説明

電波吸収体用シート材及び電波吸収体

【課題】優れた吸収性能を有するとともに、輸送性、現場施工性等のハンドリング性に優れ、歩留まりよくシート材を採取できる電波吸収体用シート材及び電波吸収体を提供する。
【解決手段】十二角形Cであるシート材であって、長方形Aの四隅から、直角三角形を切欠いた結果生じる八角形Bが、八角形Bの内部に元の長方形A二組のいずれかの辺に平行な直線Fを有し、ひとつの直角三角形を切欠いたことにより生じる二つの頂点と、直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだ二本の直線を一組とし、四組いずれも各々の組の二本の直線が同じ長さであり、かつ、八角形Bは元の長方形Aの辺に由来する対向する二辺を一組とし、二組いずれも各々の組の二辺が同じ長さであり、十二角形Cが、八角形Bにおける直角三角形を切欠いたことにより生じる四辺から、この辺を底辺とする二等辺三角形を八角形Bから切欠くか、もしくは八角形Bに足した形状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、電波暗室や電波暗箱、電波吸収衝立等に用いられる電波吸収体用シート材及び電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
電波暗室とは、電子機器から放射される電磁ノイズ評価、外来電磁ノイズに対する電子機器のイミュニティ評価や、アンテナ特性の評価等を行う測定施設である。電波暗室の壁面や天井面には電波吸収体が用いられており、電波吸収体に要求される吸収周波数帯域は数十MHz〜数GHzである。電波吸収体としては、一般的に、数十〜数百MHzの吸収を担うフェライトタイルと、GHz帯域の吸収を担うカーボンやグラファイト等を含有する発泡ウレタン、発泡ポリスチレンからなるピラミッド型やクサビ型吸収体等の立体型吸収体とが組み合わせて使用されている。
【0003】
尚、近年は、情報伝達量の高密度化に伴い電子機器は高周波化の一途を辿っており、それを評価する電波暗室の要求性能も数GHzから数十GHzと高周波に伸びており、高周波帯域の吸収を担う電波吸収体の役割はますます重要性になってきている。
【0004】
数GHz〜数十GHz帯域の電波吸収体として用いられているカーボン等含有発泡樹脂吸収体は、その容積が嵩高いため、莫大な輸送・保管コストがかかる、また、重量が重く、暗室壁面への装着工事に手間がかかるといった、ハンドリング性に問題があった。
【0005】
かかる問題に対し、断面形状として波形に加工した中芯と平面状のライナを積層した段ボール構造からなる電波吸収体用シート材とそれを中空の立体とした電波吸収体が提案されている(特許文献1)。このシート材からなる電波吸収体は、コンパクトに折り畳んだ状態で輸送、保管可能であることに加え、中空であるため軽量である。しかし、高周波帯域における吸収特性の高度化要求に関しては、カーボン等含有発泡樹脂吸収体よりも高度な吸収特性を得るのは困難であった。
【0006】
高周波帯域の吸収特性を高度化すべく、電波吸収性薄材からなる中空の外部構造体の中に、同じく電波吸収性薄材からなる格子形状や多角錘形状の内部損失体を装着するものが提案されている(特許文献2、3)。この電波吸収体は高周波帯域における吸収性能は向上するものの、外部構造体と内部構造体が異なるパーツからなるため、組立作業が煩雑であった。また個々のパーツが長方形もしくは正方形に近い形状になるわけではないため、もとの薄材からパーツを抜取りするときに捨てる部分が多くなるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−253760号公報
【特許文献2】特開2004−335985号公報
【特許文献3】特開2006−128454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上述した従来の問題を解決し、倉庫から組み立て場所へは平面で輸送でき、現場で施工できるというハンドリング性に優れ、廃棄部分が少なく、更には高度な吸収性能、特に数GHz〜数十GHzの高周波帯域の電波に対し優れた吸収性能を有する電波吸収体用シート材及び電波吸収体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の電波吸収体用シート材は、十二角形Cの電波吸収体用シート材であって、長方形Aの四隅から、それぞれ直角三角形を切り欠いた結果生じる八角形Bが、八角形Bの内部に元の長方形Aの二組のいずれかの辺に平行な直線Fを有し、ひとつの直角三角形を切り欠いたことにより生じる二つの頂点と、直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだ二本の直線を一組としたとき、四組いずれも各々の組の二本の直線が同じ長さであり、
かつ、八角形Bは元の長方形Aの辺に由来する対向する二辺を一組とし、二組いずれも各々の組の二辺が同じ長さであり、十二角形Cが、八角形Bにおける直角三角形を切り欠いたことにより生じる四つの辺から、これらの辺を底辺とする二等辺三角形を八角形Bから切り欠くか、もしくは八角形Bに足した形状であることを特徴とする。
【0010】
また、前記電波吸収体用シート材は、十二角形Cにおいて、元の八角形Bの八つの頂点と、八角形B内部の直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだそれぞれ八本の直線がいずれも山折り線であり、かつ、八角形Bから二等辺三角形を切り欠くか、もしくは八角形Bに足すことにより生じる四つの頂点と、上記の直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだ四本の直線が谷折り線であり、かつ、直線Fが山折り線であるシート材であってもよい。
【0011】
更に、本発明の電波吸収体は、前記電波吸収体用シート材の谷折り線及び山折り線を、谷折り線に隣接する二本の山折り線同士が重なるよう四組いずれも折り曲げ、かつ直線Fも山折りで折り曲げ、内部に四枚の折り返し三角形Eを有する、底面が長方形の中空立体とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄いシート材を折り曲げて中空の立体とするため、軽量で施工性に優れる、かつ薄いシートの状態で取扱が可能であり輸送や保管を容易にできる。また、シート材の形状が長方形もしくは正方形をベースとしているため、歩留まりよくシート材を採取できることに加え、多数のパーツを組み立てて電波吸収体とする必要がないため、組立作業が容易である。更に、中空内部の折り返し三角形Eにより、高度な吸収性能、特に数GHz〜数十GHzの高周波帯域の電波に対し優れた吸収性能を有する電波吸収体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)本発明にかかる電波吸収体用シート材の一例の平面図。(b)前記(a)のシート材における長方形A及び八角形Bの形状を示す平面図。
【図2】本発明にかかる電波吸収体用シート材の一例の平面図と、前記シート材から得られる電波吸収体の斜視図。(a)は直線Fが内部長方形Dの内部にある場合、(b)は直線Fの一部が内部長方形Dの外部にある場合である。
【図3】本発明にかかる電波吸収体用シート材の一例の平面図。長方形Aのうち四隅のひとつを拡大した図。(a)は辺Soを底辺とする二等辺三角形を八角形Bから切り欠いた場合、(b)は辺Soを底辺とする二等辺三角形を八角形Bに足した場合である。
【図4】図3の前記シート材から得られる電波吸収体の一部を示す斜視図。
【図5】本発明にかかる電波吸収体の一例の斜視図。
【図6】本発明にかかる電波吸収体の一例の斜視図。(a)、(b)ともに電波吸収体内部の折り返し三角形Eの一部を示したものである。
【図7】本発明にかかる電波吸収体の一例の斜視図であり、底面が長方形の中空立体形状を保持、固定する方法の例を示したものである。
【図8】電波吸収体の電波吸収量を測定する方法の模式図。
【図9】実施例1に示した本発明の電波吸収体用シート材の平面図と、それから得られる電波吸収体の斜視図。
【図10】実施例1で電波吸収体を配置した際の俯瞰図
【図11】比較例1に示した電波吸収体用シート材の平面図と、それから得られる電波吸収体の斜視図。
【図12】実施例4に示した電波吸収体用シート材の平面図。
【図13】実施例5に示した電波吸収体用シート材の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の例を説明する。
【0015】
本発明の電波吸収体用シート材の材料としては、樹脂や繊維構造物等の基材中に導電性材料や磁性材料を含有させシート化したものが例示される。
【0016】
導電性材料としては例えば、金属粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブ粒子、カーボンマイクロコイル粒子、グラファイト粒子等の導電性粒子や、炭素繊維、ステンレス、銅、金、銀、ニッケル、アルミニウム、鉄等の金属繊維等の導電性繊維を挙げることができる。また、非導電性の粒子もしくは繊維に金属をメッキ、蒸着、溶射する等して導電性を付与したものを挙げることもできる。
【0017】
また、磁性材料としては例えば、鉄、ニッケル、クロム等の金属、パーマロイやセンダスト等の合金、ハードフェライト、ソフトフェライト等のフェライト系、カルボニル鉄等の金属化合物等の粒子やこの粒子を樹脂等に含有させ繊維化したものを挙げることができる。また、非導電性の粒子もしくは繊維にこれら磁性材料をメッキ、蒸着、溶射する等して導電性を付与したものも挙げることもできる。
【0018】
電波吸収体用シート材に用いる材料としては、低コスト化や軽量化、基材に均一に分散させやすいといった点から導電性材料を用いることが好ましい。導電性材料の中でも、導電性短繊維を用いることがより好ましい。導電性繊維はアスペクト比が大きいので、繊維同士が接触しやすく、粉体に比べて少量でも効果的に電波吸収性能を得ることができる。また、導電性繊維の中でも、炭素繊維は、繊維自体が剛着であり基材内に配向させやすいこと、長期間の使用においてほとんど性能の変化がないことから、更に好ましい。
【0019】
これら導電性材料や磁性材料を含有させる基材としては、樹脂膜やフィルムである場合には、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴムや、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の非ジエン系ゴム等のゴム材料や、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリシロキサン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の樹脂材料が挙げられる。
【0020】
また、織物、編物、不織布、紙等の繊維を主体とする構造体の場合には、ガラス繊維やセラミック繊維等の無機繊維、合成繊維、綿、麻、ウール、木材パルプといった天然繊維、レーヨン等の半合成繊維が挙げられる。更に、合成繊維を形成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、およびそれらのポリエステルの酸成分にイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸等を共重合した共重合ポリエステル等のポリエステルや、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6とナイロン66とを共重合した共重合ポリアミド等のポリアミドや、ポリビニルアルコールや、芳香族ポリアミドや、ポリエーテルエーテルケトンや、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールや、ポリフェニレンサルファイドや、ポリエチレンや、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0021】
難燃性向上の観点からは、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等を用いることが好ましい。
【0022】
また、導電性材料含有層には、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機粉体を含有せしめてもよい。
【0023】
例えば水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等を添加することにより、難燃性を向上させることができる。
【0024】
本発明の電波吸収体用シート材は、折り曲げて中空立体形状の電波吸収体とするため、折り曲げ加工のやり易さの点から、フィルムや不織布、特に紙を基材とすることが好ましい。また、導電性材料や磁性材料を含有した樹脂を、導電性材料や磁性材料を含有しないフィルムや紙等にコーティングしたものや、導電性材料や磁性材料を含有した樹脂シートやフィルム、織物、編物、不織布等の繊維構造体を、導電性材料や磁性材料を含有しないフィルムや紙等に積層したものでもよい。更に、中空立体形状において良好な強度を得るため、基材を厚紙や段ボールとすることが好ましい。中でも、段ボールはシート中に空隙を有するため軽量であることに加え、立体形状とするのに十分なシート強度を有しているため、更に好ましい。一般的に段ボールは波型に加工された中芯紙と、上下面のライナー紙の三枚の紙で構成されるが、三枚の紙いずれにも導電性材料や磁性材料を含有しても良いし、三枚のうちいずれか一枚もしくは二枚だけ含有しても良い。一枚だけに導電性材料や磁性材料を含有した紙を用いる場合には、中芯紙に用いるのが好ましい。
【0025】
本発明の電波吸収体用シート材の厚さは0.2mm〜10mmの範囲にあることが好ましく、0.3〜6mmの範囲にあることが更に好ましい。厚さをこの範囲とすることにより、中空立体形状の電波吸収体としたときに良好な強度が得られるとともに、折り曲げ加工が容易にできるためである。
【0026】
また、本発明の電波吸収体用シート材の1GHzにおける複素比誘電率の実部εr’が5〜30、かつ虚部εr”が2〜25の範囲にあることが好ましく、実部εr’が6〜15、かつ虚部εr”が4〜15の範囲にあることがより好ましい。一般的に、電波暗室では、数十〜数百MHzの低周波帯域の吸収を担うフェライトタイルと、GHzの高周波帯域の吸収を担うピラミッド型やクサビ型吸収体等の立体型吸収体とが組み合わせて用いられる。立体型吸収体の複素比誘電率が高すぎると、低周波帯域の反射が大きくなりフェライトタイルでの吸収が低下し、低すぎると立体型吸収体における高周波帯域を十分に吸収できないといった傾向にある。本発明の電波吸収体用シート材の複素比誘電率を上述の範囲とすることで、低周波、高周波ともに十分な電波吸収性能を実現できるようになるため、好ましい。
【0027】
次に、本発明の電波吸収体用シート材の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1(a)は本発明の電波吸収体用シート材の一例を示したものである。図1(b)は長方形A及び八角形Bの形状を説明したものである。長方形Aを想定し、その四隅からそれぞれ直角三角形を切り欠いた結果八角形Bが生じる。図1(a)に目を移し、八角形Bはその内部に元の長方形Aの二組のいずれかの辺に平行な直線Fを有しており、長方形Aからひとつの直角三角形を切り欠いたことにより生じる二つの頂点Pn1とPn2(n=a〜d)と、直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだ二本の直線Ln1とLn2(n=a〜d)を一組としたとき、四組(La1,La2)、(Lb1,Lb2)、(Lc1,Lc2)、(Ld1,Ld2)のいずれも各々の組の二本の直線が同じ長さとなり、かつ八角形Bにおいて元の長方形Aの辺に由来する対向する二辺SrαとSrγ、及びSrβとSrδをそれぞれ一組とし、二組いずれも各々の組の二辺が同じ長さである(Srα=Srγ、Srβ=Srδ)。更に、元の長方形Aの四隅からそれぞれ直角三角形を切り欠いた結果生じる四辺Soa、Sob、Soc、Sodから、これらの辺を底辺とする二等辺三角形を八角形Bから切り欠くか、もしくは八角形Bに足した形状の十二角形Cのシート材が本発明の電波吸収体用シート材である。この電波吸収体用シート材は所定の形状とされた後、施工現場において中空立体構造の電波吸収体に組み立てられ、電波暗室等の壁面や天井面に施工される(この電波吸収体用シートを用いた電波吸収体の詳細については後述する)。この施工前の輸送、保管の際には、平面状のシート状態で取扱えるため、嵩張らず、輸送、保管コストを低減することができる。また、シート材の形状が長方形もしくは正方形をベースとしているため、歩留まりよくシート材を採取できる。更に、多数のパーツを組み立てる必要がなく、一枚のシート材を折り曲げて電波吸収体とすることが可能であるため、組立を容易にできる。
【0029】
また、十二角形Cにおいて、元の八角形Bの八つの頂点と、八角形B内部の直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とをそれぞれ結んだ八本の直線La1、La2、Lb1、Lb2、Lc1、Lc2、Ld1、Ld2をいずれも山折り線とし、八角形Bから二等辺三角形を切り欠くか、もしくは八角形Bに足すことにより生じる頂点と、上記の直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだ四本の直線Ma、Mb、Mc、Mdを谷折り線とし、かつ直線Fを山折り線として示すことにより、折り曲げて底面が長方形の中空立体形状の電波吸収体とすることが簡単になるため、好ましい。
【0030】
図2において、八角形Bの八つの頂点のうち互いに隣接しない二つの頂点を通り、長方形Aの辺に由来する対向する二辺に直交する四本の直線Kα、Kβ、Kγ、Kδで囲まれた内部長方形D(図中斜線部)の内部に、直線Fがあることが好ましい。電波吸収体用シートを用いた電波吸収体の詳細は後述するが、電波吸収体用シート材を折り曲げて底面が長方形の中空立体形状の電波吸収体する。このとき、中空立体の上辺を直線Fが形成し、この中空立体の上辺である直線Fの二つの端点(f1,f2)から中空立体の底面方向に降ろした垂線と中空立体の底面との交点をそれぞれ(h1,h2)とする。図2(a)は直線Fが内部長方形Dの内部にある場合を示したものだが、交点h1及びh2が中空立体の底面内となる。一方、図2(b)は直線Fの一部が内部長方形Dの外部にある場合を示したものだが、二つの交点h1、h2のうち、一方(ここではh1)が中空立体の底面の外側となる。電波吸収体は電波暗室の壁面や天井面に電波吸収体同士が隣接して規則正しく設置されるが、図2(a)のように交点h1及びh2がいずれも四角錘の底面内部にあれば、隣接した電波吸収体の設置を邪魔することなく取り付けることができるため、好ましい。
【0031】
また、直線Fの中点が、長方形Aの中心にあることが更に好ましい。この電波吸収体用シート材を底面が長方形の中空立体形状の電波吸収体とした場合、中空立体の上辺となる直線Fの中点と、この中点から中空立体の底面方向に降ろした垂線と中空立体の底面との交点とを結んだ直線に対し、線対称の中空立体となる。中空立体の対称性が高ければ、到来電波の偏波面に対し電波吸収体の異方性の影響を小さくすることができ、偏波面に依存しない均一な電波暗室性能を実現できる。
【0032】
また、内部長方形Dが正方形であると、中空立体形状の電波吸収体としたとき、中空立体の底面が正方形となり、電波暗室の壁面や天井面に規則正しく設置しやすくなるため好ましい。
【0033】
次に、図3は長方形Aの四隅の内の一つを示したものである。この図3において、長方形Aから直角三角形を切り欠いたことにより生じる辺のひとつをSoとし、これを挟む二つの頂点をP1とP2とし、直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点と頂点P1またはP2を結んだ直線をそれぞれL1とL2とする。また、頂点P1を含む長方形Aの辺と直交しかつ直線P1を通る直線Kαと、頂点P2を含む長方形Aの辺と直交しかつ直線P2を通る直線Kβとの交点Qと、直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだ直線をNとする。また、辺Soを底辺とする二等辺三角形を切り欠くか、もしくは足した際に生じる頂点をP3とし、この頂点P3とP1を結んだ十二角形Cの辺をSd1、頂点P3とP2を結んだ十二角形Cの辺をSd2とする。更に、直線L1と辺Sd1が形成する角をθ1、直線L2と辺Sd2が形成する角をθ2とする。このとき、十二角形Cに含まれる四箇所全ての角θ1、θ2が下式の範囲内にあることが好ましい。
【0034】
【数1】

【0035】
図4に、図3の電波吸収体用シート材を折り曲げて作った電波吸収体の例を示す。角θ1、θ2がこの範囲内であれば、底面が長方形の中空立体形状の電波吸収体とした際に、中空立体の内部にできる折り返し三角形Eの底辺部分が中空立体底面をはみ出すことなく収納できることに加え、十分な吸収性能、特に数GHz〜数十GHzの高周波帯域で優れた吸収性能を得ることができる。
【0036】
なお、本発明の電波吸収体用シート材は上述の構造を有するものであるが、発明の効果を損なわない限り、辺の一部からシート材の一部をさらに切り取ったり、辺の一部の外側に付加させた構造のものもとることができる。またシート材の一部に穴をあけることができる。さらに辺の一部または全部を波形とすることもできる。
【0037】
図5は本発明の電波吸収体の一例を示したものである。図1における本発明の電波吸収体用シート材の四本の谷折り線(Ma,Mb,Mc,Md)、及び八本の山折り線(La1,La2,Lb1,Lb2,Lc1,Lc2,Ld1,Ld2)を、谷折り線に隣接する二本の山折り線とが重なるよう四組(La1,La2)、(Lb1,Lb2)、(Lc1,Lc2)、(Ld1,Ld2)いずれも折り曲げる。また、直線Fも山折りで折り曲げ、中空内部に四枚の折り返し三角形Eを有する底面が長方形の中空立体とする。この電波吸収体は中空であるため極めて軽量である。また、折り返し三角形を有する構造により、折り返し三角形そのものによる電波吸収に加え、中空立体を形成する外殻部分との間での多重反射により電波を吸収可能とでき、高度な吸収性能、特に数GHz〜数十GHzの高周波帯域で優れた吸収性能を得ることができる。
【0038】
また、四枚の折り返し三角形Eがいずれも中空立体の底面に垂直であると、中空立体の内部でより効果的に電波を吸収できるため、好ましい。図6に、折り返し三角形Eが中空立体の底面に垂直である例を示す。図6(a)は、折り返し三角形Eが中空立体の底面に垂直であり、かつ折り返し三角形Eの底辺部分が中空立体の底面にある電波吸収体の例である。また、図6(b)は、折り返し三角形Eの底辺部分の一方が中空立体の底面から離れているが、この構造でも問題ない。
【0039】
本発明の電波吸収体用シート材を折り畳み、底面が長方形の中空立体の電波吸収体とするに際し、中空立体形状を保持、固定する方法には、どのような方法を用いてもよいが、いくつかの例を図7に示す。図7(a)のように折り返し三角形Eを形成する部分を両面テープ(図中、斜線部)で貼り合せたり、図7(b)のように四角錘の側辺部をテープ(図中、斜線部)で留めたり、図7(c)のように折り返し三角形Eを形成する部分に孔を開けておき、折り返して重なり合った孔をピンや紐等で留めたり、図7(d)のように電波吸収体の外周を囲う部位と、折り返し三角形Eを固定するスリットを持つ部位からなる部材を用いる等、様々な方法を選択できる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を説明する。尚、実施例に示す性能値は次の方法で測定した。
<電波吸収体の電波吸収量>
図8に示すように、二つのアンテナを用いて、入射アンテナから対象に電波を照射し、対象からの反射波を受信アンテナで受信し反射レベルを測定する。まず、ブランクとして縦60cm×横60cm×厚さ5mmのアルミニウム板に垂直に電波を当てたときの反射レベルをベクトルネットワークアナライザ(機種:N5230、アジレントテクノロジー社製)を用いて測定する。次に、このアルミニウム板の上に電波吸収体を置き、反射レベルを測定する。これらの測定値から次式により電波吸収体の電波吸収量を求める。
【0041】
電波吸収量(dB)=電波吸収体の反射レベル(dB)−アルミニウム板の反射レベル(dB)
<電波吸収体用シート材の複素比誘電率>
ベクトルネットワークアナライザと同軸導波管(外径39mm,内径17mm)を用いて測定する。電波吸収体用シート材試料を外径39mm×内径17mmのドーナツ型としたものを同軸導波管内にセットした状態で、S11(複素反射率)及びS21(複素透過率)パラメータを測定し、これらの値から複素比誘電率を求める。
[実施例1]
(電波吸収体用シート材)
繊維長6mmの炭素繊維、繊維長6mmのガラス繊維、平均繊維長2mmのメタ系アラミドパルプをそれぞれ0.8重量%、30重量%、69.2重量%の割合で水に混合してスラリーとし、そのスラリーを平面に流し込み、脱水、乾燥し、厚さ120μm、坪量100g/mの難燃紙Aを得た。次に、上記配合から炭素繊維を除いた配合で、水に混合してスラリーとし、上記と同様の方法で厚さ120μm、坪量100g/mの電気的損失材を含まない難燃紙Bを得た。
【0042】
続いて、前記難燃紙Aを熱プレスロールで波形に加工し、段ボール3層構造の波状中芯部とし、その両側を平面状の難燃紙Bと貼り合わせたることによって、厚さ1.3mmの段ボールシートとした。
【0043】
この段ボールシートを、図9(a)に示す十二角形Cの形状にトムソンカッターで裁断した。この裁断時に、段ボールシートに山折り線と谷折り線も入れ、電波吸収体用シート材を得た。
【0044】
この電波吸収体用シート材の、1GHzにおける複素比誘電率を測定した結果、実部εr’=11、虚部εr”=7.5であった。
(電波吸収体)
この電波吸収体用シート材を山折り線及び谷折り線に沿って折り曲げ、図7(b)のように四角錘の側辺部にクラフトテープを貼って、図9(b)に示す折り返し三角形Eを有する底面が正方形の中空立体形状の電波吸収体を得た。また、折り返し三角形Eが中空立体の底面に垂直になるようクラフトテープで固定した。
【0045】
この電波吸収体を四体用意し、縦60cm×縦60cm×厚さ5mmのアルミニウム板に装着して電波吸収量を測定した。図10に四体の電波吸収体をアルミニウム板に装着した際の俯瞰図を示したが、隣接する電波吸収体で中空立体の上辺が互いに90°傾くように配置した。またこのとき、四枚の折り返し三角形Eいずれも底面に対し垂直になるように固定した。結果を表1に示すが、500MHz〜6GHzの周波数帯域において20〜30dBの高度な電波吸収量を有していることがわかった。
[実施例2]
(電波吸収体用シート材)
難燃紙Aに混合した炭素繊維の繊維長が3mmのものを用いた以外は、実施例1と同様にして、電波吸収シート材を得た。
【0046】
この電波吸収体用シート材の、1GHzにおける複素比誘電率を測定した結果、実部εr’=6、虚部εr”=3であった。
(電波吸収体)
実施例1と同様にして電波吸収体を得た。また、実施例1と同様にして電波吸収量を測定した。結果を表1に示すが、周波数4、6GHzで15dBと若干電波吸収量が低減するものの、500MHz〜2GHzでは20dBの高度な電波吸収量を有していることがわかった。
[実施例3]
(電波吸収体用シート材)
難燃紙Aの炭素繊維とメタ系アラミドパルプの混合率を、それぞれ2重量%と68重量%とした以外は、実施例1と同様にして、電波吸収シート材を得た。
【0047】
この電波吸収体用シート材の、1GHzにおける複素比誘電率を測定した結果、実部εr’=33、虚部εr”=27であった。
(電波吸収体)
実施例1と同様にして電波吸収体を得た。また、実施例1と同様にして電波吸収量を測定した。結果を表1に示すが、周波数500MHz、2GHzで10〜15dBと電波吸収量が低減するものの、4〜6GHzでは30〜45dBの高度な電波吸収量を有していることがわかった。
[実施例4]
(電波吸収体用シート材)
段ボールシートの裁断形状を、図12に示す電波吸収シート材の十二角形Cの形状とした以外は、実施例1と同様にして、電波吸収シート材を得た。
(電波吸収体)
図12に示す電波吸収シート材を実施例1と同様にして組み立て、電波吸収体を得た。また、実施例1と同様にして電波吸収量を測定した。結果を表1に示すが、周波数500MHzで15dBと若干電波吸収量が低減するものの、2〜6GHzでは20dBの高度な電波吸収量を有していることがわかった。
[実施例5]
(電波吸収体用シート材)
段ボールシートの裁断形状を、図13に示す電波吸収シート材の十二角形Cの形状とした以外は、実施例1と同様にして、電波吸収シート材を得た。
(電波吸収体)
図13に示す電波吸収シート材を実施例1と同様にして組み立て、電波吸収体を得た。また、実施例1と同様にして電波吸収量を測定した。結果を表1に示すが、実施例1や実施例4に比較すると若干電波吸収量が低くなるものの、500MHz〜6GHzの周波数帯域において15〜25dBと十分な電波吸収量を有していることがわかった。
[比較例1]
(電波吸収体用シート材)
実施例1と同じ方法で製造した段ボールシートを、図11(a)に示す形状にトムソンカッターで裁断した。この裁断時に、段ボールシートに山折り線も入れ、電波吸収体用シート材を得た。
(電波吸収体)
この電波吸収体用シート材を山折り線に沿って、中空四角錘となるよう折り曲げ、繋がっていない中空四角錘の側辺部をクラフトテープで貼って、図11(b)に示す折り返し三角形Eを有さない底面が正方形の中空立体形状の電波吸収体を得た。
【0048】
この電波吸収体を四体用意し、縦60cm×縦60cm×厚さ5mmのアルミニウム板に装着して電波吸収量を測定した。実施例1と同様、図10に示すように、隣接する電波吸収体で中空立体の上辺が互いに90°傾くように配置した。結果を表1に示す。500MHz〜6GHzの周波数帯域において10〜20dB程度の電波吸収量であり、本発明の折り返し三角形Eを有する実施例に比べ、効果が小さいことがわかった。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、電波暗室用途に限らず、各種無線通信システムにおける電波環境改善用の電波吸収体として応用することもできる。
【符号の説明】
【0051】
A 長方形A
B 八角形B
C 十二角形C(電波吸収体用シート材)
D 内部長方形D
E 折り返し三角形E

【特許請求の範囲】
【請求項1】
十二角形Cの電波吸収体用シート材であって、
長方形Aの四隅から、それぞれ直角三角形を切り欠いた結果生じる八角形Bが、
八角形Bの内部に元の長方形Aの二組のいずれかの辺に平行な直線Fを有し、
ひとつの直角三角形を切り欠いたことにより生じる二つの頂点と、直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだ二本の直線を一組としたとき、四組いずれも各々の組の二本の直線が同じ長さであり、
かつ、八角形Bは元の長方形Aの辺に由来する対向する二辺を一組とし、二組いずれも各々の組の二辺が同じ長さであり、
十二角形Cが、八角形Bにおける直角三角形を切り欠いたことにより生じる四つの辺から、これらの辺を底辺とする二等辺三角形を八角形Bから切り欠くか、もしくは八角形Bに足した形状であることを特徴とする電波吸収体用シート材。
【請求項2】
十二角形Cにおいて、元の八角形Bの八つの頂点と、八角形B内部の直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだそれぞれ八本の直線がいずれも山折り線であり、
かつ、八角形Bから二等辺三角形を切り欠くか、もしくは八角形Bに足すことにより生じる四つの頂点と、上記の直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点とを結んだ四本の直線が谷折り線であり、
かつ、直線Fが山折り線であることを特徴とする請求項1記載の電波吸収体用シート材。
【請求項3】
直線Fが、長方形Aの四隅からそれぞれ直角三角形を切り欠いた結果生じる八角形Bの八つの頂点のうち互いに隣接しない二つの頂点を通り、長方形Aの辺に由来する対向する二辺に直交する直線四本で囲まれた内部長方形Dの内部にあることを特徴とする請求項1または2記載の電波吸収体用シート材。
【請求項4】
直線Fの中点が、長方形Aの中心にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電波吸収体用シート材。
【請求項5】
長方形Aの四隅からそれぞれ直角三角形を切り欠いた結果生じる八角形Bの八つの頂点のうち互いに隣接しない二つの頂点を通り、長方形Aの対向する二辺に直交する直線四本で形成される内部長方形Dが正方形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電波吸収体用シート材。
【請求項6】
長方形Aから直角三角形を切り欠いたことにより生じる辺のひとつをSoとし、これを挟む二つの頂点を、P1とP2とし、直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点と頂点P1またはP2とを結んだ直線をそれぞれL1とL2とし、
頂点P1を含む長方形Aの辺と直交しかつ直線P1を通る直線と、頂点P2を含む長方形Aの辺と直交しかつ直線P2を通る直線との交点Qと、直線Fの二つの端点のうち最も近接した端点を結んだ直線をNとし、
辺Soを底辺とする二等辺三角形を切り欠くか、もしくは足した際に生じる頂点をP3とし、頂点P3とP1を結んだ十二角形Cの辺と直線L1とが形成する角をθ1、頂点P3とP2を結んだ十二角形Cの辺と直線L2とが形成する角をθ2としたとき、十二角形Cに含まれる四箇所全ての角θ1、θ2が下式の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電波吸収体用シート材。
【数1】

【請求項7】
厚さが0.2〜10mmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電波吸収体用シート材。
【請求項8】
電波吸収体用シート材の1GHzにおける複素比誘電率が、実部εr’が5〜30、かつ虚部εr”が2〜25の範囲にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電波吸収体用シート材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の電波吸収体用シート材の谷折り線及び山折り線を、谷折り線に隣接する二本の山折り線同士が重なるよう四組いずれも折り曲げ、
かつ直線Fも山折りで折り曲げ、
内部に四枚の折り返し三角形Eを有する、
底面が長方形の中空立体とすることを特徴とする電波吸収体。
【請求項10】
四枚の折り返し三角形Eがいずれも中空の立体の底面に垂直であることを特徴とする請求項9記載の電波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−191182(P2012−191182A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−33624(P2012−33624)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】