説明

電波発射源可視化装置及びその方法

【課題】マルチパス環境下における精度の劣化を防ぐことの可能な電波発射源可視化装置及びその方法を提供すること。
【解決手段】電波発射源可視化装置において電波の到来方向を推定するにあたり、遅延タップ付のアダプティブアレイアルゴリズムを用いて遅延波を打ち消すような複素ウェイトを算出する。ビーム形成に際してこの複素ウェイトを用いれば遅延波の到来方向にヌルを向けるようなビームを形成することができる。さらに、複数ウェイトの値がマルチパス遅延波の到来方向に対応することにも着眼し、このことを用いて、遅延波の到来方向にヌルを向けるようなビームを2次元平面上に可視化する。この可視化像とカメラなどで取得した背景画像を重ね合わせることにより、マルチパス環境においても電波発射源の位置特定を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電波の到来方向を推定し、電波発射源を容易に特定するため、到来方向の方位角、仰角のように二次元的な到来方向を二次元画像として出力可能な電波発射源可視化装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるような電波発射源可視化装置を用いれば、電波の到来方向を可視化して電波発射源を容易に特定することが可能になる。この種の装置は、連続的に発射される電波やバースト的に短時間のみ発射される電波など様々な電波に対応可能で、電波の到来方向を算出しカメラ画像に合成表示することが可能である。
しかしながら密集地やオフィス街などでは一つの電波源から放射された電波にその遅延波が重畳され、マルチパスが生じやすい。マルチパスを生じると直接波と反射波が影響しあい、到来方向を精度よく推定できない場合がある。
【特許文献1】特開2007−212228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上述べたように、従来の電波発射源可視化装置及びその方法はマルチパスに弱く、遅延波の生じやすい環境下では電波源の位置を特定する精度が劣化する虞があるので何らかの対処が求められている。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、マルチパス環境下における精度の劣化を防ぐことの可能な電波発射源可視化装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、主電波とそのマルチパスとを含む到来波を受信するアンテナ部と、このアンテナ部からの受信信号から前記主電波および前記マルチパスのそれぞれの到来方向を推定する推定処理部と、画像を撮像する撮像部と、前記推定された前記主電波の到来方向と前記マルチパスの到来方向との少なくともいずれか一方を、前記撮像部における視野内の方向に対応付けて画像合成する合成部と、この合成部により生成された合成画像を表示する表示部とを具備することを特徴とする電波発射源可視化装置が提供される。
【0005】
より具体的には、主電波の到来方向に主ローブを形成し、マルチパスの到来方向にヌルを形成するための複素ウェイトを、既知のアルゴリズムなどにより第1および第2アンテナの各素子信号からアダプティブに算出する。そして、この複素ウェイトから少なくともマルチパスの到来方向を推定することができる。その結果を撮像部からの画像と合成することで、マルチパスの経路を可視化することができる。すなわちマルチパスによる遅延波を可視化することが可能になる。しかもアダプティブ処理により主電波のみを受信することもできるので、マルチパスによる妨害の悪影響を排除して処理精度を向上させることも可能になる。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、マルチパス環境下における精度の劣化を防ぐことの可能な電波発射源可視化装置及びその方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、この発明に係る電波発射源可視化装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。この装置は、アンテナ部10、周波数変換部20、アナログ/ディジタル(A/D)変換部30、到来方向推定処理部40、画像合成処理部50、表示部60、およびカメラ部70を備える。
【0008】
アンテナ部10は、リファレンスアンテナA0およびアレイアンテナA1を備える。リファレンスアンテナA0およびアレイアンテナA1は共通の周波数帯の到来波を捕捉可能な受信アンテナである。アレイアンテナA1はN個のアンテナ素子A11〜A1nを平面上に規則的に配置したもので、アンテナ素子の形状・種類、アンテナ素子の総数、アンテナ素子を配置するための間隔などは、測定対象、測定目的などにより任意である。アレイ面の反対側から入射する電波の感度を抑えるため、アンテナ素子A11〜A1nを配置する平面を反射板とすることも可能である。
【0009】
なおアンテナ素子A11〜A1nのいずれか一つをリファレンスアンテナA0として利用することも可能である。この場合は、リファレンスアンテナA0を別に取り付ける機構的な構造が不要になる利点がある。リファレンスアンテナA0及びアレイアンテナA1で受信された電波は周波数変換部20により、サンプリング可能な中間周波数帯域にまで周波数変換される。
【0010】
周波数変換部20は、到来した電波を増幅するとともに、後段のA/D変換部30においてA/D変換可能な中間周波数に変換する。A/D変換部30は、リファレンスアンテナA0及びアレイアンテナA1からの各素子信号を同時にサンプリングしてA/D変換し、デジタル化する。このA/D変換部30でデジタル化されたデータは、到来方向推定処理部40に与えられる。
【0011】
到来方向推定処理部40はアダプティブ処理部51の演算処理により、到来波に含まれる主電波(所望波)およびそのマルチパスのそれぞれの到来方向を検出する。検出された到来方向は画像合成処理部50に与えられる。画像合成処理部50はカメラ部70で撮影された画像ビデオに、主電波およびそのマルチパスのそれぞれの到来方向を画像合成する。これにより得られた2次元の合成画像は表示部60に表示される。つまり画像の視野内に到来時方向が含まれていれば例えば矢印などの形で表示されるし、含まれていなければ画像のみが表示部60に表示される。主電波とマルチパスとがいずれも画像内に含まれるようなロケーションでは、両者を例えば色分けして表示すれば良い。
【0012】
図2は、図1の電波発射源可視化装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。図2のステップS1において、所望波とそのマルチパスとを含む到来がアンテナ部10で受信され、ダウンコンバートののちディジタルデータに変換されて到来方向推定処理部40に与えられる。到来方向推定処理部40ではアダプティブ処理部51における数値演算により、遅延タップ付のアダプティブアレイアルゴリズムに基づいて、メインローブおよびサイドローブヌルを形成するための複素ウェイトが算出される。これにより所望波およびマルチパスの到来方向が推定される(ステップS2)。
【0013】
一方、カメラ部70において周囲の画像が撮像される。その視野は固定的であってもよいし、持ち運びにより使用者の望む方向に向けても良い(ステップS3)。そうして、撮像された画像視野内における電波(所望波、マルチパス)の到来方向と画像データとを、画像合成処理部50において重ね合わせて合成画像を生成する(ステップS4)。このようにして形成された画像は表示部60に表示される(ステップS5)。
【0014】
以上説明したようにこの実施形態では、電波発射源可視化装置において電波の到来方向を推定するにあたり、遅延タップ付のアダプティブアレイアルゴリズムを用いて遅延波を打ち消すような複素ウェイトを算出する。ビーム形成に際してこの複素ウェイトを用いれば遅延波の到来方向にヌルを向けるようなビームを形成することができる。さらに進んでこの実施形態では、複数ウェイトの値がマルチパス遅延波の到来方向に対応することにも着眼し、このことを用いて、遅延波の到来方向にヌルを向けるようなビームを2次元平面上に可視化するようにした。そしてこの可視化像とカメラなどで取得した背景画像を重ね合わせることにより、マルチパス環境においても電波発射源の位置特定が可能となる。
【0015】
このようにしたので、所望波に対するマルチパスがある場合でも、遅延波の影響を除去して電波発射位置をより正確に特定することが可能になる。さらには、到来方向を遅延時間ごとに推定し、遅延時間別に可視化した2次元画像も得ることができる。これらのことから、マルチパス環境下における精度の劣化を防ぐことの可能な電波発射源可視化装置及びその方法を提供することが可能となる。
この発明は、不法携帯中継装置などの違法電波の発射源を発見することを目的とする電波監視分野や、携帯電話の使用を控えるべきところでの通話を発見するなど様々な分野で応用することが可能である。
【0016】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明に係る電波発射源可視化装置の実施の形態を示す機能ブロック図。
【図2】図1の電波発射源可視化装置における処理手順の一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0018】
10…アンテナ部、20…周波数変換部、30…アナログ/ディジタル(A/D)変換部、40…到来方向推定処理部、50…画像合成処理部、60…表示部、70…カメラ部、A0…リファレンスアンテナ、A1…アレイアンテナ、A11〜A1n…アンテナ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電波とそのマルチパスとを含む到来波を受信するアンテナ部と、
このアンテナ部からの受信信号から前記主電波および前記マルチパスのそれぞれの到来方向を推定する推定処理部と、
画像を撮像する撮像部と、
前記推定された前記主電波の到来方向と前記マルチパスの到来方向との少なくともいずれか一方を、前記撮像部における視野内の方向に対応付けて画像合成する合成部と、
この合成部により生成された合成画像を表示する表示部とを具備することを特徴とする電波発射源可視化装置。
【請求項2】
前記アンテナ部は、
第1アンテナと、
この第1アンテナとは異なる第2アンテナとを備え、
前記推定処理部は、
前記主電波の到来方向に主ローブを形成し前記マルチパスの到来方向にヌルを形成するための複素ウェイトを前記第1および第2アンテナの各素子信号から適応的に算出するアダプティブ処理部を備え、前記複素ウェイトに基づいて前記主電波およびマルチパスのそれぞれの到来方向を推定することを特徴とする請求項1に記載の電波発射源可視化装置。
【請求項3】
前記アダプティブ処理部は、遅延タップ付のアダプティブアレイアルゴリズムにより前記複素ウェイトを算出することを特徴とする請求項2記載の電波発射源可視化装置。
【請求項4】
前記第1アンテナは、複数のアンテナ素子をアレイ状に配列したアレイアンテナであることを特徴とする請求項2に記載の電波発射源可視化装置。
【請求項5】
前記第2アンテナは、前記アレイアンテナを形成する複数のアンテナ素子の一部であることを特徴とする請求項4に記載の電波発射源可視化装置。
【請求項6】
主電波とそのマルチパスとを含む到来波をアンテナ部で受信して受信信号を生成し、
前記受信信号から前記主電波および前記マルチパスのそれぞれの到来方向を推定し、
撮像部でその視野内の画像を撮像し、
前記推定された前記主電波の到来方向と前記マルチパスの到来方向との少なくともいずれか一方を、前記撮像部における視野内の方向に対応付けて画像合成し、
前記画像合成により生成された合成画像を表示することを特徴とする電波発射源可視化方法。
【請求項7】
前記アンテナ部は、第1アンテナと、この第1アンテナとは異なる第2アンテナとを備え、
前記主電波の到来方向に主ローブを形成し前記マルチパスの到来方向にヌルを形成するための複素ウェイトを前記第1および第2アンテナの各素子信号から適応的に算出し、
前記複素ウェイトに基づいて前記主電波およびマルチパスのそれぞれの到来方向を推定することを特徴とする請求項6に記載の電波発射源可視化方法。
【請求項8】
前記複素ウェイトを、遅延タップ付のアダプティブアレイアルゴリズムにより算出することを特徴とする請求項7記載の電波発射源可視化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−236884(P2009−236884A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86928(P2008−86928)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】