説明

電波無響箱

【課題】 複数の周波数帯の電磁波を放射する被測定物の特性を測定することができる電波無響箱を提供する。
【解決手段】 金属筐体2の内部には、軸方向に移動可能な筒状部材7を設けると共に、筒状部材7内を軸方向に移動可能な衝立部材12を設ける。そして、金属筐体2の前壁面2A、内周面および衝立部材12の前面には、高周波側の周波数帯の電磁波を吸収する電波吸収体3,5,14をそれぞれ設ける。また、金属筐体2の後壁面2B、筒状部材7の内周面、衝立部材12の後面には、低周波側の周波数帯の電磁波を吸収する電波吸収体4,11,15をそれぞれ設ける。これにより、筒状部材7および衝立部材12を軸方向に移動させることによって、金属筐体2には、電波吸収体3,5,14と電波吸収体4,11,15とのいずれかを選択的に露出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等から放射される電磁波を測定するときに用いて好適な電波無響箱に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電波無響箱として、小型の金属筐体内に電波吸収シート等を設けると共に、金属筐体内に携帯電話等の被測定物を配置し、該被測定物に設けられたアンテナの放射効率等を測定するものが知られている(例えば特許文献1,2参照)。そして、特許文献1には、小型で安価な測定空間を提供するために、電波無響箱の内部に特定の周波数帯域で使用する電波吸収シートを設けた構成が開示されている。このとき、電波吸収シートは、電磁波の測定周波数帯域で電波吸収特性を有している。このため、携帯電話の使用周波数帯域に応じて異なる電波吸収シートを用いる構成となっている。即ち、例えば800MHz帯に対しては700〜900MHzで電波吸収特性を有する電波吸収シートを使用し、1.5GHz帯に対しては1.4〜1.65GHzで電波吸収特性を有する電波吸収シートを使用し、1.9GHz帯に対しては1.75〜2.0GHzで電波吸収特性を有する電波吸収シートを使用し、2.5GHz帯に対しては2.35〜2.65GHzで電波吸収特性を有する電波吸収シートを使用している。
【0003】
【特許文献1】特開平10−93286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1による電波無響箱では、測定可能な周波数帯域が電波吸収シートで吸収可能な帯域に限定される。このため、例えば複数の周波数帯の電磁波を放射可能な周波数帯域の広い携帯電話用アンテナの特性を評価する場合には、電波吸収シートの異なる複数の電波無響箱を用意し、これら複数の電波無響箱で測定を行う必要がある。この結果、測定時間が長くなると共に、複数の電波無響箱を置くために広い空間が必要になるという問題がある。一方、広帯域の電磁波を吸収可能な電波吸収体を用いた場合には、電波吸収体が大きくなるから、電波無響箱も大型化してしまう。
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、複数の周波数帯の電磁波を放射する被測定物の特性を測定することができる電波無響箱を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明による電波無響箱は、軸方向両端が閉塞された筒状に形成された金属筐体と、該金属筐体の軸方向の一側端面に設けられ第1の周波数帯の電磁波を吸収する第1の端面側電波吸収体と、前記金属筐体の軸方向の他側端面に設けられ第2の周波数帯の電磁波を吸収する第2の端面側電波吸収体と、前記金属筐体の内周面に設けられ第1の周波数帯の電磁波を吸収する第1の内周面側電波吸収体と、前記金属筐体の内部に位置して軸方向に移動可能に設けられた筒状部材と、該筒状部材の内周面に設けられ第2の周波数帯の電磁波を吸収する第2の内周面側電波吸収体と、前記金属筐体の内部で前記第1,第2の端面側電波吸収体の間に位置し、該筒状部材を通過して軸方向に移動可能に設けられた平板状の衝立部材と、該衝立部材のうち前記第1の端面側電波吸収体と対向した面に設けられ第1の周波数帯の電磁波を吸収する第1の衝立側電波吸収体と、前記衝立部材のうち前記第2の端面側電波吸収体と対向した面に設けられ第2の周波数帯の電磁波を吸収する第2の衝立側電波吸収体とによって構成している。
【0007】
請求項2の発明では、前記金属筐体には、被測定物を支持する被測定物固定治具と測定用アンテナを支持するアンテナ取付治具とを設け、前記第1の周波数帯の特性を測定するときには、前記筒状部材を金属筐体の軸方向端部側に配置し、前記衝立部材を金属筐体の軸方向の他側端面側に配置し、かつ前記被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を前記筒状部材を避けた位置で第1の端面側電波吸収体と第1の衝立側電波吸収体との間に配置する構成とし、前記第2の周波数帯の特性を測定するときには、前記筒状部材を金属筐体の軸方向中央側に配置し、前記衝立部材を金属筐体の軸方向の一側端面側に配置し、かつ前記被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を前記筒状部材を挟んだ位置で第2の端面側電波吸収体と第2の衝立側電波吸収体との間に配置する構成としている。
【0008】
請求項3の発明では、前記筒状部材は、軸方向途中位置で分割可能な複数の分割筒体によって構成され、該複数の分割筒体は、前記第1の周波数帯の特性を測定するときには、前記金属筐体の軸方向両端側に互いに分離した状態で配置し、前記第2の周波数帯の特性を測定するときには、前記金属筐体の軸方向中央側に互いに衝合した状態で配置する構成としている。
【0009】
請求項4の発明では、前記第1の端面側電波吸収体、第1の内周面側電波吸収体および第1の衝立側電波吸収体は、高周波側の第1の周波数帯の電磁波を吸収する構成とし、前記第2の端面側電波吸収体、第2の内周面側電波吸収体および第2の衝立側電波吸収体は、前記第1の周波数帯よりも低い低周波側の第2の周波数帯の電磁波を吸収する構成としている。
【0010】
請求項5の発明では、前記第1の端面側電波吸収体、第1の内周面側電波吸収体および第1の衝立側電波吸収体は、カーボンを含有した電波吸収材料を用いてピラミッド形状またはテーパ形状に形成し、前記第2の端面側電波吸収体、第2の内周面側電波吸収体および第2の衝立側電波吸収体は、フェライト材料を用いて平板形状に形成している。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、金属筐体の軸方向の一側端面に第1の端面側電波吸収体を設け、金属筐体の内周面に第1の内周面側電波吸収体を設けるのに加え、軸方向に移動可能な衝立部材には第1の端面側電波吸収体と対向した面に第1の衝立側電波吸収体を設ける構成とした。これにより、例えば衝立部材を金属筐体の軸方向他側に配置することによって、金属筐体の内部には第1の周波数帯の電磁波を吸収する空間を確保することができる。このため、この金属筐体内の空間を用いることによって、第1の周波数帯の電磁波に対する特性を測定することができる。
【0012】
また、筒状部材の内周面には第2の内周面側電波吸収体を設けると共に、衝立部材には第2の端面側電波吸収体と対向した面に第2の衝立側電波吸収体を設ける構成とした。これにより、例えば衝立部材を金属筐体の軸方向一側に配置することによって、筒状部材の内部には第2の周波数帯の電磁波を吸収する空間を確保することができる。このため、この筒状部材内の空間を用いることによって、第2の周波数帯の電磁波に対する特性を測定することができる。
【0013】
この結果、単一の電波無響箱内で互いに異なる2つの周波数帯の電磁波を測定することができる。このため、例えばマルチバンドの携帯電話のように、2つの周波数帯の電磁波を放射する被測定物の特性を評価する場合でも、単一の電波無響箱内で全ての周波数帯の電磁波を測定することができ、従来技術のように複数の電波無響箱を用いて測定する必要がなく、測定作業の効率を高めることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、金属筐体には、被測定物を支持する被測定物固定治具と測定用アンテナを支持するアンテナ取付治具とを設ける構成とした。このため、第1の周波数帯の特性を測定するときには、筒状部材を金属筐体の軸方向端部側に配置すると共に、衝立部材を金属筐体の軸方向の他側端面側に配置する。これにより、金属筐体の軸方向のうち第1の端面側電波吸収体と第1の衝立側電波吸収体との間には、第1の周波数帯の電磁波を吸収する空間を確保することができる。このため、被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を筒状部材を避けた位置に配置することによって、この空間内に被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を配置することができ、第1の周波数帯の特性を測定することができる。
【0015】
一方、第2の周波数帯の特性を測定するときには、筒状部材を金属筐体の軸方向中央側に配置すると共に、衝立部材を金属筐体の軸方向の一側端面側に配置する。これにより、筒状部材の内部に位置して金属筐体の軸方向のうち第2の端面側電波吸収体と第2の衝立側電波吸収体との間には、第2の周波数帯の電磁波を吸収する空間を確保することができる。このため、被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を筒状部材を挟んだ位置に配置することによって、この空間内に被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を配置することができ、第2の周波数帯の特性を測定することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、筒状部材は、軸方向途中位置で分割可能な複数の分割筒体によって構成した。このため、第1の周波数帯の特性を測定するときには、複数の分割筒体は金属筐体の軸方向両端側に互いに分離した状態で配置することができる。一方、第2の周波数帯の特性を測定するときには、金属筐体の軸方向中央側に互いに衝合した状態で配置することができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、第1の端面側電波吸収体、第1の内周面側電波吸収体および第1の衝立側電波吸収体は、高周波側の第1の周波数帯の電磁波を吸収する構成とし、第2の端面側電波吸収体、第2の内周面側電波吸収体および第2の衝立側電波吸収体は、低周波側の第2の周波数帯の電磁波を吸収する構成とした。ここで、一般的に高周波側の電磁波を吸収する電波吸収体はピラミッド形状に形成されると共に、その突出寸法が大きい。このため、例えば筒状部材の内周側に位置する第2の内周面側電波吸収体が高周波側の電磁波を吸収する構成とした場合には、電波吸収体と測定用アンテナや被測定物との間の距離を十分に確保できず、電波吸収体と測定用アンテナ等との間でカップリングが生じ、電磁波の測定精度が低下するという問題がある。また、電波吸収体と測定用アンテナ等の距離を十分に確保した場合には、電波無響箱全体が大型化してしまう。
【0018】
これに対し、本発明では、第1の内周面側電波吸収体は高周波側の第1の周波数帯の電磁波を吸収する構成としたから、第1の内周面側電波吸収体は筒状部材の内部に比べて測定用アンテナ等との距離を離すことができる。このため、電波吸収体と測定用アンテナ等との間のカップリングを減少させることができ、電磁波の測定精度を高めることができると共に、電波無響箱全体を小型化することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、第1の端面側電波吸収体、第1の内周面側電波吸収体および第1の衝立側電波吸収体は、カーボンを含有した電波吸収材料を用いてピラミッド形状またはテーパ形状に形成したから、ピラミッド形状等の電波吸収体を用いて高周波側の電磁波を吸収することができる。
【0020】
一方、第2の端面側電波吸収体、第2の内周面側電波吸収体および第2の衝立側電波吸収体は、フェライト材料を用いて平板形状に形成したから、フェライト材料の電波吸収体を用いて低周波側の電磁波を吸収することができる。また、第2の内周面側電波吸収体等はフェライト材料を用いて平板形状に形成したから、電波吸収体の突出寸法を小さくすることができ、筒状部材等の内部に大きな測定空間を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態による電波無響箱を添付図面に従って詳細に説明する。
【0022】
図1ないし図14において、電波無響箱1は、例えば1〜2mm程度の厚さ寸法をもったアルミニウムの板材を用いて箱状に形成された金属筐体2と、該金属筐体2の内部に設けられた電波吸収体3とによって構成されている。そして、電波無響箱1は、外部からの電磁波を遮断すると共に、内部の電磁波の反射を防止するものである。
【0023】
ここで、金属筐体2は、幅方向(X方向)、軸方向(Y方向)、高さ方向(Z方向)に対して、それぞれ例えば50〜100cm程度の長さ寸法をもって形成されている。また、金属筐体2は、軸方向両側に位置する前壁面2A、後壁面2Bと、幅方向両側に位置する左壁面2C、右壁面2Dと、高さ方向両側に位置する天井面2E、底面2Fとを有している。このとき、前,後の壁面2A,2Bは、互いに対向した対向面を形成している。また、左,右の壁面2C,2Dも互いに対向した対向面を形成すると共に、天井面2E、底面2Fも互いに対向した対向面を形成している。
【0024】
また、左,右の壁面2C,2Dおよび天井面2E、底面2Fは軸方向に延びて四角形筒状をなすと共に、軸方向の両端側は前壁面2Aと後壁面2Bによって閉塞されている。そして、右壁面2Dには、後述する被測定物17を金属筐体2内に装着するために、ドア2Gが開,閉可能に取付けられている。
【0025】
第1の端面側電波吸収体3は、図2ないし図5に示すように、金属筐体2の軸方向両側に位置する前壁面2Aと後壁面2Bとのうち例えば前壁面2Aに設けられ、該前壁面2Aの略全面を覆っている。また、端面側電波吸収体3は、例えばカーボンを含有したウレタン材料等の電波吸収材料を用いて10〜15cm程度の突出寸法をもったピラミッド形状またはテーパ形状に形成され、金属筐体2の内部に向けて突出している。そして、端面側電波吸収体3は、被測定物17が2つの周波数帯の電磁波を放射するときに、高周波側の周波数帯の電磁波では吸収特性が高く、低周波側の周波数帯の電磁波では吸収特性が低い構成となっている。具体的に説明すると、例えば被測定物17として800MHz帯、1.9GHz帯の2つの周波数帯の電磁波を放射可能な携帯電話を用いるときには、端面側電波吸収体3は、1.9GHz帯以上の周波数帯の電磁波では吸収特性が高く、1.9GHz帯よりも低い周波数帯の電磁波では吸収特性が低くなっている。このため、端面側電波吸収体3は、1.9GHz帯以上の電磁波では例えば−20dBよりも高い吸収特性を有し、1.9GHz帯よりも低い周波数帯の電磁波では−20dBよりも低い吸収特性を有する構成となっている。
【0026】
第2の端面側電波吸収体4は、金属筐体2の軸方向両側に位置する前壁面2Aと後壁面2Bとのうち第1の端面側電波吸収体3が設けられた前壁面2Aとは異なる後壁面2Bに設けられ、該後壁面2Bの略全面を覆っている。また、端面側電波吸収体4は、電磁波を吸収する材料として例えばフェライト材料を用いて平板状に形成されている。そして、端面側電波吸収体4は、被測定物17が2つの周波数帯の電磁波を放射するときに、低周波側の周波数帯の電磁波では吸収特性が高く、高周波側の周波数帯の電磁波では吸収特性が低い構成となっている。このため、端面側電波吸収体4は、例えば800MHz帯以下の周波数帯の電磁波では−20dBよりも高い吸収特性を有し、800MHz帯よりも高い周波数帯の電磁波では−20dBよりも低い吸収特性を有する構成となっている。
【0027】
第1の内周面側電波吸収体5は、金属筐体2の内周面となる左壁面2C、右壁面2D、天井面2Eおよび底面2Fに設けられ、これらの略全面を覆っている。また、内周面側電波吸収体5は、端面側電波吸収体3とほぼ同様にカーボンを含有した電波吸収材料を用いてピラミッド形状等に形成されている。そして、内周面側電波吸収体5は、高周波側(1.9GHz帯以上)の周波数帯の電磁波では吸収特性が高く、低周波側(1.9GHz帯よりも低い)の周波数帯の電磁波では吸収特性が低くなっている。
【0028】
保持筒体6は、金属筐体2の内部に位置して軸方向に移動可能に設けられている。また、保持筒体6は、例えば略四角形の筒状に形成され、軸方向の両端側が開放されている。さらに、保持筒体6は、幅方向両側に位置する左壁面6A、右壁面6Bと、高さ方向両側に位置する天井面6C、底面6Dとを有している。そして、保持筒体6は、後述する衝立部材12を金属筐体2の前壁面2A側に配置したときに、その内部に衝立部材12を収容するものである。
【0029】
筒状部材7は、金属筐体2の内部に位置して軸方向に移動可能に設けられている。また、筒状部材7は、軸方向途中位置で分割可能な第1,第2の分割筒体8,9によって構成されている。ここで、分割筒体8,9は、例えば略四角形の筒状に形成され、軸方向の両端側が開放されている。そして、分割筒体8,9は、幅方向両側に位置する左壁面8A,9A、右壁面8B,9Bと、高さ方向両側に位置する天井面8C,9C、底面8D,9Dとを有している。また、分割筒体8,9は、保持筒体6と略同じ大きさで同じ形状に形成されているものの、保持筒体6に比べて軸方向の長さ寸法が大きくなっている。
【0030】
さらに、保持筒体6、分割筒体8,9の底面6D,8D,9Dには、金属筐体2の底面2Fとの間に位置して各筒体6,8,9を軸方向に移動させるための移動機構10が設けられている。このとき、移動機構10は、金属筐体2の底面2F上に設けられた2本のレール10Aと、筒体6,8,9の底面6D,8D,9Dに設けられ該レール10Aに沿って移動する車輪10Bとによって構成されている。また、レール10Aは、金属筐体2の軸方向に沿って直線状に延びている。一方、車輪10Bは、レール10Aによって支持された状態で、レール10Aに沿って軸方向に進行する。このため、筒体6,8,9は、移動機構10によって、軸方向に向けて円滑に移動する構成となっている。
【0031】
そして、高周波側(1.9GHz帯以上)の周波数帯の特性を測定するときには、保持筒体6および第1の分割筒体8は例えば金属筐体2の前壁面2A側に配置される。一方、第2の分割筒体9は、第2の端面側電波吸収体4を覆った状態で後述の衝立部材12を保持するために、例えば金属筐体2の後壁面2B側に配置される。このとき、第2の分割筒体9内には、衝立部材12が収容される。これにより、分割筒体8,9は、金属筐体2の軸方向両端側に互いに分離した状態で配置される。
【0032】
一方、低周波側(800MHz帯以上)の周波数帯の特性を測定するときには、保持筒体6は、第1の端面側電波吸収体3を覆った状態で後述の衝立部材12を保持するために、例えば金属筐体2の前壁面2A側に配置される。このとき、保持筒体6内には、衝立部材12が収容される。また、第1,第2の分割筒体8,9は、金属筐体2の軸方向中央側に位置して、互いに衝合した状態で配置される。
【0033】
第2の内周面側電波吸収体11は、各筒体6,8,9の内周面に設けられ、これらの略全面を覆っている。このため、内周面側電波吸収体11は、分割筒体6,8,9の左壁面6A,8A,9A、右壁面6B,8B,9B、天井面6C,8C,9Cおよび底面6D,8D,9Dに設けられている。また、内周面側電波吸収体11は、端面側電波吸収体4とほぼ同様にフェライト材料を用いて平板状に形成されている。そして、内周面側電波吸収体11は、低周波側(800MHz帯以下)の周波数帯の電磁波では吸収特性が高く、高周波側(800MHz帯よりも高い)の周波数帯の電磁波では吸収特性が低くなっている。
【0034】
衝立部材12は、軸方向と直交した平面(XZ平面)を有する平板状に形成され、金属筐体2の内部に位置して軸方向に対して第1,第2の端面側電波吸収体3,4の間に配置されている。また、衝立部材12は、筒状部材7の開口面積よりも小さい面積を有して筒状部材7の開口を塞ぐと共に、筒状部材7の内部を通過して軸方向に移動可能に設けられている。
【0035】
さらに、衝立部材12の底部には、各筒体6,8,9の底面6D,8D,9Dとの間に位置して衝立部材12を軸方向に移動させるための移動機構13が設けられている。このとき、移動機構13は、筒体6,8,9の内部に位置して底面6D,8D,9D上に設けられた2本のレール13Aと、衝立部材12の底部に設けられ該レール13Aに沿って移動する車輪13Bとによって構成されている。また、レール13Aは、筒体6,8,9毎に分割されるものの、分割筒体6,8,9が連結されたときに互いに接続されて金属筐体2の軸方向に沿って直線状に延びる構成となっている。一方、車輪13Bは、レール13Aによって支持された状態で、レール13Aに沿って軸方向に進行する。このため、衝立部材12は、移動機構13によって、筒状部材7の内部を軸方向に向けて円滑に移動する構成となっている。
【0036】
第1の衝立側電波吸収体14は、衝立部材12のうち第1の端面側電波吸収体3と対向した前面に設けられている。また、衝立側電波吸収体14は、端面側電波吸収体3とほぼ同様にカーボンを含有した電波吸収材料を用いてピラミッド形状等に形成され、衝立部材12の後面を略全面に亘って覆っている。そして、衝立側電波吸収体14は、高周波側(1.9GHz帯以上)の周波数帯の電磁波では吸収特性が高く、低周波側(1.9GHz帯よりも低い)の周波数帯の電磁波では吸収特性が低くなっている。
【0037】
さらに、衝立側電波吸収体14は、衝立部材12と一緒に軸方向に移動すると共に、衝立部材12が前壁面2A側に配置されたときには、端面側電波吸収体3と接近した状態で対面する。このとき、衝立側電波吸収体14は、その突出端部(ピラミッド形状の頂点部分)が端面側電波吸収体3の突出端部と接触(干渉)しないように、Z方向およびX方向に対して互い違いに配置されている。これにより、端面側電波吸収体3と衝立側電波吸収体14とが軸方向に重なり合ったときに、これらの電波吸収体3,14を合計した軸方向寸法を小さくすることができる。この結果、衝立部材12が必要以上に金属筐体2内に進入することがなくなるから、衝立部材12と測定用アンテナ19等との干渉を防ぐことができると共に、金属筐体2の軸方向寸法を小さくすることができる。
【0038】
第2の衝立側電波吸収体15は、衝立部材12のうち第2の端面側電波吸収体4と対向した後面に設けられている。また、衝立側電波吸収体15は、端面側電波吸収体4とほぼ同様にフェライト材料を用いた平板状に形成され、衝立部材12の後面を略全面に亘って覆っている。そして、衝立側電波吸収体15は、低周波側(800MHz帯以下)の周波数帯の電磁波では吸収特性が高く、高周波側(800MHz帯よりも高い)の周波数帯の電磁波では吸収特性が低くなっている。
【0039】
被測定物固定治具16は、金属筐体2の後壁面2B側に設けられている。また、被測定物固定治具16は、金属筐体2の天井面2Eから垂下した状態で取付けられ、その先端に被測定物17を取付けるための固定台座16Aが設けられている。そして、被測定物固定治具16は、例えば2軸方向に回転する回転機構(図示せず)を備え、2軸ポジショナを構成している。このため、被測定物固定治具16は、被測定物17を高さ方向(Z方向)に平行なO1軸周りで方位角θ方向に回転させると共に、軸方向(Y方向)に平行なO2軸周りで仰角φ方向に回転させる構成となっている。
【0040】
また、被測定物固定治具16は、高さ方向に向けて変位可能に取付けられ、金属筐体2内に進退可能な構成となっている。このため、被測定物固定治具16は、筒状部材7および衝立部材12を軸方向に移動させるときには、金属筐体2内から退出し、被測定物17の電磁波特性を測定するときには、金属筐体2内に進入する。
【0041】
被測定物17は、被測定物固定治具16の固定台座16Aに取付けられ、図2および図6に示すように、O1軸とO2軸との2軸周りに回転する。また、被測定物17は、例えば携帯電話、携帯端末等によって構成されると共に、放射効率を測定する測定対象としての被測定アンテナ17Aを備えている。このとき、被測定アンテナ17Aは、例えばホイップアンテナ、内蔵のチップアンテナ等によって構成されている。また、被測定物17には、例えば800MHz帯および1.9GHz帯のように複数の周波数帯の電磁波を放射することができる携帯電話等が適用される。なお、被測定物17は2つの周波数帯の電磁波を放射するものとして例示したが、2つ以上の周波数帯の電磁波を放射する構成としてもよい。
【0042】
アンテナ取付治具18は、図2および図3に示すように、金属筐体2の前壁面2A側に設けられている。また、アンテナ取付治具18は、被測定物固定治具16と同様に金属筐体2の天井面2Eから垂下した状態で取付けられると共に、その先端には後述の測定用アンテナ19が取付けられる。そして、アンテナ取付治具18は、測定用アンテナ19によって測定する偏波(水平偏波、垂直偏波)を切換える構成となっている。
【0043】
また、アンテナ取付治具18は、被測定物固定治具16と同様に、高さ方向に向けて変位可能に取付けられ、金属筐体2内に進退可能な構成となっている。このため、アンテナ取付治具18は、筒状部材7および衝立部材12を軸方向に移動させるときには、金属筐体2内から退出し、被測定物17の電磁波特性を測定するときには、金属筐体2内に進入する。
【0044】
測定用アンテナ19は、金属筐体2の内部で例えば軸方向のうち前壁面2A側に設けられている。また、測定用アンテナ19は、アンテナ取付治具18の先端側に取付けられ、被測定物17と軸方向(Y方向)で所定の距離寸法だけ離間した位置に対向した状態で配置されている。ここで、測定用アンテナ19は、例えば小型バイコニカルアンテナによって構成され、水平偏波と垂直偏波とのうちいずれか一方を選択的に測定する。また、測定用アンテナ19は、後述のネットワークアナライザ20に接続されている。
【0045】
ネットワークアナライザ20は、被測定物17(被測定アンテナ17A)が放射する電磁界を測定する電磁界測定器を構成し、高周波ケーブル20Aを通じて被測定アンテナ17Aに接続されると共に、高周波ケーブル20Bを通じて測定用アンテナ19に接続されている。そして、ネットワークアナライザ20は、被測定アンテナ17Aから送信した電磁波(高周波信号)を測定用アンテナ19を用いて受信する。これにより、ネットワークアナライザ20は、被測定アンテナ17Aに供給した電力と測定用アンテナ19から受信した電力との比率を演算し、空間の損失分に相当するS行列のパラメータS21を測定する。
【0046】
本実施の形態による電波無響箱1は上述のように構成されるものであり、次に測定用アンテナ19を用いて測定する電磁波の周波数帯を高周波側(1.9GHz帯)と低周波側(800MHz帯)とで切換える測定周波数帯の切換方法について説明する。
【0047】
まず、電波無響箱1は、高周波側(1.9GHz帯)の周波数帯の電磁波を測定する構成について説明する。この場合、図2に示すように、筒状部材7の分割筒体8,9を金属筐体2の軸方向両端側に分離して配置し、衝立部材12を分割筒体9の内部に収容した状態で金属筐体2の後壁面2B側に配置する。また、被測定物固定治具16およびアンテナ取付治具18を分割筒体8,9を避けた位置として軸方向に離間した分割筒体8,9の間に配置し、第1の端面側電波吸収体3と第1の衝立側電波吸収体14との間に配置する。これにより、被測定物17および測定用アンテナ19は、第1の内周面側電波吸収体5によって取囲まれると共に、電波吸収体3,14によって軸方向両側が挟まれる。このため、被測定物17と測定用アンテナ19との間の一次反射面は、高周波側の周波数帯の電磁波を吸収する電波吸収体3,5,14によって覆われる。
【0048】
次に、高周波用の電波吸収体3,5,14(図2の状態)を低周波用の電波吸収体4,11,15(図3の状態)に切換える手順について、図7ないし図10を参照しつつ説明する。
【0049】
まず、金属筐体2のドア2Gを開き、被測定物固定治具16から被測定物17を取外すと共に、アンテナ取付治具18から測定用アンテナ19を取外す。その後、図7に示すように、被測定物固定治具16およびアンテナ取付治具18を引上げ、これらを金属筐体2内から退出させる。これにより、筒状部材7および衝立部材12は軸方向に移動可能な状態となる。
【0050】
次に、図8に示すように、分割筒体9を後壁面2B側から前壁面2A側に向けて軸方向に移動させる。このとき、分割筒体9の内部には、衝立部材12が収容されている。このため、衝立部材12も、分割筒体9と一緒に前壁面2A側に向けて軸方向に移動する。
【0051】
そして、前壁面2A側に移動した分割筒体9は、分割筒体8の端部に衝合し、筒体6,8に連結される。これにより、移動機構13のレール13Aは、筒体6,8,9の底面6D,8D,9D上で接続される。
【0052】
次に、車輪13Bがレール13Aに沿って移動することによって、衝立部材12は、図9に示すように、分割筒体9内から保持筒体6内に移動する。これにより、第1の衝立側電波吸収体14は、前壁面2Aに設けられた第1の端面側電波吸収体3に接近し、互いに重なり合った状態で配置される。一方、第2の衝立側電波吸収体15は前壁面2A側に位置するのに対し、第2の端面側電波吸収体4は後壁面2Bに設けられている。このため、電波吸収体4,15は、金属筐体2の軸方向両端側にそれぞれ配置される。
【0053】
次に、図10に示すように、被測定物固定治具16を引き下げて、金属筐体2の内部に進入させる。この状態で、筒状部材7の分割筒体8,9を金属筐体2の軸方向中央側に移動させる。このとき、衝立部材12は、保持筒体6と一緒に金属筐体2の前壁面2A側に保持される。また、分割筒体8,9の端面は互いに衝合しているから、分割筒体8,9は互いに連結された状態となる。そして、被測定物固定治具16の固定台座16Aは、分割筒体9の内部に配置される。
【0054】
次に、アンテナ取付治具18を引き下げて、金属筐体2の内部に進入させる。これにより、被測定物固定治具16とアンテナ取付治具18との間には、分割筒体8,9(筒状部材7)が挟まれた状態で配置される。
【0055】
最後に、図3に示すように、被測定物固定治具16の固定台座16Aに被測定物17を取付けると共に、アンテナ取付治具18に測定用アンテナ19を取付ける。これにより、筒状部材7は金属筐体2の軸方向中央側に配置され、衝立部材12は保持筒体6の内部に収容された状態で金属筐体2の軸方向の前壁面2A側に配置される。また、被測定物固定治具16およびアンテナ取付治具18は、筒状部材7を挟んだ状態で第2の端面側電波吸収体4と第2の衝立側電波吸収体15との間に配置される。この結果、被測定物17および測定用アンテナ19は、筒状部材7の内部に位置して第2の内周面側電波吸収体11によって取囲まれると共に、電波吸収体4,15によって軸方向両側が挟まれる。このため、被測定物17と測定用アンテナ19との間の一次反射面は、低周波側の周波数帯の電磁波を吸収する電波吸収体4,11,15によって覆われる。
【0056】
次に、前述とは逆に、低周波用の電波吸収体4,11,15(図3の状態)を高周波用の電波吸収体3,5,14(図2の状態)に切換える手順について、図11ないし図14を参照しつつ説明する。
【0057】
まず、金属筐体2のドア2Gを開き、被測定物固定治具16から被測定物17を取外すと共に、アンテナ取付治具18から測定用アンテナ19を取外す。その後、図11に示すように、アンテナ取付治具18を引上げて金属筐体2内から退出させる。これにより、筒状部材7は軸方向で前壁面2A側に向けて移動可能な状態となる。そこで、保持筒体6に接触する位置まで、筒状部材7を前壁面2A側に移動させる。このとき、保持筒体6は、分割筒体8の端部に衝合し、分割筒体8,9に連結される。このため、移動機構13のレール13Aは、筒体6,8,9の底面6D,8D,9D上で接続される。そして、筒状部材7が移動した後に、被測定物固定治具16を引上げて金属筐体2内から退出させる。
【0058】
次に、図12に示すように、保持筒体6を筒状部材7と一緒に前壁面2A側から後壁面2B側に向けて軸方向に移動させる。このとき、保持筒体6の内部には、衝立部材12が収容されている。このため、衝立部材12も、保持筒体6と一緒に後壁面2B側に向けて軸方向に移動する。そして、筒体6,8,9が連結した状態で、分割筒体9が後壁面2Bに接触(衝合)するまで、これらの筒体6,8,9を後壁面2B側に移動させる。
【0059】
次に、車輪13Bがレール13Aに沿って移動することによって、衝立部材12は、図13に示すように、保持筒体6内から分割筒体9内に移動する。これにより、第2の衝立側電波吸収体15は、後壁面2Bに設けられた第2の端面側電波吸収体4に接近し、互いに重なり合った状態で配置される。一方、第1の衝立側電波吸収体14は後壁面2B側に位置するのに対し、第1の端面側電波吸収体3は前壁面2Aに設けられている。このため、電波吸収体3,14は、金属筐体2の軸方向両端側にそれぞれ配置される。
【0060】
次に、図14に示すように、保持筒体6および分割筒体8を前壁面2A側に移動させる。これにより、分割筒体8,9の間には、第1の内周面側電波吸収体5が露出した空間が画成される。
【0061】
次に、被測定物固定治具16およびアンテナ取付治具18を引き下げて、金属筐体2の内部に進入させる。このとき、被測定物固定治具16およびアンテナ取付治具18は、分割筒体8,9を避けた位置として軸方向に対して分割筒体8,9の間に配置される。
【0062】
最後に、図2に示すように、被測定物固定治具16の固定台座16Aに被測定物17を取付けると共に、アンテナ取付治具18に測定用アンテナ19を取付ける。これにより、分割筒体8,9は金属筐体2の軸方向両端側に分離して配置され、衝立部材12は分割筒体9の内部に収容された状態で金属筐体2の後壁面2B側に配置される。また、被測定物固定治具16およびアンテナ取付治具18は、軸方向に離間した分割筒体8,9の間に位置して第1の端面側電波吸収体3と第1の衝立側電波吸収体14との間に配置される。この結果、被測定物17と測定用アンテナ19との間の一次反射面は、高周波側の周波数帯の電磁波を吸収する電波吸収体3,5,14によって覆われる。
【0063】
本実施の形態による電波無響箱1は上述のように構成されるものであり、次に該電波無響箱1を用いたアンテナ特性(アンテナ放射効率)の測定方法について説明する。
【0064】
まず、金属筐体2の内部は、図2に示すように、例えば高周波用の電波吸収体3,5,14が露出した状態にする。この状態で、被測定物固定治具16に対して被測定物17を取付ける。このとき、被測定物17は水平な状態で設置する。また、測定を開始する前に、ネットワークアナライザ20は、被測定物17に接続する高周波ケーブル20Aと測定用アンテナ19に接続する高周波ケーブル20Bとを直結し、高周波ケーブル20A,20Bによる損失分だけ目盛りの修正(キャリブレーション)を行う。
【0065】
次に、被測定物固定治具16を用いて、被測定物17の姿勢を方位角θと仰角φがいずれも0°の位置で固定する。この状態で、ネットワークアナライザ20を用いて、被測定物17(被測定アンテナ17A)から高周波側の周波数帯(1.9GHz帯)の電磁波を放射すると共に、放射した水平偏波を測定用アンテナ19によって受信し、このときのパラメータS21(R0,0°,0°)を測定する。そして、被測定物17の1つの姿勢でパラメータS21(R0,θ,φ)の測定が終了すると、被測定物固定治具16を用いて、被測定物17の方位角θを10°増加させて再びパラメータS21(R0,10°,0°)の測定を行う。この操作を方位角θが0°〜360°の範囲で繰返す。
【0066】
そして、被測定物17を方位角θ方向に1周分だけ回転させた後には、ネットワークアナライザ20を用いて、被測定物17(被測定アンテナ17A)から放射される垂直偏波を測定用アンテナ19によって受信する。このとき、アンテナ取付治具18を用いて、測定用アンテナ19によって測定する偏波を水平偏波から垂直偏波に切換える。この状態で、前述した水平偏波のときと同様に、再び被測定物17の仰角φを0°に固定した状態で、被測定物17を方位角θ方向に回転させる。これにより、方位角θが0°〜360°の範囲で例えば10°毎に方位角θ方向のパラメータS21(R,θ,0°)を測定する。
【0067】
仰角φを0°に固定した場合の測定が終了した後には、被測定物固定治具16を用いて、被測定物17の仰角φを10°増加させる。この状態で再び方位角θが0°〜360°の範囲で10°毎に変化させて、水平偏波および垂直偏波に対するパラメータS21(R,θ,10°)の測定を行う。以上の操作を、方位角θが0°〜360°の範囲および仰角φが0°〜180°の範囲で繰返し、それぞれの方位角θと仰角φにおけるパラメータS21(R,θ,φ)を測定する。
【0068】
そして、全ての方位角θおよび仰角φに対する測定が終了すると、各方位角θおよび仰角φ毎に水平偏波の測定結果の2乗S212(R,θ,φ)と垂直偏波の測定結果の2乗S212(R,θ,φ)とを加算し、最終的なパラメータS21の2乗S212(R,θ,φ)を算出する。このとき、水平偏波の測定結果と垂直偏波の測定結果とは、ネットワークアナライザ20によって測定した対数表示(dB)の測定値ではなく、真数に変換した数値で加算を行う。
【0069】
最後に、水平偏波の測定結果および垂直偏波の測定結果に基づくパラメータS21(R,θ,φ)を全空間に対して球面積分し、被測定物17の放射効率η(被測定アンテナ17Aのアンテナ特性)を以下の数1の式に基づいて算出する。
【0070】
【数1】

【0071】
なお、数1の式において、λ0は測定周波数の波長を示し、Gは測定用アンテナ19の利得を示している。また、Δφは仰角φ方向の測定角度ステップを示し、本実施の形態はΔφは10°(Δφ=π/18[ラジアン])となっている。さらに、Δθは方位角θ方向の測定角度ステップを示し、本実施の形態では例えばΔθは10°(Δθ=π/18[ラジアン])となっている。
【0072】
そして、被測定物17に対する高周波側の周波数帯(1.9GHz帯)の測定が終了した後には、図3に示すように、電波無響箱1の高周波用の電波吸収体3,5,14を低周波用の電波吸収体4,11,15に切換える。この状態で、前述した測定手順を繰返すことによって、被測定物17に対する低周波側の周波数帯(800MHz帯)の測定を行う。この結果、単一の電波無響箱1を用いて2つの周波数帯の測定を行うことができる。
【0073】
かくして、本実施の形態では、金属筐体2の軸方向の前壁面2Aに第1の端面側電波吸収体3を設け、金属筐体2の内周面に第1の内周面側電波吸収体5を設けるのに加え、軸方向に移動可能な衝立部材12には第1の端面側電波吸収体3と対向した前面に第1の衝立側電波吸収体14を設ける構成とした。これにより、例えば衝立部材12を金属筐体2の軸方向の後壁面2B側に配置することによって、金属筐体2の内部には高周波側の周波数帯(1.9GHz帯)の電磁波を吸収する空間を確保することができる。このため、この金属筐体2内の空間を用いることによって、高周波側の周波数帯の電磁波に対する特性を測定することができる。
【0074】
また、筒状部材7の内周面には第2の内周面側電波吸収体11を設けると共に、衝立部材12には第2の端面側電波吸収体4と対向した後面に第2の衝立側電波吸収体15を設ける構成とした。これにより、例えば衝立部材12を金属筐体2の軸方向の前壁面2A側に配置することによって、筒状部材7の内部には低周波側の周波数帯(800MHz帯)の電磁波を吸収する空間を確保することができる。このため、この筒状部材7内の空間を用いることによって、低周波側の周波数帯の電磁波に対する特性を測定することができる。
【0075】
この結果、単一の電波無響箱1内で互いに異なる2つの周波数帯の電磁波を測定することができる。このため、例えばマルチバンドの携帯電話のように、2つの周波数帯の電磁波を放射する被測定物17の特性を評価する場合でも、単一の電波無響箱1内で全ての周波数帯の電磁波を測定することができ、従来技術のように複数の電波無響箱を用いて測定する必要がなく、測定作業の効率を高めることができる。
【0076】
また、金属筐体2には、被測定物17を支持する被測定物固定治具16と測定用アンテナ19を支持するアンテナ取付治具18とを設ける構成とした。このため、高周波側の周波数帯の特性を測定するときには、筒状部材7を金属筐体2の軸方向両端側に配置すると共に、衝立部材12を金属筐体2の軸方向の後壁面2B側に配置する。これにより、金属筐体2の軸方向のうち第1の端面側電波吸収体3と第1の衝立側電波吸収体14との間には、高周波側の周波数帯の電磁波を吸収する空間を確保することができる。このため、この空間内に被測定物固定治具16およびアンテナ取付治具18を配置することによって、高周波側の周波数帯の特性を測定することができる。
【0077】
一方、低周波側の周波数帯の特性を測定するときには、筒状部材7を金属筐体2の軸方向中央側に配置すると共に、衝立部材12を金属筐体2の軸方向の前壁面2A側に配置する。これにより、筒状部材7の内部に位置して金属筐体2の軸方向のうち第2の端面側電波吸収体4と第2の衝立側電波吸収体15との間には、低周波側の周波数帯の電磁波を吸収する空間を確保することができる。このため、被測定物固定治具16およびアンテナ取付治具18を筒状部材7の軸方向両端側に配置することによって、低周波側の周波数帯の特性を測定することができる。
【0078】
また、筒状部材7は、軸方向途中位置で分割可能な2つの分割筒体8,9によって構成した。このため、高周波側の周波数帯の特性を測定するときには、分割筒体8,9は金属筐体2の軸方向両端側に互いに分離した状態で配置することができる。一方、低周波側の周波数帯の特性を測定するときには、金属筐体2の軸方向中央側に互いに衝合した状態で配置することができる。
【0079】
また、高周波側の周波数帯の電磁波を吸収する内周面側電波吸収体11はフェライト材料を用いて形成されているため、比較的重量が重く、動かし難い傾向がある。これに対し、本実施の形態では、筒状部材7を2つの分割筒体8,9に分割したから、それぞれの分割筒体8,9の重量を軽量化することができ、分割筒体8,9を容易に移動させることができる。
【0080】
さらに、金属筐体2等に設けられた電波吸収体3,5,14は高周波側の周波数帯の電磁波を吸収する構成とし、筒状部材7等に設けられた電波吸収体4,11,15は、低周波側の周波数帯の電磁波を吸収する構成とした。ここで、一般的に高周波側の電磁波を吸収する電波吸収体はピラミッド形状に形成されると共に、その突出寸法が大きい。このため、例えば筒状部材7の内周側に位置する第2の内周面側電波吸収体11が高周波側の電磁波を吸収する構成とした場合には、電波吸収体11と測定用アンテナ19や被測定物17との間の距離を十分に確保できず、電波吸収体11と測定用アンテナ19等との間でカップリングが生じ、電磁波の測定精度が低下するという問題がある。また、電波吸収体11と測定用アンテナ19等の距離を十分に確保した場合には、電波無響箱1全体が大型化してしまう。
【0081】
これに対し、本実施の形態では、金属筐体2の内周面に設けた第1の内周面側電波吸収体5が高周波側の周波数帯の電磁波を吸収する構成としたから、第1の内周面側電波吸収体5は筒状部材7の内部に比べて測定用アンテナ19等との距離を離すことができる。このため、電波吸収体5と測定用アンテナ19等との間のカップリングを減少させることができ、電磁波の測定精度を高めることができると共に、電波無響箱1全体を小型化することができる。
【0082】
また、電波吸収体3,5,14は、カーボンを含有した電波吸収材料を用いてピラミッド形状またはテーパ形状に形成したから、ピラミッド形状等の電波吸収体3,5,14を用いて高周波側の電磁波を吸収することができる。
【0083】
一方、電波吸収体4,11,15は、フェライト材料を用いて平板形状に形成したから、フェライト材料の電波吸収体4,11,15を用いて低周波側の電磁波を吸収することができる。また、第2の内周面側電波吸収体11等はフェライト材料を用いて平板形状に形成したから、電波吸収体11の突出寸法を小さくすることができ、筒状部材7等の内部に大きな測定空間を確保することができる。
【0084】
さらに、筒状部材7および衝立部材12にはレール10A,13Aおよび車輪10B,13Bからなる移動機構10,13を設けた。このため、フェライト材料からなる電波吸収体11,15の重量が重いときでも、電波吸収体11,15が設けられた筒状部材7および衝立部材12を容易に軸方向に移動させることができる。このため、電波吸収体3,5,14と電波吸収体4,11,15との切換作業を容易かつ円滑に行うことができ、作業性を向上することができる。
【0085】
なお、前記実施の形態では、電波吸収体3,5,14はピラミッド形状またはテーパ形状に形成するものとしたが、例えば従来技術と同様に平板状(シート状)に形成してもよい。この場合、金属筐体2等に設けた電波吸収体3,5,14によって低周波側の周波数帯の電磁波を吸収し、筒状部材7等に設けた電波吸収体4,11,15によって高周波側の周波数帯の電磁波を吸収する構成としてもよい。
【0086】
また、前記実施の形態では、被測定物17は800MHz帯および1.9GHz帯の2つの周波数帯の電磁波を放射する構成としたが、他の周波数帯(例えば、900MHz帯、1.5GHz帯、2.5GHz帯、5GHz帯等)の電磁波を放射する構成としてもよい。
【0087】
また、前記実施の形態では、電波吸収体3,5,14と電波吸収体4,11,15とは、互いに異なる1つの周波数帯(1.9GHz帯と800MHz帯)をそれぞれ吸収する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば電波吸収体3,5,14は、高周波側の4つの周波数帯(1.5GHz帯、1.9GHz帯、2.5GHz帯、5GHz帯)の電磁波を吸収すると共に、電波吸収体4,11,15は、低周波側の2つの周波数帯(800MHz帯、900MHz帯)の電磁波を吸収する構成としてもよい。これにより、被測定物17が3つ以上の周波数帯の電磁波を放射する場合でも、この被測定物17の特性を単一の電波無響箱1を用いて測定することができる。
【0088】
さらに、前記実施の形態では、被測定物17として携帯電話を用いる構成としたが、電磁波を放射する他の機器を用いる構成としてもよい。また、前記実施の形態では、測定用アンテナ19としてバイコニカルアンテナを用いる構成としたが、他の形式のアンテナを用いる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施の形態による電波無響箱を示す斜視図である。
【図2】高周波側の周波数帯を測定するときの電磁無響箱を図1中の矢示II−II方向からみた断面図である。
【図3】低周波側の周波数帯を測定するときの電磁無響箱を示す図2と同様位置の断面図である。
【図4】電磁無響箱を図3中の矢示IV−IV方向からみた断面図である。
【図5】電磁無響箱を図3中の矢示V−V方向からみた断面図である。
【図6】図2中の被測定物の周囲を拡大して示す斜視図である。
【図7】図2中の被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を引き上げた状態を示す断面図である。
【図8】図7中の第2の分割筒体を前壁面側に移動させた状態を示す断面図である。
【図9】図8中の衝立部材を前壁面側に移動させると共に、被測定物固定治具を引き下げた状態を示す断面図である。
【図10】図9中の筒状部材を金属筐体の軸方向中央側に移動させた状態を示す断面図である。
【図11】図3中の被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を引き上げると共に、筒状部材を前壁面側に移動させた状態を示す断面図である。
【図12】図11中の保持筒体および筒状部材を後壁面側に移動させた状態を示す断面図である。
【図13】図12中の衝立部材を後壁面側に移動させた状態を示す断面図である。
【図14】図13中の保持筒体および第1の分割筒体を前壁面側に移動させた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 電波無響箱
2 金属筐体
3 第1の端面側電波吸収体
4 第2の端面側電波吸収体
5 第1の内周面側電波吸収体
6 保持筒体
7 筒状部材
8,9 分割筒体
11 第2の内周面側電波吸収体
12 衝立部材
14 第1の衝立側電波吸収体
15 第2の衝立側電波吸収体
16 被測定物固定治具
17 被測定物
18 アンテナ取付治具
19 測定用アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向両端が閉塞された筒状に形成された金属筐体と、
該金属筐体の軸方向の一側端面に設けられ第1の周波数帯の電磁波を吸収する第1の端面側電波吸収体と、
前記金属筐体の軸方向の他側端面に設けられ第2の周波数帯の電磁波を吸収する第2の端面側電波吸収体と、
前記金属筐体の内周面に設けられ第1の周波数帯の電磁波を吸収する第1の内周面側電波吸収体と、
前記金属筐体の内部に位置して軸方向に移動可能に設けられた筒状部材と、
該筒状部材の内周面に設けられ第2の周波数帯の電磁波を吸収する第2の内周面側電波吸収体と、
前記金属筐体の内部で前記第1,第2の端面側電波吸収体の間に位置し、該筒状部材を通過して軸方向に移動可能に設けられた平板状の衝立部材と、
該衝立部材のうち前記第1の端面側電波吸収体と対向した面に設けられ第1の周波数帯の電磁波を吸収する第1の衝立側電波吸収体と、
前記衝立部材のうち前記第2の端面側電波吸収体と対向した面に設けられ第2の周波数帯の電磁波を吸収する第2の衝立側電波吸収体とによって構成してなる電波無響箱。
【請求項2】
前記金属筐体には、被測定物を支持する被測定物固定治具と測定用アンテナを支持するアンテナ取付治具とを設け、
前記第1の周波数帯の特性を測定するときには、前記筒状部材を金属筐体の軸方向端部側に配置し、前記衝立部材を金属筐体の軸方向の他側端面側に配置し、かつ前記被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を前記筒状部材を避けた位置で第1の端面側電波吸収体と第1の衝立側電波吸収体との間に配置する構成とし、
前記第2の周波数帯の特性を測定するときには、前記筒状部材を金属筐体の軸方向中央側に配置し、前記衝立部材を金属筐体の軸方向の一側端面側に配置し、かつ前記被測定物固定治具およびアンテナ取付治具を前記筒状部材を挟んだ位置で第2の端面側電波吸収体と第2の衝立側電波吸収体との間に配置する構成としてなる請求項1に記載の電波無響箱。
【請求項3】
前記筒状部材は、軸方向途中位置で分割可能な複数の分割筒体によって構成され、
該複数の分割筒体は、前記第1の周波数帯の特性を測定するときには、前記金属筐体の軸方向両端側に互いに分離した状態で配置し、前記第2の周波数帯の特性を測定するときには、前記金属筐体の軸方向中央側に互いに衝合した状態で配置する構成としてなる請求項2に記載の電波無響箱。
【請求項4】
前記第1の端面側電波吸収体、第1の内周面側電波吸収体および第1の衝立側電波吸収体は、高周波側の第1の周波数帯の電磁波を吸収する構成とし、
前記第2の端面側電波吸収体、第2の内周面側電波吸収体および第2の衝立側電波吸収体は、前記第1の周波数帯よりも低い低周波側の第2の周波数帯の電磁波を吸収する構成としてなる請求項1,2または3に記載の電波無響箱。
【請求項5】
前記第1の端面側電波吸収体、第1の内周面側電波吸収体および第1の衝立側電波吸収体は、カーボンを含有した電波吸収材料を用いてピラミッド形状またはテーパ形状に形成し、
前記第2の端面側電波吸収体、第2の内周面側電波吸収体および第2の衝立側電波吸収体は、フェライト材料を用いて平板形状に形成してなる請求項4に記載の電波無響箱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−63427(P2009−63427A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231531(P2007−231531)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】