説明

電流測定治具

【課題】回路基板上の電源回路の出力電流の測定や各素子に流れる電流の測定にかかる手間と時間を削減することができる汎用性の高い電流測定治具を提供する。
【解決手段】測定対象となる素子11を搭載し、回路基板1に実装される電流測定治具10は、素子11を保持する保持部12と、保持部12に保持された素子11と回路基板1とを電気的に接続する導電部13と、導電部13に並列に接続可能なループケーブル14と、を有し、導電部13には、ループケーブル14が導電部13に接続されたときに素子11と回路基板1との間に流れる電流をループケーブル14に迂回させるスイッチ部20が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板上の素子に流れる電流を測定するための電流測定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の開発サイクルは年々短くなっており、そのために、電子機器の回路基板設計および評価段階でより効率良く作業することが必要とされている。回路基板設計および評価段階では、回路基板上の電源回路の出力電流の測定や各素子に流れる電流の測定に多くの時間を要している。
【0003】
通常、回路基板上の各素子に流れる電流の測定は、以下のように行われる。まず、測定対象となる素子の端子と回路基板上の接続パッドとの接続を切断し、切断した端子と接続パッドとをリードと半田でループ状に再度接続する。そして、そのリード部分に流れる電流を電流プローブやクランプメータを用いて測定する。
【0004】
このように、回路基板設計および評価段階での電流測定は、測定の準備に非常に時間と手間がかかるが、特に近年では、電子機器の多電源種化が進んでおり、それぞれの電源回路に対して上述の作業を繰り返すことは、さらに多くの時間と手間がかかってしまう。そこで、この電流測定にかかる時間や手間を大幅に削減することが求められており、そのための方法がいくつか提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、回路基板間の電力供給をフレキシブルフラットケーブル(FFC)を用いて行うために各回路基板にそれぞれ設けられたケーブル接続部に、1本ずつ分かれた複数の平行導体を有する治具の端部をそれぞれ接続し、その平行導体を1本ずつ引き上げた状態で電流測定用のプローブを用いて電流値を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−170380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の電流測定方法では、素子の端子と回路基板上の接続パッドとの接続を切断し、切断した端子と接続パッドとをリードと半田でループ状に再度接続する必要がないため、電流測定の準備にかかる時間と手間とを削減することが可能となる。しかしながら、この方法は、電源回路基板と他の回路基板とがFFCで接続された回路構成にしか適用できず、好ましくない。
【0008】
そこで本発明は、回路基板上の電源回路の出力電流の測定や各素子に流れる電流の測定にかかる手間と時間を削減することができる汎用性の高い電流測定治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の電流測定治具は、測定対象となる素子を搭載し、回路基板に実装される電流測定治具であって、素子を保持する保持部と、保持部に保持された素子と回路基板とを電気的に接続する導電部と、導電部に並列に接続可能なループケーブルと、を有し、導電部には、ループケーブルが導電部に接続されたときに素子と回路基板との間に流れる電流をループケーブルに迂回させるスイッチ部が設けられている。
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明によれば、回路基板上の電源回路の出力電流の測定や各素子に流れる電流の測定にかかる手間と時間を削減することができる汎用性の高い電流測定治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の電流測定治具の一実施形態を概略的に示す側面図である。
【図2】図1に示す電流測定治具の導電部付近を拡大して示す概略側面図である。
【図3】本発明の電流測定治具の他の実施形態を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の電流測定治具の一実施形態を概略的に示す側面図である。図1(a)は、ループケーブルが導電部に接続されていない状態を示し、図1(b)は、ループケーブルが導電部に接続された状態を示している。
【0014】
本実施形態の電流測定治具10は、チップ型素子11を測定対象とし、チップ型素子11を保持する保持部12と、保持部12に保持されたチップ型素子11と回路基板1とを電気的に接続する導電部13と、導電部13に並列に接続可能なループケーブル14とを有している。図1に示す実施形態では、導電部13は、測定する素子の端子数に合わせて2つ設けられているが、これに限定されるものではない。
【0015】
保持部12は、異なる大きさの素子に対応できるように可動部材12aを有している。これにより、保持部12は、多くの種類のチップ型素子を保持することができ、したがって、本実施形態の電流測定治具10は、多くの種類のチップ型素子を測定対象とすることができる。
【0016】
導電部13は、素子11が保持部12に保持されたときに素子11の端子に電気的に接続される素子コンタクト部15aを含む第1の導電部材15と、回路基板1の接続パッドに接続された基板コンタクト部16aを含む第2の導電部材16とを有している。基板コンタクト部16aが回路基板1の接続パッドに半田付けされることで、電流測定治具10は回路基板1に実装されている。第1の導電部材15と第2の導電部材16とは、図1(a)に示すように、ループケーブル14が導電部13に接続されていないときには互いに接続されている。
【0017】
また、導電部13は、第1の導電部材15が、ループケーブル14の一端に設けられた金属ピン14aを受け入れる第1の差込口17を有し、第2の導電部材16が、ループケーブル14の他端に設けられた金属ピン14aを受け入れる第2の差込口18を有している。ループケーブル14は、金属ピン14aが第1の差込口17に挿入されると、第1の導電部材15とを接続し、金属ピン14aが第2の差込口18に挿入されると、第2の導電部材16と接続するようになっている。
【0018】
さらに、導電部13は、第1の差込口17に設けられ、ループケーブル14の金属ピン14aが第1の差込口17に挿入されることで作動するスイッチ部20を有している。スイッチ部20は、ループケーブル14の金属ピン14aが第1の差込口17に挿入されていないとき(図1(a)参照)には、第1の導電部材15と第2の導電部材16とを接続し、金属ピン14aが第1の差込口17に挿入されたとき(図1(b)参照)には、第1の導電部材15と第2の導電部材16との接続を解除して、第1の導電部材15とループケーブル14とを接続するようになっている。したがって、チップ型素子11と回路基板1との電気的な接続は、ループケーブル14が導電部13に接続されていないときには導電部13を介して行われ、ループケーブル14が導電部13に接続されたときにはループケーブル14を介して行われる。すなわち、スイッチ部20は、チップ型素子11と回路基板1との間に流れる電流をループケーブル14に迂回させることができる。こうしてループケーブル14に迂回させた電流を、電流プローブを用いてオシロスコープなどで電流波形として観測したり、クランプメータを用いて電流値として測定したりすることができる。
【0019】
ここで、図2を参照して、本実施形態のスイッチ部の具体的な構成について説明する。図2は、本実施形態の電流測定治具の導電部付近を拡大して示す側面図である。
【0020】
スイッチ部20は、図2(a)に示す導通位置と図2(b)に示す非導通位置との間を移動可能に構成された可動コンタクト21部と、可動コンタクト部21を導通位置に付勢する付勢手段(ばね)22とを有している。可動コンタクト部21は、導通位置では、第1の導電部材15と第2の導電部材16とに接触して、それらを導通させ、非導通位置では、第1および第2の導電部材15,16とは非接触になる。さらに、スイッチ部20は、可動コンタクト部21からばね22の付勢方向(図2(a)中矢印参照)に突出して第1の差込口17に挿入された押圧部材23を有している。押圧部材23は、ループケーブル14の金属ピン14aが第1の差込口に挿入されたときに、金属ピン14aにばね22の付勢方向とは反対方向(図2(b)中矢印参照)に押圧されて、可動コンタクト部21を非導通位置に移動させるようになっている。このとき、金属ピン14aは第1の導電部材15に接触し、これにより、第1の導電部材15とループケーブル14との接続を確立することができる。
【0021】
なお、スイッチ部の構成は、上述した構成に限定されるものではなく、ループケーブルが導電部に接続されたときにチップ型素子と回路基板とに流れる電流をループケーブルに迂回させるようになっていればよい。
【0022】
また、本実施形態では、スイッチ部20は、第1の差込口17に設けられているが、第2の差込口18に設けられていてもよい。また、図1に示す実施形態では、スイッチ部20は、2つの導電部13の両方に設けられているが、いずれか一方の導電部13に設けられていてもよい。
【0023】
以上のように、本実施形態の電流測定治具によれば、回路基板上の素子に流れる電流を測定する際に、素子の端子と回路基板上の接続パッドとの接続を物理的に切断し、切断した端子と接続パッドとをリードと半田でループ状に再度接続する必要がない。そのため、電流測定の準備にかかる時間と手間とを大幅に削減することが可能となる。また、本実施形態では、回路基板上の、通常素子が搭載される位置に電流測定治具を取り付け、その上に素子を搭載することで、素子の電流測定が可能となるため、より多くの回路構成に本実施形態の電流測定治具を適用することが可能となる。
【0024】
なお、本実施形態の電流測定治具は、電源回路基板やAV回路基板など、さまざまな回路基板の設計および評価段階での、コイルやダイオード、コンデンサといった素子に流れる電流の測定に用いることができる。また、本実施形態の電流測定治具は、マザーボードのような、すべての回路が1つの基板に集約された回路基板上でも、実際の製品に近い状態での電流測定が容易に可能になる点で有利である。
【0025】
上述した実施形態では、チップ型素子を測定対象としていたが、本発明の電流測定治具は、他の形状の素子の電流測定にも適用することができる。図3は、本発明の電流測定治具の他の実施形態を概略的に示す側面図である。図3(a)は、ループケーブルが導電部に接続されていない状態を示し、図3(b)は、ループケーブルが導電部に接続された状態を示している。
【0026】
本実施形態の電流測定治具10は、スルーホール型素子21を測定対象としている。そのため、図1に示す実施形態からは、スルーホール型素子21の端子の形状に合わせて、スルーホール型素子21を保持する保持部材22の構成と、第2の導電部材26の基板コンタクト部26aの構成とが変更されている。これ以外の構成や作用効果は、図1に示す実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0027】
1 回路基板
10 電流測定治具
11 チップ型素子
12,22 保持部
12a 可動部材
13 導電部
14 ループケーブル
14a 金属ピン
15 第1の導電部材
15 素子コンタクト部
16,26 第2の導電部材
16a,26a 基板コンタクト部
17 第1の差込口
18 第2の差込口
20 スイッチ部
21 可動コンタクト部
22 ばね(付勢部材)
23 押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる素子を搭載し、回路基板に実装される電流測定治具であって
前記素子を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記素子と前記回路基板とを電気的に接続する導電部と、
前記導電部に並列に接続可能なループケーブルと、を有し、
前記導電部には、前記ループケーブルが前記導電部に接続されたときに前記素子と前記回路基板との間に流れる電流を前記ループケーブルに迂回させるスイッチ部が設けられている、電流測定治具。
【請求項2】
前記導電部が、前記素子に電気的に接続され、前記ループケーブルの一端が電気的に接続される第1の導電部材と、前記回路基板に電気的に接続され、前記ループケーブルの他端が電気的に接続される第2の導電部材と、を有し、
前記スイッチ部は、前記ループケーブルが前記導電部に接続されていないときに前記第1の導電部材と前記第2の導電部材とを接続し、前記ループケーブルが前記導電部に接続されたときに前記第1の導電部材と前記第2の導電部材との前記接続を解除するようになっている、請求項1に記載の電流測定治具。
【請求項3】
前記第1の導電部材が、前記ループケーブルの端部を受け入れて、前記ループケーブルと前記第1の導電部材とを接続させる第1の差込口を有し、前記第2の導電部材が、前記ループケーブルの端部を受け入れて、前記ループケーブルと前記第2の導電部材とを接続させる第2の差込口を有し、
前記スイッチ部は、前記第1および第2の差込口のいずれか一方に設けられ、前記ループケーブルの端部が前記いずれか一方の差込口に挿入されていないときに前記第1の導電部材と前記第2の導電部材とを接続し、前記ループケーブルの端部が前記いずれか一方の差込口に挿入されたときに前記第1の導電部材と前記第2の導電部材との前記接続を解除するようになっている、請求項2に記載の電流測定治具。
【請求項4】
前記スイッチ部が、
前記第1の導電部材と前記第2の導電部材とに接触する導通位置と、前記第1の導電部材と前記第2の導電部材とに接触しない非導通位置との間を移動可能な可動コンタクト部と、
前記可動コンタクト部を前記導通位置に付勢する付勢部材と、
前記可動コンタクト部から前記付勢部材の付勢方向に突出して前記いずれか一方の差込口に挿入され、前記ループケーブルの端部が前記いずれか一方の差込口に挿入されたときに前記端部に押圧されて、前記可動コンタクト部を前記非導通位置に移動させる押圧部材と、
を有する、請求項3に記載の電流測定治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−57625(P2013−57625A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197146(P2011−197146)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(390001395)NECシステムテクノロジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】