説明

電波伝搬路判定装置および電波伝搬シミュレーション装置

【課題】送受信点間で見通し内通信や見通し外通信が可能であるか高速に判定する。
【解決手段】見通し内通信が可能な領域であるLOSグループ(A,B,C,D,E)をあらかじめ定義しておき、送信車両(100)と同一のLOSグループ(A)に属する車両とは見通し内通信が可能であると判定し、送信車両が属するLOSグループ(A)と交わるLOSグループ(B,C,D)に属する車両とは見通し外通信が可能であると判断する。さらに、この判定結果に基づいて、見通し内通信および見通し外通信をそれぞれモデル化した伝搬推定式を用いて受信点における受信電力を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送受信点間の電波伝搬路が見通し内であるか見通し外であるかを判定する電波伝搬路判定、および当該技術を利用した電波伝搬シミュレーションに関し、特に、ITSシステムの電波伝搬シミュレーションに適用して好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電波伝搬シミュレーションにはレイトレース法を用いることが一般的となっている。レイトレース法によれば正確な結果を得ることができるものの、幾何光学的な計算を行う必要があり計算に時間を要するという欠点がある(特許文献1,2)。
【0003】
一方、電波伝搬をモデル化する研究が行われており、いくつかの伝搬推定式の提案がされている。伝搬推定式を利用する電波伝搬シミュレーションは、精度の点ではレイトレース法に劣るものの、処理時間の点で有利である。ITS(Intelligent Transport System)システムにおいては、道路の脇に存在する建物の影響を受けるため、見通し内の通信と見通し外の通信の両方を考慮する必要がある。そこで、見通し内通信と見通し外通信をそれぞれモデル化した伝搬推定式を利用して、見通し内通信か見通し外通信かに応じて伝搬推定式を使い分けることで、ITSシステムに適した電波伝搬シミュレーションが行える(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−33584号公報
【特許文献2】特開2005−72654号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】伊藤義信、多賀登喜雄、他、「車車間通信環境における見通し内伝搬損失推定」、信学技報、AP2006−126、pp.95−100、Jan.2007
【非特許文献2】伊藤義信、多賀登喜雄、他、「車車間通信環境における見通し外伝搬損失推定」、信学総大、B−1−61、p.61、Mar.2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、送受信点間の通信が見通し内通信となるか見通し外通信となるかを判断するためには、3次元の地図データを利用して幾何光学的な計算をする必要がある。この計算には多大な時間を要するため、伝搬推定式を使用することにより得られる高速な処理という利点がなくなってしまう。
【0007】
本発明の目的は、送受信点間の通信が見通し内通信であるか見通し外通信であるかを高速に判定可能な技術を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このような技術を用いて見通し内通信であるか見通し外通信であるかに応じて異なる伝搬推定式を用いる電波伝搬シミュレーションの計算時間を短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電波伝搬路判定装置は、
道路のデータを格納した地図データ記憶手段と、
見通し内通信が可能な道路上の領域であるLOS(Line−Of−Site)グルー
プをあらかじめ複数記憶したLOSグループ記憶手段と、
送信点が属するLOSグループと同一のLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間で見通し内通信が可能であると判断し、送信点が属するLOSグループと交わるLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間見通し外通信が可能であると判断する解析手段と、
を備える。
【0009】
LOSグループは、その領域内の任意の2点間が見通し内である領域である。このようなLOSグループをあらかじめ複数定義して記憶しておくことで、任意の送信点について、同一のLOSグループに属する受信点との間で見通し内通信が可能であると判断できる。
【0010】
また、LOSグループは領域として定義されるものであるので、2つのLOSグループが一部において重複する領域を有する場合がある。このように、2つのLOSグループが重複する部分を有することを、本明細書では、LOSグループが交わると表現している。互いに交わるLOSグループにそれぞれ属する送信点と受信点は、見通し内ではないが、1回の回折による見通し外通信が可能であると考えられる。したがって、送信点が属するLOSグループと交わるLOSグループであって、送信点が属していないLOSグループ内に属する受信点との間で見通し外通信が可能であると判断できる。
【0011】
このように、本発明による電波伝搬路判定装置によれば、送信点と受信点が属するLOSグループを参照するだけで、送受信点間の通信が見通し内通信であるか見通し外通信であるか判断できる。つまり、3次元地図データを用いた幾何光学的な計算を省くことができ、計算時間を大幅に短縮することができる。
【0012】
また、本発明において、
前記地図データ記憶手段は、ノードとノードを接続するリンクとによって表現された地図のデータを格納しており、
LOSグループ記憶手段は、各LOSグループを、ノードおよびリンクの集合として格納しており、
前記解析手段は、送信点が属するLOSグループを構成するリンクまたはノードに位置する受信点との間の通信を見通し内通信であると判断し、送信点が属するLOSグループを構成するノードを含むLOSグループのうち、送信点を含まないLOSグループに位置する受信点との間の通信を見通し外通信であると判断する、
ことが好ましい。
【0013】
このように、LOSグループをノード(点)とリンク(線)の集合として記憶することで、送信点が属するLOSグループと同一のLOSグループや、これと交わるLOSグループに位置する受信点を容易に判断することができる。
【0014】
また、本発明に係る電波伝搬シミュレーション装置は、上記手法により送受信点間の通信が見通し内通信であるか見通し外通信であるかを判断し、送受信点間の通信が見通し内通信であれば見通し内通信をモデル化した第1の伝搬推定式を用いて電波伝搬シミュレーションを行い、送受信点間の通信が見通し外通信であれば見通し外通信をモデル化した第2の伝搬推定式を用いた電波伝搬シミュレーションを行うものである。
【0015】
このように、3次元地図データを用いた幾何光学的な計算を行うことなく、見通し内通信であるか見通し外通信であるかを考慮した電波伝搬シミュレーションを行うことができるので、計算時間を大幅に短縮することができる。また、状況に応じて複数のモデルを使い分けているので、単一のモデルを使用する場合よりも精度の良い結果が得られる。また
、見通し内通信と見通し外通信のどちらも不可能であると判断された送受信点間では、それ以上の計算を行うことなく通信不可能と判断できるため、この点からも計算時間の短縮が図られる。
【0016】
本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む電波伝搬路判定方法、電波伝搬シミュレーション方法、または、これらの方法を実現するためのプログラムとして捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、送受信点間で見通し内通信や見通し外通信が可能であるかを高速に判定することができる。また、見通し内通信であるか見通し外通信であるかに応じて異なる伝搬推定式を用いて電波伝搬シミュレーションの計算時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る電波伝搬路推定および電波伝搬シミュレーションの概要を説明する図である。
【図2】本実施形態に係る電波伝搬シミュレーション装置の機能構成を示す図である。
【図3】本実施形態に係る電波伝搬シミュレーション装置の全体的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】地図データおよびLOSグループを説明する図である。
【図5】(A)LOSグループを構成するリンクおよびノードを列挙したテーブル、(B)リンクが属するLOSグループを列挙したテーブル、(C)ノードが属するLOSグループを列挙したテーブルを示す図である。
【図6】見通し内通信が可能な車両を選択する処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】見通し外通信が可能な車両を選択する処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】(A)見通し内通信モデルおよび(B)見通し外通信モデルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0020】
(概要)
まず、本実施形態に係る電波伝搬シミュレーションの概要を、図1を参照しながら説明する。本実施形態に係る電波伝搬シミュレーション装置では、道路上に位置している車両間での伝搬損失を算出する。ここで、見通し内通信が可能な送受信点間では、見通し内通信をモデル化した伝搬推定式(以下、単にLOS伝搬推定式とも呼ぶ)、見通し外通信が可能な送受信点間では、見通し外通信をモデル化した伝搬推定式(NLOS伝搬推定式とも呼ぶ)を用いて受信電力(伝搬損失)を算出する。
【0021】
ここで、シミュレーションエリア内の全道路リンクについて、見通し内通信となるグループ(LOSグループ)をあらかじめ定義しておく。図1においては、A〜Eの5つのグループが定義されている。この定義より、LOSグループ内に位置する任意の2点間で見通し内通信ができる。そして、送信車両と同じLOSグループに位置している受信車両との間ではLOS伝搬推定式を用いて、受信電力を算出する。一方、送信車両が属するLOSグループと交わるLOSグループに位置する受信車両との間では、NLOS伝搬推定式を用いて、受信電力を算出する。
【0022】
なお、2つのLOSグループが、道路上の一部を共通して含んでいる場合を、これらのLOSグループは交わっていると呼ぶ。LOSグループAは、LOSグループB,Cと交差点ノードPを共有しており、LOSグループDと交差点ノードQを共有しているので、LOSグループAは、LOSグループB,C,Dと交わっており、LOSグループEとは交わっていない。
【0023】
図1において、車両100が送信車両である場合は、車両100はLOSグループAに属しているので、LOSグループAに属する他の車両との間では、LOS伝搬推定式による受信電力(伝搬損失)の算出が行われる。送信車両100が属しているLOSグループAと交わっているLOSグループは、B,C,Dの3つのグループであるので、これらのLOSグループ内に位置する車両との間では、NLOS伝搬推定式による受信電力損失の算出が行われる。一方、上記の処理により伝搬損失の対象とならなかった車両(すなわち、送信車両が属するLOSグループや、これに交わるLOSグループ内に位置しない車両)は、送信車両100との通信ができないと判断する。
【0024】
このように、本実施形態に係る電波伝搬シミュレーション装置では、幾何光学的な計算を行うことなく、送受信点間で見通し内通信や見通し外通信ができることを判断できる。したがって、見通し内通信と見通し外通信とをそれぞれモデル化した伝搬推定式を用いた電波伝搬シミュレーションを、短時間で行うことができる。
【0025】
(構成)
以下、より詳細に説明する。図2は、本実施形態に係る電波伝搬シミュレーション装置の機能構成を示すブロック図である。電波伝搬シミュレーション部10は、車両位置データを受け取って、任意の車両間での通信について電波伝搬損失を求めるものである。電波伝搬シミュレーション部10は、概略、伝搬路推定部11と伝搬損失算出部12とから構成される。
【0026】
地図データ記憶部101は、道路のデータを含む地図データを格納している。地図データ記憶部101において、道路は、交差点などを表すノードと、ノードを接続するリンクの集合として表現される。なお、地図データ記憶部101には、伝搬損失計算に際して必要となる情報が含まれるべきである。たとえば、伝搬損失計算に建物の幅(道路幅に道路から建物までの距離を加えた距離)や建物の高さを利用する場合には、地図データ記憶部101はこれらのデータを有することが好ましい。LOSグループ記憶部102には、上述したLOSグループがリンクやノードの集合として格納される。LOSグループ記憶部102に記憶されるデータの詳細については、後で詳しく説明する。
【0027】
伝搬路推定部11は、車両位置データ、道路のデータを含む地図データ,およびLOSグループデータを参照して、送受信車両間で、見通し内通信や見通し外通信が可能であるかを判定する。
【0028】
伝搬損失算出部12は、送受信車両間の電波伝搬路に応じて適切な伝搬推定式を利用して伝搬損失を算出する。伝搬損失算出部12は、見通し内通信が可能な通信についてはLOS伝搬推定式を用いて伝搬損失を算出し、見通し外通信が可能な通信についてはNLOS伝搬推定式を用いて伝搬損失を算出する。本実施形態においては、伝搬推定式として、多賀モデル(非特許文献1、2)を採用する。
【0029】
見通し内通信をモデル化する伝搬推定式(LOS伝搬推定式)として、次式を採用する(図8A参照)。
【0030】
【数1】

ここで、
d : 送受信点間距離[m]
:ブレークポイント距離 8×(h×h)/λ[m]
f : 搬送波周波数[GHz]
λ : 波長[m]
: 送信アンテナ高[m]
: 受信アンテナ高[m]
Ws : 道路幅[m]
である。
【0031】
一方、見通し外通信をモデル化する伝搬推定式(NLOS伝搬推定式)として、次式を採用する(図8B参照)。
【0032】
【数2】

ここで、
: 送信側道路幅[m]
: 受信側道路幅[m]
d=d+dw2+dw1+d
EL=d+dw2+dw1+(dw1・dw2)/d
: 送信点と交差点の距離[m]
: 受信点と交差点の距離[m]
w1: 送信点位置[m]
w2: 受信点位置[m]
:ブレークポイント距離 4×(h×h)/λ[m]
であり、その他の記号は見通し内通信のモデルの時と同様である。
【0033】
なお、本実施形態に係る電波伝搬シミュレーション装置は、ハードウェアとしては、中央演算処理装置(CPU)、RAM等の主記憶装置、HDD等の補助記憶装置、入出力装置から構成されるコンピュータ(電子計算機)からなり、CPUが各種のコンピュータプログラムを実行することで、上記の各機能部が実現される。ただし、上記の各機能部のうち、一部または全部について専用の装置によって実現しても構わない。
【0034】
(全体処理)
本実施形態に係る電波伝搬シミュレーション装置が行う処理の全体の流れを図3を参照しつつ説明する。電波伝搬シミュレーション部10は、まず、受信した車両位置データに含まれる車両のうち、任意の1台を送信車両として選択する(ステップS1)。そして、伝搬路推定部11が、送信車両と見通し内通信が可能な車両を選択する(ステップS2)。伝搬損失算出部12は、ステップS2で選択された受信車両との間では、上記のLOS伝搬推定式によって、受信電力を算出する(ステップS3)。また、伝搬路推定部11が送信車両と見通し外通信が可能な車両を選択し(ステップS4)、伝搬損失算出部12が
当該受信車両との間で上記NLOS伝搬推定式によって受信電力を算出する(ステップS5)。この時点で、受信電力が計算されていない車両、すなわち、送信車両と同一のLOSグループに属さず、また、送信車両の属するLOSグループに交わるLOSグループにも属さない車両との間では通信が成り立たないと判断する(ステップS6)。このようにして、1台の送信車両と、他の全ての車両との間の電波伝搬が計算される。そして、まだ送信車両として選択されていない車両が存在すれば(ステップS7)、別の車両を送信車両として選択して上記ステップS1〜S6の処理を繰り返す。計算された受信電力値には、記憶装置への記憶、他装置への通信、表示装置への表示処理が施される。
【0035】
なお、上記の処理の順序は適宜変更してもかなわない。例えば、ステップS2,S4を先に行って、見通し内通信が可能な車両および見通し外通信が可能な車両をそれぞれ先に求めておいてから、それぞれの車両に対して受信電力計算(ステップS3,S5)をおこなっても良い。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で処理順序等を変更しても構わない。
【0036】
(電波伝搬路推定の高速化)
以下、送受信点間で、見通し内通信や見通し外通信が可能であるかを判定する処理を高速化するための構成について説明する。
【0037】
地図データ記憶部101には、図4Aに示すように、地図データがリンクとノードの集合として表現されたデータ形式で格納されている。ここでは、各ノードに対してNode_a, Node_bなどのノードIDが割り当てられている。また、リンクにはその両端のノードIDを用いて、Link_ab, Link_bcなどのリンクIDが割り当てられている。これに対して、見通し内通信が可能な道路上の領域であるLOSグループを定義する。図4Bに5つのLOSグループが定義された例を示している。各LOSグループ内では、任意の2点間で見通し内通信が可能である。なお、LOSグループの作成は、人間が自ら行っても良いが、事前にレイトレース法などの電波伝搬シミュレーションを行って作成しても構わない。シミュレーションによってLOSグループを作成する場合は、この作成処理には時間を要することになるが、同じ地図データを用いて何回も電波伝搬シミュレーションを行う場合は処理時間を短縮できる。
【0038】
このようにして定義されたLOSグループは、LOSグループ記憶部102内に記憶される。ここでは、図5Aに示すように、各LOSグループを構成するノードおよびリンク(のID)が列挙される形式でLOSグループの構成を管理する。図5Aに示すテーブル形式のままでも構わないが、後続の処理を考慮して、図5Aとは異なったテーブル形式でデータを保持することも好ましい。具体的には、LOSグループ記憶部102は、各リンクが属するLOSグループおよび、各ノードが属するLOSグループを容易に抽出できるように、図5B,5Cに示す形式のテーブルも記憶する。図5B、5Cに示すテーブルは、それぞれ、各リンクおよび各ノードが属するLOSグループを列挙したテーブル形式である。
【0039】
次に、見通し内通信が可能な車両を選択する処理(図3のステップS2)について、図6を参照しつつより詳細に説明する。伝搬路推定部11は、まず、送信車両の位置がどのリンクまたはノードに属するのかを、車両位置データと地図データとから取得する。そして、送信車両の位置をもとに、送信車両が属するLOSグループを、図5Bまたは図5Cのテーブルを参照して抽出する(ステップS21)。例えば、送信車両がリンクLink_ab
上に位置している場合は、LOSグループGroup_1が抽出される。次に、送信車両が属す
るLOSグループを構成するリンクおよびノードを図5Aに示すテーブルを参照して抽出する(ステップS22)。送信車両がLOSグループGroup_1に属している場合は、ノー
ドNode_a, Node_b, Node_c、およびリンクLink_ab, Link_bcが抽出される。そして、この
ようにして抽出したノードおよびリンク上に位置している車両を、送信車両と見通し内通信が可能な車両として取得する(ステップS23)。
【0040】
次に、見通し外通信が可能な車両を選択する処理(図3のステップS4)について、図7を参照しつつより詳細に説明する。伝搬路推定部11は、まず、送信車両が属するノードまたはリンクを特定した上で、送信車両がどのLOSグループに属するかを図5Bまたは図5Cのテーブルを参照して抽出する(ステップS41)。例えば、送信車両がリンクLink_ef上に位置している場合は、LOSグループGroup_5が抽出される。次に、送信車両が属するLOSグループを構成するノードを抽出する(ステップS42)。送信車両がLosグループGroup_5に属する場合は、ノードNode_e, Node_f, Node_gが抽出される。そ
して、抽出されたノードを含むLOSグループのうち、送信車両が属さないLOSグループを抽出する(ステップS43)。ここの例では、ノードNode_eはLOSグループGroup_3, Group_5に属し、ノードNode_fはLOSグループGroup_4, Group_5に属し、ノードNode_gはLOSグループGroup_5に属しており、これらのLOSグループから送信車両が属す
るLOSグループGroup_5を除いた、Group_3, Group_4が抽出される。このようにして抽
出されたLOSグループを構成するノードおよびリンクを図5Aのテーブルを参照して取得し、これらのノードおよびリンクに位置している車両を、送信車両として見通し外通信が可能な車両として取得する(ステップS44)。
【0041】
なお、伝搬路推定部11は、ある送信車両に対して見通し内通信または見通し外通信のいずれも可能ではないと判定された車両は、送信車両と通信できないと判断する。
【0042】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば、見通し内通信が可能なLOSグループを、あらかじめリンクおよびノードの集合として定義しているので、送信車両と同一のLOSグループに属する他の車両や、送信車両が属するLOSグループと交わるLOSグループに属する他の車両を抽出することが容易である。そして、同一LOSグループに属する車両とは見通し内通信が可能であり、互いに交わるLOSグループに属する車両とは見通し外通信が可能であると判断できるので、結局、送信車両と受信車両の間で、見通し内通信や見通し外通信が可能であるか否かを高速に判断できることになる。
【0043】
見通し内通信であるか見通し外通信であるかによって伝搬推定式を変えて電波伝搬シミュレーションを行う場合に、上記のような判断手法を利用することで、幾何光学的な計算を行うことなく電波伝搬シミュレーションが可能となり、計算時間を大幅に短縮できる。
【0044】
(変形例)
上記の説明では、多賀モデルにしたがった伝搬推定式を用いているが、見通し内通信および見通し外通信をそれぞれモデル化した伝搬推定式であれば、どのような伝搬推定式を用いても構わない。たとえば、多賀モデルでは地物データを利用しないで伝搬損失の計算を行っているが、道路に関する情報だけでなく地物に関するデータも利用可能な場合は、建物間隔や建物高さなどを用いるとより環境にあったシミュレーションが可能となる。
【0045】
さらに、上記の例では、1回の回折が起こる場合の見通し外通信のみを考慮しているが、2回以上の回折を考慮して見通し外通信が可能であるか否かを判断しても良い。例えば、送信車両が属するLOSグループと交わるLOSグループであって、送信車両が属するLOSグループ以外のものを、1次LOSグループとする。送信車両は、この1次LOSグループ内の車両と1回の回折による見通し外通信ができると判断できる。そして、1次LOSグループと交わるLOSグループであって、送信車両が属するLOSグループでも1次LOSグループでもないLOSグループを、2次LOSグループとする。送信車両は、この2次LOSグループ内の車両と2回の回折による見通し外通信ができると判断でき
る。したがって、見通し外通信の回折回数に応じて異なる伝搬推定式を用いることも可能となる。
【0046】
また、上記の例では、送信点と受信点の間で、見通し内通信や見通し外通信が可能であるか否か判断した後に、この判断結果を電波伝搬シミュレーションに利用しているが、判断結果の用途は必ずしもこれに限られない。すなわち、この判断結果を他の目的として利用しても構わない。つまり、本発明は、送信点と受信点との間で、見通し内通信や見通し外通信が可能であるかを判定する技術として捉えることも可能である。
【0047】
また、LOSグループ記憶部は、必ずしも図5A,5B,5Cに示す形式のテーブルで保持する必要はない。例えば、図5B,5Cのテーブルは、図5Aのテーブルから求めることができるので、図5Aのテーブルのみを保持しても良い。また、逆に、図5B,5Cのテーブルから図5Aのテーブルを算出できるので、図5B,5Cのテーブルのみを保持しても良い。また、上述の説明では、まずLOSグループ(図5Aのテーブル)を定義してから、リンクおよびノードが属するLOSグループ(図5B,5Cのテーブル)を作成すると述べたが、必ずしもこれに拘る必要もない。例えば、レイトレース法などの幾何光学的な計算によってLOSグループを作成する場合には、まず、リンクやノードに注目して、特定のリンクやノードについて、見通し内となるリンクやノードの範囲を特定することになる。このように、それぞれのリンクやノードについての見通し内の範囲を決定してから、それに基づいてLOSグループを決定するようにしても構わない。
【符号の説明】
【0048】
10 電波伝搬シミュレーション部
11 伝搬路推定部
12 伝搬損失算出部
101 地図データ記憶部
102 LOSグループ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路のデータを格納した地図データ記憶手段と、
見通し内通信が可能な道路上の領域であるLOSグループをあらかじめ複数記憶したLOSグループ記憶手段と、
送信点が属するLOSグループと同一のLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間で見通し内通信が可能であると判断し、送信点が属するLOSグループと交わるLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間で見通し外通信が可能であると判断する解析手段と、
を備える電波伝搬路判定装置。
【請求項2】
前記地図データ記憶手段は、ノードとノードを接続するリンクとによって表現された地図のデータを格納しており、
前記LOSグループ記憶手段は、各LOSグループを、ノードおよびリンクの集合として格納しており、
前記解析手段は、送信点が属するLOSグループを構成するリンクまたはノードに位置する受信点との間で見通し内通信が可能であると判断し、送信点が属するLOSグループを構成するノードを含むLOSグループのうち、送信点を含まないLOSグループに位置する受信点との間で見通し外通信が可能であると判断する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電波伝搬路判定装置。
【請求項3】
道路のデータを格納した地図データ記憶手段と、
送信点および受信点の間の通信が見通し内通信であるか見通し外通信であるかに応じて、見通し内通信をモデル化した第1の伝搬推定式または見通し外通信をモデル化した第2の伝搬推定式を用いた電波伝搬シミュレーションを行う解析手段と、
を備える電波伝搬シミュレーション装置であって、
見通し内通信が可能な道路上の領域であるLOSグループをあらかじめ複数記憶したLOSグループ記憶手段をさらに有し、
前記解析手段は、送信点が属するLOSグループと同一のLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点の間の通信を見通し内通信であると判断して前記第1の伝搬推定式を用いて伝搬損失を算出し、送信点が属するLOSグループと交わるLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間の通信を見通し外通信であると判断して前記第2の伝搬推定式を用いて伝搬損失を算出する
ことを特徴とする電波伝搬シミュレーション装置。
【請求項4】
前記地図データ記憶手段は、ノードとノードを接続するリンクとによって表現された地図のデータを格納しており、
前記LOSグループ記憶手段は、各LOSグループを、ノードおよびリンクの集合として格納しており、
前記解析手段は、送信点が属するLOSグループを構成するリンクまたはノードに位置する受信点との間で見通し内通信が可能であると判断し、送信点が属するLOSグループを構成するノードを含むLOSグループのうち、送信点を含まないLOSグループに位置する受信点との間で見通し外通信が可能であると判断する、
ことを特徴とする請求項3に記載の電波伝搬シミュレーション装置。
【請求項5】
見通し内通信が可能な道路上の領域であるLOSグループを複数作成し記憶するLOSグループ作成ステップと、
送信点が属するLOSグループと同一のLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間で見通し内通信が可能であると判断し、送信点が属するLOSグループと交わるLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間で見通し外通信が可能であると判
断する解析ステップと、
を含むことを特徴とする電波伝搬路判定方法。
【請求項6】
送信点および受信点の間の通信が見通し内通信であるか見通し外通信であるかに応じて、見通し内通信をモデル化した第1の伝搬推定式または見通し外通信をモデル化した第2の伝搬推定式を用いた電波伝搬シミュレーションを行う電波伝搬シミュレーション方法であって、
見通し内通信が可能な道路上の領域であるLOSグループを複数作成し記憶するLOSグループ作成ステップと、
送信点が属するLOSグループと同一のLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点の間の通信を見通し内通信であると判断して前記第1の伝搬推定式を用いて電波伝搬シミュレーションを行い、送信点が属するLOSグループと交わるLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間の通信を見通し外通信であると判断して前記第2の伝搬推定式を用いて電波伝搬シミュレーションを行う解析ステップと、
を含むことを特徴とする電波伝搬シミュレーション方法。
【請求項7】
コンピュータに、
見通し内通信が可能な道路上の領域であるLOSグループを複数作成し記憶するLOSグループ作成ステップと、
送信点が属するLOSグループと同一のLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間で見通し内通信が可能であると判断し、送信点が属するLOSグループと交わるLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間で見通し外通信が可能であると判断する解析ステップと、
を実行させることを特徴とする電波伝搬路判定プログラム。
【請求項8】
送信点および受信点の間の通信が見通し内通信であるか見通し外通信であるかに応じて、見通し内通信をモデル化した第1の伝搬推定式または見通し外通信をモデル化した第2の伝搬推定式を用いた電波伝搬シミュレーションを行うための電波伝搬シミュレーションプログラムであって、
コンピュータに、
見通し内通信が可能な道路上の領域であるLOSグループを複数作成し記憶するLOSグループ作成ステップと、
送信点が属するLOSグループと同一のLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点の間の通信を見通し内通信であると判断して前記第1の伝搬推定式を用いて電波伝搬シミュレーションを行い、送信点が属するLOSグループと交わるLOSグループに受信点が位置する場合は、送受信点間の通信を見通し外通信であると判断して前記第2の伝搬推定式を用いて電波伝搬シミュレーションを行う解析ステップと、
を実行させることを特徴とする電波伝搬シミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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