説明

電池

【課題】 扁平状に捲回した発電要素の捲回ずれを防止し、複雑な製造工程を必要としなくても、電気化学的性能の安定した捲回式電池を提供する。
【解決手段】 帯状の正極と帯状の負極とをセパレータを介して対向させ扁平状に捲回した発電要素を備えた電池において、セパレータ3は、帯状正極1及び帯状負極のうち少なくとも一方の電極を内包した袋状構造を有している。特に、セパレータは、帯状正極及び帯状負極のうち、短辺の長さが短い方の電極のみを内包し、内包している帯状電極の長辺の外側部分のセパレータが長辺に沿うように間欠状に融着された熱融着部31を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は捲回式電池に関し、さらに詳しくは、捲回式電池の発電要素の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、PHS、小型パーソナルコンピュータなどの携帯機器類は、エレクトロニクス技術の進展に伴って小型化、軽量化が著しく、これらの機器類に用いられる電源としての電池においても小型、軽量でエネルギー密度の高い電池が求められる。軽量でエネルギー密度の高い電池としてリチウム電池がある。特に、従来のリチウムイオン二次電池は円筒形あるいは角形が中心であるのに対し、金属樹脂複合フィルムに代表されるフィルム状の外装体を用い、さらなる電池の小型化、軽量化を実現した薄型形状のリチウムイオン二次電池やリチウムポリマー二次電池が提案されている。
【0003】
このような捲回式電池(例えば、特許文献1参照)は、例えば、図6及び図7に示すように、帯状の正極集電体12に正極合剤11を配してなる帯状の正極1の一部に正極集電体端子13を帯状の該正極1の幅方向に突出するように取り付け、帯状の該正極1に帯状のセパレータ3を重ね合わせ、さらに同様に負極集電体端子23が取り付けられた帯状の負極(図示せず)を重ね合わせ、捲回して発電要素5を得る。このようにして得られた発電要素は、正極集電体端子13及び負極集電体端子23が発電要素5の捲回軸方向に沿うように突出している。該発電要素5をフィルム状の外装体6で内包し、密封して捲回式電池が作製される。
【0004】
このような捲回式発電要素は、一般に、充放電を繰り返すことにより負極の周縁部に金属リチウムが析出することを防止するために、正極が負極の電極面内に位置するように、正極の面積を負極の面積よりも小さくなるように設計している。また、セパレータは、捲回時、充放電時、および過充電による電池の異常発熱や高温雰囲気下での放置などの誤用時における電池内でのショートを防止するために、負極の面積よりもさらに大きくなるように設計している。
【特許文献1】特開2004−14355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、帯状正極、帯状負極及び帯状セパレータを捲回する際、各種の捲回ずれが生じることがあった。
【0006】
第一に、これら帯状の捲回要素の、捲回軸方向へのずれが生じることがあった。この種のずれは、上記したように正極が負極よりも小さく、しかも負極に正極を捲回あるいは積層するための基準となる部分が実質的に存在しないため、生じやすいものであった。この種のずれが高じると、充放電の繰り返しによる電極端部へのリチウム析出、サイクル特性の低下、あるいは電池内でのショートの発生、安全性の低下等、電池の信頼性を大きく低下させる現象が起こりやすくなるという問題があった。このため、積層ずれの検査工程や修正工程などの工程が必要となり、製造工程が繁雑となるという問題があった。
【0007】
第二に、これら帯状の捲回要素同士の、捲回方向への相対的なずれが生じることがあった。ここで、前記したように正極端子は帯状正極に、負極端子は帯状負極にそれぞれ接続されているので、帯状正極と帯状負極との間に捲回方向への相対的なずれが生じると、図7におけるb−b間の距離が変動する結果となる。従ってこれを防止するために捲回のテンションを精密に制御する必要があり、製造工程が繁雑となるという問題があった。
あった。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、扁平状に捲回した発電要素の捲回ずれを防止し、複雑な製造工程を必要としなくても、電気化学的性能の安定した捲回式電池を提供することを一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、帯状の正極と帯状の負極とをセパレータを介して対向させ扁平状に捲回した発電要素を備えた電池において、前記セパレータは、前記帯状正極及び前記帯状負極のうち少なくとも一方の電極を内包した袋状構造を有していることを特徴とする電池である。
また、前記セパレータは、前記帯状正極及び前記帯状負極のうち、短辺の長さが短い方の電極のみを内包した袋状構造を有していることを特徴とする電池である。
また、前記セパレータは、該セパレータが内包している帯状電極の長辺の外側部分のセパレータが前記長辺に沿うように融着されることにより袋状構造を有していることを特徴とする電池である。
また、前記セパレータは、帯状に熱融着されることにより袋状構造を有していることを特徴とする電池である。
また、前記セパレータは、間欠状に熱融着されることにより袋状構造を有していることを特徴とする電池である。
また、正極端子及び負極端子は、捲回末端部に、帯状電極の長さ方向に沿うように設けられていることを特徴とする電池である。
【0010】
帯状の正極と帯状の負極とをセパレータを介して対向させ扁平状に捲回した発電要素を備えた電池において、前記セパレータが正極または負極のうち少なくとも一方を内包した袋状構造を有していることにより、内包された電極がセパレータに対して位置ずれを起こすことがないため、ひいては正極と負極の位置ずれを起こすことがない。よって捲回ずれを起こすことなく容易に扁平状に捲回することができ、充放電の繰り返しによる電極端部へのリチウム析出、サイクル特性の低下、あるいは電池内でのショートの発生、安全性の低下等、電池の信頼性を大きく低下させる現象が防止できるため、高エネルギー密度で高信頼性である捲回式電池を提供することができる。さらに、過充電による電池の異常発熱や高温雰囲気下での放置などの高温誤用時においては、セパレータが熱により収縮・溶融するため、電極端部でのショートの発生、安全性の低下等、電池の信頼性を大きく低下させる要因が防止できるため、高信頼性である捲回式電池を提供することができる。その上、発電要素の巻軸の中心線が集電体端子の向きと直角に位置するように配置されていることにより、発電要素の捲回ずれによる端子位置のずれや、セパレータの位置ずれによる電池内でのショートの発生を防止できるため、高エネルギー密度で高信頼性である捲回式電池を提供することができる。
【0011】
このとき、前記セパレータが、内包する正極または負極の長手方向の二辺を熱融着することにより袋状構造を有していることにより、セパレータ自体の巻きずれが防止できるだけでなく、特に高温誤用時におけるセパレータの幅方向の収縮を抑制できるため、電極端部でのショートの発生がより発生しにくくなり、より高信頼性である捲回式電池を提供することができる。
【0012】
また、前記セパレータが、帯状正極及び帯状負極の内、幅方向の長さが短い方の帯状電極のみを内包した袋状構造を有していることにより、セパレータにより内包された電極と内包されていない電極との位置決めが容易であり、捲回ずれを起こすことなくさらに容易に扁平状に捲回することができ、高エネルギー密度で高信頼性である捲回式電池を容易に提供することができる。また、セパレータが幅方向の長さが長い方の帯状電極のみを内包した袋状構造を有する場合よりも矩形セパレータの幅方向の長さが短くて済むため、捲回後の発電要素の体積が小さくなり、より高エネルギー密度の捲回式電池を提供することができる。
【0013】
さらに、前記セパレータは、帯状に熱融着されることにより袋状構造を有していることにより、セパレータ自体の巻きずれが容易に防止できるだけでなく、特に高温誤用時におけるセパレータの幅方向の収縮を抑制できるため、電極端部でのショートの発生がより発生しにくくなり、より高信頼性である捲回式電池を提供することができる。
【0014】
また、袋状構造を有したセパレータの熱融着部を間欠状に設けることにより、セパレータ自体の巻きずれの防止効果、高温誤用時におけるセパレータの幅方向の収縮抑制効果、電極端部でのショートの発生防止効果に加え、捲回時において内輪差によるセパレータのしわの発生を容易に防止することができる。即ち、扁平捲回中に、袋状セパレータを構成し帯状電極の両面を覆っている2枚のセパレータの、内輪差から生じる該2枚のセパレータがずれようとする方向の応力が、間欠融着部の非融着部分がずれることによって吸収されるため、前記応力によって引き続く捲回に供される残りのセパレータに歪みを生じさせる虞を大幅に低減できる。従って、より信頼性の高い捲回式電池を提供することができる。なお、前記内輪差によるセパレータのしわの発生の防止効果は、捲回が円筒状ではなく扁平状であることで特に高まる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、扁平状に捲回した発電要素の捲回ずれを防止し、複雑な製造工程を必要としなくても、電気化学的性能の安定した捲回式電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明について、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記述により限定されるものではない。
【0017】
本発明に係る捲回式電池の一例として、長手方向の二辺を帯状に熱融着された袋状セパレータに内包された正極の斜断面図を図4に、長手方向の二辺を間欠状に熱融着された袋状セパレータに内包された正極の斜断面図を図5に示す。さらに、長手方向の二辺を熱融着されていないセパレータに内包された正極の斜断面図を図6、7に示す。また、捲回式電池の断面図を図1に、発電要素の巻軸の中心線が集電体端子の向きと直角に位置するように外装体へ収納される状態を示した概念図を図2に示す。また比較例として、発電要素の巻軸の中心線が集電体端子の向きと平行に位置するように外装体へ収納される状態を示した概念図を図3に示す。
【0018】
本実施例に係る捲回式電池は、正極1、負極2、セパレータ3および電解質4とからなる発電要素5と、金属樹脂複合フィルムからなる外装体6から構成されている。正極1は、正極合剤11が正極集電体12上に塗布されてなる。また、負極2は、負極合剤21が負極集電体22上に塗布されてなる。電解質4は、主に正極1、負極2およびセパレータ3内の空隙内に含浸されている。外装体6は、発電要素5を覆い、その四方を熱溶着により封止されている。
【0019】
(実施例1)
正極1は次のようにして得た。まず、LiCoO2と、導電剤であるアセチレンブラックを混合し、さらに結着剤としてポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液を混合し、この混合物をアルミニウム箔からなる正極集電体12の両面に塗布した後、乾燥し、正極合剤11の厚さが0.1mmとなるようにプレスし、帯状に切断した。以上の工程により正極1を得た。
【0020】
また、負極2は、次のようにして得た。まず、負極活物質であるグラファイトと、結着剤であるポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン溶液を混合し、この混合物を銅箔からなる負極集電体22の両面に塗布した後、乾燥し、負極合剤21厚さが0.1mmとなるようにプレスし、帯状に切断した。以上の工程により負極2を得た。なお、正極1と負極2は、短手方向の長さが正極1の方が短くなるように切断した。
【0021】
一方、セパレータ3にはポリエチレン製微多孔膜(厚さ25μm、開孔率50%)を用い、図4に示すように、短手方向の内一辺を、長尺のセパレータを折り返すことにより正極1を内包し、その長手方向の二辺を帯状に熱融着することにより得た。
【0022】
電解質は、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比6:2:2の割合で混合した混合溶媒1リットルに、1モルのLiPF6を溶解させることにより得た。
【0023】
発電要素5は、正極1を袋状にしたセパレータ3に内包されるように配置し、正極合剤11と負極合剤21とを対向させ、正極1、セパレータ3、負極2の順に積層後捲回したものを、電解質中に浸漬することにより得た。
【0024】
さらに、発電要素5を外装体6で覆い、その四方を熱溶着により封止することにより、設計容量600mAhの捲回式電池を得た。このとき、図2に示すように、発電要素5の巻き軸の中心線aが、正極集電体端子13および負極集電体端子14の向きbと直角に位置するように配置した。これを本発明電池Aとした。
【0025】
(実施例2)
セパレータ3を図5に示すように、短手方向の内一辺を、長尺のセパレータを折り返すことにより正極1を内包し、その長手方向の二辺を間欠状に熱融着したものを用いたことを除いては、実施例1と同一の原料および製法により、捲回式電池を作製した。これを本発明電池Bとした。
【0026】
(比較例1)
セパレータ3を図6に示すように、短手方向の内一辺を、長尺のセパレータを折り返すことにより正極1を内包し、その長手方向の二辺を熱融着していないものを用いたことを除いては、実施例1と同一の原料および製法により、捲回式電池を作製した。これを比較電池Cとした。
【0027】
(比較例2)
図3に示すように、発電要素5の巻き軸の中心線aが、正極集電体端子13および負極集電体端子14の向きbと平行に位置するように配置したことを除いては、実施例1と同一の原料および製法により、捲回式電池を作製した。これを比較電池Dとした。
【0028】
(捲回状態の確認)
これらの本発明電池A、Bおよび比較電池C、Dをそれぞれ100個作製し、軟エックス線により捲回状態を観察し、捲回ずれの発生している個数を確認した。
【0029】
(電池性能試験)
次に、これらの本発明電池A、Bおよび比較電池C、Dをそれぞれ20個準備し、充放電サイクル試験を行った。試験温度は20℃とした。充電は電流600mA、終止電圧4.2V、2時間の定電流定電圧充電とし、放電は電流600mAh、終止電圧2.7Vの定電流放電として200サイクル充放電した。1サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の比率(%)を求めた。
【0030】
以上の結果を表1に示す。なお、放電容量の値は、それぞれ20個の電池の平均である。
【0031】
【表1】

【0032】
表1において、捲回ずれの発生している個数を比較すると、比較電池Cでは100個中10個に、比較電池Dでは100個中7個に捲回ずれが発生していたのに対し、本発明電池AおよびBでは捲回ずれは発生していないことがわかった。
【0033】
また、表1において、200サイクル後における各電池の放電容量を比較すると、比較電池Cでは設計容量の85%前後まで低下したのに対し、本発明電池A、Bおよび比較電池Dでは設計容量の90%前後の放電容量が得られることがわかった。
【0034】
以上の結果を総合すると、本発明電池A、Bは、比較電池C、Dに比較して、電池性能、信頼性に優れていると言える。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例に係る捲回式電池に用いる、長手方向の二辺を帯状に熱融着された袋状セパレータに内包された正極の斜断面図である。
【図2】実施例に係る捲回式電池に用いる、長手方向の二辺を間欠状に熱融着された袋状セパレータに内包された正極の斜断面図である。
【図3】実施例に係る発電要素の巻軸の中心線が集電体端子の向きと直角に位置するように外装体へ収納される状態を示した概念図である。
【図4】実施例に係る捲回式電池の断面図である。
【図5】比較例に係る捲回式電池に用いる、長手方向の二辺を熱融着されていないセパレータに内包された正極の斜断面図である。
【図6】比較例に係る捲回式電池に用いる、長手方向の二辺を熱融着されていないセパレータに内包された正極の斜断面図である。
【図7】比較例に係る発電要素の巻軸の中心線が集電体端子の向きと平行に位置するように外装体へ収納される状態を示した概念図である。
【符号の説明】
【0036】
1 正極
11 正極合剤
12 正極集電体
13 正極端子
2 負極
21 負極合剤
22 負極集電体
23 負極端子
3 セパレータ
31 熱溶着部
4 電解質
5 発電要素
6 外装体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極と帯状の負極とをセパレータを介して対向させ扁平状に捲回した発電要素を備えた電池において、前記セパレータは、前記帯状正極及び前記帯状負極のうち少なくとも一方の電極を内包した袋状構造を有していることを特徴とする電池。
【請求項2】
前記セパレータは、前記帯状正極及び前記帯状負極のうち、短辺の長さが短い方の電極のみを内包した袋状構造を有していることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項3】
前記セパレータは、該セパレータが内包している帯状電極の長辺の外側部分のセパレータが前記長辺に沿うように融着されることにより袋状構造を有していることを特徴とする請求項1又は2記載の電池。
【請求項4】
前記セパレータは、帯状に熱融着されることにより袋状構造を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電池。
【請求項5】
前記セパレータは、間欠状に熱融着されることにより袋状構造を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電池。
【請求項6】
正極端子及び負極端子は、捲回末端部に、帯状電極の長さ方向に沿うように設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−40545(P2006−40545A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213808(P2004−213808)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000006688)株式会社ユアサコーポレーション (21)
【Fターム(参考)】