説明

電流を均一に分布させる導電性織物

【課題】 織物表面へ均一に電流を流すことができる導電性織物を提供する。
【解決手段】 導電性織物は導電性糸200から構成される。導電性糸200は、長さが100mmより短い導電短繊維および絶縁長繊維を混紡して形成され、その導電短繊維を導電性糸200から外部へ突出させて導電性毛羽220を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性複合織物に関し、特に導電性織物に関する。
【背景技術】
【0002】
生活水準の向上に伴い、糸の機能に対する要求も新たに生まれ、例えば導電性糸、不燃性糸、抗菌糸などといった様々な機能を備えた糸が次々と現れている。その中でも、導電性糸は、静電気の発生を防ぐ作業服の製造に用いることができるため、静電気発生の防止が特に求められる石油、化学工業、精密機械、炭鉱、食品および医薬などの業界において使用されている。また、この導電性糸で製作した導電性織物を物理治療に応用してパルス電気療法に利用し、掌や足裏の反射区を刺激してだるさや痛みを和らげ、経絡を活性化する効果を得ることもできる。
【0003】
従来技術による導電性織物には大きく二種類の製造方法があり、特許文献1および特許文献2において開示されているように、その一つは、金属長繊維110と一般の紡績長繊維120とを混紡して導電性糸100を形成してから(図1を参照)、その導電性糸100により導電性織物を製造する方法である。この導電性織物は主に導電性糸によって導電が行なわれるため一次元の導電しか行うことができず、導電性織物の平面上において二次元の導電を均一に行うことはできなかった。また、導電性織物が外力により引っ張られて曲げられた場合、導電性糸が容易に切れて糸の先端から放電が起きる問題が発生した。そのため、導電が不均一となるだけでなく、漏電が発生する危険性も高かった。
【0004】
特許文献3において開示されているように、もう一つの製造方法は織物の表面に導電性材料を塗布するものであった。しかしこの方法は製造工程が複雑であるだけでなく、品質の制御も困難であった。また、この方法により製造された導電性織物は耐洗性が理想的でなく、使用寿命も短かった。
【特許文献1】米国特許第6307189号明細書
【特許文献2】米国特許第5422462号明細書
【特許文献3】米国特許第4764665号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の目的は、織物の平面上へ電流を均一に分布させることのできる導電性織物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、耐洗性を備える導電性織物を提供することにある。
本発明の第3の目的は、外力により引っ張られて曲げられても容易に変形しない導電性織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的およびその他の目的を達成するため、本発明は電流を均一に分布させることのできる導電性織物を提供する。本発明の均一に電流を流すことのできる導電性織物は、長さが100mmよりも短い導電短繊維および絶縁長繊維を混紡して形成された導電性糸からなる。
【0007】
上述の目的およびその他の目的を達成するため、本発明は電気発生織物を提供する。この電気発生織物は導電性織物からなり、導電性織物が含む導電性糸は、長さが100mmよりも短い導電短繊維および絶縁長繊維を混紡して形成されたものであり、上述の導電短繊維を導電性糸の外部に突出させて導電性毛羽が形成されている。また、これは導電性織物の異なる位置に設けられて低周波治療器に接続された二つの導電端子を有する。そして、導電性織物と人体とが接触されて通電されると、低周波治療器の電流を人体に流すことができる。
【0008】
本発明の好適な一実施形態による導電短繊維の直径は約10μmよりも小さく、その抵抗値は500Ω/cmよりも小さいことが好ましい。また、導電短繊維の含有量は導電性繊維の重量の約10%〜80%であることが好ましい。導電短繊維は、ステンレス、銅、銀、ニッケル、金またはカーボンブラックからなってもよい。また、上述の混紡方法は、リング紡績法またはリングフリクション紡績法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上述したことから分かるように、本発明の好適な実施形態は、導電短繊維と一般の絶縁長繊維との混紡により導電性糸を形成する。この導電性糸により製織された導電性織物は耐洗性を備えているだけでなく、導電性織物の表面に導電性毛羽が敷詰められているため、外力により引っ張られた場合でも、糸が切れて先端部から放電が起こるという問題は発生しにくい。また、導電短繊維が織物上へ均一に分布されているため、織物の表面上へ均一に導電させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は新しいタイプの導電性糸を提供するものである。この導電性糸により製織された導電性織物は、耐洗性を備えるだけでなく、外力により引っ張られた場合でも、容易に糸が切れて先端部から放電が起きるという問題は発生しない。また、織物の表面上へ電流を均一に流すこともできる。
【0011】
(導電性糸および導電性織物の製造方法)
本発明の好適な一実施形態によると、長さが100mmよりも短い導電短繊維および絶縁長繊維を混紡して導電性糸を得る。導電短繊維の直径は約10μmよりも小さく、その抵抗値は500Ω/cmよりも小さいことが好ましい。また、導電短繊維の含有量は導電性繊維の重量の約10%〜80%であることが好ましい。導電短繊維の材料は、例えばステンレス、銅、銀、ニッケル、金またはカーボンブラックからなる。絶縁長繊維は使用することのできるあらゆる天然繊維または人工繊維からなる。
【0012】
上述の混紡方法はリング紡績法(ring spinning)またはリングフリクション紡績法(ring frictional spinning)であることが好ましく、加重トラベラ(traveller)を使用して導電短繊維の比重が大きいなどの特性を利用して複合紡績を行うことにより、導電性糸の表面から外部へ導電短繊維を突出させて導電性毛羽を形成する。また導電性糸の表面から突出される導電短繊維の量が20%を超えるようにして、導電性毛羽を均一に形成することが好ましい。
【0013】
図2は、上述の方法により製造された導電性糸の構造を示す模式図である。図2に示すように、導電性糸200の主繊維210表面に設けられた密度の高い導電短繊維は、外部に延伸されて導電性毛羽220が形成されている。そのため、導電性糸200を織成または編成して導電性織物を形成するとき、隣接する導電性糸200の導電性毛羽220を互いに交錯させて接触するようにして、導電性織物の表面が各方向で均一に導電されるようにする。
【0014】
また、導電性織物を形成した後、毛を植毛、起毛、ブラッシングまたは研磨することにより、導電性毛羽を導電性織物の表面上からさらに突出させてもよい。このように導電性毛羽を導電性織物の表面へより均一に分布させることにより、導電性織物の表面上へ均一に導電させることのできる導電層を形成する。
【0015】
(導電性織物のテスト)
続いて、上述の導電性繊維の表面に大量の導電性毛羽を備える導電性織物に対して連続して曲げたときの導電率をテストした。表1は、この連続して曲げたときの導電率テストの結果を示し、これには金属長繊維を含む導電性繊維により製織された導電性織物との比較が含まれる。
【0016】
【表1】

*10箇所で測定した平均値
【0017】
表1から分かるように、本発明の好適な一実施形態により製造された表面に大量の導電性毛羽を有する導電性織物は、200回の曲げテスト後においても抵抗値が全く上昇しておらず、本来の導電度が依然保持されている。しかし、従来の金属長繊維を含む導電性織物に曲げテストを200回行うと、抵抗値が200倍近く上昇して、抵抗値の差異も数倍増大する。この結果から、従来の金属長繊維を含む導電性織物が、外力により引っ張られて曲げられると、糸が切れることにより導電率が大幅に低下しやすくなり、さらには非導電になってしまうこともあることが分かる。一方、本発明の好適な一実施形態によって製造された表面に大量の導電性毛羽を有する導電性織物は、外力により引っ張られて曲げられることに対しても耐性を備えているため、本来の導電率を依然保持することができる。
【0018】
その後、本発明の好適な一実施形態により製造された表面に大量の導電性毛羽を有する導電性織物に対して耐水洗度の導電率テストを行う。表2は、耐水洗度の導電率テストの結果を示し、これには金属蒸着層を有する導電性織物との比較が含まれる。
【0019】
【表2】

*10箇所で測定した平均値
【0020】
表2から分かるように、本発明の好適な一実施形態により製造された表面に大量の導電性毛羽を有する導電性織物は、200回の水洗テスト後においても抵抗値が全く上昇せず、本来の導電度が依然保持されている。しかし、従来の金属蒸着層を有する導電性織物に水洗テストを200回行うと、抵抗値が7×10倍近く上昇して、抵抗値の差異も数十倍増大する。この結果から、従来の金属蒸着層を有する導電性織物は、水洗いされた後に金属蒸着層が容易に脱落して、抵抗値が大幅に上昇して非導電となることが分かる。その一方、本発明の好適な一実施形態によって製造された表面に大量の導電性毛羽を有する導電性織物は、水洗に対して十分耐性を備えて本来の導電率を依然保持することができる。
【0021】
(導電性織物の応用例―電気発生織物)
上述の好適な一実施形態により製造された表面に大量の導電性毛羽を有する導電性織物を裁断縫製してから導電端子を設けると、図3および図4に示すような電気発生靴下や電気発生手袋を形成することができる。
【0022】
図3に示すように、導電性織物は電気発生靴下300の導電部310、320を含む。導電部310、320の間には絶縁部330が設けられ、絶縁部330は一般の紡織糸によって形成された織物である。導電部310、320上にはそれぞれ導電端子340、350が設置されて低周波発生器(図示せず)に接続される。図4に示すように、電気発生手袋400は全体が導電性織物で構成された導電部410からなり、電気発生手袋400の手首部分には導電端子420が設置されて低周波発生器(図示せず)に接続される。
【0023】
そして、低周波発生器の電源を入れると、電気発生靴下300および電気発生手袋400の導電部に通電されて微弱電流を人体に伝えて電気発生効果を得る。そのため、従来の導電片を皮膚上に粘着したものと比べ、導電片が皮膚にアレルギーを起こす問題を減らすことができる。また、低周波発生器に接続しないときは、一般の衣類として使用することもできる。
【0024】
上述の好適な実施形態から分かるように、本発明は少なくとも下記のような長所を備える。
(1)導電短繊維が織物内に十分に分散されるように、導電性糸表面の導電性毛羽を形成することができる。そして、隣接する導電性糸の導電性毛羽を互いに交錯するように接触させて、導電性織物の表面全体に導電層を均一に形成することができる。
(2)金属長繊維を使用せずに導電性繊維が製織されているため、外力によって引っ張られて曲げられた後でも非常に安定した導電率を保持することができる。
(3)導電性糸の幹繊維は一般の絶縁長繊維のため、導電性糸によって製織される導電性織物は柔軟で心地よい触感を依然有する。
(4)表面に大量の導電性毛羽を有する導電性織物を裁断縫製して衣類を製作すると、その衣類の表面は導電性を備えているため、これにより導電率が失われることはない。さらに、従来技術による金属長繊維を含む導電性織物と比べ、金属長繊維を含む導電性織物のように多くの制限を有さず、消費電力量も少ない。
(5)導電短繊維が導電性織物内へ十分かつ均一に分散されているため、境界の適合性および構造強度に関する問題は発生せず、耐久性および耐水洗性を備える。
【0025】
本発明では好適な実施形態を前述の通り開示したが、これらは決して本発明を限定するものではなく、当該技術を熟知するものなら誰でも、本発明の趣旨と領域を脱しない範囲内で各種の変更や修正を加えることができる。従って本発明の保護の範囲は、特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来技術の金属長繊維および一般の紡績長繊維を混紡して得られた導電性糸の構造を示す模式図である。
【図2】本発明の好適な一実施形態による導電短繊維および一般の絶縁長繊維を混紡して得られた導電性糸の構造を示す模式図である。
【図3】本発明の好適な一実施形態による電気発生靴下を示す模式図である。
【図4】本発明の好適な一実施形態による電気発生手袋を示す模式図である。
【符号の説明】
【0027】
200…導電性糸、 210…主繊維、 220…導電性毛羽、
300…電気発生靴下、 310、320、410…導電部、 330…絶縁部、
340、350、420…導電端子、 400…電気発生手袋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性織物を構成する導電性糸が、絶縁長繊維および100mmよりも短い導電短繊維を備える電流を均一に分布させる導電性織物であって、
前記導電短繊維および前記絶縁長繊維を混紡して前記導電性糸を形成し、前記導電短繊維が前記導電性糸の外部へ突出されて導電性毛羽を形成することを特徴とする電流を均一に分布させる導電性織物。
【請求項2】
前記導電短繊維の直径は、10μmよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の電流を均一に分布させる導電性織物。
【請求項3】
前記導電短繊維の抵抗値は、500Ω/cmよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の電流を均一に分布させる導電性織物。
【請求項4】
前記導電性毛羽の形成は、前記導電短繊維の20%を超える量を、前記導電性糸の外部へ突出させて行うことを特徴とする請求項1記載の電流を均一に分布させる導電性織物。
【請求項5】
前記導電性糸中の前記導電短繊維の含有量は、前記導電性糸の重量の約10%〜80%であることを特徴とする請求項1記載の電流を均一に分布させる導電性織物。
【請求項6】
前記導電短繊維は、ステンレス、銅、銀、ニッケル、金またはカーボンブラックからなることを特徴とする請求項1記載の電流を均一に分布させる導電性織物。
【請求項7】
前記混紡は、リング紡績法またはリングフリクション紡績法により行うことを特徴とする請求項1記載の電流を均一に分布させる導電性織物。
【請求項8】
前記絶縁長繊維は天然繊維または人工繊維であることを特徴とする請求項1記載の電流を均一に分布させる導電性織物。
【請求項9】
導電性織物の導電性糸は、100mmよりも短い導電短繊維および絶縁長繊維を混紡して形成され、前記導電短繊維が前記絶縁長繊維の外部へ突出されて導電性毛羽を形成する電流を均一に分布させる導電性織物と、
前記導電性織物の異なる位置上に設けられて低周波発生器に接続され、前記導電性織物と人体とが接触されると、前記低周波発生器の電流を人体に流す二つの導電端子と、
を備えることを特徴とする電気発生織物。
【請求項10】
前記導電短繊維の直径は、10μmよりも小さいことを特徴とする請求項9記載の電気発生織物。
【請求項11】
前記導電性糸中の前記導電短繊維の含有量は、前記導電性糸の重量の約10%〜80%であることを特徴とする請求項9記載の電気発生織物。
【請求項12】
前記導電短繊維の抵抗値は、500Ω/cmよりも小さいことを特徴とする請求項9記載の電気発生織物。
【請求項13】
前記導電性毛羽の形成は、前記導電短繊維の20%を超える量を、前記導電性糸の外部へ突出させて行うことを特徴とする請求項9記載の電気発生織物。
【請求項14】
前記導電短繊維は、ステンレス、銅、銀、ニッケル、金またはカーボンブラックからなることを特徴とする請求項9記載の電気発生織物。
【請求項15】
前記混紡は、リング紡績法またはリングフリクション紡績法により行うことを特徴とする請求項9記載の電気発生織物。
【請求項16】
前記絶縁長繊維は天然繊維または人工繊維であることを特徴とする請求項9記載の電気発生織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−233404(P2006−233404A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113060(P2005−113060)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(504427651)財團法人紡織産業綜合研究所 (10)
【Fターム(参考)】