説明

電波抑制シートとこのシートを具備した電子機器及び電波抑制用部品

【課題】低周波数のマイクロ波に対し優れた電波吸収性能及び電波遮断性能を発揮することができる電波抑制シートとこのシートを具備した電子機器及び電波抑制用部品を提供する。
【解決手段】シリコーンゴムにカーボンナノチューブを分散させて、厚みが300μm以下のフィルム状に成形してある。また、前記カーボンナノチューブの含有量は、15質量%以上であることが好ましい。そして、本発明の電波抑制シートは、周波数が5.0GHz以下のマイクロ波に対するマイクロストリップ法による伝送減衰率が40dB以上の部分を有したものとなっている。また、このシートを具備した電子機器及び電波抑制用部品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低周波数のマイクロ波に対し優れた電波吸収性能及び電波遮断性能を発揮する電波抑制シートとこのシートを具備した電子機器及び電波抑制用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、比較的低周波数のマイクロ波を利用したパソコン、携帯電話、携帯情報端末、道路情報システム、無線ラン等の電子機器が広く普及してきているが、これらの電子機器の普及に伴って、電子機器から放射される電磁波がもたらす他の電子機器への誤動作や、人体への影響が問題とされてきている。
そのため、他の電子機器や人体に影響を与えないように、電磁波をできるだけ放出しないこと、また外部から電磁波を受けても誤作動しないことが求められており、電子機器に対し電波吸収性能及び電波遮断性能(以下、電波シールド性能という)を付与することができる電波抑制シートの開発が多数行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に示されるように、ポリオレフィン系樹脂などの有機高分子や、ゴムからなる有機高分子からなる基体表層に鉄合金やフェライト等の強磁性体を蒸着した電波抑制シートや、特許文献2に示されるように、樹脂とナノサイズ炭素原料を含んだ電波抑制シートなどが提案されている。
【0004】
また、最近では前記電子機器が更に小型化、高密度化してきており、貼り合わせ等して使用する電波抑制シートとしては、より薄いものが要求されるようになってきた。しかしながら、シート厚みを薄くしていくと電波シールド性能は低下する傾向があるため、フィルム状のシートはまだ実用化されていないのが現状である。
【0005】
一方、電波シールド性能の評価のひとつに、マイクロストリップ法による伝送減衰率(Rtp)がある。この伝送減衰率(Rtp)が20dBでは99%、30dBでは99.9%、40dBでは99.99%の電波を吸収するのに相当すると言われており、従来の電子機器の電波吸収目標値は20dBとされてきた。
しかし、電子機器の使用頻度や使用時間は増加する傾向にあって、電子機器の誤動作や人体への影響が少ない電波吸収能力のより高い電波抑制シートの開発が求められるようになってきている。特に、携帯電話や電子レンジや無線ランや各種リモコン等の電子機器は周波数が5GHz以下の比較的に低周波数のマイクロ波を使用しているが、従来の電波抑制シートでは、周波数が5GHz以下のマイクロ波を99.99%の割合で吸収することができるもの(伝送減衰率が40dBを超えるもの)はなかった。そのため、周波数が5GHz以下の比較的に低周波数のマイクロ波も確実に吸収することができる電波抑制シートの開発が強く望まれるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−101474号公報
【特許文献2】特開2003−158395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を解決して、周波数が5GHz以下の比較的に低周波数のマイクロ波を高い吸収能力で遮断して電子機器の誤動作や人体への影響を少なくすることができ、しかもフィルム状のシートであって軽くて嵩張らないため電子機器の更なる小型化、高密度化にも対応することができる電波抑制シートとこのシートを具備した電子機器及び電波抑制用部品を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の電波抑制シートは、シリコーンゴムにカーボンナノチューブを分散させて、厚みが300μm以下のフィルム状に成形してあることを特徴とするものである。
【0009】
前記カーボンナノチューブの含有量が15質量%以上であることが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0010】
また、周波数が5.0GHz以下のマイクロ波に対するマイクロストリップ法による伝送減衰率が、40dB以上の部分を有していることが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【0011】
更に、請求項1〜3のいずれかに記載の電波抑制シートを具備したことを特徴とする電子機器を請求項4に係る発明とし、請求項1〜3のいずれかに記載の電波抑制シートを具備したことを特徴とする電波抑制用部品を請求項5に係る発明とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、シリコーンゴムにカーボンナノチューブを分散させて、厚みが300μm以下のフィルム状に成形してあるので、カーボンナノチューブが高い電波シールド性能を発揮することとなり、またカーボンナノチューブは微細で均一に分散できるので厚みが300μm以下のフィルム状に成形しても高い電波シールド性能を発揮することが可能となる。
【0013】
また、請求項2に係る発明では、カーボンナノチューブの含有量を15質量%以上としたので、高い電波シールド性能を発揮することができる。
【0014】
また、請求項3に係る発明では、周波数が5.0GHz以下のマイクロ波に対するマイクロストリップ法による伝送減衰率が、40dB以上の部分を有しているので、比較的に低周波数のマイクロ波も高い能力で吸収することができ、電子機器の誤動作や人体への影響を極力少なくすることができる。
【0015】
また、請求項4及び請求項5に係る発明では、電子機器及び電波抑制用部品として高い電波シールド性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1における周波数(GHz)と伝送減衰率(dB)の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例2における周波数(GHz)と伝送減衰率(dB)の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例3における周波数(GHz)と伝送減衰率(dB)の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例4における周波数(GHz)と伝送減衰率(dB)の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例5における周波数(GHz)と伝送減衰率(dB)の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例6における周波数(GHz)と伝送減衰率(dB)の関係を示すグラフである。
【図7】従来例の電波抑制シートの周波数(GHz)と伝送減衰率(dB)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を示す。
本発明の電波抑制シートは、シリコーンゴムにカーボンナノチューブを分散させて、厚みが300μm以下のフィルム状に成形してある点を特徴としている。
本発明では、シートを形成する母材としてシリコーンゴムを用いている。従来、シート母材としては天然ゴム、エチレン−プロピレンゴムやポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂系材料を使用するのが普通であった。しかしながら、本発明者の研究によれば、従来の樹脂系材料では電磁波吸収材料を分散させて厚みが300μm以下の薄いフィルム状に成形することが難しいことを確認し、薄いフィルム状に成形するにはシリコーンゴムが最適であることを見出したことによる。
本発明のシートは、厚みが300μm以下のフィルム状としてある。従来の樹脂系材料からなるシートの場合は、プレス成形により厚みが600μm以上のシート体として成形されていたのに対し、本発明は押出インフレーション法などにより厚みが300μm以下の薄膜フィルムとして成形されている。下限についての規制はないが、フィルム成形技術を考えると10μm以上である。
【0018】
また本発明では、電磁波吸収材料として、従来の炭素繊維とカーボンブラックとの混合物に替えてカーボンナノチューブを使用している。
このカーボンナノチューブは、単層または多層からなり、直径が1〜100nmで長さが30μm以下で、従来の炭素繊維やカーボンブラックと比べて微細な材料である。また、シリコーンゴム中への分散性も優れており、かつ高い電波シールド性能を発揮するものである。
【0019】
シート中における前記カーボンナノチューブの含有量は15質量%以上であることが好ましい。15質量%未満の場合は、希望する電波シールド性能が得られないおそれがあるからである。上限については薄膜フィルムの成形及び成形コストを考慮すると40質量%以下、好ましくは質量30%以下の範囲である。
【0020】
前記の構成からなる本発明のシートは、周波数が5.0GHz以下のマイクロ波に対するマイクロストリップ法による伝送減衰率が40dB以上の部分を有しており、利用が増大している携帯電話や無線ランや各種リモコン等の電子機器に対して高い電波吸収性能及び電波遮断性能(電波シールド性能)を発揮することができる。
前記マイクロストリップ法による伝送減衰率(Rtp)は、電波抑制シートのノイズ抑制を評価する方法の一つであり、伝送線路を伝わる伝導ノイズがシート装着時にどれくらい減衰するかを表すものである。測定方法を簡単に説明すると、マイクロストリップライン上に測定試料を乗せ、上から500gの荷重をかけたうえで、高周波信号を入射し、測定試料(電波抑制シート)によって、どれだけ信号が減衰したかを評価する。伝送減衰率(Rtp)は、入射と反射の差をとり、その値と透過量の比で求めることができ、この値が測定試料がどれだけの信号を減衰(吸収)させたかをあらわす指標となる。
【0021】
本発明の実施態様として、前記電波抑制シートを具備した電子機器とすることができる。具体例としては、電子機器の筐体、回路基板、プリント配線板、電子素子、LSI,ICチップ、ケーブルなどを挙げることができ、本発明の電子機器は、前記電波抑制シートを電子機器に装備・装着することで得られる。
【0022】
本発明の実施態様として、前記電波抑制シートを具備した電波抑制用部品とすることができる。電波抑制用部品とは、前記電子機器に装備・装着して発生した電波を抑制するために使用される基板、収納容器、蓋、包装などであって、具体例としては、回路基板、プリント配線板、電子素子、LSI,ICチップ、ケーブルといった電子機器の基板、収納容器、蓋、包装などとして用いられる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明の実施例について説明する。
コーンゴムにカーボンナノチューブを分散させて、厚みが100〜300μmのフィルムを成形した。フィルムの厚みとカーボンナノチューブの含有量を以下のように実施例1〜6まで変えて、得られた電波抑制シートのマイクロストリップ法による伝送減衰率(Rtp)を測定した。
実施例1(フィルム厚み:300μm、カーボンナノチューブ含有量:15質量%)
実施例2(フィルム厚み:300μm、カーボンナノチューブ含有量:30質量%)
実施例3(フィルム厚み:200μm、カーボンナノチューブ含有量:15質量%)
実施例4(フィルム厚み:200μm、カーボンナノチューブ含有量:30質量%)
実施例5(フィルム厚み:100μm、カーボンナノチューブ含有量:15質量%)
実施例6(フィルム厚み:100μm、カーボンナノチューブ含有量:30質量%)
実施例〜6の測定結果を、図1〜6に示す。これらのグラフから、実施例1では周波数が約2.3GHz以上のマイクロ波を伝送減衰率が40dB以上(吸収率は99.99%以上)で吸収できることが確認できた。また、実施例2では周波数が約1.8GHz以上、実施例3では周波数が約2.8GHz以上、実施例4では周波数が約1.7GHz以上、実施例5では周波数が約4.2GHz以上、実施例6では周波数が約1.8GHz以上のマイクロ波を伝送減衰率が40dB以上で各々吸収できることが確認できた。
【0024】
一方、比較例として、フィルム厚みを600μm、カーボンナノチューブ含有量を10質量%とした電波抑制シートを成形し、同様にマイクロストリップ法による伝送減衰率(Rtp)を測定した結果を図7に示す。
図7のグラフから、比較例のシートは、周波数が5.0GHz以下のマイクロ波に対するマイクロストリップ法による伝送減衰率が40dB以下であり、本発明のような高い電波シールド性能を発揮することができないことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムにカーボンナノチューブを分散させて、厚みが300μm以下のフィルム状に成形してあることを特徴とする電波抑制シート。
【請求項2】
カーボンナノチューブの含有量が15質量%以上である請求項1に記載の電波抑制シート。
【請求項3】
周波数が5.0GHz以下のマイクロ波に対するマイクロストリップ法による伝送減衰率が40dB以上の部分を有している請求項1または2に記載の電波抑制シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電波抑制シートを具備したことを特徴とする電子機器。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の電波抑制シートを具備したことを特徴とする電波抑制用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−204734(P2012−204734A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69621(P2011−69621)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)
【Fターム(参考)】