説明

電池

【課題】より信頼性に優れる二次電池を提供する。
【解決手段】帯状の正極集電体21A上に正極活物質層21Bが設けられた正極21と、帯状の負極集電体22A上に負極活物質層22Bを有する負極22とがセパレータを介して積層された電池素子を備える。負極活物質層22Bは、負極22における、正極集電体21A上に正極活物質層21Bが設けられた被覆領域21Cと重なり合う対向領域22C1およびその周辺領域22C2を占めるように設けられ、負極22における対向領域22C1と長手方向(X方向)に隣接する領域のうち、負極活物質層22Bが形成されずに負極集電体22Aが露出した露出領域22Dの幅W3は、対向領域22C1の幅W4よりも小さくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極と負極とがセパレータを介して積層された電池素子を備えた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ),携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。これらの電子機器のポータブル電源として用いられている電池、特に二次電池はキーデバイスとして、エネルギー密度の向上を図る研究開発が活発に進められている。中でも、非水電解質二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)は、従来の水系電解液二次電池である鉛電池、ニッケルカドミウム電池と比較して大きなエネルギー密度が得られるので、その改良に関する検討が各方面で行われている。
【0003】
このような二次電池に対しては、それを搭載する電子機器等の小型化に伴うエネルギー密度の向上と併せて安全性の向上も強く求められている。そのため、様々な観点からのアプローチにより、二次電池の安全性向上のための改良に関する提案がなされている。例えば特許文献1では、電極における集電体の幅を、活物質層に覆われた領域よりも活物質層に覆われていない領域(露出領域)において狭くすることにより電解液成分の移動(偏在)を抑制すると共に電池素子の巻崩れによる短絡発生を防止している。また、特許文献2では、電池を充電した状態において正極に対する負極の大きさを最適化することにより、リチウムイオンが負極活物質層以外の領域で還元され、放電容量の低下や短絡等の防止を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−228537号公報
【特許文献2】特開2008−34353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、これまでにおいても高エネルギー密度化に対応した種種の安全性向上策が提案されており、電池の安全性確保がなされている。しかしながら、今後、電池のさらなる高エネルギー密度化が予想されることから、それに十分に対応可能な安全性向上のための方策が求められている。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、十分な容量を確保しつつ、安全上、高い信頼性を有する電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電池は、帯状の正極集電体上に正極活物質層が設けられた正極と帯状の負極集電体上に負極活物質層を有する負極とがセパレータを介して積層された電池素子を備えたものである。負極活物質層は、負極における、正極集電体上に正極活物質層が設けられた正極活物質層形成領域と重なり合う第1の領域およびその周辺領域を占めるように設けられている。ここで、負極における第1の領域と長手方向に隣接する第2の領域のうち負極活物質層が形成されずに負極集電体が露出した第3の領域の幅は、第1の領域の幅よりも狭くなっている。
【0008】
本発明の電池では、負極において、負極活物質層が、正極活物質層形成領域と対向して重なり合う第1の領域およびその周辺領域を占めるように設けられているので、充電の際、負極活物質層の長手方向端部における電流(リチウムイオンの流れ)の集中が緩和され、負極でのリチウム金属の析出が抑制され、短絡発生が防止される。さらに、負極において、負極集電体が露出した第3の領域の幅が、正極活物質層形成領域と対向して重なり合う第1の領域の幅よりも小さいので、万一、電池内部に金属粉等の導電性の異物が混入した場合であっても、短絡の発生が十分に抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電池によれば、正極活物質層形成領域に対応した第1の領域を十分に覆うように負極活物質層を設けると共に、負極活物質層が設けられた第1の領域よりも負極集電体が露出した第3の領域の幅を小さくするようにしたので、エネルギー密度を損なうことなく、充電に伴う内部短絡の発生を十分に抑制することができる。すなわち、十分な容量を確保と、安全上の高い信頼性の確保との両立を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態としての二次電池を表す断面図である。
【図2】図1に示した二次電池のII−II線に沿った構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した二次電池の正極および負極を展開して表す平面図および断面図である。
【図4】実験例6−2に対応する正極および負極を展開して表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図において各構成要素は本発明が理解できる程度の形状、大きさおよび配置関係を概略的に示したものであり、実寸とは異なっている。
【0012】
図1は本発明の一実施の形態としての電池の断面構造を表すものである。この電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
【0013】
この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に電池素子20を備えている。図2は、図1に示した電池素子20についての、IV−IV線に沿った矢視方向における断面図である。
【0014】
電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、電池素子20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13がそれぞれ配置されている。
【0015】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と電池素子20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0016】
図2に示したように、電池素子20の中心には例えばセンターピン24が挿入されている。電池素子20は、帯状の正極21および負極22がセパレータ23を介して積層された積層構造を有するものであり、その積層構造はセンターピン24を取り巻くように巻回中心側から巻回外周側に向けて矢印で示した巻回方向Rに沿って巻回している。なお、図1では、正極21および負極22の積層構造を簡略化して示している。また、電池素子20の巻回数は、図1,図2に示したものに限定されず、任意に設定可能である。電池素子20において、正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルなどよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0017】
図3(A),図3(B)は、図1および図2に示した正極21を展開して表すものである。具体的には、図3(A)が平面図であり、図3(B)が図3(A)のIIIB−IIIB線に沿った断面図である。図3(A),図3(B)に示したように、正極21は、X方向へ延在する帯状の正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが選択的に設けられた構造を有している。正極集電体21Aは、例えば、厚みが5μm〜50μm程度であり、アルミニウム箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。
【0018】
正極21には、正極集電体21Aが正極活物質層21Bによって覆われた領域である被覆領域21Cと、正極集電体21Aが正極活物質層21Bによって覆われずに露出した一対の露出領域21Dとが存在する。ここで、露出領域21Dは、被覆領域21Cを挟むように正極21の長手方向の両端に位置している。正極リード25は、例えば巻回中心側の露出領域21Dにおいて正極集電体21Aと接続されている。露出領域21Dの幅W1は、被覆領域21Cの幅W2よりも狭くなっている(W1<W2)。すなわち、幅方向(Y方向)において、露出領域21Dの正極21の両端縁が被覆領域21Cの正極21の両端縁よりも距離V1だけそれぞれ後退している。
【0019】
また、露出領域21Dの幅W1は、被覆領域21Cと接続される境界近傍において、被覆領域21Cから遠ざかるにしたがって連続的に減少しているとよい。露出領域21Dと被覆領域21Cとの境界近傍において、充放電の繰り返し操作に伴う正極集電体21Aの亀裂が発生しにくくなるからである。なお、ここでの境界近傍とは、被覆領域21Cとの境界位置から距離L1に含まれる範囲をいい、例えば距離L1は距離V1と等しい。また、境界近傍以外の領域では、幅W1は一定となっていることが望ましい。被覆領域21Cの幅W2も一定であることが望ましい。
【0020】
さらに、露出領域21Dの最小の幅W1と、被覆領域21Cの最小の幅W2との関係が下記の条件式(2)を満足していることが望ましい。内部短絡の発生がより効果的に抑制されると共に正極集電体21A自体の抵抗の増大も回避されるからである。
【0021】
0.005≦(W2−W1)/W2≦0.15 ……(2)
【0022】
なお、図3(A),3(B)では、被覆領域21Cおよび露出領域21Dが正極集電体21Aの両面において一致した状態を表しているが、正極21はその形態に限定されるものではない。すなわち、正極集電体21Aの片面のみに正極活物質層21Bが設けられた領域を有するようにしてもよい。
【0023】
正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料の1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤あるいは正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0024】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム酸化物、リチウム硫化物、リチウムを含む層間化合物あるいはリン酸化合物などのリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。中でも、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、またはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が好ましく、特に遷移金属元素として、コバルト(Co),ニッケル,マンガン(Mn),鉄,アルミニウム,バナジウム(V),およびチタン(Ti)のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。その化学式は、例えば、Lix MIO2 あるいはLiy MIIPO4 で表される。式中、MIおよびMIIは1種類以上の遷移金属元素を含む。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0025】
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物の具体例としては、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz 2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw 2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 4 )などが挙げられる。リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物の具体例としては、例えばリチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))が挙げられる。
【0026】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、また、他の金属化合物あるいは高分子材料も挙げられる。他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物、または硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物が挙げられる。高分子材料としては、例えば、ポリアニリンあるいはポリチオフェンが挙げられる。
【0027】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されたものであってもよい。
【0028】
正極導電剤としては、例えば、黒鉛,カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられ、1種のみ、または2種以上が混合して用いられる。また、炭素材料の他にも、導電性を有する材料であれば金属材料あるいは導電性高分子材料などを用いるようにしてもよい。
【0029】
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム,フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンゴムなどの合成ゴム、またはポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられ、1種のみ、または2種以上が混合して用いられる。
【0030】
図3(C),図3(D)は、図1および図2に示した負極22を展開して表すものである。具体的には、図3(C)が平面図であり、図3(D)が図3(C)のIIID−IIID線に沿った断面図である。図3(C),図3(D)に示したように、負極22は、X方向へ延在する帯状の負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが選択的に設けられた構造を有している。
【0031】
負極22には、負極集電体22Aが負極活物質層22Bによって覆われた領域である被覆領域22Cと、負極集電体22Aが負極活物質層22Bによって覆われずに露出した一対の露出領域22Dとが存在する。ここで、露出領域22Dは、被覆領域22Cを挟むように負極22の長手方向の両端に位置している。負極リード26は、例えば巻回外周側の露出領域22Dにおいて負極集電体22Aと接続されている。
【0032】
負極活物質層22Bは、負極集電体22A上の、被覆領域21Cと重なり合う対向領域22C1およびその周辺領域22C2を占めるように設けられている。すなわち、被覆領域22Cは、対向領域22C1と周辺領域22C2とを合わせた領域である。露出領域22Dの幅W3は、対向領域22C1の幅W4よりも狭くなっている(W3<W4)。すなわち、幅方向(Y方向)において、露出領域22Dの負極22の両端縁が対向領域22C1の負極22の両端縁よりも距離V2だけそれぞれ後退している。
【0033】
また、周辺領域22C2の幅は、対向領域22C1から露出領域22Dへ向かうにしたがって連続的に減少しているとよい。露出領域22Dと被覆領域22Cとの境界近傍において、充放電の繰り返し操作に伴う負極集電体22Aの亀裂が発生しにくくなるからである。なお、周辺領域22C2は被覆領域22Cとの境界位置から距離L2に含まれる範囲にあり、例えば距離L2は距離V2(幅W4と幅W3との差分)と等しい。また、幅W3,W4は、いずれも一定となっていることが望ましい。
【0034】
ここで、露出領域22Dの幅W3と、対向領域22C1の幅W4との関係が下記の条件式(1)を満足していることが望ましい。内部短絡の発生がより効果的に抑制されると共に負極集電体22A自体の抵抗の増大も回避されるからである。
【0035】
0.005≦(W4−W3)/W4≦0.15 ……(1)
【0036】
なお、上述したように、周辺領域22C2の幅は対向領域22C1から遠ざかるほど狭くなっていることが望ましいが、対向領域22C1と同等であってもよい。その場合、露出領域22Dの幅W3が、被覆領域22Cとの境界の近傍領域において、被覆領域22Cとの境界位置へ近づくほど徐々に増大するようになっているとよい。やはり、負極集電体22Aの亀裂が発生しにくくなるからである。また、一対の露出領域22Dにおける双方の幅W3が互いに等しいことが望ましいが、互いに異なっていてもよい。さらに、図3(C),3(D)では、被覆領域22Cおよび露出領域22Dが負極集電体22Aの両面において一致した状態を表しているが、負極22はその形態に限定されるものではない。すなわち、負極集電体22Aの片面のみに負極活物質層22Bが設けられた領域を有するようにしてもよい。
【0037】
負極集電体22Aは、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する金属材料により構成されていることが望ましい。この金属材料としては、例えば、銅,ニッケルあるいはステンレス鋼などが挙げられ、特に電気伝導性に優れる銅がより好ましい。また、負極集電体22Aの形状としては、例えば、箔状,網状あるいはラス状が挙げられる。負極集電体22Aの表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果により負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法により負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。このような電解処理により粗面化された銅箔を含め、電解処理が施された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。
【0038】
負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料を含んで構成されており、必要に応じて、例えば正極活物質層21Bと同様の負極導電剤および負極結着剤を含んでいてもよい。
【0039】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。
【0040】
なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0041】
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムイオンを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0042】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0043】
ケイ素の単体を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体を主体として有する材料が挙げられる。この負極材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素単体層の間にケイ素以外の第2の構成元素と酸素とが存在する構造を有している。この負極活物質層22Bにおけるケイ素および酸素の合計の含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、特にケイ素単体の含有量が50質量%以上であるのが好ましい。ケイ素以外の第2の構成元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム、マンガン(Mn)、鉄、コバルト(Co)、ニッケル、銅、亜鉛、インジウム、銀、マグネシウム、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、ビスマスあるいはアンチモン(Sb)などが挙げられる。ケイ素の単体を主体として有する材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素と他の構成元素とを共蒸着することにより形成可能である。
【0044】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を有するものが挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0045】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOあるいはMg2 Snなどが挙げられる。
【0046】
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
【0047】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0048】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を有していてもよい。より高い効果が得られるからである。
【0049】
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質な相であるのが好ましい。この相は、リチウムイオンと反応可能な反応相であり、これによって優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質との反応性が低減されるからである。
【0050】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することにより容易に判断することができる。例えば、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質な反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素により低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
【0051】
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を有している場合もある。
【0052】
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
【0053】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線か、Mg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することにより、試料表面から数nmの領域の元素組成、および元素の結合状態を調べる方法である。
【0054】
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用により減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
【0055】
XPSにおいて、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素などと結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。
【0056】
なお、XPS測定を行う場合には、表面が表面汚染炭素で覆われている際に、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタするのが好ましい。また、測定対象のSnCoC含有材料が負極22中に存在する場合には、二次電池を解体して負極22を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極22の表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うのが望ましい。
【0057】
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0058】
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させることにより形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置やアトライタなどの製造装置を用いることができる。
【0059】
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いるのが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法によって合成することにより、低結晶性あるいは非晶質な構造が得られ、反応時間も短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
【0060】
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であるのが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0061】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料として、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料を用いた負極活物質層22Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成される。この場合には、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散していてもよいし、負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、それらの構成元素が互いに拡散し合っていてもよい。充放電時における負極活物質層22Bの膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の電子伝導性が向上するからである。
【0062】
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法により塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
【0063】
上記した他、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られ、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
【0064】
また、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物とは、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどであり、高分子化合物とは、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
【0065】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の負極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されもよい。
【0066】
上記した負極材料からなる負極活物質は、複数の粒子状をなしている。すなわち、負極活物質層22Bは、複数の負極活物質粒子を有しており、その負極活物質粒子は、例えば、上記した気相法などにより形成されている。ただし、負極活物質粒子は、気相法以外の方法により形成されていてもよい。
【0067】
負極活物質粒子が気相法などの堆積法により形成される場合には、その負極活物質粒子が単一の堆積工程を経て形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程を経て形成された多層構造を有していてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う蒸着法などにより負極活物質粒子を形成する場合には、その負極活物質粒子が多層構造を有しているのが好ましい。負極材料の堆積工程を複数回に分割して行う(負極材料を順次薄く形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して負極集電体22Aが高熱に晒される時間が短くなり、熱的ダメージを受けにくくなるからである。
【0068】
この負極活物質粒子は、例えば、負極集電体22Aの表面から負極活物質層22Bの厚さ方向に成長しており、その根元において負極集電体22Aに連結されている。この場合には、負極活物質粒子が気相法により形成されており、上記したように、負極集電体22Aとの界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質粒子に拡散していてもよいし、負極活物質粒子の構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。
【0069】
特に、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の表面(電解質と接する領域)を被覆する酸化物含有膜を有しているのが好ましい。酸化物含有膜が電解質に対する保護膜として機能し、充放電を繰り返しても電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。この酸化物含有膜は、負極活物質粒子の表面のうちの一部を被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。
【0070】
この酸化物含有膜は、例えば、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含有しており、中でも、ケイ素の酸化物を含有しているのが好ましい。負極活物質粒子の表面を全体に渡って容易に被覆しやすいと共に、優れた保護作用が得られるからである。もちろん、酸化物含有膜は、上記以外の他の酸化物を含有していてもよい。この酸化物含有膜は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいはディップコーティング法などの液相法が好ましく、液相析出法がより好ましい。負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って容易に被覆しやすいからである。
【0071】
また、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の粒子間の隙間や粒子内の隙間に、リチウムと合金化しない金属材料を有しているのが好ましい。金属材料を介して複数の負極活物質粒子が結着されると共に、上記した隙間に金属材料が存在することで負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
【0072】
この金属材料は、例えば、リチウムと合金化しない金属元素を構成元素として有している。このような金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、コバルトが好ましい。上記した隙間に金属材料が容易に入り込みやすいと共に、優れた結着作用が得られるからである。もちろん、金属材料は、上記以外の他の金属元素を有していてもよい。ただし、ここで言う「金属材料」とは、単体に限らず、合金や金属化合物まで含む広い概念である。この金属材料は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などの液相法が好ましく、電解鍍金法がより好ましい。上記した隙間に金属材料が入り込みやすくなると共に、その形成時間が短くて済むからである。
【0073】
なお、負極活物質層22Bは、上記した酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを有していてもよいし、双方を有していてもよい。ただし、サイクル特性をより向上させるためには、双方を含んでいるのが好ましい。
【0074】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、両極間でのリチウムイオンの移動を可能とする部材である。セパレータ23は、例えばポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系材料、ポリテトラフルオロエチレン、あるいはアラミドなどの合成樹脂からなる多孔質膜、またはセラミック製の不織布などの無機材料よりなる多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造であってもよい。さらに、上記の多孔質膜にポリフッ化ビニリデンおよびフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマーなどの樹脂、ゴム、もしくはこれらの混合物などを塗布するようにしてもよい。あるいは、酸化アルミニウムなどの比較的熱容量の大きな材料が混合された樹脂やゴムを上記の多孔質膜に塗布するようにしてもよい。
【0075】
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば、溶媒と、電解質塩であるリチウム塩とを含んで構成されている。溶媒は、電解質塩を溶解し解離させるものである。
【0076】
溶媒としては、例えば(1)〜(10)に示す各種材料のうちのいずれか1種または2種以上を任意に混合したものが好適である。
(1)環状カーボネート類およびフッ素含有環状カーボネート類
具体的には、4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4,5,5−テトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ジフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、ジフェニルカーボネートおよびブチレンカーボネート。
(2)ジアルキルカーボネート類およびフッ素含有鎖状カーボネート類
具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジ−iso−プロピルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、モノフルオロメチルメチルカーボネート、エチル(2−フルオロエチル)カーボネート、メチル(2−フルオロ)エチルカーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、フルオロプロピルメチルカーボネート。
(3)環状エステル類
具体的には、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン。
(4)鎖状エステル類
具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル。
(5)環状エーテル類
具体的には、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキサン、1,3−ベンゾジオキソール。
(6)環状エーテル類
具体的には、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジエチルエーテル。
(7)含硫黄有機溶媒
具体的には、エチレンサルファイト、プロパンスルトン、スルホラン、メチルスルホラン、ジエチルスルフィン。
(8)ニトリル類
具体的には、アセトニトリル、プロピオニトリル。
(9)カーバメート類
具体的には、N,N‘−ジメチルカーバメート、N,N‘−ジエチルカーバメート。
(10)不飽和結合含有カーボネート類
具体的には、ビニレンカーボネート、4,5−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、アリルメチルカーボネート、ジアリルカーボネート。
【0077】
中でも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの粘度が1mPa・s以下である低粘度溶媒と、1,3−ジオキソラン−2−オン、4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどの高誘電率溶媒とを混合して用いることが好ましい。より高いイオン伝導性を得ることができるからである。また、ビフェニルやシクロヘキシルベンゼン、テルフェニル、フルオロベンゼンなどの芳香族系化合物やアニソール系の化合物など、安全性に寄与する化合物やイオン性液体やホスファゼン類、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、2,2,2−トリフルオロエチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリトリルフォスフェートなどの難燃効果を有するリン酸エステル類などが混合されていても構わない。
【0078】
リチウム塩としては、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、LiSbF6 、CF3 SO3 Li、(CF3 SO2 2 NLi、(CF3 SO2 3 CLi、(C2 5 SO2 2 NLi、LiCl、LiBr、LiI、LiB(C65 4 、LiPF4 (CF3 2 、LiPF3 (C2 5 3 、LiPF3 (CF3 3 、LiPF3 (iso−C3 7 3 、LiPF5 (iso−C3 7 )、LiB(C2 4 2 、フルオロ[オキソラト-O,O’]ホウ酸リチウム(略称:LiBF2 (Ox))などが挙げられる。リチウム塩は、これらのうちいずれか1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。電解液中の電解質の濃度は、0.1以上3mol/kg以下とすることが好ましく、特に0.5以上1.5mol/kg以下とするとよい。
【0079】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0080】
この円筒型の二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0081】
まず、帯状の正極集電体21Aの表面に正極活物質層21Bを形成して正極21を作製する。具体的には、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。正極合剤スラリーを得るための溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドンのほか、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン,N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、水に分散剤、増粘剤等を加えてSBRなどのラテックスで正極活物質をスラリー化してもよい。続いて、この正極合剤スラリーを正極集電体21A上にドクタブレードあるいはバーコーターなどを用いて均一の厚さとなるように塗布し溶剤を乾燥させたのち、必要に応じてロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。その際、正極集電体21Aの所定領域(被覆領域21Cとなる領域)のみに正極活物質層21Bを形成することにより、被覆領域21Cと露出領域21Dとを設けるようにする。さらに、露出領域21Dの幅方向両端部を切断除去し、露出領域21Dの幅W1を被覆領域21Cの幅W2よりも小さくすることにより正極21を得る。
【0082】
次に、負極22を作製する。最初に、粗面化された電解銅箔などからなる帯状の負極集電体22Aを準備したのち、蒸着法などの気相法により負極集電体22Aの両面に負極材料を堆積させて、複数の負極活物質粒子を形成する。続いて、必要に応じて、液相析出法などの液相法により酸化物含有膜を形成し、あるいは電解鍍金法などの液相法により金属材料を形成して、負極活物質層22Bを形成する。あるいは、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤としたのち、有機溶剤に分散させることによりペースト状の負極合剤スラリーとする。こののち、負極合剤スラリーを負極集電体22Aにおける所定領域(被覆領域22Cとなる領域)に塗布して乾燥させたのちに圧縮成型することにより、負極活物質層22Bを形成する。ここで、ケイ素やスズ、またはリチウムを含む負極活物質によって負極活物質層22Bを形成する場合には、必要に応じて圧縮成型やアニール処理を行うなどして負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの密着性を向上させることが望ましい。こうすることで負極集電体22Aからの負極活物質層22Bの剥離を抑制し、良好なサイクル特性が得られるからである。負極22においても、負極集電体22A上に選択的に負極活物質層22Bを形成することにより、被覆領域22Cと露出領域22Dとを設けるようにする。さらに、周辺領域22C2および露出領域22Dの幅方向両端部を切断除去し、周辺領域22C2および露出領域22Dの幅W3を被覆領域22Cの幅W4よりも小さくすることにより負極22を得る。
【0083】
次に、正極集電体21Aおよび負極集電体22Aの所定位置にそれぞれ正極リード25および負極リード26を溶接などにより取り付ける。こののち、正極21と負極22とをセパレータ23を間にして積層し、図2に示した巻回方向Rに複数回巻回することにより電池素子20を得る。正極21と負極22とを積層する際には、負極22の被覆領域22Cが、正極21の被覆領域21Cの全てと重なり合うようにする。
【0084】
電池素子20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら電池素子20を電池缶11の内部に収納すると共に、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接し、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。さらに、上記した電解液を電池缶11の内部に注入して、セパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより、固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0085】
以上説明したように、本実施の形態の二次電池によれば、負極22において、負極活物質層22Bを、被覆領域21Cと対向して重なり合う対向領域22C1およびその周辺領域22C2を占めるように設けたので、以下の利点が得られる。すなわち、充電の際、負極活物質層22Bにおける長手方向の端縁22T(図3(C),図3(D)参照)およびその近傍における電流(リチウムイオンの流れ)の集中が緩和される。この結果、負極22でのリチウム金属の析出が抑制され、正極21との短絡が防止される。また、万一、電池内部に金属粉等の導電性の異物が混入した場合であっても、その導電性異物の負極22での溶解析出が抑制されることによってリチウムイオンの局所的な集中が緩和され、正極21との短絡が防止される。さらに、負極22において、露出領域22Dの幅W3が、被覆領域21Cと対向して重なり合う対向領域22C1の幅W4よりも小さいので、電池内部に金属粉等の導電性の異物が混入した場合における短絡発生の可能性がよりいっそう低減される。これは、負極集電体21Aに設けられた負極活物質層22の厚さによって生じる段差に起因する隙間(負極集電体21A、負極活物質層22およびセパレータ23によって囲まれる空間)が減少し、特に電池素子20の幅方向(Y方向)の両端部ではそのような隙間が存在しなくなるからである。一般的に、導電性異物は、製造段階において電池缶11の開口端部の形状加工(電池缶11のくびれの形成)を行う際や正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接する際に生じる可能性が高く、そのようにして発生した導電性異物は、その後電池缶11へ注入される電解液と共に電池素子20の幅方向の両端部から上記の隙間へ進入すると考えられる。その場合、本実施の形態のように、電池素子20の幅方向(Y方向)の両端部において隙間が存在しなければ、その幅方向(Y方向)の中心部に残存する隙間への導電性異物の進入は困難となり短絡発生の確率は極めて低くなる。
【0086】
このように、本実施の形態の二次電池によれば、負極22において、正極活物質層21Bが形成された被覆領域21Cの全てと対応するように負極活物質層22Bを設けると共に対向領域22C1の幅W4よりも露出領域22Dの幅W3を小さくするようにしたので、正極21の露出領域21Dを絶縁性テープなどによって覆うなどの処置をしなくとも、充電に伴う内部短絡の発生を十分に抑制することができる。但し、正極21の露出領域21Dを絶縁性テープによって覆うなどの処置を併せて行うことにより、より確実に短絡防止を図るようにしてもよい。さらに、本実施の形態では、正極21において露出領域21Dの幅W1が被覆領域21Cの幅W2よりも小さくなるように構成したので、より効果的に内部短絡の発生を抑制することができる。なお、正極21の露出領域21Dを絶縁性テープなどによって覆った場合であっても、被覆領域21Cの幅W2よりも露出領域21Dの幅W1を小さくすることにより、正極21の幅方向端部から正極活物質層21Bにおける長手方向の端縁近傍への導電性異物の進入をより効果的に抑制することができる。
【0087】
また、本実施の形態では、正極21において露出領域21Dの幅W1が被覆領域21Cの幅W2よりも小さく、かつ、負極22において露出領域22Dの幅W3が対向領域22C1の幅W4よりも小さくなるようにしたが、少なくとも負極22において幅W3が幅W4よりも小さくなるような構成であれば、正極21において幅W1と幅W2とが同値であっても一定の効果は得られる。
【0088】
また、本実施の形態では、負極20において、電池素子20の巻回中心側に位置する露出領域22Dの幅W3および巻回外周側中心側に位置する露出領域22DのW3の双方を対向領域22C1の幅W4よりも小さくするようにしたので、より効果的に内部短絡の発生を抑制することができる。但し、いずれか一方の露出領域22Dの幅W3のみが向領域22C1の幅W4よりも小さくなるように構成されていれば、他方の露出領域22Dの幅W3が幅W4と同値であっても一定の効果は得られる。正極21についても同様である。
【実施例】
【0089】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0090】
(実験例1−1〜1−8)
以下の手順により、上記実施の形態で説明した(図1および図2の)円筒型二次電池を作製した。まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを、Li2 CO3 :CoCO3 =0.5:1(モル比)の割合で混合し、空気中において900℃で5時間焼成して、正極活物質としてのリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。次いで、このリチウム・コバルト複合酸化物91質量部と、導電剤であるグラファイト6質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤を調整した。続いて、この正極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとし、厚み15μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体21Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し、正極21を作製した。この際、正極21の長手方向の両端部に一対の露出領域21Dを設け、その露出領域21Dの一方における正極集電体21Aにアルミニウム製の正極リード25を溶接により取り付けた。なお、本実験例では、露出領域21Dの幅W1と被覆領域21Cの幅W2とをいずれも56.0mmとした。
【0091】
次に、負極22を以下の要領で作製した。具体的には、まず、電解銅箔からなる負極集電体22Aの両面に、電子ビーム蒸着法により4原子数%の酸素を含む非晶質のケイ素薄膜を6ミクロンの厚みとなるように蒸着させた。ここでの電解銅箔としては、15μmの厚みを有すると共に、表面粗度がRa値で3.5μmのものを用いた。そののち、非晶質のケイ素薄膜に対し、アルゴン雰囲気中において250℃の温度下で12時間に亘る熱処理を行うことにより負極活物質層22Bを得た。その際、負極活物質層22Bを負極集電体22A上に選択的に形成することにより、負極22の長手方向の両端部に一対の露出領域22Dを設け、そのうちの一方の(巻回外周側に位置することとなる)露出領域22Dにおける幅方向両端部を切断除去することにより負極22を作製した。その際、併せて周辺領域22C2の幅方向両端部をも切断除去し、露出領域22Dの幅W3がほぼ一定となるようにした。なお、周辺領域22C2は、その幅が対向領域22C1から遠ざかるにしたがって連続的に減少するように切断した。被覆領域22Cの幅W4についても一定とした。露出領域22Dの幅W3および被覆領域22Cの幅W4は、それぞれ表1に示したとおりである。そののち、幅方向両端部を切断除去した露出領域22Dの負極集電体22Aにニッケル製の負極リード26を溶接により取り付けた。
【0092】
続いて、厚み20μmの微孔性ポリプロピレンフィルムよりなるセパレータ23を用意し、正極21,セパレータ23,負極22,セパレータ23の順に積層して積層体を形成したのち、この積層体を渦巻状に多数回巻回し、電池素子20を作製した。
【0093】
電池素子20を作製したのち、電池素子20を一対の絶縁板12,13で挟み、負極リード26を電池缶11に溶接すると共に、正極リード25を安全弁機構15に溶接して、電池素子20を内径13.4mmの電池缶11の内部に収容した。そののち、150メッシュのふるいを通過させた鉄粉末0.5mgを、電池素子20に振りかけるように電池缶11の内部へ投入した。さらに、電池缶11の内部に電解液を注入した。電解液には、炭酸エチレン50体積%と炭酸ジエチル50体積%とを混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1mol/dm3 の含有量で溶解させたものを用いた。
【0094】
電池缶11の内部に電解液を注入したのち、ガスケット17を間にして電池蓋14を電池缶11にかしめることにより、外径18mm、高さ65mmの円筒型の電池を得た。
【0095】
(実験例1−9)
露出領域22Dの幅方向両端部を切断除去しなかったことを除き、他は上記実験例1−1〜1−8と同様にして図1および図2に示した円筒型二次電池を作製した。すなわち、この実験例1−9は、負極22における露出領域22Dの幅W3と被覆領域22Cの幅W4とを同一としたものである。
【0096】
このようにして得られた実験例1−1〜1−9の二次電池について、以下の要領で安全性評価試験を行った。まず、23℃の環境下で上限電圧4.2V、電流0.5Cの条件で5時間に亘って定電流定電圧充電を行ったのち、電流0.5C、終止電圧3.0Vの条件で定電流放電を行った。そののち、上記のように充放電を実施した二次電池を解体し、正極21の露出領域21Dおよび負極22の露出領域22Dを目視し、正極集電体21Aおよび負極集電体22Aの表面における短絡の痕跡の有無を確認した。ここでは、正極集電体21Aおよび負極集電体22Aの表面に1つでも短絡の痕跡があったものを短絡発生と判断した。各実験例についてサンプル数(n数)は10とした。その結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示したように、幅W3が幅W4よりも小さい(W4>W3を満たす)実験例1−1〜1−8では、幅W3が幅W4と等しい(W4=W3である)実験例1−9と比べて短絡発生数を低減することができた。特に、(W4−W3)/W3の値が0.005以上であると、効果的に短絡を抑えることができた。
【0099】
(実験例2−1)
一対の露出領域22Dの双方における幅方向両端部を切断除去することにより負極22を作製したことを除き、他は実験例1−3と同様にして円筒型二次電池を作製した。巻回中心側の露出領域22Dの幅W3−1および巻回外周側の露出領域の幅W3−2は、それぞれ表2に示したとおりである。
【0100】
この実験例2−1の二次電池についても同様の安全性評価試験を行った。その結果を実験例1−3の結果と併せて表2に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
表2に示したように、巻回外周側の被覆領域だけでなく、巻回中心側の被覆領域についても対向領域よりも幅を小さくすることにより、より短絡発生数を低減することができた。
【0103】
(実験例3−1〜3−8)
正極21を作製する際に一対の露出領域21Dの幅方向両端部を切断除去することにより、一対の露出領域21Dの幅W1を被覆領域21Cの幅W2よりも小さくするようにしたことを除き、他は実験例2−1と同様にして円筒型二次電池を作製した。但し、幅方向両端部は、露出領域21Dの幅W1が、被覆領域21Cと接続される境界近傍(距離L1=距離V1)において被覆領域21Cから遠ざかるにしたがって連続的に減少するように切断した。境界近傍以外の領域における幅W1は一定となるようにした。被覆領域21Cの幅W2についても一定とした。幅W1,W2は、それぞれ表3に示したとおりである。
【0104】
この実験例3−1〜3−8の二次電池についても同様の安全性評価試験を行った。さらに、各実験例の二次電池について、発熱発生数の比較を行った。具体的には、上記の安全性評価試験と同じ条件で充電を行い、充電後の二次電池を1時間に亘って23℃の環境下で放置したのち、電池缶11の表面温度が35℃以上に達したものをカウントした。それらの結果を実験例1−9,2−1の結果と併せて表3に示す。
【0105】
【表3】

【0106】
表3に示したように、実験例3−1〜3−8では、負極22において露出領域22Dの幅W3を対向領域22C1の幅W4よりも小さくすると共に、正極21において露出領域21Dの幅W1を被覆領域21Cの幅W2よりも小さくするようにしたので、実験例1−9や実験例2−1よりも短絡発生数および発熱発生数を低減することができた。特に、(W2−W1)/W2の値が0.005以上であると、効果的に短絡を抑えることができた。
【0107】
(実験例4−1,4−2)
負極22を作製する際に、電子ビーム蒸着法によりスズ(Sn)よりなる負極活物質層22Bを形成したことを除き、他は実験例3−1,1−9とそれぞれ同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0108】
(実験例5−1,5−2)
以下のようにして負極22を作製したことを除き、他は実験例3−1,1−9とそれぞれ同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0109】
具体的には、まず、平均粒子径が25μmの球状人造黒鉛の粒子と、アセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを90:30:7の質量比で混合して負極合剤を調整した。続いて、この負極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとし、電解銅箔よりなる負極集電体22Aの両面に選択的に塗布して乾燥させた。ここでの電解銅箔としては、15μmの厚みを有すると共に、表面粗度がRa値で0.3μmのものを用いた。乾燥後、ロールプレス機でプレス成型することにより負極活物質層22Bを形成した。
【0110】
これらの実験例4−1,4−2および実験例5−1,5−2の二次電池についても安全性の評価試験を行った。その結果を実験例3−3の結果と併せて表4に示す。
【0111】
【表4】

【0112】
表4に示したように、負極活物質層22Bの構成材料や形成方法を変更した場合においても、電子ビーム蒸着法を用いてケイ素(Si)からなる負極活物質層22Bを形成した場合と同様の傾向が確認できた。
【0113】
(実験例6−1)
幅W1,W3の値をそれぞれ49.0mm,51.0mmとしたことを除き、他は実験例3−1と同様にして円筒型二次電池を作製した。
【0114】
(実験例6−2)
正極21および負極22を展開した場合の平面形状をそれぞれ図4(A),図4(B)のようにしたことを除き、他は実験例6−1と同様にして円筒型二次電池を作製した。本実験例では、図4(A),図4(B)に示したように、露出領域21D,22Dが、被覆領域21C,22Cとの境界近傍においても一定の幅W1,W2を有している。すなわち、正極集電体21Aおよび負極集電体22Aの輪郭が、被覆領域と露出領域との境界において屈曲している。
【0115】
これらの実験例6−1,6−2の二次電池について、亀裂発生数の比較を行った。具体的には、上記の安全性評価試験を行った二次電池を解体し、正極21および負極22の露出領域21D,22Dを各々目視し、正極集電体21Aおよび負極集電体22Aにおける亀裂や破断の有無を確認した。ここでは、正極集電体21Aおよび負極集電体22Aに1つでも亀裂や破断が認められたものをカウントした。各実験例についてサンプル数(n数)は10とした。その結果を表5に示す。
【0116】
【表5】

【0117】
表5に示したように、実験例6−2では亀裂が発生したものが確認されたが、実験例6−1では全く亀裂が発生しなかった。このことから、露出領域21D,22Dの幅W1,W3は、被覆領域21C,22Cと接続される境界近傍において被覆領域21C,22Cから遠ざかるにしたがって連続的に減少していると、効果的に亀裂発生が防止されることがわかった。
【0118】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、電池缶が円筒型である場合について説明したが、これに限定されるわけではなく、例えば角型などの円筒型以外の電池缶を備えた電池であってもよい。
【0119】
また、上記実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの長周期型周期表における他の1族の元素、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2族の元素、またはアルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムあるいはこれらの合金を用いる場合についても、本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。その際、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質、正極活物質あるいは溶媒などは、その電極反応物質に応じて選択される。
【符号の説明】
【0120】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20…電池素子、21…正極、21A…正極集電体、21B…正極活物質層、21C…被覆領域、21D…露出領域、22…負極、22A…負極集電体、22B…負極活物質層、22C…被覆領域、22C1…対向領域、22C2…周辺領域、22D…露出領域、23…セパレータ、24…センターピン、25…正極リード、26…負極リード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極集電体上に正極活物質層が設けられた正極と帯状の負極集電体上に負極活物質層を有する負極とがセパレータを介して積層された電池素子を備え、
前記負極活物質層は、前記負極における、前記正極集電体上に前記正極活物質層が設けられた正極活物質層形成領域と重なり合う第1の領域およびその周辺領域を占めるように設けられ、
前記負極における前記第1の領域と長手方向に隣接する第2の領域のうち、前記負極活物質層が形成されずに前記負極集電体が露出した第3の領域の幅は、前記第1の領域の幅よりも小さくなっている
電池。
【請求項2】
前記負極の幅方向の両端縁は、前記第3の領域において前記第1の領域よりも後退している
請求項1記載の電池。
【請求項3】
下記の条件式(1)を満足する請求項1記載の電池。
0.005≦(A−B)/A≦0.15 ……(1)
但し、
A:第1の領域の幅
B:第3の領域の幅
である。
【請求項4】
前記正極は、前記正極活物質層形成領域と長手方向に隣接する正極集電体露出領域を有し、
前記正極集電体露出領域の幅が、前記正極活物質層形成領域の幅よりも小さい
請求項1記載の電池。
【請求項5】
下記の条件式(2)を満足する請求項4記載の電池。
0.005≦(C−D)/C≦0.15 ……(2)
但し、
C:正極活物質層形成領域の幅
D:正極集電体露出領域の幅
である。
【請求項6】
前記第3の領域の幅は、前記第1の領域から遠ざかるにしたがって連続的に減少している
請求項1記載の電池。
【請求項7】
前記負極活物質層は、スズ(Sn)およびケイ素(Si)のうちの少なくとも1種を含むものである
請求項1記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−124091(P2011−124091A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280752(P2009−280752)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】