説明

電波暗箱

【課題】体格を大きくすることなく検査精度を向上させることができる電波暗箱を提供すること。
【解決手段】送信部と受信部とを備えるミリ波レーダ装置40の検査を行なう際に、ミリ波レーダ装置40とリフレクタ30とが対向配置される電波暗箱10である。電波暗箱10は、一つの面に開口部11と、側壁12、底面13、側壁14、天井15、奥壁16を有し、側壁12、底面13、側壁14、天井15、奥壁16の壁面には電波吸収体20を有するものであり、リフレクタ30を挟んでミリ波レーダ装置40に対向する奥壁16は、ミリ波レーダ装置40に対して傾斜して設けられるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波レーダ装置の検査に用いられる電波暗箱に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示されるように、ミリ波レーダ装置の検査を行なう検査システムがあった。
【0003】
特許文献1に示される検査システムは、出力検査項目を検査するための第一検査ユニットと、周波数検査項目を検査するための第二検査ユニットと、距離検査項目を検査するための第三検査ユニットと、相対速度検査項目を検査するための第四検査ユニットと、方位補正項目を検査するための第五検査ユニットと、方位検査項目を検査するための第六検査ユニットと、各検査ユニット間を予め規定された経路に従って、ミリ波レーダ装置を搬送する搬送装置とから構成されている。
【0004】
また、各検査ユニットは、電波暗箱を有するものである。この電波暗箱は、内部に空洞を有し、一端に開口が形成された直方体のケースと、ケースの内壁に固定され、ノイズ等の検査に不要な電波を吸収する電波吸収体とからなるものである。
【特許文献1】特開2008−145177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される検査システムにおいては、電波暗箱に設けた電波吸収体によって不要な電波は吸収、減衰することとなる。ところが、ミリ波レーダ装置の精度によっては、減衰した後の微弱信号がノイズとなる可能性がある。
【0006】
このような減衰後の微弱信号によるノイズを低減するためには、ミリ波レーダ装置とリフレクタとの設置距離に対して充分大きな電波暗箱を作成する事が考えられる。しかしながら、電波暗箱を大きくすると、設置スペースも広くする必要があるため好ましくない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、体格を大きくすることなく検査精度を向上させることができる電波暗箱を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載の電波暗箱は、送信部と受信部とをミリ波レーダ装置の検査を行なう際にミリ波レーダ装置とリフレクタとが対向配置される電波暗箱であって、対向配置されたミリ波レーダ装置とリフレクタとを囲う複数の壁面と、複数の壁面に設けられる電波吸収体とを備え、複数の壁面のうちリフレクタを挟んでミリ波レーダ装置に対向する壁面は、ミリ波レーダ装置に対して傾斜して設けられることを特徴とするものである。
【0009】
このようにすることによって、ミリ波レーダ装置に対向する壁面に設けられた電波吸収体にて減衰したレーダ波が直接ミリ波レーダ装置に照射、つまり、ミリ波レーダ装置の受信部で受信することを抑制することができる。したがって、電波暗箱の体格を大きくすることなく、検査精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0011】
本実施の形態における電波暗箱10は、ミリ波レーダ装置40の検査を行なうためのものである。図1は、本発明の実施の形態における電波暗箱の概略構成を示す斜視図である。図2は、本発明の実施の形態における電波暗箱の概略構成を示す上面透視図である。図3は、本発明の実施の形態における電波暗箱を用いて検査を行なった場合のノイズレベルとミリ波レーダ装置回転角度との関係を示すグラフである。
【0012】
ミリ波レーダ装置40は、車両に搭載されるものであり、車両の衝突防止などのために、先行する車両や自車周囲の物体までの距離・相対速度・方向を高精度に計測するものである。ミリ波レーダ装置40は、送信部(図示省略)、受信部(図示省略)、レーダ制御部(図示省略)などを備えている。レーダ制御部は、このミリ波レーダ装置40の送信部の送信を制御するとともに、受信部において反射波が検出されたとき、その検出結果に基づいて、反射物体までの距離やその方位を演算する。
【0013】
このようなミリ波レーダ装置40の検査を行なう電波暗箱10は、外部から侵入する電波を遮断すると共に、内部での不要電波を吸収し減衰させるものである。図1に示すように、本実施の形態における電波暗箱10は、一つの面に開口部11を有し、側壁12、底面13、側壁14、天井15、奥壁16を有する中空の柱体形状をなすものである。図2に示すように、この側壁12、底面13、側壁14、天井15、奥壁16の内側壁(壁面)には、ミリ波帯域に対応した電波吸収体20が設けられる。さらに、電波暗箱10の内部には、ミリ波レーダ装置40から送信されたレーダ波を反射するリフレクタ30が配置されるものである。換言すると、電波暗箱10内に対向配置されたミリ波レーダ装置とリフレクタ30とは、側壁12、底面13、側壁14、天井15、奥壁16の壁面に囲まれるものである。なお、図1においては、電波吸収体20は省略してある。
【0014】
この電波暗箱10を用いて送信部と受信部とを備えるミリ波レーダ装置40の検査を行なう場合、電波暗箱10内においてミリ波レーダ装置40とリフレクタ30とを対向配置し、ミリ波レーダ装置40の送信部からレーダ波を送信し、リフレクタ30にて反射した反射信号をミリ波レーダ装置40が受信部で受信して、精度などを検査するものである。
【0015】
ところが、車両に搭載されるミリ波レーダ装置40は、電波吸収体20にて減衰された後の微弱信号でもノイズとして認識してしまう可能性がある。特に、リフレクタ30を挟んでミリ波レーダ装置40と対向する位置にある奥壁16における減衰後の微弱信号は、直接ミリ波レーダ装置40に照射される可能性が高いのでノイズとして認識されやすい。奥壁16は、換言すると、リフレクタ30に対してミリ波レーダ装置40を真っ直ぐ配置した場合に、ミリ波レーダ装置40からのレーダ波の送信方向にあるものである。
【0016】
これに対して、ミリ波レーダ装置40の検査に必要なミリ波レーダ装置40とリフレクタ30との距離に対して、電波暗箱10の体格を充分に大きくすることによって、電波吸収体20にて減衰された後の微弱信号によるノイズを低減することが考えられる。つまり、リフレクタ30からの反射波の認識位置と電波暗箱10からの反射波の認識位置を分離する。また、不要波の距離減衰が大きくなることで、リフレクタ30からの信号レベルと電波暗箱10からの信号レベルの差(S/N比)を大きくできる。しかしながら、この場合、電波暗箱10の体格を大きくする必要があり、電波暗箱10の設置スペースも広くする必要があるため好ましくない。
【0017】
そこで、本実施の形態における電波暗箱10は、奥壁16(奥壁16の壁面)をミリ波レーダ装置40と対向させないようにするものである。図2は、電波暗箱10を天井15側から見た場合の透視図である。この図2に示すように、電波暗箱10の奥壁16は、リフレクタ30と真っ直ぐ対向させた(リフレクタ30と正対させた)場合のミリ波レーダ装置40におけるレーダ波の送信方向に対して約45度傾斜させて設けている。具体的には、奥壁16は、底面13及び天井15に対して略垂直に設けられると共に、側壁12に対しては135度傾斜して設けられ、側壁14に対しては45度傾斜して設けられる。
【0018】
図3は、電波暗箱を用いて検査を行なった場合のノイズレベルとミリ波レーダ装置回転角度との関係を示すグラフであり、奥壁16とミリ波レーダ装置40とが対向する場合と、対向しない場合とを比較するものである。つまり、奥壁がリフレクタ30と正対させた場合のミリ波レーダ装置40からのレーダ波の送信方向に対して約90度(垂直)となるように設けられた場合と、約45度傾斜して設けられた場合のノイズレベルを比較するためのグラフである。なお、ミリ波レーダ装置40の回転角度は、ミリ波レーダ装置40の内部アンテナ中心を軸として回転させた場合の角度である。
【0019】
図3に示すように、ミリ波レーダ装置40を回転させた範囲(±10度)で、奥壁16をミリ波レーダ装置40に対向させた場合に比べて、奥壁16をミリ波レーダ装置40に対して傾斜させた場合の方が、ノイズレベルは低減している。なお、ミリ波レーダ装置40を回転させた場合のノイズレベルを計測するのは、ミリ波レーダ装置40が±10度回転した場合まで保証するためである。
【0020】
このように、電波暗箱10の奥壁16をミリ波レーダ装置40に対して傾斜して設けることによって、奥壁16に設けられた電波吸収体20にて減衰した後の微弱信号が直接ミリ波レーダ装置40で照射されることを(ミリ波レーダ装置40の受信部で受信することを)抑制することができる。したがって、電波暗箱10の奥壁16をミリ波レーダ装置40に対して傾斜して設けることによって、電波暗箱10の体格を大きくすることなくミリ波レーダ装置40の検査精度を向上させることができる。
【0021】
なお、本実施の形態においては、電波暗箱10の奥壁16をミリ波レーダ装置40におけるレーダ波の送信方向に対して約45度傾斜させて設けた例を採用して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。電波暗箱10の奥壁16は、ミリ波レーダ装置40に対して傾斜して設けるものであれば本件の目的を達成できるものである。
【0022】
電波暗箱は、例えば、図4に示す変形例1の電波暗箱10aのようにしてもよい。図4は、本発明の変形例1における電波暗箱の概略構成を示す上面透視図である。上述の実施の形態における図2に対応する図面である。
【0023】
図4に示すように、電波暗箱10aにおける奥壁16aは、奥壁16aの左右方向の中心線を軸として外側に凸となるように屈曲している。換言すると、奥壁16aは、底面13及び天井15に対して略垂直に設けられる。そして、奥壁16aの中心線より側壁12側は側壁12とのなす角が鈍角である。また、奥壁16aの中心線より側壁14側は側壁14とのなす角が鈍角である。
【0024】
このようにすることによっても、奥壁16aに設けられた電波吸収体20にて減衰した後の微弱信号が直接ミリ波レーダ装置40で照射されることを(ミリ波レーダ装置40の受信部で受信することを)抑制することができる。したがって、電波暗箱10aの奥壁16aをミリ波レーダ装置40に対して傾斜して設けることによって、電波暗箱10aの体格を大きくすることなくミリ波レーダ装置40の検査精度を向上させることができる。
【0025】
また、電波暗箱は、例えば、図5に示す変形例2の電波暗箱10bのようにしてもよい。図5は、本発明の変形例2における電波暗箱の概略構成を示す上面透視図である。上述の実施の形態における図2に対応する図面である。
【0026】
図5に示すように、電波暗箱10bにおける奥壁16bは、奥壁16bの左右方向の中心線を軸として内側に凸となるように屈曲している。換言すると、奥壁16bは、底面13及び天井15に対して略垂直に設けられる。そして、奥壁16bの中心線より側壁12側は側壁12とのなす角が鋭角である。また、奥壁16bの中心線より側壁14側は側壁14とのなす角が鋭角である。
【0027】
このようにすることによっても、奥壁16bに設けられた電波吸収体20にて減衰した後の微弱信号が直接ミリ波レーダ装置40で照射されることを(ミリ波レーダ装置40の受信部で受信することを)抑制することができる。したがって、電波暗箱10bの奥壁16bをミリ波レーダ装置40に対して傾斜して設けることによって、電波暗箱10bの体格を大きくすることなくミリ波レーダ装置40の検査精度を向上させることができる。
【0028】
なお、上述の実施の形態、変形例1、変形例2においては、奥壁を側壁12及び側壁14に対して傾斜して設けると共に底面13及び天井15に対して略垂直に設ける例を採用して説明したが、奥壁を側壁12及び側壁14に対して略垂直に設けると共に、底面13及び天井15に対して傾斜して設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態における電波暗箱の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における電波暗箱の概略構成を示す上面透視図である。
【図3】本発明の実施の形態における電波暗箱を用いて検査を行なった場合のノイズレベルとワーク回転角度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の変形例1における電波暗箱の概略構成を示す上面透視図である。
【図5】本発明の変形例2における電波暗箱の概略構成を示す上面透視図である。
【符号の説明】
【0030】
10 電波暗箱、11 開口部、12 側壁、13 底面、14 側壁、15 天井、16,16a,16b 奥壁、20 電波吸収体、30 リフレクタ、40 ミリ波レーダ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信部と受信部とを備えるミリ波レーダ装置の検査を行なう際に、前記ミリ波レーダ装置とリフレクタとが対向配置される電波暗箱であって、
対向配置された前記ミリ波レーダ装置と前記リフレクタとを囲う複数の壁面と、
前記複数の壁面に設けられる電波吸収体とを備え、
前記複数の壁面のうち前記リフレクタを挟んで前記ミリ波レーダ装置に対向する壁面は、当該ミリ波レーダ装置に対して傾斜して設けられることを特徴とする電波暗箱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−19691(P2010−19691A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180520(P2008−180520)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】