説明

電波発射源可視化方法および装置

【課題】電波発射源の部位と、そこから発射される電波の周波数とを、容易に特定する。
【解決手段】電波発射源からの電波を受信する複数のアンテナ素子1a〜1bからなるアレーアンテナ2と、このアレーアンテナ2およびリファレンスアンテナ4で受信した電波ダウンコンバートする周波数変換部5と、アナログ信号をディジタル信号に変換するA−D変換部6と、到来方向推定処理部7と、この到来方向推定処理部7の出力位置情報とカメラ部8によって撮影された撮影画像とを合成する画像合成処理部9と、この画像合成処理部9から受けた合成画像を表示する表示部10とから構成され、前記到来方向推定処理部は到来方向推定処理に用いた複数の電波の周波数を抽出すると共に、抽出された周波数に対して、前記画像合成処理部において、各周波数に対応する異なる色情報を付与することにより、前記複数の電波の到来方向と共に電波の周波数を色表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、違法電波の監視分野や機器から発する不要輻射の解析分野などで使用される電波発射源の部位を特定する電波発射源可視化方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波発射源を特定するためには、指向性アンテナや電界プローブなどと受信機とを用いて、受信レベルが最大となる部位を探索し、いわば、手探りで電波発射源の部位を特定していた。
【0003】
また、数学的手法を用いて、その演算結果を可視化し、電波発射源の部位を探索する技術は知られていた。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、電波ホログラフィ法により波源像を可視化して、電波発射源の部位を視覚的に探索する方法およびその装置が記載されているが、本発明の課題対象である電波発射源を容易に特定できる技術については、開示されていない。
【特許文献1】特開平9−134113
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、アレーアンテナを用いた到来方向推定装置などを使用して、電波の到来方向を推定し、発射源の近くまで突き止めることが出来ても、電波を発射している部位や場所までを特定することは、難しかった。
【0006】
また、電波発射源から複数の電波が発射されている場合、その周波数を特定することも困難であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電波発射源の部位と、そこから発射される電波の周波数とを、容易に特定することが出来る電波発射源可視化方法およびその装置を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、電波発射源から複数の電波が発射されている場合でも、その発射電波の周波数を特定することが出来る電波発射源可視化方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電波発射源可視化方法は、複数の電波発射源からの異なる周波数の電波をアレーアンテナおよびこのアレーアンテナの近傍に配置されたリファレンスアンテナにより受信するステップと、前記複数の異なる周波数を有する電波の到来方向を、前記アレーアンテナの近傍に配置されたカメラ部により撮影するステップと、前記リファレンスアンテナおよび前記アレーアンテナで受信された受信電波をダウンコンバートする周波数変換ステップと、この周波数変換された受信電波をディジタル信号に変換するA−D変換ステップと、このA−D変換されたディジタル信号により、発射電波の到来方向を探知推定する到来方向推定処理ステップと、このステップにより推定された前記複数の電波発射源からの電波到来方向を前記カメラ部によって撮影された撮影画像とを合成する画像合成処理ステップと、このステップにより得られた合成画像信号を表示する表示ステップとから構成され、前記表示部には、前記複数の電波の到来方向と共に電波の周波数を表示することを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明の電波発射源可視化装置においては、前記表示部には、前記複数の電波の周波数を異なる色で表示することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の電波発射源可視化装置は、複数の電波発射源からの異なる周波数の電波を受信するアレーアンテナと、このアレーアンテナの近傍に配置された前記複数の電波発射源からの電波を受信するリファレンスアンテナと、前記アレーアンテナの近傍に配置され、前記複数の電波発射源が含まれる被写体を撮像するカメラ部と、前記リファレンスアンテナおよび前記アレーアンテナで受信された受信電波をダウンコンバートする周波数変換部と、この周波数変換部の出力アナログ信号をディジタル信号に変換するA−D変換部と、このA−D変換部の出力ディジタル信号発射電波の到来方向を探知推定する到来方向推定処理部と、この到来方向推定処理部により推定された前記複数の異なる周波数を有する電波の到来方向をその周波数とともに、前記カメラ部によって撮影された撮影画像と合成する画像合成処理部と、この画像合成処理部の出力合成画像信号を表示する表示部とから構成され、前記表示部には、前記複数の電波の到来方向と共に電波の周波数を表示することを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明の電波発射源可視化装置においては、前記到来方向推定処理部における到来方向の推定は、2次元高速フーリエ変換を用いた演算処理で行われることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の電波発射源可視化装置においては、前記表示部には、前記複数の電波の周波数を異なる色で表示することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の電波の到来方向が、カメラ部による撮影画像と合成されて可視化表示される際に、複数の電波の発射源部位が電波の周波数に対応した異なる色により表示されるため、電波発射源の部位とともに発射源から発射される電波の周波数を容易に特定することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図1乃至図4について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態である電波発射源可視化装置の構成を示した構成ブロック図で、電波発射源(不図示)からの電波を受信する複数のアンテナ素子1a〜1bが平面上に格子状に配置されているアレーアンテナ2と、そのアレーアンテナ2において、順次受信するアンテナ素子1a〜1bを切り替えて受信するアンテナ切替部3と、その受信電波とリファレンスアンテナ4で受信した電波とを中間周波数に変換する周波数変換部5と、周波数変換されたアナログ信号をディジタル信号に変換するA−D変換部6と、発射電波の到来方向を探知推定する到来方向推定処理部7と、カメラ部8によって撮影された撮影画像、例えば、電波到来方向を含む風景などの背景となる被写体を撮影した背景画像などとを合成する画像合成処理部9と、この画像合成処理部9から受けた電波の可視化画像を表示する表示部10とから構成されている。
【0017】
なお、前記リファレンスアンテナ4およびアレーアンテナ2は、同一周波数帯が測定可能な受信アンテナであり、また、アレーアンテナ2の形状、種類、アンテナの総数、およびアンテナを配置するための間隔などは、測定対象や測定目的などにより任意である。
【0018】
さらに、アレー面の反対側から入射する電波の入感を抑えるために、アレーアンテナ2を配置する平面を反射板とすることも可能である。
【0019】
さらに、アレーアンテナ2のどれか1つをリファレンスアンテナ4として利用することも可能で、この場合には、アレーアンテナ2のアンテナ素子数が1つだけ減り、その結果、リファレンスアンテナ4を別に取り付ける機械的な構造も不要となる。
【0020】
さらに、カメラ部8をアレーアンテナ2の位相中心から離れた場所に設置する場合は、視差による補正を行うことにより、正確に合成画像を得ることができる。
【0021】
このような構成において、いま、図示しない電波発射源から電波が発射されると、その発射電波は、アレーアンテナ2で受信される。すなわち、アレーアンテナ2を構成する各アンテナ素子1a〜1bがアンテナ切替部3によって切り替え選択されて受信が行われる。リファレンスアンテナ4の受信電波と選択されたアンテナ素子1a〜1bの受信電波間の位相差が後段の到来方向推定処理部7で検出される。
【0022】
次いで、この検出された受信電波は、周波数変換部5で増幅され、さらに、AD変換可能な中間周波数に変換されてA−D変換部6に送られる。そして、このA−D変換部6では、リファレンスアンテナ4および選択されたアンテナ素子1a〜1bからの受信信号が同時サンプリングによってAD変換され、ディジタル化される。
【0023】
このディジタル化されたデーターは、到来方向推定処理部7に送られ、ここで、キャリア抽出が行われる。
【0024】
そして、この抽出された複数のキャリアに対して、電波ホログラフィー法による受信電波の到来方向推定処理が行われる。
【0025】
このように処理された到来方向の推定処理結果は、画像合成処理部9において、カメラ部8で撮影された撮影画像と重ね合わされて合成画像が作成され、その合成画像が表示部10に表示される。この合成画像は、予めカメラ部8で撮影された撮影画像の画素(ピクセル)毎に対応する方位および仰角を測定しておき、この方位および仰角に到来方向推定結果の仰角および方位角を合わせて作成される。
【0026】
すなわち、表示画像は、表示部10において、到来方向の推定処理結果が対応する撮影画像上の方位角および仰角の位置に重ね合わされて合成表示されることになる。
【0027】
この場合、図4(後記)に示すように、到来方向の推定処理結果を色表示するとともに、その推定処理結果を算出する時に用いた周波数をその表示色と対応させることにより、電波発射源から発射される周波数が視覚的に容易に特定できることになる。
【0028】
次に、到来方向推定処理部7における電波ホログラフィー法による到来方向の推定処理手順を、図2について説明する。
【0029】
図2は、電波ホログラフィー法による到来方向の推定処理手順を示したフローチャートで、ステップS1においては、リファレンスアンテナ4(図1)とアレーアンテナ2(図1)で受信された信号は、周波数変換部5(図1)およびA−D変換部6(図1)を経てディジタルデーターに変換される。
【0030】
この場合、アンテナ素子1a〜1b(図1)の素子数をN個とすると、N個のリファレンスアンテナ4のディジタルデーターと、N個のアンテナ素子数のディジタルデーターとが得られる。
【0031】
すなわち、アンテナ素子1a〜1bの素子番号をi=1、・・・・、Nとした場合、素子番号iについて、リファレンスアンテナ4のディジタルデーターとアレーアンテナ2のディジタルデーターとが得られる(但し、1素子あたりのディジタルデーターをMサンプルとする)。
【0032】
次のステップS2においては、ステップS1で得られたディジタルデーターを高速フーリエ変換(以下、FFTと呼ぶ)し、そのFFTの結果を用いて受信された複数のキャリアを抽出する。
【0033】
このキャリアの抽出はFFT結果を用いて、指定された受信レベルを超えるキャリアの周波数範囲の下限値および上限値を特定する。
【0034】
そして、抽出された各キャリアの周波数範囲において、リファレンスアンテナ4およびアレーアンテナ2のディジタルデーターを用いて、複素振幅を計算し、これらの結果から複素相関値を計算する。
【0035】
なお、前記した受信レベルの指定は、FFT結果を表示部10(図1)に表示し、その表示を元に操作員が画面上で指定できるようにしてもよい。
【0036】
次のステップS3では、ステップS2で得られた複素相関値から相関マトリックスCを得る。
【0037】
なお、この相関マトリックスCは、アレーアンテナ2の物理的な配置と同じ配列に、複素相関値を配置した数学上の行列とするものである。
【0038】
次いで、ステップS4では、ステップS3で得られた相関マトリックスCの周囲をゼロ埋めして、拡張相関マトリックスDを得る。
【0039】
この拡張相関マトリックスDは、例えば、256×256の行列などのように拡張する。
【0040】
次のステップS5では、ステップS4で得られた拡張相関マトリックスDについて、2次元FFTを行い、到来方向推定結果Eを得る。
【0041】
この到来方向推定結果Eは行列として得られ、そのm行n列は、それぞれの角度に対応している。
【0042】
なお、2次元FFTは、例えば、まず、拡張相関マトリックスDについて、1次元FFTを行い、その後、全ての列毎に1次元FFTを行う。
【0043】
次のステップS6では、ステップS5の結果から、1波毎の到来方向の推定が到来方向推定処理部7(図1)内で行われる。
【0044】
ここでは、到来方向推定結果Eとして到来方向別の推定電波強度が得られ、そこで、推定電波強度の強い方向に電波発射源があると推定される。
【0045】
最終ステップS7において、ステップS6で得られた1波毎の到来方向の推定結果から、電波ごとの着色表示処理が画像合成処理部9(図1)内で行われる。
【0046】
図3は、図2のステップS2において、FFT結果の周波数スペクトラムからキャリアを抽出する抽出処理の説明図で、縦軸を受信レベル、また、横軸を周波数として、FFT結果の周波数スペクトラムA1が線グラフで示されている。
【0047】
いま、指定された受信レベルA2では、この受信レベルA2を超えるキャリアが複数、すなわち、2キャリア存在しているが、このような場合においても、到来方向推定を行う周波数範囲A3およびA4それぞれの下限値B1,B2,および上限値C1,C2を特定することによって、複数のキャリア抽出が行われる。
【0048】
なお、FFT変換により得られた周波数スペクトラムの各周波数は単一周波数ではなく、あるバンド幅(Δf)を有している。
【0049】
図4は、本発明の表示形態を示した説明図で、同図(A)は電波発射源の部位に対応させて周波数を着色表示した表示画面、同図(B)は、表示された周波数スペクトラムの一例を示したグラフ図で、同図(B)に示したように、予め設定した受信レベル以上(スレッショールド以上)の電波周波数、例えば、バンド幅Δfを有する3周波数の受信レベルピーク値を左側(図面に対して)から青色、赤色、および黒色になるように設定し、その設定された青色、赤色、および黒色が電波発射源の部位に対応させて、同図(A)のように、表示される。
【0050】
この場合の電波周波数毎の着色表示処理は、画像合成処理部9(図1)で行われ、周波数スペクトラムの特定周波数を指定すると、その指定された周波数の色に変化するようになっている。
【0051】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、種々の変型が可能である。例えば、上記の実施形態においては、複数の電波の到来方法とともに表示するそれらの周波数を異なる色情報により表示したが、色情報以外の表示手段、例えば、数字、記号、マーク等で表示しても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態である電波発射源可視化装置の構成を示した構成ブロック図である。
【図2】本発明における電波ホログラフィー法による到来方向の推定処理手順を示したフローチャートである。
【図3】本発明によるFFT結果の周波数スペクトラムからキャリアを抽出する抽出処理の説明図である。
【図4】本発明の表示形態を示した説明図で、同図(A)は電波発射源の部位に対応させて周波数を色表示した表示画面、同図(B)は、表示された周波数スペクトラムの一例を示したグラフ図である。
【符号の説明】
【0053】
1a〜1b アンテナ素子
2 アレーアンテナ
3 アンテナ切替部
4 リファレンスアンテナ
5 周波数変換部
6 A−D変換部
7 到来方向推定処理部
8 カメラ部
9 画像合成処理部
10 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電波発射源からの異なる周波数の電波をアレーアンテナおよびこのアレーアンテナの近傍に配置されたリファレンスアンテナにより受信するステップと、前記複数の異なる周波数を有する電波の到来方向を、前記アレーアンテナの近傍に配置されたカメラ部により撮影するステップと、前記リファレンスアンテナおよび前記アレーアンテナで受信された受信電波をダウンコンバートする周波数変換ステップと、この周波数変換された受信電波をディジタル信号に変換するA−D変換ステップと、このA−D変換されたディジタル信号により、発射電波の到来方向を探知推定する到来方向推定処理ステップと、このステップにより推定された前記複数の電波発射源からの電波到来方向を前記カメラ部によって撮影された撮影画像とを合成する画像合成処理ステップと、このステップにより得られた合成画像信号を表示する表示ステップとから構成され、前記表示部には、前記複数の電波の到来方向と共に電波の周波数を表示することを特徴とする電波発射源可視化方法。
【請求項2】
前記表示部には、前記複数の電波の周波数を異なる色で表示することを特徴とする請求項1記載の電波発射源可視化方法。
【請求項3】
複数の電波発射源からの異なる周波数の電波を受信するアレーアンテナと、このアレーアンテナの近傍に配置された前記複数の電波発射源からの電波を受信するリファレンスアンテナと、前記アレーアンテナの近傍に配置され、前記複数の電波発射源が含まれる被写体を撮像するカメラ部と、前記リファレンスアンテナおよび前記アレーアンテナで受信された受信電波をダウンコンバートする周波数変換部と、この周波数変換部の出力アナログ信号をディジタル信号に変換するA−D変換部と、このA−D変換部の出力ディジタル信号発射電波の到来方向を探知推定する到来方向推定処理部と、この到来方向推定処理部により推定された前記複数の異なる周波数を有する電波の到来方向をその周波数とともに、前記カメラ部によって撮影された撮影画像と合成する画像合成処理部と、この画像合成処理部の出力合成画像信号を表示する表示部とから構成され、前記表示部には、前記複数の電波の到来方向と共に電波の周波数を表示することを特徴とする電波発射源可視化装置。
【請求項4】
前記到来方向推定処理部における到来方向の推定は、2次元高速フーリエ変換を用いた演算処理で行われることを特徴とする請求項3記載の電波発射源可視化装置。
【請求項5】
前記表示部には、前記複数の電波の周波数を異なる色で表示することを特徴とする請求項4記載の電波発射源可視化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−128667(P2008−128667A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310492(P2006−310492)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】