説明

電池用電極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】少量の添加で活物質や集電体に対する高い結着性を有する電池用電極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】炭素数8〜29のアルキル基を有するN−アルキル(メタ)アクリルアミドを0.05〜5モル%共重合したアルキル変性ビニルアルコール系重合体と活物質とを含む活物質層が集電体表面に形成されてなる、電池用電極、および活物質層を有する一対の電極が、セパレータを介して当該活物質層同士が対向するように配置されるとともに、リチウム原子を含む電解質塩を含む電解質組成物が当該一対の電極およびセパレータの各間を満たす積層構造を有するリチウムイオン二次電池であって、前記一対の電極のうちの少なくとも一方は上記の電池用電極である、リチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯用コンピューター、電動工具等のポータブル機器が多く登場し、その電源として、高電圧、高エネルギー密度を有する二次電池が重要視されるようになってきた。また、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車、電気自動車など、環境問題の観点からクリーンエネルギーを利用した車両への転換が始まっており、その電源装置として使用される耐久性の高い二次電池の開発は不可欠である。これらの用途に供される二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を実現できるものとして注目されており、より高容量のもの、より長寿命のものが多く研究されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、一般に、集電体上に正極活物質と結着剤とを含む正極活物質層が形成された正極、集電体上に負極活物質と結着剤とを含む負極活物質層が形成された負極、および、それぞれの活物質層を対向させるように配置したこれらの正負極間に介在させたセパレータを備える積層構造を有しており、これらの積層構造を全体として1層のみ有するリチウムイオン二次電池もあれば、2つ以上積層されたリチウムイオン二次電池もある。また電池内にはリチウム原子を含む電解質塩と非水系溶媒を含む電解質組成物が満たされている。
【0004】
正極活物質としては主に、リチウム−コバルト複合酸化物やリン酸鉄リチウム等のリチウム含有金属化合物が用いられている。負極活物質としては主に、リチウムイオンが層間へ挿入脱離可能な多層構造を有する黒鉛等の炭素材料が用いられている。正極および負極は、それぞれ、これらの活物質と結着剤と溶媒と、必要に応じてさらに導電助剤等の添加剤とを混練して活物質スラリーを調製し、これを集電体に塗布し、溶媒を乾燥除去して活物質層を形成することで得られる。また、必要に応じてこれをロールプレス機等で圧縮する。
【0005】
結着剤としては、正極ではポリフッ化ビニリデン(PVDF)系高分子が、負極ではPVDF系高分子またはスチレンブタジエンゴム(SBR)系高分子が広く使用されている。
【0006】
電解質組成物に用いられる非水系溶媒としては、例えば、炭酸エチレン(EC)や炭酸プロピレン(PC)等の環状炭酸エステル系化合物と、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸エチルメチル(EMC)等の鎖状炭酸エステル系化合物の混合液が使用されている。
【0007】
ここで、負極活物質として黒鉛を用いたリチウムイオン二次電池では、充放電において、多層構造中にリチウムイオンが挿入脱離する際に、活物質が膨張収縮する。結着剤の結着性が活物質や集電体に対して充分高くない場合、この膨張収縮によって、活物質が集電体から離れ、あるいは、活物質同士の接触が分断され、導電パスが失われていく。充放電の繰り返しによって導電パスが失われると、充放電容量に関与する活物質の量が減り、二次電池の容量低下を招く(サイクル特性の低下)。従来使用されているPVDF系の結着剤は、これらの結着性が不十分であった。
【0008】
上記のような問題に対し、結着剤としてポリビニルアルコール(PVA)を用いることで改善をはかる方法が知られている(特許文献1〜3を参照)。
【0009】
しかし、前述の方法で活物質や集電体に対する高い結着性を得るためには、多量のポリビニルアルコールの添加が必要である。活物質層に占める結着剤の分量が大きくなると、電池としての容量(エネルギー密度)が小さくなってしまう。また、結着剤が電気抵抗となり、電池の充放電特性に悪影響を及ぼす。
【0010】
また、特に活物質として黒鉛を用いた電極を作製する場合において、結着剤としてのポリビニルアルコールと、活物質としての黒鉛と、溶媒としての水とを混練して活物質スラリーを製造する際、結着剤の添加量が少ないと黒鉛の分散性が悪くなる。従って、集電体への塗布で良好な電極を製造し難く、歩留まりが悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−250915
【特許文献2】特開平9−289022
【特許文献3】特開平11−67215
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、少量の添加で活物質や集電体に対する高い結着性を有する電池用電極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、結着剤として、アルキル変性ビニルアルコール系重合体を用いると、少量の添加で活物質や集電体に対する高い結着性を有する電極を容易に製造することができることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1]アルキル変性ビニルアルコール系重合体と、活物質とを含む活物質層が集電体表面に形成されてなる、電池用電極であって、
前記アルキル変性ビニルアルコール系重合体が、下記一般式(I)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単位を有し、粘度平均重合度Pが200〜5000であり、けん化度が70〜99.99モル%であり、アルキル変性量Sが0.05〜5モル%であることを特徴とする電池用電極;
【化1】


(式中、Rは炭素数8〜29の直鎖または分岐アルキル基、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
[2]前記活物質層における前記アルキル変性ビニルアルコール系重合体の含有率が0.5〜7質量%である、上記[1]の電池用電極;
[3]前記活物質が黒鉛を含む上記[1]または[2]の電池用電極;
[4]活物質層を有する一対の電極がセパレータを介して当該活物質層同士が対向するように配置されるとともに、リチウム原子を含む電解質塩を含む電解質組成物が当該一対の電極およびセパレータの各間を満たす積層構造を有するリチウムイオン二次電池であって、前記一対の電極のうちの少なくとも一方は、上記[1]〜[3]のいずれか1つの電池用電極である、リチウムイオン二次電池;
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電池用電極は、活物質や集電体に対する高い結着性を示すため、サイクル特性に優れる電池を与えることができる。また、結着剤の添加量が少ないため、容量(エネルギー密度)の大きな電池を与えることが出来る。さらに、活物質スラリー製造においては、活物質の分散性がよく、良好な活物質層を形成するのが容易であるため電極の製造において工程通過性や歩留まりがよく、電極の生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電池用電極は活物質層が集電体表面に形成されてなる。そして当該活物質層は結着剤としてアルキル変性ビニルアルコール系重合体と活物質とを含む。
【0017】
本発明に用いるアルキル変性ビニルアルコール系重合体は、下記一般式(I)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単位を含有する。
【化2】


(式中、Rは炭素数8〜29の直鎖または分岐アルキル基、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【0018】
前記アルキル変性ビニルアルコール系重合体を製造する方法は特に制限されないが、一般式(II)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行い、得られたアルキル変性ビニルエステル系共重合体をけん化する方法が好ましい。
【化3】


(式中、Rは炭素数8〜29の直鎖または分岐アルキル基、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【0019】
式中、Rに含まれる炭素数は8〜29である必要があり、10〜25が好ましく、12〜24がさらに好ましい。炭素数が8未満の場合、アルキル基同士の相互作用が発現せず、乾燥時の耐水性が低下する。一方、炭素数が29を超える場合、アルキル変性ビニルアルコール系重合体の水溶性が低下する。なお、Rは直鎖状であっても分岐状であってもよい。式中、Rは水素原子またはメチル基である。
【0020】
一般式(II)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単量体として、具体的には、N−オクチルアクリルアミド、N−デシルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−オクダデシルアクリルアミド、N−ヘキサコシルアクリルアミド、N−オクチルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド、N−オクダデシルメタクリルアミド、N−ヘキサコシルメタクリルアミド等が挙げられる。これらの中でも、N−オクダデシルアクリルアミド、N−オクチルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド、N−オクダデシルメタクリルアミド、N−ヘキサコシルメタクリルアミド等が好ましく、N−オクダデシルアクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミドおよびN−オクダデシルメタクリルアミドがより好ましい。
【0021】
一般式(II)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られにくい。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、本発明で規定するアルキル変性量を有するアルキル変性ビニルアルコール系重合体を得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0〜200℃に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0022】
一般式(II)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。
【0023】
共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0024】
また、一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するビニルアルコール系重合体の着色等が見られることがあるため、その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤を1〜100ppm(ビニルエステル系単量体に対して)程度添加することは何ら差し支えない。
【0025】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられるが、中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0026】
一般式(II)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体を共重合しても差し支えない。使用し得る単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0027】
また、一般式(II)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際し、得られる共重合体の重合度を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で共重合を行っても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類が挙げられ、中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1〜10質量%が望ましい。
【0028】
アルキル変性ビニルエステル系共重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒またはP−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0029】
本発明に含有されるアルキル変性PVAは、アルキル変性量Sが0.05〜5モル%である必要がある。アルキル変性量Sが5モル%を超えると、アルキル変性ビニルアルコール系重合体一分子あたりに含まれる疎水基の割合が高くなり、該ビニルアルコール系重合体の水溶性が低下する。一方、アルキル変性量Sが0.05モル%未満の場合、アルキル変性ビニルアルコール系重合体の水溶性は優れているものの、該ビニルアルコール系重合体中に含まれるアルキルユニットの数が少なく、アルキル変性に基づく物性が発現しない。
【0030】
アルキル変性量Sとは、ビニルアルコール系重合体の主鎖メチレン基に対するアルキル基Rのモル分率、即ち全単量体単位数に対するN−アルキル(メタ)アクリルアミドの共重合モル分率で表される。アルキル変性量Sは0.1モル%以上が好ましく、0.2モル%以上がより好ましい。また、アルキル変性量Sは2モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
【0031】
アルキル変性ビニルアルコール系重合体のアルキル変性量Sは、該アルキル変性ビニルアルコール系重合体の前駆体であるアルキル変性ビニルエステル系重合体のプロトンNMRから求めることができる。具体的には、n−ヘキサン/アセトンでアルキル変性ビニルエステル系重合体の再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のアルキル変性ビニルエステル系重合体のサンプルを作成する。該サンプルをCDClに溶解させ、プロトンNMRを用いて室温で測定する。例えばRが直鎖である場合には、ビニルエステル単位の主鎖メチンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)とアルキル基Rの末端メチル基に由来するピークβ(0.8〜1.0ppm)から下記式を用いてアルキル変性量Sを算出する。
S(モル%)={(βのプロトン数/3)/(αのプロトン数+(βのプロトン数/3))}×100
【0032】
アルキル変性ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度Pは、JIS K6726に準じて測定される。すなわち、該ビニルアルコール系重合体を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。なお、粘度平均重合度を単に重合度と呼ぶことがある。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0033】
本発明に含有されるアルキル変性ビニルアルコール系重合体の重合度は200〜5000である。重合度が5000を超えると、該アルキル変性ビニルアルコール系重合体の生産性が低下して実用的でない。また、重合度が200未満の場合、該アルキル変性ビニルアルコール系重合体含有耐水性組成物の耐水性が低下し実用に耐えない場合がある。
【0034】
アルキル変性ビニルアルコール系重合体のけん化度は、70〜99.99モル%である必要があり、80〜99.9モル%が好ましく、96.0〜99.9モル%がさらに好ましい。けん化度が70モル%未満の場合には、該アルキル変性ビニルアルコール系重合体の疎水基相互作用により発現する架橋性能が低下し、けん化度が99.99モル%を超えると、アルキル変性ビニルアルコール系重合体の生産が困難になるので実用的でない。なお、上記アルキル変性ビニルアルコール系重合体のけん化度は、JIS K6726に準じて測定し得られる値である。
【0035】
本発明の電池用電極が有する活物質層における上記したアルキル変性ビニルアルコール系重合体の含有率は、あまりに低いと結着剤として充分に機能せずに活物質層が分離しやすくなる傾向があり、また、あまりに高すぎると得られる電池の充放電特性が低下したり活物質層の単位質量あたりの容量が小さくなったりする傾向があることから、好ましくは0.5〜7質量%の範囲内であり、より好ましくは0.8〜6質量%の範囲内であり、さらに好ましくは1〜5質量%の範囲内である。
【0036】
本発明において使用される活物質の種類に特に制限はないが、電池用電極が正極に用いられる場合の活物質(正極活物質)としては、リチウムを吸蔵および放出可能な粒状の活物質を好ましく用いることができる。具体的には、例えば、リチウム−コバルト複合酸化物、リチウム−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル複合酸化物、リチウム−鉄複合酸化物、リチウム−コバルト−マンガン複合酸化物、リチウム−コバルト−ニッケル複合酸化物、リチウム−マンガン−ニッケル複合酸化物、リチウム−コバルト−マンガン−ニッケル複合酸化物等のリチウム−遷移金属複合酸化物;リチウム−鉄リン酸化合物等のリチウム−遷移金属リン酸化合物;リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。正極活物質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
電池用電極が負極に用いられる場合の活物質(負極活物質)としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料が挙げられ、具体的には、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維、コークス、活性炭等の炭素材料;リチウム、シリコン、すず、銀等の金属、これらの金属の酸化物またはこれらの金属の合金などが挙げられる。負極活物質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。負極活物質は、リチウムイオン二次電池の用途に用いる場合に、サイクル特性や放電容量がより優れたものとなることから、炭素材料を含むことが好ましく、黒鉛を含むことが特に好ましい。
【0038】
本発明の電池用電極が有する活物質層における活物質の含有率は、好ましくは93〜99.5質量%の範囲内であり、より好ましくは94〜99.2質量%の範囲内であり、さらに好ましくは95〜99質量%の範囲内である。
【0039】
本発明の電池用電極が有する活物質層は、上記のアルキル変性ビニルアルコール系重合体および活物質のみから構成されていてもよいが、結着剤としてアルキル変性ビニルアルコール系重合体以外の高分子をさらに含んでいてもよい。当該高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム等の高分子が挙げられる。
【0040】
また、本発明の電池用電極が有する活物質層は、上記のアルキル変性ビニルアルコール系重合体および活物質のみから構成されていてもよいが、これら以外の添加剤をさらに含んでいてもよい。当該添加剤としては、例えば、導電助剤が挙げられる。導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される添加剤である。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック等の粉末状炭素材料;気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素材料;ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の導電性高分子などが挙げられる。活物質層は、導電助剤以外の他の添加剤を含むこともできる。
【0041】
本発明において使用される集電体としては、導電性の部材を用いることができ、例えば、金、白金、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、銀、パラジウム等の金属;ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の導電性高分子などが挙げられる。これらの中でも、価格や耐久性の観点から、正極の集電体としてはアルミニウムが好適に用いられ、負極の集電体としては銅が好適に用いられる。集電体の形状に特に制限はなく、例えば、箔、フィルム、シート、板、メッシュ、エキスパンドメタル、多孔質状などが挙げられる。また、導電性に影響のない範囲でメッキやクロメート処理などの表面処理が施されていてもよい。
【0042】
本発明の電池用電極は活物質層が集電体表面に形成されてなる。活物質層は、集電体表面の一部のみに形成されていても集電体表面の全体に形成されていてもよく、例えば、箔状や板状の形状を有する集電体の一方の面に形成されていても両方の面に形成されていてもよい。
【0043】
集電体表面への活物質層の形成方法に特に制限はなく、通常知られている活物質層の形成方法を採用することができる。すなわち、活物質と、上記のアルキル変性ビニルアルコール系重合体と、アルキル変性ビニルアルコール系重合体が溶解することのできる溶媒と、必要に応じてさらに添加剤とを混練して活物質スラリーを調製し、当該活物質スラリーを上記の集電体に塗布し、溶媒を乾燥除去する方法により集電体表面に活物質層を形成することができる。上記の溶媒としては、ブロック共重合体の種類にもよるが、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。これらの中でも、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、水が好ましく、水がより好ましい。活物質スラリーを集電体に塗布する方法としては、ドクターブレード法やインクジェット法などを採用することができる。また、必要に応じて形成された活物質層をロールプレス機、平板プレス機などで圧縮成形してもよい。
【0044】
本発明の電池用電極は電池、好ましくはリチウムイオン二次電池の構成部品として使用される。本発明の電池用電極が使用されるリチウムイオン二次電池としては、例えば、活物質層を有する一対の電極(正極および負極)が、セパレータを介して当該活物質層同士が対向するように配置された積層構造を有するものが挙げられ、当該リチウムイオン二次電池において、一対の電極のうちの少なくとも一方は本発明の電池用電極である。ここで、「活物質層を有する」電極には、活物質層のみからなる電極が包含される。また、「活物質層同士が対向する」とは、一方の電極が有する活物質層の少なくとも一部と、他方の電極が有する活物質層の少なくとも一部が対向していることを意味する。上記のリチウムイオン二次電池において、リチウム原子を含む電解質塩を含む電解質組成物が、少なくとも一対の電極およびセパレータの各間(すなわち、一方の電極とセパレータの間および他方の電極とセパレータの間)を満たしている。リチウムイオン二次電池は、上記の積層構造を全体として1層のみ有するものであっても、上記の積層構造を複数積層させたものであっても、どちらでもよい。
【0045】
リチウムイオン二次電池等の電池において、本発明の電池用電極は一対の電極のうちの少なくとも一方であればよく、例えば、一方の電極が本発明の電池用電極であって他方の電極がそれ以外の電極であってもよいし、両方の電極が本発明の電池用電極であってもよい。本発明の電池用電極以外の電極が使用される場合にその構成に特に制限はなく、本発明の電池用電極の説明において上記した活物質、集電体、および、従来公知の結着剤を用いて製造されるものを使用することができる。
【0046】
上記のセパレータとしては、リチウムイオン等のイオンを通過させつつ、正極と負極との物理的接触による短絡を防止することのできるものであればその種類に特に制限はなく、例えば、微多孔ポリエチレンフィルム、微多孔ポリプロピレンフィルム等の微多孔ポリオレフィンフィルムなどが挙げられる。セパレータとしては、安全性確保のために、所定の温度(例えば120℃)以上で熱溶融により孔を閉塞して抵抗を上げ、電流を遮断する機能を有するものが好ましい。
【0047】
上記の電解質組成物としては、例えば、リチウム原子を含む電解質塩と非水系溶媒とを含むものが挙げられる。このような電解質組成物は、本発明の効果が奏される限り、必要に応じてリチウム原子を含む電解質塩および非水系溶媒以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
また、上記の電解質組成物は、リチウム原子を含む電解質塩と高分子とを含むポリマー電解質であってもよい。ポリマー電解質は、一般に、非水系溶媒をさらに含むゲル電解質と、非水系溶媒を含まない真性ポリマー電解質とに分類されるが、本発明においてはどちらのポリマー電解質であってもよい。
【0048】
上記の「リチウム原子を含む電解質塩」としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、硝酸リチウム(LiNO)、硫酸リチウム(LiSO)、ヘキサフルオロ砒酸リチウム(LiAsF)、メタンスルホン酸リチウム(CHSOLi)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CFSOLi)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルリチウム(LiC(SOCF)、トリス(パーフルオロエタンスルホニル)メチルリチウム(LiC(SO)などが挙げられる。このうち、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、CHSOLi、CFSOLi、LiN(SOCF、LiN(SOが好ましく、中でも、LiPF、LiBFが特に好ましい。リチウム原子を含む電解質塩は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記の非水系溶媒としては、例えば、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン(VC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)等の炭酸エステル;γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン;1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル;アセトニトリル等のニトリル;スルホラン系化合物;リン酸類;リン酸エステル;ピロリドン類などが挙げられる。これらの非水系溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭酸エステル、ラクトンが好ましく、EC、PC、DMC、EMC、DEC、GBLが特に好ましい。また、炭酸エステルを使用する場合には、リチウム原子を含む電解質塩の解離の促進とリチウムイオンの易動度の両立の観点から、環状の炭酸エステル(例えば、EC、PCなど)と鎖状の炭酸エステル(例えば、DMC、EMC、DECなど)とを併用するのが好ましい。
【0050】
電解質組成物におけるリチウム原子を含む電解質塩の含有量に特に制限はないが、電解質組成物がリチウム原子を含む電解質塩と非水系溶媒を含む場合には、リチウム原子を含む電解質塩および非水系溶媒の各質量の合計に対する当該リチウム原子を含む電解質塩のモル数の割合として、好ましくは0.1〜10ミリモル/gの範囲内であり、より好ましくは0.2〜5ミリモル/gの範囲内であり、さらに好ましくは0.5〜2ミリモル/gの範囲内である。
【0051】
ポリマー電解質に用いられる高分子としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)等のポリアルキレンオキシド;ポリ(フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体(P(VDF−HFP));ポリアクリロニトリル(PAN);ポリメタクリル酸メチル(PMMA);ポリビニルブチラール(PVB);ポリビニルホルマール(PVF);ポリビニルアセトアセタールおよびこれらの共重合体などが挙げられる。このうち、リチウムイオンを溶解しうるイオン伝導性高分子が好ましい。
【0052】
リチウムイオン二次電池等の電池の具体的な構成に特に制限はなく、例えば、上記したような積層構造(活物質層を有する一対の電極がセパレータを介して当該活物質層同士が対向するように配置された積層構造)が電池ケース内に、全体として1層で収容されてなるもの、複数積層されて収容されてなるもの、巻回されて収容されてなるものなどが挙げられる。電極には必要に応じて、発生した電気を取り出すためのリード線を接続させることができる。当該リード線は電池ケースの外側まで引き出されていてもよいし、電池ケースに接触させて電気を取り出すようにしてもよい。電池ケースの形状に特に制限はなく、例えば、円筒型の形状、扁平な形状などが挙げられる。電池ケースの素材に特に制限はなく、金属缶を用いてもよいし、ラミネートフィルムを用いてもよい。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
まず、以下に本発明で使用されるアルキル変性ビニルアルコール系重合体の製造方法について説明する。尚、下記の製造例により得られたアルキル変性ビニルアルコール系重合体のけん化度については、JIS K6726に記載の方法により求めた。アルキル変性量Sは、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて測定した。
【0055】
[製造例1]
アルキル変性ビニルアルコール系重合体(重合体1)の製造
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口および開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g、N−オクタデシルメタクリルアミド1.1gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてN−オクタデシルメタクリルアミドをメタノールに溶解して濃度5%としたコモノマー溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルとN−オクタデシルメタクリルアミドとの比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えたコモノマーの総量は4.8gであった。また重合停止時の固形分濃度は29.9%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、アルキル変性ビニルエステル系共重合体(アルキル変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したアルキル変性PVAcのメタノール溶液771.4g(溶液中のアルキル変性PVAc200.0g)に、27.9gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のアルキル変性PVAc濃度25%、アルキル変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.03モル%)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してアルキル変性ビニルアルコール系重合体(重合体1)を得た。重合体1の重合度は1700、けん化度は98.5モル%、アルキル変性量は0.4モル%であった。
【0056】
[製造例2〜18]
アルキル変性ビニルアルコール系重合体(重合体2〜18)の製造
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、重合時に使用するN−アルキル(メタ)アクリルアミドの種類や添加量等の重合条件、けん化時におけるアルキル変性PVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1に示すように変更した以外は、製造例1と同様の方法により各種のアルキル変性ビニルアルコール系重合体(重合体2〜18)を製造した。
【0057】
[製造例19]
アルキル変性ビニルアルコール系重合体(重合体19)の製造
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管および開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g、アルキル基を有する不飽和単量体としてオクタデシルビニルエーテル57.3gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.0gを添加し重合を開始した。60℃で2時間重合した後冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は30.4%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、アルキル変性ビニルエステル系共重合体(アルキル変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したアルキル変性PVAcのメタノール溶液792.9g(溶液中のアルキル変性PVAc200.0g)に、7.0gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のアルキル変性PVAc濃度25%、アルキル変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.0075モル%)。アルカリ溶液を添加後約12分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してアルキル変性ビニルアルコール系重合体(重合体19)を得た。重合体19の重合度は1700、けん化度は88.0モル%、アルキル変性量は0.8モル%であった。
【0058】
[製造例20]
アルキル変性ビニルアルコール系重合体(重合体20)の製造
アルキル基を有する不飽和単量体としてラウリルビニルエーテルを用いた以外は、製造例19と同様の方法によりアルキル変性ビニルアルコール系重合体(重合体20)を製造した。
【0059】
上記の条件を表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
次に、本発明の実施例について説明を行う。尚、以下の実施例においては、上記で製造した重合体1〜20をそれぞれイオン交換水に溶解し、固形分5質量%の水溶液として用いた。
【0062】
[実施例1]
電池用電極の作製
活物質として球状黒鉛(平均粒子経20μm)と、結着剤として重合体1とを、活物質層における含有率について球状黒鉛が95質量%、結着剤が5質量%となるように、結着剤はイオン交換水に溶解して水溶液(固形分5質量%)としたものを用いて混合し、さらにイオン交換水を適量添加して、活物質スラリーを調製した。次に、集電体として電解銅箔(厚み15μm)の析出面に、上記の活物質スラリーをドクターブレード法で250μmの厚みで塗布した。これを50℃のホットプレートで1時間乾燥し、集電体表面に活物質層を形成した。さらにこれを80℃の真空乾燥機で終夜乾燥し、直径15mmの円形に打ち抜いて電池用電極を作製した。作製した電池用電極の質量を求め、銅箔の質量を差し引いて[塗布量(g)]を求めた。
【0063】
活物質の分散性の評価(分散性)
上記で、結着剤と溶媒と活物質とを混合し、活物質スラリーを作製した際、均一に混合できたものを「均一」、均一に混合できなかったものを「不均一」と評価した。
【0064】
乾燥した活物質層表面の状態の評価(電極表面状態)
上記で、活物質スラリーをドクターブレード法によって集電体に塗布し、乾燥して形成した活物質層の表面が、平滑なものを「A」、やや平滑でない部分があるものを「B」、大部分が平滑でないものを「C」と評価した。
【0065】
結着性の評価(電極保持率)
上記で作製したリチウムイオン二次電池用電極を、活物質層が上になるようにガラス板に粘着テープで貼り付けた。この電極に、JIS Z1522によるセロハン粘着テープを2kgの荷重をかけて5秒間押し付けセロハン粘着テープを電極に貼り付けた後、セロハン粘着テープの一端を持って電極に対して直角を保ちながら毎秒5mmの速度ではがした。セロハン粘着テープに付着した活物質層の質量から[剥離量(g)]を求めた。次式により、[電極保持率(%)]を求めた。
[電極保持率(%)]=100−[{剥離量(g)}/{塗布量(g)}]×100
【0066】
[実施例2〜14]
結着剤として用いる重合体、活物質層における結着剤の含有率を、表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により電池用電極を作製し、評価を行った。
【0067】
[比較例1]
実施例1において、重合体1の代わりに重合体5を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により電池用電極を作製し、評価を行った。
【0068】
[比較例2〜9]
結着剤として用いる重合体、活物質層における結着剤の含有率を、表2に示すように変更した以外は、比較例1と同様の方法により電池用電極を作製し、評価を行った。
【0069】
[比較例10]
比較例1において、重合体5の代わりにポリビニルアルコール(重合度2400、けん化度98.5モル%)(PVA)を用い、活物質層における含有率について球状黒鉛が97.5質量%、結着剤が2.5質量%となるようにしたこと以外は、比較例1と同様の方法により電池用電極を作製し、評価を行った。
【0070】
[比較例11]
比較例1において、重合体5の代わりにPVA(重合度2400、けん化度80モル%)を用い、
活物質層における含有率について球状黒鉛が95質量%、結着剤が5質量%となるようにしたこと以外は、比較例1と同様の方法により電池用電極を作製し、評価を行った。
【0071】
[比較例12]
活物質として球状黒鉛(平均粒子経20μm)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、活物質層における含有率について球状黒鉛が97.5質量%、結着剤が2.5質量%となるように、結着剤はN−メチル−2−ピロリドンに溶解して溶液(固形分10質量%)としたものを用いて混合し、さらにN−メチル−2−ピロリドンを適量添加して、活物質スラリーを調製した。次に、集電体として電解銅箔(厚み15μm)の析出面に、上記の活物質スラリーをドクターブレード法で250μmの厚みで塗布した。これを50℃のホットプレートで1時間乾燥し、集電体表面に活物質層を形成した。さらにこれを80℃の真空乾燥機で終夜乾燥し、直径15mmの円形に打ち抜いて電池用電極を作製した。作製した電池用電極は、比較例1と同様の方法により評価を行った。
【0072】
[比較例13]
活物質として球状黒鉛(平均粒子経20μm)と、結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)の等量混合物とを、活物質層における含有率について球状黒鉛が97.5質量%、結着剤が2.5質量%となるように、結着剤はイオン交換水との混合物(固形分5質量%)としたものを用いて混合し、さらにイオン交換水を適量添加して、活物質スラリーを調製した。次に、集電体として電解銅箔(厚み15μm)の析出面に、上記の活物質スラリーをドクターブレード法で250μmの厚みで塗布した。これを50℃のホットプレートで1時間乾燥し、集電体表面に活物質層を形成した。さらにこれを80℃の真空乾燥機で終夜乾燥し、直径15mmの円形に打ち抜いて電池用電極を作製した。作製した電池用電極は、比較例1と同様の方法により評価を行った。
【0073】
[比較例14]
比較例13において、活物質層における含有率について球状黒鉛が99質量%、結着剤が1質量%となるようにしたこと以外は、比較例13と同様の方法により電池用電極を作製し、評価を行った。
【0074】
上記の結果を表2に示した。
【0075】
【表2】

【0076】
表2より明らかなように、本発明の構成を満たす実施例1〜14では、少量の添加でも高い電極保持率を誇っており、活物質や集電体に対する高い結着性を有していることがわかる。また、活物質スラリーの分散性が良好であり、従って、表面が平滑な良好な活物質層を形成できていることがわかる。これは、ビニルアルコール系重合体に導入されたアルキル変性部分が、活物質である疎水性の黒鉛と親和性を有しており、親水性の水媒体中でも良好な分散性が発現したためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル変性ビニルアルコール系重合体と、活物質とを含む活物質層が集電体表面に形成されてなる、電池用電極であって、
前記アルキル変性ビニルアルコール系重合体が、下記一般式(I)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単位を有し、粘度平均重合度Pが200〜5000であり、けん化度が70〜99.99モル%であり、アルキル変性量Sが0.05〜5モル%であることを特徴とする電池用電極。
【化1】


(式中、Rは炭素数8〜29の直鎖または分岐アルキル基、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
前記活物質層における前記アルキル変性ビニルアルコール系重合体の含有率が0.5〜7質量%である、請求項1に記載の電池用電極。
【請求項3】
前記活物質が黒鉛を含む請求項1または2に記載の電池用電極。
【請求項4】
活物質層を有する一対の電極がセパレータを介して当該活物質層同士が対向するように配置されるとともに、リチウム原子を含む電解質塩を含む電解質組成物が当該一対の電極およびセパレータの各間を満たす積層構造を有するリチウムイオン二次電池であって、前記一対の電極のうちの少なくとも一方は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池用電極である、リチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2013−65509(P2013−65509A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204465(P2011−204465)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】