説明

電波発射源可視化装置及びその方法

【課題】電波発射源を視覚的に容易に特定できるよう、到来方向推定結果をよりわかりやすく表示する。
【解決手段】リファレンスアンテナ10と順次選択されるアンテナ素子A11〜A1Nのうちの一つとそれぞれ同時に受信電波の強度を測定し、後段の到来方向推定処理部50でリファレンスアンテナ10と選択されているアンテナ素子A1iの受信波間の位相差を検出する。到来方向推定処理部50では、電波ホログラフィ法によって到来方向を推定し、推定結果を二次元画像化する。一方、カメラ部80でアンテナ指向方向を撮影し、その撮影画像と到来方向推定二次元画像とを合成処理部60で合成して表示部70で表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、到来する電波の発射源を容易に特定できるように、到来方向の方位角、仰角のように二次元的な到来方向を二次元画像として出力するための電波発射源可視化装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波発射源を特定するためには、指向性アンテナや電界プローブなどと受信機を用い、受信レベルが最大となる部位を探索し、いわば手探りで電波発射源を特定していた。また、近年では、アレーアンテナ利用の到来方向推定装置等を用いて電波の到来方向を推定し、発射源の近くまで突き止めることも行われている。しかしながら、電波を発射している部位あるいは場所までは特定することは、未だ極めて困難な状況にある。
【0003】
尚、特許文献1には、電波ホログラフィ法による波源像を可視化する方法及び装置が記載されているが、本発明で課題対象とする電波発射源を容易に特定するための方法及び装置については開示されていない。
【特許文献1】特開平09−134113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べたように、従来の電波発射源可視化装置及びその方法では、電波を発射している部位あるいは場所までは特定することは、未だ極めて困難な状況にある。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、電波発射源を視覚的に容易に特定できるよう、到来方向推定結果を二次元画像化し、よりわかりやすく表示することのできる電波発射源可視化装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明に係る電波発射源可視化装置及びその方法は、互いに同一周波数帯の到来電波を受信するリファレンスアンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレーアンテナを備えるアンテナ装置から前記アレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて、前記リファレンスアンテナの受信出力と同時に導出させ、前記アレーアンテナの個々の素子出力と前記リファレンスアンテナとの同時出力から電波の到来方向を推定し、二次元画像化した到来方向推定結果を表示部に出力する。この際、カメラを推定された電波到来方向に向けて、その撮像画像を二次元画像化された到来方向推定結果と重ね合わせて表示する。
【0007】
また、前記到来方向推定を行う処理アルゴリズムには、電波ホログラフィ法を採用する。
【発明の効果】
【0008】
したがって、本発明によれば、電波発射源を視覚的に容易に特定できるよう、到来方向推定結果を二次元画像化し、よりわかりやすくなるようにカメラ画像を重ねて表示することのできる電波発射源可視化装置及びその方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る電波発射源可視化装置の構成を概略的に示すブロック図である。この装置は、リファレンスアンテナ10、アレーアンテナ20、周波数変換部30、AD変換部40、到来方向推定処理部50、画像合成処理部60、表示部70、及びカメラ部80から構成されている。
【0011】
リファレンスアンテナ10、アレーアンテナ20は、同一周波数帯を測定可能な受信アンテナである。アレーアンテナ20は、N個のアンテナ素子A11〜A1Nを平面上に格子状に配置したもので、アンテナ素子の形状・種類、アンテナ素子の総数、アンテナ素子を配置するための間隔などは、測定対象、測定目的などにより任意である。アレー面の反対側から入射する電波の感度を抑えるため、アンテナ素子A11〜A1Nを配置する平面を反射板とすることも可能である。
【0012】
尚、アンテナ素子A11〜A1Nのいずれか一つをリファレンスアンテナ10として利用することも可能である。この場合は、リファレンスアンテナ10を別に取り付ける機械的な構造が不要となるという利点がある。
【0013】
アンテナ切替部21は、アレーアンテナ20において、順次受信するアンテナ素子を予め決められた順序、間隔で切り替え、選択されたアンテナ素子A1i(iは1〜Nのいずれか)の受信信号をリファレンスアンテナ10の受信信号と同時に導出するものである。このように、リファレンスアンテナ10と選択されたアンテナ素子A11〜A1Nのうちの一つで同時に導出することにより、後段の到来方向推定処理でリファレンスアンテナ10と選択されているアンテナ素子A1iとの受信波間の位相差を検出することができる。
【0014】
周波数変換部30は、到来した電波を増幅するとともに、後段のAD変換部40においてAD変換可能な中間周波数に変換する。AD変換部40は、リファレンスアンテナ10及びアレーアンテナ20で選択されたアンテナ素子A1iからの受信信号を同時にサンプリングしてAD変換し、デジタル化する。このサンプリングのタイミングとアンテナ切替部21の切替タイミングは連動しており、タイミング制御部41によって制御される。AD変換部40でデジタル化されたデータは、到来方向推定処理部50の処理を受けて画像合成処理部60に送られる。
【0015】
一方、カメラ部80は、カメラ撮像方向をアンテナ指向方向に合わせて撮影するもので、例えばアレーアンテナ20の素子配置面を持つ基台に固定され、アレーアンテナ20の指向方向がカメラのほぼ視野中心部にくるようにセッティングされる。カメラ部80の撮像画像は画像合成処理部60に送られる。画像合成処理部60は、到来方向推定結果を二次元画像化し、カメラ部80からの撮像画像と重ね合わせて表示部70に表示する。
【0016】
上記構成において、測定は、リファレンスアンテナ10と選択されたアンテナ素子A11〜A1Nのうちの一つで同時に測定することにより、後段の到来方向推定処理でリファレンスアンテナ10と選択されているアンテナ素子A1iの受信波間の位相差を検出する。到来方向推定処理部では、電波ホログラフィ法による到来方向推定処理を行う。図2に電波ホログラフィ法による到来方向推定処理の処理フローを示す。
【0017】
図2において、ステップS11では、リファレンスアンテナ10とアンテナ素子A1iで受信された信号は、周波数変換部30、AD変換部40を経てデジタルデータに変換される。アレーアンテナのアンテナ素子数をN個としたとき、リファレンスアンテナ10のN個のデジタルデータとアレーアンテナ20のN個のデジタルデータが得られる。アレーアンテナ20の素子番号をi=1,…,Nとした場合、素子番号iについてリファレンスアンテナ10のデジタルデータとアレーアンテナ20のデジタルデータが得られる。尚、1素子当たりのデジタルデータをMサンプルとする。
【0018】
ステップS12では、ステップS11で得られたデジタルデータをFFT(高速フーリエ変換)する。FFTの結果を用いて、到来方向を推定したい周波数範囲について複素相関値を計算する。
【0019】
ステップS13では、ステップS12で得られた複素相関値から相関マトリクスを得る。相関マトリクスは、アレーアンテナ20の物理的な配置と同じ配列に複素相関値を配置し、数学上の行列とするものである。
【0020】
ステップS14では、ステップS13で得られた相関マトリクスの周囲をゼロ埋めして拡張相関マトリクスを得る。拡張相関マトリクスは、例えば256×256の行列などのように拡張する。
【0021】
ステップS15では、ステップS14で得られた拡張相関マトリクスについて、二次元FFTを行う。二次元FFTを行うことにより、到来方向推定結果を得ることができる。到来方向推定結果としては、到来方向別の推定電波強度を得ることができる。推定電波強度の強い方向に電波発射源があると推定される。二次元FFTは、例えばまず全ての行ごとに一次元FFTを行い、その後、全ての列ごとに一次元FFTを行う。
【0022】
相関マトリクスを拡張相関マトリクスとする理由は、二次元FFTを行う際にサンプル数を故意に増やし、到来方向推定分解能を向上させるためである。
【0023】
画像合成処理部60では、到来方向推定処理部50で得られた到来方向推定結果とカメラ部80で撮影された画像を重ね合わせて合成画像を作成する。予めカメラ画像のピクセルごとに対応する方位、仰角を測定しておき、到来方向推定結果の仰角、方位角を合わせて、合成画像を作成する。
【0024】
到来方向推定結果は、推定電波強度ごとに色づけすることにより画像化する。合成の方法は、様々な方法があるが、以下に一例を示す。
【0025】
合成画像を作成する際には、カメラ画像に電波強度の色を一定の割合で足し合わせる。カメラ画像の色合いを赤、緑、青の3原色で数値化し、それぞれRc、Gc、Bcとし、到来方向推定結果の色をRe、Ge、Beとすると、合成後の色R、G、Bは、割合を7:3とした場合、以下のようになる。
R=(7Rc+3Re)/10
G=(7Gc+3Ge)/10
B=(7Bc+3Be)/10
尚、アンテナの位相中心から離れた場所にカメラ部80を設置する場合は、視差による補正を行うことにより、正確な合成画像を得ることができる。
【0026】
上記構成の電波発射源可視化装置によれば、到来する電波の到来方向別電波強度が画像化され、カメラ画像と合成して表示するようにしているので、電波の発射源を容易に特定することができるようになる。
【0027】
本発明は、違法電波の発射源を発見することを目的とする電波監視分野や、機器から発せられる不要輻射の解析など様々な分野で応用可能である。
【0028】
特に、本発明に係る到来方向推定処理では、二次元可視化に二次元FFTを用いているため、他の一般に知られているMUSIC法やインターフェロメトリ法に比べ、高速に処理を行うことができる(MUSIC法やインターフェロメトリ法は、到来方向を検出する際に、細かい角度間隔で走査する必要があるため、計算量が多く、特に二次元可視化には、不向きである。)。
【0029】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る一実施形態の電波発射源可視化装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1に示す到来方向推定処理部の処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0031】
10…リファレンスアンテナ、20…アレーアンテナ、A11〜A1N…アンテナ素子、21…アンテナ切替部、30…周波数変換部、40…AD変換部、50…到来方向推定処理部、60…画像合成処理部、70…表示部、80…カメラ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同一周波数帯の到来電波を受信するリファレンスアンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレーアンテナを備えるアンテナ装置と、
前記アンテナ装置から前記アレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて、前記リファレンスアンテナの受信出力と同時に導出するアンテナ切替手段と、
前記アレーアンテナの個々の素子出力と前記リファレンスアンテナとの同時出力から電波の到来方向を推定し、二次元画像化した到来方向推定結果を出力する到来方向推定処理手段と、
前記到来方向推定処理手段で得られた到来方向を撮像する撮像カメラと、
前記到来方向推定結果を前記撮像カメラの撮像画像と重ね合わせて表示する表示手段と
を具備することを特徴とする電波発射源可視化装置。
【請求項2】
前記到来方向推定処理手段は、電波ホログラフィ法を処理アルゴリズムとして採用することを特徴する請求項1記載の電波発射源可視化装置。
【請求項3】
前記リファレンスアンテナは、前記アレーアンテナの一部のアンテナ素子であることを特徴とする請求項1記載の電波発射源可視化装置。
【請求項4】
互いに同一周波数帯の到来電波を受信するリファレンスアンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレーアンテナを備えるアンテナ装置から前記アレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて、前記リファレンスアンテナの受信出力と同時に導出する過程と、
前記アレーアンテナの個々の素子出力と前記リファレンスアンテナとの同時出力から電波の到来方向を推定し、二次元画像化した到来方向推定結果を出力する過程と、
前記到来方向推定処理で得られた到来方向を撮像する過程と、
前記到来方向推定結果を前記撮像画像と重ね合わせて表示する過程と
を具備することを特徴とする電波発射源可視化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−212229(P2007−212229A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31078(P2006−31078)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(301029171)総務大臣 (9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】