説明

電波伝搬解析装置

【課題】電波伝搬解析を、解析精度に影響を与えず、効率的に行うための技術を提供する。
【解決手段】地図データ記憶部11には、道路情報及び障害物の位置などの情報が、地図データとして記憶されている。解析エリア決定部12は、地図データの一部であって、且つ、電波伝搬解析の解析対象とする解析エリアを、地図データ記憶部11に記憶されている道路情報と、電波送信車両と電波受信車両の位置とに基づいて決定する。そして、電波伝搬解析部13が、解析エリア決定部13で決定された解析エリア内の障害物及び該解析エリアに隣接する障害物のみを考慮し、それ以外の障害物を考慮せずに電波伝搬解析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波送信車両と電波受信車両との間の電波伝搬解析を行う電波伝搬解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両相互情報通信、携帯電話、無線LANなどの無線ネットワーク技術は、その有用性により、利用分野が広がってきている。
【0003】
一般に、送信アンテナなどの電波の送信点から放たれた電波は、送信点を中心に放射線状に直進する。しかし、その先に障害物(建物、車両など)がある場合には、電波は障害物に反射、透過、回折し、様々な方向へ広がり、減衰していく。
【0004】
上述したような電波伝搬特性(反射、透過、回折など)は、無線ネットワークシステムのデータ通信性能に大きく影響を与える。そのため、車両相互情報通信、携帯電話、無線LANなどの無線ネットワーク技術を含む製品を、製造・販売する際には、その製造・販売の前段階として、電波が対象空間内でどのように伝搬するか、どこまで電波が行き届き得るのかなどを調べておく必要がある。
【0005】
そのような電波伝搬特性は、実験装置や試作機を用いて測定すると、大規模な装置が必要であったり、多大な労力・コストが必要になったりするため、現在ではコンピュータシミュレーションにより解析(電波伝搬解析)する手法が数多く利用されている。
【0006】
そのような解析手法として、電磁界解析手法や幾何光学的手法がある。
【0007】
電磁界解析手法は、Maxwellの電磁界方程式を例えばFDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いて解き、その結果により電界強度分布を推定するというものである。しかし、この手法は解析対象モデルの寸法に比べて波長が短くなるUHF帯以上の周波数帯では演算量が膨大になってしまうというものである。
【0008】
幾何光学的手法(レイトレーシング法)は、電波を幾何光学的な光線と仮定し、送信点から送信され受信点に到達する光線の軌跡情報から電界強度を計算するものである。軌跡の導出方法は、鏡像点法(イメージング法)とレイラウンチング法の2つに大別できる。
【0009】
鏡像点法は、送信点、受信点及び全ての反射面の組み合わせから反射点を導出し、光線の軌跡を求めるものであり、光線の軌跡を厳密に求めることができる。しかし、演算量は反射面数の反射回数のべき乗に比例するため解析構造物の形状が複雑である場合には膨大となる。
【0010】
レイラウンチング法は、送信点から送信角度間隔ごとに離散的に光線を発射して、その軌跡を逐次追跡して、受信点の回りに定義された受信空間に到達した光線の各々に対して、距離損失、偏波による損失、反射損失などの伝搬損失から複素受信レベルを導出し、各々の光線を位相合成することで受信レベルを導出するものである。よって、計算処理量は反射面数に比例するため、解析構造物の形状が複雑である場合でも鏡像点法と比較して小さい。しかし、受信点を受信空間で定義するため、厳密に光線の軌跡を導出できる鏡像点法と比較して精度は悪い。
【0011】
上記電波伝搬解析の従来技術として、特許文献1では、道路を直線のサブエレメントに分解し、複数の建物のデータから道路幅を算出し、サブエレメントを中心として相互に道路幅だけ離れた位置に反射面(1つのサブエレメントに対して2つの反射面)を置き、該反射面のみを用いてレイトレースする電界強度計算装置が開示されている。
【0012】
特許文献2では、送信源から障害物及び受信源が存在する範囲にのみ擬似光線を放射し、電波伝搬解析を行う電波伝搬解析装置が開示されている。
【0013】
特許文献3では、予め受信電界強度が急激に変化するブレークポイントを識別し、基地局及び移動局のアンテナ高が等価路面高より十分大きい場合には、ブレークポイントを基準として異なる減衰係数を用い計算し、それ以外の場合には1種類の減衰係数を用いて計算する電波伝搬推定方法が開示されている。
【0014】
特許文献4では、障害物の種類に基づいて乱数を発生させ、該乱数に基づいて電波の減推量及び電波のベクトル方位の変化量の演算を行うか否かを決定する電波伝搬路推定方法が開示されている。
【0015】
この種の解析手法は、障害物の増加に伴い演算量が増加してしまうという問題がある。しかし、建物や道路などの地図データを簡略化してしまうと、演算量は減少するものの、解析精度が低下してしまう。そのため、解析の精度に影響を与えることなく、効率的に電波伝搬解析を行えることが望まれている。
【特許文献1】特開平9−119955号公報
【特許文献2】特開2006−10349号公報
【特許文献3】特開2002−271275号公報
【特許文献4】特開2006−87038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、電波伝搬解析を、解析精度に影響を与えず、効率的に行うための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。
【0018】
本発明に係る電波伝搬解析装置は、電波送信車両と電波受信車両の間の電波伝搬解析を行う電波伝搬解析装置であって、道路情報及び障害物の情報を含む地図データを予め記憶する地図データ記憶手段と、前記道路情報と、電波送信車両と電波受信車両の位置とに基づいて、地図データの一部であって、且つ、前記電波送信車両と前記電波受信車両を含む領域を解析エリアとして決定する解析エリア決定手段と、前記解析エリア内の障害物及び前記解析エリアに隣接する障害物の情報に基づいて電波伝搬解析を行う電波伝搬解析手段と、を備える。
【0019】
本発明に係る電波伝搬解析装置では、道路情報と、電波送信車両と電波受信車両の位置とに基づいて、解析対象とする解析エリア(地図データの一部のエリア)を決定し、該解析エリア内の障害物及び該解析エリアに隣接する障害物のみを考慮した電波伝搬解析を行う。これにより、例えば、電波伝搬解析に大きく影響する領域を解析エリアとすれば、地図データの全体を解析対象として電波伝搬解析を行うのに比べ、解析精度に影響を与えることなく、効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【0020】
また、本発明に係る電波伝搬解析装置は、前記電波送信車両から前記電波受信車両まで
の複数の経路を、前記道路情報、前記電波送信車両の位置、及び、前記電波受信車両の位置に基づいて探索する経路探索手段を更に備え、前記解析エリア決定手段は、前記経路探索手段で探索された経路を解析エリアとして決定することが好ましい。電波は主に道路に沿って伝搬するため、電波送信車両から電波受信車両までの経路のみを電波の通り道とすることにより、全ての道路を電波の通り道とするのに比べ、効率的な電波伝搬解析を行うことができる。更に、電波送信車両から電波受信車両までの経路以外に進む電波は、解析に影響を与えないため、解析精度は下がらない。
【0021】
前記解析エリア決定手段は、前記経路探索手段で探索された経路のうち、前記電波送信車両から前記電波受信車両までの右左折回数及び/又は経路距離が所定の閾値以下の経路のみを解析エリアとして決定することが好ましい。複雑な経路(右左折回数の多い経路)や電波送信車両から電波受信車両までの距離が長い経路では、電波の反射、透過、回折回数が多いため、電波受信車両に届かなかったり、電波受信車両に届くころには電界強度が弱くなってしまっていたりする。そのような電波は、解析に大きな影響を与えないため、考慮しなくてもよい。そのような電波を考慮することは、演算量の増加につながるため、右左折回数の少ない経路や電波送信車両から電波受信車両までの距離が短い経路のみを解析エリアとすることにより、解析精度を下げず且つ効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【0022】
前記解析エリア決定手段は、前記経路探索手段で探索された経路のうち、経路の一部に前記電波受信車両から遠ざかる箇所を含む経路を解析エリアとしないことが好ましい。遠回りするような経路は右左折回数の増加や、電波送信車両から電波受信車両までの距離の増加につながる。そこで、そのような経路(遠回りするような経路)を解析エリアとしないことにより、精度を下げることなく、効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【0023】
前記解析エリア決定手段は、前記電波送信車両が走行する道路、及び、前記電波受信車両が走行する道路を解析エリアとして決定することが好ましい。電波送信車両及び電波受信車両の走行している道路のみを電波の通り道として電波伝搬解析を行うことにより、全ての道路を電波の通り道とするのに比べ、はるかに効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【0024】
前記解析エリア決定手段は、前記電波送信車両と前記電波受信車両の位置を頂点とする多角形に囲まれる領域を解析エリアとして決定することが好ましい。これにより、解析エリアを容易に決定することができる。更に、電波送信車両と電波受信車両の位置を頂点とする多角形に囲まれる領域内の障害物及び該多角形に隣接する障害物のみが電波伝搬解析に考慮されるため、全エリア内に存在する障害物を全て考慮するのに比べ、効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【0025】
また、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する電波伝搬解析装置として捉えてもよいし、上記処理の少なくとも一部を含む電波伝搬解析方法、または、かかる方法を実現するための電波伝搬解析プログラムやそのプログラムを記憶した記憶媒体として捉えることもできる。なお、上記手段及び処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る電波伝搬解析装置では、道路情報と、電波送信車両と電波受信車両の位置とに基づいて、解析対象とする解析エリア(地図データの一部のエリア)を決定し、該解析エリア内の障害物及び該解析エリアに隣接する障害物のみを考慮した電波伝搬解析を行う。これにより、例えば、電波伝搬解析に大きく影響する領域を解析エリアとすれば、地図データの全体を解析対象として電波伝搬解析を行うのに比べ、解析精度に影響を与える
ことなく、効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0028】
<装置構成>
図1は、本発明の実施形態に係る電波伝搬解析装置の機能構成を示すブロック図である。この電波伝搬解析装置は、電波送信車両と電波受信車両の間の電波伝搬解析(電波伝搬のシミュレーション)を行う装置であり、例えば、車両相互情報通信機能を搭載した車両を製品化するために、その機能が正常に動作するかどうかをシミュレートする(電波伝搬特性を調べる)ためなどに用いられる。なお、この電波伝搬解析装置は、車両間における電波伝搬特性に限らず、通信端末を所持する人間と通信機能を搭載した車両との間など、様々な電波送信源と電波受信源の間の電波伝搬特性を調べるために用いることができる。
【0029】
電波伝搬解析装置は、図1に示す複数の機能要素、すなわち、地図データ記憶部11、解析エリア決定部12、電波伝搬解析部13、結果記憶部14、表示部15を備えている。本実施形態では、これらの機能要素は、コンピュータの演算処理装置がソフトウエア(プログラム)を実行し、必要に応じてハードディスク、メモリ、ディスプレイなどのハードウエア資源を制御することで実現される。ただし、これらの機能要素を専用のチップで構成しても構わない。
【0030】
地図データ記憶部11は、地図データを記憶する記憶装置である。この記憶装置としては、不揮発性メモリやハードディスクなど、どのような具体的技術が適用されてもよい。地図データには、道路情報(道路の位置、形状(直線、曲線など)、幅など)及び障害物(建物、車両など)の情報が含まれている。なお、障害物は、電波伝搬の障害(反射、透過、回折など)を引き起こすものであればどのようなものであってもよい。本実施形態では、障害物の情報として車両及び建物の位置、大きさ、及び、速度を考える。なお、地図データに記憶されている車両には電波送信車両及び電波受信車両も含まれる。
【0031】
解析エリア決定部12は、電波伝搬解析の解析対象とする解析エリアを決定する機能である。具体的には、解析エリアは、地図データ記憶部11に記憶されている道路情報と、電波送信車両と電波受信車両の位置とに基づいて決定される。なお、解析エリアは、地図データの一部であって、且つ、前記電波送信車両と前記電波受信車両を含む領域である。
【0032】
電波伝搬解析部13は、電波伝搬解析を行う機能である。具体的には、電波伝搬解析は、解析エリア決定部12で決定された解析エリア内の障害物及び該解析エリアに隣接する障害物の情報に基づいて行う。電波伝搬解析部13による電波伝搬解析は、電磁界解析手法、幾何光学的解析手法、統計式を利用した手法(奥村−秦カーブ、坂上式、池上式などを用いた手法)など、既存の電波伝搬解析のどのような技術が適用されてもよい。
【0033】
結果記憶部14は、電波伝搬解析部13から出力された結果を記憶する記憶装置である。この記憶装置としては、不揮発性メモリやハードディスクなど、どのような具体的技術が適用されてもよい。なお、電波伝搬解析の結果は、電波の受信電界強度、電波経路、電波の遅延情報などである。
【0034】
表示部15としては、液晶ディスプレイなど、どのような具体的技術が適用されてもよい。
【0035】
<電波伝搬解析機能>
図2のフローチャートに沿って、電波伝搬解析装置の機能及び処理の流れを説明する。
【0036】
電波伝搬解析処理が起動すると、解析エリア決定部12が、地図データ記憶部11から地図データを取得する(ステップS11)。本実施形態における地図データの一例を図3に示す。図3の地図データは、7本の道路31、80戸の建物32、30台の車両33、電波送信車両34、及び、電波受信車両35の情報を含む。なお、必要に応じて、ユーザは、該地図データを表示部15で確認することができる。
【0037】
次に、解析エリア決定部12が、道路情報と、電波送信車両と電波受信車両の位置とに基づいて解析エリアを決定する(ステップS12)。
【0038】
そして、電波伝搬解析部13が、ステップS12で決定された解析エリア内の障害物及び該解析エリアに隣接する障害物のみを考慮した電波伝搬解析を行う(ステップS13)。
【0039】
次に、ステップS13の結果が、結果記憶部14に格納される(ステップS14)。ユーザは、格納された結果を表示部15で確認することができる。
【0040】
以上述べたように、本実施形態では、解析エリア決定部12によって決定された解析エリア内の障害物及び該解析エリアに隣接する障害物のみを考慮した電波伝搬解析を行う。これにより、電波伝搬解析にあまり影響しない領域に存在する障害物は考慮されないため、全エリア内の障害物を全て考慮した電波伝搬解析を行うのに比べ、効率的な電波伝搬解析を行うことができる。更に、電波伝搬解析に大きく影響する領域を解析エリアとすることにより、解析精度の低下を招くことなく、効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【0041】
<解析エリア決定処理>
電波は主に道路に沿って伝搬するため、電波送信車両から電波受信車両までの経路が電波の通り道になると考えられる。更に、電波は、電波受信車両と電波送信車両の間に存在する障害物に反射などをして伝わることも考えられる。そこで、解析エリア決定処理(ステップS12)では、電波送信車両及び電波受信車両が存在する道路(解析エリア決定処理1)、電波送信車両と電波受信車両の位置を頂点とする多角形に囲まれる領域(解析エリア決定処理2)、電波送信車両から電波受信車両までの経路(解析エリア決定処理3)、のいずれかを解析エリアとする。換言すれば、電波伝搬解析にはそのような解析エリア内の障害物及び該解析エリアに隣接する障害物のみを考慮すれば十分なのである。
【0042】
図4〜6のフローチャートに沿って、上記解析エリア決定処理1〜3の具体例について説明する。なお、ステップS12には解析エリア決定処理1〜3のどの手法を用いてもよく、電波伝搬解析装置が解析エリア決定処理の手法を自動で選択してもよいし、ユーザが目的に応じて選択してもよい。
【0043】
<解析エリア決定処理1>
図4のフローチャートは、解析エリア決定処理1の一具体例を示したものである。なお、この処理の手法は、電波送信車両34が走行する道路及び電波受信車両35が走行する道路が同一である場合や、電波送信車両34が走行する道路及び電波受信車両35が走行する道路が交差する場合などに有効である。
【0044】
まず、解析エリア決定部12が、電波送信車両が走行する道路及び電波受信車両が走行する道路を検出する(ステップS21)。本実施形態では、図7に示す道路71及び道路72が検出される。なお、電波送信車両34は道路71を走行しており、電波受信車両35は道路72を走行している。
【0045】
次に、ステップS21で検出された道路が、同一か否かを判定する(ステップS22)。同一である場合(ステップS22;YES)、ステップS24へ進む。同一で無い場合(ステップS22;NO)、ステップS23へ進む。
【0046】
ステップS23では、検出された道路が、交差するか否かを判定する。交差する場合(ステップS23;YES)、ステップS24へ進む。交差しない場合(ステップS23;NO)、全エリアを解析エリアとする(ステップS25)。
【0047】
ステップS24では、解析エリア決定部12が、ステップS21で検出された道路を解析エリアとする。本実施形態では、道路71及び道路72が解析エリアとされる(なお、ステップS22で同一と判定された場合、1つの道路が解析エリアとされる)。なお、解析エリアは、道路71及び道路72のように、地図データに含まれるその道路全てを解析エリアとしてもよいし、図8に示す道路81及び道路82のように道路71及び道路72の一部分に限定してもよい。
【0048】
従って、本実施形態における電波伝搬解析は、解析エリア決定処理1の手法により、障害物を道路71及び道路72を走行している車両、及び、道路71及び道路72に隣接する建物及び車両のみに限定して行われる(例えば、図7の実線73に囲まれる障害物のみを考慮した電波伝搬解析)。なお、解析エリアを道路81及び道路82とした場合は、点線83に囲まれる障害物のみを考慮した電波伝搬解析が行われる。
【0049】
<解析エリア決定処理2>
図5のフローチャートは、解析エリア決定処理2の一具体例を示したものである。
【0050】
まず、解析エリア決定部12が、電波送信車両の位置及び電波受信車両の位置を頂点とする多角形を形成する(ステップS31)。本実施形態では、電波送信車両34の位置及び電波受信車両35の位置を対角の位置とする四角形91が形成される(図9)。
【0051】
次に、解析エリア決定部12が、ステップS31で形成された多角形に囲まれる領域を解析エリアとする(ステップS32)。本実施形態では、四角形91に囲まれる領域が解析エリアとされる。なお、解析エリアは、四角形91のような長方形でなくても、三角形、平行四辺形、台形、五角形、などのように、多角形であればどのようなものでもよい。
【0052】
従って、解析エリア決定処理2の手法により、解析エリアを容易に決定することができ、電波伝搬解析は、障害物を四角形91囲まれる領域内に存在する建物及び車両、及び、四角形91に隣接する建物及び車両のみに限定して行われる(例えば、図9の実線92に囲まれる障害物のみを考慮した電波伝搬解析)。
【0053】
<解析エリア決定処理3>
解析エリア決定処理3は、電波伝搬解析装置が経路探索部16を更に備えている場合に実施可能である。図10は、経路探索部16を備えた電波伝搬解析装置の機能構成を示すブロック図である。
【0054】
経路探索部16は、道路情報に基づいて車両間の経路を探索する機能である。経路探索処理は、ダイクストラ法を用いた経路探索処理のような、既存の経路探索処理のどのような技術が適用されてもよい。なお、本実施形態における経路探索部16は、電波送信車両から電波受信車両までの複数の経路を、道路情報、電波送信車両の位置、及び、電波受信車両の位置に基づいて探索する。
【0055】
図6のフローチャートは、解析エリア決定処理3の一具体例を示したものである。
【0056】
まず、経路探索部16が、電波送信車両から電波受信車両までの複数の経路を探索する(ステップS41)。本実施形態では、図11の経路111〜113が探索されたとする。
【0057】
次に、解析エリア決定部12が、ステップS41で探索された経路を解析エリアとする(ステップS42)。本実施形態では、経路111〜113が解析エリアとされる。
【0058】
従って、本実施形態における電波伝搬解析は、解析エリア決定処理3の手法により、障害物を、経路111〜113を走行する車両、及び、経路111〜113に隣接する建物及び車両のみに限定して行われる(例えば、図11の実線114に囲まれる障害物のみを考慮した電波伝搬解析)。
【0059】
なお、解析エリア決定処理3では、探索された経路全てを解析エリアとしているが、電波送信車両から電波受信車両までの右左折回数若しくは経路距離、又は、右左折回数と経路距離の両方が所定の閾値以下の経路のみを解析エリアとしてもよい(右左折回数の多い経路及び経路距離の長い経路は、障害物との反射回数の増加を招く。そのような経路を通る電波は、電波受信車両に届かなかったり、届くころには微弱な電波になってしまったりするため、考慮しなくてもよい)。なお、閾値は、ユーザが予め設定しておくものとする。
【0060】
図12は、経路探索結果の一例である(簡単のため、図12には、電波送信車両121及び電波受信車両122を記載し、それ以外の障害物は記載しない)。なお、経路123aの右左折回数及び経路距離は、「1回,1.3km」であり、経路123bの右左折回数及び経路距離は、「2回,0.8km」であり、経路123cの右左折回数及び経路距離は、「4回,1km」であり、経路123dの右左折回数及び経路距離は、「5回,1.5km」である。閾値を設定しない場合は、経路123a〜123dの4つが解析エリアとされる。右左折回数の閾値を「2回」と設定することにより、経路123a及び経路123bのみが解析エリアとされる。経路距離の閾値を「1km」と設定することにより、経路123b及び経路123cのみが解析エリアとされ、右左折回数及び経路距離の閾値を「2回,1km」と設定することにより、経路123bのみが解析エリアとされる。
【0061】
このように、右左折回数と経路距離の閾値を設定することにより、電波の通り道としてふさわしい経路のみを解析エリアとすることができるため、精度を下げず且つ効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【0062】
なお、解析エリア決定処理は、経路の一部に電波受信車両から遠ざかる箇所を含む経路を解析エリアとしなくてもよい(なお、電波受信車両から遠ざかる箇所を含む経路しか存在しない場合には、他の手法により求めてもよい)。経路の一部に電波受信車両から遠ざかる箇所を含む経路は、右左折回数や経路距離の増加につながるため、そのような経路を解析エリアとしないことにより、精度を下げず且つ効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【0063】
以上述べたように、本実施形態の解析エリア決定処理は、解析エリア決定処理1〜3の3つの手法があり、どの手法を用いても解析対象とする障害物の数を減らすことができる。そのため、全エリア内の障害物を全て考慮した電波伝搬解析を行うのに比べ、効率的な電波伝搬解析を行うことができる。なお、解析エリア決定処理は、上記3つの手法に限らず、全エリアの一部であって、且つ、電波送信車両と電波受信車両を含んでいるエリアを決定する手法であれば、どのような手法を用いてもよい。
【0064】
なお、本実施形態では、道路情報について詳しく述べていないが、道路情報は、2次元の道路の情報であってもよいし、3次元の形状を含んだ道路の情報であってもよい。本実施形態に係る電波伝搬解析装置は、道路情報の種類によらず、電波伝搬解析を効率的に行うことができる。
【0065】
なお、本実施形態では、地図データ記憶部11に道路情報及び障害物(電波送信車両及び電波受信車両を含む)の情報が記憶されているが、地図データ記憶部11には道路情報のみが記憶されていてもよい。その場合、建物、車両などの情報は、ユーザが入力してもよいし、別の記憶装置に記憶されていてもよい。この場合、地図データ記憶部11と別の記憶装置が、本発明の地図データ記憶手段に相当する。
【0066】
なお、本実施形態では、地図データの形式について述べていないが、地図データは、道路情報や障害物の情報が取得できる形式であれば画像データ、文字データ、及び、数値データなど、どのような形式であってもよい。なお、ユーザは、地図データを表示部15で確認しながら該地図データの内容を変更することができる。
【0067】
なお、本実施形態の解析エリア決定処理1では、電波送信車両が走行する道路と電波受信車両が走行する道路とが、同一でなく、且つ、交差していない場合に、全エリアを解析エリアとしているが、この場合には、他の解析エリア決定手法を用いてもよいし、通信不可能と判定して、その後の処理を中止してもよい。それによって、効率的な電波伝搬解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、電波伝搬解析装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、電波伝搬解析装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図3は、地図データの一例を示す図である。
【図4】図4は、解析エリア決定処理1の流れを示すフローチャートである。
【図5】図5は、解析エリア決定処理2の流れを示すフローチャートである。
【図6】図6は、解析エリア決定処理3の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は、解析エリア決定処理1における解析エリアの一例を示す図である。
【図8】図8は、解析エリア決定処理1における解析エリアの一例を示す図である。
【図9】図9は、解析エリア決定処理2における解析エリアの一例を示す図である。
【図10】図10は、経路探索部16を備えた電波伝搬解析装置の機能構成を示すブロック図である。
【図11】図11は、解析エリア決定処理3における解析エリアの一例を示す図である。
【図12】図12は、経路探索処理結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
11 地図データ記憶部
12 解析エリア決定部
13 電波伝搬解析部
14 結果記憶部
15 表示部
16 経路探索部
31 道路
32 建物
33 車両
34 電波送信車両
35 電波受信車両
71,72 道路
81,82 道路
111,112,113 経路
121 電波送信車両
122 電波受信車両
123a〜123d 経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波送信車両と電波受信車両の間の電波伝搬解析を行う電波伝搬解析装置であって、
道路情報及び障害物の情報を含む地図データを予め記憶する地図データ記憶手段と、
前記道路情報と、電波送信車両と電波受信車両の位置とに基づいて、地図データの一部であって、且つ、前記電波送信車両と前記電波受信車両を含む領域を解析エリアとして決定する解析エリア決定手段と、
前記解析エリア内の障害物及び前記解析エリアに隣接する障害物の情報に基づいて電波伝搬解析を行う電波伝搬解析手段と、
を備える電波伝搬解析装置。
【請求項2】
前記電波送信車両から前記電波受信車両までの複数の経路を、前記道路情報、前記電波送信車両の位置、及び、前記電波受信車両の位置に基づいて探索する経路探索手段を更に備え、
前記解析エリア決定手段は、前記経路探索手段で探索された経路を解析エリアとして決定する
請求項1に記載の電波伝搬解析装置。
【請求項3】
前記解析エリア決定手段は、前記経路探索手段で探索された経路のうち、前記電波送信車両から前記電波受信車両までの右左折回数及び/又は経路距離が所定の閾値以下の経路のみを解析エリアとして決定する
請求項2に記載の電波伝搬解析装置。
【請求項4】
前記解析エリア決定手段は、前記経路探索手段で探索された経路のうち、経路の一部に前記電波受信車両から遠ざかる箇所を含む経路を解析エリアとしない
請求項2〜請求項3のいずれかに記載の電波伝搬解析装置。
【請求項5】
前記解析エリア決定手段は、前記電波送信車両が走行する道路、及び、前記電波受信車両が走行する道路を解析エリアとして決定する
請求項1に記載の電波伝搬解析装置。
【請求項6】
前記解析エリア決定手段は、前記電波送信車両と前記電波受信車両の位置を頂点とする多角形に囲まれる領域を解析エリアとして決定する
請求項1に記載の電波伝搬解析装置。
【請求項7】
コンピュータが、
道路情報及び障害物の情報を含む地図データを記憶手段に予め記憶し、
前記道路情報と、電波送信車両と電波受信車両の位置とに基づいて、地図データの一部であって、且つ、前記電波送信車両と前記電波受信車両を含む領域を解析エリアとして決定し、
前記解析エリア内の障害物及び前記解析エリアに隣接する障害物の情報に基づいて電波伝搬解析を行う
電波伝搬解析方法。
【請求項8】
コンピュータに、
道路情報及び障害物の情報を含む地図データを記憶手段に予め記憶するステップと、
前記道路情報と、電波送信車両と電波受信車両の位置とに基づいて、地図データの一部であって、且つ、前記電波送信車両と前記電波受信車両を含む領域を解析エリアとして決定するステップと、
前記解析エリア内の障害物及び前記解析エリアに隣接する障害物の情報に基づいて電波
伝搬解析を行うステップと、
を実行させるための電波伝搬解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−311860(P2008−311860A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156559(P2007−156559)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】