説明

電流測定装置

【課題】センサ用光ファイバとファラデー回転子の比誤差−温度特性の補償を電流測定装置の光学系で行うことが可能で、且つ、出力における比誤差の変動幅を、±0.5%の範囲内に収めることが可能な電流測定装置を提供する。
【解決手段】少なくとも、センサ用光ファイバと、偏光分離部と、ファラデー回転子と、光源と、光電変換素子を備える信号処理回路を含んで電流測定装置を構成し、センサ用光ファイバを被測定電流が流れている導体の外周に周回設置すると共に、ファラデー回転子の磁気飽和時のファラデー回転角を、温度23℃において22.5°+α°に設定してファラデー回転角を22.5°からα°だけ変化させることで、信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.5%の範囲内に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファラデー効果を利用した電流測定装置に関し、光をセンサ用光ファイバの一端側から入射して、他端側で反射させる反射型の電流測定装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバのファラデー効果を利用することにより、小型、フレキシブル、耐電磁雑音、長距離信号伝送、耐電圧など、様々な利点をもつ電流測定装置が知られている。このような電流測定装置の一例として、光の偏光面が磁界の作用により回転するファラデー効果を利用した、反射型の電流測定装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
図21に、特許文献1の図18に示される電流測定装置100を示す。この電流測定装置100は、センサ用光ファイバ101に鉛ガラスファイバを用いると共に、センサ用光ファイバ101の他端にミラー102を配置した反射型の電流測定装置100である。センサ用光ファイバ101は被測定電流が流れている導体103の外周に、被測定電流の検出用に周回設置され、センサ用光ファイバ101の一端側から入射した直線偏光を、ミラー102で往復する間に、被測定電流の磁界で回転する直線偏光のファラデー回転角を測定することを基本構成としている。
【0004】
更に、104は光源、105はサーキュレータ、106は方解石などの偏光分離部、107は永久磁石(107a)とYIGなどの強磁性体結晶(107b)からなるファラデー回転子、108aと108bはフォトダイオード(PD)、109aと109bはアンプ(A)、110aと110bはバンドパスフィルタ(BPF)、111aと111bはローパスフィルタ(LPF)、112aと112bは電気信号の交流成分と直流成分との比を求めるための除算器、113は極性反転器、114は乗算器である。なお、115は光学系、116は信号処理回路である。
【0005】
光源104から出射され、偏光分離部106で常光線と異常光線とに分離された直線偏光のうち、常光線に相当する直線偏光が強磁性体結晶107bを通過後、センサ用光ファイバ101に入射する。更に、ミラー102で反射し、再びセンサ用光ファイバ101、強磁性体結晶107bを通過し、偏光分離部106に入射する。
【0006】
前記直線偏光が強磁性体結晶107b及びセンサ用光ファイバ101を通過する際に前記直線偏光の偏光面は回転するため、前記直線偏光は偏光分離部106によって垂直な2つの方向の偏光成分に分離される。分離されたそれぞれの偏光成分の光は、図21のサーキュレータ105と偏光分離部106とにより、それぞれ受光素子108a及び108bに導かれる。
【0007】
フォトダイオード108a、108bからは受光した光の強度に比例する電流又は電圧が、電気信号として出力される。これらの電気信号はアンプ109a、109bを通過した後、BPF110a、110b、LPF111a、111bにより交流成分と直流成分に分離され、除算器112a、112bによって交流成分と直流成分との比が求められた後、除算器112aからの出力信号に関しては、極性反転器113により極性が反転される。更に、極性反転器113及び除算器112bから出力される信号Sa及びSbの平均が乗算器114によって求められ、この平均が電流測定装置100の被測定電流に対する測定値Soutとして出力される。
【0008】
センサ用光ファイバ101側に設けられるファラデー回転子107としては、磁気飽和時に22.5°のファラデー回転角を有するファラデー回転子が使用される。(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2006/022178号公報(第4−7頁、図18)
【特許文献2】WO2003/075018号公報(第8頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、電流測定装置に用いるファラデー回転子107のファラデー回転角は周囲の温度に依存する特性(温度特性)を有する。従って、従来のファラデー回転子107では、ファラデー回転子107の温度特性を低減するために図21に示すように信号処理回路116及び光電変換素子(フォトダイオード108a、108b)を二重化し、2つの変調信号Sa、Sbの平均を求めることにより、強磁性ファラデー回転子107のファラデー回転能の温度依存性がもたらす出力Soutへの影響を小さくしていた。
【0011】
しかしながら、センサ用光ファイバ101にもヴェルデ定数及びファラデー回転角の温度依存による比誤差−温度特性が存在するため、ファラデー回転子107の補償だけでなくセンサ用光ファイバ101の温度特性の補償(低減)も必要である。ファラデー回転子107及びセンサ用光ファイバ101の補償は共に前記信号処理回路116により行われていたものの完全ではなく、また、このような補償は電流測定装置100の信頼性向上の面から、光学系115での補償が望まれている。
【0012】
図22(a)は図21の場合の変調信号Sa、Sbの誤差率と温度との関係を示し、同(b)はセンサ用光ファイバ101の温度特性を示している。すなわち、図22(a)のように変調信号Sa、Sbの平均処理を行っても、図22(b)に示すような課題、つまりセンサ用光ファイバ101が鉛ガラスファイバの場合、センサ用光ファイバ101のヴェルデ定数の温度依存に起因する、センサ出力の温度特性を完全に補償することができないという課題が残存していた。
【0013】
従って、ファラデー回転子107とセンサ用光ファイバ101の両方の温度特性を完全に補償する電流測定装置100が望まれていた。特に信号処理回路116から出力される、被測定電流103の測定値(Sout)における比誤差の変動幅を±0.5%以内に抑えることが、保護継電器用途への適用から要求されていた。
【0014】
本発明の電流測定装置は上記課題に基づいて為されたものであり、その目的はセンサ用光ファイバとファラデー回転子の比誤差−温度特性の補償を電流測定装置の光学系で行うことが可能な電流測定装置を提供することである。
【0015】
更に、電流測定装置の出力における比誤差の変動幅を、±0.5%の範囲内に収めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1に記載の電流測定装置は、少なくとも、センサ用光ファイバと、偏光分離部と、ファラデー回転子と、光源と、光電変換素子を備える信号処理回路を含み、
前記センサ用光ファイバは被測定電流が流れている導体の外周に周回設置されると共に、直線偏光を入射するための一端と、入射した前記直線偏光を反射する他端とを備え、
前記偏光分離部は、前記センサ用光ファイバの一端側に設けられると共に、
前記ファラデー回転子は、前記センサ用光ファイバの一端側と前記偏光分離部との間に配置され、
更に、
前記ファラデー回転子の磁気飽和時のファラデー回転角が、温度23℃において22.5°+α°に設定されることで、前記信号処理回路から出力される前記被測定電流の測定値における比誤差の変動幅が±0.5%の範囲内に設定されることを特徴とする電流測定装置である。
【0017】
更に、本発明の請求項2に記載の電流測定装置は、前記変動幅が±0.5%の範囲内に設定される温度範囲が100℃であることを特徴とする請求項1に記載の電流測定装置である。
【0018】
更に、本発明の請求項3に記載の電流測定装置は、前記100℃の温度範囲が、−20℃以上80℃以下であることを特徴とする請求項2に記載の電流測定装置である。
【0019】
更に、本発明の請求項4に記載の電流測定装置は、前記ファラデー回転子が、温度の変化に伴って磁気飽和時のファラデー回転角が2次曲線状に変化するファラデー回転角−温度特性を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電流測定装置である。
【0020】
更に、本発明の請求項5に記載の電流測定装置は、前記ファラデー回転子が、2つ以上のファラデー素子で構成されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電流測定装置である。
【0021】
更に、本発明の請求項6に記載の電流測定装置は、前記2つ以上のファラデー素子のファラデー回転角がそれぞれ異なることを特徴とする請求項5に記載の電流測定装置である。
【0022】
更に、本発明の請求項7に記載の電流測定装置は、前記信号処理回路から出力される前記被測定電流の測定値における比誤差の変動幅が、±0.2%の範囲内に設定されることを特徴とする請求項4乃至6の何れかに記載の電流測定装置である。
【0023】
更に、本発明の請求項8に記載の電流測定装置は、前記変動幅が±0.2%の範囲内に設定される温度範囲が100℃であることを特徴とする請求項7に記載の電流測定装置である。
【0024】
更に、本発明の請求項9に記載の電流測定装置は、前記100℃の温度範囲が、−20℃以上80℃以下であることを特徴とする請求項8に記載の電流測定装置である。
【0025】
更に、本発明の請求項10に記載の電流測定装置は、前記センサ用光ファイバが鉛ガラスファイバであることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の電流測定装置である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の請求項1に係る電流測定装置に依れば、温度23℃においてファラデー回転子の回転角を22.5°からα°だけ変化させてファラデー回転子の比誤差の変動幅を減少させることで、信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を、±0.5%の範囲内に抑えている。従って、測定値における比誤差−温度特性補償を、ファラデー回転子という光学系で行うことが可能となるので、電流測定装置の信頼性が向上すると共に、比誤差の変動幅を±0.5%以内に抑えることで、保護継電器用途への適用が可能な電流測定装置を実現することが出来る。
【0027】
更に、請求項2、3又は8、9に係る電流測定装置では、±0.5%又は±0.2%の比誤差変動幅を、100℃(−20℃以上80℃以下)の温度範囲に亘って実現することにより、−10℃以上40℃以下の常温域をカバーする実用性を備えた電流測定装置を構成することが可能となる。
【0028】
又、請求項4又は7に係る電流測定装置に依れば、温度の上昇に伴って磁気飽和時のファラデー回転角が2次曲線状に変化するファラデー回転角−温度特性を有するファラデー回転子を備えることにより、信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を、±0.5%又は±0.2%の範囲内に設定することが可能となる。従って±0.5%範囲内の用途に加えて、±0.2%範囲内の比誤差−温度特性が要求される用途(例えば電気料金を計量するための電力量計)に電流測定装置を使用することが可能となる。
【0029】
又、請求項5に係る電流測定装置に依れば、所望の回転角を有するファラデー回転子を安定して得ることが出来る。更に、請求項6に係る電流測定装置に依れば、各ファラデー素子のファラデー回転角をそれぞれ異なるように構成することが可能となるので、各ファラデー素子の温度特性を所望の特性に設定することが出来る。
【0030】
更に、請求項10に係る電流測定装置では、センサ用光ファイバに鉛ガラスファイバを用いるため、電流測定装置の比誤差の変動幅を減少させる際に、鉛ガラスファイバの比誤差−温度特性を加えた上でファラデー回転子の回転角α°を調節する。このように電流測定装置を構成することにより、センサ用光ファイバに鉛ガラスファイバを使用しても、信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を±0.5%(又は±0.2%)の範囲内に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明にかかる電流測定装置の最良の形態を示す構成図。
【図2】直線偏光が往復で透過する際に、温度23℃において45°のファラデー回転角を有するファラデー回転子を備えた電流測定装置の−20℃以上80℃以下の温度範囲における比誤差−温度特性を模式的に示すグラフ。
【図3】温度23℃におけるファラデー回転角を22.5°からα°だけ変化させ、往復で透過する際のファラデー回転角温度依存性を模式的に示すグラフ。
【図4】ファラデー回転角を22.5°からα°だけ変化させ、比誤差−温度特性の曲線を高温度側へとシフトさせたファラデー回転子を備える電流測定装置の、−20℃以上80℃以下の温度範囲における比誤差−温度特性を模式的に示すグラフ。
【図5】図1の電流測定装置において、光源から反射膜に至るまでの光の偏光状態を示す説明図。
【図6】図1の電流測定装置において、反射膜で反射され第1及び第2光電変換素子に至るまでの光の偏光状態を示す説明図。
【図7】図1の電流測定装置において、信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差−温度特性グラフの一例。
【図8】センサ用光ファイバに用いる鉛ガラスファイバの比誤差−温度特性を模式的に示すグラフ。
【図9】本発明にかかる電流測定装置の別形態を示す構成図。
【図10】第1ファラデー素子のファラデー回転角−温度特性を模式的に示すグラフ。
【図11】第2ファラデー素子のファラデー回転角−温度特性を模式的に示すグラフ。
【図12】図9と図10のファラデー回転角−温度特性を組み合わせた比誤差−温度特性を示すグラフ。
【図13】図12のファラデー回転角温度依存性から得られる被測定電流の測定値における、電流測定装置の比誤差−温度特性グラフの一例。
【図14】本発明の電流測定装置の実施例1における比誤差−温度特性グラフ。
【図15】本発明の電流測定装置の実施例2におけるファラデー素子19aのファラデー回転角−温度特性の一例を示すグラフ。
【図16】本発明の電流測定装置の実施例2におけるファラデー素子19bのファラデー回転角−温度特性の一例を示すグラフ。
【図17】本発明の電流測定装置の実施例2におけるファラデー素子19aおよび19bの合計のファラデー回転角−温度特性の一例を示すグラフ。
【図18】本発明の電流測定装置の実施例2における比誤差−温度特性グラフ。
【図19】本発明の電流測定装置の実施例3における第1ファラデー回転子に用いるファラデー回転子のファラデー回転角−温度特性を示すグラフ。
【図20】本発明の電流測定装置の実施例3における比誤差−温度特性グラフ。
【図21】従来の電流測定装置を示す構成図。
【図22】図21の電流測定装置の変調度の誤差率と温度との関係及びセンサ用光ファイバの比誤差−温度特性グラフ。
【図23】第1光ファイバ及び第2光ファイバの各端面形状の変更例を示す部分模式図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の最良の実施形態について、図1乃至図8を参照して説明する。図1は、本発明にかかる電流測定装置1の最良の形態を示す構成図である。同図に示した電流測定装置1は、センサ用光ファイバ2と、偏光分離器8と、ファラデー回転子7と、光源13、及び後述する図示しない信号処理回路とを含んで構成される。
【0033】
センサ用光ファイバ2は、被測定電流Iが流れている導体5の外周に周回設置される。センサ用光ファイバ2は鉛ガラスファイバで構成され、内部に直線偏光LOと、センサ用光ファイバ2の他端で反射された直線偏光LRを伝搬する。センサ用光ファイバ2の他端には反射材として反射膜6が設けられる。なお、前記他端には反射膜6の他にも任意の反射材を採用することが可能であり、例えば、金、銀、銅、クロム、アルミなど、光に対して低吸収率で高反射率の金属や、誘電体多層膜によるミラーを設けても良い。
【0034】
光回路部3は、常光線と異常光線の何れか一方の直線偏光をセンサ用光ファイバ2に入射し、更に、センサ用光ファイバ2から出射された直線偏光の偏光面のファラデー回転角を検出するために、センサ用光ファイバ2から出射された直線偏光を常光線と異常光線とに分離する回路である。その光回路部3は、ファラデー回転子7(以下、「第1ファラデー回転子7」と記載)、偏光分離部としての複屈折素子8(以下、「偏光分離部8」と記載)、第1光ファイバ9、第2光ファイバ10、及びレンズ11を備える。
【0035】
第1ファラデー回転子7は、外周に永久磁石7aが設けられた光透過型の光学素子であり、ビスマス置換型ガーネット単結晶で形成され、センサ用光ファイバ2の入射端である一端側2aの近傍に設けられ、入射する直線偏光LOと、反射した直線偏光LRの偏光面を磁気飽和によるファラデー回転角分だけ回転させる。従って、第1ファラデー回転子7を透過する前の直線偏光LOの偏光面と、第1ファラデー回転子7を透過した後の直線偏光LRの偏光面は、被測定電流Iの影響を受けない場合、前記ファラデー回転角の2倍回転し、合計で45°回転する。このように、直線偏光の偏光面を45°回転する目的は、偏光分離部8において、直線偏光LRを常光線L1と異常光線L2に分離して、常光線L1と異常光線L2によって直線偏光LO又はLRのファラデー回転角を求め、ファラデー回転角から被測定電流Iの値を算出するためである。
【0036】
本発明では、直線偏光LOとLRが往復で透過する際の、磁気飽和時における合計のファラデー回転角を、温度23℃において45°から若干変化するように設定する。なおファラデー回転角の温度を23℃に定義した根拠は、常温においてファラデー回転角を計測するに当たって最も簡単に計測できる温度として本出願人が設定したためである。従って、直線偏光LO又はLRが第1ファラデー回転子7を1回透過する際のファラデー回転角は、22.5°+若干の変化分α°となる。図2に、直線偏光が往復で透過する際に温度23℃において45°のファラデー回転角を有する電流測定装置の信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における−20℃以上80℃以下の温度範囲における比誤差−温度特性を模式的に示したグラフを表す。温度範囲を−20℃以上80℃以下の100℃に定義した根拠は、本出願人の客先からの要求による。
【0037】
図2に示すように、電流測定装置の比誤差は温度が上昇するにつれて非線形に増大する。このような比誤差−温度特性において、温度23℃におけるファラデー回転角を22.5°から若干の回転角α°だけ変化するように設定することにより、図3に示すように往復で回転角は45°+2α°となる。これにより図4に示すように電流測定装置の比誤差−温度特性の曲線は高温側へとシフトする。この結果、図2と図4を比較して分かるように、比誤差の変動幅を減少させることが可能となる。回転角α°は、比誤差−温度特性の曲線をシフトさせたときに、比誤差の変動幅が減少する範囲内で任意に設定可能である。このようにファラデー回転角を22.5°からα°だけ変化させることにより、電流測定装置の比誤差の変動幅を減少させることを本発明は基本概念としている。
【0038】
偏光分離部8は光透過型の光学素子であり、センサ用光ファイバ2の入射端である一端側2aの近傍の、第1ファラデー回転子7の光電変換部4側に設置されている。従って、ファラデー回転子7は、センサ用光ファイバ2の一端側2aと偏光分離部8との間に配置されることになる。偏光分離部8は、前記の通り複屈折素子から構成されており、直線偏光が結晶軸と直交に入射したときには直線偏光をそのまま透過し、直線偏光が結晶軸に沿って入射したときには直線偏光を平行移動させて出射させる、偏光分離素子としての機能を備える。このような直交する二面以外の偏光面で入射した直線偏光は、それぞれのベクトル成分に光強度が分離され、常光線はそのまま透過され、異常光線は平行移動して出射される。従って、偏光分離部8は、センサ用光ファイバ2からの直線偏光LRを、相互に直交する常光線L1と異常光線L2とに分離すると共に、後述する光源13から出射される直線偏光LOを透過させる機能を有する。
【0039】
偏光分離部8の材料は、ルチル、YVO4、ニオブ酸リチウム、方解石から選択することができる。このような材料から選択された複屈折素子は、所定の厚みで、対向する光入出射用光学面が平行となる平板に加工されて偏光分離部8とされ、平行な光学面の一方が、第1光ファイバ9及び第2光ファイバ10の端面9a及び10aと対向し、他方の光学面がレンズ11と対向するように設置される。このような偏光分離部8では、直線偏光LRが一方の光学面から入射すると、常光線L1と異常光線L2とに分離し、他方の平面から出射する際に、これらの常光線L1と異常光線L2を所定の分離間隔を隔てて平行に出射する。
【0040】
第1光ファイバ9は偏波面保存ファイバで構成され、一端側の端面9aが偏光分離部8の近傍に配置される。或いは端面9aと偏光分離部8が当接するように配置しても良い。その結果、第1光ファイバ9は、直線偏光LOを偏光分離部8に入射させると共に、偏光分離部8から出射される常光線L1を光電変換部4側に伝搬する機能を有する。
【0041】
第2光ファイバ10は、シングルモード光ファイバやマルチモード光ファイバ、又は偏波面保持ファイバなどで構成され、一端側の端面10aが偏光分離部8の近傍に配置される。或いは、端面10aと偏光分離部8が当接するように配置しても良い。その結果、第2光ファイバ10は、偏光分離部8から出射される異常光線L2を光電変換部4側に伝搬する機能を有する。
【0042】
本実施形態の場合、第1及び第2光ファイバ9、10は、一端側の端面9a、10aどうしが同一平面上に配置され、更に所定間隔を隔てて二芯構造のフェルール12により保持される。前記所定間隔は、平行平板状の偏光分離部8の厚みと、選択された材料の物性に応じて設定される。前記所定間隔を、偏光分離部8の分離間隔と一致させることで、常光線L1と異常光線L2を各光ファイバ9、10のコアに入射させることができる。なお、第1及び第2光ファイバ9、10を所定間隔に保持する手段はフェルール12に限る必要は無く、例えば、平行な2本のV字溝を備え、光ファイバ9、10をV溝内に配置することで、双方の位置決めが可能なアレイ基板であっても良い。
【0043】
レンズ11は本実施形態の場合には単一のレンズで構成され、第1ファラデー回転子7と偏光分離部8との間に設置され、各結像点が、センサ用光ファイバ2の一端2aと、第1光ファイバ9の端面9aの各コアに設定される。本実施形態の場合、センサ用光ファイバ2の一端2aと第1光ファイバ9の一端面9aは、それぞれの光軸と直交する直立面になっていて、レンズ11の結像点は各ファイバのコアの略中心上に設定される。
【0044】
なお、端面9a、10aは図23に示すように斜めに研磨加工を施すように変更しても良い。このように端面9a、10aを斜めに形成することにより、端面9a、10aの位置を、レンズ11における常光線L1、異常光線L2ごとの焦点距離に合致させ、第1光ファイバ9及び第2光ファイバ10の結合効率を向上させることが可能となる。
【0045】
一方、光電変換部4には、光源13と、レンズ14と、偏光分離プリズム15と、2個の第1、第2光電変換素子16、17と、第2ファラデー回転子18とを備えている。光源13は、半導体レーザー(LD)、発光ダイオード(LED)、スーパールミネッセントダイオード(SLD)、ASE光源などで構成され、所定波長λの光を出射させる。レンズ14は光源13の前方に設置され、光源13から出射される光を結合させて偏光分離プリズム15に入射させる。偏光分離プリズム15は、光源13から出射された光を直線偏光化させ光ファイバ9へ結合すると共に、第1光ファイバ9からの出射光である常光線L1を、第1光電変換素子16へと反射させる。第1及び第2光電変換素子16、17は、フォトダイオード(PD)などで構成され、光を受光して電気信号に変換する。
【0046】
第2ファラデー回転子18は、外周に永久磁石18aが設けられた光透過型の光学素子であり、ビスマス置換型ガーネット単結晶で形成され、偏光分離プリズム15の前方に設置されて入射する直線偏光を45°回転させる。このように、直線偏光を45°回転させる第2ファラデー回転子18を設けたのは、順方向の直線偏光LOの偏光面に対し、戻ってくる逆方向の直線偏光L1の偏光面を90°回転させることで、直線偏光L1を偏光分離プリズム15で全て反射させて第1光電変換素子16に入射させるためである。
【0047】
第2ファラデー回転子18の前方には、第1光ファイバ9の他端9bが近接配置されている。また、第2光電変換素子17には、第2光ファイバ10からの出射光が入射される。
【0048】
以上のように構成された電流測定装置1の動作を、図1、図5、及び図6を参照して説明する。図5は光源13から反射膜6に至るまでの光の偏光状態を示す説明図であり、図6は反射膜6で反射され第1及び第2光電変換素子16、17に至るまでの光の偏光状態を示す説明図である。光源13から出射された光(図5(a)参照)は、レンズ14と偏光分離プリズム15を透過して直線偏光化され、直線偏光LO(図5(b)参照)が第2ファラデー回転子18に入射され、偏光面が45°回転された直線偏光LO(図5(c)参照)として第1光ファイバ9に入射される。
【0049】
第1光ファイバ9は偏波面保存ファイバなので、直線偏光LOは偏光面が保存された状態で第1光ファイバ9内を伝搬して、偏光分離部8に入射される。偏光分離素子8の光学面上における結晶軸の方向は、第1光ファイバ9から出射された直線偏光LOの偏光面に対して直交するように設定される。従って、偏光分離部8に入射した直線偏光LOは、偏光分離部8内部で複屈折を起こすことなく常光線として透過して、偏光分離部8に入射した時の偏光状態のまま偏光分離部8から出射される。
【0050】
偏光分離部8から出射された直線偏光LOの偏光面は、レンズ11を透過後に第1ファラデー回転子7を透過する際に、22.5°+α°回転される(図5(d)参照)。そして、上述したようにレンズ11の作用によって、センサ用光ファイバ2の一端2aに入射される。
【0051】
センサ用光ファイバ2内に入射した直線偏光LOは、その内部を伝搬して他端側に到達し反射膜6で反射して、再び一端2aに戻る。このような反射による直線偏光LO及びLRの往復伝搬の間に、直線偏光LO及びLRは被測定電流Iによって発生した磁界の影響を受け、その偏光面がファラデー効果により被測定電流Iの大きさに応じた角度θ°だけ回転する。θ°は、センサ用光ファイバ2内を直線偏光LO及びLRが往復したときに、被測定電流Iによる磁界強度に依存して発生するファラデー回転角である。
【0052】
一端2aから出射された直線偏光LR(図6(a)参照)の偏光面は、再度、第1ファラデー回転子7を透過する際に、更に22.5°+α°回転され(図6(b)参照)、レンズ11を透過して偏光分離部8に入射される。従って、第1ファラデー回転子7を透過した後の直線偏光LRの偏光面は、第1ファラデー回転子7を透過する前の直線偏光LOの偏光面に対し、(45°+2α°+θ°)の角度だけ回転していることとなる。
【0053】
前記の通り、偏光分離部8に入射した直線偏光LRの偏光面は、第1ファラデー回転子7を透過する前の直線偏光LOの偏光面に対して(45°+2α°+θ°)ずれている。このため、直線偏光LRは偏光分離部8において相互に直交する偏光面の常光線L1と異常光線L2とに分離される(図6(c)参照)。常光線L1は偏光分離部8の前記結晶軸と光軸を含む面と直交する面に沿って出射され、異常光線L2は結晶軸と光軸を含む面内で振動する偏光面で出射される(図6(d)参照)。被測定電流Iによる直線偏光LO及びLRの偏光面の回転が発生していると、分離の際に常光線L1と異常光線L2の光量が変化するので、前記偏光面の回転が光強度の変化として光電変換素子16、17で検出される。
【0054】
偏光分離部8から出射された常光線L1は、端面9aから第1光ファイバ9に入射され、光電変換部4及び信号処理回路に導かれ、更に第2ファラデー回転子18で45°偏光面が回転され(図6(e)参照。なお図の見やすさを確保するため、図6(e)では常光線L1を拡大図示する。)、偏光分離プリズム15に入射される。ここで偏光分離プリズム15に入射する常光線L1の偏光面は、光源13から出射され偏光分離プリズム15を透過した直線偏光LOの偏光面に対して直交しているため(図5(b)及び図6(e)参照)、常光線L1は偏光分離プリズム15で反射され、第1光電変換素子16に受光される。
【0055】
一方、異常光線L2は、端面10aから第2光ファイバ10に入射され、光電変換部4及び信号処理回路に導かれて第2光電変換素子17に受光される。
【0056】
光電変換素子16、17により電気信号に変換された電気信号は、例えば、図21に示されているような信号処理回路116(但し、フォトダイオード108aを光電変換素子16に、フォトダイオード108bを光電変換素子17にそれぞれ置き換えることとする)に入力して、第1光電変換素子16、第2光電変換素子17で検出された2つの電流信号のそれぞれの変調度(交流成分/直流成分)の平均が演算され、最終的に直線偏光LRが電気量に変換されることで被測定電流Iの大きさを求めることができる。図7に、電流測定装置1において信号処理回路から出力される被測定電流Iの測定値における比誤差−温度特性グラフの一例を示す。
【0057】
本発明では、図7に示すように信号処理回路から出力される、被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅を、±0.5%の範囲内に設定するものとする。また前記±0.5%を、100℃(−20℃以上80℃以下)の温度範囲に亘って実現するものとする。前記温度範囲を−20℃以上80℃以下の100℃に設定する理由は、−10℃以上40℃以下の常温域をカバーする実用性を考慮したものである。本発明では、このような比誤差の変動幅の±0.5%内の設定を、前述したように第1ファラデー回転子7の回転角を調整することで行うものとする。
【0058】
センサ用光ファイバ2に用いる鉛ガラスファイバは、図8に示すような比誤差−温度特性を有する。従って、第1ファラデー回転子7の回転角を22.5°からα°だけ変化させて電流測定装置1の比誤差の変動幅を減少させる際は、鉛ガラスファイバの比誤差−温度特性を加えた上で、前記信号処理回路から出力される被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅が−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.5%の範囲内に収まるように、α°の角度を調節すれば良い。
【0059】
なお、図1に示した電流測定装置1は図9に示すように、第1ファラデー回転子7を、例えばファラデー回転角が異なる2つのファラデー素子19a、19bで構成した電流測定装置20に変更可能である。電流測定装置20では、直線偏光LOとLRが往復で2つのファラデー素子19a、19bを透過する際の、磁気飽和時における合計のファラデー回転角を、45°から若干変化するように設定する。即ち直線偏光LO又はLRが、2つのファラデー素子19aと19bをそれぞれ1回透過したときのファラデー回転角の合計を、22.5°+若干の変化分α°とするように変更すれば良い。なおファラデー素子の数は2つに限定されず、3つ以上で第1ファラデー回転子7を構成することも可能である。
【0060】
図10、図11はそれぞれのファラデー素子19a、19bのファラデー回転角−温度特性を模式的に示したグラフである。更に、各ファラデー素子のそれぞれのファラデー回転角−温度特性を組み合わせたときのファラデー回転角−温度特性を図12に示す。図10に示すように第1ファラデー素子19aの回転角は2次曲線状の温度依存性をもつ。また、第2ファラデー素子19bの回転角は図11に示すように、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って温度の上昇に反比例して一様に減少していることが分かる。従って、この第1ファラデー素子19aと第2ファラデー素子19bのファラデー回転角−温度特性を組み合わせると、図12に示すような温度の上昇に対して2次曲線状に減少するファラデー回転角−温度特性を示す。
【0061】
前記図8に示すように、センサ用光ファイバ2に用いる鉛ガラスファイバの比誤差−温度特性は、温度の上昇に比例して一様に増加する。従って、この高温域でのファラデー回転角減少分をファラデー素子19aと19bに設けることで、センサ用光ファイバ2に使用される鉛ガラスファイバの比誤差−温度特性を加えたときに、前記高温域でのファラデー回転角減少分によって鉛ガラスファイバの比誤差変化分が補償されるため、図13にしめすように、信号処理回路から出力される被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅を−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.5%(又は±0.2%)の範囲内に抑えることが可能となる。
【0062】
電流測定装置1と電流測定装置20の構成を比較すると、電流測定装置1の方が第1ファラデー回転子7を1枚とすることができるので、その分電流測定装置の構成を簡素化できると共に、信号処理回路から出力される被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅も調節しやすくなる。以上の理由により、電流測定装置1が最も好ましい実施形態である。しかしながら、第1ファラデー回転子7のガーネットの組成により、所望の回転角を有するガーネット単結晶が安定して作成することが出来ない場合は、第1ファラデー回転子7を2つ以上のファラデー素子で構成すれば良い。更に、2つ以上のファラデー素子で第1ファラデー回転子7を構成する場合は、各ファラデー素子のファラデー回転角がそれぞれ異なるように構成することにより、各ファラデー素子の温度特性を所望の特性に設定することが出来る。
【0063】
以下に、第1ファラデー回転子7、又はファラデー素子19a、19bの温度依存特性に対して最適な回転角を設定し、比誤差変動を抑えた実施例1から3を示す。
【実施例1】
【0064】
図1の第1ファラデー回転子7として、光アイソレータに用いられる、図11に示すようなファラデー回転角−温度特性を有する磁性ガーネットを使用した例を示す。温度23℃におけるファラデー回転角を22.5°+1.0°に設定したファラデー回転子を使用した。即ち、α=1.0°と設定し、直線偏光LOとLRが往復で透過する際の、磁気飽和時における合計のファラデー回転角を47.0°と設定した。このような第1ファラデー回転子7を備えた電流測定装置1の信号処理回路から出力される、被測定電流Iの測定値における温度−比誤差特性を表1及び図14に示す。なお、表1における「ファラデー回転角」とは直線偏光LOとLRが往復で透過する際の磁気飽和時における合計のファラデー回転角であり、「比誤差」とは電流測定装置1の信号処理回路から出力される、被測定電流Iの測定値における比誤差である。以下、実施例2乃至実施例3でも同様とする。
【0065】
【表1】

【0066】
表1及び図14より、第1ファラデー回転子が1つで、α=1.0°と設定した場合、23℃を基準とした比誤差を−0.01〜0.42%に収めることが可能であることが分かる。即ち、比誤差の変動幅は、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って0.43%の範囲内となる。
【実施例2】
【0067】
往復での磁性ガーネットの回転角−温度依存性を以下の2次式(数1)で表し、係数a及び係数bに対する比誤差変動幅の最小値を計算した。なお係数cは比誤差変動幅が最小値をとるよう設定した。比誤差変動幅と係数aおよびbの関係を表2に示す。また、表2のように比誤差変動幅が最小値となる場合の温度23℃におけるファラデー回転角調整分α°と係数a及び係数bとの関係を表3に示す。
【0068】
【数1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表2および表3は係数aおよび係数bの0を中心に点対称の関係となっている。表2より比誤差変動幅が最小となるのは係数a、係数bがそれぞれ−0.0001および−0.02の場合と、係数a、係数bがそれぞれ0.0001および0.02の場合があり、そのときの回転角調整分α°の符号は表3から前者でプラスとなり、後者でマイナスとなる。一般的な磁性ガーネットは上に凸型状の曲線かつ温度の上昇に伴って回転角が減少するファラデー回転角−温度特性となることから、係数a及び係数bの符号はマイナスとなる。以上のことから比誤差変動幅を低減するためには、磁性ガーネットの温度−回転角特性の係数aが−0.0001および係数bが−0.02に近い値にすれば良いことがわかる。この場合、回転角調整分α°は1.66°程度となる。
【0072】
比誤差変動幅を低減する係数a、bを実現するため、図9に示す2つのファラデー素子19a、19bによる実施例を示す。図9のファラデー素子19aとして、2次曲線状の温度依存性を持つ磁性ガーネットを使用し、ファラデー素子19bとして図16に示すような磁性ガーネットを使用した。温度23℃におけるファラデー回転角45°のファラデー素子19a、19bの温度依存性をそれぞれ図15および図16に示す。
【0073】
ファラデー素子19a、19bのそれぞれの厚さを最適化した結果、往復時に以下の数2で示される温度依存性をもつファラデー素子が得られた。温度23℃における磁気飽和時のファラデー素子19aの回転角8.34°、ファラデー素子19bの回転角15.73°、合計ファラデー回転角24.07°が得られ、α=1.57°となる。直線偏光LOとLRが往復で透過する際の、温度23℃における磁気飽和時の合計のファラデー回転角は48.14°となる。往復時の合計ファラデー回転角の温度依存性を図17に示す。
【0074】
【数2】

【0075】
電流測定装置20の信号処理回路から出力される、被測定電流Iの測定値における温度−比誤差特性を表4及び図18に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
表4及び図18より、2つのファラデー素子19a、19bで構成し、α=1.57°と設定した場合、温度23℃を基準とした比誤差を−0.04〜0.01%に収めることが可能となった。即ち、比誤差の変動幅は、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って0.05%の範囲内となる。
【実施例3】
【0078】
表2の検討結果をもとに1つのファラデー回転子で比誤差を低減すべく、磁性ガーネットの開発を行った。その結果以下の数3で示される温度依存性をもつ磁性ガーネットが得られた。温度23℃におけるファラデー回転角は24.22°、即ちα=1.72°と設定した。得られた磁性ガーネットの温度依存性を図19に示す。
【0079】
【数3】

【0080】
直線偏光LOとLRが往復で透過する際の、磁気飽和時における合計のファラデー回転角は48.44°となる。このような第1ファラデー回転子7を備えた電流測定装置1の信号処理回路から出力される、被測定電流Iの測定値における温度−比誤差特性を表5及び図20に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
表5及び図20より、比誤差範囲が−0.05〜0.01%となり、比誤差の変動幅は、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って0.06%の範囲内となる。実施例2と比較して1つのファラデー回転子で同等の性能を実現できた。
【0083】
以上のように本発明に係る電流測定装置に依れば、温度23℃においてファラデー回転子の回転角を22.5°からα°だけ変化させることで、電流測定装置の信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.5%の範囲内に抑えている。従って、測定値における比誤差−温度特性補償を、ファラデー回転子という光学系で行うことが可能となるので、電流測定装置の信頼性が向上すると共に、比誤差の変動幅を±0.5%以内に抑えることで、保護継電器用途への適用が可能な電流測定装置を実現することが出来る。
【0084】
更に、前記被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.2%の範囲内に抑えることにより、±0.2%範囲内の比誤差−温度特性が要求される用途(例えば厳密な計量が要求される電気料金計量用の電力量計)に電流測定装置を使用することが可能となる。
【0085】
更に、センサ用光ファイバに鉛ガラスファイバを用いる場合は、鉛ガラスファイバの比誤差−温度特性を加えた上でファラデー回転子の回転角α°を調節する。このように電流測定装置を構成することにより、センサ用光ファイバに鉛ガラスファイバを使用しても、信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.5%(又は±0.2%)の範囲内に抑えることが可能となる。
【0086】
なお、本発明はその技術的思想により種々変更可能であり、例えばセンサ用光ファイバ2を石英ガラスファイバとしても良い。また、第1光ファイバ9をシングルモード光ファイバに変更しても良いし、偏光分離プリズム15を偏波依存/無依存光サーキュレータに変更しても良い。
【符号の説明】
【0087】
1、20 電流測定装置
2 センサ用光ファイバ
3 光回路部
4 光電変換部
5 導体
6 反射膜
7 第1ファラデー回転子
7a、18a 永久磁石
8 偏光分離器
9 第1光ファイバ
9a 第1光ファイバの端面
9b 第1光ファイバ9の他端
10 第2光ファイバ
10a 第2光ファイバの端面
11、14 レンズ
12 フェルール
13 光源
15 偏光分離プリズム
16 第1光電変換素子
17 第2光電変換素子
18 第2ファラデー回転子
19a、19b ファラデー素子
LO、LR 直線偏光
L1 常光線
L2 異常光線
I 被測定電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流測定装置は少なくとも、センサ用光ファイバと、偏光分離部と、ファラデー回転子と、光源と、光電変換素子を備える信号処理回路を含み、
前記センサ用光ファイバは被測定電流が流れている導体の外周に周回設置されると共に、直線偏光を入射するための一端と、入射した前記直線偏光を反射する他端とを備え、
前記偏光分離部は、前記センサ用光ファイバの一端側に設けられると共に、
前記ファラデー回転子は、前記センサ用光ファイバの一端側と前記偏光分離部との間に配置され、
更に、
前記ファラデー回転子の磁気飽和時のファラデー回転角が、温度23℃において22.5°+α°に設定されることで、前記信号処理回路から出力される前記被測定電流の測定値における比誤差の変動幅が±0.5%の範囲内に設定されることを特徴とする電流測定装置。
【請求項2】
前記変動幅が±0.5%の範囲内に設定される温度範囲が100℃であることを特徴とする請求項1に記載の電流測定装置。
【請求項3】
前記100℃の温度範囲が、−20℃以上80℃以下であることを特徴とする請求項2に記載の電流測定装置。
【請求項4】
前記ファラデー回転子が、温度の変化に伴って磁気飽和時のファラデー回転角が2次曲線状に変化するファラデー回転角−温度特性を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電流測定装置。
【請求項5】
前記ファラデー回転子が、2つ以上のファラデー素子で構成されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電流測定装置。
【請求項6】
前記2つ以上のファラデー素子のファラデー回転角がそれぞれ異なることを特徴とする請求項5に記載の電流測定装置。
【請求項7】
前記信号処理回路から出力される前記被測定電流の測定値における比誤差の変動幅が、±0.2%の範囲内に設定されることを特徴とする請求項4乃至6の何れかに記載の電流測定装置。
【請求項8】
前記変動幅が±0.2%の範囲内に設定される温度範囲が100℃であることを特徴とする請求項7に記載の電流測定装置。
【請求項9】
前記100℃の温度範囲が、−20℃以上80℃以下であることを特徴とする請求項8に記載の電流測定装置。
【請求項10】
前記センサ用光ファイバが鉛ガラスファイバであることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の電流測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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