説明

電波式変位計測装置

【課題】数mないし数百mの距離にある対象物の変位を、電波の振幅情報を利用せずにミリ分解能の精度で計測する方法および装置の提供。
【解決手段】高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射し、反射された反射波を受信手段により受信する第1の工程、第1の工程で受信した反射波を高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させる第2の工程、高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出する第3の工程からなる電波式変位計測方法および装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を用いた変位計測方法および電波式変位計測装置に関し、より具体的には、電波の振幅情報が不要であり、且つ、高精度な電波式変位計測方法および電波式変位計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波やミリ波等の電波を用いた従来の変位計測装置の測定方式としては、パルス方式、FMCW方式、位相変化検出方式等が知られている。
パルス方式は、対象物に向けて送信パルスを放射し、反射して戻って来た受信パルスと送信パルスの時間差を計測することで距離や変位を測定する。
FMCW方式は送信波の周波数を連続的かつ直線的に変化させ、送信波の周波数と対象物からの反射波の周波数の差を測定する。この周波数の差は対象物までの距離による時間遅れに比例するので、距離や変位を計測できる。
【0003】
位相変化検出方式は、対象物に向けて放射した送信波と対象物からの反射波を合成し、対象物の変位による位相変化を電圧レベルの変化として検出するものである(例えば、特許文献1)。
また、定在波を用いた計測装置としては、計測装置から発した送信波と対象物からの反射波が干渉して発生する定在波の振幅の変動周期から対象物までの距離を求める装置が知られている(例えば、特許文献2,3)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−316140号公報
【特許文献2】特開2002−357656号公報
【特許文献3】特開2004−325085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルス方式による計測装置では、微少な変位を計測する為には高速かつ高分解能のパルス発生回路や時間差計測回路が必要であり、装置の製作費が高コストとなり、しかも装置構成が複雑になるという問題がある。
また、FMCW方式による計測装置においても、ミリ分解能の計測(1mmの変位の検出)を実現するためには、高精度の高周波発振器や周波数変調回路が必要であり、装置の製作費が高コストとなり、しかも装置構成が複雑になるという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献1の装置では、位相変化を検出するために電波の振幅情報を計測する必要があり、ノイズの影響を受けやすく、精度を確保するためには高コストとなり、しかも回路構成が複雑になるという問題がある。
また、上記特許文献2,3の装置では、定在波の振幅情報を計測する必要があり、位相変化検出方式同様にノイズの影響を受けやすいという問題がある。
以上のとおり、従来の計測装置では、数百mの距離にある対象物の変位を、ミリ分解能の精度で計測する装置をシンプルな回路構成で、且つ、廉価に実現することは困難であった。
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明は、数mないし数百mの距離にある対象物の変位を、電波の振幅情報を利用せずにミリ分解能の精度で計測する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)ないし(6)の電波式変位計測方法を要旨とする。
(1)高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射し、反射された反射波を受信手段により受信する第1の工程、第1の工程で受信した反射波を高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させる第2の工程、高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出する第3の工程からなる電波式変位計測方法。
(2)高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射し、反射された反射波を受信手段により受信する第1の工程、第1の工程で受信した反射波を高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させる第2の工程、引き込み現象発生後の高周波発振器の周波数を記憶する第3の工程、反射波の高周波発振器への送信を停止し、高周波発振器の周波数を引き込み現象発生前に復帰させる第4の工程、高周波発振器の周波数を第3の工程で記憶した周波数とする第5の工程、受信手段により受信した反射波を再び高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させる第6の工程、第6の工程で生じた高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出する第7の工程からなる電波式変位計測方法。
(3)高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射し、反射された反射波を受信手段により受信する第1の工程、高周波発振器で発生させた電波と、受信手段により受信した反射波の位相差を算出する第2の工程、第2の工程で算出した位相差が無くなるように高周波発振器の周波数制御を行うことで高周波発振器に引き込み現象と同等の現象を発生させる第3の工程、第3の工程で生じた高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出する第4の工程からなる電波式変位計測方法。
(4)前記高周波発振器は、安定化するための装置又は制御回路が付加されていない発振器、または水晶振動子を用いない発振器であることを特徴とする(1)、(2)または(3)の電波式変位計測方法。
(5)前記第1の工程において、放射される電波は円偏波であり、前記反射手段により、円偏波の回転方向を変えることなく反射させ、前記受信手段により放射される電波と同じ回転方向の反射波のみを受信させることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかの電波式変位計測方法。
(6)上記反射手段は、コーナーリフレクタであることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかの電波式変位計測方法。
【0009】
また、本発明は、以下の(7)ないし(12)の電波式変位計測装置を要旨とする。
(7)高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射する放射手段と、放射手段より放射された電波の周波数を計測する周波数計測手段と、放射手段より放射された電波を反射する反射手段と、反射手段により反射された電波を受信する受信手段と、受信手段により受信した電波を高周波発振器に送信する受信手段と、これらを制御する制御手段を具備し、前記制御手段は、前記受信手段が受信した反射波を高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させ、高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出することを特徴とする電波式変位計測装置。
(8)高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射する放射手段と、放射手段より放射された電波の周波数を計測する周波数計測手段と、放射手段より放射された電波を反射する反射手段と、反射手段により反射された電波を受信する受信手段と、受信手段により受信した電波を高周波発振器に送信する送信手段と、これらを制御する制御手段を具備し、前記制御手段は、前記受信手段が受信した反射波を高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させ、引き込み現象発生後の高周波発振器の周波数を記憶し、反射波の高周波発振器への送信を停止し、高周波発振器の周波数を引き込み現象発生前に復帰させ、高周波発振器の周波数を記憶した周波数とし、受信手段により受信した反射波を再び高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させ、高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出することを特徴とする電波式変位計測装置。
(9)高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射する放射手段と、放射手段より放射された電波の周波数を計測する周波数計測手段と、放射手段より放射された電波を反射する反射手段と、反射手段により反射された電波を受信する受信手段と、これらを制御する制御手段を具備し、前記制御手段は、前記高周波発振器で発生させた電波と、前記受信手段が受信した反射波の位相差を算出し、当該位相差が無くなるように高周波発振器の周波数制御を行うことで高周波発振器に引き込み現象と同等の現象を発生させ、高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出することを特徴とする電波式変位計測装置。
(10)前記高周波発振器は、安定化するための装置又は制御回路が付加されていない発振器、または水晶振動子を用いない発振器であることを特徴とする(7)、(8)または(9)の電波式変位計測装置。
(11)前記放射手段から放射される電波は円偏波であり、前記反射手段は、当該円偏波の回転方向を変えることなく反射するものであり、前記制御手段は、前記受信手段により円偏波を選択的に受信させることを特徴とする(7)ないし(10)のいずれかの電波式変位計測装置。
(12)上記反射手段は、コーナーリフレクタであることを特徴とする(7)ないし(11)の電波式変位計測装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電波の振幅情報が不要であるため、遠距離でノイズの影響を受けやすい条件下でも、振幅情報が必要な装置と比べより高精度な計測を実現することが可能となる。すなわち、位相変化検出方式や定在波を用いる方式のように電波の振幅情報を用いないためノイズの影響を受けにくく、遠距離の対象物に対しても安定した変位計測が可能である。
しかも、従来のパルス方式のようにパルスの時間間隔を高分解能で計測する必要はなく、周波数の計測だけでミリ分解能の変位計測が容易に実現できる。
【0011】
また、電波の振幅情報を計測するための部品が不要であり、またFMCW方式のように高精度の発振器や変調回路が不要であるため、簡易な回路構成で装置を製作することができ、製作コストも数分の1ないし数十分の1にすることができる。
【0012】
さらには、発振器パラメータである気温や電源電圧等が多少変動しても、一定の範囲内で周波数が安定化されるので、簡単な電子回路あるいは制御ソフトウェアでの安定化ないしは精度保証が可能となり、高信頼な計測装置を容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明は、ガンダイオード等の高周波発振器が有する「引き込み現象」を積極的に利用することにより高精度の位置変化検出を行うものであり、原理的に周波数安定度の低い安価な発振器の使用を可能ならしめるものである。
ここで、「引き込み現象」とは、発振器の周波数と独立な周波数とが結合したときに起こる効果であり、発振器の周波数が独立な周波数に近づくよう変化し、異なった周波数になることをいう。より具体的には、発振器から放射された電波の反射波が再び発振器に戻ることで、発振器を発振しやすい状態に自動的に遷移させることをいう。すなわち、発振器の生ずる電波の位相と反射波の位相が発振器部で同相となるように(安定な発振状態を保つように)、外的制御が無くとも発振器自体が発振周波数を自動調整(ロック)する。戻ってきた反射波の位相は反射対象物までの距離に依拠し、発振器の周波数が対象物との距離と相関関係のある範囲内で安定的にロックされるため、この周波数の変化を知ることで対象物との距離変化を高精度に検出することができる。対象物との距離変化ΔDと、ロックされた発振器の周波数の変化Δfの関係は、以下の式1で表せる。式1中、Dは発振器と反射対象物の距離であり、fは発振器の周波数である。なお、D>>ΔD、且つ、f>>Δfであれば、ΔDとΔfは比例する。
【0014】
(数1)
ΔD=−(D/f)・Δf
【0015】
本発明では、上述の引き込み現象を生じさせるために、外部信号の周波数や位相に同期し易い高周波発振器、例えば周波数安定化のための安定板等の構造や制御回路等が付加されていない発振器、また水晶振動子のような安定性の高いデバイスを用いない発振器を利用する必要がある。周波数の安定度が高い発振器では、引き込み現象が生じないからである。
なお、本発明に係る発振器は、UHF帯(300MHz〜3GHz)、マイクロ波帯(3〜30GHz)およびミリ波帯(30〜300GHz)を発振するものを指す。
【0016】
また、本発明は、計測距離については原理的には上限が無いが、計測距離が長くなるに伴い同じ変位に対する周波数変化が小さくなるため高精度なLNBや周波数カウンタを採用する必要がある。また実際には湿度などの大気の特性変動も考慮する必要があり、好適な距離の範囲は数m〜500m程度であると言える。
【0017】
なお、距離が遠くなるほど、変位量ΔDに対する周波数変化Δfが小さくなるので、LNBの精度や周波数カウンタの分解能が悪いとミリ分解能の実現が難しくなる場合が想定される。その場合は周波数fを高くすることで周波数変化Δfを大きくして分解能を高くしてもよい。ただし、屋外の場合は降雨の影響を受けにくい周波数(例えば、10GHz帯)を選ぶ必要もあり、目的に応じて最適な周波数を選択する必要がある。
【0018】
以下では本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
《構成》
図1は、本発明の第一の実施形態に係る電波式変位計測装置の基本構成図である。
高周波発振器1には、周波数10.2GHzの不安定なガンダイオードモジュールを使用した。
サーキュレータ2はフェライト素子を用いた一般的なマイクロ波用のものであり、送信アンテナ3はリフレクタ径45cmの衛星放送受信用センターフィード型パラボラアンテナを利用し、アンテナの一次放射器とサーキュレータ2を導波管で接続している。
反射板5は、アルミ板による反射面60cm×60cmの四角平面板、もしくは2面コーナーリフレクタである。本実施例では、反射板の材料はアルミのみを用いたが、導体であれば制限はなく、例えば、鉄や銅でもよい。また風雨対策を考えたグリッド状や網状のものでもよい。
受信アンテナ7はリフレクタ径45cmの衛星放送受信用センターフィード型パラボラアンテナを利用し、アンテナの一次放射器と増幅器8を導波管で接続している。なお、近距離(数m)の測定においては、増幅器8は必ずしも必要ではない。
以上の基本構成で使用する部品の多くは衛星放送機器等に使用されている民生品の利用が可能であり、装置の低価格化が期待できる。
【0020】
《作動》
高周波発振器1からの信号は、サーキュレータ2により送信アンテナ3に送られて放射される。反射板5で反射された反射波6は、受信アンテナ7により受信され、増幅器8で増幅された後、サーキュレータ2を通って高周波発振器1に戻る。発振器1では、増幅された反射波6により「引き込み現象」が生じ、高周波発振器1の周波数がロックされる。
放射波4の周波数は送信アンテナ3に備えられたLNB9(周波数コンバータ)により中間周波数であるLNB出力周波数に変換した後、周波数カウンタ10により測定される。反射板5が変位すると周波数カウンタ10で測定する周波数が変化する。すなわち、引き込み現象によりロックされた周波数で位相もロックされ、ロックされた後に反射板が変位すると、位相がロックされたまま発振器と反射板の距離が変化し波長の変化が生ずる。波長の変化は周波数の変化となるため、上記式1より、周波数変化Δfから距離変化ΔDを算出することができる。
【0021】
図2は、図1の第一実施形態の電波式変位計測装置による変位検出の室内実験結果である。距離D=40mであり、反射板5の変位は約10mmである。
図2を見るとわかるように、反射板5の変位に対して、周波数カウンタ10の周波数がほぼ比例しながら約2.5MHz変化している。変位に対する周波数変化の直線性は優れており、0.2mm程度の変位を検出できる高い分解能を達成していることがわかる。本実施例では計測距離を40mとしたが、距離が数百mあるいはそれ以上となった場合でも、アンテナ・電波伝搬理論および変位と周波数変化の関係式から問題なく変位計測を行うことができることは言うまでもない。
実際の発振器では、距離Dや発振器パラメータが大幅に変化すると、それまでロックされていた周波数から不連続的に別の周波数にジャンプしてロックされる特性が見られ、変位計測装置としてはこの欠点を解決する必要がある。かかる欠点を解決した装置を実施例2で説明する。
【実施例2】
【0022】
図3は第二実施形態の電波式変位計測装置の構成図である。上述のとおり、自然発生の引き込み現象によるロックには限界があり、反射板の変位などが大きくなりすぎるとロックがはずれて別の周波数にジャンプするため、本実施例の装置ではこれを防止するために制御手段を設けて発振器の周波数を制御している。
本実施例の装置は、実施例1の構成に加え、高周波発振器1、増幅器8および周波数カウンタ10と接続されるコンピュータ11を有している。コンピュータ11は、周波数カウンタ10から出力された周波数に応じて、増幅器8を制御して、高周波発振器1に戻す反射波信号をオンオフして引き込み現象の有無を制御可能であるし、高周波発振器1の周波数を制御することもできる。コンピュータ11による制御は、次の手順で行われる。
【0023】
《制御手順》
(1)コンピュータ11は、反射板5の変位により周波数カウンタ10の測定周波数が一定量変化した際に、引き込み現象により変化した後の周波数を記憶する。
(2)コンピュータ11が増幅器8を制御して反射波信号をオフして引き込み現象を無くすことで、高周波発振器1の発振周波数が本来の周波数に自然に復帰する。
(3)コンピュータ11が高周波発振器1の発振周波数を制御して、(1)で記憶した反射波信号オン時の周波数に移行させる。
(4)コンピュータ11が増幅器8を制御して反射波信号をオンにする。
(5)(1)〜(4)を繰り返すことで、その後の反射板5の変位を連続的に計測する。
以上のようにコンピュータ11が、高周波発振器1の周波数を引き込み現象によりロックした周波数に制御することで、周波数のジャンプの発生を防止することができることを、実施例2の装置での実験により確認することができた。
【実施例3】
【0024】
図4は、第三実施形態の変位計測装置の構成図である。本実施例の装置は不連続的な周波数のジャンプ防止機能を有するとともに、送信アンテナと受信アンテナの機能を一体化した送受信アンテナ13を用いて装置の小型化も行っている。本構成では、ミキサ14による位相検出と周波数制御部15による発振器の周波数制御による外的制御により引き込み現象と同等の現象を生じさせ、周波数のジャンプを防止している。
【0025】
高周波発振器1、サーキュレータ2、LNB9、および周波数カウンタ10は実施例1および2と同じである。
方向性結合器12とミキサ14は一般的なマイクロ波用のものであり、送受信アンテナ13は、リフレクタ径45cmの衛星放送受信用センターフィード型パラボラアンテナであり、周波数制御部15は、電子回路、または制御ソフトウェアを搭載したコンピュータである。
【0026】
本実施例の装置では、サーキュレータ2と方向性結合器12からの信号をミキサ14に入力して位相検出を行い、発振器の位相と反射信号の位相が同相となるように周波数制御部15により発振器の周波数を制御する。すなわち引き込み現象と同等の現象を、発振器に反射波を戻さずに、外的制御により実現する構成である。
本実施例の装置では、高周波発振器1からの信号は、サーキュレータ2および方向性結合器12を通り送受信アンテナ13から放射されると共に、方向性結合器12によりミキサ14にも分岐される。反射板5からの反射波は送受信アンテナ13により受信され、方向性結合器12によりLNB9とサーキュレータ2に分岐される。LNB9に分岐された反射波はLNB9で中間周波数に変換後、周波数カウンタ10により周波数の測定が行われる。
一方、サーキュレータ2に分岐された反射波はサーキュレータ2によってミキサ14に供給される。ミキサ14は方向性結合器12から供給された高周波発振器1の信号と、サーキュレータ2から供給された反射波信号の位相差を検出し、位相差信号を周波数制御部15に出力する。周波数制御部15はミキサ14から入力された位相差信号が位相差0(すなわち発振器の位相と反射信号の位相が同相)になるように高周波発振器1の周波数を変化させて調整する。当該調整は反射板5の変位が生ずると、その都度周波数制御部15により行われる。これにより、その後の反射板5の変位を連続的に計測することができる。
【実施例4】
【0027】
図5は実施例1ないし3の装置において利用可能なコーナーリフレクタを用いた反射手段の外観図であり、2面コーナーリフレクタの場合を示すものである。
上記実施例1ないし3の電波式変位計測装置では、通常の平面反射板による反射手段での変位計測を前提とするものであるが、装置の設置環境によっては、周囲に様々な電波ノイズが存在し、変位計測に悪影響を与える場合が想定される。かかる問題を解決するために、直線偏波あるいは円偏波を利用して反射板からの反射波のみを選択的に受信することが考えられる。すなわち、放射される電波は円偏波であり、右旋円偏波(あるいは左旋円偏波)で放射された電波を、反射手段により円偏波の回転方向を変えることなく反射させ、右旋円偏波(あるいは左旋円偏波)のみ受信する受信手段により、異なる回転方向の円偏波や直線偏波を排除して放射した電波と同じ回転方向の反射波のみを受信させることを特徴とする。
本実施例の2面コーナーリフレクタに、例えば送信アンテナより右旋円偏波を放射し、2回反射させると、放射した右旋円偏波のままで反射波が戻ってくる。この反射波を右旋円偏波に適合した受信アンテナで受信することで、周囲の電波ノイズに対する反射波の選択性を向上させることができる。
また、コーナーリフレクタを用いることで、放射波の方向に反射波が正確に戻るため、通常の平面反射板に比べて反射板の方向調整が容易になるという利点もある。
【実施例5】
【0028】
図6は、4面コーナーリフレクタを用いた反射手段の外観図である。2面コーナーリフレクタは奥行方向の寸法が大きくなるため、2面コーナーリフレクタを横に2個並べてアレイ状に配置することで同一反射面積のままで奥行方向の寸法を小さくし、設置性を向上させている。
また、W型の形状を用いることで、背面の凹部に設置用のポール等を取付け易いという利点もある。
なお、本実施例は4面であるが、各反射面の巾を放射波の波長よりも十分に大きく確保することにより、さらに面数を増やしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
例えば、防災分野では、全国に無数に存在する地滑り地帯に本装置を設置し地滑りセンサとして利用したり土木構造物の変状監視を行うなどの応用が考えられる。
また、セキュリティ分野では、広い監視区域における高感度な侵入監視センサにも応用可能である。
これらの応用ではマイクロ波帯の電波を用いることにより屋外で降雨の影響を受けにくい監視が可能であり、レーザなどの光学方式に対して電波方式の利点が得られる。
また、本発明では、近距離になるほど変位計測分解能が向上するため、製造・検査分野における近距離(1m以下)でのミクロン分解能の高精度変位計測への応用が考えられる。
【0030】
なお、本発明は、地滑りセンサのように動きの遅い対象物を長期間にわたって監視する場合に限定されず、動きが速い対象物を計測することもできる。
例えば、セキュリティ分野での応用実験では人の動き(呼吸や手の動作)も周波数変化として検出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第一実施形態の電波式変位計測装置の基本構成図である。
【図2】第一実施形態の電波式変位計測装置による変位−周波数の特性図である。
【図3】第二実施形態の電波式変位計測装置の基本構成図である。
【図4】第三実施形態の電波式変位計測装置の基本構成図である。
【図5】2面コーナーリフレクタを用いた反射手段の外観図である。
【図6】4面コーナーリフレクタを用いた反射手段の外観図である。
【符号の説明】
【0032】
1 高周波発振器
2 サーキュレータ
3 送信アンテナ
4 放射波
5 反射板
6 反射波
7 受信アンテナ
8 増幅器
9 LNB(Low Noise Block Down Converter)
10 周波数カウンタ
11 コンピュータ
12 方向性結合器
13 送受信アンテナ
14 ミキサ
15 周波数制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射し、反射された反射波を受信手段により受信する第1の工程、
第1の工程で受信した反射波を高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させる第2の工程、
高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出する第3の工程からなる電波式変位計測方法。
【請求項2】
高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射し、反射された反射波を受信手段により受信する第1の工程、
第1の工程で受信した反射波を高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させる第2の工程、
引き込み現象発生後の高周波発振器の周波数を記憶する第3の工程、
反射波の高周波発振器への送信を停止し、高周波発振器の周波数を引き込み現象発生前に復帰させる第4の工程、
高周波発振器の周波数を第3の工程で記憶した周波数とする第5の工程、
受信手段により受信した反射波を再び高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させる第6の工程、
第6の工程で生じた高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出する第7の工程からなる電波式変位計測方法。
【請求項3】
高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射し、反射された反射波を受信手段により受信する第1の工程、
高周波発振器で発生させた電波と、受信手段により受信した反射波の位相差を算出する第2の工程、
第2の工程で算出した位相差が無くなるように高周波発振器の周波数制御を行うことで高周波発振器に引き込み現象と同等の現象を発生させる第3の工程、
第3の工程で生じた高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出する第4の工程からなる電波式変位計測方法。
【請求項4】
前記高周波発振器は、安定化するための装置又は制御回路が付加されていない発振器、または水晶振動子を用いない発振器であることを特徴とする請求項1、2または3の電波式変位計測方法。
【請求項5】
前記第1の工程において、放射される電波は円偏波であり、前記反射手段により、円偏波の回転方向を変えることなく反射させ、前記受信手段により放射される電波と同じ回転方向の反射波のみを受信させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの電波式変位計測方法。
【請求項6】
上記反射手段は、コーナーリフレクタであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの電波式変位計測方法。
【請求項7】
高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射する放射手段と、放射手段より放射された電波の周波数を計測する周波数計測手段と、放射手段より放射された電波を反射する反射手段と、反射手段により反射された電波を受信する受信手段と、受信手段により受信した電波を高周波発振器に送信する送信手段と、これらを制御する制御手段を具備し、
前記制御手段は、前記受信手段が受信した反射波を高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させ、高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出することを特徴とする電波式変位計測装置。
【請求項8】
高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射する放射手段と、放射手段より放射された電波の周波数を計測する周波数計測手段と、放射手段より放射された電波を反射する反射手段と、反射手段により反射された電波を受信する受信手段と、受信手段により受信した電波を高周波発振器に送信する送信手段と、これらを制御する制御手段を具備し、
前記制御手段は、前記受信手段が受信した反射波を高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させ、引き込み現象発生後の高周波発振器の周波数を記憶し、反射波の高周波発振器への送信を停止し、高周波発振器の周波数を引き込み現象発生前に復帰させ、高周波発振器の周波数を記憶した周波数とし、受信手段により受信した反射波を再び高周波発振器に送信して引き込み現象を発生させ、高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出することを特徴とする電波式変位計測装置。
【請求項9】
高周波発振器で発生させた電波を反射手段に放射する放射手段と、放射手段より放射された電波の周波数を計測する周波数計測手段と、放射手段より放射された電波を反射する反射手段と、反射手段により反射された電波を受信する受信手段と、これらを制御する制御手段を具備し、
前記制御手段は、前記高周波発振器で発生させた電波と、前記受信手段が受信した反射波の位相差を算出し、当該位相差が無くなるように高周波発振器の周波数制御を行うことで高周波発振器に引き込み現象と同等の現象を発生させ、高周波発振器の周波数の変化に基づき高周波発振器と反射手段の距離変位を算出することを特徴とする電波式変位計測装置。
【請求項10】
前記高周波発振器は、安定化するための装置又は制御回路が付加されていない発振器、または水晶振動子を用いない発振器であることを特徴とする請求項7、8または9の電波式変位計測装置。
【請求項11】
前記放射手段から放射される電波は円偏波であり、
前記反射手段は、当該円偏波の回転方向を変えることなく反射するものであり、
前記制御手段は、前記受信手段により円偏波を選択的に受信させることを特徴とする請求項7ないし10のいずれかの電波式変位計測装置。
【請求項12】
上記反射手段は、コーナーリフレクタであることを特徴とする請求項7ないし11の電波式変位計測装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−248245(P2007−248245A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71596(P2006−71596)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000180313)四国計測工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】