説明

電源保護装置

【課題】半導体スイッチング素子の温度を精度高く測定すること。
【解決手段】半導体スイッチング素子2が発する熱は、導電体層L1と下地導電体層4及び導電体層5とを介して導電体層L7に伝達され、導電体層L7に配設されたサーミスタ素子3によって測定される。すなわち、この電源保護装置1では、半導体スイッチング素子2の温度を測定するためのサーミスタ素子3は半導体スイッチング素子2の裏面側に配設され、半導体スイッチング素子2が発する熱は下地導電体層4及び導電体層5を介してサーミスタ素子3に伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されている電装品を過電流や過熱から保護するための電源保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されているエンジン制御ユニット等の電装品に電力を供給する回路には、過電流や過熱から電装品を保護するために、ヒューズやリレーを用いた電源保護装置が配設されている。しかしながら、ヒューズやリレーを用いた電源保護装置では、過電流や過熱が生じた場合、溶断したヒューズの交換やリレーのリセット等の整備を行う必要がある。また、ヒューズやリレーを整備する必要性があることから、電源保護装置の設置場所が限定され、レイアウトの自由度が低くなる。
【0003】
このような背景から、近年、ヒューズやリレーの代わりにFET等の半導体スイッチング素子を用いた電源保護装置が提案されている。この電源保護装置は、半導体スイッチング素子の電流や接合温度に基づいて半導体スイッチング素子のゲート電極をオン/オフ制御することによって、半導体スイッチング素子に接続されている電装品を過電流や過熱から保護する。この電源保護装置によれば、半導体スイッチング素子を整備する必要がなく、レイアウトの自由度を高くすることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−61392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、半導体スイッチング素子のオン抵抗は、周囲温度に応じて1〜2倍程度変化する。このため、半導体スイッチング素子の動作を精度高く制御するためには、半導体スイッチング素子の温度を精度高く測定し、測定結果に基づいて温度補償を行う必要がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、半導体スイッチング素子の温度を精度高く測定可能な電源保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る電源保護装置は、半導体スイッチング素子が実装された第1導電体層と半導体スイッチング素子の温度を検出するためのサーミスタ素子が実装された第2導電体層とをそれぞれ表面側及び裏面側に有する絶縁体層と、第1導電体層、第2導電体層、及び絶縁体層を貫通する貫通孔と、貫通孔内に形成され、第1導電体層と第2導電体層とを接続する熱伝達層とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電源保護装置によれば、サーミスタ素子は半導体スイッチング素子の裏面側に配設され、熱伝達層を介して半導体スイッチング素子の熱をサーミスタ素子に伝達するので、半導体スイッチング素子の温度を精度高く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である電源保護装置の構成を示す平面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である電源保護装置の構成を示す底面図である。
【図3】図3は、図1に示す電源保護装置のA−A線断面図である。
【図4】図4は、図3に示す導電体層L3の構成を示す平面図である。
【図5】図5は、図3に示す導電体層L5の構成を示す底面図である。
【図6】図6は、比較例1の電源保護装置の構成を示す平面図である。
【図7】図7は、図6に示す電源保護装置の熱特性評価結果を示す図である。
【図8】図8は、比較例2の電源保護装置の構成を示す斜視図である。
【図9】図9は、図8に示す電源保護装置の熱特性評価結果を示す図である。
【図10】図10は、本発明の一実施形態である電源保護装置の(a)表面側及び(b)裏面側の熱特性評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1乃至図5を参照して、本発明の一実施形態である電源保護装置の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態である電源保護装置の構成を示す平面図である。図2は、本発明の一実施形態である電源保護装置の構成を示す底面図である。図3は、図1に示す電源保護装置のA−A線断面図である。図4は、図3に示す導電体層L3の構成を示す平面図である。図5は、図3に示す導電体層L5の構成を示す底面図である。
【0011】
本発明の一実施形態である電源保護装置1は、図1に示すように、半導体スイッチング素子2の電流や接合温度に基づいて半導体スイッチング素子2のゲート電極Gをオン/オフ制御することによって、半導体スイッチング素子2を介して図示しない負荷に供給される電力を制御するものである。なお、図示しない負荷としては、車両に搭載されているエンジン制御ユニット等の電装品を例示することができる。
【0012】
電源保護装置1は、図3に示すように、両面配線基板S1の下面側と両面配線基板S2の上面側とを接着層L4によって接着した構造を有する。両面配線基板S1は、導電体層L1と導電体層L3とによって絶縁体層L2を挟持した構造を有する。両面配線基板S2は、導電体層L5と導電体層L7とによって絶縁体層L6を挟持した構造を有する。接着層L4は、ガラス布にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグやポリイミドフィルム等の絶縁性材料によって形成され、1000[μm]程度の厚さを有する。
【0013】
導電体層L1,L3,L5,L7は、銅等の導電性材料によって形成され、70[μm]程度の厚さを有する。絶縁体層L2,L6は、樹脂材料等の絶縁性材料によって形成され、200[μm]程度の厚さを有する。導電体層L1及び導電体層L7はそれぞれ、本発明に係る第1導電体層及び第2導電体層として機能する。絶縁体層L2,接着層L4,及び絶縁体層L6は、本発明に係る絶縁体層として機能する。導電体層L5は、本発明に係る内層として機能する。
【0014】
導電体層L1は、図1に示すように、導電体層L11,L12,L13にパターンニングされている。導電体層L11には、半導体スイッチング素子2が実装され、半導体スイッチング素子2のドレイン端子Dが接続されている。導電体層L12には、半導体スイッチング素子2からの電力が供給される図示しない負荷が接続され、半導体スイッチング素子2のソース端子Sが接続されている。導電体層L13には、半導体スイッチング素子2のゲート端子Gが接続されている。半導体スイッチング素子2は、図示しない負荷や配線を過電流や過熱から保護する。
【0015】
導電体層L7は、図2に示すように、切り欠き部L7aを有し、切り欠き部L7a内にサーミスタ素子3が配設されている。すなわち、サーミスタ素子3は、導電体層L7に囲われた状態で電源保護装置1の下面に配設されている。サーミスタ素子3は、サーミスタ薄膜3aと、サーミスタ薄膜3aの上面側に配設された電極端子3b,3cとを備える。電極端子3b,3cによってサーミスタ薄膜3aの抵抗値を測定することによって、サーミスタ素子3の配置位置における温度を測定することができる。なお、導電体層L7は、半導体スイッチング素子2の下面側にのみ形成するようにしてもよい。
【0016】
導電体層L3,L5,L7は、図2,図4,及び図5に示すように、半導体スイッチング素子2の下方位置に形成されている。両面配線基板S1,S2には、図1乃至図5に示すように、φ0.6mm程度の大きさの貫通孔THが形成され、貫通孔TH内は下地導電体層4と導電体層5とによって充填されている。すなわち、導電体層L1,L5,L7は下地導電体層4と導電体層5とを介して熱伝達が可能なように接続されている。導電体層L3は、接地層として機能する。下地導電体層4は、Ni等の導電性材料によって形成され、35[μm]程度の厚さを有する。導電体層5は、Cu等の導電性材料によって形成されている。下地導電体層4及び導電体層5は、本発明に係る熱伝達層として機能する。
【0017】
このような構成を有する電源保護装置1では、半導体スイッチング素子2が発する熱は、導電体層L1と下地導電体層4及び導電体層5とを介して導電体層L7に伝達され、導電体層L7の切り欠き部L7a内に配設されたサーミスタ素子3によって測定される。すなわち、この電源保護装置1では、半導体スイッチング素子2の温度を測定するためのサーミスタ素子3が半導体スイッチング素子2の裏面側に配設され、半導体スイッチング素子2が発する熱は下地導電体層4及び導電体層5を介してサーミスタ素子3に伝達される。
【0018】
従って、この電源保護装置1によれば、半導体スイッチング素子2の周囲に複数の半導体スイッチング素子が配設されている場合であっても、周囲の半導体スイッチング素子が発する熱の影響を受けることなく、半導体スイッチング素子2の温度を精度高く測定することができる。また、この電源保護装置1では、半導体スイッチング素子2の下方位置に形成された導電体層L5も下地導電体層4及び導電体層5に接続されているので、半導体スイッチング素子2の下面側から発せられる熱を導電体層L7に伝達し、半導体スイッチング素子2の温度をより精度高く測定できる。さらに、半導体スイッチング素子2の下方位置に形成された導電体層L7に切り欠き部L7aを形成し、切り欠き部L7a内にサーミスタ素子を配置することで、半導体スイッチング素子2の温度をより精度高く測定できる。
【0019】
最後に、図6乃至図10を参照して、本発明の一実施形態である電源保護装置1の技術的効果を確認するために比較例の電源保護装置と実施例の電源保護装置とについて実施した、熱特性評価の結果について説明する。
【0020】
〔比較例1〕
始めに、図6,図7を参照して、比較例1の電源保護装置について実施した熱特性評価の結果について説明する。
【0021】
図6は、比較例1の電源保護装置の構成を示す平面図である。図7は、図6に示す電源保護装置の熱特性評価結果を示す図である。図6に示すように、比較例1の電源保護装置では、FETの温度を測定するためのサーミスタRT1〜RT3はFETの実装面に配置されている。しかしながら、FETの実装面にサーミスタRT1〜RT3を配置した場合には、図7に示すように、FETの実温度(約45.69[℃])とサーミスタRT1〜RT3の測定温度(約32〜34[℃])との間の差が約10[℃]以上と大きく、FETの温度を精度高く測定できないことがわかる。
【0022】
〔比較例2〕
次に、図8,図9を参照して、比較例2の電源保護装置について実施した熱特性評価の結果について説明する。
【0023】
図8は、比較例2の電源保護装置の構成を示す平面図である。図9は、図8に示す電源保護装置の熱特性評価結果を示す図である。図8に示すように、比較例2の電源保護装置では、半導体スイッチング素子2が実装されている導電体層L11に形成された切り欠き部にサーミスタ素子の電極端子3b,3cが配置されている。また、電極端子3b,3cは、スルーホールTHを介して電源保護装置の最下層にある導電体層L71に配置された図示しないサーミスタ素子に接続されている。但し、比較例2では、スルーホールTHの形状を四角形形状としている。また、導電体層L11と導電体層L71との間には、図1乃至図5に示した電源保護装置1と同様、導電体層L31と導電体層L51とが介在している。この比較例2の電源保護装置によれば、図9に示すように、半導体スイッチング素子2の実温度(約41.2[℃])とサーミスタ素子の測定温度(約37.8[℃])との間の差が約3.4[℃]程度と小さく、比較例1の電源保護装置と比較して、半導体スイッチング素子2の温度を精度高く測定できることがわかる。
【0024】
〔実施例1〕
次に、図10(a),(b)を参照して、実施例1の電源保護装置について実施した熱特性評価の結果について説明する。
【0025】
図10(a),(b)はそれぞれ、実施例1の電源保護装置の表面側及び裏面側の熱特性評価結果を示す図である。なお、実施例1の電源保護装置は、図1乃至図5に示した電源保護装置1と同じ構成を有する。図10に示すように、実施例1の電源保護装置によれば、図10に示すように、半導体スイッチング素子2の実温度(約65.9[℃])とサーミスタ素子の測定温度(約63.1[℃])との間の差が約2.8[℃]程度と小さく、比較例1,2の電源保護装置と比較して、半導体スイッチング素子2の温度を精度高く測定できることがわかる。以上のことから、本発明の一実施形態となる電源保護装置1によれば、半導体スイッチング素子2の温度を精度高く測定できることが確認された。
【0026】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、本実施形態では、導電体層L7の切り欠き部L7a内にサーミスタ素子3を配設したが、本発明は本実施形態に限定されることはなく、導電体層L7からサーミスタ素子3に効率よく熱が伝達される構造であればどのような形態であってもよい。具体的には、導電体層L7に矩形形状の枠を形成し、この枠内にサーミスタ素子3を配設してもよい。また、本実施形態では、電極端子3b,3cと同一平面内にサーミスタ薄膜3aを配設したが、電極端子3b,3cとサーミスタ薄膜3aとを異なる平面内に配設するようにしてもよい。このように、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1 電源保護装置
2 半導体スイッチング素子
3 サーミスタ素子
3a サーミスタ薄膜
3b,3c 電極端子
4 下地導電体層
5,L1,L3,L5,L7,L11,L12,L13 導電体層
L2,L6 絶縁体層
L4 接着層
S1,S2 両面配線基板
TH 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチング素子を備え、当該半導体スイッチング素子のゲート電極をオン/オフ制御することによって、当該半導体スイッチング素子を介して負荷に供給される電力を制御する電源保護装置であって、
前記半導体スイッチング素子が実装された第1導電体層と前記半導体スイッチング素子の温度を検出するためのサーミスタ素子が実装された第2導電体層とをそれぞれ表面側及び裏面側に有する絶縁体層と、
前記第1導電体層、前記第2導電体層、及び前記絶縁体層を貫通する貫通孔と、
前記貫通孔内に形成され、前記第1導電体層と前記第2導電体層とを接続する熱伝達層と、
を備えることを特徴とする電源保護装置。
【請求項2】
前記第2導電体層は、切り欠き部を備え、前記サーミスタ素子は、当該切り欠き部内に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の電源保護装置。
【請求項3】
前記絶縁体層は、導電性材料により形成された内層を有し、当該内層は前記熱伝達層に接続されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電源保護装置。
【請求項4】
前記第2導電体層及び前記内層は、前記半導体スイッチング素子の下方位置に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の電源保護装置。
【請求項5】
前記負荷は、車両に搭載されている電装品であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち、いずれか1項に記載の電源保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−147250(P2011−147250A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5297(P2010−5297)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】