説明

電池用電極材料および電池

【課題】 サイクル特性に優れ且つパワー密度の大きい電池を提供する。
【解決手段】 下式のような含窒素環状化合物とキノン系化合物との縮合環構造を構成単位中に有する重合体を電極材料に用いる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電池用電極材料および該材料を用いた電池に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のポリマー電池の電極材料は、π共役系導電性高分子を電気化学的または化学的に重合して得たものが用いられている。J.Chem.Soc.Chem.Commun.,317(1981)にはポリアセチレンを電極として用いた例が報告されている。その後、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等について盛んに検討され、導電性高分子を用いた電池の解説書もすでに出版されている。
【0003】しかし、π共役系導電性高分子のみでは、モノマーユニット当たり0.5〜1電子反応のため、容量が限定される。
【0004】そこで、容量を大きくするため、π共役系導電性高分子を電気化学的または化学的に重合して得た後、これに電子伝導性には乏しいが酸化還元反応を起こすキノン系化合物を添加することによって複合電極を得ることが考えられている。例えば、Synth.Met.,83,89(1996)には、ポリアニリンとベンゾキノンの複合電極が報告されている。この複合電極では、分子量当たりの酸化還元反応寄与部分が増加して容量が大きくなる。これは、π共役系導電性高分子のみでは、モノマーユニット当たり0.5〜1電子反応なのに対し、ベンゾキノンと複合することにより、ベンゾキノンの酸化還元容量を付加できるからである。また、ポリアニリンの窒素原子とベンゾキノンとの相互作用により、キノンの酸化還元反応が速やかに起きることからパワー密度も増加する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記複合電極を用いた電池は、サイクル回数を重ねた場合、キノン系化合物が脱離し、容量が減少するという欠点がある。
【0006】また、ポリマーが導電性を持たない非共役系高分子にカーボン等の導電剤を加えた電極、たとえばベンゾキノンの高分子も検討されている。この電極を用いた電池についてもサイクルを重ねると、高分子と導電剤との接触が失われることにより容量が減少することが報告されている。
【0007】そこで本発明の目的は、サイクル特性に優れ且つパワー密度の大きい電池、及び該電池の電極に用いられる電極材料を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目的を達成するために種々の検討を重ねた結果、本発明を完成した。
【0009】本発明は、含窒素化合物とキノン系化合物の基本構造を構成単位中に有する重合体を含有する電池用電極材料に関する。
【0010】また、本発明は、含窒素化合物とキノン系化合物の基本構造を有する単量体単位と、π共役系高分子を構成する単量体単位を含む共重合体を含有する電池用電極材料に関する。
【0011】また、本発明は、上記の材料を電極に用いた電池に関する。
【0012】上記発明において、π共役系高分子を構成する単量体単位がアニリン系化合物単位であることが好ましい。また、前記基本構造が含窒素環状化合物とキノン系化合物の縮合環構造であることが好ましい。さらに、前記含窒素環状化合物が芳香族アミノ化合物または含窒素複素環化合物であることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を挙げて詳細に説明する。
【0014】本発明の電極材料に用いられる重合体(ポリマー)は例えば以下の一般式で表される。
【0015】
【化1】


【0016】
【化2】


【0017】
【化3】


【0018】
【化4】


【0019】
【化5】


【0020】
【化6】


【0021】
【化7】


式中のRは、それぞれ独立に、水素原子、カルボン酸基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子(X)、−CX3、−NHCOR2、−OR2、水酸基、アミノ基、−N(R22、スルホン酸基などを示す。ここで、R2は、炭素数1〜10のアルキル基を示し、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0022】上記ポリマーは、下記の単量体(モノマー)を用いて、既知の方法にて得ることができる。
【0023】
【化8】


【0024】
【化9】


【0025】
【化10】


【0026】
【化11】


【0027】
【化12】


【0028】
【化13】


【0029】
【化14】


式中のRは、前記ポリマーのRと対応する。
【0030】上記のモノマーの重合方法としては、例えば、上記モノマーを溶媒(水、又はアセトニトリル、メタノール、エタノール、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン等の有機溶媒)中に、プロトン酸(塩酸、硫酸、過塩素酸、テトラフルオロホウ酸、トリフルオロ酢酸等)を用いて溶解させ、電気化学的に重合を行う方法、または、酸性溶液中で過硫酸アンモニウムや三塩化鉄等の酸化剤を加えることによって化学的に重合を行う方法がある。
【0031】上記の方法によって重合したポリマーに、導電性付与剤としてカーボン粉末、ポリフッ化ビニリデン等のバインダー溶液を混合し、得られたスラリーを集電体上に成膜して電池用電極とする。
【0032】このようにして得られた電極を正極または負極の少なくともどちらか一方に使用する。
【0033】電解液は、プロトン酸水溶液、またはプロトン源を添加した非水溶液とし、正極と負極をセパレーターを介して対向させた電池を作製する。
【0034】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定するものではない。
【0035】実施例10.01Mの1,5-ジアミノアントラキノン((化8)式にてRがHの物質)を、0.5Mテトラエチルアンモニウムパークロレートを含むプロピレンカーボネート(以下「PC」と略記する。)溶液中に加えて混合・攪拌し、溶解させた。
【0036】この溶液中にプロトン酸として0.5Mトリフルオロ酢酸を加えて、掃引範囲:0〜1500mV、掃引速度:100mV/s、対向電極:白金ワイヤーとして、金電極上に掃引重合を行った。この重合体を十分に蒸留水で洗浄した後、エタノールで洗浄し、30℃、10Torr下で6時間乾燥した。
【0037】得られた重合体(ポリジアミノアントラキノン)0.5mgにカーボン粉末0.5mgを加えて乳鉢で混合した。この混合粉末に、N,N-ジメチルホルムアミド(以下「DMF」と略記する。)を加えて分散させた後、15wt%相当のポリフッ化ビニリデン(以下「PVDF」と略記する。)のDMF溶液を加えて混合し、スラリーとした。
【0038】得られたスラリーを、導電性シート(スチレン−エチレンブロック共重合体中にカーボン粉末を分散させたもの)上に、ドクターブレード装置を用いて成膜し、120℃で1時間乾燥して電池用電極を得た。電極の膜厚は、50ミクロンであった。
【0039】得られた電極を正極とし、ポリジアミノアントラキノンの代わりにポリビニルスルホン酸(以下「PVSA」と略記する。)をドープしたポリジメトキシアニリンを用いて上述の方法で作製した電極を負極とし、電解液として6M PVSA溶液、セパレーターとしてポリプロピレン製多孔シートを用いて電池を作製した。
【0040】作製した電池の評価は、サイクル特性を調査するために、1Cで充放電を5000回行った後の放電容量と初回容量を測定した。また、パワー密度を調査するために、1Cで充電後、10C〜200Cまで放電レートを変化させ、1C充放電時の容量に対する容量変化を測定した。表1及び図1に、5000回充放電繰り返し後の容量/初回容量(1Cで充放電)と、容量減少が20%を超える(1C放電時の容量を100%とした。)放電レートを示した。
【0041】実施例20.01Mの1,5-ジアミノアントラキノン((化8)式にてRがHの物質)を、0.5Mテトラエチルアンモニウムパークロレートを含むγ-ブチロラクトン溶液中に加えて混合・攪拌し、溶解させた。
【0042】この溶液中に酸化剤としてトルエンスルホン酸鉄/γ-ブチロラクトン溶液を加えて攪拌し、重合体を得た。この重合体を吸引濾過し、十分蒸留水で洗浄した後エタノールで洗浄し、30℃、10Torr下で6時間乾燥した。
【0043】得られた重合体を用いて実施例1と同様に電極を作製し、ポリジメトキシアニリンを対向電極として電池を作製し、評価した。
【0044】実施例30.01Mの1,5-ジアミノアントラキノン及び0.01Mのアニリンを、0.5Mテトラエチルアンモニウムパークロレートを含むプロピレンカーボネート溶液中に加えて混合・攪拌し、溶解させた。
【0045】この溶液中にプロトン酸として0.5Mトリフルオロ酢酸を加えて、掃引範囲:0〜1500mV、掃引速度:100mV/s、対向電極:白金ワイヤーとして、金電極上に掃引重合した。得られた共重合体を十分に蒸留水で洗浄した後、エタノールで洗浄し、30℃、10Torr下で6時間乾燥した。
【0046】得られた共重合体を用いて実施例1と同様に電極を作製し、ポリジメトキシアニリンを対向電極として電池を作製し、評価した。
【0047】実施例4実施例1と同じ電極を作製し、1Mトリフルオロ酢酸/PC溶液を電解液として電池を作製し、評価した。
【0048】比較例1化学重合したポリアニリン粉末を70℃で6時間、PVSA溶液中で攪拌することにより、PVSAをドーピングした。得られたポリアニリンを十分蒸留水で洗浄した後、エタノールで洗浄し、30℃、10Torr下で6時間乾燥した。
【0049】得られたPVSAドープ・ポリアニリン及びベンゾキノンをモル比1:1にて乳鉢中でよく混合した。この混合粉末を用いて実施例1と同様に電極を作製し、ポリジメトキシアニリンを対向電極とした電池を作製し、評価した。
【0050】比較例2比較例1と同じ電極を作製し、1Mトリフルオロ酢酸/ポリカーボネート(PC)溶液を電解液として電池を作製し、評価した。
【0051】
【表1】


非水系、水系のいずれの電解液においても、実施例は比較例に比べて容量減少が20%を超える放電レートが大きい。つまり、本発明によれば、大電流放電が可能であり、パワー密度が大きくなることがわかる。
【0052】このような本発明の効果は、下式に示されるような含窒素化合物の窒素原子とキノンとが相互作用することにより分子内でプロトンの移動が起きるため、キノンの酸化還元反応が活性化され速やかに進行することに起因すると考えられる。(化15)式は、アミノ基の窒素原子と結合している水素原子がプロトンとしてキノンの酸素原子に結合するために移動する様子を示している。(化16)式は、プロトン酸(H+-)性溶液中で4級化した窒素原子近傍のH+がキノンの酸素原子に結合するために移動する様子を示している。このように、分子内でプロトンが移動できるため、キノンの反応がよりスムーズに進行すると考えられる。
【0053】
【化15】


【0054】
【化16】


比較例の場合は、ポリアニリンを重合した後ベンゾキノンと混合している。このため、全てのベンゾキノンとポリアニリンの窒素原子が相互作用するような、分子レベルでの混合は不可能である。よって、ポリアニリンの窒素原子と相互作用しない不活性なベンゾキノンが存在すると考えられる。つまり、比較例の場合、近傍にポリアニリン分子が存在しないベンゾキノンがある一定の割合で存在することになり、このため一部のベンゾキノンは活性化されない。一方、実施例の場合は、窒素原子とキノン活性基は、当初から同一分子内でしかもポリマーの構成単位内に存在する。よって、全てのキノンの活性基は窒素原子との相互作用が可能である。窒素原子とキノンとの相互作用により、キノンの酸化還元反応が速やかに進行するため、大きな放電レートでも容量の取り出しが可能となる。よって、電池のパワー密度が向上する。
【0055】また、実施例1,2では、正極であるポリジアミノアントラキノン当たりの容量は、140Ah/kgである。一方、比較例1のポリアニリン+ベンゾキノン正極では、正極当たりの容量は、80Ah/kgとなる。これは、上述したようにジアミノアントラキノンでは、全てのキノンの活性基が窒素原子との相互作用可能であること以外に、同一分子内に窒素原子とキノン活性基が存在するために、1電子の反応に必要な分子量が小さくなる、つまり、分子量当たりの反応電子数が多くなり理論容量が大きくなることも原因の一つと考えられる。実施例1、2では、PVSAをドーパントとするとジアミノアントラキノンの理論容量は、243Ah/kg((化17)式参照)、一方、比較例1のポリアニリン+ベンゾキノンの理論容量は、203Ag/kg((化18)式参照)である。
【0056】
【化17】


【0057】
【化18】


また、比較例の場合はベンゾキノンの脱離によるサイクル特性の低下が見られるが、実施例においては含窒素化合物の窒素原子とキノンの活性基が同一分子鎖中で同一構成単位中に存在することにより、電極からキノン系活性基が脱離することがなく、そのため繰り返し充放電が可能となり、サイクル特性が著しく向上している。
【0058】さらに、実施例3では、電子伝導性をもつπ共役系導電性高分子のポリアニリンを構成するアニリンとジアミノアントラキノンとの共重合体を形成した。本来、キノン系化合物は電子伝導性に乏しく、電池の電極として利用する場合、導電付与剤(カーボン粉末)が必要である。導電性付与剤として例えばカーボン等を添加した場合、サイクル特性劣化の原因の一つに、充放電時のプロトン付加・脱離に伴うキノン系化合物材料の体積変化によって、導電付与剤との接触が失われることが挙げられる。しかし、実施例3では、導電性高分子単位がキノン系化合物の活性基と同一分子内に存在するために、仮に導電性付与剤との接触を失っても電子伝導性を維持できる。よって、実施例1,2と比べて、サイクル特性が向上している。
【0059】
【発明の効果】本発明においては、含窒素化合物中の窒素原子がキノン系化合物の活性基と同一分子内でしかもポリマーの構成単位内に存在するため、効率良くキノン部位の酸化還元反応が促進され、パワー密度が向上する。この作用を示唆するものとして、Synth.Met.,83,89(1996)には、電解重合にて合成したポリアニリンをベンゾキノン水溶液中で掃引することにより作製した複合電極上では、ポリアニリンの窒素原子とキノンとの相互作用により、キノンの酸化還元反応が速やかに進行することが報告されている。
【0060】また、含窒素化合物とキノン系の活性基が同一分子内に存在することにより、電極からキノン系の活性基が脱離することなく繰り返し充放電が可能となるため、サイクル特性が向上する。
【0061】また、キノン活性基を持つ分子と窒素原子を持つ高分子を単純に混合した場合に比べて、同一分子内に窒素原子とキノン活性基が存在するために、1電子の反応に必要な分子量が小さくなる。つまり、同一分子内に窒素原子とキノン活性基が存在することにより、理論容量が大きくなる。
【0062】さらに、導電性高分子を構成するモノマーと共重合したときには、本来電子伝導性に乏しいキノン系活性基が、導電性高分子単位と同一分子内に存在することにより、仮に導電性付与剤との接触を失っても電子伝導性を維持できるためサイクル特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明及び従来の電池の5000回充放電繰り返し後の容量/初回容量と容量減少が20%を超える(1C放電時の容量を100%とした。)放電レートとの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 含窒素化合物とキノン系化合物の基本構造を構成単位中に有する重合体を含有する電池用電極材料。
【請求項2】 含窒素化合物とキノン系化合物の基本構造を有する単量体単位と、π共役系高分子を構成する単量体単位を含む共重合体を含有する電池用電極材料。
【請求項3】 π共役系高分子を構成する単量体単位がアニリン系化合物単位である請求項2記載の電池用電極材料。
【請求項4】 前記基本構造が、含窒素環状化合物とキノン系化合物の縮合環構造である請求項1、2又は3記載の電池用電極材料。
【請求項5】 含窒素環状化合物が芳香族アミノ化合物である請求項4記載の電池用電極材料。
【請求項6】 含窒素環状化合物が含窒素複素環化合物である請求項4記載の電池用電極材料。
【請求項7】 請求項1〜6のいずれか1項に記載の材料を電極に用いた電池。

【図1】
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【公開番号】特開平11−185759
【公開日】平成11年(1999)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−347913
【出願日】平成9年(1997)12月17日
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)