説明

電波透過性装飾部材およびその製造方法

【課題】電波透過性および金属調光沢を有し、反射率が高く、かつ低コストである電波透過性装飾部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基体12と、透明有機材料層16と、基体12と透明有機材料層16との間に存在し、ゾルゲル法によって形成されたハードコート層18と、ハードコート層18の表面に物理的蒸着によって形成された、シリコンと光輝金属との合金からなる連続した光反射薄膜層14とを有する電波透過性装飾部材1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属調光沢を有する電波透過性装飾部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の筐体、スイッチボタン;時計の筐体;自動車のフロントグリル、バンパ等には、意匠性の点から、金属調の装飾部材、特に、鏡面のような金属光沢を有する装飾部材が多用されている。
【0003】
そして、該装飾部材としては、下記の理由等から、電波(マイクロ波等)を透過し、かつ電波に影響を及ぼさない装飾部材が要求されている。
(i)携帯電話の筐体内部には、電波を送受信するアンテナが配置されている。
(ii)標準電波を受信して誤差を自動修正する機能を持つ電波時計の筐体内部には、電波を受信するアンテナが配置されている。
(iii)障害物の検知、車間距離の測定等を行うレーダー装置を搭載する自動車では、該レーダー装置のアンテナがフロントグリルまたはバンパの近傍に配置されている。
(iv)通信機器(Bluetooth(登録商標)、UWB、ZigBee(登録商標)等の無線PAN等)で扱う電波の周波数がミリ波からマイクロ波へと高い周波数帯域にシフトしており、装飾部材によって電波が影響を受けやすく、該機器において機能障害が発生しやすい。
【0004】
電波透過性を有する金属調の装飾部材としては、下記のものが提案され、品質の高い金属光沢(金属調光沢)を得るための改良がなされている。
(1)樹脂基材と、樹脂基材の上にベースコート塗膜層を介さずに物理蒸着法によって成膜されたインジウムからなる光輝膜層と、光輝膜層の上もしくは上下に物理蒸着法によって成膜された金属化合物(酸化チタン、酸化ケイ素、窒化ケイ素等)からなる膜厚200nm以下の金属化合物膜層と、金属化合物膜層の上に形成された塗膜層とを有するレーダー装置カバー(特許文献1)。
(2)部品の表面に、膜厚が100nm以下の透明体層(酸化ケイ素等)と、膜厚が5nm以上、波長域400nm〜800nmにおける平均透過率が65%以下かつ平均反射率が20%以上であるシリコンまたはゲルマニウムを主成分とする半導体層または半金属層とを、真空蒸着法によって形成した電磁波透過性加飾部品(特許文献2)。
【0005】
インジウム、スズ、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン等の金属蒸着膜においては、該金属が微細な独立した島として存在しているため、島と島との間の、金属の存在しない間隙を電波が通過できることが知られている。また、シリコン、ゲルマニウム等の半導体を主成分とする蒸着膜も、電波を通過できることが知られている。そのため、(1)のレーダー装置カバーや(2)の電磁波透過性加飾部品は、電波透過性を有し、かつ金属光沢(金属調光沢)を有する。
【0006】
しかし、(1)のレーダー装置カバーには、下記の問題がある。
・樹脂基材の表面に物理蒸着法によって金属化合物膜層を形成した場合、加工時の熱応力によって金属化合物膜層の表面に歪が発生する。また、樹脂基材の表面に物理蒸着法によって金属化合物膜層を形成した場合、樹脂基材の表面に蒸着によるダメージが与えられて樹脂基材の表面が荒れるため、透明体層の表面にも荒れが発生する。その結果、該金属化合物膜層の表面に成膜される光輝膜層において荒れや歪による光沢不良や密着不良が起きる。
・光輝膜層の表面に物理蒸着法によって金属化合物膜層を形成した場合、加工時の熱応力によってインジウムの独立した島同士が部分的に連結し、良導体となるネットワークが形成されるため、電波の周波数によっては反射または吸収が起こる。
・インジウムは、入手が困難で、たいへん高価なものである。
【0007】
また、(2)の電磁波透過性加飾部品には、下記の問題がある。
・部品の表面に真空蒸着法によって透明体層を形成した場合、加工時の熱応力によって透明体層の表面に歪が発生する。また、部品の表面に真空蒸着法によって透明体層を形成した場合、部品の表面に蒸着によるダメージが与えられて部品の表面が荒れるため、透明体層の表面にも荒れが発生する。その結果、該透明体層の表面に成膜される半導体層または半金属層において荒れや歪による光沢不良や密着不良が起きる。
【0008】
なお、(1)のレーダー装置カバーにおいて光輝膜層の下に金属化合物膜層を形成しない場合や、(2)の電磁波透過性加飾部品において半導体層または半金属層の下に透明体層を形成しない場合は、樹脂基材や部品の表面は柔らかいため、該表面にインジウム、シリコン、ゲルマニウム等を物理的蒸着すると、該表面にインジウム、シリコン、ゲルマニウム等の微粒子が埋没して該表面が荒れ、その結果、光輝膜層、半導体層等の表面も荒れて、光沢不良や密着不良が起きる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−093241号公報
【特許文献2】特開2011−029548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電波透過性および金属調光沢を有し、光反射薄膜層における反射率が高く、かつ低コストである電波透過性装飾部材およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電波透過性装飾部材は、基体と、透明有機材料層と、前記基体と前記透明有機材料層との間に存在し、ゾルゲル法によって形成されたハードコート層と、ハードコート層の表面に物理的蒸着によって形成された、シリコンと光輝金属との合金からなる連続した光反射薄膜層とを有することを特徴とする。
【0012】
前記ハードコート層の厚さは、0.2μm超10μm以下であることが好ましい。
前記ハードコート層は、コロイダルシリカおよびアルコキシシランを含むハードコート剤を用いたゾルゲル法によって形成された層であることが好ましい。
【0013】
本発明の電波透過性装飾部材は、前記基体と対向する面以外の前記透明有機材料層の表面に形成されたハードコート層をさらに有することが好ましい。
前記基体と前記透明有機材料層との間に存在するハードコート層と、前記基体と対向する面以外の前記透明有機材料層の表面に形成されたハードコート層とが、同じ材料からなることが好ましい。
【0014】
本発明の電波透過性装飾部材は、前記基体または前記透明有機材料層と、前記ハードコート層との間に設けられたプライマー層をさらに有することが好ましい。
【0015】
本発明の電波透過性装飾部材の製造方法は、基体と、透明有機材料層と、前記基体と前記透明有機材料層との間に存在するハードコート層と、ハードコート層の表面に形成された、シリコンと光輝金属との合金からなる連続した光反射薄膜層とを有する電波透過性装飾部材を製造する方法であって、前記ハードコート層を、ゾルゲル法によって形成し、前記光反射薄膜層を、ハードコート層の表面へのシリコンと光輝金属との合金の物理的蒸着によって形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電波透過性装飾部材は、電波透過性および金属調光沢を有し、光反射薄膜層における反射率が高く、かつ低コストである。
本発明の電波透過性装飾部材の製造方法によれば、電波透過性および金属調光沢を有し、光反射薄膜層における反射率が高く、かつ低コストである電波透過性装飾部材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の電波透過性装飾部材の一例を示す断面図である。
【図2】光反射薄膜層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図3】本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
【図6】実施例1の電波透過性装飾部材の電波の透過減衰量(S21)のグラフである。
【図7】実施例1の電波透過性装飾部材の可視光における反射率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における光とは、可視光を意味する。
本発明における電波とは、周波数が10MHz〜1000GHzの電磁波(サブミリ波〜マイクロ波)を意味する。
本発明における透明とは、光透過性を有することを意味する。
【0019】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の電波透過性装飾部材の一例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材1は、凸部を有する基体12と、凸部に対応する凹部を有し、凹部の内面にハードコート層18が設けられ、ハードコート層18の表面に光反射薄膜層14が設けられた透明有機材料層16とからなり、基体12の凸部と透明有機材料層16の凹部とをハードコート層18および光反射薄膜層14を介して嵌め合わせて一体にしたものである。
【0020】
(基体)
基体12は、電波透過性の材料の成形体である。
電波透過性の材料としては、成形加工性の点から、絶縁性の有機材料が好ましい。絶縁性とは、表面抵抗率が10Ω以上であることを意味し、表面抵抗率は10Ω以上が好ましい。表面抵抗率は、JIS K7194に記載の4探針法によって測定する。
【0021】
有機材料としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等)、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66等)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート等)、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、熱可塑性エラストマー(スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリパラキシリレン樹脂、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、ジエン系ゴムの水素添加物、飽和ポリオレフィンゴム(エチレン・プロピレン共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体等)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、α−オレフィン−ジエン共重合体、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ポリエーテル系ゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
【0022】
有機材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて共重合体、ブレンド、ポリマーアロイ、積層体等として用いてもよい。
有機材料は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、防曇剤、防霧剤、可塑剤、顔料、近赤外吸収剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0023】
(透明有機材料層)
透明有機材料層16は、電波透過性の透明有機材料の成形体からなり、光反射薄膜層14を保護する層である。
電波透過性の透明有機材料としては、絶縁性の透明有機材料が挙げられる。
【0024】
透明有機材料としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等)、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ABS樹脂、AS樹脂、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート等)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフッ化ビニリデン、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリパラキシリレン樹脂等が挙げられ、透明性、強度、湿度透過性の点から、ポリカーボネート(屈折率:1.59)、ポリメチルメタクリレート(屈折率:1.49)、AS樹脂(屈折率:1.57)、ポリスチレン(屈折率:1.60)、環状ポリオレフィン類(屈折率:1.51〜1.54)、ポリエチレンテレフタレート(屈折率:1.51)等が好ましい。
屈折率は、ナトリウムのD線(波長:589.3nm)の光に対する、23℃における屈折率である。
【0025】
有機材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて共重合体、ブレンド、ポリマーアロイ、積層体等として用いてもよい。
有機材料は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、防曇剤、防霧剤、可塑剤、顔料、近赤外吸収剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0026】
(ハードコート層)
ハードコート層18は、ゾルゲル法によって形成された硬質の膜であり、光透過性を有する。
ゾルゲル法とは、金属アルコキシドを含むゾルを透明有機材料層16(または基体12)の表面に塗布し、加水分解・縮合反応によって流動性を失ったゲルとし、このゲルを加熱して硬質の膜を形成する方法である。
【0027】
ハードコート層18としては、チタニアゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル等をゲル化させて形成された層であってもよいが、膜形成の容易性、材料選択性の広さ等の点から、アルコキシシランを含むハードコート剤を用いたゾルゲル法によって形成された層が好ましい。該ハードコート剤を用いたゾルゲル法によって形成されたハードコート層は、シロキサン結合を骨格としたケイ素原子に有機基が結合した有機−無機ハイブリッドポリマーからなる層となる。該ハードコート層は、トリアルコキシシラン(トリメトキシメチルシラン等)およびまたはテトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン等)を主に含むゾルを、酸性触媒または塩基性触媒によって加水分解して、活性な金属水酸化物を生成させると同時に縮重合させてゲル状態の有機−無機ハイブリッドポリマーを形成させ、これを比較的低温で加熱することで形成され、ガラスに近い特性を有し、硬質で、耐熱性のある膜である。ハードコート剤中のテトラアルコキシシランの割合が多くなると、ハードコート層の硬度は増すが、割れやすくなるため、ハードコート剤にジアルコキシシラン(ジメトキシジメチルシラン等)を加え、有機性を増すことによってハードコート層に可とう性を付与できる。
【0028】
ハードコート層18としては、ハードコート層18の表面硬度を上げながら、可とう性とのバランスを維持できる点から、コロイダルシリカおよびアルコキシシランを含むハードコート剤を用いたゾルゲル法によって形成された層が好ましい。コロイダルシリカは、アルコキシシランと複合化しやすいように、平均粒子径10〜20μm程度の球状の状態で、トリアルコキシシランを主に含むゾルに分散混合される。
ハードコート剤には、接着性の改良、架橋性の向上のために、シランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等)を加えても構わない。
【0029】
ハードコート層18の硬度は、テーパー磨耗試験(ASTM D1044準拠、磨耗輪:CS−10F、荷重:500g、回転数:500回転)におけるヘイズの変化(ΔH)が2〜10%であること、または落砂磨耗試験(ASTM D673準拠、SiC:1Kg)におけるヘイズの変化(ΔH)が5〜10%であることが好ましい。ヘイズの変化(ΔH)が前記下限以上であれば、ガラス質の特性が少し弱まり、応力によるクラックが発生しにくい。ヘイズの変化(ΔH)が前記上限以下であれば、硬度が充分となり、後述する理由から充分に高い反射率を有する光反射薄膜層14を形成できる。
【0030】
ハードコート剤の塗布方法としては、スプレー法、ディップ法、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、フローコート法等の公知の方法が挙げられ、透明有機材料層16(または基体12)の形状、大きさ等に応じて適宜選択される。
ハードコート剤を塗布した後に加熱、乾燥し、架橋反応によって硬化させる。加熱温度は、おおよそ85〜120℃であり、透明有機材料層16(または基体12)にダメージを与えることなく、架橋反応を行うことができる。
【0031】
ハードコート層18の厚さは、0.2μm超10μm以下が好ましく、1.0〜8.0μmがより好ましい。ハードコート層18の厚さが0.2μm超であれば、ハードコート層18と透明有機材料層16(または基体12)との界面、およびハードコート層18と光反射薄膜層14との界面の荒れを充分に抑えることができる。ハードコート層18の厚さが10μm以下であれば、ハードコート層18と透明有機材料層16(または基体12)との密着性が良好となる。
【0032】
(光反射薄膜層)
光反射薄膜層14は、インジウム等の独立した不連続膜とは異なり、シリコンと光輝金属との合金からなる連続した均質な層である。シリコンと光輝金属との合金からなる層は、シリコン単独からなる層に比べ、反射率および明度が向上すため、明るい光反射薄膜層14が得られる。また、該合金は、シリコンに比べ軟質であるため、光反射薄膜層14の内部応力が低下し、ハードコート層18との密着性が向上し、クラックの発生が抑制される。
【0033】
シリコンは、後述の光輝金属とは異なり、半導体物質である。
シリコンは、光反射薄膜層14の表面抵抗率を高く維持できる限りは、ドーパントとならない不純物を含んでいてもよい。
シリコン(融点:1414℃)は、ドーパント(ボロン(融点:2300℃)、リン(融点:590℃)、砒素(融点:817℃)、アンチモン(融点:631℃)等)を含むことが好ましい。ドーパントの量は10ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。
【0034】
本発明においては、下記の点から、半導体物質としてシリコンを用いる。
(i)反射率が高く明るい。
(ii)導電率が小さいことから、合金中の光輝金属の割合を多くでき、電波透過性を維持したままより明るく、また内部応力を低減できる。
(iii)入手しやすい、等。
【0035】
光輝金属としては、反射率が50%以上の金属が好ましい。該光輝金属としては、金(融点:1064℃)、銀(融点:962℃)、銅(融点:1085℃)、アルミニウム(融点:660℃)、白金(融点:1772℃)、鉄(融点:1535℃)、ニッケル(融点:1455℃)、クロム(融点:1890℃)等が挙げられ、反射率およびコストの点から、アルミニウム、銀が好ましい。
反射率は、JIS Z8722の条件d(n−D)による、正反射率を含めた拡散反射率であり、短波長側が360nm〜400nm、長波長側が760nm〜830nmである可視光線領域の平均値であって、積分球を用い光沢成分の正反射光を含めて測定する。
【0036】
光輝金属の割合は、合金(100体積%)のうち、0.1〜70体積%が好ましく、40〜70体積%がより好ましい。光輝金属の割合が0.1体積%以上であれば、光反射薄膜層14の明度が向上し、また、光反射薄膜層14の内部応力が低下する。光輝金属の割合が70体積%以下であれば、電波透過性がさらに向上する。
合金は、光反射薄膜層14の表面抵抗率および金属調光沢を高く維持できる限りは、シリコン、光輝金属を除く不純物を含んでいてもよい。
【0037】
光反射薄膜層14の厚さは、10〜500nmが好ましく、50〜200nmがより好ましい。光反射薄膜層の厚さが10nm以上であれば、光が透過しにくくなり、金属調光沢が充分に得られる。光反射薄膜層の厚さが500nm以下であれば、不純物による導電性の上昇が抑えられ、充分な電波透過性を維持できる。また、内部応力の上昇が抑えられ、装飾部材の反り、変形、クラック、剥離等が抑えられる。
光反射薄膜層14が薄い場合は、光が透過してしまい、反射率が低下するため、暗い金属調光沢を得ることができる。よって、金属調光沢の明度を、光反射薄膜層14の厚さを変えることによって調整できる。
光反射薄膜層14の厚さは、光反射薄膜層の断面の高分解能顕微鏡像から測定できる。
【0038】
光反射薄膜層14の表面抵抗率は、10Ω以上が好ましく、10Ω以上がより好ましい。光反射薄膜層14の表面抵抗率が10Ω以上であれば、充分な電波透過性を維持できる。
光反射薄膜層14の表面抵抗率は、JIS K7194に記載の4探針法によって測定する。
【0039】
光反射薄膜層14の平均表面粗さは、0.05μm以下が好ましい。光反射薄膜層14の平均表面粗さが0.05μm以下であれば、乱反射が抑えられ、充分な金属調光沢が得られる。光反射薄膜層14の平均表面粗さの下限は、研磨加工で実現可能な0.1nmとする。
光反射薄膜層14の平均表面粗さは、JIS B0601−2001の算術平均粗さRaである。具体的には、原子間力顕微鏡によって表面形状を測定し、平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、抜き取り部分の平均線から粗さ曲線までの偏差の絶対値を合計し平均した値(算術平均粗さRa)を求める。
【0040】
光反射薄膜層14の平均表面粗さは、下地(ハードコート層18、基体12、透明有機材料層16、低屈折率層、接着促層、着色パターン層等)の平均表面粗さに影響される。よって、下地の平均表面粗さは、0.5μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。下地の平均表面粗さが0.5μm以下であれば、光反射薄膜層14を薄くしても、光反射薄膜層14が下地の表面に追従するため、鏡面のような金属調光沢が充分に得られる。
下地の平均表面粗さは、JIS B0601−2001に規定される算術平均粗さRaである。
【0041】
光反射薄膜層14は、シリコンと光輝金属との合金の物理的蒸着によって形成される。
物理的蒸着法は、真空にした容器の中で蒸発材料(合金)を何らかの方法で気化させ、気化した蒸発材料を近傍に置いた下地上に堆積させて薄膜を形成する方法であり、蒸発材料の気化方法の違いで、蒸発系とスパッタリング系とに分けられる。蒸発系としては、EB蒸着、イオンプレーティング、パルスレーザー蒸着等が挙げられ、スパッタリング系としては、RF(高周波)スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング、ECRスパッタリング等が挙げられる。
【0042】
EB蒸着法は、膜がポーラスになりやすく膜強度が不足する傾向があるが、下地のダメージが少ないという特徴がある。イオンプレーティグによれば、付着力の強い膜を得ることができる。RFスパッタリングによれば、抵抗の高いターゲット(蒸発材料)を用いることができる。DCマグネトロンスパッタリングによれば、膜の成長速度が速く、対向ターゲット型DCマグネトロンスパッタリングによれば、下地にプラズマダメージを与えることなく薄膜を生成できる。
【0043】
DCマグネトロンスパッタリングで用いるターゲットとしては、シリコンと光輝金属とが原子レベルで均一に混合された合金であることが望ましい。しかし、所望の合金組成が共晶組成でなく、各元素の融点も異なり、また原子レベルまでの拡散は起こりえないため、溶融混合された合金を急激に冷却する必要がある。この際、シリコンの偏析が起こると、合金が良導体でなはなくなるため、DCマグネトロンスパッタリング中にターゲットに流れる電流にムラが生じ、融点が低く良導体である金属が蒸着されやすくなり、組成比が安定しない。
そのため、シリコンにドーパントをドープして、少しでも電流が流れるようにすることが好ましい。また、溶融合金を急冷するためには、小径の合金粉末とすることが、熱容量が小さくなることから好ましい。粉末の平均粒子径は、100μm以下が好ましくは50μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
合金粉末の作製方法としては、単純に金属を溶かして噴霧するアトマイズ法;ボールミル装置を用いた低温で行えるメカニカルアロイング法等が挙げられる。得られた粉末は、粉末冶金法に基づき、加圧、加熱してターゲットに成型できる。加熱は、偏析が起きないように最小限にとどめることが肝要である。ターゲットの空隙率は、20%以下が好ましい。
【0044】
図2は、シリコン―アルミニウム合金を用いたDCマグネトロンスパッタリングによって形成された光反射薄膜層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。従来のインジウム、スズ等を用いた場合に見られる独立した島(微小クラスター)の集合体とは異なり、合金が存在しない間隙が形成されておらず、均質な非晶質構造を有した連続した層となっている。
【0045】
〔第2の実施形態〕
図3は、本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材2は、凸部を有する基体12と、凸部に対応する凹部を有し、凹部の内面にハードコート層18が設けられ、ハードコート層18の表面に光反射薄膜層14が設けられ、基体12と対向する面以外の表面にハードコート層20が設けられた透明有機材料層16とからなり、基体12の凸部と透明有機材料層16の凹部とをハードコート層18および光反射薄膜層14を介して嵌め合わせて一体にしたものである。
第2の実施形態において、第1の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0046】
ハードコート層20は、透明有機材料層16の表面を保護するものである。ハードコート層20とハードコート層18とが同じ材料からなる場合は、透明有機材料層16の表面に同時にハードコート剤を塗布できるため、効率的にハードコート層20およびハードコート層18を形成できる。
【0047】
〔第3の実施形態〕
図4は、本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材3は、凸部を有する基体12と、凸部に対応する凹部を有し、表面全体にプライマー層22およびハードコート層18が順に設けられ、凹部の内面のハードコート層18の表面に光反射薄膜層14が設けられた透明有機材料層16とからなり、基体12の凸部と透明有機材料層16の凹部とをプライマー層22、ハードコート層18および光反射薄膜層14を介して嵌め合わせて一体にしたものである。
第3の実施形態において、第1の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説
明を省略する。
【0048】
(プライマー層)
プライマー層22は、ハードコート層18と透明有機材料層16との接着性を向上させるための層であり、光透過性を有する。
プライマー層22は、透明有機材料層16(または基体12)の表面にプライマーを塗布することによって形成される。プライマーとしては、ハードコート層18および透明有機材料層16(または基体12)に対して接着性を有することから、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂等にシランカップリング剤等が添加されたものが好ましい。
【0049】
ハードコート層18は紫外線の透過率が高いため、紫外線によって透明有機材料層16の表面が劣化し、変色したり、ハードコート層18との密着性が低下したりする。よって、プライマー層22は、有機系または無機系の紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤はそれ自体が劣化するため、長期にわたり機能を発揮する無機系紫外線吸収剤が好ましい。
【0050】
有機系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−(2−アクリロキシエトキシ)−2−ヒドロキシベンゾフェノンの重合体、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニルトリアジン等が挙げられる。
無機系紫外線吸収剤としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の微粒子が挙げられる。
プライマー層22には、紫外線劣化防止のために、ヒンダードアミン系光安定剤等を加えても構わない。
【0051】
〔第4の実施形態〕
図5は、本発明の電波透過性装飾部材の他の例を示す断面図である。
電波透過性装飾部材4は、凹部を有する基体12と、凹部に対応する凸部を有し、凸部の上面の一部に着色パターン層24が設けられ、着色パターン層24の表面を含む表面全体にハードコート層18が設けられ、凸部の上面のハードコート層18の表面に光反射薄膜層14が設けられた透明有機材料層16とからなり、基体12の凹部と透明有機材料層16の凸部とを着色パターン層24、ハードコート層18および光反射薄膜層14を介して嵌め合わせて一体にしたものである。
第4の実施形態において、第1の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付して説
明を省略する。
【0052】
(着色パターン層)
着色パターン層24は、隠蔽性(光非透過性または光低透過性)の材料を所望のパターン状に配置して形成されたもの(文字、記号、図、模様等)である。電波透過性装飾部材4を上方から見ると、金属調光沢を背景として、着色パターン層24で書かれた文字(かな、アルファベット、数字等)、記号等が描かれている。
着色パターン層24は、公知の印刷インキ、塗料を用いた印刷等によって形成できる。
【0053】
〔他の実施形態〕
なお、本発明の電波透過性装飾部材は、図示例のものに限定はされず、基体と、透明有機材料層と、前記基体と前記透明有機材料層との間に存在し、ゾルゲル法によって形成されたハードコート層と、ハードコート層の表面に物理的蒸着によって形成された、シリコンと光輝金属との合金からなる連続した光反射薄膜層とを有するものであればよい。
例えば、基体の形態は、図示例のような凹凸を有する成形体に限定はされず、フィルム、シート、板、他の形状の成形体等であってもよい。
また、透明有機材料層は、基体の凹部およびまたは凸部と嵌合できる形状であればよく、また、図示例のような凹凸を有する成形体に限定はされず、塗膜であってもよい。
【0054】
〔作用効果〕
以上説明した本発明の電波透過性装飾部材にあっては、基体と透明有機材料層との間に、シリコンと光輝金属との合金からなる連続した光反射薄膜層を有するため、電波透過性があり、かつクロムメッキと同様の金属調光沢を有する。
【0055】
また、ハードコート層がゾルゲル法によって形成されているため、ハードコート層を形成する際に透明有機材料層にダメージを与えることがなく、透明有機材料層の表面の荒れが抑えられる。また、加工時の熱応力によって透明有機材料層の表面に歪が発生しにくい。そのため、ハードコート層の表面の荒れも抑えられ、ハードコート層の表面に形成される光反射薄膜層の表面の荒れも抑えられる。さらに、ハードコート層の表面に光反射薄膜層を形成しているため、光反射薄膜層を物理的蒸着によって形成する際に合金の微粒子が硬質のハードコート層に埋没することがない。そのため、ハードコート層の表面に形成される光反射薄膜層の表面の荒れがさらに抑えられる。これらの結果、光反射薄膜層の表面における反射率が高くなる。透明有機材料層側から入射した光は、損失なく光反射薄膜の表面で反射し、鏡面のような金属調光沢を維持することができる。特に透明有機材料層を通して見た場合、明るい金属クロム調の光沢と認識できる。
【0056】
また、基体と透明有機材料層との間に存在するハードコート層と、基体と対向する面以外の透明有機材料層の表面に形成されたハードコート層とが、同じ材料からなる場合、透明性有機材料層を保護できるとともに、ハードコート層を効率よく形成できるため、金属調光沢の長期にわたる安定性が得られ、また経済的効果が大きい。
【0057】
シリコンのような半導体物質を含む合金が電波を透過させ、金属調光沢を示す理由は、以下のように考えられる。
金属の特徴である自由電子は電気伝導性をもたらす。また、電磁波(光、電波)が金属の中に入ろうとすると、自由電子が動いて強い電子分極が起き、入ってきた電磁波の電界とは逆の電束が誘起されるため、電磁波が金属の中に入りにくく、電磁波は反射し透過できない。また、可視光領域にて高い反射率を有するため、金属光沢と認識される。
一方、半導体物質の場合、わずかな数の自由電子しかなく、金属とは異なり電波は反射されず透過できる。金属調光沢は、自由電子によるものではなく、バンド間の直接遷移による強い吸収が可視光領域に存在することによって、強い電子分極が起き、高い屈折率を持ち、それゆえ高い反射率を持つためと考えられている。
【0058】
また、本発明において、シリコンと光輝金属との合金を用いる理由は、以下の通りである。
シリコンは、可視光領域に高い反射率を有するといえども、金属の反射率(例えば、銀98%、アルミニウム90%、於620nm、文献値、Handbook of Optical Constants of Solids,E.L.Palik,Academic Press.,(1985))よりは低く、36%(於620nm、文献値)である。そのため、反射率が50%以上の光輝金属と合金化することによって、反射率を向上させ、明度を上げ、明るいクロムメッキと同等以上の金属調光沢を有する光反射薄膜層を得ることができる。また、該光輝金属は、シリコン等より軟質であることから、光反射薄膜層の内部応力は低下し、密着性が向上し、クラックの発生が抑えられる。
【実施例】
【0059】
(厚さ)
透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEM―4000EX)を用い、光反射薄膜層、プライマー層またはハードコート層の断面を観察し、5箇所の光反射薄膜層、プライマー層またはハードコート層の厚さを測定し、平均した。
【0060】
(平均表面粗さ)
走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPA300)を用い、原子間力顕微鏡DFMモードで、試料の表面1μm□を走査し、表面形状の像を作成し、平均表面粗さ(算術平均粗さRa)を求めた。
【0061】
(硬度)
テーパー磨耗試験(ASTM D1044準拠、磨耗輪:CS−10F、荷重:500g、回転数:500回転)を行い、ヘイズの変化(ΔH)を測定した。ハードコート層がある場合は、ハードコート層のヘイズの変化を、ハードコート層がない場合は、透明有機材料層のヘイズの変化を測定した。ハードコート層がなく、透明有機材料層がポリメチルメタクリレートの場合は、25%程度、ポリカーボネートの場合は、40%程度の値を示す。
【0062】
(電波透過性)
ミリ波レンズアンテナ方式斜入射電波吸収測定装置(キーコム社製)を用い、レンズアンテナ間に、入射波に垂直に試料を置き、レンズアンテナに接続されたスカラーネットワークアナライザ(Wiltron社製、54147A)によって透過減衰量(S21)を求めた。透過減衰量が0dBに近いほど、電波透過性が優れている。
【0063】
(反射率)
反射率は、JIS Z8722の条件d(n−D)による、正反射率を含めた拡散反射率であり、積分球を用い光沢成分の正反射光を含めて測定した。
具体的には、装飾部材の反射率を、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、V−570)を用い、積分球を用いて光沢成分の正反射光を含めて、透明性有機材料層を通して測定した。波長450nmから800nmまでの測定点350箇所の平均を求めた。
【0064】
(表面抵抗率)
試料の表面抵抗率は、抵抗率計(ダイアインスツルメント社製、ロレスタGP MCP−T600型、JIS K7194準拠)を用い、直列4探針プローブ(ASP)を試料上に置き測定した。測定電圧は10Vとした。
【0065】
(耐候性)
サンシャインウエザーメーター(東洋精機製作所製、ATLAS Ci4000)を用い、キセノン照度を一定にし、温度:89℃、湿度:50%RHの条件下で336時間経過した後の試料の外観を観察した。
【0066】
〔実施例1〕
透明ポリメチルメタクリレート(屈折率:1.49)を成形し、図1に示すような凹部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:3.0mm)を得た。
成形体の凹部の内面に、シリコーン系ハードコート剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製、SHC900、コロイダルシリカおよびアルコキシシランを含む)をスプレーによって塗布し、120℃で30分加熱し、ゾルゲル法によって厚さ4μmのハードコート層18を形成した。ハードコート層18のヘイズの変化(ΔH)を表1に示す。
【0067】
ターゲットとして、メカニカルアロイング法によって得られた、ボロンドープされたシリコンとアルミニウムとの合金粉末(アルミニウムの割合:50体積%、ボロンドープ量:約10−7モル%(約40ppb)、平均粒子径:45μm)を、温度:610℃、圧力:400Kgf/cmの条件下で、一軸プレス機を用いて成型したものを用意した。ターゲットの空隙率は11%であった。アルミニウム単体の反射率は87.6%である。 DCスパッタ装置(芝浦メカトロニクス社製、CFS−12P)のカソードとして前記ターゲットを装着し、DCスパッタリングにて成形体の凹部の内面に、ターゲットの合金を物理的に蒸着させ光反射薄膜層14を形成した。光反射薄膜層の厚さ、平均表面粗さを表1に示す。
【0068】
不透明AES樹脂を成形し、図1に示すような凸部を有する基体12を得た。
基体12の凸部と、凹部の内面にハードコート層18および光反射薄膜層14が形成された成形体(透明有機材料層16)の凹部とを嵌合させ、図1に示す電波透過性装飾部材1を得た。
【0069】
電波透過性装飾部材1について、60GHzから90GHzにおける電波の透過減衰量(S21)の平均値、透明有機材料層16から入射した可視光における反射率、表面抵抗率を測定した。また、電波透過性装飾部材1の外観を観察した。なお、光反射薄膜層のアルミニウムの割合は、ターゲットにおけるアルミニウムの割合と同じであった。結果を表1に示す。
また、電波透過性装飾部材1の電波の透過減衰量(S21)のグラフを図6に示す。
また、電波透過性装飾部材1の可視光における反射率のグラフを図7に示す。
【0070】
〔比較例1〕
成形体の凹部の内面にハードコート層18を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして装飾部材を得た。
該装飾部材について、透明有機材料層16のヘイズの変化(ΔH)、光反射薄膜層の厚さ、平均表面粗さ、60GHzから90GHzにおける電波の透過減衰量(S21)の平均値、反射率、表面抵抗率を測定した。また、該装飾部材の外観を観察した。結果を表1に示す。
【0071】
〔実施例2〕
透明ポリカーボネート(屈折率:1.59)を成形し、図3に示すような凹部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:2.3mm)を得た。
成形体の表面にシリコーン系ハードコート剤(動研社製、サーコートNP−730、コロイダルシリカおよびアルコキシシランを含む)をディッピングによって塗布し、90℃で2時間加熱し、ゾルゲル法によって厚さ4μmのハードコート層18およびハードコート層20を形成した。
【0072】
アルミニウムを銀に変更した以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製した。該ターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして光反射薄膜層14を形成した。
不透明ABS樹脂を成形し、図3に示すような凸部を有する基体12を得た。
基体12の凸部と、凹部の内面にハードコート層18および光反射薄膜層14が形成され、これ以外の表面にハードコート層20が形成された成形体(透明有機材料層16)の凹部とを嵌合させ、図3に示す電波透過性装飾部材2を得た。
【0073】
電波透過性装飾部材2について、ハードコート層18のヘイズの変化(ΔH)、光反射薄膜層の厚さ、平均表面粗さ、60GHzから90GHzにおける電波の透過減衰量(S21)の平均値、反射率、表面抵抗率を測定した。また、電波透過性装飾部材2の外観を観察した。なお、光反射薄膜層の銀の割合は、ターゲットにおける銀の割合と同じであった。結果を表1に示す。
【0074】
〔実施例3〕
透明ポリカーボネートを成形し、図4に示すような凹部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:2.9mm)を得た。
成形体の表面にハードコート剤用プライマー(動研社製、サーコートプライマー99S−2)をディッピングによって塗布し、70℃で1時間加熱し、厚さ5μmのプライマー層22を形成した。さらに、シリコーン系ハードコート剤(動研社製、サーコートNP−730)をディッピングによって塗布し、90℃で2時間加熱し、ゾルゲル法によって厚さ4μmのハードコート層18を形成した。
【0075】
アルミニウムの割合を40体積%に変更した以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製した。該ターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして光反射薄膜層14を形成した。
不透明ABS樹脂を成形し、図4に示すような凸部を有する基体12を得た。
基体12の凸部と、表面全体にプライマー層22およびハードコート層18が形成され、凹部の内面のハードコート層18の表面に光反射薄膜層14が形成された成形体(透明有機材料層16)の凹部とを嵌合させ、図4に示す電波透過性装飾部材3を得た。
【0076】
電波透過性装飾部材3について、ハードコート層18のヘイズの変化(ΔH)、光反射薄膜層の厚さ、平均表面粗さ、60GHzから90GHzにおける電波の透過減衰量(S21)の平均値)、反射率、表面抵抗率を測定した。また、耐候性試験前後の電波透過性装飾部材3の外観を観察した。結果を表2に示す。
【0077】
〔実施例4〕
成形体の表面にプライマー層22を形成しなかった以外は、実施例3と同様にして装飾部材を得た。
該装飾部材について、ハードコート層18のヘイズの変化(ΔH)、光反射薄膜層の厚さ、平均表面粗さ、60GHzから90GHzにおける電波の透過減衰量(S21)の平均値、反射率、表面抵抗率を測定した。また、耐候性試験前後の該装飾部材の外観を観察した。結果を表2に示す。
【0078】
〔実施例5〕
透明ポリメチルメタクリレートを成形し、図5に示すような凸部を有する透明有機材料層16となる成形体(厚さ:2.9mm)を得た。
成形体の凸部の上面の一部に、着色パターン層24として黒色のアクリル用塗料をスクリーン印刷しマスクパターンを施した。さらに、シリコーン系ハードコート剤(動研社製、サーコートNP−720、コロイダルシリカおよびアルコキシシランを含む)をディッピングによって塗布し、90℃で2時間加熱し、ゾルゲル法によって厚さ4μmのハードコート層18を形成した。
【0079】
アルミニウムの割合を45体積%に変更した以外は、実施例1と同様にしてターゲットを作製した。該ターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして凸部の上面のハードコート層18の表面に光反射薄膜層14を形成した。
不透明ABS樹脂を成形し、図5に示すような凹部を有する基体12を得た。
基体12の凹部と、着色パターン層24、ハードコート層18および光反射薄膜層14が形成された成形体(透明有機材料層16)の凹部とを嵌合させ、図5に示す電波透過性装飾部材4を得た。
【0080】
電波透過性装飾部材4について、ハードコート層18のヘイズの変化(ΔH)、光反射薄膜層の厚さ、平均表面粗さ、60GHzから90GHzにおける電波の透過減衰量(S21)の平均値、反射率、表面抵抗率を測定した。また、電波透過性装飾部材4の外観を観察した。結果を表2に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の電波透過性装飾部材は、携帯電話の筐体、ボタン;電波時計の筐体;通信機器の筐体;レーダー搭載の自動車のフロントグリル、バンパ等として有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 電波透過性装飾部材
2 電波透過性装飾部材
3 電波透過性装飾部材
4 電波透過性装飾部材
12 基体
14 光反射薄膜層
16 透明有機材料層
18 ハードコート層
20 ハードコート層
22 プライマー層
24 着色パターン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
透明有機材料層と、
前記基体と前記透明有機材料層との間に存在し、ゾルゲル法によって形成されたハードコート層と、
ハードコート層の表面に物理的蒸着によって形成された、シリコンと光輝金属との合金からなる連続した光反射薄膜層と
を有する、電波透過性装飾部材。
【請求項2】
前記ハードコート層の厚さが、0.2μm超10μm以下である、請求項1に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項3】
前記ハードコート層が、コロイダルシリカおよびアルコキシシランを含むハードコート剤を用いたゾルゲル法によって形成された層である、請求項1または2に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項4】
前記基体と対向する面以外の前記透明有機材料層の表面に形成されたハードコート層を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項5】
前記基体と前記透明有機材料層との間に存在するハードコート層と、前記基体と対向する面以外の前記透明有機材料層の表面に形成されたハードコート層とが、同じ材料からなる、請求項4に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項6】
前記基体または前記透明有機材料層と、前記ハードコート層との間に設けられたプライマー層を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電波透過性装飾部材。
【請求項7】
基体と、透明有機材料層と、前記基体と前記透明有機材料層との間に存在するハードコート層と、ハードコート層の表面に形成された、シリコンと光輝金属との合金からなる連続した光反射薄膜層とを有する電波透過性装飾部材を製造する方法であって、
前記ハードコート層を、ゾルゲル法によって形成し、
前記光反射薄膜層を、ハードコート層の表面へのシリコンと光輝金属との合金の物理的蒸着によって形成する、電波透過性装飾部材の製造方法。
【請求項8】
前記ハードコート層の厚さが、0.2μm超10μm以下である、請求項7に記載の電波透過性装飾部材の製造方法。
【請求項9】
前記ハードコート層を、コロイダルシリカおよびアルコキシシランを含むハードコート剤を用いたゾルゲル法によって形成する、請求項7または8に記載の電波透過性装飾部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−86469(P2013−86469A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231904(P2011−231904)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】