説明

電源コードの製造方法

【課題】この発明は、コンパウンドの成形性及び寸法安定性、耐トラッキング性が向上するとともに、優れた耐断線スパーク特性を有する電源コードを寸法通りに高い精度で製造することができる電源コードの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】コード20の導線20aに接続された栓刃30の基端側外面と、栓刃30が接続されたコード20の先端側外面と、栓刃30がインサート成形された中子40の前端面を除く残りの外面とが覆われるように塩化ビニルを主材料とする射出成形用コンパウンドを射出して、プラグ50を一体的に射出成形する。また、導線20aの周面全長が外装部20bにて覆われるように塩化ビニルを主材料とする押出成形用コンパウンドを押出して、コード20を押出成形する。これにより、コード20がプラグ50の後端側に配索され、2本の栓刃30がプラグ50の前端側に突出された電源コード10を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電源であるコンセントに差し込まれ、例えば電子機器、電気機器、電気器具等に対して電力を供給する際に用いられる電源コードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上述の電源コードに用いられる被覆材料としては、例えばPVC系ポリマーとエチレン−アクリル酸エステル−極性モノマー共重合体とからなるPVCコンパンド及びこれを用いた電気絶縁成形物が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1には、PVC系ポリマーにエチレン−アクリル酸エステル−極性モノマー共重合体を添加して、耐トラッキング性を向上させることが開示されているが、例えば三井・デュポンポリケミカル株式会社のエチレン系コポリマーに比べて、PVC系ポリマーに対するエチレン−アクリル酸エステル−極性モノマー共重合体の相溶性が低く、これら2種類の原材料が均一に相溶したコンパウンドを得ることが難しい。また、相溶性以外の他の特性についても向上が認められない。
【0003】
したがって、エチレン系コポリマーを配合したコンパウンドに比べて、エチレン−アクリル酸エステル−極性モノマー共重合体を配合したPVCコンパウンドの方が、成形性及び寸法安定性が悪く、電源コードのプラグやコードを寸法通りに精度よく成形することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−123540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、コンパウンドの成形性及び寸法安定性、耐トラッキング性が向上するとともに、優れた耐断線スパーク特性を有する電源コードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、塩化ビニルを主材料とするコンパウンドを被覆材料に用いて製造する電源コードの製造方法であって、前記塩化ビニルに対してエチレン系ポリマーと炭酸カルシウムとを所定量配合してなるコンパウンドにて製造する電源コードの製造方法であることを特徴とする。
【0007】
上述の電源コードを製造する際、塩化ビニルに対してエチレン系ポリマーと炭酸カルシウムとを所定量配合してなるコンパウンドを、例えばコードの導線に接続された栓刃の基端側と、該栓刃が接続されたコードの先端側とに被覆してプラグを成形する。
なお、エチレン系ポリマーは、三井・デュポンポリケミカル株式会社のエチレン系コポリマーで構成している。また、は、下記の相溶性の他に、例えば可塑化効率、耐油、耐薬品性、揮発性、移行性、低温特性、電気特性、耐候性等の様々な特性を備えている。
【0008】
すなわち、エチレン系ポリマーを塩化ビニルに配合することにより、耐トラッキング性が向上する。また、エチレン系ポリマーは、従来例のエチレン−アクリル酸エステル−極性モノマー共重合体に比べて、塩化ビニルに対する相溶性に優れているので、分子的に均一に相溶したコンパウンドを得ることができる。また、エチレン系ポリマーはフィラー充填特性にも優れているので、該エチレン系ポリマーを配合したコンパウンドは、電源コードのプラグやコードなどを寸法通りに高い精度で成形するための材料として用いることができる。
【0009】
また、塩化ビニルに配合する炭酸カルシウムの重量部を調整すれば、コンパウンドの粘度及び流動性を、プラグやコードなどの成形品に応じて設定することができ、成形品の成形精度が向上する。
この結果、コンパウンドの成形性及び寸法安定性、耐トラッキング性が向上するとともに、優れた耐断線スパーク特性を有する電源コードを寸法通りに高い精度で製造することができる。
【0010】
この発明の態様として、コンパウンドに配合するエチレン系ポリマーの配合量を、30重量部〜60重量部の範囲に含まれる重量部に設定して製造することができる。
例えば塩化ビニルの配合量を100重量部として、エチレン系ポリマーの配合量を30重量部以下に設定すると、例えば発火や発煙、スパークなどが発生しやすくなるが、エチレン系ポリマーの配合量を60重量部以上に設定すれば、上記発火や発煙、スパークなどの異状が発生しにくくなる。
【0011】
したがって、コンパウンドに配合するエチレン系ポリマーの配合量は、30重量部〜60重量部の範囲に含まれる重量部に設定するのがよい。好ましくは、50重量部に設定すると良好な結果が得られる。
この結果、例えば破断や断線などが電源コードの内部に発生しても、上述のような異状が殆ど発生することがなく、優れた耐断線スパーク特性が得られる。
【0012】
また、この発明の態様として、コンパウンドに配合する炭酸カルシウムの配合量を、20重量部〜50重量部の範囲に含まれる重量部に設定して製造することができる。
例えば塩化ビニルの配合量を100重量部として、炭酸カルシウムの配合量を50重量部以上に設定すると、コンパウンドの粘度が高くなり、流動性が悪くなるため、成形精度が低下する。
【0013】
また、炭酸カルシウムの配合量を20重量部以下に設定すると、コンパウンドの粘度が低くなるため、流動性が良くなるが、所定の形状及び厚みに成形した状態を維持することが難しく、コンパウンドの成形性及び寸法安定性が悪くなる。
【0014】
したがって、コンパウンドに配合する炭酸カルシウムの配合量は、20重量部〜50重量部の範囲に含まれる重量部で調整するのがよい。好ましくは、40重量部に設定すると良好な結果が得られる。
この結果、コンパウンドを、例えば栓刃と導線との接続箇所の隅々まで入り込ませることができ、コンパウンドの成形性及び寸法安定性、成形精度が向上する。
【0015】
また、この発明の態様として、前記電源コードのプラグを、前記塩化ビニルの100重量部に対して、前記エチレン系ポリマーを50重量部配合し、前記炭酸カルシウムを40重量部配合してなるコンパウンドを用いて成形することができる。
上述のエチレン系ポリマーと炭酸カルシウムとを所定量配合してなるコンパウンドを、例えばコードの導線に接続された栓刃の基端側と、該栓刃が接続されたコードの先端側とに被覆して、プラグを一体的に成形する。
この結果、電源コードのプラグを寸法通りに高い精度で成形することができる。
【0016】
また、この発明の態様として、前記電源コードのコードを、前記塩化ビニルの100重量部に対して、前記エチレン系ポリマーを30重量部配合し、前記炭酸カルシウムを35重量部配合してなるコンパウンドを用いて成形することができる。
上述のエチレン系ポリマーと炭酸カルシウムとを所定量配合してなるコンパウンドを、例えば複数本の銅線を1本に束ねてなる導線の周面全長に被覆して、コードを長手方向に連続して成形する。
【0017】
この結果、電源コードのコードを、所望する曲率半径に屈曲したり、湾曲したりすることが支障なく行え、配索時の自由度が向上する。
なお、コードは、例えば非メッキ処理の銅線、メッキ処理した複数本の銅線を1本に束ねてなる導線の周面全長、あるいは、所定の線径に形成した1本の導線の周面全長を、塩化ビニルを主材料とするコンパウンドで被覆したコードで構成することができる。
【0018】
前記塩化ビニル(PVC)は、例えばポリ塩化ビニル、塩化ビニルポリマー、塩化ビニルレジン、塩化ビニルホモポリマー等で構成している。
炭酸カルシウムは、例えば重炭酸カルシウム、軽炭酸カルシウム等で構成している。
【0019】
実施形態において、可塑剤は、例えばフタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、リン酸エステル類、トリメリット酸エステル類等で構成することができる。
【0020】
安定剤は、例えばステアリン酸塩や塩基性硫酸塩、塩基性炭酸塩、塩基性亜燐酸塩などの形で使われる鉛系(以下Pb系)、有機酸化合物(ステアリン酸塩等)の形で使われるバリウム−亜鉛系(以下Ba−Zn系)、カルシウム−亜鉛系(以下Ca−Zn系)、有機錫(ジアルキル錫化合物)の形で使われる錫系(以下Sn系)等で構成することができる。
また、上記各剤の他に、例えば電源コードを難燃化するための難燃剤、成形や製造を容易化するための加工助剤等を配合してもよい。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、コンパウンドの成形性及び寸法安定性、耐トラッキング性が向上するとともに、優れた耐断線スパーク特性を有する電源コードを寸法通りに高い精度で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】2本の栓刃をプラグに突出した電源コードの斜視図。
【図2】図1に示す電源コードの横断平面図。
【図3】コードと栓刃とを接続した部分の横断平面図。
【図4】電源コードのプラグを成形する射出成形機の縦断側面図。
【図5】表3の試料の粘度と温度との関係を示す特性図。
【図6】表3の試料の流量と温度との関係を示す特性図。
【図7】表4の試料の粘度と温度との関係を示す特性図。
【図8】表4の試料の流量と温度との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の一実施形態を以下図面に基づいて詳述する。
図1は2本の栓刃30をプラグ50に突出した電源コード10の斜視図、図2は図1に示す電源コード10の横断平面図である。
【0024】
図1、図2に示すように、本実施形態の電源コード10は、2本の導線20aが先端側に露出されたコード20と、コード20の導線20aに基端側が接続された2本の栓刃30と、栓刃30が差し込まれた中子40と、コード20の先端側及び栓刃30の基端側及び中子40の前端面を除く外面に被覆したプラグ50とで構成している。
【0025】
電源コード10の製造方法は、コード20の先端側に露出する2本の導線20aに対してそれぞれ接続された栓刃30の基端側外面と、該栓刃30が接続されたコード20の先端側外面と、栓刃30がインサート成形された中子40の前端面を除く残りの外面とを、塩化ビニル(PVC)を主材料とする射出成形用コンパウンドで被覆して、プラグ50を一体的に成形する。
【0026】
また、コード20は、複数本の銅線を1本に束ねてなる導線20aの周面全長を、塩化ビニルを主材料とする押出成形用コンパウンドで被覆して、該導線20aの周面全長に外装部20bを成形する。
なお、導線20aは、非メッキ処理の銅線あるいは金メッキ、錫めっきなどのメッキ処理を施した銅線で構成している。
これにより、コード20がプラグ50の後端側に配索され、2本の栓刃30がプラグ50の前端側に突出された電源コード10を製造することができる(図1参照)。
【0027】
栓刃30は、導電性を有する金属板を打ち抜き加工して形成され、該栓刃30の先端側は、図示しないコンセントに対して差し込み可能な形状及び厚みに形成している。
栓刃30の基端側は、コード20の導線20aが接続可能な形状に形成している。また、栓刃30は、後述する中子40の差込み孔40aに対して差し込んだ状態にインサート成形している。
【0028】
中子40は、オレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマーなどの絶縁性及び耐熱性を備えた熱可塑性樹脂で形成され、該中子40の前端面を除く残りの外面がプラグ50の内部に埋め込まれる大きさ及び形状に形成している。
また、中子40の前端面には、上述の栓刃30が差込み固定される差込み孔40aを幅方向に対して所定間隔を隔てて形成している。
【0029】
中子40の前端側には、栓刃30を中子40の差込み孔40aに対して差し込んだ状態にインサート成形して、栓刃30の先端側を中子40の前端面よりも前方に平行して突出するとともに、図示しないコンセントに対して差込みが許容される長さに突出している。
【0030】
一方、中子40の後端側には、栓刃30の基端側を中子40の後端面よりも後方に平行して突出している。また、中子40の後端面よりも後方に突出した栓刃30の基端側には、コード20の導線20aを接続している。
これにより、中子40の後端側中央部に、栓刃30に接続されたコード20を後方に向けて配索している(図3参照)。
なお、栓刃30の長さ、幅、厚み、間隔は、JIS規格に基づいた寸法に設定している。
【0031】
プラグ50は、コード20の先端側に露出する2本の導線20aにそれぞれ接続した栓刃30の基端側外面と、該栓刃30が接続されたコード20の先端側外面と、栓刃30が差し込まれた中子40の前端面を除く残りの外面とを、塩化ビニルを主材料とする射出成形用コンパウンドで被覆して、図1、図2に示すような大きさ及び形状を有するプラグ型に図示しない射出成形機にて射出成形している。
【0032】
また、上記射出成形機にてプラグ50を成形する際、中子40は、該中子40の前端面を除く残りの外面がプラグ50に埋め込まれ、該中子40の前端面をプラグ50の前端側中央部に対して露出した状態に埋め込まれる。
なお、中子40の前端面は、プラグ50の前端面と略同一となる高さに形成している。
【0033】
次に、図3、図4を用いて、図1に示す電源コード10を射出成形機にて製造する製造方法を説明する。図3はコード20と栓刃30とを接続した部分の平面図、図4は電源コード10のプラグ50を成形する成形用金型60の縦断側面図である。
【0034】
先ず、プラグ50を成形する場合、上記射出成形機に備えられた図4に示す成形用金型60を用いて射出成形する。
つまり、図3に示すように、2本の栓刃30を、中子40の差込み孔40aに対して差し込んだ状態にインサート成形して、該栓刃30を中子40の前端面に対して前方に向けて平行に突出する。また、コード20の導線20aを、中子40の後端側に突出する栓刃30の基端側にそれぞれ接続する。
【0035】
次に、図4に示すように、コード20が後端側に突出され、2本の栓刃30が前端面に突出された中子40を、成形用金型60の上型60aと下型60bとの間にセットした後、下記の表1に示す試料Dの原材料と配合とからなる射出成形用コンパウンドを上型60aと下型60bとの間に射出する。
【0036】
コンパウンド射出時において、コード20に接続された栓刃30の基端側と、該栓刃30が接続されたコード20の先端側と、栓刃30が差し込まれた中子40の前端面を除く残りの外面とを射出成形用コンパウンドで被覆して、プラグ50を一体的に射出成形する。
【0037】
プラグ50を成形した後、上型60aと下型60bとを上下分離して、コード20の先端側及び栓刃30の基端側及び中子40の前端面を除く残りの外面とをコンパウンドで被覆してなるプラグ50を取り出せば、プラグ50の射出成形が完了する。
これにより、コード20がプラグ50の後端側に配索され、2本の栓刃30がプラグ50の前端面に突出された電源コード10を製造することができる(図1、図2参照)。
【0038】
上記射出成形用コンパウンドは、下記の表1に示す試料Dの原材料と配合とからなるコンパウンドを使用している。
主材料である塩化ビニルの100重量部に対して、エチレン系ポリマーを50重量部配合し、炭酸カルシウムを40重量部配合し、可塑剤を25重量部配合している。
なお、エチレン系ポリマーは、三井・デュポンポリケミカル株式会社のエチレン系コポリマーで構成している。
【0039】
また、射出成形用コンパウンドに配合する可塑剤の配合量は、塩化ビニルの100重量部に対し、20重量部〜50重量部の範囲に含まれる重量部に設定している。好ましくは、25重量部配合するのがよい。
【0040】
つまり、可塑剤の配合量を、上述した重量部の範囲内にて少なくなるように調整すれば、その配合量に応じて、塩化ビニルを所望する硬さに硬化することができる。
また、可塑剤の配合量を、上記重量部の範囲内にて多くなるように調整すれば、その配合量に応じて、塩化ビニルを所望する柔らかさ軟化することができる。
【0041】
すなわち、上記試料Dの原材料と配合とからなる射出成形用コンパウンドを用いてプラグ50を射出成形するので、耐トラッキング性が向上するとともに、優れた耐断線スパーク特性を有するプラグ50を成形することができる。
【0042】
次に、コード20を成形する場合、図示しない押出成形機を用いて長手方向に連続して押出成形する。
つまり、複数本の銅線を1本に束ねてなる導線20aの周面全長に、塩化ビニル(PVC)を主材料とする押出成形用コンパウンドを被覆しつつ、該導線20aの周面全長が覆われるように外装部20bを形成して、コード20を一体的に押出成形する。
【0043】
上記押出成形用コンパウンドは、下記の表2に示す試料Fの原材料と配合とからなるコンパウンドを使用している。
主材料である塩化ビニルの100重量部に対し、エチレン系ポリマーを30重量部配合し、炭酸カルシウムを35重量部配合し、可塑剤を40重量部配合している。
【0044】
また、押出成形用コンパウンドに配合する可塑剤の配合量は、塩化ビニルの100重量部に対し、30重量部〜60重量部の範囲に含まれる重量部に設定している。好ましくは、40重量部配合するのがよい。
【0045】
すなわち、上記試料Fの原材料と配合とからなる押出成形用コンパウンドを用いてコード20を押出成形するので、耐トラッキング性が向上するとともに、優れた耐断線スパーク特性を有するコード20を成形することができる。
この結果、射出成形用コンパウンド及び押出成形用コンパウンドの成形性及び寸法安定性、耐トラッキング性が向上するとともに、優れた耐断線スパーク特性を有する電源コード10を寸法通りに高い精度で成形することができる。
【0046】
上記射出成形用コンパウンド及び押出成形用コンパウンドに配合するエチレン系ポリマーの配合量は、塩化ビニルの100重量部に対し、30重量部〜60重量部の範囲に含まれる重量部に設定している。
【0047】
すなわち、射出成形用コンパウンドに配合するエチレン系ポリマーの配合量を60重量部以上に設定すれば、耐断線スパーク性が向上するので、耐断線スパーク試験を所望する回数(例えば3000回以上)だけ行っても、発火や発煙、スパークなどが発生しにくい。しかし、コンパウンドの粘度が高くなり、流動性が悪くなるので、成形精度が低下することとなる。
【0048】
また、エチレン系ポリマーの配合量を30重量部以下に設定すると、コンパウンドの粘度が低くなり、流動性が良くなるので、成形精度が向上する。しかし、耐断線スパーク特性が低下するため、耐断線スパーク試験を所望する回数(例えば200回〜2900回)だけ行った際、発火や発煙、スパークなどが発生する。
【0049】
したがって、射出成形用コンパウンドに配合するエチレン系ポリマーの配合量は、30重量部〜60重量部の範囲に含まれる重量部に設定するのがよい。好ましくは、50重量部に設定するのがよい。
この結果、耐断線スパーク試験を3000回以上行っても、発火や発煙、スパークなどが殆ど発生することがなく、優れた耐断線スパーク性が得られる。
【0050】
次に、押出成形用コンパウンドに配合するエチレン系ポリマーの配合量を30重量部以下に設定するか、無配合に設定すれば、耐断線スパーク試験を例えば40回程行っただけでも、発煙が発生することになる。
【0051】
また、エチレン系ポリマーの配合量を60重量部以上に設定すれば、耐断線スパーク試験を例えば400回程行っても、発火や発煙、スパークなどが発生することがなく、ピンホールが発生するだけであるため、優れた耐断線スパーク特性が得られる。
【0052】
したがって、押出成形用コンパウンドに配合するエチレン系ポリマーの配合量は、30重量部〜60重量部の範囲に含まれる重量部に設定するのがよい。好ましくは、30重量部に設定するのがよい。
【0053】
また、射出成形用コンパウンドあるいは押出成形用コンパウンドに、例えば安定剤や難燃剤、あるいは、各コンパウンドの成形性を向上させる加工助剤などの原材料を配合してもよい。上述の安定剤を配合すれば、塩化ビニルから塩化水素が脱離することを防止し、分解の連鎖反応を抑制する効果が得られる。
【0054】
次に、射出成形用コンパウンド及び押出成形用コンパウンドに配合する炭酸カルシウムの配合量は、塩化ビニルの100重量部に対し、20重量部〜50重量部の範囲に含まれる重量部に設定している。
【0055】
射出成形用コンパウンドに配合する炭酸カルシウムの配合量を50重量部以上に設定すると、コンパウンドの粘度が高くなり、流動性が悪くなるため、成形精度が低下することとなる。
【0056】
つまり、射出成形用コンパウンドを、コード20の導線20aと栓刃30とを接続した箇所の隅々まで入り込ませることが難しくなる。
また、コード20の先端側外面と、栓刃30の基端側外面と、中子40の前端面を除く外面とが絶縁される厚みに被覆することが難しく、絶縁不良が発生する原因となる。
【0057】
さらに、射出成形用コンパウンドに配合する炭酸カルシウムの配合量を20重量部以下に設定すると、コンパウンドの粘度が低くなるため、流動性が良くなるが、コード20の先端側外面と、栓刃30の基端側外面と、中子40の前端面を除く外面とが絶縁される厚みに被覆した状態を保つことが難しい。
また、所定の形状及び厚みに成形された状態を維持することが難しく、プラグ50を寸法通りに成形することが難しい。
【0058】
したがって、射出成形用コンパウンドに配合する炭酸カルシウムの配合量は、上記20重量部〜50重量部の範囲に含まれる重量部に設定するのがよい。好ましくは、40重量部に設定するのがよい。
この結果、射出成形用コンパウンドを栓刃30と導線20aとの接続箇所の隅々まで入り込ませることができるとともに、コンパウンドの成形性及び寸法安定性、成形精度が向上する。
【0059】
また、上記射出成形用コンパウンドと同様に、コード20の成形に用いられる押出成形用コンパウンドも炭酸カルシウムの配合量によって成形性が変動するため、押出成形用コンパウンドに配合する炭酸カルシウムの配合量は、上記20重量部〜50重量部の範囲に含まれる重量部に設定するのがよい。好ましくは、35重量部に設定するのがよい。
この結果、コード20を、所望する曲率半径に屈曲したり、湾曲したりすることが支障なく行え、配索時の自由度が向上する。
【0060】
次に、下記の表1、表2を用いて、プラグ50の成形に用いられる射出成形用コンパウンド及びコード20の成形に用いられる押出成形用コンパウンドの比較例を説明する。表1は射出成形用コンパウンドの配合と試験結果とを示している。また、表2は押出成形用コンパウンドの配合と試験結果とを示している。
【0061】
先ず、射出成形用コンパウンドの耐断線スパーク性を比較するため、塩化ビニルと、エチレン系ポリマーと、炭酸カルシウムと、可塑剤との原材料を、表1に示す重量部にて配合した射出成形用コンパウンドからなる試料A,B,C,Dについて耐断線スパーク試験を実施した。
【0062】
つまり、射出成形用コンパウンドにて製造した試料A〜Dを、図示しない耐断線スパーク試験機により同一条件で試験する。
なお、耐断線スパーク試験機は、電線やコードなどを屈曲試験するための屈曲試験機で構成している。
【0063】
予めプラグ50の内部にてコード20の導線20aあるいは栓刃30を破断させた試料A〜Dに、100Vの電圧で15Aの電流を通電する。その破断箇所にて電流の導通と不導通とを繰り返して、発火などの異状が生じるまでの試験回数と、その発生した異状の状態とを調べる。
【0064】
下記の表1は、試料A〜Dを、耐断線スパーク試験機により耐断線スパーク特性について試験した結果を示す。
【0065】
【表1】

上記試験結果から見ても明らかなように、試料Aには、エチレン系ポリマーを配合しておらず、電流の導通と不導通とを200回繰り返した際に発火した。また、試料B,Cは、試料Dに比べて炭酸カルシウムの配合量が少なく、試料Bは500回で発煙し、試料Cは2900回で発火した。
【0066】
しかし、試料Dは、試料A,B,Cに比べて炭酸カルシウムの配合量が多く、5000回試験を実施しても発煙や発火などの異状は発生しなかった。
【0067】
この結果、炭酸カルシウムの配合量が多い試料Dの方が、試料A,B,Cに比べて耐断線スパーク性に優れていることが解る。
【0068】
次に、押出成形用コンパウンドの耐断線スパーク特性を比較するため、上述のプラグ50と同様に、複数の原材料を、表2に示す重量部にて配合した押出成形用コンパウンドからなる試料E,Fについて耐断線スパーク試験を実施した。
【0069】
つまり、押出成形用コンパウンドにて製造した試料E,Fを、耐断線スパーク試験機により同一条件で試験する。
予めコード20の内部にて導線20aを断線させた試料E,Fに、100Vの電圧で15Aの電流を通電する。その断線箇所にて電流の導通と不導通とを繰り返して、発火などの異状が生じるまでの試験回数と、その発生した異状の状態とを調べる。
【0070】
下記の表2は、試料E,Fを、耐断線スパーク試験機により耐断線スパーク性について試験した結果を示す。
【0071】
【表2】

上記試験結果から見ても明らかなように、試料Eには、エチレン系ポリマーを配合しておらず40回で発煙した。しかし、試料Fには、エチレン系ポリマーを配合しているので、400回でピンホールが発生しただけであり、発煙や発火などの異状は発生しなかった。
【0072】
この結果、エチレン系ポリマーを配合した試料Fの方が、試料Eに比べて耐断線スパーク特性に優れていることが解る。
【0073】
すなわち、上記試験結果から解るように、塩化ビニル(PVC)にエチレン系ポリマーを配合し、充填剤として炭酸カルシウムを配合してなる射出成形用コンパウンド及び押出成形用コンパウンドは、耐トラッキング特性が向上することになる。
【0074】
したがって、射出成形用コンパウンドを、電源コード10のプラグ50を成形するためのコンパウンドとして用いる。また、押出成形用コンパウンドを、電源コード10のコード20を成形するためのコンパウンドとして用いることにより、コンパウンドの成形性及び寸法安定性、耐トラッキング性が向上するとともに、優れた耐断線スパーク特性を有する電源コード10を寸法通りに高い精度で製造することができる。
【0075】
次に、表3、図5、図6を用いて、軽炭酸カルシウムと重炭酸カルシウムとを配合したコンパウンドの比較例を説明する。表3はコンパウンドの配合と試験結果とを示し、図5は試料G,H,I,J,Kの粘度と温度との関係を示す特性図、図6は試料G〜Kの流量と温度との関係を示す特性図である。
【0076】
先ず、コンパウンドの流動性を比較するため、塩化ビニルと、可塑剤と、安定剤と、軽炭酸カルシウムと、重炭酸カルシウム、エチレン系ポリマーと、難燃剤と、加工助剤とを、表3に示す重量部にて配合したコンパウンドからなる試料G〜Kについて粘度及び流量の計測を実施した。
【0077】
つまり、軽炭酸カルシウムと重炭酸カルシウムとを配合したコンパウンドからなる試料G〜Kについて、試料G〜Kの粘土を計測するための図示しない粘度計測装置と、試料G〜Kの流量を計測するための図示しない流量計測装置とを用いて粘土及び流量の各項目について同一条件で試験した。
【0078】
下記の表3は、試料G〜Kを、粘度計測装置と流量計測装置とにより粘度及び流量について試験した結果を示す。
【0079】
【表3】

上記コンパウンドの粘度、流量を比較するため、粘度計測装置と流量計測装置とにより粘度、流量の項目について計測を実施した結果、図5、図6に示すような計測結果が得られた。
すなわち、上記試験結果から見ても明らかなように、試料Hのように軽炭酸カルシウムの重量部を増量すると、コンパウンドの流動性が悪くなり、硬さが若干高くなる傾向が認められる。
但し、炭酸カルシウムの重量部を40重量部増量した場合、成形温度170℃〜180℃の範囲において、コンパウンドの流動性は試料Gと大差がないことが認められる。
【0080】
次に、表4、図7、図8を用いて、本実施形態の電源コード10を製造する際に用いられるコンパウンドの比較例を説明する。表4は試料L,M,N,O,Pの原材料と配合と試験結果とを示している。また、図7は試料L,M,O,Pの流量と温度との関係を示す特性図、図8は試料L,M,O,Pの粘度と温度との関係を示す特性図である。
なお、図7中のFlowRateは流量に対応し、図8中のViscosityは粘度に対応する。
【0081】
つまり、原材料であるレジン重合度700の塩化ビニルと、レジン重合度400の塩化ビニルと、可塑剤と、安定剤と、軽炭酸カルシウムと、重炭酸カルシウム、エチレン系ポリマーとを、表4に示す重量部にて配合した4種類のコンパウンドからなる試料L,M,O,Pについて、比重、硬さ、引張強度、引張伸び、体積抵抗値などの物性試験を実施した。
【0082】
なお、試料3については、原材料を均一に混練することが難しいことが確認されたため、物性試験の実施を中止した。また、物性特性を試験する際、試験時の温度を23℃に設定して同一条件で試験した。
【0083】
下記の表4は、試料L,M,O,Pの比重、硬さ、引張強度、引張伸び、体積抵抗値などの各項目を試験するための図示しない物性試験装置を用いて該各項目について試験した結果を示す。
【0084】
【表4】

上記コンパウンドの流量、粘度を比較するため、試料3を除く、試料L,M,O,Pについてフローテスター試験を実施した。
つまり、表4に示す原材料を配合したコンパウンドからなる試料L,M,O,Pの流量、粘度を試験する際、試料L,M,O,Pの重量を2gに設定し、試験時の荷重を50kgに設定し、大きさを1φ×10Lに設定し、余熱時間120秒に設定して同一条件で試験した。
【0085】
上記試料L,M,O,Pについて、図示しないフローテスター試験装置を用いて流量、粘度の項目について試験を実施した結果、図7、図8に示すような試験結果が得られた。
すなわち、上記試験結果から見ても明らかなように、試料M,Pについて、試料Lよりも2倍程度の流量向上が認められた。
この結果、プラグ50の製造に用いられる射出成形用コンパウンドとしては、試料Mもしくは試料Oの原材料と配合とからなるコンパウンドが適当であると考えられる。
【0086】
しかし、試料Oについては、試料Lよりも硬度が低く、プラグ50としての機能性に影響を及ぼす懸念があることから、表3に示す試料Lの原材料と配合とからなるコンパウンドにより製造することが最適である。
【0087】
この発明の構成と、前記実施形態との対応において、
この発明のコンパウンドは、実施形態の射出成形用コンパウンドと押出成形用コンパウンドに対応し、
以下同様に、
炭酸カルシウムは、重炭酸カルシウムと軽炭酸カルシウムに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、請求項に示される技術思想に基づいて応用することができ、多くの実施の形態を得ることができる。
【0088】
なお、実施形態のコード20は、例えば繊維、糸等の絶縁体が巻回された導線20aの周面全長に外装部20bを形成するか、あるいは、所定の線径に形成した1本の導線20aの周面全長に外装部20bを形成する等して構成してもよい。
また、本実施形態の電源コード10の製造方法は、例えば中子がプラグに埋め込まれない電源コードにも適用することができ、実施形態の中子40がプラグ50に埋め込まれた電源コード10のみに用途が限定されるものではない。
【符号の説明】
【0089】
10…電源コード
20…コード
20a…導線
20b…外装部
30…栓刃
40…中子
40a…差込み孔
50…プラグ
60…成形用金型
60a…上型
60b…下型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニルを主材料とするコンパウンドを被覆材料に用いて製造する電源コードの製造方法であって、
前記塩化ビニルに対してエチレン系ポリマーと炭酸カルシウムとを所定量配合してなるコンパウンドにて製造する
電源コードの製造方法。
【請求項2】
前記コンパウンドに配合するエチレン系ポリマーの配合量を、30重量部〜60重量部の範囲に含まれる重量部に設定して製造する
請求項1に記載の電源コードの製造方法。
【請求項3】
前記コンパウンドに配合する炭酸カルシウムの配合量を、20重量部〜50重量部の範囲に含まれる重量部に設定して製造する
請求項1又は2に記載の電源コードの製造方法。
【請求項4】
前記電源コードのプラグを、
前記塩化ビニルの100重量部に対して、前記エチレン系ポリマーを50重量部配合し、前記炭酸カルシウムを40重量部配合してなるコンパウンドを用いて成形する
請求項1〜3のいずれか一つに記載の電源コードの製造方法。
【請求項5】
前記電源コードのコードを、
前記塩化ビニルの100重量部に対して、前記エチレン系ポリマーを30重量部配合し、前記炭酸カルシウムを35重量部配合してなるコンパウンドを用いて成形する
請求項1〜4のいずれか一つに記載の電源コードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−12315(P2013−12315A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142672(P2011−142672)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(391018732)富士電線工業株式会社 (23)
【出願人】(399034378)昭和化成工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】