない。
【0003】
通常、酸化銀電池単価に占める正極活物質の割合は非常に高く、酸化銀が該電池の単価を決定する大きな要因となっている。また、AgOは導電性が良くないので、電池の内部抵抗が高くなって電池の放電容量が低くなるという問題もある。このため、AgOにMnOを混合した正極活物質や、銀とビスマスの無機酸塩を水酸化アルカリと水媒体中で反応させて得たAg−Bi含有中和殿物を酸化剤で酸化してなるAg−Bi含有酸化生成物からなるアルカリ電池用の正極活物質(例えば、特許文献1)や、AgNiOで示される組成を含む電池用Ag及びNiの複合酸化物粉末(例えば、特許文献2)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、前例のようにMnOを共存させる例では、MnOは真比重が小さく、また放電電位の平坦性が悪いという性質があるから、電池容量の増大を期待できず、しかも放電が進むと放電電位の低下が著しいという問題が付随する。
【0005】
また、Ag−Bi含有酸化生成物からなるアルカリ電池用の正極活物質(例えば、特許文献1)では、Biに対するAgのモル比を2以上にしたものしか開示されていない。
【0006】
また、AgNiOの化合物を配合する例(例えば、特許文献2)では、この物質は放電後に水酸化物を形成して体積膨張を起こすことから、わずかの添加しか許容できない。したがって、このような物質を配合してもコスト抑制効果はあまり期待できない。
【0007】
【特許文献1】国際公開第01/07829号パンフレット
【特許文献2】特開平10−188975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Agの使用量を低減しても、放電容量を維持することができると共に電解液中での安定性を向上して貯蔵後の放電容量を維持することができる電池用正極活物質、該電池用正極活物質を用いた電池、及び該電池用正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を続けた結果、本発明に到達することができた。
【0010】
前記課題を解決する手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物を含む電池用正極活物質において、前記銀の質量及び前記銅の質量の合計が前記複合酸化物の質量の80%〜90%であり、前記銀及び前記銅のモル比が実質的に1:1であり、前記複合酸化物が粉末X線回折法による測定において面間隔2.88±0.05オングストローム、面間隔2.77±0.05オングストローム、面間隔2.42±0.05オングストローム、面間隔2.19±0.05オングストロームに特徴的な回折ピークをもつことを特徴とする電池用正極活物質である。
<2> 前記銀及び前記銅のモル比が0.9:1.1〜1.1:0.9である前記<1>に記載の電池用正極活物質である。
<3> 複合酸化物は、BET値が20m/g以下であり、かさ密度(g/ml)が0.5g/ml以上である前記<1>から<2>のいずれかに記載の電池用正極活物質である。
<4> 酸化銀、電解二酸化マンガン、及び銀ニッケル複合酸化物から選ばれた少なくとも1種をさらに含み、アルカリ電池に用いられる前記<1>から<3>のいずれかに記載の電池用正極活物質である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の電池用正極活物質と、亜鉛末及び水銀アマルガム化亜鉛末のいずれかを含む負極活物質と、缶体と、セロファンセパレーターと、アルカリ電解液とを備えることを特徴とする電池である。
<6> アルカリ溶液中で、AgO及びAgOの少なくともいずれかを生成する生成工程と、前記生成工程において生成されたAgO及びAgOの少なくともいずれかに銅塩溶液を反応させる反応工程とを含むことを特徴とする電池用正極活物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Agの使用量を低減しても、放電容量を維持することができると共に電解液中での安定性を向上して貯蔵後の放電容量を維持することができる電池用正極活物質、該電池用正極活物質を用いた電池、及び該電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(電池用正極活物質)
本発明の電池用正極活物質は、銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物を少なくとも含み、更に必要に応じて、酸化銀、電解二酸化マンガン、及び銀ニッケル複合酸化物から選ばれた少なくとも1種と、その他の成分とを含む。
【0013】
−銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物−
前記銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物は、前記銀の質量及び前記銅の質量の合計が前記複合酸化物の質量の80%〜90%であり、前記銀及び前記銅のモル比が実質的に1:1である。ここで、「前記銀及び前記銅のモル比が実質的に1:1である」とは、前記銀及び前記銅のモル比が0.9:1.1〜1.1:0.9であることを示す。
なお、前記銀及び前記銅は、以下に述べる化学分析法により定量した。
【0014】
−−化学分析法−−
前記銀は、試料を硝酸で溶解し、この硝酸溶液に塩酸を添加して白い沈殿物(塩化銀)を生成し(白い沈殿物が新たに生成しなくなるまで塩酸を添加し)、前記生成された沈殿物を濾過して純水で洗浄し、110℃で乾燥して沈殿物の質量を測定し、前記硝酸に溶解した試料の質量と前記乾燥された沈殿物の質量とから試料中における銀の含量(質量)を算出する重量法により定量した。
前記銅は、試料を硝酸で溶解し、ICP発光分光分析装置(SPS4000B、セイコーインスツル(株)製)により定量した。
なお、前記複合酸化物における前記銀及び前記銅以外の残部を酸素とした。
【0015】
また、前記銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物は、粉末X線回折法による測定において面間隔2.88±0.05オングストローム、面間隔2.77±0.05オングストローム、面間隔2.42±0.05オングストローム、面間隔2.19±0.05オングストロームに特徴的な回折ピークをもつ(図1A及び図1B)。ここで、前記粉末X線回折法による測定は、粉末X線回折装置(RAD−rB、株式会社リガク製)を用いて、X線源をCuKα、管電圧を50kV、電流を100mAで行った。
【0016】
また、前記銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物は、BET値が20m/g以下であり、かさ密度(g/ml)が0.5g/ml以上であることが好ましい。BET値が20m/gを超えると放電容量の維持率が悪くなることがあり、かさ密度が0.5g/ml未満の粉体は作業環境中に浮遊するなど取り扱いが難しいことがある。ここで、前記BET値は、試料を100℃で10分間乾燥(予備処理)し、前記乾燥された試料を1g精秤し、比表面積計(カンタソープJr.、カンタクロム社製)を用いてBET1点法により測定した。また、前記かさ密度は、JIS K5101の顔料の見かけ密度の測定(静置法)により測定した。
【0017】
−酸化銀−
前記酸化銀は、必要に応じて、前記銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物に適宜添加されることが好ましい。前記複合酸化物に前記酸化銀を添加することにより、正極成形体の密度が向上し、超小型電池の場合においても十分な放電容量が確保できるという効果が得られる。
【0018】
−電解二酸化マンガン−
前記電解二酸化マンガンは、必要に応じて、前記銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物に適宜添加されることが好ましい。前記複合酸化物に前記電解二酸化マンガンを添加することにより、材料コストを低減できるという効果が得られる。
【0019】
−銀ニッケル複合酸化物−
前記銀ニッケル複合酸化物は、必要に応じて、前記銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物に適宜添加されることが好ましい。前記複合酸化物に前記銀ニッケル複合酸化物を添加することにより、電池の内部抵抗が低下するという効果が得られる。
【0020】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、本発明の効果を害しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、天然黒鉛等が挙げられる。
【0021】
(電池)
本発明の電池は、前記電池用正極活物質と、負極活物質と、缶体と、セロファンセパレーターと、アルカリ電解液とを少なくとも備え、更に必要に応じて、その他の部材を含む。
【0022】
−負極活物質−
前記負極活物質は、亜鉛末及び水銀アマルガム化亜鉛末のいずれかを含む。
【0023】
−缶体−
前記缶体は、前記電池用正極活物質と前記負極活物質を収容するものである。
【0024】
−セロファンセパレーター−
前記セロファンセパレーターは、前記電池用正極活物質と前記負極活物質を分離するものである。
【0025】
−アルカリ電解液−
前記アルカリ電解液としては、例えば、40%の水酸化カリウムを用いることができる。
【0026】
−その他の部材−
前記その他の部材としては、本発明の効果を害しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、SUSメッシュの集電体、金属Zn板の参照極、ガスケット等が挙げられる。
【0027】
(電池用正極活物質の製造方法)
本発明の電池用正極活物質の製造方法は、生成工程と、反応工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0028】
−生成工程−
前記生成工程は、アルカリ溶液中で、AgO及びAgOの少なくともいずれかを生成する工程である。
【0029】
前記生成工程は、例えば、純水に、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリと、過硫酸ソーダ(Na)等の酸化剤とを仕込む仕込み工程と、前記仕込まれたアルカリ溶液に硝酸銀(AgNO)を添加して中和する中和工程と、前記中和されたアルカリ溶液を温度30〜50℃で30分間以上攪拌する攪拌工程と含む。前記生成工程では、下記反応式(1)〜(3)で示される反応が起こり、AgO及びAgOの少なくともいずれかを生成する。
【0030】
AgNO+NaOH→AgOH+NaNO・・・反応式(1)
2AgOH→AgO+HO・・・反応式(2)
AgO+Na+2NaOH→2AgO+2NaSO+HO・・・反応式(3)
前記反応式(1)〜(3)で示される反応は時間がかかるため、温度30〜50℃で30分間以上攪拌する。
【0031】
−反応工程−
前記反応工程は、前記生成工程において生成されたAgO及びAgOの少なくともいずれかに銅塩溶液を反応させる工程である。
【0032】
前記反応工程は、例えば、前記生成工程で作製されたアルカリ溶液にCu(NOを添加して中和する中和工程と、前記中和されたアルカリ溶液を温度30〜50℃で30分間以上攪拌する攪拌工程と含む。前記反応工程では、下記反応式(4)及び(5)で示される反応が起こる。
Cu(NO+2NaOH→Cu(OH)+2NaNO・・・反応式(4)
AgO+Cu(OH)→AgCuO+HO・・・反応式(5)
前記反応式(4)及び(5)で示される反応は時間がかかるため、温度30〜50℃で30分間以上攪拌する。
本発明の正極活物質はAgOもしくはAgOの生成工程を経て合成される。このような工程を経ることにより、かさ密度が0.5g/ml以上、BET値が20m/g以下という重質な正極活物質が得られる。
【0033】
−その他の工程−
前記その他の工程としては、本発明の効果を害しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反応式(5)で示される反応を完全なものにするために、Na等の酸化剤をさらに添加する酸化剤添加工程、前記酸化剤を添加した後に温度30〜50℃で30分間以上攪拌する攪拌工程、前記攪拌された反応濾液を除去する濾過工程、前記濾過工程で得られた沈殿物を純水で洗浄して純度を高める水洗工程、前記水洗工程で洗浄された沈殿物を温度100℃で真空中又は脱炭酸ガス雰囲気中で乾燥する乾燥工程、前記乾燥された沈殿物を解砕する解砕工程等が挙げられる。
なお、前記乾燥工程では、真空中又は脱炭酸ガス雰囲気中で乾燥することで炭酸ガスの吸着を防止することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
−銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物の調製−
5×10−3(5L)ビーカーに、2×10−3(2L)の純水、13モルの水酸化ナトリウム(NaOH)、及び2モルの過硫酸ソーダ(Na)を投入し、温度を40℃に調整した。前記40℃に調整したアルカリ溶液に、銀が2モル含まれた硝酸銀(AgNO)水溶液1×10−3(1L)を30分間かけて投入して40℃で2時間保持し、その後、銅が2モル含まれた硝酸銅(Cu(NO)水溶液1×10−3(1L)を30分間かけて投入して40℃で2時間保持し、更に、1モルの過硫酸ソーダ(Na)を投入して40℃で2時間保持することにより、反応スラリーを得た。
【0036】
前記得られた反応スラリーを漏斗及び濾紙を用いて濾過することにより黒色ケーキを得た後、純水にて十分洗浄し、前記洗浄されたケーキを100℃で12時間かけて真空中で乾燥し(真空乾燥機を使用)、前記乾燥されたケーキを乳鉢で解砕し、黒色粉末(AgCuO)を得た。
【0037】
−X線回折−
前記得られた黒色粉末について粉末X線回折法による測定を行った。その測定結果を図1A及び図1Bに示す。図1A及び図1Bにおいて、主として、面間隔2.879オングストローム、面間隔2.773オングストローム、面間隔2.416オングストローム、面間隔2.186オングストロームに特徴的な回折ピークが得られた。この回折ピークは酸化銀、過酸化銀、酸化銅等のピークと一致するものではなかった。ここで、前記粉末X線回折法による測定は、粉末X線回折装置(RAD−rB、株式会社リガク製)を用いて、X線源をCuKα、管電圧を50kV、電流を100mAで行った。
【0038】
−BET値及びかさ密度の測定−
また、得られた黒色粉末についてBET値及びかさ密度の測定を行った。その測定結果を表1に示す。前記BET値は、試料を100℃で10分間乾燥(予備処理)し、前記乾燥された試料を1g精秤し、比表面積計(カンタソープJr.、カンタクロム社製)を用いてBET1点法により測定した。また、前記かさ密度は、JIS K5101の顔料の見かけ密度の測定(静置法)により測定した。
【0039】
−3電極セル(電池)の作製−
また、前記得られた黒色粉末と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、天然黒鉛とを、質量比が黒色粉末80%:PTFE10%:天然黒鉛10%となるように混合して、前記混合された黒色粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び天然黒鉛を底面積1.77×10−4(1.77cm)の円形に成形し、前記成形された成形体をSUSメッシュの集電体上に圧着したものを正極合材として用い、金属Zn板からなる参照極及び負極を用い、40%の水酸化カリウム(KOH)水溶液50×10−6(50mL)を電解液として用いた3電極セル(電池)を作製した。
【0040】
−放電容量の測定−
前記作製された3極セル(電池)を用いて放電容量を測定した結果を図2に示す。図2によれば、実施例1で用いた黒色粉末の質量に対する銀の質量が54%と低いにもかかわらず、電圧が1.2Vに達したときの放電容量として230mAh/gと高い値が得られた。また、電圧が1.12V付近に達したときの放電容量としても高い値が得られた。電圧が1.2Vに達したときの放電容量を表1に示す。
【0041】
−容量維持率の測定−
さらに、前記作製された3電極セル(電池)を60℃の恒温器に48時間放置した後、前記放電容量の測定と同様に、放電容量を測定した。前記3電極セル(電池)を60℃の恒温器に48時間放置した後に測定した放電容量をQ2とし、前記3電極セル(電池)を60℃の恒温器に48時間放置する前に測定した放電容量をQ1とし、以下の式(1)により容量維持率(%)を算出した。前記算出した容量維持率(%)を表1に示す。
容量維持率(%)=Q2/Q1×100・・・(1)
表1より、容量維持率は85%と高い値を示すことが分かった。
【0042】
(実施例2)
硝酸銀(AgNO)水溶液に含まれる銀が2.2モルであり、硝酸銅(Cu(NO)水溶液に含まれる銅が1.8モルであることを除いて実施例1と同様にして黒色粉末を得て、BET値、かさ密度、放電容量、及び容量維持率(%)の測定を行った。その測定結果を表1に示す。表1より、銀及び銅のモル比が1.1:0.9である実施例2でも、銀及び銅のモル比が等比(1:1)である実施例1とほぼ同等の測定結果が得られることが分かった。
【0043】
(実施例3)
硝酸銀(AgNO)水溶液に含まれる銀が1.8モルであり、硝酸銅(Cu(NO)水溶液に含まれる銅が2.2モルであることを除いて実施例1と同様にして黒色粉末を得て、BET値、かさ密度、放電容量、及び容量維持率の測定を行った。その測定結果を表1に示す。表1より、銀及び銅のモル比が0.9:1.1である実施例3でも、銀及び銅のモル比が等比(1:1)である実施例1とほぼ同等の測定結果が得られることが分かった。
【0044】
(実施例4)
反応温度を20℃として反応スラリーを得たことを除いて実施例1と同様にして黒色粉末を得て、BET値、かさ密度、放電容量、及び容量維持率の測定を行った。その測定結果を表1に示す。実施例4で得られた黒色粉末は、実施例1で得られた黒色粉末よりも若干微粉で、BET値は15m/gとなり、放電容量及び容量維持率は実施例1と比較して若干低下した。
【0045】
(比較例1)
反応スラリーから得られた黒色粉末の代わりに、一般に電池用として用いられているパウダータイプの酸化銀(DOWAエレクトロニクス株式会社製、平均粒径15μm)を使用することを除いて実施例1と同様にしてBET値、かさ密度、放電容量、及び容量維持率の測定を行った。その測定結果を表1に示す。前記酸化銀はAg含量から計算される酸化銀の純度が99.9%以上であり、放電容量も220mAh/gと酸化銀の理論容量に近い値を示した。
【0046】
(参考例1)
アルカリ溶液に、銀が2モル含まれた硝酸銀(AgNO)水溶液1×10−3(1L)を30分間かけて投入して40℃で2時間保持し、その後、銅が2モル含まれた硝酸銅(Cu(NO)水溶液1×10−3(1L)を30分間かけて投入して40℃で2時間保持する代わりに、アルカリ溶液に、銀が2モル含まれた硝酸銀(AgNO)水溶液と銅が2モル含まれた硝酸銅(Cu(NO)水溶液との混合溶液2×10−3(2L)を60分間かけて投入して40℃で2時間保持したことを除いて実施例1と同様にして黒色粉末を得て、BET値、かさ密度、放電容量、及び容量維持率の測定を行った。その測定結果を表1に示す。参考例1で得られた黒色粉末は、BET値が32m/gと微粉であって、かさ密度が0.3g/mLであった。また、放電容量は200mAh/gであって、酸化銀には及ばないものの高い放電容量を持つ電池用材料であったが、容量維持率が50%と劣化が大きい電池用材料であった。また、貯蔵後の電解液の色は若干青色を呈しており、銅イオンが溶出していた。
【0047】
【表1】

【0048】
表1より、銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物を用いた実施例1〜4は、放電容量及び容量維持率が、従来の酸化銀を用いた比較例1とほぼ同等であることが分かった。
【0049】
また、表1より、BET値の高い黒色粉末を用いた参考例1は、容量維持率が実施例1〜4及び比較例1と比べて著しく低下していることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1A】図1Aは、本発明の電池用正極活物質の粉末X線回折法による測定結果を示す図である。
【図1B】図1Bは、図1Aにおける20°〜50°の拡大図である。
【図2】図2は、実施例1で作製された3極セルを用いて放電容量を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀、銅、及び酸素からなる複合酸化物を含む電池用正極活物質において、前記銀の質量及び前記銅の質量の合計が前記複合酸化物の質量の80%〜90%であり、前記銀及び前記銅のモル比が実質的に1:1であり、前記複合酸化物が粉末X線回折法による測定において面間隔2.88±0.05オングストローム、面間隔2.77±0.05オングストローム、面間隔2.42±0.05オングストローム、面間隔2.19±0.05オングストロームに特徴的な回折ピークをもつことを特徴とする電池用正極活物質。
【請求項2】
前記銀及び前記銅のモル比が0.9:1.1〜1.1:0.9である請求項1に記載の電池用正極活物質。
【請求項3】
複合酸化物は、BET値が20m/g以下であり、かさ密度(g/ml)が0.5g/ml以上である請求項1から2のいずれかに記載の電池用正極活物質。
【請求項4】
酸化銀、電解二酸化マンガン、及び銀ニッケル複合酸化物から選ばれた少なくとも1種をさらに含み、アルカリ電池に用いられる請求項1から3のいずれかに記載の電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電池用正極活物質と、亜鉛末及び水銀アマルガム化亜鉛末のいずれかを含む負極活物質と、缶体と、セロファンセパレーターと、アルカリ電解液とを備えることを特徴とする電池。
【請求項6】
アルカリ溶液中で、AgO及びAgOの少なくともいずれかを生成する生成工程と、前記生成工程において生成されたAgO及びAgOの少なくともいずれかに銅塩溶液を反応させる反応工程とを含むことを特徴とする電池用正極活物質の製造方法。

【図1A】
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【図2】
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【図1B】
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【公開番号】特開2008−251402(P2008−251402A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92850(P2007−92850)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】