説明

電波吸収体用組成物、電波吸収体及び電波吸収体の製造方法

【課題】軽量化及び薄型化が可能であって、1GHz付近及びそれ以上であるGHz帯の電波を吸収するのに好適な電波吸収体を得ることができる電波吸収体用組成物、この組成物を成形してなる電波吸収体、及び電波吸収体の製造方法を提供する。
【解決手段】エチレンプロピレンゴム100質量部に対し、表面に酸化膜を有したアルミニウム粉末100〜500質量部と、カーボンブラック50〜200質量部とを含み、上記アルミニウム粉末の平均粒径D50が10〜35μmの範囲である電波吸収体用組成物であり、また、この電波吸収体用組成物をシート状に成形して電波吸収体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電波吸収体用組成物、電波吸収体及び電波吸収体の製造方法に関する。特に、携帯電話、無線LAN、ETC(自動料金支払いシステム)、ITS(高度道路システム:Intelligent Transport Systems)、DSRC(専用狭域通信:Dedicated Short Range Communication)等で使用されるような高周波領域の不要電波を吸収するのに好適な電波吸収体を得ることができる。
【背景技術】
【0002】
コンピューターや携帯電話をはじめ、各種電子・電気機器においてデジタル回路が高密度で実装されるようになるのに伴い、これらの機器から発生する不要な電波が他の機器の誤動作等を引き起こすことが問題になっている。最近では、携帯電話(800/900MHz又は1.5GHz)、無線LAN(2.4GHz、5.2〜5.8GHz)、ETC(5.8GHz)、DSRC(5.8GHz)、船舶用レーダーシステム(9.7〜9.8GHz)等のGHz帯の電波の利用も進み、これらの不要電波についても同様の問題が生じている。特に、ITSを使った道路交通システムの開発により、今後ますますETC等の利用の増加が見込まれることから、上記のようなGHz帯の不要電波を吸収する電波吸収体が求められている。
【0003】
そこで、例えば、樹脂結合材に所定のアスペクト比の偏平状軟磁性体粉末とフェライト粉末とを配合することにより、1GHzを超える周波数における複素比誘電率の実数部及び虚数部を大きくしてこのような高い周波数領域の電波を吸収する電波吸収体(特許文献1参照)をはじめ、高飽和磁性材料で表面をコーティングした磁性体粒子を樹脂材料等に混合することにより、数GHz以上の周波数において高い透磁率特性を備える電波吸収体(特許文献2参照)や、樹脂材料に混合するフェライトのFeの一部を金属で置換してマグネトプランバイト型六方晶フェライトとすることで、GHz帯の周波数帯域の一定の範囲においてインピーダンス整合をとり、その吸収性能を向上させた電波吸収体(特許文献3参照)等が提案されている。また、ETC等で使用される5.8GHz付近の電波を吸収する電波吸収体として、樹脂バインダー100質量部に対して偏平磁性金属粉末を40〜100質量部配合してなる電波吸収体(特許文献4参照)等も提案されている。
【0004】
ところで、これらの電波吸収体では、構造物による電波の反射を防ぐために、構造物に直接取り付けたり、構造物の一部を電波吸収体から形成したりするなどの必要があることから、電波吸収体の軽量化や薄型化が共通の課題である。ところが、上記のような電波吸収体では、主にフェライト等の磁性体粉末を使用しているため、電波吸収体自体の密度が4.0〜9.0g/cm3程度とかなりの重量になってしまう。そのため、電波吸収体の設置場所が制限されたり、取り付けの際の施工性が悪くなる等の問題が生じている。また、不要電波を広い範囲で吸収しようとすると取り付け容積が大きくなることから、コストがかかり過ぎてしまうといった問題もある。
【特許文献1】特開2002−15905号公報
【特許文献2】特開2001−60791号公報
【特許文献3】特開平11−354972号公報
【特許文献4】特開2006−245166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者等は、電波吸収体の軽量化及び薄型化について鋭意検討した結果、エチレンプロピレンゴムに所定のアルミニウム粉末を混ぜた電波吸収体用組成物によれば、これらの課題を解決でき、また、得られた電波吸収体がGHz帯の不要電波を吸収するのに好適であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
従って、本発明の目的は、軽量化及び薄型化が可能であって、1GHz付近及びそれ以上の高周波であるGHz帯の電波を吸収するのに好適な電波吸収体を得ることができる電波吸収体用組成物を提供することにある。
【0007】
また、本発明の別の目的は、軽量化及び薄型化が達成できて、1GHz付近及びそれ以上の高周波であるGHz帯の電波を吸収するのに好適な電波吸収体を提供することにある。
【0008】
更に、本発明の別の目的は、電波吸収特性の異方性を解消し、安定した電波吸収性能を発現できる電波吸収体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、エチレンプロピレンゴム100質量部に対し、表面に酸化膜を有したアルミニウム粉末100〜500質量部と、カーボンブラック50〜200質量部とを含み、上記アルミニウム粉末の平均粒径D50が10〜35μmの範囲であることを特徴とする電波吸収体用組成物である。
【0010】
また、本発明は、上記電波吸収体用組成物をシート状に成形したことを特徴とする電波吸収体である。
【0011】
更に、本発明は、上記電波吸収体用組成物を混合し、混練して得たゴム生地を所定の形状のペレットに加工し、金型内に充填して、加硫処理しながら加圧することを特徴とする電波吸収体の製造方法である。
【0012】
本発明において、電波吸収体用組成物は、エチレンプロピレンゴム100質量部に対し、表面に酸化膜を有したアルミニウム粉末を100〜500質量部、好ましくは150〜300質量部含む。十分には解明されていないが、本発明の電波吸収体用組成物を成形して得た電波吸収体では、アルミニウム粉末の表面の酸化膜(誘電体)が不要な電波を吸収する役割をするものと推察される。そのため、アルミニウム粉末の含有量が100質量部より少ないと十分な電波吸収性能が得られないおそれがある。反対に500質量部を超えるとシート状に成形するのが困難になる。また、アルミニウム粉末の含有量が150〜300質量部であれば、優れた電波吸収特性を備えることができると共により軽量化に資する電波吸収体用組成物とすることができる。なお、本明細書中では「酸化膜を有したアルミニウム粉末」を単に「アルミニウム粉末」という場合がある。
【0013】
アルミニウム粉末の表面に存在する酸化膜については、例えば、粉末状のアルミニウムが大気中で酸化されることにより形成された酸化膜(自然酸化膜)であってもよい。大気中での酸化によって形成された酸化膜については、アルミニウム粉末の表面を覆うように1nm程度のAl23からなる緻密な障壁層(barrier層)と、更にその外側に多数の孔が存在して構造式Al23・3H2Oで表されるような加水された非晶質の無定形酸化アルミニウムからなる多孔層とからなり、酸化膜は全体で厚さ2〜10nm程度になる。
【0014】
また、表面に酸化膜を有したアルミニウム粉末は、平均粒径D50が10〜35μmの範囲であるようにする。このような平均粒径のものを使用することで、優れた電波吸収特性を備えた電波吸収体を得ることができる。平均粒径D50が10μm未満であると電波吸収体用組成物における他の成分との混合が困難で分散が不均一になり、また、場合によっては混合の際に粉塵爆発を起こす危険性も生じてくる。反対に平均粒径D50が35μmを超えると単位面積当たりの比表面積が低下して十分な電波吸収特性を得ることができないおそれがある。なお、平均粒径D50は、粒度分布計により粒度分布を求めた場合に粒径の小さい方から体積を累計して50%になるときの粒径である。
【0015】
また、表面に酸化膜を有したアルミニウム粉末について、酸化膜が形成される前の原料になるアルミニウムは特に制限はなく、例えばFe、Si、Cu、Mn、Cr、Ni等の遷移元素を合計で5質量%程度含有するいわゆるアルミニウム合金や、Na、Sr、Ca等のアルカリ金属やアルカリ土類金属を含有するアルミニウム鋳物合金からなるものであってもよく、或いは、純度99.3質量%以上であって残部が実質的に不可避的不純物であるアルミニウムや、純度が99.9質量%以上の高純度アルミニウムからなるものであってもよいが、より純度が高いアルミニウムを用いれば、表面に形成される酸化膜がより緻密なものになる点で望ましい。そして、原料になる粉末状のアルミニウムの製造方法についても特に制限はないが、好ましくは、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶湯を大気などの酸素のある雰囲気中でアトマイズ噴霧法等により噴霧し、不定形な形状のアルミニウム粉末を製造するのがよい。アルミニウム又はアルミニウム合金が溶湯から急速に冷却されて凝固するため、原料に含まれる遷移元素や不可避的不純物等が過飽和に固溶し、表面に存在する晶出物の数が少なくなって、より緻密な酸化膜が形成され易くなる。
【0016】
酸化膜が形成される前の粉末状のアルミニウムについては、比表面積を多くするために、例えば平板状、ブロック状、不定形球状等のような形状が不定形であるものを用いるのがよい。すなわち、アルミニウムの形状を単なる球状ではなく不定形にすることで、表面に形成される酸化膜の量を多くすることができ、誘電損失による電波吸収性能をより向上させることができる。
【0017】
また、本発明における電波吸収体用組成物は、エチレンプロピレンゴム100質量部に対し、カーボンブラック50〜200質量部、好ましくは60〜100質量部含む。カーボンブラックの含有量が50質量部より少ないと、後述するように、誘電損失が低下して電波吸収性能が低下してしまう。反対に200質量部より多くなると成形性が低下し、特にシート状の電波吸収体を製造するのが困難になる。カーボンブラックの含有量が60〜100質量部であれば、優れた電波吸収特性を備えることができると共により軽量化に資する電波吸収体用組成物とすることができる。
【0018】
カーボンブラックは、通常、高温の炉内にて原料油が熱分解され、10万〜10億個の炭素原子からなるほぼ球状の単位粒子となり、これらが互いに融合して凝集体となる。ゴム用のカーボンブラックの平均粒径は10〜350nm程度の範囲にあり、平均粒径が小さいほど電波吸収体の導電性が高くなる傾向にある。本発明の電波吸収体用組成物に使用されるカーボンブラックとしては、平均粒径が比較的小さい範囲、例えば平均粒径10〜60nmが好ましいと考えられる。また、本発明の電波吸収体用組成物においては、カーボンブラックはエチレンプロピレンゴムと共にゴム系のマトリックスを形成するものと考えられ、得られた電波吸収体に硬度や強度を付与せしめることができる。一方で、カーボンブラックが混合分散されることにより、誘電損失による電波吸収にも寄与するものと推察される。すなわち、微細なカーボンブラックがエチレンプロピレンゴムのような無損失の誘電体の中に分散してなるゴム系マトリックスを電気的に等価な回路と見なすと、カーボンブラックの粒子自体の持つ抵抗とカーボンブラックの粒子間のコンデンサー(静電容量)とが複雑に結合した状態になる。そのため、周波数の比較的高い電波が照射するとインピーダンス(1/ωC)が低くなり、抵抗にも電流が流れて熱が発生して、このようなメカニズムによれば誘電性吸収材料となるとも考えられる。
【0019】
一方、電波吸収体用組成物に含まれるエチレンプロピレンゴムは、ゴム系マトリックスを形成するものであり、得られた電波吸収体に優れた耐候性や耐久性を付与せしめることができる。また、エチレンプロピレンゴムは比重が0.85〜0.87であって比較的軽く、後述するように得られる電波吸収体の軽量化を可能にする。エチレンプロピレンゴムには、EPM(Ethylene propylene monomers (copolymer))とEPDM(Ethylene propylene diene monomers (terpolymer))の2種類があり、EPDMには第三成分として、ジエン系モノマーが添加されており二重結合が存在する。このため、EPMは架橋が比較的難しいが、EPDMは架橋が容易で、過酸化物架橋は勿論のこと硫黄加硫も可能である。本明細書中において、エチレンプロピレンゴムとは、何ら限定のない場合にはEPMとEPDMの両方を含むものとする。
【0020】
また、本発明の電波吸収体用組成物には、エチレンプロピレンゴムやカーボンブラック以外にゴム系マトリックスを形成する成分として、通常使用されるものを添加してもよい。すなわち、各成分の分散を促進させたり、ゴム系マトリックス同士の結合及びゴム系マトリックスとアルミニウム粉末との結合をそれぞれ促進させて機械的特性に優れた電波吸収体を得たりする目的で添加されるカップリング剤や、ゴム分子間に強固な結合を形成し、広い温度範囲に亘って安定した物性を得る目的で添加される加硫剤のほか、例えば、MBI等の老化防止剤、脂肪酸エステル、パラフィンワックス等の加工助剤、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の充填剤、アロマ系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、合成可塑剤等の軟化剤、アンチモン系、ジルコニウム系、ホスフェート系、塩素系等の難燃剤、パラフィンオイル等の可塑剤をはじめ、公知の成分を含有させることができる。なお、エチレンプロピレンゴム、カーボンブラック及びアルミニウム粉末以外に電波吸収体用組成物に含まれる成分について、本発明ではこれらをまとめてその他の添加剤と呼ぶ場合がある。
【0021】
このうち、カップリング剤については公知のものを使用することができるが、電波吸収体用組成物における各成分の分散・結合の観点から、好ましくは、一般にX〜Si(OR)3の化学式で表されるシラン系カップリング剤、同様にX〜Ti(OR)4の化学式で表されるチタネート系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤であるのがよい。これらのカップリング剤は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。ここで、上記Xはアミノ基、ビニル基、エポキシ基等の有機官能基を示し、ORはメトキシ基、エトキシ基等の加水分解基を示す。また、加硫剤としては、例えば硫黄、チアゾール(具体的にはCMBT等)、チウラム(具体的にはTMTD等)、ジチオカルバミン酸塩(具体的にはZnBDC等)、ペルオキシド(具体的にはDCP等)等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いてもよい。
【0022】
また、その他の添加剤の含有量については、エチレンプロピレンゴム100質量部に対し、好ましくは合計で100〜400質量部、より好ましくは200〜250質量部であるのがよい。その他の添加剤の含有量がエチレンプロピレンゴム100質量部に対して100質量部より少ないと、これらの添加剤を加える目的を十分に達成できず、反対に400質量部より多くなるとその効果は飽和するばかりか、加工性、取扱い性に問題が生じ、配合比によっては電波吸収特性が著しく劣るおそれがある。
【0023】
そして、上記電波吸収体用組成物を用いて電波吸収体を得る方法については、例えば、施工性、取扱い性、スペース効率等の観点から、好ましくは、電波吸収体用組成物をシート状に成形して電波吸収体を得るのがよい。
【0024】
シート状の電波吸収体を得る手段については特に制限はなく、電波吸収体用組成物を公知の手段で混合し、更に必要に応じて混練し、射出成形、加熱圧縮成形、押出成形、ロートキュアー等によりシート状の電波吸収体を製造することができる。電波吸収体用組成物を混合する際には、ゴム系マトリックスの練り時に必要に応じて添加するカップリング剤を混合し、その後アルミニウム粉末を添加して混合する、いわゆるインテグラブレンド処理であってもよく、或いはアルミニウム粉末とカップリング剤とを先に混合し、その後残りの成分を混合する、いわゆる乾式や湿式のカップリング処理であってもよい。
【0025】
本発明の電波吸収体用組成物ではエチレンプロピレンゴムやアルミニウム粉末を用いているため、得られる電波吸収体は従来のものと比べて軽量化を達成できる。すなわち、エチレンプロピレンゴムの比重は0.85〜0.87であり、比重が2.70のアルミニウム粉末や比重が1.85のカーボンブラックと共に電波吸収体用組成物を形成するため、得られる電波吸収体の軽量化を可能にする。
【0026】
また、得られる電波吸収体の電波吸収特性については、その厚みを調整することによって吸収可能なGHz帯の周波数帯域を変化させることができるが、例えば厚さ1.0〜10mmのシート状の電波吸収体の場合には、2〜18GHzの周波数帯域で15dB以上、好ましくは20dB以上の垂直反射減衰量を達成できる。特に、厚さ2.5〜4.0mmのシート状の電波吸収体の場合には、0〜50°の入射角度範囲において5.8GHzの円偏波に対する反射減衰量が15dB以上、好ましくは20dB以上を達成でき、例えばETCで使用される周波数5.8GHz無線LANの円偏波の電波を効果的に吸収できて好適である。
【0027】
更に、以下で説明するような2つの方法でシート状の電波吸収体を得れば、電波吸収特性の異方性を解消することができ、また、電波吸収性能を向上させて安定化することができるので好ましい。ここで、電波吸収特性の異方性とは、例えば垂直波と水平波との関係のように、偏波面が同じにならないような2つの電波を電波吸収体に照射した場合に電波吸収性能(減衰能)に差が生じることをいう。
【0028】
第1の異方性解消法として、先ず、電波吸収体用組成物を混合し、ニーダー等で混練して得たゴム生地をロール等により圧延して厚さ1〜2mm程度の薄シートを作製する。このようにして得られた複数枚の薄シートを互いに圧延方向が直交するように金型内に重ねていき、金型内をバキューム装置等で減圧し、金型をプレス機等で加熱、加圧することによってシート状の電波吸収体を得るようにするのがよい。この際、金型内で薄シート同士を重ねて置けば、加熱・加圧により加硫された機械的強度にも優れた電波吸収体を得ることができる。
【0029】
また、第2の異方性解消法としては、混合した電波吸収体用組成物をニーダー等で混練して得たゴム生地を所定の形状のペレット(粒状)に加工し、これらを金型内に充填して真空プレス機等で金型内を減圧し、金型を加熱、加圧して加硫処理したシート状の電波吸収体、好ましくは2.5〜4mmの厚みを有するシート状の電波吸収体を得るようにするのがよい。ゴム生地をペレットに加工する際には、ロール等で圧延したものを所定の形状のペレットに加工するようにしてもよく、バウエル成形機等で押出ししながらペレットを得るようにしてもよい。また、ペレット加工には、ペレタイザー等の造粒装置を用いて所定の形状のペレットを得るようにしてもよく、或いは任意の方法で得たペレットを篩にかけて必要なサイズのペレットを選別するようにしてもよい。更には、ゴム生地にタルク等の粘着防止剤を施し、カッターにてダイシングすることにより、例えば下記で説明するような寸法条件に合う直方体を歩留まり良く得るようにするのがよい。
【0030】
ペレットのサイズについては、取扱い性等を考慮すると(3〜6)mm×(3〜6)mm×(2〜5)mmが適当であり、好ましくは等価球直径が2〜6mm、すなわちペレット1個当たりの体積が14〜113mm3となるようにするのがよい。ペレットの等価球直径が2mmより小さいと異方性は解消するが電波吸収性能が低下するおそれがあり、反対に6mmを超えると電波吸収体におけるミクロ的な異方性の解消が難しくなる。また、ペレットの厚みについては、好ましくは最終的に得る電波吸収体の厚みの130〜150%に相当するようにするのがよい。
【0031】
そして、この第2の異方性解消法によれば、上述したような電波吸収体の軽量化及び薄型化を図ることができると共に、2〜8GHz帯域における直線偏波の電波の偏波面が90°回転した場合でも、それぞれの電波に対する垂直反射減衰量が最大値を示す特定周波数の差が0.15GHz以下の電波吸収体を得ることができる。
【0032】
また、本発明で得た電波吸収体については、アルコール又は有機溶剤等で洗浄した後、テフロン(登録商標)、シリコーン等を含有する塗料を少なくとも一方の主面に塗布し、100〜170℃で加熱し乾燥焼付けをするような撥水処理を行ってもよい。このような撥水処理によって電波吸収体の表面に塗膜を形成することで、電波吸収体の撥水性、耐候性、耐久性等を更に向上させることができると共に、塗膜の種類を選択することで耐油性、汚れ防止機能等を付加せしめることができるため、特に、屋外で使用するような場合には有効である。また、必要に応じて、一方の主面にアルミニウム、ステンレス、亜鉛メッキ鋼板等からなる反射板を取り付けて、入射した電波を透過させないようにしてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の電波吸収体用組成物によれば、電波吸収体の軽量化及び薄型化が可能になる。そして、得られた電波吸収体は、耐候性や耐久性に優れ、また、1GHz付近及びそれ以上の高周波帯域(GHz帯)の不要電波を吸収することが可能であり、特に、厚さ1.0〜10mmのシート状の電波吸収体にすれば、2〜18GHzの不要電波を吸収する狭帯域用の電波吸収体として好適である。また、本発明の電波吸収体の製造方法によれば、電波吸収特性の異方性が解消されて、安定した電波吸収性能を発揮する電波吸収体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
【0035】
[電波吸収体用組成物]
表1に示すように、エチレンプロピレンゴム(EPDM)(比重0.86)、カーボンブラック(比重1.85、平均粒径40〜48nm)、アルミニウム粉末(比重2.7)、カップリング剤、加硫剤(硫黄、CMBT及びTMTDの混合物:平均比重2)、充填剤(炭酸カルシウム及び水酸化アルミニウムの混合物:平均比重2.8)、可塑剤(パラフィンオイル:比重0.86)、及び加工助剤(脂肪酸エステル及びパラフィンワックスの混合物:平均比重1.5)からなる電波吸収体用組成物を準備した(実施例1〜4、比較例1〜2)。このうち、アルミニウム粉末は、アトマイズ噴霧法で噴霧し急冷凝固して得た純度99.3質量%以上のアルミニウムの表面に厚さ2〜7nmの自然酸化膜を有したものであって、平均粒径D50が14μm、27μm、及び44μmの3種類を用意した。また、カップリング剤については、チタネート系のイソプロピルチタネート(比重0.96)とシラン系のアミノシラン(比重1.1)の2種類を用意した。なお、表1において各成分の配合量を表す数値は質量部を示す。また、アルミニウム粉末の平均粒径D50は、レーザー回折式粒度分布測定器(Microtrac HRA9320-X100)を使用して測定した。更に、アルミニウム粉末の表面に存在する酸化膜の厚みtを推定するために、アルミニウム粉末の表面積測定と酸化膜中に含まれる酸素量測定を行い、分析した酸素量がすべて酸化膜に有り、酸化膜の組成が三酸化アルミと仮定して、以下の計算式により求めた。この際、表面積測定にはBET測定装置(ユアサ アイオニクス(株)社製 NOVA2000)を使用し、酸素量測定には酸素・窒素分析装置((株)堀場製作所社製 MEGA-550)を使用した。
【数1】

【0036】
【表1】

【0037】
[電波吸収体の作製]
上記電波吸収体用組成物のうち、先ず、アルミニウム粉末以外の成分を混合し、その後、アルミニウム粉末を加えて更に混合した。次に、得られた混合物をニーダーで混練し、これをロールで厚さ2〜3mmのゴム生地とした。このゴム生地にタルク打粉を施した後、ペレタイザーで2種類のサイズのペレット(4mm×4mm×3mm、及び3mm×3mm×2mm)に加工した。そして、どちらか一方のサイズのペレットを合計300gとなるように金型(内寸法:250mm×250mm×3mm)に充填し、金型をバキュームプレスに入れて、200kg/cm2で加圧しながら170℃で6分間保持した。この際、金型内部を減圧にすることで、加圧と同時に加硫処理を行い、250mm×250mm×厚さ3mmのシート状の電波吸収体(供試体)を得た。得られた電波吸収体の密度をアルキメデス法によって測定した結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
[電波吸収性能評価]
以下で説明する方法で、上記で得た電波吸収体(供試体)の電波吸収性能を評価した。図1に示すように、電波試験室(暗室)1内におかれたテーブル2に導体平板(アルミニウム板)3を介して供試体4を載置し、供試体4から上方に1500mm離れたところに送受信用ホーンアンテナ5が配置されるようにした。また、送受信用ホーンアンテナ5はケーブル6を介してベクトルネットワークアナライザー7に接続し、反射電波(S11)を測定できるようにした。なお、テーブル2の周りには、余分なノイズを除去するためのノイズ吸収体8を配置した。
【0040】
そして、自由空間タイムドメイン法を用いて供試体4の「垂直入射電波の減衰率測定試験」及び「斜入射電波の減衰率測定試験」を行った。ここで、自由空間法とは、自由空間に測定したい試料(ここでは供試体4)を置き、その試料に電波を照射してそのときの反射波や透過波を測定し、その値から減衰率を測定する方法である。本評価試験では、送受信用ホーンアンテナ5から放射された電磁波(正弦波)を供試体4に照射し、それによって生じた反射波を送受信用ホーンアンテナ5で受信し、その反射減衰率を測定した。
【0041】
また、タイムドメイン法とは、測定する試料に連続波(CW波)を周波数を変化させながら照射し、その周波数の変化に対する測定値を逆高速フーリエ変換(IFFT)して時間領域に変換し、さらに不要な反射波をタイムゲート機構で除いた後、再び周波数領域に高速フーリエ変換して吸収量を測定する方法である。暗室1内における周囲設置物からの反射波、散乱波、及び受信アンテナ(ここでは送受信用ホーンアンテナ5)に直接伝播する波は、供試体4(又は導体平板3)からの反射波とは伝播経路が異なるため、受信アンテナまでの到達時間が異なる。周波数ドメインの特性は、測定器であるベクトルネットワークアナライザー7に内蔵されているタイムドメイン機能により高速逆フーリエ変換され、タイムドメインに変換される。そのタイムドメイン上で供試体4からの反射波のみをゲーティングにより選択し、高速フーリエ変換を施せば、周囲設置物からの反射波、散乱波、及び受信アンテナに直接伝播する波が除去され、供試体4のみの周波数特性が測定できる。そこで、以下で説明する「垂直入射電波の減衰率測定試験」及び「斜入射電波の減衰率測定試験」では、先ず、導体平板3のみをテーブル2に載せた状態でそれぞれの反射波のレベルE0を測定し、次に導体平板3の上に供試体4を載せた状態で反射波のレベルE1をそれぞれ測定した。そして、反射係数Γ=E1/E0として吸収効果(減衰率:Reflection Loss)RL=−20log|Γ|を算出した。
【0042】
図1に示したように、送受信用ホーンアンテナ5から電波を照射し、垂直方向に反射する反射波のレベルを送受信用ホーンアンテナ5で受信する「垂直入射電波の減衰率測定試験」を行った。互いに偏波面が直交する垂直入射の直線偏波に対する減衰率の平均値が20dB以上である場合を○(良好)とし、20dB未満の場合には×(不良)と判定した。また、異方性については、垂直波(V)に対する反射波の最大吸収量を示す周波数(fV)と水平波(H)に対する反射波の最大吸収量を示す周波数(fH)との差(fH−fV)が0.1GHz以下の場合を○(良好)とし、差(fH−fV)が0.1GHzを超える場合を×(不良)と判定した。試験結果を表3に示す。ここで、表3における「減衰率(H)」、「減衰率(V)」は垂直入射の直線偏波の偏波面を90°回転させた場合のそれぞれの最大減衰率をRL=−20log|Γ|で表現したものである。また、「互いに偏波面が直交する垂直入射の直線偏波に対する減衰率の平均値」とは、「減衰率(H)」と「減衰率(V)」の平均値である。
【0043】
【表3】

【0044】
また、図2に示すように、送受信用ホーンアンテナ5を送信用ホーンアンテナ5aと受信用ホーンアンテナ5bとに分け、供試体4に対し垂直方向(垂直方向を0°とする)から所定の入射角度θ1を設けて送信用ホーンアンテナ5aから電波を照射し、垂直方向を対称軸にして反射角度θ2の反射電波を受信用ホーンアンテナ5bで受信する「斜入射電波の減衰率測定試験」を行った。この際、θ1=θ2=15°、30°、45°及び50°の場合をそれぞれ評価した。また、測定では直線偏波(TM波、TE波)を使用して行い、ΓCP=(ΓTETM)/2の関係式から円偏波に対する減衰率を求めた。試験結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
上記で得られた電波吸収体(供試体)の電波吸収性能評価によれば、本発明の電波吸収体は、互いに偏波面が直交する垂直入射の直線偏波に対する減衰率の平均値が20dB以上であり、異方性は良好であり、また、斜入射電波の減衰率測定結果によると、入射角15〜45°の範囲で減衰率20dB以上を示し、入射角50°であっても減衰率15dB以上を示し、電波吸収特性に優れていることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の電波吸収体用組成物によれば、軽量かつ薄型の電波吸収体を得ることができると共に、1GHz付近又はそれ以上の高周波帯域(GHz帯)の不要電波を吸収することができることから、携帯電話(800/900MHz又は1.5GHz)、無線LAN(2.4GHz、5.2〜5.8GHz)、ETC(5.8GHz)、DSRC(5.8GHz)、船舶用レーダーシステム(9.7〜9.8GHz)等で使用されるような不要電波の吸収体として好適である。特に、厚さ1.0〜10mmのシート状の電波吸収体にすれば、2〜18GHzの不要電波を吸収する狭帯域用の電波吸収体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、電波吸収体の垂直入射電波の減衰率測定試験の様子を示す概要図である。
【図2】図2は、電波吸収体の斜入射電波の減衰率測定試験の様子を示す概要図である。
【符号の説明】
【0049】
1:電波試験室(暗室)、2:テーブル、3:導体平板(アルミニウム板)、4:電波吸収体(供試体)、5:送受信用ホーンアンテナ、5a:送信用ホーンアンテナ、5b:受信用ホーンアンテナ、6:ケーブル、7:ベクトルネットワークアナライザー、8:ノイズ吸収体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンプロピレンゴム100質量部に対し、表面に酸化膜を有したアルミニウム粉末100〜500質量部と、カーボンブラック50〜200質量部とを含み、上記アルミニウム粉末の平均粒径D50が10〜35μmの範囲であることを特徴とする電波吸収体用組成物。
【請求項2】
表面に酸化膜を有したアルミニウム粉末の含有量が150〜300質量部であり、カーボンブラックの含有量が60〜100質量部である請求項1に記載の電波吸収体用組成物。
【請求項3】
エチレンプロピレンゴムがEPDMである請求項1又は2に記載の電波吸収体用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電波吸収体用組成物をシート状に成形したことを特徴とする電波吸収体。
【請求項5】
厚さ1.0〜10mmの範囲でシート状に成形した場合、2〜18GHzの周波数帯域で15dB以上の垂直反射減衰量を有する請求項4に記載の電波吸収体。
【請求項6】
厚さ2.5〜4.0mmの範囲でシート状に成形した場合、0〜50°の入射角度範囲において5.8GHzの円偏波に対する反射減衰量が15dB以上である請求項4に記載の電波吸収体。
【請求項7】
少なくとも一方の主面が撥水処理されている請求項4〜6のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項8】
請求項3に記載の電波吸収体用組成物を混合し、混練して得たゴム生地を所定の形状のペレットに加工し、金型内に充填して、加硫処理しながら加圧することを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項9】
ペレットの等価球直径が2〜6mmである請求項8に記載の電波吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−282862(P2008−282862A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123574(P2007−123574)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(390035909)興国インテック株式会社 (18)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】