説明

電波吸収体用磁性粉体および電波吸収体

【課題】1GHz以上の高周波帯域における優れた電波吸収性能を、従来より薄いシート厚で実現でき、かつ高分子基材との混練トルクを低減することができる電波吸収体用磁性粉体を提供する。
【解決手段】BaxyFez22、ただし1.5≦x≦2.2、1.2≦y≦2.5、11≦z≦13、を満たす組成の六方晶フェライトの粉体であって、レーザー回折式粒度分布測定装置によって求まる粒度分布において、粒子径1.0μm以下の粒子の体積割合が10%以下、かつ粒子径10.2μm以上の粒子の体積割合が12%以下である電波吸収体用磁性粉体。Mは例えばZn、Coなどである。このような粒度分布の粉体は、原料にBaCl2等の金属塩化物を配合することにより、一般的なフェライトの製造工程を利用して製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1GHz以上の高周波帯域で使用する電波吸収体に適したY型六方晶フェライトの粉体、およびその粉体を使用した電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術の高度化に伴い、GHz帯域の電波が種々の用途で使用されるようになってきた。例えば、携帯電話、無線LAN、衛星放送、高度道路交通システム、ノンストップ自動料金徴収システム(ETC)、自動車走行支援システム(AHS)などが挙げられる。このように高周波域での電波利用形態が多様化すると、電子部品同士の干渉による故障、誤動作、機能不全などが懸念され、その対策が重要となってくる。その1つとして、電波吸収体を用いて不要な電波を吸収し、電波の反射および侵入を防ぐ方法が有効である。昨今、GHz帯域用の電波吸収体は需要が増大しつつある。
【0003】
従来、高周波帯域用の電波吸収体には、主としてフェライト等の酸化物系磁性材料が多く用いられている。フェライトの中でも、MHz帯域では主としてスピネル系のものが使用されるが、1GHz以上の高周波帯域において優れた特性を発揮するものとして六方晶フェライトが有望視されている。その1つとしてY型六方晶フェライトがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−2656号公報
【特許文献2】特開2003−243218号公報
【特許文献3】特開2004−262682号公報
【特許文献4】特開2004−262683号公報
【特許文献5】特開平09−124322号公報
【特許文献6】特開2002−068830号公報
【特許文献7】特開昭58−041727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スピネル型フェライトでは、Snoekの限界を破ることができないため、1GHzを超える高周波帯域での使用が難しい。これに対し、Y型六方晶フェライトは1GHz以上での電波吸収特性が期待される。しかし、従来のY型六方晶フェライトの粉体において、1GHzを超える領域で十分に高い複素透磁率の虚数部μ''を有する電波吸収体を得ることは必ずしも容易ではない。例えば特許文献3、4にはCuを含有するY型六方晶フェライトが記載されているが、800MHzでの透磁率が測定されているものの、1GHzを超える領域での特性評価はなされていない。
【0006】
特許文献1、2には1GHz、あるいはそれ以上の高周波領域に共鳴周波数をもつ六方晶フェライトと二酸化ケイ素等との複合体からなる焼結体が記載されている。このうち、特許文献2には2.2GHz以上の領域に共鳴周波数を有するものが例示されている。しかし、特許文献2に開示されているものは、6GHz前後にまで周波数が高くなると複素透磁率の虚数部μ''の値は1.0以下となり、電波吸収体の薄肉化を図るためには更なる特性向上が望まれる。
【0007】
本発明は、3〜6GHzの周波数領域で複素透磁率の虚数部μ''がコンスタントに1.5以上となり、このような周波数帯域での電波吸収体の薄肉化に極めて有利な六方晶フェライト粉体を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは詳細な研究の結果、Y型六方晶フェライトの場合、個々の粒子の焼結や凝集ができるだけ抑制され、1次粒子に近い粒子の割合が多い粉体を得ることによって、複素透磁率の虚数部μ''を向上させることができ、それによって、例えば減衰量20dBといった、一定の減衰量を実現するために必要な電波吸収体シート肉厚を薄肉側へ大きくシフトさせることが可能になることを見出した。そのような粉体は、フラックス成分である金属塩化物を原料中に配合することにより製造できる。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち本発明では、BaxyFez22、ただし1.5≦x≦2.2、1.2≦y≦2.5、11≦z≦13、を満たす組成の六方晶フェライトの粉体であって、レーザー回折式粒度分布測定装置によって求まる粒度分布において、粒子径1.0μm以下の粒子の体積割合が10%以下、かつ粒子径10.2μm以上の粒子の体積割合が12%以下である電波吸収体用磁性粉体が提供される。
【0010】
ここで、Mは2価の金属元素(Feを除く)の1種以上、または1価の金属元素と3価の金属元素(Feである場合を含む)の組み合わせからなる。x、y、zの値は、Ba22Fe1122で表される典型的なY型六方晶フェライトの組成から多少変動してもよく、具体的には上記の範囲で許容される。ただし、当該粉体はY型六方晶フェライトの結晶構造に特有のX線回折ピークを有するものである。この明細書では本発明で対象とする六方晶フェライトの粉体を「Y型六方晶フェライトを主体とする粉体」ということがある。これは、Y型六方晶フェライト以外の構造の不純物結晶が混在する場合を許容する趣旨である。
【0011】
前記Mが2価の金属元素(Feを除く)の1種以上からなる場合として、例えばMがZnおよびCoの1種以上からなるものが挙げられる。また、前記Mが1価の金属元素と3価の金属元素(Feである場合を含む)の組み合わせからなる場合として、1価の金属元素がLi、3価の金属元素がFeであり、そのLiとFeのモル比が概ねLi:Fe=1:1である場合が挙げられる。
【0012】
このような粉体の製造法として、成分調整された原料の混合・造粒物を焼成してY型六方晶フェライトを生成させ、その焼成体を粉砕して粉体を得るに際し、原料に金属塩化物を配合することを特徴とする製造法が提供される。特に前記金属塩化物としてはBaCl2が挙げられ、当該BaCl2を除く配合原料100質量部に対し、BaCl2の配合量を1〜10質量部とすることができる。「成分調整された原料」とは、上記組成式のY型六方晶フェライトが合成されるように原料物質を配合して、Ba、M、およびFeのモル比が調整されているものを意味する。BaxyFez22におけるBaxの部分に相当するBaの配合量は、フラックス成分としてBaCl2を使用する場合、BaCl2を除くBa原料(BaCO3等)によって調整される。
【0013】
また、本発明では、上記粉体の粒子の充填構造を有する電波吸収体が提供される。ここでいう「充填構造」は、粒子同士が接しているかまたは近接している状態で、各粒子が立体構造を構成しているものを意味し、最密充填を意味する用語ではない。この粒子の充填構造を維持するためには、個々の粒子が非磁性高分子化合物をバインダーとして固着された充填構造を形成させることが有利である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、1GHz以上の高周波領域、特に3〜6GHzの領域において、複素透磁率の虚数部μ''を従来より向上させることができ、従来の製法で得られた同じ組成のY型六方晶フェライトと比較すると、より薄い肉厚の電波吸収体において、同等以上の電波吸収性能を得ることができる。すなわち、電波吸収体シートの薄肉化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例および比較例で得られた六方晶フェライトについてレーザー回折式粒度分布測定装置により測定したfocal length=20mmでの粒度分布曲線を示すグラフ。
【図2】実施例および比較例で得られた六方晶フェライトについてレーザー回折式粒度分布測定装置により測定したfocal length=100mmでの粒度分布曲線を示すグラフ。
【図3】実施例1で得られた六方晶フェライト粉体を使用した電波吸収体について複素透磁率μ'およびμ''の測定結果の一例を示すグラフ。
【図4】実施例2で得られた六方晶フェライト粉体を使用した電波吸収体について複素透磁率μ'およびμ''の測定結果の一例を示すグラフ。
【図5】実施例3で得られた六方晶フェライト粉体を使用した電波吸収体について複素透磁率μ'およびμ''の測定結果の一例を示すグラフ。
【図6】実施例4で得られた六方晶フェライト粉体を使用した電波吸収体について複素透磁率μ'およびμ''の測定結果の一例を示すグラフ。
【図7】実施例5で得られた六方晶フェライト粉体を使用した電波吸収体について複素透磁率μ'およびμ''の測定結果の一例を示すグラフ。
【図8】比較例1で得られた六方晶フェライト粉体を使用した電波吸収体について複素透磁率μ'およびμ''の測定結果の一例を示すグラフ。
【図9】比較例2で得られた六方晶フェライト粉体を使用した電波吸収体について複素透磁率μ'およびμ''の測定結果の一例を示すグラフ。
【図10】実施例1、2および比較例1の六方晶フェライト粉体をそれぞれ使用した電波吸収体について、5.8GHzにおける減衰量に及ぼすシート厚の影響をシミュレートしたグラフ。
【図11】実施例3および4の六方晶フェライト粉体をそれぞれ使用した電波吸収体について、3.1GHzにおける減衰量に及ぼすシート厚の影響をシミュレートしたグラフ。
【図12】実施例1で得られた六方晶フェライト粉体についてのX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔組成〕
本発明では、BaxyFez22、ただし1.5≦x≦2.2、1.2≦y≦2.5、11≦z≦13、を満たす組成の六方晶フェライトを採用する。この組成の六方晶フェライトはY型六方晶フェライトの結晶構造を表すX線回折ピークを有する。六方晶フェライトの組成に関しては、従来知られている組成が採用できる。Mは上述のとおり2価の金属元素(Feを除く)の1種以上、または1価の金属元素と3価の金属元素(Feである場合を含む)の組み合わせからなる。例えばMがZnまたはCoの1種以上からなるものが好適に採用できる。
【0017】
〔粒度分布〕
本発明の六方晶フェライト粉体は、個々の粒子の焼結や凝集ができるだけ抑制され、1次粒子に近い粒子の割合が多い粉体である。この粉体は、粒度分布において、以下のような特徴を有する。すなわち、レーザー回折式粒度分布測定装置によって求まる粒度分布において、粒子径1.0μm以下の粒子の体積割合が10%以下、好ましくは8%以下、かつ粒子径10.2μm以上の粒子の体積割合が12%以下、好ましくは10.5%以下、さらに好ましくは8%以下である粒度分布を有する。同じ組成の六方晶フェライトの粉体であっても、このように整粒化された粉体では、1〜10GHz帯のうち例えば3〜6GHzといった一定範囲で複素透磁率の虚数部μ''が安定して向上する、という性質を有する。そのような性質が付与されるメカニズムについては現時点では十分解明されていない。なお、レーザー回折式粒度分布測定装置による平均粒径D50は1.0〜6.0μmの範囲が好ましく、2.0〜4.0μmが一層好ましい。
【0018】
以上の粒度分布は、focal length=20mmとしたレーザー回折式粒度分布測定装置で測定されるが、粒子径の大きい粒子(凝集や焼結が生じた粒子)について厳しく制限するためには、focal length=100mmとした測定を併用することが有効である。この場合、focal length=100mmとした粒度分布において、粒子径10.5μm以上の粒子の体積割合が25%以下、好ましくは20%以下に制限され、さらにfocal length=100mmとした場合の粒子径の幾何標準偏差が5以下、好ましくは3以下に制限されるものが特に好適な対象となる。
【0019】
〔粉体特性〕
上記のような粒度分布を有する本発明の粉体は、BET比表面積(SSA)が比較的大きく、例えば0.98m2/g以上である。また、圧縮密度(CD)は比較的小さく、例えば3.2g/cm3以下である。
【0020】
〔製造法〕
本発明の六方晶フェライトからなる粉体は、従来一般的なフェライトの製造法に準じて行うことができる。すなわち、Ba、M、Feが所定の割合で含まれるように金属酸化物や金属塩(例えば炭酸塩)などの原料を配合し、混合、造粒したのち、これを焼成することにより前記組成の六方晶フェライトを合成することができる。焼成温度は概ね1100〜1300℃、焼成雰囲気は大気、焼成時間は1〜4h程度とすればよい。
【0021】
ただし、その原料として、金属塩化物を配合することが極めて有効である。発明者らの研究によれば、Z型の六方晶フェライトを合成する場合は、金属塩化物は、焼成過程において六方晶構造の結晶が成長する際、六方晶のa軸およびb軸方向の粒成長が活発化する作用を呈するものと考えられた。しかし、ここで対象とするY型六方晶フェライトを合成する場合、金属塩化物は、焼成過程で生成する1次粒子同士の凝集や焼結を防止する作用を呈すると考えられる。すなわち、金属塩化物は焼成段階で従来より粒径が小さめに揃った粉体の形成に寄与する。
【0022】
金属塩化物としては例えばBaCl2、SrCl2を挙げることができる。これらは単独で配合することもできるし、複合で配合することもできる。金属塩化物としてBaCl2を単独で配合する場合、その配合量は、当該BaCl2を除く配合原料全体に対する質量比で概ね1〜10質量%の範囲で調整することが好ましい。3質量%以下でも効果がある。なお、BaxyFez22で表される六方晶フェライトを構成するBaは、このBaCl2以外の主原料で賄うように秤量すればよい。添加剤であるBaCl2は、焼成により生成した六方晶フェライトの表面に被着するか、あるいは結晶粒界に存在と考えられ、これが、焼成過程での1次粒子の凝集、あるいは焼結防止に寄与するものと推察される。
【0023】
焼成後には、通常の方法で粉砕を行うことにより粒度調整することができる。例えばハンマーミルによる粗粉砕のみで最終的な粒度調整を終えることができるが、さらにアトライター、遊星ボールミル等の粉砕機を用いて湿式粉砕することもできる。
【0024】
〔電波吸収体〕
得られたY型六方晶フェライトを主体とする粉体の粒子の充填構造を形成させることによって、電波吸収体が構築される。ただし、これを実用に供するには、前記の充填構造が維持されるようにする必要がある。具体的には、高分子基材とともに混練することにより電波吸収体素材(混練物)が得られる。混練物中におけるY型六方晶フェライトを主体とする粉体の配合量は60質量%以上とすることが好ましい。ただし95質量%を超えると高分子基材との混練が難しくなる。Y型六方晶フェライトを主体とする粉体の混合割合は80〜95質量%とすることがより好ましく、85〜95質量%が一層好ましい。
【0025】
高分子基材としては、使用環境に応じて、耐熱性、難燃性、耐久性、機械的強度、電気的特性を満足する各種のものが使用できる。例えば、樹脂(ナイロン等)、ゲル(シリコーンゲル等)、熱可塑性エラストマー、ゴムなどから適切なものを選択すれば良い。また2種以上の高分子化合物をブレンドして基材としてもよい。
【0026】
高分子基材との相溶性や分散性を改善するために、Y型六方晶フェライトを主体とする粉体には予め表面処理剤(シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等)による表面処理を施すことができる。また、Y型六方晶フェライトを主体とする粉体と高分子基材との混合に際し、可塑剤、補強剤、耐熱向上剤、熱伝導性充填剤、粘着剤などの各種添加剤を添加することができる。
【0027】
上記電波吸収体素材(混練物)を圧延により所定のシート厚に成形することで電波吸収体が得られる。また、圧延の代わりに混練物を射出成形することにより所望の電波吸収体形状に成形することもできる。あるいは、Y型六方晶フェライトを主体とする粉体を直接塗料中に分散させて、基体表面に塗布することにより、塗膜としての電波吸収体を形成することもできる。
【実施例】
【0028】
実施例1〜4および比較例1、2については下記の工程Aにより、また実施例5については下記の工程Bにより、六方晶フェライトの磁性粉末を製造した。
[工程A];秤量→混合→造粒→乾燥→焼成→粗粉砕(ハンマーミル)
[工程B];秤量→混合→造粒→乾燥→焼成→粗粉砕(ハンマーミル)→湿式粉砕
【0029】
原料としてBaCO3、Co34、ZnO、α−Fe23と、フラックス機能を有するBaCl2を用い、BaCl2を除く上記原料を表1に示す組成(例えば実施例1ではモル比で、Ba:Co:Zn:Fe=2:1:1:12)に対応する量比で秤量した。BaCl2の配合量(原料全体に占める質量割合)は表1に示すとおりとした(比較例1、2はBaCl2無添加)。秤量された原料粉を用いて上記の工程AまたはBにより粉体を作製した。具体的には、原料粉をハイスピードミキサーで混合したのち、更に振動ミルにより乾式法で混合強化する方法で混合した。得られた混合粉をペレット状に造粒成形し、この成形体をローラーハース型電気炉に装入し、大気中で表1に示す焼成温度で2h保持することにより焼成した。得られた焼成品をハンマーミルで粗粉砕して、実施例1〜4および比較例1、2の試料である磁性粉体を得た。また、さらにアトライター(溶媒:水)で5min湿式粉砕することにより実施例5の試料である磁性粉体を得た。
【0030】
X線回折の結果、各例の磁性粉体はY型六方晶フェライトであることが確認された。図12に実施例1のY型六方晶フェライトについてのX線回折パターンを例示する。ここで、X線回折の測定条件は、管球:コバルト管球、管電圧:40kV、管電流:30mAとした。
【0031】
この磁性粉体について、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製、HELOS & RODOS)を用いて、focal length=20mmで粒度分布を測定した。その粒度分布曲線を図1に示す。また、focal length=100mmでも粒度分布を測定した。その粒度分布曲線を図2に示す。これらの粒度分布におけるいくつかのパラメータを表1に示す。
【0032】
粉体特性として、BET法による比表面積(SSA)および粉体の圧縮密度(CD)を測定した。これらを表1に示す。
【0033】
この磁性粉体(Y型六方晶フェライトで構成される粉体)の含有量が表2に示す割合(例えば実施例1では90質量%)となるように、当該粉体と高分子基材を合計10分間混練して電波吸収体素材(混練物)を作製した。高分子基材としては合成ゴム(JSR(日本合成ゴム)製、N215SL)を使用した。この電波吸収体素材を圧延ロールにより厚さ2.0mmに圧延し、電波吸収体シートを得た。
このシートを後述の電波吸収特性の測定に供した。
【0034】
【表1】

【0035】
〔粒度分布について〕
表1に示されるように、原料中に金属塩化物を添加した実施例1〜4では、それを添加しなかった比較例1、2と比べ、特にfocal length=20mmにおける粒子径10.2μm以上の粒子の割合、およびfocal length=100mmにおける粒子径10.5μm以上の粒子の割合が顕著に低減され、粒径がより揃った粉体が得られた。これは図1、2の粒度分布曲線からわかるように、粒子の凝集あるいは焼結が進んだと見られる大きな粒子の存在割合が低減したことを意味する。金属塩化物(BaCl2)の添加によって粒子の凝集あるいは焼結が顕著に防止されたものと考えられる。
【0036】
〔電波吸収特性の評価〕
得られた電波吸収体シートについてSパラメータ法により電波吸収特性を調べた。シートから切り出した小片を外径7mm、内径3mmの円筒状測定ピースに成形し、これをφ7mm×φ3.04mmの同軸管に挿入し、同軸管の端をショートホルダーで短絡し、ネットワークアナライザー(ヒュレットパッカード社製、HP8720D)を用いて1〜20GHzにおける反射・透過係数(Sパラメータ)を測定した。
【0037】
図3〜9に、各実施例、比較例のシートについて測定した複素透磁率の実数部μ'と虚数部μ''の周波数依存性を示す。これらの曲線から求めたμ''の最大値を表2に示す。同じ組成の例を対比すると、実施例のものは、比較例のものよりμ''の極大値が大きく向上している(実施例1と比較例1の対比、および実施例4と比較例2の対比)。
【0038】
μ''が極大となる付近の周波数(実施例1、2、5、比較例1では5.8GHz、実施例3、4、比較例2では3.1GHz)について、上記のSパラメータを基に、電波吸収体シートのシート厚(mm)と電波の減衰量(dB)の関係をシミュレートした。その結果を図10、11に示す。縦軸の減衰量は、上記測定で得られた反射量(S11)を用い、試料をホルダーに装入した場合の反射量から、試料を装入しない場合の反射量を引いた値(反射減衰量)である。このシミュレート結果から、評価減衰量として20dBの減衰をもたらすために必要なシート厚を求めた。結果を表2に示す。なお、比較例2については、20dBの減衰性能が得られなかったので、表2には参考のため評価減衰量を15dBとした場合のシート厚を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
同じ測定周波数で対比した場合、本発明で規定する粒度分布を満たす実施例のものは、本発明の粒度分布を外れる比較例のものより、20dBの減衰量を得るためのシート厚さが薄くて済むことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaxyFez22、ただし1.5≦x≦2.2、1.2≦y≦2.5、11≦z≦13、を満たす組成の六方晶フェライトの粉体であって、レーザー回折式粒度分布測定装置によって求まる粒度分布において、粒子径1.0μm以下の粒子の体積割合が10%以下、かつ粒子径10.2μm以上の粒子の体積割合が12%以下である電波吸収体用磁性粉体。
ここで、Mは2価の金属元素(Feを除く)の1種以上、または1価の金属元素と3価の金属元素(Feである場合を含む)の組み合わせからなる。
【請求項2】
前記MがZnおよびCoの1種以上からなる請求項1に記載の電波吸収体用磁性粉体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粉体の粒子の充填構造を有する電波吸収体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の粉体の粒子が非磁性高分子化合物をバインダーとして固着されることにより、当該粒子の充填構造を形成している電波吸収体。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−216865(P2012−216865A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−142728(P2012−142728)
【出願日】平成24年6月26日(2012.6.26)
【分割の表示】特願2006−239902(P2006−239902)の分割
【原出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(595156333)DOWAエフテック株式会社 (17)
【Fターム(参考)】